どうやったら面白く、読み応えのある物語になるのか、授業中も頭を抱えるばかり。
文章の表現が似たようなものばかりで見苦しいかも知れませんし、見る人によってはかなりグダグダに感じるかもしれません。
それでは開幕です。
―――キンコンカンコン、と聞きなれたチャイムの音がして意識が覚醒する。
どうやら授業中に寝てしまっていたらしい。まだ眠り足りないと抵抗してくる
最初に目に入ったのは3年間着続けたため、少々くたびれてしまっている袖、そしてさっきまで自分が伏せていた机だ。
「やっぱ疲れてるのかもな、たまにはゆっくり休むか......」
放課後になりクラスメート達が喜々として教室を去って行く様を横目に見ながら1人ごちる。放課後といっても時刻はまだ午前。今日は偶々授業が午前中に終わる日だった。
「お前が居眠りなんて珍しいな、八坂」
そんな1人ごとを聞いたからなのか、誰かが俺に話しかけてきた。
鞄を持って立ち上がり、声の発声源の人物へと体を向ける。
「あぁ、桜庭か」
俺に話しかけてきたのはクラスメート兼元部活仲間の
身長は俺より2cmぐらい高いだろう、髪色は黒、人懐っこそうなそこそこ整った顔立ちをしている。
「まあ......ちょっと昨日彼女が寝かせてくれなくてな」
「何だと!?お前いつの間に!?」
「嘘に決まってるだろ」
鬱陶しいぐらいに狼狽えている桜庭の肩を叩きながら教室を出る。
こいつはリアクションが大きいため、とてもからかいがいのあるやつだ。
「そうだよな!八坂に彼女が出来るわけないもんな!」
「おいどういう意味だこの野郎」
桜庭と仲良くなってからはこんな感じのコント染みた会話を毎日のようにしている。お互いに遠慮せずに物を言い合える間柄だ。
ふと、窓を見る。
そこから差し込んでくる日光は冬のため弱く感じるが、今日は快晴のため暖かい光が窓から入り込み、体を照らす。
外では部活をしている生徒たちの掛け声が聞こえてくる。その青春を謳歌する姿が日光と相まって眩しく感じ、俺は目を細める。
俺はもう3年生、所属していたバスケ部もとっくに引退して、あとはエスカレーター式に入学が決まっている高校に進学するだけだ。
俺の通うこの中学は中高一貫式の学校のため、ほとんどの生徒はそのままエスカレーター式で進学する。それは隣を歩く桜庭も例外ではない。
「八坂?俺の話聞いてたか?」
「ん?悪い、何も聞いてなかった」
どうやら物思いにふけっている間、桜庭が何かを言っていたようだ。
「お前今日生徒会は?」
「今日は特に仕事が無い」
実は俺は生徒会に属している。この学校では中等部と高等部では別々に生徒会が存在する。正直あとは後輩に引き継ぐだけなので最近は仕事なんてほとんど無い。
「ふーん、そうか」
「自分で聞いたのに興味無さそうだな」
元々興味が薄かったのだろう、桜庭の態度を見て俺は苦笑する。
「......もうすぐ高校生か、そうなる前に一度はモテたいよな!なっ?八坂」
かと思えば急に目を輝かせ、自分の希望を言い始める。
本当に表情豊かだなこいつ......
「モテたいって言うより、彼女が欲しい。とかだろ?」
「正解!」
俺も男だし、一応そういうことは結構考えたりするけど、誰でもいいって訳じゃないんだよな。
いつか、そういった運命の相手とやらに出会う日は来るのだろうか?
そんなよく分からない未来に期待するしかないだろう。
「でも八坂の場合はすぐに春が来ると思うけどな」
「は?何で?」
桜庭の発言の意図が掴めずに俺は首をかしげる。
「何でって......深瀬がいるだろ」
深瀬六葉、俺のクラスメートで同じ生徒会役員。
顔立ちも整っていて品行方正、まさに男子の理想の女の子って感じがする。
「俺と深瀬はそういうんじゃない」
そんな彼女を狙う男は校内にたくさんいるだろう。
でも、俺は友達として彼女のことが好きなだけで今のとこそういった感情はない。
一緒に生徒会をしているのだって
下手したら下駄箱に俺宛の脅迫状とか届いちゃうレベル。
「それでも近くに居れて、話せるだけましだろ」
「はいはい、そうだな」
「ところでお義兄さん、今度優莉ちゃんと会いたいんだけど」
「次お義兄さんとか言ってみろ、お前と縁を切った後ドロップキックするからな」
「他人になった後に追い打ち!?」
俺は別にシスコンってわけじゃないが、同級生から義兄って呼ばれることを考えたら鳥肌が立つ。
しかし、優莉は父さんの仕事の都合上で俺と一緒には暮らしていない。
中学に入ってすぐ、父さんの引っ越しに着いて行ってしまった。
...確か音ノ木坂中学ってところに通ってるって言ってたっけ。
何故桜庭が俺の妹の存在を知っているのか。
それは前に1度優莉の写真を見せたからだ。
「バカなことやってないで早く帰ろうぜ。未だに校舎から出るどころか下駄箱にすら辿り着いてないし」
「そう言えばそうだな......」
止まっていた足を再び動かそうとした時、携帯が着信音を鳴らし震える。
誰かからの着信が入ったみたいだ。
同時に歩きだそうとした桜庭を手で先に行けと促し、携帯を耳に当てる。
『もしもし、八坂くん?』
携帯を耳に当てると同時に俺の鼓膜を揺らしたのは鈴のような聞き心地の良いよく通る声。
『あぁ、深瀬。何か用か?』
電話の相手はさっきまで話題に上がっていた深瀬六葉だった。
『このあと予定とかってある?』
『...いや、無いと思う』
『じゃあどこか遊びに行かない?』
これって......デートの誘い!?
友達として好きでそういった感情はないとは言ったが、やはり女の子から遊びに誘われるというのは男子にとっては特別なイベントだと思う。
『い、いいけど......』
『それなら校門前で待ってるね』
『あ、あぁ。またあとで!』
電話を切り、ポケットに入れてから5秒ほど固まる。
な、何で俺!?
はっきり言って俺のルックスは平均もいいところだし、俺よりかっこいい人なんていくらでもいる。実際にも深瀬は世間一般ではイケメンと呼ばれている人種の人たちから何度もデートに誘われているとクラスの男子が話しているのを聞いたことがある。
最も全て断っているみたいとも聞いた。
もし、桜庭が言ったみたいに......いや!そんな可能性は無い!あまり期待とか高望みはするな!八坂優!
いつまでもここに立ち止まってるわけにもいかないので、葛藤もそこそこに下駄箱へ向かう。桜庭も俺を待っているだろう。
そんなことを考えている間も心臓はドクドクとうるさいぐらいに脈を打っていた。
***
「悪い、待たせた」
下駄箱に着くとそこには靴を既に靴を履き替えてボーっと外を眺めている桜庭の姿があった。軽い謝罪の言葉と一緒に自分の靴を下駄箱から取り出す。
「おぉ、電話誰からだったんだ?」
「深瀬からだったんだけど......このあと遊ぶことになった」
特に意識していない感じでさらりと言う。
靴を履き替えて振り返ると顔を伏せて肩をプルプルと震わしている桜庭がいた。
「どうした?」
俺の言葉に桜庭は震えていた肩をピタリと制止させ、伏せていた顔を俺へと向ける。
「ふ、ふ......Fack
という叫び声を上げると桜庭は走り去って行った。
去り際に彼の目尻に光る雫が溜まって見えたのは多分気のせいじゃないだろう。
...何かyouの部分がちょっと引っ掛かる言い方だったな。まるで俺の名前を呼んでいるみたいだったけど、こっちは気のせいだろう。
それと桜庭、その単語は日本ならまだくたばれとかで済むけど、外国だったらえらいことになるからな?覚えとけ。
心の中で唱えてから深瀬が待っているという校門の前へと歩く。
...快晴って言っても風が吹くとやっぱり寒いな、さすが冬。
突然吹いた風の寒さで肩をすくませ、マフラーを口の辺りぐらいまで引き上げる。
寒いのは苦手だ。かと言って暑いのが得意かと言われればそうでもない。涼しくもあり、暖かくもある春か秋が1番だな。
などと考えている内に校門へと辿り着いた。
「八坂くん」
肩より下に少しだけ伸びた黒髪に少し凛としたイメージを連想させる目、俺と同じく制服に身を包んだ女の子、待ち合わせの相手、深瀬だ。
「ごめん!待たせた?」
桜庭を待たせた時とは天と地の差があるぐらいに丁寧に謝る。
「ううん、呼び出したのはこっちだから。それに全然待ってないよ」
それから2人で並んで歩き出す。
「そういえば......これからどこに行くかは決めてるのか?」
遊ぼうと言われただけで、目的地を聞いていないことに気づいた。
この辺りからだと近くにあるデパートなどがいいんじゃないか?カラオケやボーリング、ゲームセンターに食事にショッピング。大体学生が楽しめる娯楽が揃ってるし。
「うん。デパートでもいいかなって思ったんだけど......まあ着いてからのお楽しみ、かな?」
他に楽しめる場所ってあったっけ?
でも、この街は東京ほどじゃないけどそこそこ都会だからきっと俺が普段あまり行かないような場所なんだな。
隣を歩く深瀬の表情を盗み見る。
俺と同じくマフラーで口元は隠れているけど、その目にはどこか楽し気な光を携えている。
「ん?八坂くんどうかしたの?」
俺の視線に気づいたのかどうかは分からないけど、ちょうどこっちを見てきた深瀬と目が合う形になってしまった。
「な、何でもない!」
さっきまで平常に戻っていた鼓動がまた騒ぎ始める。
咄嗟に目を逸らしたのはいいけど、俺の顔が真っ赤だということは自分でも理解出来る。
「ふふっ、変な八坂くん」
深瀬の笑顔を見た俺は思った。女の子の笑顔とは男を殺すという意味では最も恐ろしい武器なのではないかと。殺すと言っても悩殺とか理性の崩壊を意味している。
まぁ、このままじゃ心臓が動き過ぎて本当に死にかねないかもしれないけど。
そんなバカなことを考える俺だった。
***
「着いたよ」
深瀬の足が止まったことを確認し、目の前の建物を見上げる。
「ここって......水族館?」
見上げた先に見えたのはイルカがあしらわれた看板にようこそという大きな文字だった。俺も何度か来たことあるけど、その数回も幼い頃両親に連れられて来た思い出があるだけで、あまり詳しくは覚えていない。
何故か突然脳裏に3人の女の子の姿が浮かんできた。
1人目は髪の毛が栗色で元気が有りすぎる笑顔が眩しい女の子。髪の右側をリボンで括っていて、彼女が跳ね回ると括られた髪が同じようにピョンピョンと跳ねる。
2人目は髪の毛が青色の大人しそうな女の子。髪は腰の辺りまで伸びている。オレンジ髪の少女が跳ね回っている姿を見て躊躇いがちにそれを引き留めようとしている。
3人目は髪の毛がアッシュグレー色の優しそうな女の子。オレンジ髪の女の子と同じく髪の右側をリボンで括り、青色の髪の女の子と同じぐらいの長さの髪で前髪辺りにあるトサカみたいな髪が特徴的だ。そんな女の子は他の2人の女の子を見て、にこにこと笑顔を浮かべている。
数回の内の1回、3人の少女たちに幼い自分も加わってこの水族館に来たことがある。
あれは......誰だっけ?思い出せそうで思い出せない......優しそうな子のことは覚えている。母さんの付き添いでついて行った時によく遊んでいた子だ。
「――くん?」
他の2人......確か.....ほ、ほの.....う.......
「八坂君!」
「っ!!」
突然隣から大声が聞こえ、思考が中断される。
どうやら考えごとに集中し過ぎて、ボーっとしてしまったみたいだ。
「具合でも悪いの?」
言いつつ深瀬は俺の目を覗き込んでくる。
夜空のような黒色の瞳は見ているだけで吸い込まれそうなほど澄んでいる。
「だ、大丈夫!何か幼い時にここに来たことあるなって思ってただけだから!」
「そう?なら行こっ」
いつもは大人しい深瀬がはしゃいでるのって珍しいな。
思わず頬を緩めながら後ろを着いて行く。
そのままチケットを購入し、薄暗い館内へ移動する。
平日、それも今はちょうど昼時の時間だ。館内に人はあまりいなかった。
偏見かも知れないけど冬に水族館に訪れる人も少ないのだろう。人があまりいないのはそれも原因だと思う。
「綺麗......」
隣から感嘆の声が上がる。
チラッと横を見ると、深瀬が水槽を覗き込んでいる姿が目に入る。
その目には水面と光が反射し、とてもキラキラと輝いている。
俺は水槽を泳ぐ魚の雄大さよりも、まるで1枚の絵を切り取ったようなその幻想的な姿に惹きつけられた。
でも......なぜだろうか。
ここまでかなり深瀬にドキドキしていたのは確かなはずなのに......
―――どうして友達以上の好意を抱けないんだろうか。
確かに今この時間。俺は楽しいと感じている。だけど、そんな自分の中にもう1人冷めた感情を持った自分がいる。それも間違いない。
でもこの好意
だったら1人で考えても意味のないことだな。
余計な思考を追い出すために頭を2、3回と横に振る。
その様子を見ていたのか深瀬は不思議そうに首をかしげる。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫、この魚たちに圧倒されてただけだから」
嘘は言っていない。
実際に久しぶりに見る光景に感情が昂っていた。
「ならいいけど......」
どこか納得のいかない様子の深瀬。
空気を換えきれなかったか?
なら思い切ってずっと気になっていたことを聞いてみるか。
「そういえば今日俺を誘ったのは何で?」
遊びに行くのは全然構わない。家にいても暇を持て余すだけだし。
問題はどうしてここに俺を誘ったのかということだ。
「八坂くんを誘いたかったってことじゃダメ?」
何食わぬ顔でそう切り返してきた。
だけど、一瞬だけ深瀬の表情が曇ったのを俺は見逃さなかった。
...まぁ、人間言いたくないことの1つや2つあるよな。
納得していない自分を無理やり押し殺す。
これ以上妙な空気を作っても仕方ないし、ここは純粋に楽しむことにしよう。
「じゃ、もっと色々見て回ろうか」
空気を換えることが出来なかった代わりに場所ごと入れ換えてしまおうと俺はそんな案を口にした。
***
「今日はありがとう、楽しかったよ」
「こっちこそ、誘ってくれてありがとな」
館内を色々と見て周り、ようやく出口に着く。
体感時間ではかなり長く中にいたような気がするけど、日の傾き方からしてそんなに長くなかったみたいだ。
しかし、薄暗いのに目が慣れてしまったせいか普段より眩しく感じてしまった。
これからどうする?みたいな空気が流れる。
深瀬の目的は果たしたみたいだけど、このまま一緒にどこか行ったりした方がいいのか?
「え~っと......ゲームセンターでも行く?」
女の子相手にゲームセンター誘うとか一体何考えてんだ俺は。
あまりにも沈黙が気まずくて気づけばそんなことを口にしていた。
「うん、そうだね。行こっか」
「...自分で誘っといてなんだけど、いいの?」
深瀬は俺の質問に一瞬キョトンとし、微笑する。
「私こう見えて結構ゲームとかやるんだよ」
人は見かけによらないな.....
「あっ、信じてないでしょ?」
「うーん、半信半疑ってとこ」
そう告げると深瀬は少し頬を膨らませて見せる。
普段の大人っぽい感じとは違ってとても子供っぽい仕草だ。
「だったら勝負してみる?」
よほど信じさせたいのか、勝負を持ちかけてくるとは思わなかった。
「いいけど......罰ゲームとかはないよな?」
俺の発言を聞いた深瀬は顎に指を当てて何かを考え始めた。
「無くてもいいけど、あった方が面白そうだから......負けた方が勝った方の言うことを1つ聞くっていうのはどう?」
「リスキーな提案だな、それ」
まさか女の子からそんな挑戦を叩きつけられるとは思わなかった。
そこまで言われたら男としては受けざるを得ない。
「分かった、その勝負乗った」
深瀬は俺の答えに満足そうに頷くと、先頭を歩き出す。
...俺、今回ついて行ってばかりじゃないか?
『ほらゆうくんこっちだよ!』
水族館前で脳裏に浮かんだオレンジ髪の女の子が俺の手を引っ張る。
今の状況から昔のことを思い出したみたいだ。
『ゆーくんはやくはやく♪』
栗色の髪の女の子と一緒にもう片方の手を引っ張るアッシュグレーの髪の子。
思えば俺は昔から誰かに手を引かれていたような気がする。
『まってくださいってばぁ!ほの―ぁ!―とりぃ!ゆうぅ!』
そしてそんな俺たちのあとを転びそうになりながら必死についてくる青髪の子。
あぁ、でも逆に俺も手を引くことがあったんだよな。
もう少しで思い出せそうなんだけどな。
...今度母さんに聞いてみるか。このこと覚えていたらだけど。
色々と思い出そうとしている内に目の前にはいつの間にかゲームセンターがあった。
随分と集中していたみたいで、聞こえなくなっていた人の喧騒が徐々に戻ってくる。
店内へ足を踏み入れると同時に人の喧騒は聞こえ辛くなり、代わりに機械の騒音が鼓膜を揺らし始めた。
「そういえば、何のゲームを使って勝負する気だ?」
機械音に負けないように声のボリュームを上げ、聞く。
「うーん......じゃああのダンスのやつはどう?」
同じように声のボリュームを上げる深瀬の目線をたどって行くと、曲に合わせて矢印が表示される体感型のダンスゲームがあった。
「あれ結構難しいと思うけど、本当にやるのか?」
友達と一緒にやったことはあるが、リズム感と反射神経、激しいものになってくると動体視力も必要となってくる中々ハードなゲームだ。
「うん、何度か友達とプレイしてるし、いけると思う」
深瀬はやる気満々といった感じで鞄を傍にある荷物置き場へと置く。
俺もそれにならい鞄を置き、財布の中から小銭を取り出してゲームに投入する。
「じゃあ、純粋にスコアが高かった方が勝ちってことで」
「うん、負けないからね」
会話を打ち切り、お互いに画面を見る。
そして、リズムに合わせてステップを踏み始めた。
数分後、曲が終わって採点画面に切り替わる。特に目立ったミスもなく、かなり点数が期待出来ると思う。
「...あ」
ゲーム台から一際大きな音がなる。
俺は画面を凝視して、小さく声を漏らす。
「...私の勝ち、だね」
そこに表示されていた結果は僅差で俺の負けというものだった。
シンプルに悔しいな......
「じゃあ、約束の罰ゲームのことなんだけど......」
負けは負けだし仕方ないよな。ジュース一本とか食事奢るとか程度なら俺としても簡単で助かるんだけど。
「あー......ごめん、自分で言っておいて何も思いつかないや。思いついた時に言うってことじゃダメ?」
「負けたのはこっちだしな、敗者は勝者に従うよ」
そのまま今日はお開きとなり、俺は家路につく。
深瀬は何でも買い物をして帰るらしく、俺たちはゲームセンターの前で別れた。
母さんは今日も遅くなるのか?
もし早く帰ってくるならさっきの3人の女の子のことに着いて聞きたいんだけど......
そう思っているとポケットに入れておいた携帯が着信音と一緒に震え始める。
番号を確認すると、ちょうど母さんからだった。
『もしもし、母さん?』
『もしもし優?今日は遅くなりそう』
この辺りのやりとりはいつもの事なのでふーんと返しておく。
『それより母さん、あの昔遊んでた3人の女の子たちってなんて名前だったっけ?』
『3人......あぁ!ことりちゃんたちのこと?』
頭の中に浮かんだ女の子と今聞いた名前を照らし合わせる。
その結果優しそうな子のことだと分かった。
『あと2人は?』
『そうねぇ、答えてあげたいんだけど......母さん今からすぐ会議なの。だからまた今度ね!』
そう言うとすぐに電話を切られてしまう。
ことりのことは少しとはいえ、覚えてるから他の2人のことを聞きたかったんだけど......俺の聞き方が悪かったな。
母さん遅くなるって言ってたし、今日は何を作ろうかな......
まだ明るいから......買い物は一旦家に帰って荷物を置いていこう。
そう考えつつ、若干傾きつつある太陽に背を向けて歩き続けた。
***
「おい!八坂!」
次の日教室に入ると、いきなり興奮した様子の桜庭に話しかけられた。
「何だよ、朝から元気だな」
自分の席に鞄を置いてから答える。
しかし、どうやら用事があるのは桜庭だけではないみたいで、桜庭の後ろに数名の男子が控えていた。
「お前......深瀬と付き合ってるのか!?」
「はぁ!?何で!?」
「だって昨日遊びに行ってたし!その様子をこいつらが目撃してるし!」
あぁ、そのことか。
急に何事かと思ったぜ。
「お前には言っただろ?そういう関係じゃないって」
桜庭にだけ聞こえるように耳元で囁く。
「だからお前の後ろでショルダータックルの構えをして待機してる元ラグビー部の連中の誤解を解いてくれ」
朝から野郎どもにそんなむさ苦しい攻撃を食らってたまるか。
本職のタックルとか受けられる気がしねえ。
「仕方ない......おい、誤解だってよ!撤収!」
まじ何だったんだ。
そんな朝の一悶着を終え、時間は過ぎる。
俺はトイレから教室に戻るために歩を進めようとしていた。
「おい!八坂!」
そんなデジャヴを感じる声が背後から響く。
ただし、声の主は桜庭じゃないようだ。
「......何か用か、三上」
俺に何やら恨みがましい視線を向けているのは三上隼太。
クラスは違うが、こいつは何かと有名人だ。
まず、家がお金持ちってこと。それを鼻にかけて周りを見下してばかりいるやつだ。
つまりはあまりいい評価は聞かない。
俺自身もこいつは苦手だ。
「お前!深瀬とどうやって付き合った!」
「...は?」
何かと思えばまたそのことかよ。
「親が理事長だからコネを使ったんだろ!」
俺がこいつを苦手としているのは何かあれば俺に突っかかってきて、コネだの金だの言い出すからだ。馬鹿馬鹿しい。
更にこいつはどうやら深瀬が好きらしく、両想いだと信じ込み彼氏面をしてるって噂だ。
「人が金や権力で買えるわけないだろ」
俺は適当にあしらって、その場をあとにすることにした。
これ以上妄想に付き合ってられるか。
踵を返し、歩くペースを上げる。
曲がり角に差し掛かる時に
「なら僕が証明してやる......」
という三上の呟きが聞こえた気がした。
その時は気にしていなかったが、俺があしらうために言ったあの言葉がまさかあんな事件を起こすきっかけになるなんて、今の俺は
-To be continued-
今回の雑談コーナーは無しです。
その代わりいくつか補足しておきます。
まず、優くんと穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃんが出会ったのは幼稚園の時です。
それからしばらく、穂乃果ちゃんと海未ちゃんには会っていなかったので優くんの記憶から抜け落ちてしまっています。
現実でも幼稚園以来会っていない人のことはほとんど覚えていないのと同じです。
ことりちゃんのことを辛うじて覚えているのは優くんの母でもある美樹さんがたまに話題に出していたからです。
だったら穂乃果ちゃんと海未ちゃんのことも話しているはずだろと思うかも知れませんが、そこはご想像にお任せします。
では、後編でまた!