1年の終わりにテレビ、しかもあの紅白でμ’sの皆さんの姿が見られることが凄く嬉しいです。
その瞬間を最高の状態にするためにテスト赤点回避頑張ります!
あと今回無茶苦茶長いです。今まで最長です。
俺が抱えている過去。それを全部みんなに話した。
みんなはさっきからずっと俯いたまま、誰1人として口を開こうともしない。
...そりゃそうだよな、きっとみんなは俺に幻滅してるんだ。人を傷つけた過去を隠して自分だけのうのうと笑ってるんだから。
彼女たちの瞳には俺がかなり薄気味悪いものとして映っていることだろう。
出来ればこの場から今すぐ消え去ってしまいたい。
「話はそれで終わり?」
沈黙を打ち破る絵里の一声。
そう。これで終わりだ。物語の中ならもっとハッピーエンドっていうのが作れるんだろうけど、ここは現実。俺のしたことは変えられない。
「あぁ、これで全部だ」
再び静寂が訪れる。
もし俺が物語で言うところのヒーローだったなら、結末は変えられたんだろうか?
悪者からお姫様を助けることが出来て、そのままハッピーエンドを迎えられたらどれだけ報われるのだろうか?
「そう......さぁみんな、買い出しに行く当番を決めましょう!」
「はぇ?」
思わず変な声出た。ってそうじゃなくて!!
「何も言わないのか!?俺について!!」
そう言うと、絵里は心底不思議そうに目を
「何か言って欲しかったの?」
「そうゆう訳じゃないけどっ!!俺は――」
「――じゃあこれだけは言っておくわ、君は何も悪くない」
俺の声を遮って絵里が言う。
まるで小さな子供に言い聞かせるように、顔は笑い、声は優しく、その目には真剣さを宿している。
「でも......」
「あーっ!もう!!いつまでうじうじしてんのよ!!」
俺の煮え切らない態度ににこがガーッと吠える。
あまりの剣幕につい黙ってしまう。
「いい!?あんたは直接何かしたわけじゃない!!全部偶然でしょうが!それを全部自分のせいにするんじゃないわよ!!」
にこは俺に指を突き付けながらまくしたてる。
「にこっちの言う通り、偶々不幸が重なっただけや、自分を責めたらダメやで?」
希はいつもと同じかそれ以上に優しく笑っている。
「というわけでこの話はこれでおしまい!早く買い出しに行かないと日が暮れるわよ?」
絵里がパンパンと手を叩く。
それを機にみんなが顔を上げる。
「とりあえずお店の場所を知っているのは私だけだから......私は行くわ」
真姫が腕を組んで答える。
確かに店の場所が分からないと話にならないな。これ以上俺が何を言っても聞いてもらえそうにないので、俺のことは一旦頭の片隅に置いておく。
「あ!じゃあうちも行く!」
この合宿中、真姫のことをずっと気にかけていた希も当然の如く手を上げる。
「...あと2人ってところかしらね」
絵里が俺たち1人1人を見回しながら呟く。
「愛とかけまして荷物と解きます!」
凛が挙手をしながら発言する。何で謎かけ風?
こいつ自分が行きたくないだけじゃないか?
「...その心は?」
一応乗っかって聞き返す。
すると凛はむふーっと得意げな顔をする。
「重いものを支えるのは男の人の仕事でしょう!」
「上手いこと言ったつもりかよ!」
得意げな顔をしたままの凛にデコピンをお見舞いする。
何というか気遣われてるっていうのは分かる。どうせ行こうと思ってたから別にいいんだけどな。何か悩んでる自分がバカみたいに思えてくる。
ていうか俺みんなにちゃんと話したんだよな?みんなの様子を見てるとさっきまで暗い話をしていたというのが自分でも信じられないぐらいなんだけど。
「あと1人はどうする?」
絵里と同じように1人1人の顔を見回す。
「...」サッ(目を逸らす)
「...」サッ(目を逸らす)
「...」サッ(目を逸らす)
おいそこの3バカ、明らかに行きたくないアピールすんな。まあ、絶対こいつらならこうすると思ったけど。故に対策はしてある。
「別に行きたくないならそれでいいけど......そんなにここに残って鬼と一緒に課題をやりたいのか?」
「...」ふるふる(首を横に小刻みに振る)
「...」ふるふる(首を横に小刻みに振る)
「...」ふるふる(首を横に小刻みに振る)
課題という単語が出た瞬間、穂乃果、凛、にこの動きが寸分の狂いもなく完璧にシンクロする。ていうか何で無言なんだよ。分かり辛いんだけど。
「鬼とは誰のことを言っているんですかねぇ......」
「...!」ブンブン(首を全力で横に振る)
それだよ!その眼光が鬼って呼ぶに相応しい迫力なんだよ!もう自覚してるだろ!お前!
海未の眼光に縮み上がる。視線だけで人を殺せちゃうレベルだろこれ。底冷えするような海未の声から逃れるべく、俺は軽く咳払いをする。
「それなら私が......」
「私もお手伝いするよ?」
μ’sが誇る2大ふわふわ系天使の花陽とことりが控えめに手を上げる。
超いい子。
「いや、2人は次のライブで着る衣装を考えて欲しい。何かこう、海に来てるからいい刺激になっていいアイデアが浮かぶかも知れないだろ?」
「うーん......分かった、お言葉に甘えちゃうね。頑張ろうね花陽ちゃん!」
「うん!ことりちゃん!」
あぁ会話聞いてるだけで和むわぁ......この2人の声を聞きながら眠ればすごいいい夢を見られそう。
さて、残りは穂乃果と海未、絵里に凛ににこか。どの道海未が残れば課題、絵里が残っても課題を見てもらうつもりだから3バカが逃げる道は買い出し係しかない。
「ほ、穂乃果いつもお家で荷物とか運んでるから結構力あるよ?」
「あぁ!?穂乃果ちゃん抜け駆けはずるいよぉ!!」
何か始まった。しばらく観戦といくか。
「凜もいつもお母さんの買い物に着いて行くときに荷物持ってるから荷物持ちには慣れてるにゃ!」
「ちょ!?私それ言おうと思ってたのに!」
不毛な争いが続く。残念ながらアピールが被るのは仕方ない。早いもの勝ちだ。
「に、にこはぁ!にこは......くっ!」
「「はい!にこちゃん脱落~!!」」
何だこいつら、見てて面白いわ。
「ま、待ちなさいよ!!えっと......そうだ!いつも家で料理してるから新鮮な食材を選ぶことが出来るわよ!」
おぉ。ここに来て最有力候補が。新鮮な食材を選べるのはでかいぞ。
「あれ?にこちゃんさっき家には専属の料理人がいるから料理なんてしたことないって......」
ここでまさかのことりからのキラーパス。天然とは時に残酷だ。
「これからの時代アイドルは料理も出来ないと生き残れないのよぉ!!!」
「じゃあ審査に入りまーす」
にこの叫びをアピールタイム終了の合図にして、腕を組んで考え込む。
穂乃果は和菓子屋の娘で品出しとかするから力仕事には慣れてるっぽいっと。
凛は買い物に行く時にいつも荷物持ちをしているからそこそこ力がありそうっと。
にこは新鮮な食材を目利きすることが出来るっと。
今のとこ凛が1番弱いっぽいな......よし決めた。
「結果発表~!」
3バカの顔に緊張が走る。俺は1人1人ゆっくりと顔を見ていく。
「海未、行くぞ」
「「「え?」」」
「あ、私ですか?分かりました」
固まっている3バカをよそに準備を始める。
えーっと、財布財布......あ、携帯携帯っと。
「よし行くか、みんな」
「そうね」
「はい」
「せやね」
買い出し組が立ち上がり次々と玄関から出ていく。それに続いて俺も無駄に大きな扉に手をかける。そして扉を開き、夏特有のむわっとした空気を全身に受けながら振り返る。
「絵里、みんなにキッチリ課題やらせといてくれよ?」
そう言って俺は静かに扉を閉めた。
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
そして今この瞬間だけは
***
太陽が海に沈み始めたため、昼間とは違い気温はそこそこ暑いといったところだろうか。少しばかり涼しくなっても歩けば汗が出てくる。しかし時折吹き付ける潮風がとても涼しいこの時間帯。
買い出し当番になった俺たち4人は真姫の道案内の元、目的地であるスーパーを目指して海沿いの道を歩いていた。真姫の別荘からだと大体10分以内には到着出来るそうだ。
俺の前方には希と真姫が話をしながら歩いていて、俺の隣には暑さを微塵も感じさせない表情をした海未がいる。
「なあ海未」
「何ですか?」
俺は太陽に背を向ける形で歩いている。そのためかこっちを向いた海未は眩しそうに目を細める。
やべえ......話しかけたはいいけどこれといって話題がない。ただ単に暇を持て余しただけだしなぁ......
「海未は俺のことどう思ってる?」
しかし何か言わなければと口を開いて出てきたのはそんな言葉。
「はい!?////」
あれ、これ聞き方ミスったかも。
沈んでいく夕日を顔に受けて赤くなっているがそれ以上に海未の顔は何故かそれでも誤魔化せないぐらいには朱に染まっていた。
「ごめんミス。俺のこと聞いてどう思った?」
どうしてこんなことを聞こうと思ったのかは自分でも分からない。わざわざ自分のマイナスイメージを聞いてどうなると言うのだろうか。
自分から死地に飛び込んで行ってどうするんだろうな?俺は。
「...その件に関しては優には特に何もありませんよ。強いてあげるならあなたは少々優しすぎです。だから自分の責任にしてしまおうとするのです」
「優しい......ねぇ」
人に対しての接し方なんてこれといって意識したことはない。自分から進んで優しくしようなんて普通は思わないはずだしな。
「"優"、という名前に恥じないぐらいには優しすぎます。...だからこそあなたを傷つけたあの殿方は許せませんが......」
くしゃりと海未の眉間に少しだけ
思ってはいけないことなのかも知れないけど、俺は嬉しかった。あんな話を聞いたあとでもみんなが普段通りの態度で接してくれることがどうしようもないほどに心の支えとなってくれる。
「...そう言えば今日の晩御飯は何にするんだ?」
このまま聞いているとどうにも涙が出そうだったので、咄嗟に話題を変える。
「...決めてない、ですね」
食材を買いながら買い物をすると目的のものが決まってないだけにかなりの時間がかかる。となるとスーパーに着く前にメニューを決めておくのが吉だろう。
「希ー、真姫ー、晩御飯何がいいと思うー?」
前方を歩く2人に向かって声を投げかける。
2人は同時に振り返ってくる。そのため少しだけ歩く速度が落ちた。
「うーんこの人数やからねぇ......カレーとかどうやろか?」
カレーか......確かに10人分の食事を1人1人に作るのは大変だしまとめて作れるカレーはいい案だと思う。
「...真姫もそれでいいかー?」
「...別に何でも」
特にこれといって意見はないのかチラリと俺を見てすぐに進行方向に視線が戻る。
「真姫は何かカレーって言うよりもビーフシチューとかの方が似合う気がする」
「何言ってるの?」
真姫は前を向きながら答えているため俺からは表情を見ることが出来ないが、声音で分かる。これ超呆れられてる。
こう言っちゃなんだけど、カレーは庶民、ビーフシチューはセレブって感じがするんだよな。ただの偏見だけど。
「カレーか......みんなは何か嫌いな食べ物とかあるー?」
普段なら好き嫌いするなと言いたいところだけど今は勘弁してやろう。
「うちはキャラメルが苦手かな......」
「私は炭酸飲料ですね......」
「...みかんね」
嫌いなものを話すだけあってみんなの顔が若干苦々しくなる。
「オーケー、その3つはどうやってもカレーには入れないから大丈夫だ」
ここにいる3人の心配は消えた。俺は特に好き嫌いとかはない。
あとは他のみんなか......一応確認しとくか。
携帯を取り出し、LINEでメッセージを飛ばす。
<何か嫌いな食べ物とかってある?>
すぐに既読の文字がつく。この速さは3バカの誰かだな......
恐らく課題から逃れるためにすぐに反応したといったところだと思う。
<ピーマン!>
穂乃果はピーマンか......付け合わせにサラダでも作ろうと思ってたから注意だな。
<お魚!>
凛は魚類?そこは猫でも譲れないのか......
<辛いもの!>
「カレーは辛くないとカレーじゃない!」
思わず叫んでしまう。ちょうど通りかかったお姉さんから2度見されたあげく変な目で見られてしまった。くそう......覚えてろよにこ!
「あなたは何をしているんですか......」
海未は少々恥ずかしそうにしながら俺との距離を開けていた。
悪いと思ってる。だから距離開けないでもらえます?他人に変な目で見られるよりもくるものがあるからさ。
<私は特にはないです>
花陽は好き嫌いはないらしい。好き嫌いしているやつに見習って欲しい。
<にんにくかなぁ......>
ことりはにんにくか。......嫌いなものにも女子力って感じるんだなぁ。
<のりと梅干かしら>
絵里はのりと梅干?それがなくなったらおにぎりは死滅する可能性がグッと高くなる気がする。まぁ塩むすびとか他の具が支えてくれるか。
これで全員、ならカレーで問題ないな。付け合わせのサラダもピーマンを抜けばいいだろう。
「見えてきたわよ」
メニューを決め終わるのとスーパーが視認出来るようになったのはほぼ同時だった。
さて......安く済めばいいんだけどな。10人分の食材なんて同時に買ったことがない俺は財布の中身を思い出し、少々心が痛くなってしまった。
***
グッバイ
買い物を終えた俺は分裂して数は増えたように見えても金額的には減っている財布の中の紙幣を目にして心中で嘆く。
そして別荘への道を引き返している最中だ。日は先ほどよりも傾き、世界を更にオレンジに染め上げている。
「...10人分の食材って結構重いんだな......」
正直荷物持ちと支払いのためだけに買い出しに出たとはいえ、これが中々重量がある。ビニールが指に食い込んできてそれが特に辛い。
「大丈夫?」
希が俺の顔を覗き込んでくる。
近いって......目大きいなぁ。
「優、やっぱり私も持ちますよ?」
「いや、大丈夫だって。みんなは練習とか頑張ってるんだしこんなところで力使うべきじゃない。それに荷物を女の子に持たせるのは男としてダメだろ」
海未の申し出はありがたいんだけどな。優しさが身に染みるようだ。
「でも支払いはみんなですればよかったのに」
「どうせ持ってても本とかに消えていくものだ。ここで使わずいつ使う?」
ここぞとばかりにきりっとした顔をして見せる。
「なんというか......顔に汗かいてるせいで爽やかというよりも暑苦しいわね」
一言多いぞ。真姫。
歩く+荷物持ち+気温=汗をかく。
仕方ないだろ。
それに蝉の鳴き声が混ざって暑さに拍車をかけていた。1週間休むことなく鳴くことに命を費やすこいつらこそ歌手界の大スターだろ。そろそろ紅白からお呼びがかかるんじゃね?紅組アブラゼミ、白組ミンミンゼミとかな。いやー尊敬しちゃうなぁ......あーもううるさい静かにしろ。
暇つぶしと暑さを誤魔化すためにバカみたいなことを考えてみるが、結果はむしろ不快になっただけだった。
しかしこいつらはまだいい方だ。うるさいだけで害はない。問題は夜寝る時に耳元を
あとは夏場の蛙な。この辺ではあまりお目にかかれないけど田んぼの近くとかに家あると夜中とかすごい合唱始めるからな。そう考えたら夏っていうのはただの睡眠キラーじゃねえか。騒音だらけだし、夜中暑すぎて何度も目覚めるし......ダメだ何か他のこと考えよう。
例えば蛍なんてどうだろうか。夜中に暗闇で光るあの姿は幻想的であり、その光景は思わず息することを忘れてしまいそうになる。もっとも俺が見た時は周りはカップルだらけで息をつく暇がなかっただけだけど......
ならば花火はどうだろう。夜空を彩る色とりどりの光。夏の風物詩でもあり大イベントだ。その派手さは目を惹きつける。あーでも俺の時は周りのカップルが花火じゃなくてお互いの顔を見つめ合いながらきゃっきゃうふふしてたんだっけな。その時はうるせえなぁ......見た目の派手さと音の大きさを楽しむだけなら雷でも見てろよこんちくしょうが。と思ったものだ。
あれ?俺の思い出周りのカップルに邪魔されすぎじゃね?何なのこれ?呪い?
プラスに考えようとしても腕にかかる重量と指に食い込むビニール袋の痛みと気温の高さと蝉の鳴き声が俺の思考にマイナスをかけていた。マイナスにマイナスかけたらプラスになるんじゃないの?それは数学だけか。
「あっ......卵買うの忘れた」
しばらく無言で歩いていたが、ふと買い物袋を見た時に声が出た。
「卵?カレーに入れるの?」
「いや、明日の朝のだ。さすがに朝からカレーは重いし......残すと持ち帰るのも面倒だからな......」
今から引き返せばまだ間に合うか......
「俺は卵買いに戻るから先に帰ってていいよ」
「それなら私もついて行きますよ。この道を帰る時1人だと暇になるでしょうし」
おぉ、話し相手になってくれるのか。
「うちらは先に戻ってるね?」
「暗くならない内に戻ってきなさいよ?」
「...真姫が素直だ」
正直ちょっと驚いた。根はいい子だと分かってはいるけどこんなにはっきりと言ってくれるなんて思ってもみなかった。この合宿の効果が出て来てるのか。
「べ、別に!ユウの心配なんてしてないわよ!食材が傷んだら大変だからよ!」
「こんな短時間で傷むわけないだろ......」
とは言えこれを持って戻るのも結構な労力だな......まぁいいけど。
「ならうちが1袋持って帰るわ」
ひょいっと手から1つ重さが消える。
「ごめん、正直助かるよ」
言葉と共に
***
ユウが海未と一緒に卵を買いに行くのを見送ってから私は希と一緒に歩き出した。時折吹く潮風になびく髪を手で押さえる。
「真姫ちゃんは普段何をして過ごしてるの?」
合宿に来てからというもの希は何かあれば、いや......何もなくても私に話かけてくる。
本当に何を考えているのかが分からないわね......まぁいいか。
「そうね......大体は病院に顔を出してるか、勉強とか読書とかね」
「おぉ!さすがは真姫ちゃんやね~。ちゃんと勉強するなんて感心やん!」
希はオーバーリアクション気味に返してくる。
「別に......必要最低限のことをやってるだけ」
そう。別に特別のことじゃない。自分に必要なこと。だから本来ならこうしてみんなと一緒にアイドルをしていること自体が奇跡というものだ。
でも......もしアイドルをやっていなかったら、私はきっと今も1人で医者になるための勉強をしていたと思う。そうなれば凛や花陽ともこうして話すことなんてほとんど無かっただろうし、いつまでも真姫ちゃんなんて呼ばれることはなかったと思う。
だから本当は穂乃果たちがμ’sに誘ってくれたことで友達も出来て、諦めていたはずの音楽に触れられてとても感謝している。
もっと素直にならなくちゃいけないと思ってはいるんだけど......どうしても上手くいかないのよね......
こうして希が話しかけてくるのだって私のことを気遣ってくれているのも本当は分かってる。
「真姫ちゃんって趣味は何なん?」
ほら。私が冷たく返してしまったから、希にまた気を遣わせてしまった。
「それも別に普通の趣味よ。天体観測とか......写真とか」
「うちも星を見るのは好きや。前は南極でペンギンさんと一緒に流れ星見たっけなぁ」
希が冗談なのかよく分からないことを言い始めた。
「何て言うか......の、のぞ「おや?μ’sの......」え?」
誰よもう!折角人が勇気を出して名前を呼ぼうとしてたって時に!
希と向き合って話していた私は前方から歩いてくる人に気が付かなかった。それは希も同じみたいで顔が驚愕の色に染まる。
この人......ユウの中学時代の!
一気に空気に緊張感が含まれ始める。希も相手が誰なのか理解した瞬間顔が警戒の色に塗り替わった。
相手は何が面白いのかにこにことしてゆっくりこちらに歩み寄ってくる。その後ろにはユウが話していた女の子が表情を消した顔をして立っていた。
「嬉しいね。まさかこんなところで再会出来るなんて」
「うちらのファン?嬉しいなぁ」
以前希が警戒したまま白を切る。
その発言をどう取ったのかは知らないが、確か三上?とかいう男はまた一歩近づいてくる。
「ファンと言うか、マネージャー志望さ」
「生憎マネージャーは既に優秀な人がおるんよ。だから募集はしてないんや」
優秀なマネージャーという言葉が出た瞬間何がおかしいのか声を上げてその男は笑い出す。
「はははははは!!!八坂が優秀?面白い冗談だな!可愛くてユーモアがあるなんて益々あいつにはもったいないよ!!!」
今まで躱し続けてきた希の眉が一瞬だけピクリと動く。それでも笑顔を浮かべたままだ。
「やっぱりμ’sのマネージャーは僕にこそ相応しい。あんなクズに任せておいたらどんどん輝きを失ってしまうだろうなぁ......悪いことは言わない、僕をマネージャーにするといい」
「...うちもユーモアのある人は嫌いじゃないよ?」
希は笑ってはいるがその声音には好意なんて欠片も感じられない嫌悪感が滲み出ている。本当はかなり怒っているはずだ。
私も同じだから分かる。聞いていて不愉快だわ。話を聞いた限りこの男のしたことは最低のこと。それを棚に上げてどうしてユウをクズなんて言えるのかしらね。
「僕がマネージャーになれば一気にスターになれる。今何よりもμ’sに必要なのは知名度だ。金銭面でももちろんバックアップ出来る。無駄な努力なんてしないでも音ノ木坂を救うことが可能だ。悪い話じゃないだろ?」
何でこの男が音ノ木坂のことを知ってるのかは分からない。自分がいかに優れているかとかペラペラ語られても正直どうでもいい。
――でもこの男は今、私たちのことをバカにした。それは絶対許せない。
「ふざけるんじゃないわよ!無駄な努力ですって?あなたの下らないプライドなんかどうでもいい!でも......みんなでしてきたことは絶対無駄なんかじゃないわ!」
「真姫ちゃん......」
いい加減我慢の限界だわ!
「何もしないで救われるならそれは確かにいいことよ!でもそれは私たちがμ’sとして活動していなかった場合だけ!こうしてみんなで集まって走り出した以上あなたに廃校を救われてもそれはμ’sとして誇れないことなの!今までやってきたことが無駄になるなんて冗談じゃないわ!!」
これでもまだ言い足りない!
「大体あなたの場合は廃校を救ったヒーローという肩書きが欲しいだけ!私たちはあなたの評価を上げるための道具じゃない!そんなあなたがμ’sの努力を無駄って言ったり、ユウをクズって言うんじゃないわよ!!!!」
こんな自分のことしか考えてないような男にみんなのために一生懸命になれるユウをバカにされたくなかった。普段は頼りなくてみんなから振り回されてばかりだけど、この男よりは100倍ぐらいマシだ。
セリフをほぼ一息で言い切った私は肩で息をする。
大きく息を吸いながら相手の方をキッと睨み付ける。
すると突然相手の肩がプルプルと震え始めた。
「こ......この女ァ!!人が下手に出てればいい気になりやがって!!」
男は唇を
「真姫ちゃんっ!!!」
叩かれると思って反射的に目を
「うわっ!?」
そして男の悲鳴だった。
そっと目を開けてみると顔が黄色くなっている男とそれを呆然と見ている付き人の女の子、ホッとしたような顔をした希ともう1人。私の前に立つユウの背中が目に飛び込んできた。
***
「ん?希から着信?」
卵を買った俺は海未と一緒に帰路に着いていた。そんな時ポケットに入れたままの携帯が音を鳴らす。
何かあったのか?
怪訝に思いながら電話に出る。
『もしもし?』
呼びかけてみるも反応は返ってこない。仕方ないので耳に当てたまま待っていると携帯から誰かの声がする。
...この声、まさか!?
『悪い話じゃないだろ?』
誰の声か分かった瞬間......気づけば駈け出していた。
「優!?どうしたんですか!?」
後ろから足音と一緒に慌てたような海未の声が追いかけてくる。
「三上が希たちに接触した!!」
説明するのももどかしく海辺の道を全力で駆け抜ける。
もしかしたら何個か卵が割れてるかもしれない。
しばらく走っていると真姫たちの姿が見えてきた。
「こ......この女ァ!人が下手に出てればいい気になりやがって!!」
三上は
俺は咄嗟に袋から卵を1つ取り出し、走りながら三上めがけて真姫を避けるような放物線を描くように全力で投げつけた。
「うわっ!?」
前方からべしゃっという音と三上の悲鳴が聞こえてくる。どうやら運良く当たってくれたみたいだ。
「...間に合ってよかった」
安堵の息を吐き、卵にまみれた三上を睨む。
「もし真姫、というかμ’sのみんなに手を出してたら俺は本気でお前を殴っていたと思うぞ、三上」
まあ殴ろうとした時点で俺の怒りは既に燃え盛る炎のようだ。未だに尻餅をついている三上を見下ろしながら言う。
「や、八坂ァ......この僕にこんなことをしといてただで済むと思うなよ!?僕はあの三上財閥の――」
「――隼太?何をしてるんだ?」
近くに車が止まったと思ったら中から1人のスーツを着た男が降りてきた。
「ははっ!!ちょうどいいところに来てくれたね!父さん!!」
どうやらこのスーツを着た男は三上の父親らしい。
その三上は味方を得て心底嬉しそうに笑う。
「この男が僕にいきなり卵を投げつけてきたんだ!」
尻餅をついたまま三上が俺を指差す。
まずいな......三上の父親ってことはあの三上財閥の社長ってことだ。俺なんて権力でいくらでもどうにでも出来るだろう。
三上もそれを期待しているのか完全に勝ち誇った顔をしている。
「...はぁ」
言葉を待っているとネクタイを緩めてため息をつき始めた。
「隼太......お前には失望した」
「...え?」
その言葉にはこっちも呆然となる。
三上に失望?どういうことだ?
「僕が何も知らないと思っていたのか?お前が過去にしたことだって知っている、だが僕はお前に自分の過ちに自分で気づいて欲しかった」
「父さん?何を言って......」
つまり......深瀬のことに気づいていた?
「と言っても気づいたのは最近だ。前から不信には思っていた。どうしていきなり自分で付き人を雇うなんて言い出したのか......六葉さん。今まですまなかった」
「......いえ」
少しだけ間を開けて深瀬は返事をする。
その心中は分からない。
「やっぱり僕たちはここで終わりだな......もうお前と母さんの身勝手に付き合ってられない。お前は母さんと暮らせ、母さんとは離婚させてもらう」
「そんな......嫌だよ!嘘だと言ってよ!父さん!」
「...お前はもう三上家の子じゃない、以上だ」
まるで道端の小石を見つめるような目で三上の親父さんは三上を見る。その目が全てを物語っていた。これは冗談なんかじゃないと。
「......」
それが分かっているからこそ三上は何も言い返せない。魂が抜けたように俯いて動かなくなってしまう。
「六葉さん。今更謝っても許されないことだと思う。隼太がしたことにもっと早く気が付いていれば......っ!」
頭を下げる。三上の親父さんは手をきつく握りしめ、歯を食いしばっている。
「...私は......これからどうすればいいですか?」
初めて深瀬に感情らしい感情が見える。
きっと困惑だ。様々な感情の中で今最も大きな感情。それが表面に出てきたんだ。
「...親御さんと一緒に暮らすべきだ」
深瀬が肩をピクリと揺らす。
「お父さんとお母さんと......一緒に暮らしてもいいんですか......?」
「もちろんだ。すぐにでも車を手配する。僕もご両親に謝罪しないと気が済まない。決して許されないだろうけど、せめてもの罪滅ぼしをさせてほしい」
三上の親父さんが話終えると深瀬は膝からゆっくりと崩れ落ち、顔を覆う。そして間もなくして嗚咽が聞こえてきた。
「お父さんとっ!!!お母さんとっ!!!また!一緒に!!暮らせるっ!!!」
そんな嗚咽混じりの叫びが涙と一緒に溢れて止まらない深瀬。俺はしばらくそれを見つめ続けることしか出来なかった。
家族に会わせないようにした三上に対する因果応報。彼はその一歩間違えば尊敬に値する異様な自尊心によって
俺たちが関わっていなくてもいずれはこうなっていたのではないだろうか。そんな仮定の話をしても仕方ないのかもしれない。だけどこう考えずにはいられなかった。
しばらくして深瀬は泣き止んだ。三上の親父さんが手配した車が到着する。助手席に三上が乗せられる。
「ねえ......優くん」
深瀬は車に乗り込む前にくるりとこっちを向いてくる。
「ありがとね」
「...俺は何もしてないよ」
今回は本当に何もしていない。ただ時間が解決してくれた。
「そうじゃなくて......約束、守ってくれてありがとね」
「あぁ......」
大したことじゃない。深瀬が耐えてきたことに比べれば。
しばらく沈黙が続く。この時間が俺たちの間に出来た溝なんだ。
元々対して距離の近くなかった俺たちだけど、多分それも時間が解決してくれる。
「優くん、もしあの時私が優くんのことが好きだって言ってたらどうしてた?」
「多分断ってた」
考える間もなくそう答えていた。それでも多分というのが自分らしくて少し笑う。
「なんてね、冗談だよ」
深瀬もまた照れくさそうにはにかむ。
再び沈黙に包まれる。深瀬の親父さんが時計を確認しながら近づいてくる。どうやら時間のようだ。
「またね、優くん」
「あぁ、また」
彼女が初めて優くんと呼んだ時、じゃあねと別れの言葉を一方的に告げられた。それはもうきっと会うことがないだろうと思っていたからだと思う。
でも、今俺たちはまたねとお互いが言い合った。今度はまた会えると信じているから。
深瀬は車に乗り込んだ。
「君が八坂君か......優也さんは元気にしているかい?」
「父さんのことを知ってるんですか?」
もうこの程度のことでは驚かない。
「あぁ、優也さんには昔お世話になったんだ。......自己紹介が遅れてすまないね。僕は三上隼人、優也さんによろしく言っておいてくれないか」
「分かりました......1つ聞いてもいいですか?」
俺はこれから先起こり得る未来を想像して話す。
「なんだい?」
「三上はどうするんですか?」
放っておけば恨みを行動力にして、俺たちに害を加えにくるかも知れない。
「ふむ......最後の情けでしばらく生活に困らないよう妻に生活費を渡しておく。2人とも海外にでも行かせよう。そうすれば君たちに害が及ぶことはないだろう」
それだけ聞ければ十分だ。俺は無言で頭を下げる。
隼人さんはそれを確認すると車に乗り込む。すぐに車は動き出し徐々に遠ざかっていく。それは点となり消えていった。
俺が話を終えたのを確認して海未と真姫と希が近くにきた。
「時間を取らせてごめん、あと巻き込んでごめん」
「別にいいわよ......」
「せや、気にする必要ないで?」
「それより早く帰りましょう。みんなが待っています」
俺は短くあぁ、とだけ返し、歩き出した3人のあとを追った。
***
「...そんなことがあったの」
別荘に戻ると俺たちは先ほどの出来事を全て話した。俺たちと言っても俺はすぐに食事を作ることに取りかかったので話す方は真姫たちのに任せることになった。
語り終えてしばらくしてカレーのいい匂いが漂い始める。ご飯を炊くのは花陽に任せ、俺は付け合わせのサラダも作り終える。
お皿にサラダとカレーを盛り付けて、テーブルの上に運ぶ。
「じゃあいただきまーす!」
穂乃果の合掌を合図に
うん、美味い。それはいいとして......
「花陽だけ何で茶碗に白米?」
1人だけ平皿ではなくカレーと別々の茶碗だ。しかも結構量あるっぽい。
「気にしないで下さい!」
「かよちんは大体いつもこんな感じだよ?」
お、おう。あんだけ食べて太らないって......栄養はどこに行って......あー。
視線が花陽の胸に到達した瞬間答えは見えた。
「ねぇ......ゆう君?」
穂乃果の低い呟きが俺の耳に届く。
まずい!花陽の胸を見てたことに気づかれたか!?
「穂乃果ピーマン嫌いって言ったじゃん!何で入ってるの!?」
どうやら気づかれていないみたいだ。安心した。
「それはピーマンじゃなくてパプリカだ」
「一緒だよ!色が変わっただけじゃん!」
「パプリカは甘いんだぞ?ピーマンとは違う」
厳密には赤く熟したピーマンだけどな。よく知らんけど。
しばらく談笑しながら食べ続ける。そうして全員が食べ終わる。
食べ終われば次は皿洗いだ。これは避けては通れない。
「じゃあ皿洗うから持ってきて水に漬けてくれ」
洗剤をスポンジに含ませ、泡立てる。
「あの、優さん。お手伝いします!」
花陽がひょこっと顔を覗かせる。何この小動物?どこのペットショップに売ってるの?
「そうよ。優くんにだけやらせるのは悪いわ」
その後ろから絵里が出てくる。
「穂乃果!少しは手伝いなさい!」
海未が穂乃果を叱りながら絵里の後ろから出てくる。
「ゆー君は少し休んで?あとは私たちがするよ」
ことりが優しく申し出てくれる。何この天使?どこの女神の使い?
「いや、気持ちは嬉しいんだけど......みんなは先に風呂に入っちゃってくれ。疲れてるだろ?」
男1人の俺はいいが、女子は9人。どう考えても早めに女子に風呂に入ってもらった方いい。かなり汗をかいてるだろうし、早く汗を流したいはずだ。
「その間に俺が皿洗いを終わらせておくよ」
どうやら俺がここを譲る気がないと言うのが伝わったのか、みんなは渋々とお風呂に向かっていった。
とはいえ洗い物も大した量じゃなかったため、すぐに終わった。あとはみんなが戻ってくるのを待つだけだ。
『うわー!露天風呂だぁ!!』
別荘に露天風呂!?改めてすごいな......
『別に大したことないわよ』
これが大したことないと言うのだろうか。
『かよちん洗いっこしよ!』
『うん!』
『お!ええやん!どうせならみんなでやらない?』
...俺耳塞いでた方がいいんじゃないか?
そんなに距離が離れてないのか、さっきから会話が丸聞こえだ。
『花陽ちゃんって結構お胸あるんだねー!』
『うわぁ......絵里ちゃんやっぱり......すごい!』
大丈夫......まだ耐えられる......俺の鋼のメンタルを舐めるなよ!?だから落ち着け!マイジュニア!
『にこちゃん肌綺麗だにゃー!!』
『ふふん、当然でしょ!』
『真姫ちゃんスタイルいいよね.....羨ましいな』
『花陽だってそんなに悪くないじゃない』
聞くのがまずいと思うなら耳を塞げばいいじゃないかと思うだろうが、それが出来る男は存在しない気がする。
『海未ちゃんはお胸、大きくなりましたか?』
『そんなにすぐに変わりませんよ!!』
『穂乃果ちゃんも食べてる割にスタイル良い方だよね~!』
『凛ちゃんは引き締まった体してるよね!さすがだよ!!』
声だけって言うのが余計に想像力を掻き立てる。耐えろ......俺!
『私はことりのバランスを取れた体がちょうどいいと思うけど......でもやっぱりすごいのは希よね』
『えりちに言われると自信出てくるやん!』
『希ちゃんたゆんたゆんだにゃー!』
俺はその会話が聞こえた瞬間靴を履いて外へと飛び出し夜空の下を全力で疾駆した。
鋼のメンタル?そんなもん頭に熱を持った瞬間溶けて消えて無くなった。やっぱ鉄は当てにならないわ。熱の前では無力。
頭を冷やして別荘に戻ったころ、既にみんなは風呂から上がっていた。
「あれ?ゆう君どこに行ってたの?」
「......ちょっと走りにな」
嘘は言っていない。
「そうなの!?すごい体力だね!」
「とりあえず汗を流してきてはいかがですか?」
「そうだな......真姫、風呂ってどこ?」
もう早く色んなものを流してしまいたい。汗とか会話を聞いた罪悪感とか。
「そこの廊下の突き当りを右よ」
服を鞄から取り出し、言われた通りに進む。
1人で露天風呂とか贅沢ここに極まれりだな。楽しみだ。
扉を開けると満点の空が見える。露天風呂から上がる湯気と少し濁った色のお湯。最高に絵になる光景だった。
体を洗いながら、今日あったことを考える。でもすぐに中断する。色んなことを考えすぎて風呂に入る前にのぼせてしまいそうだったから。それに疲れていたから。
体を洗い終え、湯船につかるとそんな思いが一気に吐き出されてきた。
***
風呂から上がるとみんなは布団を敷き始めていた。
何でも今日はもう寝て、明日の早朝から練習。夜に花火らしい。
......ここで寝るのか?
「俺部屋で寝ていいか?」
「ダメだよ!みんなで寝るの!」
何で俺が間違ってるみたいになってるんだ。
「まさか何かしようってわけじゃないですよね?」
「出来るわけないだろ......」
そんなことしたら明日の新聞の一角に少年の死体が海にて発見とか書かれちゃうだろ。
「もう電気消すわよ」
ピッと音がしたかと思うと辺りが暗くなる。
しばらくすると誰かの寝息が聞こえてきた。寝んの早いなおい。
そしてついでにバリボリという謎の擬音も聞こえてきた。
「...1回電気つけるわよ」
ピッと音がすると辺りが明るくなって......布団の中で
「お前何してんの?」
「お腹がすいちゃって......何か食べれば寝れるかなぁ......と」
そう言ってバツの悪そうな顔する穂乃果。
「ちょっとうるさいんだけど......」
にこがむくりと布団から起き上がり睨みつけてくる。
......空気が凍る。
「おいにこ。いや......化け物」
「化け物って何よ!?」
だって薄緑色の顔にきゅうりを貼ってるやつがいたらまず知り合いじゃなくて化け物の
「......にこちゃんそれ何?」
凛が恐る恐る尋ねる。顔はこれ以上ないぐらいに引き攣っている。
「何って......美容法よ」
「ハラショー......」
絵里の顔も引き攣っている。ていうか髪下ろすと更に可愛いな。何というか大人っぽさがグッと増してる。
「怖い......」
そうだよなー。普通その反応だよなー、花陽ー。
とりあえず無言で枕をにこに投げつける。2つの枕がにこの顔を直撃する。どうやら俺以外にも投げたやつがいるみたいだ。
「真姫ちゃんダメだよー!枕投げたらー!」
白々しい希の声が聞こえてくる。あっ犯人この人だ。それを真姫に擦り付けてる。
「面白そう!凛もやるー!ほらほら!かよちんも!」
「え?えぇ!?」
「よぉーし!負けないよ!」
次々と飛び交う枕の銃弾。
おいおい。明日早朝から練習だろ?でも超楽しい。
時に受け流し、時に受け止め投げ返す。
そして流れ弾が数発海未に当たる。......やばくね?
そう思ったのもつかの間、海未がむくりと起き上がる。髪で陰になって顔が隠れて表情が見えない。
「...何をしているのですか?」
ゾッとして背筋がピンとなる。俺の知り合いに阿修羅なんていなかったはずなんだけど......今までの中でトップ5入りするぐらいの恐怖が俺を襲う。
「ことり......海未ってもしかして......」
「うん......寝てる時に起こされると機嫌が悪くなるタイプだよ......」
その時俺の傍を超高速の物体が通り過ぎていき、後ろからへぶっ!という声がする。後ろを見るとにこが仰向けに倒れてダウンしていた。
「にこが......やられた......」
当たった人が気を失うレベルの枕投げなんてやりたくない。というか枕は普通音速にいかない。あと命の危機も感じない。
俺たちはどうやら悪魔を目覚めさせてしまったらしい。
「...上等だ!勝って生き残ってやる!!みんな!力を貸してくれ!」
俺たちは枕を持って中心にいる
***
がさごそとちょっとした音で目が覚める。昨夜の戦いを何とか勝ち抜いた俺たちはそのまま崩れるようにして眠りに落ちた。
とりあえず体を起こそうと手を横に着こうとすると何かに当たる。
「っ!?」
手に当たった柔らかい感触。穂乃果の手だ。
近い近い近い!!!それに凄いいい匂い!
起こさないようにそっと体を起こそうとするとお腹の上に誰かの手が乗ってきた。
「んん......」
絵里が俺に抱き着くような形になった。
ふぉぉぉぉぉ!!??声が出そうになるのを必死にこらえる。
もう当たってるというか押しつぶされてるぞこれ!?
服から谷間が見える。違う!今お前は呼んでいないぞ!我が息子!もうちょっと寝てろまじで!!
何とか拘束から抜け出し、周りを見渡す。
真姫と希がいない。さっきの物音はそれか......
みんなを起こさないように静かに立ち上がる。多分外に2人ともいるはずだ。靴を履いて扉を開ける。まだ朝日が昇り始めて間もない時間だ。それでも夏なので寒くはない。新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
砂浜まで歩くと2人が立っていた。何やら話しているみたいだ。
「おはよう。2人とも早いな」
声をかけると2人同時に振り向いてくる。
「おはよう。優くんも早いやん!」
「...おはよう、ユウ」
まあ音がしたから起きたってだけだ。いつもならまだ寝てる。
「希は......俺たちのことをよく見てるよな」
ふとそんなことを口にしてみる。
「...μ’sはうちにとって特別なものやから......それに可愛い子供のようなもの。みんなを見るのが楽しくて仕方ないんよ」
そういえばμ’sってつけてくれたのは希だったな。そう言った意味では本当に母親のようなものなのかもしれない。
「おーい!!」
後ろから響く穂乃果の声。どうやらみんな起きてきたようだ。
「じゃあみんな揃ったところで穂乃果、一言頼む」
「ラブライブ出場目指して!!頑張ろう!!」
ありきたりな言葉だが、今の俺たちにはどんな言葉よりも勇気を与えてくれる。
「ねえ希、絵里、にこ......ちゃん、穂乃果、海未、ことり、凛、花陽......あとユウ。...ありがとね」
真姫が俺たちの名前を呼ぶ。俺だけついでっぽいけど。照れくさそうに感謝の言葉を口にすると凛と穂乃果に囲まれてわいわいし始める。
「あの......優」
みんなの輪を離れて見ていた俺の傍に海未がくる。何か言いたげだ。
「どうかしたか?」
「えぇっと......今までお疲れさまでした」
聞くと海未は言い辛そうに口を開く。
「お疲れさま?え?俺解雇でもされるのか?」
「いえ!そうではなくてですね......」
「分かってる約束のことだろ?」
なんとなく空気で察した。
「分かってるじゃないですか......それだけです」
海未はみんなの元に戻っていった。
みんなの輪と海から覗く朝日を見ながら俺は思う。
あの約束をした日から、今日まで1年と約数ヶ月。俺はずっと約束を守ってきた。年だけとって結局はあのころから一歩も前に進んでいなかった。その場でずっと足踏みをしていただけだったんだと。
今日という約束の終わりの日を迎えて、ようやく......俺はきっと一歩を踏み出せた。そんな気がしている。
―To be continued―
作「雑談のコーナー!今回のゲストは東條希ちゃんと西木野真姫ちゃんです!」
真「今回長すぎじゃない?」
希「区切るっていう選択肢はなかったの?」
作「正直迷ったんですが......この切りのいい40話で合宿編を終わらせたいと思ったんです」
真「約18000文字よ?」
希「読者さんも読むのめんどくさくなるかもな......」
作「やってしまったという感じはあります......でもいかに退屈させずに読ませるかってことも大事なことだと思います!」
真「はぁ......バカね」
希「まあまあ!叩かれたらそれまでやし、読んでもらえることが作者さんにとっては嬉しいことなんや。今回は気合が入り過ぎたってだけで......」
作「そういうことです!では!次回も!」
真・希「よろしくお願いします!」