ラブライブ!~未来へ響く多重奏~   作:朝灯

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新しく二次創作で小説を書き始めたので、こちらの投稿は少々遅れるかもしれません。
出来るだけ遅れないようにするつもりですが、話が思いつかない日もあるので、そこは未来の自分に任せたいと思います!




雨模様

『留学って......どういうことだよ?』

 

 俺が聞くとことりは寂しそうな笑顔のまま、たった今花火が上がったばかりの夜空を見ながら口を開く。 

 

『...元々服飾関係のことには興味があったんだけど......μ’sの活動で衣装を作っている内にその思いがどんどん強くなっていって......思い切ってお母さんに相談してみたらじゃあ知り合いに聞いてみるわね。って言われて......お返事が届いたの。留学してみませんかって......』

 

 どうして......どうしてこのタイミングなんだよ!!!

 もうすぐ、ラブライブに出場出来るってとこまで来てるのに!!!!

 俺は叫び出しそうになるが、理性で感情をねじ伏せる。

 今、ことりがこうして俺を呼びだしたってことは、内密にしたいってことかもしくは既にみんなは知っているかのどちらかだ。

 でも、みんながそんなことを知って平然としていられるわけがない。それはみんなのことを見てきた俺が良く分かってる。

 

『いつから......悩んでた?』

 

 代わりに別の話題を口にすることでちょっとでも冷静であろうとする。

 

『...あの秋葉原でライブをした日に家に帰ったら......お母さんからお手紙を渡されたの。その時から』

 

 そんなに前から......

 それは夏休みに入る前のこと、約2ヶ月は経過している。

 俺たちが......合宿だなんて言っている間もことりはずっと1人で悩んでたんだ......

 

『何で言ってくれなかったんだよ!?』 

 

 思わず叫んでしまうが、どうやら穂乃果たちには花火の音で掻き消されて届いていないらしい。

 ことりは上に向いていた視線を俺の方へ戻す。

 しかし、目線は後ろにいるみんなへと向けられている。

 

『だって......こんな大変な時期に言えるわけないよ。ゆー君もそうでしょ?』

 

 一瞬心臓がドキリと音を鳴らす。

 ことりは......俺のことを知っているのか?

 そんな訳ない。だってあれは誰にも伝えていないから。

 きっとことりは『ゆー君が同じ立場でも言えないでしょ?』と聞いているんだ。

 

『そうだな......言えない、と思う』

 

 今言った言葉は自分とことりに向けられたものだ。

 簡単に言えたら苦労はしない。

 一緒にいればいるほど、楽しいと感じるほど、口に出すのが難しくなっていく。

 

『...みんなは知ってるのか?』

 

 自分で聞いておいて、何だそれと思ってしまった。

 今ことりが言えるわけがないって言ったってことは誰にも言えてないってことなのにな。

 

『...ううん。ゆー君が最初だよ。次は海未ちゃん、かな』

 

 本当は真っ先に穂乃果に伝えるべき、なんだろうな。

 いつも仲良しで、ことりにとっては初めての友達。

 

『...穂乃果にはいつ言うんだ?』

 

 このことはきっと打ち明けなければいけないことだ。

 本人が言えないと思っていても、いつか近い内に選択を迫られるだろう。

 

『海未ちゃんに話したあと......かな』

 

 あぁ、1番近い人には言い辛いもんな。

 海未ならきっとことりの背中を押してやれる。

 

『...文化祭のライブは出られるのか?』

 

 俺たちは人の集まる文化祭でライブをすることになっていた。

 近所の中学生も来るため、入学希望者を増やす絶好のチャンスとなっている。

 

『うん......きっとそれが私の最後のライブ』

 

 最後。その言葉が俺の心に深く突き刺さる。

 拳を握りしめて、必死に冷静さを取り戻す。

 

『行くな、なんて言っても今更だよな?』

 

 少しだけ、ことりが困った顔をする。

 

『...もう留学先の学校にも連絡しちゃったしね』

 

 それを抜きにしても、俺に止められただろうか?

 μ’sの衣装を作っている内に、もっとたくさん服を作ってみたいと思うようになって......夢を叶えるためのチャンスが目の前にあって、それでも俺は止められただろうか?

 

『...そっか。......すごいな!ことり、頑張れよ!』

 

 ことりはきっといいデザイナーになれる。

 もう納得するしかないじゃないか。

 

『...うん!』

 

 俺たちは笑顔だ。

 でも、何で2人とも傷ついたような笑い方をしてるんだろうか?

 ことりはそのままみんなの輪に戻り、俺はその場で上を見る。

 

 ...すると花火がヒュ~っと気の抜けるような音を鳴らしながら、空へと旅立ち、パンっ!と派手な音を鳴らした。

 まるで今の俺のようにふらふらとして最後は弾けて消えていくように。

 そこで、俺の目が覚めた。

 

 あれから数日経っているのに、俺は毎日のようにあの時のことを夢に見る。

 文化祭のライブまで残り2週間を切った。

 

「全部夢だったら良かったのにな......」

 

 そう思えば思うほど、より鮮明に思い出してしまう。

 これは夢じゃないんだ。

 

 俺は嫌な汗で肌に張り付いた服の感覚に顔をしかめ、シャワーを浴びるために練習着と制服を取り出して風呂へと向かった。

 

***

 

「は?講堂の使用権がくじ引き?」

 

 放課後になって部室に来ると、先に来ていた絵里と希からそう言われた。

 

「そう。何故か伝統らしいの」

 

「まじかよ......それって運が悪ければ講堂でパフォーマンスが出来ないってことだよな?」

 

「せやね、最も人が集められる場所だし雨が降っても実行出来る場所が取れないとなると文化祭のステージを用意すること自体が難しくなるね」

 

 おいおい......もしかしたらこれでラブライブの出場の決定と廃校の阻止、両方が出来るかもしれないのに......

 音ノ木坂学院の文化祭は他校の生徒やこの地域の中学生がやってくるイベントだ。

 それで中学生に来てもらい、この学校に入学したいと思ってもらえれば、きっと廃校は止められるはずだ。

 

 なおかつライブ風景をカメラに収め、ネットに上げることでランキング順位も上げてしまおうというまさに俺たちにとってはビッグチャンスとなる。

 

 ...それにμ’sが9人全員揃って出来る最後のライブなんだ......

 詳しい日付は聞けていないが、きっとことりに残された時間は長くないはずだ。

 

「せっかく19位ってところまで来てるのに......今からくじを引きに行くのか?」

 

 俺たちのランキング順位はなんと19位まで上がっていた。

 本当くじ引く人重要。まじで。

 

「そういうこと」

 

「じゃあ希に引いてもらえば......」

 

 そう。俺たちには希がいる。

 今こそスピリチュアルパワーを発揮する時だ!

 

「それが出来たらええんやけど......これは部の代表が引くっていうことになってるんよ」

 

「...ということはにこか!?あいつくじ運はいいのか?」

 

「...優くん、いつものにこっちの運をどう思うん?」

 

 ...どちらかというとすごい不幸に見舞われているような気がするっ!

 

「やばくね?」

 

 どうするべきか頭を抱えていると部室のドアが開き、黒髪のツインテールの片方が見えた。

 噂をすればなんとやら、部長の登場だ。

 

「何話してたのよ?」

 

「...にこ、お前にしか出来ないことがある」

 

 両肩ををガッと掴み、真剣味を帯びた声を発する。

 にこは突然のことに身じろぎするが、俺は力を緩めない。

 

「...何よ?」

 

「俺たちの命運がお前にかかってるんだ!!」

 

「本当に何の話よ!?」

 

 おっと、説明が足りなかった。

 めんどくさいので手短に説明を行う。

 

 話を聞き終わったにこの眉間にどんどんしわが集まる。

 おい、一応アイドルなんだから顔には気をつけとけ。

 気持ちは分かるけど。

 

「絵里!何とか出来ないの!?」

 

「私も何とかしたいんだけど......μ’sである以前に私は生徒会長だからそういう不平等は許されないわ」

 

 ...本当廃校がかかってるんだから学校側も少しは融通をきかせて欲しいな......

 思ってても言わないけどさ......無駄だって分かってるからな......

 

「何々?何の話?」

 

 にこに事情を説明しているといつの間にか穂乃果たちが後ろにいた。

 穂乃果は俺の両肩に手を置いて、首だけひょっこりと覗かせている。

 距離は僅か数センチ。首に吐息がかかる。

 

「まず離れてくれ、重い」

 

「酷いよぉ!!」

 

 つい照れ隠しでそんなことを言う。

 そして目線は自然とことりに向かう。

 ちょうど俺の方を見ていたのか、バッチリ目が合ってしまった。

 良く分からない曖昧な笑顔を浮かべることり。

 

 俺は耐えきれなくなって、目を逸らす。

 もう一度見るのが怖い。

 今自分がどういう表情をしているのかが分からない。

 

「...?」

 

 目を逸らした先にはことりと俺を見て、訝し気な顔をしている海未がいた。

 顎に手を当てて何かを考えている。

 

 ことり......まだ海未には話せてないのか?

 表情から察するにあれはそういう解釈で間違っていないはずだ。

 

「...とりあえず、移動しながら話す」

 

 くじ引きのことは部室から出てからだ。

 みんなが部室から出ていく。

 

「あっ、1年に書置きしておかないとな」

 

 遅れる理由と屋上で先に練習しておいてくれ、と書いた紙をテーブルに残して俺はみんなの跡を追った。

 

***

 

「うぁ~疲れたにゃー......」

 

「良く頑張ったな。休憩のあとの1セットで今日はもう終わりだからよく体を休めておけよ」

 

 文化祭ライブ前日。

 今日も今日とて照りつける陽ざしの中、屋上を動き回る10人分の影があった。

 2週間前ぐらいから練習してきたダンスは今までで最高の出来と言っても過言ではない。

 

「...」

 

 みんなの士気が高まる中、ことりは1人でぼうっと立っていた。

 俺は見かねて声をかける。

 

「ことり、もしかしてまだ?」

 

 話しかけるとゆっくりと顔を俺に向けてくる。

 

「...うん、言おう言おうとは思ってるんだけど......海未ちゃん最近家でも忙しくて、学校では弓道部の方にも顔を出さないといけないこと知ってるから......中々タイミングが見つからないの」

 

 それで結局2週間も経ってしまった。

 ことりの性格を知っている俺にはそのことを責められない。

 優しい。気遣いが出来る。

 その性格が今はことりを苦しめている。

 

「...うん、絶対今日中には伝えることにする。もう時間がないから」

 

「っ!」

 

 俺はまだいつ留学するのかさえも聞いていない。

 ...俺もことりと同じじゃないか。

 言いたいことも言えていない。

 

「あのさ......ことり......いつ留「うわぁ~ん!!ゆーサン!!にこちゃんがイジメてくるよぉ~!!」

 

 思い切って聞いてみようとして、口を開いた矢先に凛が俺の背中に飛びかかってきた。

 

「...暑いんだけど?」

 

 とりあえずことりから距離を置き、不機嫌な理由を暑さのせいにして悟られないようにする。

 今も凛は俺の背中にぶら下がったままだ。

 

「凛がいつまでもくじ引きのこと言うからでしょ?」

 

 真姫の声に俺も顔を(しか)める。

 ...あれは嫌な思い出でしたねぇ。

 

「だって凛たち講堂でライブ出来ないんだよ!?そう簡単には割り切れないにゃー!!」

 

 そう。

 くじ引きの結果、俺たち音ノ木坂学院アイドル研究部は講堂を使用出来ないことになってしまった。

 忘れはしない、あの白い玉が零れ落ちていく瞬間を。

 

「もう決まったことは仕方ないでしょ!?」

 

「あー!?開き直ったにゃー!!」

 

「いい加減背中から降りろ。花陽、凛の世話は任せた」

 

 結果として、俺たちはまさにこの場所......屋上にステージを設置し、ライブをすることになった。

 まぁ、凛は素直で物分かりもいいから、にこをからかってるだけなんだろうけどな。

 既にステージは設置済みだ。あとは細かい調整だけ。

 

「よぉ~し!!みんな!!練習始めよう!!」

 

 部室に替えのタオルを取りに行っていた穂乃果と海未が戻ってくる。

 もう休憩終わりか。

 

「今日はこれがラストだから、気を緩めないようにな!」

 

 パンパンと手拍子をして、みんなを集める。

 みんなは何も言わずにそれぞれがステージ上の立ち位置に行き、俺は曲をかける。

 

 俺の手拍子に合わせてみんなが踊る。

 初心者の俺から言えることはほとんどないと思えるような出来だ。

 

「ことり、ちょっとずれたぞ」

 

「...う、うん!」

 

 ...今別のこと考えていたな。無理もないか。このあと海未に打ち明けることになってるんだから。

 でも、本番は明日。

 俺は今出来ることに全力を尽くさないと。

 

「よし!終わり!」

 

 最後の手拍子をパンと鳴らして、曲を止める。

 

「ハラショー、みんないい感じね!」

 

 ダンスの練習には一段と厳しい絵里から称賛の言葉が出るってことは最高の出来ってことだ。

 みんなも満足そうな顔をしている。

 

「じゃあ今日の練習はこれで――」

 

「――待って」

 

 明日に備えて疲れを残さないようにしろ、と言おうとする俺を穂乃果が遮る。

 

「もう一回やろう」

 

「...本番前の無茶な練習は故障の元だ。今日は終わり」

 

「今の、ことりちゃんのタイミングがずれたんでしょ?なら合わせないと!」

 

 穂乃果?

 何か様子がおかしい。

 

「...暑さでぼうっとすることぐらいあるだろ。みんなの体のことを考えて今日はもう終わりだ」

 

「大丈夫だよ!みんな同じ気持ちでやってるんだもん!廃校を阻止して、ラブライブ出場!そうでしょ!?」

 

「...みんなはクールダウンしておいてくれ!」

 

 声が届かない程度まで移動して穂乃果と向き合う。

 

「どうしたの?」

 

「最近メンバー内に何か変わったこととかないか?」

 

 さっきの同じ気持ちでやってるという言葉、あれは少しだけ間違っている。

 

「んー......特にないよ!」

 

「...例えばことりの様子が変だーとかはないのか?」

 

 幼馴染なら少しぐらいはことりの様子がおかしいことに気づいていてもいいはずだ。

 

「いつも通りだと思うよ?練習中ぼうっとするのも暑いから無理ないよね!」

 

 何だと?

 この穂乃果の発言に俺は初めてじゃれあい的な意味を抜いて、本気でイラッとした。

 ぼうっとしていることに気づいているなら何でもっと奥のことに気がついてやれないんだ......

 目前の目標に目が向き過ぎて視野が狭くなってるのか?

 

「とにかく!今日は終わり!オーバーワークは絶対ダメ!」

 

「えぇ~!!!ケチ!!」

 

 背後で文句たらたらの穂乃果を置いてみんなの所へ戻ると、既にクールダウンを終えて部室に戻って行く最中だった。

 俺も階段を下りるためにドアを開ける。

 

「優、少しいいですか?」

 

 すると階段前に海未がいた。

 いつも以上の真剣な眼差しを向けてくる。

 

「...夜、電話してくれ。服着替えないと汗で気持ち悪いだろ?」

 

 本当は帰りながらでもいいんだけど......今の穂乃果を1人にしたら残って練習しかねないからな。

 海未は俺の提案に無言で頷いた。

 

***

 

 海未が家のことを終えて、電話してくるのを待っていると、外からザァーっという音が聞こえてきた。

 雨か、最悪だな......明日のステージ大丈夫なのか?

 ステージが濡れて滑りそうだ......

 

 天気予報確認しておいた方がいいな。

 そう思い、リビングに下りるといつも通り優莉がソファでくつろいでいた。

 

「優莉、ちょっとテレビのリモコン取ってくれ。明日の天気が気になる」

 

「んー、はい」

 

 間の抜けた返事と共にリモコンが手渡される。

 ...どうやら明日も少し降るらしい。

 どしゃ降りにならないといいんだけど......

 

「リモコン返す」

 

「はーい......っとそうだお兄ちゃん」

 

 自室に戻ろうとしてリビングから出ようとすると優莉に呼び止められる。

 

「どうした?」

 

 顔を優莉がいた方向に戻し、ついでに何か食べ物と飲み物でもないかと冷蔵庫に向かう。

 

「穂乃果さん、大丈夫なの?」

 

「は?あいつ何かしたの?」

 

 つい冷蔵庫を開けようとした手を止めてしまう。

 

「んー......別に何かしたってわけじゃないけどさ」

 

「...何だよ?」

 

 何もしてないならいいだろ。

 

「さっき雪穂と話してたんだけど、この雨の中走りに行っちゃったんだって」

 

「何だと!?」

 

 あのバカ!!オーバーワークはダメだって言ったばかりなのに!!

 いくらフードなんか被ろうが、走っていれば顔も髪も濡れるし体だって冷える!

 風邪でもひいたらどうするつもりだ!!

 

「どこに行ったとか聞いてないか!?」

 

「ごめん、そこまでは......でもきっと行ったことのない場所には行ってないはずだよ」

 

「ちょっと出てくる!」

 

 いってらっしゃい、という優莉の言葉を背に俺は2階へと駆け戻る。

 そして電話を引っ掴み、海未に電話をかける。

 

『もしもし、優ですか?ちょうどこちらからかけようとしていたところです』

 

『海未!悪い!今急いでるんだ!今から言うことに簡潔に答えてくれ!そのあとかけ直すから!』

 

『...どうしたのですか?』

 

 切羽詰まった状況に海未の落ち着いた性格は助かる!

 

『穂乃果がこの雨の中、走りに行ったらしい!あいつならどこに行くと思う!?』

 

『はぁ、本当に穂乃果はもう......優、それなら恐らく神田明神ではないですか?』

 

 海未のため息混じりの声を聞きつつ、神田明神への最速ルートを頭の中で照らし合わせる。

 

『分かった!サンキュ!』

 

『...戻ってきたらことりのことでお話がありますので、忘れずにかけ直してきて下さいね?』

 

 分かったと言いながら電話を切って、合羽を着込んで傘を掴む。

 そして全力で雨の中を走り出す。

 

 

 

 

 

「はぁっ......はぁっ!」

 

 自分の息が荒くなっていくのが聞こえる。

 そのまましばらく走っていると、神田明神の階段を上り下りしている影を見つけた。

 穂乃果だ。

 

「はぁっ......はぁっ......穂乃果!!」

 

 呼吸もままならない状態で叫ぶ。

 心臓がずっとバクバク言っている。

 膝に手をついて少しでも多く酸素を吸う。

 

「あれ?ゆう君?どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃねえ!!何やってんだ!!本番前日に!!風邪でもひいたらどうするつもりだ!!」

 

 俺の怒声が空気を裂く。

 しかし、すぐに雨に掻き消されて響くことはない。

 まるで今の穂乃果の心境を表しているみたいに。

 

「大丈夫だよ!!穂乃果風邪なんてひいたことないから!!!」

 

 そう言って、くるりと階段の方へ向いた穂乃果の手を掴む。

 まだ走るつもりだ。

 

「帰るぞ」

 

「やだ」

 

「本番前日にやったって逆効果だ、1日でどうにかなる問題じゃない。こんなことしても意味がない」

 

「意味がないって何!?ゆう君には関係ないでしょ!?穂乃果たちの気持ちなんて何一つ分からない癖に!!!」

 

 穂乃果が俺の手をバッと振り払う。

 

「穂乃果......?」

 

 ガツンと、頭を何かで殴られたみたいな衝撃が走る。

 関係ない。気持ちが分かっていない。

 その2つの言葉が頭の中をぐるぐると反芻する。

 

「表舞台に立って必死にやってきた穂乃果たちの気持ちはゆう君には絶対に分からないよ!!!練習に参加していても、実際に本番があるのは穂乃果たちだけだもん!!ゆう君は失敗出来るかも知れないけど......穂乃果たちには2度目なんてないんだよ!?絶対失敗出来ないんだよ!?」

 

 そこまで一息に言い終わり、穂乃果はハッとする。

 

「あ、ご、ごめん......」

 

 分かってるさ。

 ちょっとイライラして言いすぎることなんて誰でもあることだ。

 俺も言い過ぎた、意味のないことなんてないよな?

 そう言いたいのに、頭がそれを拒否する。

 心が穂乃果の言ったことを飲み込んでしまう。

 

 みんなのことなんて......俺は分かっていなかったんだな。

 理解出来たつもりになっていただけ。

 今まで一緒にやってきて、自分も何かをした気分になってしまっていただけ。

 みんなは俺にたくさんのことをしてくれた。

 

 ――じゃあ俺は?みんなに何か1つでも与えられたのか?

 分からない!分からない!!分からない!!!

 

 ...もういいじゃんか。

 だって、関係ないって言われただろ?

 

「...ゆう君」

 

 穂乃果が手を伸ばしてくる。

 あぁ、そうか。

 関係無くなるのは本当だしな。

 

 今度は俺が穂乃果の手を軽く払いのける。

 

「...俺帰るよ。邪魔して悪かった」

 

 本当、同じ気持ちでやっていたつもりになっていたのは俺だけだった。

 勝手に理解したつもりになって、1人ではしゃいで......バカみたいだな、俺。

 

 雨音が遠ざかる。

 自分が吐いている息の音すら、どこか遠くに聞こえる。

 気がつけば、俺は自分の家の前に立っていた。

 

***

 

『...悪い、遅くなった』

 

『いえ、それはいいのですが......穂乃果は連れ戻せましたか?』

 

『...ごめん、見つからなかったんだ』

 

 俺は嘘を吐いた。

 言える訳ないだろ、ケンカして止められなかった。なんて......

 もう穂乃果は家に帰っただろうか?

 というかそうじゃないと困る。

 だって、風邪なんてひかれたらステージが台無しになるからな。

 今俺が心配しているの穂乃果の体調?それともμ’sのことか?

 分からない。

 心の中はぐちゃぐちゃだ。

 

『そうですか......優、大丈夫ですか?声に覇気がありませんけど......』

 

『あぁ、ごめん。ことりのことだよな?』

 

 海未に心配をかけるわけにはいかない。

 これは俺の問題だ。関係ない。

 そう思うと、胸の辺りがズキッと痛む。

 

『はい......留学、するのですね。先ほどことりから連絡がありました。文化祭のライブが終わった1週間後には日本を発つそうです』

 

 あと1週間弱しか......みんなといられないんだな......

 

『穂乃果にも伝えないとな、ちゃんと、ことりから』

 

『はい、私もそうするべきだと思います』

 

『海未は......止めたいと思わないのか?』

 

 純粋な疑問。

 

『正直、止めたくない。と言ったら嘘になります。でも......幼馴染の背中を押せないのも嫌なんです』

 

『複雑な心境だな......』

 

『...(止められるとしたら、それは穂乃果か)......』

 

『ん?どうした?』

 

 海未が小声で何か言っている。

 

『いえ、何でもありません』

 

『そうか?』

 

 沈黙。

 

『...ことり()いなくなっちゃうんだな』

 

 いつもなら絶対に口を滑らせないようなことが気づけば漏れていた。

 

『も?他にも誰かいるんですか!?』

 

 もういい機会だし、海未には話しておくか。

 慌てている海未と反対に俺はかなり落ち着いている。

 いや、もうどうでもいいと思っているのかも知れない。

 

『...海未、試運転ってことは期間があるよな?』

 

『はい、そうですね......え?』

 

 いつか言わないといけなかったからな。

 俺と理事長、ひばりさんしか知らないあのことを。

 

 海未は今のやり取りで勘付いたらしい。

 本当物事が進めやすいなぁ......

 

『音ノ木坂学院共学化、試運転生徒の八坂優』

 

『...その試運転の期間というのは?』

 

『3年生が卒業すると同時に俺もこの学校からいなくなる予定だった』

 

『だった?ということは無くなったのですか?』

 

 海未の声が少し嬉しそうに聞こえる。

 そうだったら良かったんだけどな......

 

『...廃校が阻止出来れば、俺はここにいる意味が無くなるんだ......つまり、文化祭のライブのあと......入学希望者が増えれば、俺は転校する』

 

『そんな......』

 

 途中で投げ出すことになって悪いな。

 でも、俺がいなくてもみんな上手くやっていけるさ。

 いなくなる人間のことなんか忘れてくれ。

 

 あっ、でもことりのことは忘れるんじゃないぞ?

 

『...だからって明日のステージを失敗するなよ?』

 

『成功させますよ、必ず』

 

『なら良し。明日頑張ろうな』

 

 俺が何を頑張るっていうんだろうな?

 

『はい!......おやすみなさい』

 

『あぁ、おやすみ』

 

 携帯を机に置く。

 ベッドに仰向けに寝転がる。

 

 あぁ、風呂に入らないとな......さっき帰ってきて、タオルで髪を拭いたけど......体は冷えたままだ。

 緩慢な動作でベッドから立ち上がると、手元に一滴、雫が落ちる。

 

「まだ、髪が濡れてたんだな......」

 

 この流れ落ちる雫の正体が髪についた水滴ではないということは気づいていたはずなのに、俺は何度も何度も髪を拭い続けた。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストは引き続き八坂優くんです!」

優「二連続で呼び出されるとか......さてはネタ切れだろ」

作「今までは均等になるように呼んでいたんですが、今回は色々とありまして」

優「そこで暇そうな俺を呼びだしたと?」

作「大体その通りです」

優「...帰る」

作「...前回の投稿日が実は花陽ちゃんのお誕生日だったんですよね」

優「話を聞こう」

作「それを知ったのは投稿したすぐ後だったんです......私はなんてことを......」

優「...なるほど、さすがに女性陣にボコボコにされたくはないというわけだな?」

作「正解です......」

優「...今回の話は、穂乃果ファンの人は不快に感じるかも知れないよな」

作「穂乃果ちゃんを悪役にしたいわけじゃないんです!ただ、話を書いていたらこうなっていたんです!責めるなら私を責めて下さい!」

優「この駄作者!」

作「本当にすいません!!」

優「ったく......次回もよろしくお願いします!」
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