ラブライブ!~未来へ響く多重奏~   作:朝灯

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やっと勉強の嵐が終わりました!
しばらくは解放されます!
学校のテスト勉強と同時進行で仮免の試験も勉強するのは本当に疲れました......




雨のち嵐

「...朝か」

 

 文化祭当日。

 外を見てみると僅かながら雨が降っている。

 

 ......学校行きたくないなぁ。

 

 昨日の今日でどんな顔をしたらいいのだろうか?

 穂乃果とケンカをしてしまった。

 結果は俺がボコボコにされてKO負け。

 

「休むわけにはいかないよな......今日は大事な日だし」

 

 恐らく、廃校か否かが決まり、ラブライブ出場の為の最終段階。

 これを休んでしまえばきっとみんなに恨まれてしまう。

 鉛のように重い足をベッドから引き離し、ドアへと向かう。

 

「お兄ちゃんおは......何か目赤くない?どうかしたの?」

 

 リビングに入ると、いつものように優莉が朝食を摂りながら挨拶ではないが声をかけてきた。

 多分昨日そのまま眠りについたからその跡が残ってるんだ。

 

「あぁ、ちょっと考え事があって睡眠時間が少なかったんだ」

 

 しかし、余計なことを言うと心配をかけてしまうので、嘘を吐いて誤魔化す。

 優莉は怪訝そうな表情をしたけれど、それ以上は何も聞いてこなかった。

 

「今日の文化祭、雪穂や亜里沙と一緒に行くよ!頑張ってねお兄ちゃん!」

 

「...任せろ!」

 

 虚勢を張ったのはいいものの......みんながステージに立っている間に......俺は何を頑張ればいいんだろうな......

 昨夜も何度も考えたけど、結局答えは出なかった。

 それどころかどんどんドス黒い何かが心の奥底に湧いてきて、そのまま張り付いているような気がしてならない。

 

「じゃあ、俺は先に出るから......気をつけて来いよ?」

 

「はーい、また後でね~」

 

 外に出ると雨は降っていなかったが、空は今にも振り出しそうな嫌な色をしていた。

 晴れ間が覗くことのない一面の曇天模様。

 心の中が酷い状態だからせめて空だけは晴天を見たかったのに......

 そんな空の下、俺は逃げるように走り出した。

 

***

 

「ゆーサンおはよー!!」

 

 部室に入るなり、凛が開口一番挨拶してくる。

 何となく元気がもらえる爽やかさに内心拝みつつ、軽く手を上げる。

 

「おはよう。凛は今日も元気だな」

 

「当然にゃ!今日は特に気合入ってるもんね!」

 

 両手を大きく上に広げ、やる気は十分だとアピールしてくる凛を横目に、俺は荷物を置きに奥の部屋に入る。

 

「優さんおはようございます!」

 

 部屋に入ってきた俺に気がついた花陽が真っ先に挨拶してきくれる。

 そして部屋の中にいたみんながこっちを向く。

 

「優くんおはよう、生憎の天気だけど張り切っていきましょ!」

 

「優くんおはようやん!」

 

「「遅いわよ......って真似(するんじゃないわよ)(しないでよ)!!」」

 

「清々しいぐらいいつも通りだな......みんなおはよう!」

 

 普通に挨拶してくる絵里と希、思いっきりセリフが被ってお互いにツッコミを入れ合うにこと真姫。

 μ’sは今日も平常運転だ。

 

 まぁ、それは今から話しかける人物を除いてだけどな.......

「海未もことりもおはよう」

 

「は、はい......おはようございます」

 

「うん......おはよう」

 

 3人の間に微妙な空気が流れる。

 これは一度ちゃんと話し合った方がいいかも知れないな。

 

「...ちょっとトイレに行ってくる......(海未、ことり、階段の辺りに)

 

 俺はそれだけ言って部室を抜け出し、トイレには行かずに指定した場所へ移動する。

 数分程待っていると、海未とことりが衣装に着替えた状態でやって来た。

 

「...改めて言っておく。俺は多分文化祭後に転校することになる。μ’sの人気が上がり続けている今、廃校はきっと阻止出来る......はずだ」

 

 ことりが目を見開く。

 海未......ことりに言ってなかったのか.......

 

「...でもこの空気をライブまで引きずるのはまずい。難しいとは思うけど......いつも通りを装ってみんなに気づかれないようにしよう」

 

 2人が黙って頷く。

 

「...俺はこのことをライブが終わったあとに打ち明けるつもりだ」

 

「...うん、私もライブが終わったら言うよ......穂乃果ちゃんにもみんなにも......」

 

 沈黙が場を支配する。 

 息苦しい、今すぐここから逃げ出したい。

 逃げ出そうとしている自分の足に力を入れ、俺たちはいつも通りの会話を演じ始める。

 

「そう言えば......穂乃果はまた遅刻か?」

 

 階段から部室に戻る途中に話し続ける。

 白々しいが、息苦しい沈黙よりはましだろう。

 

「はぁ......全く穂乃果は......こんな日ぐらいは早く来てもらいたいものです」

 

「あはは......穂乃果ちゃんらしいね」

 

 なんて自然に不自然な会話をしているんだろう。

 いつも通りなら、こんな感じはしない。

 会話ってこんなに難しかったっけ?

 

 何とか場を持たせながら部室に戻ると、ちょうど穂乃果も部室のドアの前にいた。

 

「穂乃果、おはよう」

 

 気まずさを覚えながらぼうっとしている穂乃果の肩を軽く叩く。

 ...あれ?こいつの体温こんなに高かったっけ?

 

「...あ、ゆう君......おはよう......」

 

 心なしか顔も赤く、視点も定まっていない。

 声も枯れている。

 

「ほら!早く着替えて!」

 

 絵里が着替えを促す。

 穂乃果はゆっくりと歩き出すが、ふらついてことりに寄りかかる。

 

「あはは、ごめんことりちゃん......緊張しちゃって......」

 

「う、うん......」

 

 そしてそのまま奥の部屋へと消えていった。

 ...まさか......あいつ......

 

 頭をよぎる最悪の可能性。

 俺はそっとことりに近づいて、確信を持って聞く。

 

「...なぁ、ことり。穂乃果......熱があるだろ」

 

「...うん。微熱だと思うけど......熱かった。間違いないよ」

 

 俺が......ちゃんと連れ戻していたら......

 今から言って止めることは......出来ないだろうな......

 昨日の穂乃果の調子からして、俺の言うことなんて聞かないだろう。

 自分の体調をみんなに隠してステージに立つだろう。

 

「...無駄だとは思うけど、一応俺から言っておく」

 

「...うん、お願い」

 

 みんなは先に屋上へと向かって行った。

 部室には俺と穂乃果が2人きりになる。

 しばらくすると着替え終えた穂乃果が出てきた。

 

「...あっ、ゆう君......」

 

「穂乃果、お前熱あるだろ」

 

 視線を床に落とす穂乃果。

 そして静かに口を開く。

 

「...止めても出るよ......」

 

「...だろうな。だから俺が無理だって判断したら......その時は素直に言うことを聞いてくれ」

 

 本当は腕を掴んででも無理はさせるべきじゃない。

 でも、俺だって大事な場面ならみんなには絶対言わない。

 少なくとも俺なら絶対そうする。

 

「...うん」

 

「ほら、のど飴。舐めとけ」

 

 μ’sに入ってから、ボイストレーニングをするみんなの為に俺は鞄の中に常にのど飴を入れている。

 こんな形で役に立ってくれるなんてな......

 

「あ、ありがと......ゆう君......」

 

「ほら、早くみんなの所に行こうぜ」

 

 穂乃果が何かを言おうとしているみたいだったけど、ただでさえでも体調が優れていない今、少しでも早く終わらせるべきだ。

 俺は多少なりとも体力の温存させようと、穂乃果に肩を貸して歩く。

 でも屋上を手前に穂乃果を離す。

 

「...行ってこい」

 

「...うん!」

 

 穂乃果はステージの裏へと走っていく。

 かなり雨が降っているが、観客の人たちは傘を持って今か今かと瞳を輝かせてステージを見つめている。

 そんな群衆の中に見知った顔を見つけた。

 

「優莉」

 

 傘を差して立っている妹の元へと小走りで向かう。

 

「あっ、お兄ちゃん......傘は?」

 

「持ってない」

 

 傘を持ってくる辺りまで気が回らなかった。

 優莉はそのまま傘を差しだしてくる。

 

「...お前が濡れるぞ?」

 

「いいよ、私は雪穂か亜里沙に入れてもらうから」

 

 それならば、と傘を受け取って傍にいる雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんに声をかける。

 

「うちの妹と仲良くしてくれてありがとな」

 

「優莉って八坂さんのご兄妹だったんですね!お姉ちゃんから聞いて驚きました!」

 

「って亜里沙気づいてなかったの!?」

 

 亜里沙ちゃんは天真爛漫という表現が似合うぐらいに笑い、雪穂ちゃんはそんなマイペース気味な亜里沙ちゃんにツッコミ、というかリアクションを行う。

 

「まぁ、あまり似てないからな。無理もないよ」

 

「...いえ、八坂先輩は中性的な顔立ちなので女装すれば似てると思いますよ?」

 

「女装の話は止めてくれ、心が痛い」

 

 もはや黒歴史確定の記憶を思い出し、苦笑いする。

 

「それと、優でいいよ」

 

「...分かりました、優先輩」

 

 雪穂ちゃんは少々くすぐったそうにしながら呼び方を改める。

 

「は~いっ!ゆうセンパイっ!」

 

 亜里沙ちゃんは純粋無垢な笑顔を浮かべる。

 

 辺りから歓声が上がり始めた為、俺はステージに視線を注ぐ。

 そこには衣装に身を包んだ9人の姿があって、スタンバイ状態だった。

 アップテンポな曲が流れ始める。

 

 今日の為にみんなで作った曲。

 

 《No brand girls》だ。

 

 それに加えてみんなのダンスが始まり、会場のボルテージは最初からマックス状態になる。

 雨をもろともしない、弾けるようなみんなの笑顔。

 練習時よりも最高のキレ。

 

 そうして、1曲目は最高の形で終わる。

 2曲目への期待が高まる、そんな中――

 

 

 ――穂乃果の体がゆっくりと崩れ落ちた。

 ばしゃりという水溜りの音。

 

 俺は一目散に駆けだした。

 

「穂乃果っ!!!!!」

 

 何が起きたのか分からないという風にざわめく観客に向かって声を張り上げる。

 

「すいません!!メンバーにアクシデントがありました!!少々お待ち下さい!!!」

 

「すごい熱!!早く屋内へ!!」

 

「俺が行く!!」

 

 穂乃果の体を担ぎ上げると、体はライブが始まる前より数段熱かった。

 

「まだやれるわよね!?」

 

 そして背後から聞こえるにこの悲痛な叫び。

 俺は耳を塞ぎたくなる気持ちをこらえて、穂乃果を部室へと運ぶ。

 結局全メンバーが部室に戻ってくる。

 穂乃果は秋穂さんが迎えに来てくれることになった。

 

「...優くん、知ってたんでしょ?穂乃果の体調のこと」

 

 絵里が咎めるような視線を飛ばしてくる。

 俺はそんな視線を真正面から受け止めて、声を出す。

 

「あぁ。実は穂乃果は昨日雨の中走りに行っていたんだ......俺はそれを連れ戻せなかった」

 

 拳を強く握る。

 しかし、決して昨日のケンカの事は明らかにしない。

 そんな告げ口みたいな真似はしたくない。

 

「そして今もまた止めることが出来なかった。それほどまでに穂乃果の意思は固かったんだ......」

 

 絵里はフッと笑い、俺の肩に手を置く。

 

「...きっとここにいるみんな、自分の体調が悪くても隠していたと思うわ......ごめんなさい、責めるような真似をしてしまって......」

 

 絵里の優しい言葉が胸を締め付ける。

 罪悪感でいっぱいになる。

 

 ...違うんだ、責められて当然なんだ......

 指示を出したのは俺で、止められなかったのも俺で......全部俺が悪いんだ......

 

 そんな思いを吐き出すことが出来ずに、俺は下を向いて立ち尽くす。

 結局、秋穂さんが迎えに来るまで俺はみんなの顔を見ることが出来なかった。

 

***

 

 数日後、熱が下がらずにずっと学校を休んでいた穂乃果の家に全員でお見舞いに行くことになった。

 本当はすぐにでも行くべきだったはずだけど、体調が下がるまで待った方がいいという意見で収まったのだが穂乃果が2日と学校に来ない日が続いたため、これは行った方がいいということになり、俺たちは穂むらへと訪れていた。

 

「秋穂さん、穂乃果の様子は?」

 

「もう全然大丈夫よ!ごめんなさいね......どうせあの子が無理言って押し通したんでしょ?」

 

 高坂家の遺伝なのか、穂乃果にそっくりな明るい笑みを浮かべ全部分かってるわよ、と付け加える。

 

「いえ!謝らなきゃいけないのは俺の方です!ごめんなさい!娘さんをこんな目に合わせてしまって!!」

 

 腰を90度に折って、土下座もいとわない覚悟で謝罪する。

 今回のことは全面的に俺が悪い。

 

「全然いいわよ!あの子も偶には痛い目みないと分からなかっただろうしね......無理は禁物だってこと!」

 

 朗らかに笑う秋穂さんに余計申し訳なさを感じる。

 本当、痛い目みないと理解が出来ないみたいだ。

 

「そんなことより、上がっていって!あの子も退屈しているみたいだし!」

 

「...みんな、悪い......ここは俺に任せてくれないか?言わなきゃいけないこともたくさんあるし......」

 

 本当に、色々と言わないといけない。 

 ...いつまでもこんな重いものを引きずって歩くのはごめんだ。

 

「...分かったわ、みんなと外で待ってるわね」

 

 絵里が店の外に出るのを見送り、俺は2階へと足を運ぶ。

 そして穂乃果の部屋の扉を軽くノックする。

 

「穂乃果......入っていいか?」

 

「...は~い、どうぞ」

 

 控えめな返事をもらい、俺は静かに扉を開く。

 中にはマスクと熱を冷ます冷却シートを額につけてプリンを片手に持った穂乃果がベッドに座っていた。

 

「...体調はどうだ?」

 

「うん、もう大丈夫。お母さんが今日はプリン3個食べていいって言ってくれたし」

 

 既に2つ目に手をかけている穂乃果を見て、俺は軽く笑う。

 

「...太るぞ?」

 

「こんな時ぐらい大目に見てよ......」

 

 そして、お互いに相好を崩す。

 

「...ゆう君、本当にごめんなさい!あんな酷いことを言っちゃって!!それに私っ!!」

 

「...気にしてない、とは言わないけど......俺も言い過ぎたしお互いさまってことにしてほむまん1個で手を打とう」

 

 ちゃっかりと自分の要望を伝えて、再び頬をほころばせる。 

 ようやく胸の中のもやもやが1つ消えてくれた。

 

「ライブのことは誰が悪いとか言っても仕方ない。無理したお前も悪いし、止めなかった俺も悪い......そういう話はみんなとしたからな」

 

「...私考えたんだ!もう1度......小さいものでいいからライブが出来ないかなって!!」

 

 そうして意気込んで見せる穂乃果。

 

「...穂乃果、聞いてくれ。......俺たちはラブライブ出場を......辞退した」

 

「...え?」

 

 まるで聞き逃したかのような反応をする穂乃果に俺は目を伏せることなくもう1度告げる。

 こんな残酷なことを2度も言いたくはないと訴えてくる心を無視して、口を動かす。

 

「ラブライブ出場は辞退した。......もう、μ’sの名前はランキングには乗ってないんだ......」

 

「そんな......どうして......」

 

 これは絵里が理事長から言われたことらしい。

 

「...『無理し過ぎたんじゃないかって、こういう結果を招く為にアイドル活動をしていたのか』って理事長が言っていたらしい」

 

 穂乃果はジッと俺の声に耳を傾け続ける。

 

「だから、俺たちは辞退しようってみんなで話して決めたんだ」

 

「...うん、そっか!仕方がないよね!」

 

 あからさまな作り笑顔。

 見ているこっちが痛々しいほどの綺麗な空元気。

 

「...俺はもう帰るから、早く学校来いよ!」

 

 それだけ言って俺は背を向けて部屋を後にする。

 そして、扉を閉めて立ち止まると、中からすすり泣くような声が俺の耳に届き始める。

 唇をグッと噛みしめ、叫びだしそうな自分を押し殺して、俺は穂むらを出た。

 

 みんなと合流するころには唇は少し裂け、口の中は少しだけ血の味がし始めていた。

 

***

 

「みんなおはよう!」

 

 次の日、やっと登校出来そうだとメールが届いたため、俺たちは久しぶりに待ち合わせて4人で学校に行くことになった。

 

「本当にもう大丈夫そうですね」

 

「その節は、大変ご迷惑を......」

 

「何でそんな仰々しいんだよ」

 

 俺と穂乃果を取り巻いていた気まずさはすっかりとなりを潜め、軽口を叩き合える仲に戻っていた。

 

「ってあれ?ことりちゃんは?」

 

 今日は珍しくことりが1番最後となった。

 事情を知っている俺と海未は不自然に目を逸らす。

 

「...偶にはことりだって寝坊するだろ」

 

「そっか~......今日は雨が降るかもね!」

 

「それは穂乃果が早く来たからではないですか?」

 

「全くだ」

 

「2人とも酷いよぉ!!」

 

 変な空気になったことを悟られないように、海未と2人で誤魔化してみる。

 

「ごめんなさい!遅れちゃった!」

 

 そこに息を切らしながらことりが現れる。

 

「まだ全然間に合う時間だから、ゆっくり行ける。大丈夫だ」

 

 そうして通学路を歩き始める。

 まだ少し暑さの残る、いい天気の日だ。

 

「あっ......」

 

 穂乃果が呟きと共に足を止める。

 視線の先にあるのはA-RISEのポスター。

 

 ...まぁ、すぐに割り切れって言う方が無理か......

 仕方ない学校に着くまで内緒にしておこうって話だったんだけどな......

 

「そんな落ち込んでいる穂乃果に朗報だ!」

 

「ふぇ?」

 

 期待度を高めるように間を取ってゆっくりと口を開ける。

 

「な、ん、と......ほい、詳しくはこのプリント!」

 

 先日コピーを取っていたものだ。

 内容は次のようになっている。

 

「...来年度入学者受付のお知らせ......これって!?」

 

「中学生の入学希望者のアンケートの結果が出て......学校の存続が決まりました!」

 

 そう、去年を上回る希望者の数により、音ノ木坂学院の存続が決まった。

 ラブライブ出場は果たせなかったものの、俺たちの悲願でもあった廃校の阻止は見事に成し遂げることが出来た。

 

「や......や......やったぁ!!!!!!!」

 

 穂乃果は叫んでバンザイする。

 落ち込むことなんて一切介入を許さないそんな満点の笑顔。

 

 あぁ、良かった......これで思い残すことは何もない。

 俺は役目を終えたんだ。

 これで......音ノ木坂とはお別れだ......

 

「みんなにも知らせないと!!」

 

「落ち着け!お前以外はみんな知ってるよ!」

 

 今にも走り出しそうな穂乃果を止めつつ、俺は海未へと視線を移す。

 喜んではいるが、同時に惜しむような顔をしている。

 ことりも同様だ。

 

「今日はそのお祝いらしいぞ!放課後は部室でパーティだ!!」

 

「ぃやった!!!!!夢じゃないよね!?」

 

「はい、夢ではありませんよ!」

 

「早く学校へ行こう!!」

 

 穂乃果が先陣を切り、走りだす。

 俺は複雑な心境になりながら、その後ろ姿を目を細めて見つめる。

 

「...優、そろそろ......」

 

「あぁ、分かってる。俺のこともことりのこともいい加減に伝えないといけない」

 

 俺は......

 

「みんな~!!早く早く!!」

 

 穂乃果の声が聞こえる。

 弱音を吐いてしまいそうな自分の頬をパンっと両手で叩く。

 

「あぁ!今行く!!」

 

 これから言わないといけないと思うと、手に持っている鞄すらとても重たく感じてしまった。

 

***

 

「乾杯!!」

 

 そのにこの一言で、俺の意識は戻ってきた。

 どうやらぼうっとしていたらしい。

 みんなはお菓子を摘み、廃校が無くなった喜びに浸っているが......その一方で俺とことりはいつ言えばいいのかとタイミングを計っていた。

 

「...少々、よろしいでしょうか」

 

 海未の声。

 決して大きくは無かったはずのその声は響き、みんなが俺たちに注目する。

 

「...まずは俺から報告がある」

 

 辺りがシンとする。

 こういう空気って無駄に言い出し辛いよな......

 

「...俺は......転校、することになったんだ......まだ日にちは決まっていないけど、俺はこの学校にはいられない」

 

「...え?」

 

 誰の呟きだったのだろうか?

 その呟きを合図に止まっていた時間が動き出す。

 

 そして、ことりが一歩前に出る。

 

「...私は海外で服飾の勉強をする為に、留学することになりました......4日後、日本を発ちます」

 

 ガタンっと音を鳴らして穂乃果がゆらりと立ち上がる。

 そうして、俺たちへとゆっくり近づいてくる。

 

「どうして......どうして言ってくれなかったの!?」

 

 怒り、悲しみ、様々な感情が乗った叫びは......俺たちを俯かせるのには十分な威力を秘めていた。

 

「...海未ちゃんは知ってたんでしょ!?」

 

「...はい」

 

 穂乃果が俺の肩を揺さぶる。

 

「...言おうと思ったよ?何度も......何度も!!」

 

 遂にことりの感情が爆発し、穂乃果は目を見開き、動きが止まる。

 

「でも穂乃果ちゃんはライブに......ラブライブに夢中で......言い出せなかった!!本当は誰よりも早く相談したかったよ!?そんなの当たり前でしょ!?初めて出来たお友達なんだから!!!!」

 

 ことりはそのまま部室のドアから走り去ってしまう。

 俺が追わないと......しかし、海未が俺の体を制す。

 

「ここは私が行きますから......後はお願いします」

 

 海未はことりを追っていってしまった。

 

「...俺の転校は最初から決まってたんだよ。この共学化の試運転には元々今の3年生が卒業するまでって期限があったんだ。廃校が無くなって......それが早くなっただけ」

 

「...ゆう君もことりちゃんと......同じなの?私がもっと視野が広ければ......相談出来てたの?」

 

 弱弱しい穂乃果の声。

 でも、それは勘違いだ。

 

「...俺の場合は相談しても仕方ないことだろ?ここは女子高で俺は男、それだけのことじゃないか」

 

 元々、俺はこの学校に立ち入ることすら許されていない人間だ。

 学校が違う以前に性別が違う。

 ここにいられることが奇跡なんだよ。

 

 パーティは後味の悪いまま、お開きとなった。

 

***

 

 そして、次の日の放課後......俺は理事長室を訪れていた。

 ことりが日本を発つまで残り3日。

 

「では、前の学校には戻らずにこの辺りの学校に通うということでいいのね?」

 

「はい、あの学校には少々複雑な思いがあるので......」

 

 転校の手続きをしながら、俺はひばりさんと話を続ける。

 

「...本当にいいの?」

 

「...いいも何も......俺がこのままここにいることなんて許されませんよ......それに我が儘なんて言えません。この音ノ木坂の廃校を食い止められたんです。それだけで十分なんですよ」

 

 俺の奥深くまで見透かそうとする瞳から目を逸らし、それっぽいことを言って誤魔化す。

 

「...ことりはどうしてますか?」

 

「今は家で引っ越しの準備をしているわ」

 

 おしゃれ好きなことりのことだ、きっと1番整理するのに苦労しているのは衣服類なんだろうな。

 

「...そうですか。じゃあ俺も練習があるので、これで失礼します」

 

 これ以上ここにいると余計なことまで口走ってしまいそうだったので、早々に退出させてもらおう。

 背中を向けて廊下に出る。

 

(全く......みんな意地っ張りなんだから)......」

 

 そんなひばりさんの呟きが聞こえたような気がしたが、気のせいだろうか?

 俺は部室で練習用の服に着替えて、屋上へ続く階段を上っていく。

 

 そうして扉の前へ辿り着いた。

 さて......どんな顔をしたらいいだろうか?

 考えていると、屋上からパンっという乾いた音が聞こえてきた。

 

「あなたは最低ですっ!!!!!!」

 

 次いで海未の声、そして扉が力なく開き......左の頬を赤くした穂乃果がふらふらと歩いて階段を下りて行った。

 

「...何があったんだ?」

 

 理解出来ない......状況から見て、海未が穂乃果に平手打ちをしたみたいだけど......どうしてそんなことに?

 俺の質問には絵里は沈痛な面持ちで口を開く。

 

「...穂乃果が......μ’sを......スクールアイドルを辞めるって......」

 

「.......え?」

 

 長い長い沈黙のあと、俺は頭の中が真っ白になった。

 

―To be continued―

 




今回は雑談のコーナーはお休みです。
ネタ切れというのもありますが、ゲストのローテーションの調節と考えてもらえれば......です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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