ラブライブ!~未来へ響く多重奏~   作:朝灯

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お久しぶりです。
仕事を辞めて、実家に帰ってきて新たな職場で再スタートを切ることが出来ました。



王者の風格

 穂乃果の鼓膜ブレイク事件から、数時間が経ち、現在は放課後。

 俺たちは屋上に立っていた。

 

「とりあえず、どうする? 結局のところ・・・・・・放送室に行くだけ行って穂乃果の発声練習して終わったって感じだし、流石に今日中にライブの場所決めないとヤバくないか?」

 

「あはは・・・・・・ごめんね・・・・・・うん! もう無闇に大声は出さないよ!」

 

「既に大声」

 

「一応、緊張しない為の練習にはなったと思いますが・・・・・・どうしましょうか?」

 

 俺と穂乃果の掛け合いをスルーした海未は、軽く息を吐いて、整った眉根を八の字に歪ませ、困り顔をしている。

 

 すると、連鎖をするようにそれぞれが海未と同じように困り顔をするか、考え込むように腕を組んだりして、俯きがちになった。

 

「カメラで中継出来る所であれば、場所は自由なんだけど・・・・・・」

 

「じゃあ、やっぱり屋上とか?」

 

 花陽の呟きにいち早く凛が反応する。

 

 まぁ、ここが一番お世話になってる場所だから、慣れてる場所でライブをすれば緊張はしないかもしれないけど、それだとやっぱり目新しさには欠けるんだよな・・・・・・。

 最も、インパクトや目新しさにばかりこだわって、ライブの場所を決められないのが一番やってはいけないことだ。

 

 ・・・・・・と考えると、屋上っていうアイデアは消去せずに最終手段としてのキープっていうのがベスト、かもな。

 

「ひとまず、校内を見て回って使えそうな場所がないか探してみるっていうのはどうかな?」

 

「ん~、うちはことりちゃんの意見に賛成、かな? えりちはどう思う?」

 

「そうね、ここで意見を出し合うよりは実際に見て回った方が、何か違った見え方も出てくるかもしれないし、みんなもそれでいい?」

 

 絵里が全員の顔を確かめるように視線を巡らせ、みんなが同意見なことを確認すると、先導するように校内へ続く階段へと歩いていく。

 

「それで? 最初はどこに行く気? 当てはあるの?」

 

 にこが絵里の背中に問いかけているけど、とりあえず校内を見て回るってなっただけだし、そんな当ては無いだろうな。

 現に絵里は、右手の人差し指を顎に当てて、何かを考えているように見えるし。

 

「うーん・・・・・・こういう時はいんふぉめーしょんだよ!! 真姫ちゃんもそう思うでしょ!?」

 

「・・・・・・もしかして、インスピレーションのことを言ってるの?」

 

「そう、いんすぴれーしょんにゃ!!」

 

 凛の残念な英語知識は置いておいて、インスピレーションというのはまぁ、悪くない発想なんじゃないか? 直感で選ぶことが大事な時だってあると思うし。

 

「インスピレーションと言えば・・・・・・希、何か適当な場所を言ってみてくれないか?」

 

 こういう時に頼りになりそうなのが、スピリチュアルが信条のような希だよな。

 

「う~ん、優くんの家・・・・・・とか?」

 

「本気で言ってるなら俺ちょっと希との関係性を見直さないといけなくなるな、今までありがとう」

 

 というか俺の新しい部屋に来たいだけ説ある。

 

「あはは、冗談よ。そうやね~・・・・・・講堂なんてどうやろうか、ライブをするには最適だと思うし」

 

 なるほど・・・・・・講堂か。良し悪しはひとまず置いとくとして、行き先としては悪くない案だと思う。

 というかそれを聞いた穂乃果がよ~し! 講堂だぁ!! と言って既にスタートダッシュを決めているしそれに続いて凛も既に行っくにゃー!! とロケットスタート決めている。

 もう行くしかない流れに残された俺たちは講堂へ向かう他がなかった。

 

***

 

 さて、講堂には着いたものの・・・・・・

 

「やっぱ目新しさとか感じないよな、全校集会とかでよく使ってるし」

 

「そうだね、それにここはライブでも使っちゃってるし・・・・・・」

 

 花陽は俺の隣に来て、全体を見渡してから呟く。

 

 ここには二度、お世話になっているしな。初ライブと復活ライブの時。曲こそ同じ『START:DASH!!』だったけど、状況は全く違う。

 初ライブの時は最初誰も観客が来なくて、現実は甘くないということ、悔しさや不甲斐なさで胸が一杯になった。でも、あの時挫けずに頑張って、見事この場所を満員にすることが出来たんだったよな。

 

「ここがダメとなると・・・・・・校庭の方なんてどうでしょうか?」

 

「校庭か・・・・・・あ、おい待て!! 穂乃果、凛!! ・・・・・・遅かったか」

 

 校庭というワードに反応し、穂乃果と凛がフライング気味に駆け出すんじゃないかと思い制止をかけた瞬間には既にもう2人は走り出していて、講堂から姿を消していた。

 

「あの2人は脊髄反射で行動しないと死ぬのか?」

 

「・・・・・・それは今更じゃない」

 

「そうですよ、ツッコミを入れるだけ体力の無駄です」

 

『あはは・・・・・・』

 

 ため息混じりに誰に問いかけたわけでもないけど、もはや穂乃果と凛のお目付け役でもある海未と真姫が遠い目をしながら2人が出て行った扉を見つめ、今までの苦労を思い返すように頷く。

 そんな苦労人の言葉を聞いて苦笑する花陽とことり。

 

「あー、絵里、希。頼めるか?」

 

「ええ、穂乃果と凛を追いかけて2人から目を離さないようにすればいいのよね?」

 

「じゃ、行こっかえりち。優くん、部室集合でええかな?」

 

「あぁ、話が早くて本当助かる。俺たちも適当に部室に戻っておくから、野生動物を捕まえたら合流しよう」

 

 こういう時3年生は本当に頼りになるなぁ・・・・・・。

 

「・・・・・・それで、結局部室に戻るってことでいいの?」

 

「あぁ、やっぱ暴走列車の舵取りが出来るのは落ち着きのある3年生だろうしな、俺たちはこの先どうするのかを考えながら待てばいいだろ」

 

「というか3年生って言ってるのになんでにこちゃんには声かけてないわけ? 大体想像はつくんだけど」

 

 そういえば、何気なくにこに返事をしてるけど、真姫の一言でハッとなった。そういえばにこも3年生だった、と。

 

「・・・・・・いや、他意はないぞ、うん。すっかり忘れてたとかそんなことは絶対に・・・・・・ないぞ」

 

「そこまで濁すならもういっそハッキリ言ってくれた方がいいわよ」

 

「忘れてました。でも、穂乃果と凛の2人を相手にわざわざ止めに行きたいと思うか? こん棒の如く振り回されるぞ、きっと」

 

 元気が有り余り、1人でも俺たち2年生と花陽たち1年生を引っ張る行動力があるというのに、2人揃えばどうなるか、想像するだけでも疲れるわ。

 2つの竜巻の間に挟まれるようなもんだろ、そんなん。死んじゃう。

 

「・・・・・・部室に戻るわよ」

 

「まぁ、にこが行ったところで絵里と希の負担を増やす可能性も否めないけどな」

 

「絶対そっちが本音ですよね?」

 

 なんか海未がすごいジト目でこっちを見てくる、おいやめろ。いくら幼馴染で顔馴染みとはいえ、美少女に見つめられると照れるだろうが。

 

「部室に戻るのはいいけど・・・・・・これから一体どうしたらいいのかな?」

 

「・・・・・・思い返せば、音ノ木坂でライブを出来る場所なんてもうないかもしれないね。廊下も講堂も屋上やグラウンドだって、もうPVで使ったり、ライブをしちゃってるから」

 

 確かに、そうだ。

 ことりと花陽の会話を聞いて、これまでのライブやPVを思い返す。

 そのどれもが、基本的にこの学校内で行われたものだった。

 

 まぁ、アキバでライブしたこともあったけど。

 

「本当にμ’sは音ノ木坂学院に支えられてると言っても過言じゃないのかもな。なんかこの学校自体、μ’sの一員って言っても許されるんじゃないか?」

 

「・・・・・・何それ、意味わかんないわよ?」

 

 部室へ向かう為に長い長い廊下の先を見つめながら、ふとそう呟くと真姫がお決まりのセリフを吐く。

 真姫は俺のやや後ろを歩き、表情は見えないし、意味わかんないと口では言っているけど、口調は柔らかく、僅かに微笑しているんだろうと思う。

 

 やや傾き始めた日の光が、窓から差し込み始める頃。俺たちは部室へと辿り着いた。

 

 俺以外が部室に入っていく中で、なんとなく立ち止まり窓の外を眺めていると、廊下を走る足音と息遣いが耳に届き始める。

 視線を音の方向に移すと、穂乃果がこっちに走ってきていた。

 

「あっ、ゆう君!! ちょうどいいところに!!」

 

「穂乃果? どうしたんだよ?」

 

 俺の前まで来ると、穂乃果は立ち止まり、両手を大きく広げ、何かを訴えるように腕をぶんぶんと振り回す。

 

「今から秋葉原に行ってみようよ! 何かライブをするのにいいヒントが見つかるかもしれないし!」

 

「いや唐突だな、おい。・・・・・・なんでまたアキバなんだよ」

 

「なんとなく!! 学校でライブをするのもいいけど、今は目新しさが必要なんだよね? それだったらやっぱり学校以外も見て回った方がきっといいアイデアが出てくると思ったんだ!!」

 

「あ、あぁ・・・・・・分かったから少し離れてくれ、近いから」

 

 ほんのりと赤みを帯びた日光が、校舎を照らし、なんの変哲もない、通い慣れて見慣れたはずの廊下を思わず息が止まるような幻想的な空間へと塗り替えていく。

 

 そんな空間の中で、俺は時が止まった錯覚に陥った。

 

 この幻想的な空間よりも、今、目の前に立って、大げさに身振り手振りを使って話す、それこそ小さい頃から見慣れてしまっているはずなのに、幻想的な空間の中でもひときわ大きな輝きを持つ、高坂穂乃果という少女に、俺は不覚にも、確かに数秒の間、見惚れてしまったんだ。

 

「穂乃果? 廊下を走っちゃダメじゃない。・・・・・・優くん? どうかしたの?」

 

 多分、いつの間にか近くに戻ってきていた絵里が声をかけてこなかったら、俺はもう数秒ほど、ぼうっと突っ立っている羽目になっていた。

 

「・・・・・・あぁ、いや、なんでもない。で、アキバに行くって話は絵里たちにはしたのか?」

 

「いや、穂乃果ちゃんそうだって叫びながらすぐに走って行っちゃったから。うちとえりちが校庭に着いて部室に戻るって言う前に」

 

「お前なぁ・・・・・・もし、俺が部室にいなかったらどうするつもりだったんだ? まさか校舎中を走って俺の名前を叫ぶつもりだったのかよ」

 

「あはは、もし見つからなかったら放送室にでも行って校内放送で呼びだすつもりだったよ!!」

 

「おいバカやめろ。何が悲しくて迷子放送みたいな感じで呼びだされないといけないんだよ。迷子なのはお前だろ」

 

「凛でもちゃんと絵里ちゃんたちの話を聞いたのに、穂乃果ちゃんそそっかしいにゃー」

 

 いや、お前は人のことは言えないだろ。もうめんどくさいし黙っとこう。

 ごめんごめんと謝る穂乃果を横目に、息を1つ吐いて、さっきまでの時が止まったような感覚について考えようとしたけれど、あまりにも突発的に訪れたものすぎて、全く分からない。

 

 ・・・・・・ま、いいか。今はとりあえずは・・・・・・。

 

「それじゃ、アキバに行ってみるか」

 

 自分のことよりもライブの場所を決めるのが先、だろうしな。

 

***

 

「で、アキバに来たのはいいとしても、これからどうするのよ?」

 

「とりあえず、町を歩いてみるしかないんじゃないか?」

 

 アキバに来たのはいいけど、結局は学校を歩き回ってる時と変わらずにノープランだからな。にこが不機嫌そうな顔をするのも分かる。

 

 もう日が傾き始めていたのに、そこから移動だからな。既に夕方になり、辺りはオレンジ色の景色に切り替わっている。

 これなら、今日は無理して場所を探すんじゃなく、練習に身を入れた方がよかったんじゃないか?

 

「でも・・・・・・この辺りでライブをするのは・・・・・・」

 

「ひ、人が・・・・・・たくさん・・・・・・」

 

 学校が近所にあるとはいえ、ライブをするならこの場所は完全にアウェーになるだろうな。そうなれば、必然的に緊張に弱い花陽と海未のパフォーマンスに影響してしまうかもしれない。

 

「それに、アキバはA-RISEのお膝元やし、この辺りでライブをするとなると、ケンカを売ってると考えられてしまいそうやんな・・・・・・」

 

 ・・・・・・いや、ぶっちゃけ彼女たちなら喜んでOKしそうなもんではある。なんなら、今からLINEを入れて確認してもいいぐらいだ。

 

 昨日の邂逅でせっかくだからという理由で、俺はA-RISEの3人の連絡先をゲットしてしまったのである。既に俺を含めた4人のグループが何故か立ち上がっていて、半ば強制的に加入させられてしまった。

 

 俺は当然拒否したが、部屋に戻ってからもツバサさんから催促の電話がかかってくるわ、携帯の電源を切ればインターフォンのラッシュが待っているわで大変だった。

 

 ちなみにツバサさんが隣の部屋だということは、まだ誰にも言っていないし、ましてや連絡先を持っているなんてことは口が裂けても言えない。

 なんか言ったら命の危険がありそうだと、俺の鍛え上げられた危機回避能力が猛スピードで早鐘を鳴らしているから。

 

 というかなんで俺が女の子と仲良くしたら幼馴染組は特に機嫌悪くなるの? そんなに俺の幸せが憎いのか? まぁ、A-RISEの1人と部屋が隣になって、連絡先まで交換したなんてことはそもそも信じてもらえないだろうし、なんなら頭の心配されていい病院を紹介されるまでが一連の流れってもんだろ。

 

 ・・・・・・俺の信用無さすぎて泣ける。

 

『UTX高校へようこそ! 遂に私たちの新曲が完成しました!』

 

 モニターからの音声に顔を上げる。どうやらしょうもないことを考えている内にUTX高校の前までたどり着いていたようだ。

 

 画面の中にはA-RISEの3人が堂々たる姿で映っていて、どこにも気負っている様子などは伺えない。

 昨日言っていたことは去勢でもなんでもなく、彼女たちの本心だということは、紛れもない事実みたいだ。最初から疑ってはなかったけど。

 

「――負けないぞ」

 

「あぁ、負けないさ」

 

 昨日は気圧された形で言えなかった言葉がするりと口から躍り出て、空気の中へと溶けて消えていく。周りに出来ていた人だかりの歓声に言葉はすぐにかき消されたが、呟いた想いがμ’sのみんなに伝わる方がほんの数秒だけ早かったようで、どこか緊張していた面持ちから、みんなの表情が少しだけリラックスしたものに変わったのが分かった。

 

 穂乃果が出来ると言えば、絶対に出来ると、そう思えるから。俺は勝利を信じて疑わない。μ’sのマネージャーとして、信じることが俺の最大の仕事だろうからな。

 

 ――そう決意を固めた瞬間のことだった。

 

「――こんにちは! ちょっと来てくれないかしら?」

 

「・・・・・・へ? うわぁ!!」

 

「穂乃果!? ってあれお前いつの間に俺の袖掴んぐえっ!?」

 

 なんだ!? 人込みの中から声がしたと思ったら穂乃果がすごい勢いで引っ張られ始めたぞ!? ついでに穂乃果が咄嗟に俺の袖を掴んだせいで急な重力に耐え切れず変な声出たぞ!? あと今なんか袖からビリって嫌な音がした!!

 

 袖の無事を確認する暇もないまま、学校内の改札を通過し、何も分からないままエスカレーターを駆け上がり・・・・・・って学校内にエスカレーターあんのかよすげえな!! 

 

 相変わらず袖の安否は分からないが、ツッコめるだけの余裕が戻ってきたことは分かった。あ、エレベーターまであるすっげえや!!

 

「ちょっと!? ツバサさん!! 止まってください!!」

 

「あ、そうね。ここまでくれば人もいないし、大丈夫よね」

 

「ちょっ!? お前は急に止まるなぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 穂乃果の声にツバサさんは掴んでいた手を放し、ピタリと立ち止まるが、結構な勢いをつけて穂乃果が立ち止まりしかも止まった瞬間袖から手を放しやがったせいで、俺は足をもつれさせ、豪快なヘッドスライディングをかまし廊下を滑走する羽目になった。

 

「あれ!? ゆう君なんで一緒に来てるの!?」

 

「お前が急に袖掴んだから仕方なく一緒に来ることになったんだろうがぁ!!!」

 

 袖掴んだの無意識だったのかよ!! すげえなその反射神経!!

 

「・・・・・・今顔から派手に滑っていったように見えたんだけど、どうしてすぐ立ち上れるのかしら・・・・・・怪我すらしていないし・・・・・・」

 

「流血沙汰になったら大変ですからね、気合で押さえました」

 

 ラブライブ予選を前にして出場停止とかシャレにならないからな。

 

「いや、そういう問題じゃないような・・・・・・というか気合で押さえられるようなものかしら・・・・・・」

 

「まあまあ、今のこの状況に比べたら大したことじゃないじゃないですか。なんで急に穂乃果を拉致するような真似をしたんですか?」

 

「上からあなたたちの姿が見えたからつい。けどいきなりじゃなくてちゃんと連絡入れたのよ? 返信来なかったから痺れを切らしてこっちから出向いちゃったけど」

 

「え、本当ですか? すいません、鞄の中に携帯入れてて全く気が付きませんでした・・・・・・うわっ・・・・・・・」

 

 ツバサさんに言われて確認のために携帯を取り出した瞬間顔が引きつってしまった。

 

 

 『上から見てて、あなたたちが見えたから会って話してみたいわ! いいかしら?』

 

 『お~い! もしかして確認してないの?』

 

 『それとも気づいて無視してるのかしら?』

 

 不在着信。

 

 不在着信。

 

 不在着信。

 

 不在着信。

 

 不在着信。

 

 スタンプ。

 

 スタンプ。

 

 スタンプ。

 

 という画面が延々と表示されており、そして一番最後に送られてきた言葉が。

 

『ねぇ、今からそっちに行くから』

 

 いや怖えよ! 完全にホラーの類だろこれぇ!?

 

「だからって急に拉致しなくても・・・・・・普通に話しかけてくれればよかったじゃないですか」

 

「自惚れるつもりもないし、私たちだってまだまだだとは思うけど、一応これでも有名人だからあんなとこで周りに気づかれたらすぐに人が集まって来ちゃうじゃない」

 

「なるほど、それもそうですね・・・・・・ゔっ!?」

 

 なんだ・・・・・・この感じ? 俺は何かとんでもないミスをしたんじゃないか? 例えばそう、まるで言ってはいけないことをうっかり口を滑らせてしまったみたいな・・・・・・。

 

「・・・・・・ねぇ、ゆう君? 今さ、聞き間違えじゃなければさ・・・・・・"ツバサさんから連絡があった"っていう話をしてなかった?」

 

 ゆらり、と俯いた穂乃果が一歩詰め寄ってくる。

 

「それってつまりさ・・・・・・私たちの知らない間に"ツバサさんと会って連絡先を交換してた"ってことでいいんだよね?」

 

 更に一歩、ゆったりとした足取りで穂乃果が詰め寄って来るのを見て、俺は何故か冷や汗をかき始め、頭の中に生まれた瞬間から今までの映像が流れ始めていた。

 

 ・・・・・・ていうか走馬灯じゃねえのかこれ。

 

「い、いや・・・・・・お前の聞き間違いじゃないのか? 仮にもトップスクールアイドルと偶然知り合えるってどんな確率だよ、ははは・・・・・・」

 

 乾いた笑いを浮かべ、なるべく穂乃果の方を見ないように窓から景色を眺めながらそう言うと、穂乃果はパッと顔を上げ、彼女にしては珍しく輝きの灯っていない、所謂瞳のハイライトが消えている状態で笑顔を浮かべる。

 

「うんうん! そうだよね、気のせいだよね!! あー、良かったぁ気のせいなんだってさ! 良かったね! "海未ちゃん、ことりちゃん!!"」

 

「・・・・・・・・・・・・ゑ?」

 

 瞬間、今までの比じゃないレベルで汗が吹き出し、より鮮明に記憶がフラッシュバックし始める。

 

「うふふ・・・・・・そうですね! ところで今のお話、より詳しく聞かせてもらいたいものですね! ねぇ、ことりもそう思いますよね?」

 

「えへへ、そうだね! ちょっとお話しよっか!! ゆー君?」

 

 人生の終わりなんて唐突に訪れるもんなんだな・・・・・・。

 静かに膝をつき、額を地面に擦り付け、手を頭の前にセットし、完璧なフォームの土下座を披露する。

 

「・・・・・・せめて、せめて遺書を書く時間を頂けないでしょうかァ!!!!!」

 

 肺の中の空気を全て廊下に叩きつけるつもりで俺は叫んだ。通りすがりのUTXの生徒が俺を見て、うわぁ、と呟いた後に小走りで走り去って行ったとしても。

 

 というか鍛え上げられた危機回避能力とは一体なんだったのか。正解はCMの後で! 多分一生明けない。

 まぁ、命に関わりそうってことは予想的中でしたね、いやー本当。怖い。

 

 ・・・・・・いや、反応がない? まさか許されたのか!?

 そう思い、顔を上げる。

 

 そこには天使のように可憐な笑顔で俺を見つめる3人の姿があった。

 

『――却下♪』

 

 やっぱりかー。

 

***

 

「改めましてμ’sの皆さん、こうして直接お話するのは初めてよね。A-RISEの綺羅ツバサです。よろしくね」

 

「同じくA-RISEの統堂英玲奈だ、よろしく」

 

「優木あんじゅで~す、よろしくね~」

 

 所変わって、三回にあるラウンジのカフェスペースに移動してきた俺と穂乃果、それに後から追ってきたμ’sの面々。ぶっちゃけ、英玲奈さんとあんじゃさんが来てくれなかったもうちょっとボロボロにされてた説はあるし、本当に助かった。

 

「・・・・・・全く、ツバサが急に外に出て行って、一応様子を見に下の階に下りてみれば・・・・・・八坂君が土下座をしていて驚いたぞ」

 

「本当お見苦しいところをお見せしました。でも統堂さんと優木さんのおかげで土下座程度で済んでラッキーだと思ってます」

 

「八坂君にとってはその程度って言えてしまう行為なのね、土下座は・・・・・・」

 

 命よりは軽いでしょ。ちなみに英玲奈さんとあんじゅさんには俺のことを今は名字で呼んでくれと先ほど隙を見て口裏を合わせておいた。ツバサさんに関しては2人から伝えておいてと頼んだが、正直上手く伝わったかどうかは不安しかない。

 

「あ、あの! 初めまして! μ’sの高坂穂乃果と言います!!」

 

「えぇ、知っているわ。映像で見るよりもとても魅力的で驚いちゃった」

 

「アイドルにとって重要な資質、天性のカリスマ性を持っていて、μ’sのリーダーを務めている。確か実家は和菓子屋で良かったかな?」

 

「は、はい!! 穂むらというお店です!! よろしければ是非、一度お店に来てください!!」

 

「あぁ!! あのお饅頭とても美味しかったわゔっ! ・・・・・・なんでもないわ、機会があれば是非伺わせてもらうわ」

 

「は、はぁ・・・・・・?」

 

 あっぶねえ、今絶対口滑らして昨日食べたこと言おうとしただろこの人! というか今英玲奈さんとあんじゅさんツバサさんの脇腹を手刀で叩いてなかったか? 恐ろしく早い手刀、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

 余計なことを言われていたら今度こそボコボコにされていただろう。

 ・・・・・・主に海未の拳で。

 

「ええと、高坂さんに負けず劣らず、他のメンバーも個性的よね! ロシアのバレエコンクールで上位常連の絢瀬絵里さんもいるし!」

 

「そ、そうだな! ダンスの表現力はいつも参考にさせてもらっている!」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・・?」

 

 ダメだこの人たち!! 嘘つくのとか誤魔化すの下手なタイプだ!!! 絵里がすごい怪訝な顔してる!! 

 

「・・・・・・こほん、西木野真姫さんの作曲はプロとも見劣りしない才能を持っているし、園田海未さんの作詞の素直な感じと相まって、μ’sの曲はどの曲もとても素晴らしいと思うわ」

 

「・・・・・・どうも」

 

「いえ、私なんてまだまだですから。日々精進あるのみです」

 

 すげえ、ツバサさんが強引に空気を引き戻した!! やれば出来る子だったんですね!! というか真姫は素気なさすぎだろ、あれか? 人見知り発動中か? それともシンプルに照れたのか? ごめん、俺が悪かったからそんな睨まないでくださいごめんなさい。

 

 もはや当たり前のように心を読まれていることに、なんの疑問も抱かなくなってきた自分がやばい。何がやばいのか具体的に言えないのもやばい。

 

「星空さんの運動神経とバネはスクールアイドルの中でもトップクラスだし、その2つから繰り出されるダンスのキレは唯一無二の武器よね」

 

「・・・・・・そうだな」

 

「・・・・・・そうね」

 

 どうして英玲奈さんとあんじゅさんがポンコツ化してるんですかねぇ・・・・・・まさかツバサさんの方が頼りになるとは思っていなかった。いや、さっきやらかしかけたし、気を抜いたら何やらかすか分かったもんじゃない。ここは俺が気を抜かずにいこう。

 

「小泉花陽さんの歌声は個性が強いメンバーの歌声に見事な調和をもたらしていると思うわ」

 

「あ、ありがとうございます!! あとファンです!! サインください!!!!」

 

「あぁ!!! ずるいわよ!! 花陽!!!」

 

 花陽は本当にブレないなぁ・・・・・・ていうかにこも貰えばいいだろうに。サイン書いている姿はめちゃくちゃスマートで悔しいけど超かっこいい。

 

「そして、表側で先頭に立ってみんなを引っ張る高坂さんの対になる存在、メンバーを陰から支える包容力を持った東條希さん」

 

「うちはそんな大した存在じゃないけど・・・・・・そう言ってもらえるのは嬉しいです」

 

 希の敬語ってちょっと新鮮だな。いつものエセ関西弁が出てこないのは緊張から来る恐縮なのか、それともただ単に初対面の相手だから敬語を使っているのかは定かではないけど。

 

「それに、南ことりさんのメンバーの個性を損なわず、それでいて最大限に魅力的に魅せるハイセンスな衣装作りも見事だわ。ね、アキバの元カリスマメイドさん」

 

「えぇ!? そんなことまで知ってるんですか!?」

 

 なんだろう、ファンっていき過ぎるとストーカーに等しくなるけど、これ一歩手前じゃね? 並のファンならことりがアキバのカリスマメイド、ミナリンスキーだということは気が付かないはずだし。

 いや、μ’sの知名度が上がっている状態でメイドカフェに行けば気が付くか? どっちにしろ普通じゃない情報網だ。

 

「――そして、矢澤にこさん・・・・・・いつもお花ありがとう!! すっごく嬉しいわ!」

 

『・・・・・・えぇ!?』

 

 今明かされる衝撃の真実にメンバーが一斉ににこの方を向く。

 

「い、いや~前からずっとファンだったから・・・・・・って違うわよ!! 私のいいところは!? あとサインください!!」

 

 花陽の時も思ったんだけど、お前ら一体色紙をどこから出してるの? まさか鞄に常に入れてるの? まあツッコんだら切りがないし、ここはもう流そうかな、うん。それがいい。

 

「メンバーに1人は必要な小悪魔系ってところかしら? はいサイン書けたわよ」

 

「あ、ありがとうございますぅ!! ってあれ? それって褒められてるの?」

 

「気にすんな、確かに具体例は挙げられてないし褒められてるかは微妙なラインだけど、必要だって言われてんだから」

 

「フォローするか貶すかどっちかにしなさいよ」

 

「ちんちくりん」

 

「歯ぁ食いしばりなさい」

 

 注文通りどっちかにしたじゃねえか、あと宇宙NO.1アイドルがしちゃいけない顔してる。

 

「そして、μ’sというグループを語る上で、必要不可欠な存在。表舞台には立てないものの裏方から9人を支えるマネージャー八坂優君・・・・・・昨日は親子丼美味しかったわ。またご相伴に預かってもいいかしら?」

 

「退避ィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 やっぱりやらかしやがったぁ!!!!!! なんで最後の最後で気を抜くんだよ!? 

 

 とはいえ、ぶっちゃけいつでも逃げられるように意識はして足に力込めていて正解だった。おかげでノーモーションで走りだすことが出来た。

 

「穂乃果!! ことり!!」

 

『了解!!』

 

 が、そこはやはり幼馴染だけあって、ノーモーションで立ち上がったはずなのに動き出しを読まれていた。

 

「ゆー君、止まって・・・・・・お願ぁい♪」

 

「ぐっ!? 悪い!! いくらことりの頼みでも今回は断る!!!」

 

 しかし、後ろからかけられた声に、コンマ数秒ほど足を緩めてしまったが、なんとか再び勢いを取り戻そうと床を蹴る。

 

「ナイスだよ、ことりちゃん!!」

 

「のわっ!?」

 

 ことりの声に気を取られたせいで、穂乃果の足に気づかず、勢いそのままに足が引っかかり、そのまま宙返り気味に宙を舞う。このままいけば背中からの落下は免れないだろう。

 

 体幹を使い、なんとか体勢を整えようとするが、それよりも早く、俺の上に影が落ちてきた。

 

「園田流奥義!!! 八坂優殺しィ!!!!!!」

 

「なんだその技名はぁ!? ごはぁっ!?」

 

 あぁぁぁぁぁぁ!? 痛い痛い痛い!!!! 鳩尾がやばい!!! でもパンツ見えた白ですかありがとうございますぅぅぅぅう!!!!!

 

 明らかに一子相伝なのに何故か俺の名前が入っている奥義の正体は身体を空中で捻ることで体重と遠心力で威力が底上げされた踵落としだった。

 あまりの威力に一回バウンドし、俺は地面に叩きつけられた。

 

「・・・・・・え、え~っと・・・・・・八坂君、大丈夫?」

 

「・・・・・・大丈夫に見えるんですか?」

 

「えぇ、割と」

 

「まあ、俺じゃなきゃ気絶してますよね」

 

 どうやら俺は頑丈らしい。母さん、頑丈に生んでくれてありがとう。おかげで今日も生きています。

 

「気絶で済むのか? というよりも人体ってバウンドするんだな」

 

 俺だって知りたくなかったそんな事実。こうやって人類の可能性は一歩ずつ前に進んでいくんだな。そんなわけあるか。

 

「・・・・・・と、ところでどうしてそれだけμ’sのことについて詳しいんですか?」

 

 花陽がおずおずと手を挙げて、A-RISEの3人に尋ねる。

 

「そうね・・・・・・これだけのメンバーが揃っているグループは中々いないし、それに同じアイドルとして応援もしてるもの」

 

「そうだな、だからこそ・・・・・・」

 

「えぇ、だからこそ、ね」

 

『――負けたくないとも思ってる』

 

『っ!?』

 

 先ほどのおふざけムードから一転、ピリッとした空気に切り替わる。

 

 これだ、この威圧感。昨日の俺もこの雰囲気に気圧されたんだ。

 

「で、でも・・・・・・あなたたちはトップスクールアイドルで前回ラブライブの優勝者ではないですか! 私たちは・・・・・・」

 

「それはもう過去の話、よね? 前回だってラブライブにあなたたちが出場してたら優勝を持っていかれていたかもしれないもの」

 

 海未の疑問はあんじゅさんの返答によって答えられた。まさか、そこまでμ’sを評価してくれてるなんて思ってもみなかった。

 

「言ってしまえば私たちは、A-RISEはμ’sというグループに惹かれている。同じスクールアイドルとしてもアイドル好きとしても」

 

「だからこそ、そんなあなたたちよりも、いえ、誰よりも今この瞬間お客さんを楽しませることの出来る存在でありたいと思っているのよ」

 

 英玲奈さんの気持ちを引き継ぐように、ツバサさんが淡々と語る。あまりの言葉の重みに、俺たちは何も言い返すことが出来ずにいた。

 

「じゃあ、μ’sの皆さん、お互いに頑張りましょう。もう一度言います、私たちは負けません」

 

 この沈黙をどう受け取ったのかはA-RISEの3人しか分からない。言いたいことは言ったと言わんばかりにツバサさんが立ち上がると、続いて英玲奈さんとあんじゅさんも立ち上がり、静かにカフェスペースから出て行こうとする。

 

「――あの!! A-RISEの皆さん!! 待ってください!!!!」

 

 沈黙を打ち破るように、穂乃果が立ち上がる。すると、さっきまで重かったはずの体が、するりと自然に立ち上がった。

 そして、全員で目の前にいる王者を見つめる。

 

「――私たちも負けません!! 今日はありがとうございました!!!」

 

 穂乃果の啖呵にポカンと口を開けて、その場でツバサさんたちが立ち止まる。

 

 この状況でハッキリと言い返せるとか、やっぱ穂乃果、お前すげえよ。

 

「・・・・・・ぷっ、あはははは!!!! あなたって面白いわね!!! ねぇ、良かったらなんだけど、ライブの場所が決まってないなら、UTXでライブをしてみない?」

 

『え!?』

 

 今日は驚かされてばっかりだ。まさかそんな誘いを受けるなんて夢にも思わなかった。

 

「屋上にライブステージがあるんだけど、1日、どうするのか考えてみてくれない?」

 

 確かにインパクトという面ではこれ以上のものはないだろうけど、こればっかりは簡単に決めていいことじゃないんじゃないか? 穂乃果にはちゃんと考えた方がいいと伝えよう。

 

 俺が口を開いて、自分の考えを伝えようとした矢先だった。

 

「――やります!!! 是非お願いします!!!!!」

 

「お前、もうちょっと考えろよ!! せっかく1日くれるって言ってるんだからさ!」

 

 そうだった、こいつはそういうやつだった。

 

「ええ!? だってあのA-RISEがライブする舞台で私たちも踊れるんだよ!? こんなのやるしかないよ!!!」

 

 穂乃果の言葉を聞いて、俺は全員の顔を見る為に、ゆっくりと視線を巡らせる。

 でも、1人として嫌そうな顔をせず、むしろ口角が上がり、ワクワクしているという表情だった。

 

 ・・・・・・まぁ、仕方ないか。

 

「決まりね。それじゃあ、またライブの日に会いましょう」

 

 そう言い残し、ツバサさんたちは歩いて行った。

 直後、携帯のバイブレーションがポケットの中から伝わってきた。

 

 ツバサさんからLINE? さっきの今で一体なんだ?

 

『ところで今日の晩御飯はなにかしら?』

 

 全部台無しじゃねえか!! ふざけんな!!! さっきまでのシリアスの空気は一体どこにいったんだよ!? ちなみに今日はハンバーグだ。

 

 なんとなくイラっとしたので既読だけ付けて無視してやろうか。

 

「あ、ところでゆう君、さっきのツバサさんの親子丼ってどういうことなの?」

 

「そうですね、私もその話を詳しく聞きたいです」

 

「今からゆー君のお家に行ってもいいよね?」

 

 ・・・・・・どうやら俺の今日はまだ終わらないらしい。

 

―To be continued―

 




大変遅くなって申し訳ありません。

結局転職して、地元に帰ってきたのは7月の中旬になってしまいました。


さて、今回のお話ですが、久しぶりに書くかと気合を入れたところ1万3千文字をオーバーしました。

本当に久しぶりに書いたものですから、書き方を思い出すのも一苦労でした。

投稿していない間にお気に入りが200件を超えていて、これは投稿しないといけないなと思い、今回の投稿に至りました。

何か月も空いているにも関わらず、読んでくれている人たちには本当頭が上がりません。

これからも頑張って投稿は続けていくので、よろしくお願いします!!
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