ラブライブ!~未来へ響く多重奏~   作:朝灯

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お待たせしました。
今回は久しぶりにあのキャラが登場します。

ヒント、変態。


しすたーず すたでぃーでいず

 緩やかにだけど、確実に夏の暑さから遠ざかっていくのを感じる、9月下旬。四季は秋に片足を踏み込み始めたことを感じさせる涼やかな風が吹いている。

 

 さて、10月に入ればラブライブ地区予選大会が開催されるが、それはスクールアイドルのお話。しかし、それとは別に普通の学生なら避けては通れないものがもう一つ。

 

「お兄ちゃん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いい?」

 

「まぁ、いいかどうかは聞いてからじゃないと言えないだろ。なんだよ?」

 

 1人暮らしを始めたとはいえ、実家は目の前にあるし、俺は結構な頻度で妹の優莉と一緒に食事をする。なんというか、俺も優莉も一時期とはいえ離れて暮らしていたし、母さんは理事長ということもあり、家で食卓を一緒に囲んだ記憶の方が少ない。

 優莉の方も父さんと一緒に暮らしていて、父さんの仕事が忙しい場合、1人で食事をすることの方が多かったらしい。

 だから、俺たちは時間がある時はこうして一緒にご飯を食べ、お互いの近況報告をする。というのが、普段特別にお互いを縛ったりすることのない距離感の中で唯一交わされた約束、というわけだ。

 

 ・・・・・・それは今どうでもいいか。

 

「うん、もうちょっとで中間テストがあるよね? 実は勉強教えて欲しいんだよね」

 

「あぁ、そうか。10月中旬ぐらいだったな。いいけど、優莉成績悪くないだろ? わざわざ俺が教える必要ないんじゃないか?」

 

 そう、俺たち学生にとって避けて通れない中間テストという行事。赤点を取れば容赦なく補修となり、学期末テストで赤点を複数個取ってしまえば進級すらさせてもらえないという、正に学生泣かせのイベントだ。

 

 優莉の詳しい成績は分からないけど、正直どこの高校でも油断しなければちゃんと受かるレベルだと思う。

 

 そもそもの話、普段からちゃんと勉強していればノートを見て復習するだけで赤点はまず無い。もっと上を目指すならもっと勉強しないといけないけど。

 

「うん、そうなんだけどね。受験もあるし、ちゃんと勉強はしておきたいんだよ。やっぱ油断してたら変なところで転んじゃいそうだから」

 

「まあ、断る理由も無いし別にいいぞ」

 

「ありがとー、お兄ちゃん。えっと、私だけじゃなくて雪穂と亜里沙も一緒なんだけどそれでもいい?」

 

「なるほど、それは自分の勉強だけに集中ってわけにもいかなさそうだし、いいぞ」

 

 3人は受験生、人に教えながらやるよりも個人で勉強し受験生という条件に当てはまらない俺が教えた方がお互いの邪魔にもならないだろうしな。

 

「雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんがどれだけ出来るかは知らないけど、場所はここか? それとも実家の方か?」

 

「うーん、とりあえずお兄ちゃんの部屋かな。ほら、向こうはお父さんもいるし、仕事の邪魔になったらいけないし。まぁ、向こうが私たちの邪魔をしてくる可能性も無いとは言い切れないから」

 

 ・・・・・・流石に父さんも受験を控えた娘とその友達の邪魔をするほどバカじゃないと思いたい。けど、日頃の行いのせいで全然信用ならねえな。

 

「・・・・・・優莉って父さんのこと嫌い?」

 

「え? そんなことないよ? お金を稼いで私たちの生活の為に働いてくれてるわけだし。何不自由無く生活出来てるのもお父さんとお母さんが仕事してくれてるおかげだし。忙しくて顔を合わせられなくて、ちょっとだけ寂しい時もあるけど。感謝してるもん。・・・・・・度が過ぎなきゃだけど」

 

 妹がいい子過ぎてやばい。中学3年生でここまで考えてるやつとかいる? どうかこのまま真っ直ぐ育って欲しい。というわけで言動で変な影響を与えかねない父さんはくたばりやがれ。冷蔵庫に入れてたプリンとケーキとアイス勝手に食われた恨みは絶対忘れないからな。

 

「お兄ちゃん? 急に顔が怖くなったけどどうしたの? 可愛い顔が台無しだよ?」

 

「いやなんでもな・・・・・・おい待て誰が可愛い顔だ」

 

 それは女性が言われるべき言葉だ。断じて男に言っていいものじゃあない。

 苦虫を噛み潰し、口直しにブラックコーヒーを飲んだような顔をしてやると、優莉はとても楽しそうに笑ってくれやがった。

 

「ふふっ、ごめんって! とにかく、次の土曜日は大丈夫?」

 

「確か、その日は早朝から練習で昼からなら大丈夫だったはずだ。じゃあ土曜日に、なんかいるものとかあるか?」

 

「ん~・・・・・・女子って言うのは甘いものがあれば大体は生きていけるからね。その後のカロリー調整に泣くことになるけど、お兄ちゃんセンスに任せるよ」

 

 

 要するに、自分で作るのもよし、市販品を用意するのもよしってことだな。こいつめ。

 あと、女子が絶対甘いものが好きだっていう考えはどうかと思うぞ? 世の中広いんだから甘いもの苦手っていう人もいるだろ。いるよね?

 

「じゃあ雪穂と亜里沙にもそう伝えておくね」

 

「おう、来る時連絡入れてくれ」

 

 こうして俺たちは他愛のない会話に戻り、再び食を進め始めた。

 

***

 

「優センパイっ! 今日はよろしくお願いします!!」

 

「すみません、優先輩だって忙しいのに私たちまで、これつまらない物ですけど、どうぞ」

 

「はーい、ありがとう雪穂。これは喜んでいただくね」

 

「いや、俺に渡された物なんだけど。ちょっと? 優莉さん?」

 

 件の土曜日になった。練習が終わってからすぐにシャワーを浴びて、諸々の準備を済ませたタイミングで優莉から今から行くと連絡があった。

 

 亜里沙ちゃんと雪穂ちゃんはそれぞれお辞儀をしながらリビングへと入っていく。数歩遅れてからリビングに入ると、雪穂ちゃんからほむまん1箱を手渡され・・・・・・る瞬間に優莉にインターセプトされた。おかしくない?

 

「じゃ、勉強を始める前にそれぞれ得意科目と苦手科目を教えてくれないか? 苦手科目を重点的に教えていく方向で今日は進めたいと思う」

 

 得意科目で赤点を取るなんてことはないだろうし、数ある科目の中で点数が取れているからこその得意科目だからな。勉強が苦手でどれも軒並み低い点の中で比較的マシって意味で得意科目だったら頭痛ものだけど、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんに限ってそれはないだろう。

 

「私は得意科目が英語と文系科目で、苦手なのが理数系の科目です。それに暗記系がちょっと苦手ですね」

 

「私は得意科目が理数系で苦手なのが文系科目ですっ。英語は平均ぐらい出来るけど、日本語がどうも難しくて・・・・・・」

 

「あぁ、亜里沙ちゃんは帰国子女だからか。分かった、じゃあやっていこう・・・・・・とりあえず、直近のテストを見せてくれるか? まずは苦手を潰してから次に行った方がいい。じゃないとどんどん増えていって処理出来なくなるからな」

 

 事前に優莉に言っておいたこと、それは最近のテストを持ってきてもらうことだ。過去問からテストの出題の傾向を見て、問題を解くのがオーソドックスな勉強法だからな。

 

「苦手って言ってる割には雪穂ちゃんはよく出来てると思う。普段からちゃんと復習してる証拠だ。この勤勉さを姉に分けてやってくれ」

 

「それについては全くの手遅れなので期待はしないでください。お姉ちゃんはたまに私に宿題を手伝ってと言ってくるんですよ? どうしようもないです」

 

 幼馴染の妹がとっても辛辣な件。というか妹に宿題を手伝わせようとするな。あのバカ今度説教だ。

 

「亜里沙ちゃんは・・・・・・全体の中でやっぱり文系だけがちょっと劣って・・・・・・ん?」

 

 Q:1853年に起きた出来事を答えなさい。

 

 A:ペリー雷皇。

 

 超かっけえけど、誰だよ雷皇。

 

「なんかところどころユニークすぎる答えが紙の上を踊ってるんだけど・・・・・・というかよく雷皇の漢字知ってたね」

 

「友達から借りた小説に出てきてたので!」

 

「よくこれで赤点にはなってないもんだよ本当・・・・・・」

 

「これでもまだマシになった方だよお兄ちゃん、最初の頃は殺気っていう漢字をコロッケって読んでたし」

 

「下手な鉄砲数打ちゃフィーバーの字面とか先生がツボって笑いすぎてぎっくり腰になって授業が中止になったこともあったよね」

 

「何その現場超面白そう・・・・・・じゃなくて大惨事じゃねえか」

 

 日本に疎すぎて友達から変な知識埋め込まれてない? この子のお姉ちゃんそのうち文句言ってくるよきっと。

 

「古文のありけりなんてアリを蹴るんですか? ハラショー・・・・・・って言ってたし」

 

「それはハラショーじゃなくて殺生だ」

 

「この時作者が何を考えていたかって問題では締め切りがやばいとか書いてましたし」

 

「偉い現実的な話が出てきたなおい」

 

 まぁ、元々の地頭が悪くはないんだから、覚えてしまえば間違えることも少なくなっていくよな。だから赤点になってないんだろうし。

 

「と、とりあえず始めようか」

 

 これ以上面白解答が出てきても処理に困る、というか苦手なとこ教える為の時間だし、教えながら出てきたらその都度ツッコめばいいだろ、うん。

 

***

 

「ん、ごめん。飲み物が無くなったから買ってくる。みんな何がいい?」

 

 集中し始めて、ふと時計を見ると既に1時間以上経過していた。集中力がよく持ったとはいえ、さすがにこれ以上根を詰め過ぎるのはよくない。ここは休憩を入れるべきだ。

 

「んー私少し眠気があるし、強炭酸の飲み物がいいかな」

 

「ではカフェオレを・・・・・・」

 

「ほうじ茶がいいですっ! でもいいんですか? 私もついていきますよ?」

 

「いや、休んでてくれ。この後も勉強の時間になるし。ちょっと買いたい物があったからちょうどいいから。・・・・・・ていうかほうじ茶ってチョイスが渋いね」

 

 ほうじ茶をチョイスする中学生っているの? 変なところで日本文化が染み付いちゃってるわこれ。いや、美味しいしいいと思うけど。

 

 とりあえずコンビニ行くかぁ、シャーペンの芯が切れそうだったしな。よし、財布と携帯は持った。

 

「行ってきまーす――」

 

「――優お兄ちゃん、来ちゃった♡」

 

 バタンッ!! ガチャ!! ・・・・・・なんかドアの前に変態(真白)がいたことを脳が認識する前に身体が反射的に動いてしっかり施錠までしてしまった。

 

 俺は疲れてるんだ、こんなところにやつがいるわけがない。いてはいけない、いてたまるか。目頭を手で押さえながら、リビングへと戻る。

 

「あれ、お兄ちゃん? 買い物に行くんじゃなかったの?」

 

「あぁ、行く予定だったんだけど幻覚が見えたから戻って来た」

 

「・・・・・・幻覚? もしかして後ろにいる真白のことを言ってるの?」

 

「・・・・・・後ろ? 真白?」

 

 なんだか韻を踏んだ感じになったが、優莉の言葉に背中に目線を向けるとそこには満面の笑みの真白が立っていた。

 

「・・・・・・おいこら、どうやって入った?」

 

「あいかぎ♡」

 

「犯罪者だぁ!? ふざけんな!!! そんなもんいつ作ったぁっ!?」

 

 流石に声を荒げてツッコまざるを得なかった。

 

「あ、違うよ。愛するの愛に鍵で愛鍵だよ? ちなみにルビはピッキング」

 

「そんな堂々と犯罪しましたって言うんじゃねえよ!! というか俺が1人暮らし始めたことと何で部屋の場所を知ってんだよ!!!」

 

 さては父さんか!? 父さんだな!? よし、殺そう!!(錯乱)

 

「そんなのとうちょ・・・・・・とうさ・・・・・・ストーカ・・・・・・愛のパワーだよっ!」

 

「そのセリフに全部詰まってんだよ!! 続きは警察署で話してくれ!!!!」

 

 あぁもう!! なんか雪穂ちゃんは厄介事を察知する目でこっちを見てくるし!! 優莉に至っては・・・・・・もう慣れましたみたいな感じで一切のノーリアクションだちくしょう!!

 

「それで、優センパイっ。こちらの方はどなたですか?」

 

「初めまして、絢瀬亜里沙ちゃん。高坂雪穂ちゃん。私は九文真白と言います! こちらにいる優お兄ちゃんの未来のお嫁さんです!」

 

「サラッと嘘を交えるな。こいつは従妹だよ・・・・・・みんなと同じ中学3年生だ・・・・・・」

 

「酷いっ! 私のことは遊びだったのねっ!?」

 

「うるせえ!! 黙ってろ!! これ以上面倒事を増やすな!!!」

 

 自然災害ぐらい突発的過ぎて一々構ってられるかめんどくせえ!!

 

「・・・・・・ジャパニーズ修羅場?」

 

「修羅場に国境は関係無いよ、亜里沙」

 

「というかスルーしかけたけど、どうして私と亜里沙の名前を知ってるのかが疑問なんだけど・・・・・・」

 

 気にしたら負けだし余計に疲れるだけだぞ、雪穂ちゃん。こいつの情報網おかしいから。具体的にはこいつの頭と同じぐらい。

 

「ふふん、未来の同級生のことですから! それにお姉さん方が有名人ですし!」

 

「未来の同級生ってことは・・・・・・」

 

「私たちと同じで音ノ木坂を受けるってこと!?」

 

 雪穂ちゃんが縋るような目をこっちに向けてきた。まぁ、十中八九真白にツッコミを入れるのは雪穂ちゃんの役目になるだろうから。諦めて頑張れ・・・・・・諦めて頑張れってすごい矛盾感。

 静かに合掌をすると、雪穂ちゃんは項垂れてしまった。

 

「・・・・・・私今からでもUTXに志望校変えた方がいいような気がしてきました・・・・・・」

 

「本当、なんかごめん」

 

 俺がいなければそもそも真白は音ノ木坂を受けることはなかっただろうし、原因の発端が俺だとは口が裂けても言えない。

 

「・・・・・・雪穂ちゃん、冷蔵庫にロールケーキあるけど、俺の分も食べるか?」

 

「・・・・・・いつもならカロリーが大変なことになるので、その誘いには断腸の思いで断らさせていただくところですけど・・・・・・・今回は断腸の思いでいただきます」

 

 はぁ・・・・・・雪穂ちゃんとため息のタイミングが被り、思わず2人で顔を見合わせて苦笑した。いやもう・・・・・・勘弁してくれ。

 

 飲み物買いに行くか・・・・・・。

 こうして、1日が過ぎていく。ついでにいうと真白は勉強を教えるのもとても上手かった。なんなんだよこのハイスペックモンスター・・・・・・・。

 ちなみに、何故真白が引っ越し先のこととか1人暮らしのこととか知ってるのかは結局謎のままだ。

 

 ラブライブ地区予選大会まで、あと1週間。

 

―To be continued―

 




今回の話は会話のテンポを意識して、話自体は短めに作りました。

ちなみに私は勉強から遠ざかって久しいので、テストの問題や解答は割と適当に書きました。

流石に年号は調べましたけど。


それでは次回もお楽しみに。

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