海だったり、祭だったり、温泉だったり。
そんな中で、浜風の心情が露わになっていきます。
今私は焼けるような夏の日差しの下で海を目の前に一人の艦娘を待っている。
周りは海水浴に来た人で賑わい、少し上を見上げれば澄み切った青空にビーチボールがちらほら目に映る。
「海か・・・遊びに来るなんて何年振りだろうなぁ」
そんなことを一人で思いながら白い砂浜に立っている目印のパラソルの下で椅子に座り、このにぎやかな空気に浸っている。
そもそもなぜこのような状況になったのか。
それは数週間前。
私の泊地での出撃任務も一通り終わり、日も暮れ、手が空いたころ。
今まで頑張ってくれたみんなになにか楽しい休暇を与えようと考えていた。
「なにかいい案はないか?」
秘書艦としてソファに座りながらあと少しの書類を片付けていた浜風に尋ねた。
「へ?うーん・・・そうですねー・・・。夏ですし海なんてどうでしょう?」
海か。確かに息抜きにはちょうどいいかもな。
「その案採用。みんなを連れて海水浴だ。」
浜風は書類を片付け終わり、私の机まで来てまとまったそれを置いた。
「提督、せっかくお休みをとるんですから計画をしっかり立てていきましょうね」
私の中では少し意外だった。
浜風はそういうのに興味が薄いものだと思っていたから。
「ああ、そうだな!」
楽しみにしてもらえたのならこちらも満足だ。
私はそのあとに海水浴場や近くの旅館などを調べ、目星を付けた。
その様子を何気なく見ていた浜風は私に冷たいお茶を注ぎながら言った。
「こういうことはちゃんとするんですね」
「まあな!遊ぶために生きてるからな!」
「胸張っていうことじゃないです」
何とも言えないジト目でこちらを見つめる。
「まあいいでしょう。では私は失礼します。日も遅いですし提督もお休みになってくださいね。」
「ああ、浜風お疲れ様。おやすみー。」
そして次の日。実質今日である。
まだ先なのに、楽しみで深く眠れなかった。
朝早く起きてしまった私は、海水浴関連のことも調べきり、紙にまとめておいた。
「提督、おはようございます。今日は早いですね」
静かにドアを開け、浜風が部屋に入ってきた。
そのまま私に近づくと、メモ書きを手に取りそのまま目を通した。
「ちゃんと調べてありますね。ちょうどよかったです。じゃあ行きましょうか。」
「え?どこに?」
「何言ってるんですか。ここに下見に行くんですよ」
メモ書きを指でつつきながら言った。
真面目な浜風らしい。
「一応海水浴の下見ですから・・・み、水着も・・・持っていきますね。」
「わかった。じゃあ俺も持っていこう」
「では準備をしてきますので終わり次第向かいましょう。」
そんなことがあって、水着に着替えている浜風を待っているのである。
待つのは嫌いじゃないし、浜風の水着姿なんて滅多にお目にかかれるものではない。
そんな期待もありながら待っていると、後ろからか細い声が聞こえてきた。
聞き取れなくて後ろを振り返ると水着に着替え終わった浜風が恥ずかしそうに立っていた。
「て、て、てい、とく。お、お待たせしてすい、すいません。」
そこには、薄くも鮮やかなスカイブルーのパレオを纏った浜風がいた。
黒いタイツで見えなかった砂浜のように白く美しい肌が、水着とマッチしている。
恥ずかしいからかソワソワしながらこちらに近づいてこない。
そんな浜風を見かねて、私は彼女のもとに向かう。
「あ、あの・・提督、近いです・・・って提督!」
とりあえず恥ずかしがる浜風の手を握り、パラソルのところまで連れてきた。
浜風は砂浜に体育座りで私と目もあわさず、少し沈黙が続いた。
周りの賑やかな空気が対照的過ぎて時間が止まったようだった。
それに耐えかねて、私は浜風の両頬に手を当て、強引にこちらに向かせた。
「浜風、恥ずかしがらなくてもいいよ。似合ってるよ!」
私ができる満面の笑顔で言った。
それを聞いて浜風は薬缶が沸騰したかのように赤面し、目を丸くした。
「いえ。そ、そんなこと・・・。でも、ありがとうございます。うれ、嬉しいです。」
浜風の肩から少し力が抜けたように見えた。
実際言ったことは本心だし問題ない。
「その水着結構最近のじゃないの?」
「はい。あの、金剛が選んでくれました」
なるほど。
でもなんとなく違和感があるのだが気のせいだろうか。
そんなことも浜風の安心した笑顔をみて頭から消えた。
「では、焼きそばでも買ってきますね」
浜風から水着を隠す動作はなくなり、軽やかに海の家の方に向かった。
しばらくして両手に焼きそばを2つ持ってこちらに浜風が戻ってきた。
その時、その浜風の後ろからビーチボールが飛んできた。
それを感知して浜風はサッとビーチボールをかわしたが、砂浜に足を取られて転んでしまった。
「いたたた・・・。あっ」
体を起こした浜風の上半身から水着が消えていた。
「えっ!い、ひやぁぁぁ!」
浜風は必死に胸を隠し、座り込んでしまった。
焼きそばとスカイブルーの水着は砂浜に落ちていた。
私は慌てて浜風のもとに向かい、バスタオルを肩から隠れるようにかけた。
そのまま水着を拾い、浜風の肩をそっと抱きながら、更衣室まで連れて行った。
まだ日もそこまで落ちていないため更衣室に人はいなかった。
私は更衣室の外から声をかけた。
「大丈夫かぁ?もう海どころじゃないだろうから、とりあえず水着から着替えておいで」
「すいません、ご迷惑をおかけします」
「気にしなくていいよ。下見には十分だし、浜風の水着姿を独り占めできただけでもおなかいっぱいですわー」
冗談交じりで答えておいた。
「提督、ありがとうございます」
その声は少し震えていたように感じた。
私も着替えを早急に済ませ、浜風を落ち着かせるのもかねて予約しておいた旅館に向かうことにした。
旅館に着いた私たちは、チェックインを済ませ、部屋に荷物を預けた。
そのあと、旅館の人に温泉のことを聞かされた。
「浜風、さっきので変な汗もかいただろう。潮風のこともあるし温泉でも入るか。
今の時間なら人もいないだろうし」
「そうですね。では入ってきます。」
「私も入るから後でな。ここ露天風呂もあるらしいぞ」
「それは楽しみです」
温泉に入れば浜風も落ち着くだろう。
私は知っていた。
浜風は温泉が好きなこと、そしてここの露天風呂は混浴であることを。
露天風呂で私に会ったら驚くだろうなぁ。
そんな楽しみも持ちながら大浴場に向かった。
潮風で少しベタついた体を洗い流し、一応タオルを腰に巻き露天風呂に向かった。
静かに露天風呂の方に向かうと、やはり人はいない。
浜風を除いて。
浜風はゴツゴツした岩に体を預け、温泉に浸かっていた。
真面目な浜風らしく、胸のところまでバスタオルが巻かれていた。
・・・少し残念である。
それはさておき、私が露天風呂に入ろうとすると、案の定浜風はお化けでも見るかのような顔で驚いた。
「っ!?なぜ提督がここに!?」
「ここの露天風呂はねー、混浴なんだよー」
そういって私は浜風の横に隙間なく腰を下した。
再び浜風の肩に力が入る。
「そんなに緊張しなくてもいいよ」
私は力のこもった浜風の肩を引き寄せ、浜風の体がこちらにもたれかかる。
細く繊細な銀髪が私の肩にかかる。
「提督、先ほどはすいませんでした。あまり水着着るの慣れていなくて。
でも・・・優しくてかっこいい提督の姿が見れてよかったです。」
浜風の重みが私に預けられる。
「浜風、それが見られるのはお前だけかもしれんな」
「それなら・・・私も浮かれてしまうかもしれません」
二人は目をそっとつむりながら互いに体を預け、逆上せる手前まで温泉を味わった。
更衣を済ませ浴場から出ると、牛乳を用意した浜風が待っていた。
「提督はこれですよね」
その手にはフルーツ牛乳。
よくわかっていらっしゃる。
飲み干した後、私はこれからどうするかを考えていた。
「提督、旅館の方から聞いたのですが、もうすぐ近くでお祭りがあるそうですよ。
夜店も出ますからお昼も食べれていないし行きませんか?」
「そんなのがあるのか。ならせっかくだし行くか!」
「はい。私ちょっとすることがあるので少しだけお待ちいただけますか?」
「わかった」
浜風はフロントに声をかけた後、部屋に戻っていった。
少し逆上せ気味の体に夜風が心地いい。
しばらくして浜風が戻ってきた。
その浜風は、紺の着物を着て手には巾着袋、そして赤の帯が大きな胸を強調するなんともいたずらな恰好をしていた。
けしからん。・・・なんともけしからん。
「ど、どうでしょうか。着物の貸し出しがあると聞いていたので着てみたんですが・・・。」
「これが似合ってないというなら私は男をやめてる」
「ふふっ」
「じゃあ行こうか」
浜風に手を差し伸べる。
「はい」
浜風もその手を握り返す。
その後、浜風の手を引いて旅館を後にした。
少し歩くと賑やかな夜店がズラッと並んでいた。
金魚すくいにベビーカステラ、お面が並ぶすだれなどお祭りに必要なものは全て揃っているようだ。
「提督、たくさんありますね。私初めてなのでよくわからないのですが・・・ん?」
そう言って浜風の目を引いたのはリンゴ飴である。
まあ普段は見ることがないのだから当然である。
とりあえずリンゴ飴を2つ買い、浜風に手渡した。
「んっ、甘い、提督、これおいしいです」
バナナチョコを買ってあげるというのも個人的には一興だったんだが、理性がそれを止めた。
その後の浜風の反応もいちいち新鮮で、この子が横にいることの幸せを改めて実感した。
その間もずっと、人ごみの中はぐれない様手が離れることはなかった。
「ふぅ、おなかいっぱいだぁ」
「提督、燃費の悪さは相変わらずですね」
「夜店の焼きそばは格別においしいの」
二人は談笑しながら旅館の自室に戻った。
先に部屋に入った浜風は部屋の電気もつけず、窓のそばにある椅子に座っていた。
「電気ぐらいつければいいのに」
「今つけるのは待ってください」
部屋の電気をつけようとした私を浜風は止めた。
月の光が差し込んで薄暗い部屋の中、私も浜風と向かい合うように椅子に座った。
「今、私の顔を見られるのは・・・」
月光に照らされた浜風の顔には少し涙が浮かぶ。
「すいません、今日がとても楽しくて・・・嬉しくて」
「私も楽しかったよ。浜風を独り占めできたしね」
浜風の涙を指ですくい、子供のように小さく見えた浜風の体を抱きしめる。
「私がこれからもみんなを守ってみせる。この幸せが続くように」
「はいっ。私もおそばでお手伝いします」
浜風は私の胸の中で静かに泣いた。
「大丈夫です提督。これは信濃の時とは違います。うれし涙です。」
私も何も答えずにただただ強く抱きしめた。
その時、外からドーンと大きな鈍い音が響いた。
「ひゃっ!」
浜風は驚いて尻餅をついた。
浜風に手を差し伸べ体を起こさせる。
「浜風、外をみてごらん」
「?・・・あっ、きれい・・・」
そこには暗い夜空に大きく鮮やかな一輪の花が咲いた。
花火である。
「この祭り、花火もやるんだな」
「初めてみました。とてもきれいです」
目は輝き、驚いて口がポカーンと開いた浜風の顔がいつになく締まりがない。
そんな浜風の肩をたたき、振り向いたところに指を立てる。
案の定頬に指が食い込む。
「んっ!提督、なにしてるんですか」
「いや、ポカーンとしてたからびっくりさせたくなった。」
「それはいつものことです、んっ!?」
浜風が話している途中でその唇を強引に奪う。
「んっ、ふあぁ、もう提督は変わらないですね
でも・・・いつまでもそのままでいてくださいね」
鮮やかな花火が背景となっているようだ。
浜風は自分から再び私の唇にそっと重ねてきた。
驚く私に浜風は、「恐れ多いですが私も・・・提督を驚かせてみました。」