「……が……しい」
「えっ?」
「いや、なんでもない」
「そう?」
「ああ、じゃあな」
「ま、またね」
比企谷が遠ざかっていく。
比企谷は何を言っていたのだろうか? 声がちいさくてよく聞き取れなかった。
「比企谷か……」
比企谷とは最近仲が良いんだと思う。中学の時の自分に言ったら、信じては貰えないだろう。
比企谷の印象は変わってきている。地味でキモくて、面白くない奴だと思っていたけど最近は面白いと思っている。
それだけじゃなくて、頼りにもなるし、優しい。
比企谷のことは良く思っている。いつもの私みたいに冗談ではなくて。
好きなのかどうかは分からない。でも、良くは思っている。
いろはちゃんはどうなんだろう……。いろはちゃんも比企谷のことは気にいっているはず。いろはちゃんは葉山君のことが好きなのかな? それとも、比企谷なのかな? いろはちゃんは現時点では私を気遣ってくれてるみたいだけど、今後は分からない。
比企谷は好きな人いるのかな……?
私と比企谷が初めて会ったのは、中二の頃だった。
中二で同じクラスになり、少ししゃべったことのある程度の奴だった。
初めてしゃべったのは、アドレスを交換する時だった。
比企谷のアドレスを持っていないからと言う理由で声をかけた。
「比企谷ー、アドレス交換しようよ」
「え、あ、はい」
「敬語とかウケる」
あの時の比企谷は同学年の私に敬語を使ってきたので、少し面白かった。
たぶん、比企谷なら、ぼっちはリア充と喋るとき脊髄反射で敬語になるんだよみたいなことを言ってそう。
アドレスを教えてからはそれなりにメールが来た。
最初の方はメールに付き合うんだけど、めんど……眠たくなってくると、あっ、ごめんm(_ _)m、寝てたから気が付かなかったとか言って誤魔化していた。
告白されてからはメールが来ることもなくなったけど。
最近の私は変だ。
比企谷を気にしすぎている。
比企谷が他の女の子と喋っていたらモヤモヤするし、仲良くしていたらもっとだ。
いろはちゃんと比企谷が仲良く二人で喋っていた時なんて、不機嫌が周りに伝わるほどだった。
それを察したいろはちゃんはこう言って来た。
「先輩のこと好きなんですか?」
「べ、別にそんなんじゃ」
「じゃあ、私が貰っちゃってもいいですか?」
「そ、それは駄目!」
いろはちゃんは見透かしたように笑って来た。
周りから見れば、私は比企谷のことが好きなように見えるのだろうか?
気になっちゃっていることは認めている。でも、付き合いたいかと言われると分からない。
比企谷はもう、私のことは好きではないだろう。昔のことだもん。変わっているに決まってる。
好きなのかは分からない。でも、比企谷にはよく思われたい。
いろはちゃんは全てを見透かしてのことか電話でこんな提案をしてきた。
『先輩によく思われたいですか?』
この子はすごいなと思った。
「う、うん、でも、どうやって?」
『とりあえず、遊びに行きましょう』
「遊びに?」
『はい。それで、二人の距離を縮めましょう』
「でも……」
『私から誘っておきますから、折本先輩はとびっきりのオシャレして来てくださいね』
「えっ、ちょっと!?」
『ツーツー』
「切れた……」
いろはちゃんの半場強引に参加させられたお陰で良いことはいろいろあった。
大変なのは服装だった。比企谷の好みも分からなかったけど、チャラチャラしているのは嫌いだろうと言うのは分かった。
だから、私は大人しめの服を来ていった。
気にいってくれるかは不安だったけど褒めてくれて嬉しかった。
あの時は、声をあげて喜びたいほどだった。
比企谷のことが好きなのかは分からない。でも、好きだったらいいなと思っている。
初めてする、本物の恋を……。
「あ、あれ?」
ドアが開かない。なんでだろう……。
「あ!」
今日は、親が帰って来ない日だった。それをすっかり忘れていて、鍵を持ってきていない。
慌てて、比企谷を追いかける。
「比企谷〜!」
「あ?」
「はあ、はあ」
「どうしたんだよ? 走ってきて」
「今日、両親帰って来ないんだけど、鍵持ってきてなくて……」
「大変だな」
これはチャンスかも知れない。自分の気持ちを確かめるための。
「今日、ひ、比企谷の家に泊めてもえないかな?」
「は?」
比企谷は驚いて、声をあげる。
急に泊めてなんて言ったら驚くのも無理はないと思う。女子が、泊まりに来るなら普通だと思う。
「泊めてくれないかな?」
私はできるだけ、可愛らしく、比企谷に好かれるようにそう言った。