また三日後のこの日、既に宴会場の客達はグロッキーとなっていた。
「……うわぁお」
この状態に流石の雪華も引いていると、その後ろからアルカがやって来た。
「……雪華」
「ん?何……って、あんたもかい」
雪華が振り向いてみると、そのアルカもまたグロッキーな顔をしており、益々引き始める雪華。
そんな雪華を睨みながら、アルカは問う。
「……お前、何かを隠してるだろ?」
その問いに、雪華は驚いた様子もなく答える。
「うん、隠してるけど?それがどうしたの?」
その悪びれる様子のない態度にアルカは握り拳を作り、怒りを表すと、雪華は溜息を吐き、頭をかきながら答えた。
「あのさ〜。例え私が隠し事してたとして、それがなんだっていうの?確かに、この異常な事態に私は気付いてる。原因も既に調べた。けど、教えない」
「何でだ」
「面倒だから」
雪華はアルカの顔を見ながら、さらに続ける。
「安心して良いよ。私はこの異変を起こしてる奴の味方になった覚えも、敵になった覚えもない。傍観者みたいなものだよ。つまり、そんなに解決したいなら、解決したら良い。私はその皆んなの変化をただただ楽しんでるだけだしね〜」
雪華はそう言ってアルカを見ると、アルカは溜息を吐いていた。
「はぁ〜……お前がそういう奴だとは知っていたつもりだったんだがな……此処までのレベルの面倒臭がりだったとは……」
「どやぁ」
「自分で言うな。あとドヤ顔をするな」
そのツッコミすら億劫なのか、アルカが再度溜息を吐くと、雪華は別の方向を見ながら喋り始める。
「ま、流石にこの雰囲気は陰気臭過ぎるし……ちょっとぐらいの癒しは与えてあげるよ」
「?癒し?」
「そ。私の知り合いの付喪神を呼んだから」
「また付喪神か……お前の知り合いは全て付喪神か?」
「あっはっは〜。まさかー。全てなわけないじゃん」
雪華が笑って答えていると、アルカの後ろに影が差し、アルカが直ぐに後ろを振り向いてみれば、何処か優しい表情をした女性が立っていた。
その手にはヴァイオリンケースも持っている。
「やっほ〜、『リラ』。来てもらってごめんね?」
「いえ、構いませんよ。雪華からの頼まれごとですし、何よりお店も暇でしたから」
「だから、何で彼処にお店立てたの?普通に人来ないよ?」
「良いのです。静かにヴァイオリンを弾けるならそれで……で、どうして今回は此処にお呼びになったのでしょうか?そして、此方の方はどちら様ですか?」
『リラ』と呼ばれた女性がアルカを見ると、アルカもまた見上げる様にその顔を見た。
その顔は端正な顔立ちで、普通に綺麗な女性で、優しく、丁寧で、あの雪華の友達と言われても首を傾げてしまうだろう。
その雪華はアルカと『リラ』を見比べると、ニヤリと笑う。
「あ〜、そうだった。まだ紹介してなかったね。このおチビはアルカディア・スカーレット。あの紅い館の住人の一人で吸血鬼だ」
「誰がおチビだ!」
アルカがそう言って雪華に叫ぶが、雪華はそれをニヤニヤしながらその頭をまるで子供扱いをする様に優しくポンッと叩いた。
「まあまあ、アルカくん。子供なんだから背伸びせずにお姉ちゃん達に頼れば良いんだよ〜?」
「俺を子供扱いするな!これでも立派な青年だ!」
「そんな背で言われても全くもって嘘っぽいぞ〜?ほらほら〜。素直に認めたらどうだ〜?楽になるぞ〜?」
「嘘じゃないからな!?何度も言うがおチビとか言うな!」
遂にその姿からカリスマまで取られると、側からみれば『変な羽が付いた小さな子供』である。
「……あの、雪華?アルカディアさんをそれ以上、弄るのは……」
「え〜?仕方ないな〜。リラの紹介もまだちゃんと終わってないし、仕方ない……」
雪華は其処で立ち上がると、アルカの頭を再度叩いた。
「ほら、おチビ。早く暴走を止めて現実に戻ってこ〜い」
「地獄の炎で溶かすぞ!雪華!」
「きゃーこわーい……で、リラの紹介だけど」
「無視するな!」
「この子は『リラ・ヴィオロン』。『ヴァイオリン』の付喪神だよ」
「紹介に預かりました、リラ・ヴィオロンと申します。同じく湖の辺でお店をしていますので、暇な時に遊びに来てください」
「ああ、宜しく」
アルカとリラは互いに挨拶をすると、握手をした。
「しかし、ヴァイオリンの付喪神とは、珍しいな……それ程に元の持ち主が大切にしていたということか」
「はい。そうですね……彼は確かに、私を……ヴァイオリンを大事にしていましたね」
「……失礼でないなら良いんだが、元の持ち主を教えて貰っても、良いだろうか?」
「大丈夫ですよ。私の元の持ち主はアルカンジェロです……えっと、知ってますか?アルカンジェロを……」
「……アルカンジェロって、あの……」
アルカは自身もヴァイオリンの弾き手の為、その人間のことを知っていた。
それは、その手の道を行く者なら、もしかしたら知らない人はいないかもしれない。
そのアルカの反応を見て、リラは少し安心したような笑みを浮かべた。
「……その反応でよく分かりました。あの子は有名になったのですね……」
「リラは確か、その人が幼少の頃に使っていたヴァイオリンだったんだっけ?」
「そうですね……その頃から彼はヴァイオリンが大好きで、私の事も大切に使っていただいていましたから」
リラはそう言いながら昔に耽り始めた。
幼少のアルカンジェロが、楽しそうに自分を使って演奏をし、その姿を微笑ましく見ているヴァイオリンの自分。
リラの心が温かい気持ちで満たされて始めたが、其処で元々ここに呼ばれた事情を思い出し、ハッと我に帰ると雪華の顔を見た。
「そういえば、雪華。私は何処で演奏をすれば良いのでしょうか?」
「おっと、そうだった……う〜ん、あの中央とか?」
雪華が指差した場所は、妖怪達が他との所よりは集まっている場所のだった。
「分かりました。それでは、弾いて参ります。後ほど、感想をお聞きしますね、アルカディアさん」
「……え、あ、ああ。分かった」
リラがアルカにニコリと笑いかけると、そのままその中央へと向かって行く。
そして、演奏の準備を始め、練習として少し弾くと、本番の曲を弾き始めた。
それは、リラが好きで良く弾く曲。
「……アメイジング・グレイス」
「あ、知ってるんだ。アルカ」
「ああ……確か、許しの曲だった筈……」
「別にあの子があの曲を好きなのは、許されない事をしたからでもなく、許されない事をされたからでもないよ。ただ単純に、あの曲調とその歌詞が好きなだけ」
「……そうか」
アルカは雪華からそれを聞くと、その曲を聴く事に集中し始めた。
ヴァイオリンだけのアメイジング・グレイス。それはそれで、とても綺麗な音色を宴会場に響き渡らせていた。
それでは、彼女の紹介ですね。
リラ・ヴィオロン
種族:付喪神(ヴァイオリン)
能力:楽器を扱う程度の能力(主に弦楽器)
性格:大人しく、優しい性格。一言で言えば、今の所では誰よりも大人。
『霧の湖』の辺で楽器店『ミューズ』というお店を開いている。其処の店長。
趣味はヴァイオリンを弾く事。お店にお客さんも中々来ないため、良く一人で静かに引いている。
好きな曲と得意な曲は『アメイジング・グレイス』。
モデル:リリなのの『リニス』
それでは!さようなら〜!