第二十一話
楽器店『ミューズ』の中から、何時ものように音楽が流れていた。
その音楽は、リラが最も得意とし、最も愛している曲である『アメイジング・グレイス』である。
その音色につられたのか、小鳥や鹿などの野生動物達、そして妖精や妖怪まで店の周りに集まっていた。
因みに、妖怪はルーミアと『リグル・ナイトバグ』、妖精はフウノである。
リラは演奏をし終えると、窓の外に目を移す。
それで漸くルーミア達の存在に気付くと、ニコッと笑い、部屋へと招き入れた。
そして人数分の紅茶を用意しているところで、いきなり正面の玄関が勢いよく開けられた。
それに驚き、急いで店に戻ると、其処には雪華と、雪華に日傘を差したまま後ろ襟首を掴まれ引っ張られているアルカの姿があった。
どうやら、雪華が思いっきり扉を開けたようだ。
「お〜い!リラ〜!遊びに来たよ〜!」
「雪華……アルカさんを離してあげて下さい。苦しそうですから。あと、扉を乱暴に開けない。ここの生き物達に迷惑です」
「いや〜、扉の件は悪かったけど、アルカは別に問題ないよ。吸血鬼だし」
「そんなこと関係ありません。離してあげて下さい」
「は〜い」
リラの言葉に雪華は渋々従い、アルカの襟首を離した。
「アルカさん、大丈夫ですか?」
「ああ……俺は平気だ」
リラはアルカの心配をするが、その心配は杞憂に終わったようで、アルカの様子は元気そのものだった。
その様子を見て、リラはホッと一息吐いた。
***
先ほどの一件の後、リラは新たに雪華とアルカの分の紅茶を用意すると、ルーミア達も交え、リラの家でお茶会を始めた。
「それで、雪華。今回はアルカさんも連れてなんの御用でしょうか?」
リラは紅茶を一口飲んだ後、雪華にそう聞いた。
その雪華は紅茶の中に自分で作った氷を入れて冷やすと、それを飲んでから答える。
「えっとね〜……アルカと演奏してほしいなって思って……」
「……それは、デュエットして欲しいということですか?」
「いや、無理だろ。俺とリラはまだ一回も一緒に演奏した事がないんだぞ」
「あ〜、うん、分かってる。無理だってのは十分理解してる。けど、ちょっと見てみたいな〜って思って……だから、二人とも一緒に練習してよ。そしたらデュエット出来るでしょ?」
「まあ……」
「そうですが……」
リラとアルカは互いに顔を見合わせ、眉を潜める。
その理由はお互いに警戒してるからじゃなく、『どうして雪華がその提案をしたか』である。
「……あの、雪華?どうして急にそんな提案を?」
リラは片手を小さく挙手しながら聞くと、雪華は紅茶を飲みながら答えた。
「聴きたいから。それ以外に理由なんてないよ?」
雪華のその回答に、リラは雪華を少し観察した。
それで嘘じゃないと納得すると、アルカに顔を向けた。
「アルカさん。雪華は嘘を吐いてませんから大丈夫です」
「そうなのか?」
「はい。嘘を吐いてたらすぐに分かりますから」
「あれ?そうなの?」
「はい。あ、雪華には教えませんからね?」
「え〜!」
リラと雪華のそんなやり取りを見ながらアルカは思う。
(……どうやって雪華の嘘を見抜いてるんだ?)
そして、そんな三人のやり取りの間、ルーミアとリグルとフウノは茶菓子のクッキーを食べていたのだった。