咲夜と共に紅魔館から出た雪華は、あいも変わらず面倒くさそうな顔をしていた。
元々、この約束を取り付けたのは自分なので、なんの文句も口にするつもりもなく、そもそも文句すらないのだが、それでも面倒な事に変わりはないのか溜息を吐く。
そんな雪華を咲夜はジト目で見る。
「ちょっと。溜息を吐かないでよ。私まで憂鬱になるじゃない」
「いや、既に憂鬱になってないか?お前」
咲夜の言葉に、雪華もまたジト目で見ながら言うと、自分の髪を纏めている鈴付きの紐を触る。
「いや、アルカはお前の手伝いをしろって言ってただろ?それってつまり、間違ったら面倒な弾幕ごっこもあるって事じゃん」
「そうね。というか、弾幕ごっこまで面倒って言ったら、貴方が面倒と思わない事ってなによ」
「アルカ弄り」
「止めなさい」
そんな会話をしていると、道中で霊夢と魔理沙を見付けた。
「あら?貴方達……」
「あ!紅魔館のメイド!」
魔理沙が咲夜に指を指すと、咲夜は顔を顰める。
「人に指をささない」
「おっと、ごめんだぜ」
魔理沙が咲夜と会話してるその横で、霊夢は雪華を見ていた。
「?何?なんか顔に付いてる?」
「……いえ、珍しいと思ってね。あんたが積極的に異変解決に出るなんて」
「いや、積極的じゃないから。むしろ面倒で今すぐに帰るか織姫の所に遊びに行きたい所をあのおチビ吸血鬼からの頼みでしてるの……」
霊夢の言葉に対して、雪華はそう言った。ただし、後半は息継ぎなしで。
そんな会話をしている最中、氷の弾幕が飛ばされ、それに早めに気付いた全員がその場を退避すると、其処には二人の妖精と一人の妖怪がいた。
二人の妖精は、霧の湖を住処としているはずのチルノと『フウノ』こと『フウノ・ウィンディ』。
一人の妖怪は、冬という季節を考えると暖かそうな格好をしている雪女『レティ・ホワイトロック』。
そのレティを見付けた雪華はすぐに笑顔で近寄る。
「やっほ〜!レティ!久しぶり〜!」
「あら?雪華。本当に久しぶりね。何時に会って以来かしら?」
「最後にあったのが150年ぐらい前じゃない?」
「あら、意外と最近だったのね」
そんな会話をしていると、後ろから不機嫌オーラを隠しもしない霊夢が割って入る。
「雪華の友達でそんな格好なら、雪女よね?もしかして、この異変の犯人?」
「もしそうだって言ったら?」
レティはそう言って笑うと、霊夢がお祓い棒を向けた。
「撃ち落とす。それだけよ」
霊夢はそう言ってお札を出すが、その前に雪華の襟首を掴んだ状態の咲夜が出た。
勿論、そんな事されてる雪華に被害がないわけもなく、
「ぐえっ…さ、流石に、くる、しい……」
雪華は蛙が踏まれた時の悲鳴を上げる。
しかしそんな事、咲夜も霊夢も気にしない。
「ちょっと、なんであんたが前に出てんのよ」
「いえ、ちょっと、実力を見たくてね……この雪女の」
そう言って、顔を雪華の方に向ける咲夜。
その咲夜の言葉は勿論聞こえた雪華は目を背ける。
「自分で『弱い』って言うぐらいだから、どれだけ弱いのかを見定めようと思ってね」
「……そう。なら、私からも一押ししましょうか。其奴、本当に『弱い』からね」
「分かったわ」
咲夜はそう言うと、其処で漸く雪華の襟首を離した。
「ケホッ、ケホッ、よ、妖怪だからって、首絞められると息出来ないって……」
「ごめんなさい。でも、そうでもしないと貴方、『私やらない』とか言い出すでしょ?」
雪華は最初こそ咲夜に文句を言うが、その咲夜言葉は間違いなく雪華が言おうとした言葉で、逃げられないと知るとガックリと項垂れる。
「……本当、私弱いからね?期待しないでよ?」
「分かったわ。私が妖精を相手にするから、雪華は其処の雪女をお願いね」
そう言って妖精を連れて離れていく咲夜。
それを恨めしそうに見つめると、溜息を吐いてレティを見る。
「はぁ……じゃあ、するか」
「ええ、久々に遊びましょう?雪華」
面倒くさそうな顔をする雪華とは反対に、レティは何処か嬉しそうな顔を浮かべていた。
***
弾幕ごっこが始まって少しすると、魔理沙は何処かあり得ないと言うような顔で雪華とレティの弾幕ごっこを見ていた。
「……なあ?彼奴の能力、確かチート級だよな?」
「ええ、そうね。チート級ね」
「だよな。なのに……なんだよ、『アレ』は」
そんなあり得ないような顔で魔理沙が見ているものは、レティの弾幕を弾幕で撃ち落としたり、避けたりするだけの雪華の姿があった。
それは別におかしな事はないのだが、その雪華の能力さえ使えば、楽に弾幕ごっこは終わる。
しかし、雪華はその能力を使わず避けたりするだけ。
これを魔理沙はおかしいと思っているのだ。
「……まあ、初めて見たらそうなるわよね」
それに対して、さも当たり前といった様子の霊夢。
理由を知っているからそれは普通で、だからこそ、理由を知らない魔理沙に説明を始めた。
「彼奴の髪飾り、ちゃんと見た?」
「髪飾り?ああ、鈴が付いてる紐の髪飾りだろ?」
「そう。その鈴が問題で、私の二代前の博麗の巫女が彼奴を連れて来た時、あの鈴を付けさせたのよ。あの鈴はね、戦闘の時にだけ能力を無闇矢鱈に使わせない様にさせる謂わば、『制御装置』。殆ど『能力封印』と同じね」
「能力、封印……」
魔理沙はそう呟いて再度、雪華を見るが、それだけでは納得できない程に雪華の力が弱まっている。
勿論、その事も霊夢は説明する。
「アレだけ力が弱くなっているのも、その『制御装置』が働いてる所為ね。戦闘の際、彼奴の力は大幅に制限されるの。だから、彼奴の『今』の全力が、アレよ」
そう言って雪華の方を見れば、丁度、レティのスペルが発動される所だった。
「寒符『リンガリングコールド』」
その後、レティから氷の鳥が飛ばされてるくるが、雪華はそれを避ける。
しかし、多くの鳥が飛ばされてくる所為か、どんどんと避けずらくなっていく。
「くっ!」
「雪華……どうしたのよ。これぐらい、昔の貴女は楽に避けれたじゃない」
レティが心配そうに聞くと、雪華は笑う。
「仕方ないじゃん。力が抑制されてるんだから。今の状態が私の本気だよ」
雪華はそう言うと、避ける進路を邪魔する一匹の鳥に手を向ける。
すると、その鳥はドンドンと溶け出し、やがて跡形もなく無くなった。
雪華はそれだけで深い溜息を吐いたが、まだ弾幕ごっこが終わったわけじゃなく、最終的に雪華はレティの弾幕を諸に受け、負けてしまった。
***
最終的な結果だけを言えば、咲夜のお手柄で霊夢達の勝ちである。
負けた雪華は一度雪へと降り、疲れた体を休めていた。
それをレティは見ながらも理由を霊夢から教えてもらっており、聞き終わるとレティは溜息を吐いた。
「はぁ、あの面倒くさがり屋は……こうなる事を分かった上でその巫女からの提案を了承したわね?」
「雪華の考えが分かるのか!?」
魔理沙は驚いた様子でレティを見ると、レティは苦笑する。
「大方、『戦うの面倒だし、戦うとしても勝敗なんてどうでも良い』とか思ったんでしょ。あの子、戦う事に興味が無いし、そもそも面倒がって自分からしないだろうしね」
それを聞くと魔理沙は納得し、同じく苦笑いを浮かべた。
そんな雪華の回復を待ってから、霊夢達は飛んでいくのだった。