艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

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弟「つれーわ、また大和でてつれー」←大和3、武蔵2所持
作者「(#^ω^)ビキビキ」←大和0、武蔵1所持
弟「兄貴、『書けば出る』って言うし大和の出る小説書いてみたら?」
作者「OK!」

そんなこんなで艦これ小説、始まります。



第一話
生誕 絶望穿つ回転衝角


 待たせてすまなかった。こちらも遠征の指示などで忙しかったのでね。

 取材の日だからと思っていたのだが……うまく時間を開けられなかった。

 ん? 苦労はわかる?

 ……ああ、君は元『青葉』の艦娘だったな。

 私の戦友だった『青葉』も、君にそっくりな好奇心旺盛なやつだったよ。

 

 まったく……提督というのも面倒なものだ。

 同じ身分になって、昔自分の提督だった男の有能さが身に染みるよ。

 これなら『長門』として戦っていた昔の方がずっと気が楽だ。

 もっとも……この『ナリ』では、もうまともに戦えないからこその艦娘退役だったのだがな。

 

 ……いや、別に気にはしていない。

 左手も左目も『あの日』連中に持っていかれてしまってな、見苦しい姿かもしれないが我慢をしてくれ。

 だが……『この程度』で済んだ私など軽いものだ。『あの日』の戦いに出た艦娘は、その90%以上が沈んだからな。

 

 ……本当に、『あの日』は目の前に絶望だけが広がっていた。

 膨大な数の深海棲艦による大攻勢。南方戦線のすべての泊地や基地が壊滅した『あの日』……通称『タイダルウェブ』のことだ。

 私の戦友だった伊58が偵察で『海が3で敵が7、海が3で敵が7でち!』と言っていたが……それですら、かなり控えめの表現だった。

 ふふっ……あれを『津波(タイダルウェブ)』と名付けたヤツは中々とんちが利いているよ。あの戦いを経験した私だから言わせてもらうが、まさしく『津波(タイダルウェブ)』そのものだったからな。

 いや……あれを『戦い』というのもおこがましいか……。

 あれは物量によるただの蹂躙……まさに津波で陸地が洗い流されるのと同レベルだった。どうやっても……抗しようもない。

 私の所属していたトラック泊地もその津波に飲み込まれ、ほとんどの戦友たちは沈んでいったよ……。そして……トラック泊地最強にして最後の切り札だった大和と武蔵の姉妹も私の目の前で沈んでいった。

 

 ……今だからこそ、正直に言う。

 大和たちが沈んでいったのを見て、私は『終わった』と思ったよ。

 おっと、ここで『終わった』と思ったのは『私たちの命運』じゃないぞ。私が終わったと思ったのは『人類の命運』だ。

 艦娘は深海棲艦に対する唯一にして最後の切り札だ。そんな私たちが抜かれたら、あとは守るものなどない陸地に押し寄せ蹂躙するだけの話だ。

 あの数に一斉に攻められては、本土鎮守府の最終防衛ラインとてそうは保つまい……だから、『これで人類はもう終わりだ』と思ったんだ。

 

 

 だが……ふふっ、世の中というのは面白いものだ。

 あのどうしようもない絶望の闇の中、だがそんな中から『最後の希望』が誕生したのだからな。しかも、その希望は我が戦友の忘れ形見ときた。

 本当に……本当に世の中、最後まで何が起きるか分からないものだよ。

 

 

 

             ――――――『元長門』提督へのインタビューより抜粋

 

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 

 沈んでゆく……。

 彼女……トラック泊地最強の艦娘であった大和は、深く冷たい水底へとゆっくりと引きこまれていく。ふと隣を見れば、自分と同じく妹である武蔵も、暗い水底へと沈んでいた。最強とも言われる大和型戦艦姉妹、しかしその2人を持ってしても圧倒的すぎる数の深海棲艦の猛攻を防ぐことは叶わなかった。

 

 空を埋め尽くす敵航空機により、制空権はあっという間に握られた。急降下爆撃に航空雷撃の波状攻撃、そして大型戦艦級深海棲艦による強力無比な飽和砲撃がまさしく雨の如く艦隊へと降り注いだ。

 そんな中を大和たち姉妹はそれによく耐え、あまつさえ反撃で少なくない数の敵艦を水底へと叩き込んだのだ。その戦果は流石は『最強』に恥じぬものだっただろう。だがそんな大和たちの奮闘すら、この絶望的なまでの数の差を前に、事態を好転させることは叶わなかった。

 しかし、大和に悔いはない。戦艦として、戦いの中で沈むのだ。

 それに……。

 

 大和の左手の薬指で、指輪が優しい光をたたえている。

 大和と提督は、『特別な関係』であった。

 艦娘は『艤装』と呼ばれるものとの魂の同調をすることができる『人間の女の子』である。どんな力を振るっても艦娘は女の子である以上、提督と艦娘が『特別な関係』になることは別に珍しいことではなく、実際に提督と『解体』と呼ばれる艤装とのリンクを切る儀式を行った元艦娘の子供というのも大勢存在する。そんないわゆる『二世世代』は女の子なら艦娘として、男の子なら提督としての極めて高い適性をほぼ間違いなく持っているので、逆に提督艦娘間の恋愛は推奨されているくらいだ。

 そして大和はごく自然な成り行きでこのトラック泊地の提督と恋をして、『特別な関係』となっていたのである。

 だが、彼女の愛した提督はもうこの世にはいない。

 彼女たちの提督は深海棲艦の大攻勢の中、本土へと避難することなく最後までこのトラック泊地で指揮を執り続けていた。そんな提督のいた指揮所は昨日の爆撃と砲撃によって更地になり、大和はその骨のひと欠片すら拾うことが叶わなかった。

 

(提督……今、お傍に……)

 

 そして、大和は黄泉路での提督との再会を想い、微笑みすら浮かべながら目を閉じようとした。

 その時だ。

 

 

 ズクンッ……

 

 

「……ッ!?」

 

 下腹部への小さな疼き、それが離れかかっていた大和の意識を呼び戻す。

 

(そうだった。 ここには……あの人から授かった愛しい私の子がいる!)

 

 動かないはずの大和の手が動き、その下腹部をそっと撫でた。そこには彼女と提督との、愛の結晶が息づいている。検査もしていないし確証たりえる根拠は無い。実際、大和と提督がそういう関係を持ったのは、つい4日前のことだ。だから仮にそうだとしても影も形もないはずで、大和にはその存在を知る手立ては皆無である。

 しかし、大和は我が子を授かったことを『女の勘』とでもいうもので確信していた。

 

(死なせない……私がどうなっても、もうどうでもいい。

 でもこの子は、この子だけは!! コノコダケハ!!!)

 

 それは究極の母の愛なのか、ただの死にぞこない妄執なのか……大和は動かぬはずの身体を動かし始める。

 

(誰でもいい! 何でもいい!!

 この子だけは! この子だけは!! コノコダケハ!!!)

 

 その想いは愛の子守唄のようであり、呪いの呪詛のようですらあった。

 だから……そこに起こった『奇跡』は、果たして神からの祝福だったのか悪魔からの呪いだったのか、判断することができない。

 

 

 ズクンッ……

 ズクンッ……!

 ズクンッ……!!

 

 

 『奇跡』が、そこに起こった。

 下腹部の疼きがどんどんと強くなっていく。

 大和には分かる。10月10日の建造期間を消し飛ばしながら、今我が子が産声を上げようとしている。

 

 だが同時に、大和は自分の身体が砕けていくのを感じていた。自らの血と肉と、油と鋼鉄を我が子が喰い荒しているのだ。我が子の建造資材は自らの身体、というわけだ。

 だが、大和にはそれを愛しく感じる。

 自然界の蜘蛛や虫の中には産まれた我が子の最初の食事に、母が自らの身体を差し出すことは少なくない。それと同じだ。

 我が子の糧になるのなら、それが母の務め。むしろかなり巨大だと自負するこの身体を喰い散らかすその豪快な喰いっぷりに、母としてその痛みすら愛おしいとさえ大和は感じていた。

 

(可愛い愛しい我が子……一杯食べてすくすく育って。

 あなたのお父さんのように優しく……そして私など歯牙にもかけないほどに強く……強く!!)

 

 母の『想像』によって、我が子が『創造』されていく。その想いは愛した提督のように『優しく』、自分すら容易く凌駕するほどに『強く』だ。

 しかし……。

 

(……足りない。

 私じゃ……全然足りない!)

 

 大和は『最強』の戦艦である。

 その『最強』が、それすら軽く凌駕する『究極』を『想像』し、『創造』するのだ。それに必要な資材が『最強』1つで足りるわけがない。

 その時、大和の視界に同じように沈んでいく妹、武蔵の姿が映った。

 

 武蔵が、自分と同じように提督を愛していたことを、大和は知っている。そのことに悩み、そして最後には姉である大和のためにと身を引いたことも大和は知っていた。

 大和は武蔵の身体を渾身の力で引き寄せる。そして、すでにこと切れた妹の身体を抱きしめた。

 

(武蔵……一緒に創りましょう。

 愛しい提督との子を、最強を超えた『究極』の我が子を!!)

 

 母だけでは飽き足らず叔母の身体すら喰い散らかし、『究極』はゆっくりと形を為していく。その姿は、間違いなく母の願いの結晶だった。

 すべてが上手く行ったことを確信した大和は、遠のく意識に自分の最後を自覚する。

 そして大和は母として、最後の願いを込めた。

 

(ごめんね……普通に産んであげられなくて。

 ごめんね……撫でてあげられなくて。

 ごめんね……抱きしめてあげられなくて。

 ダメなお母さんを許してとは言わない。 憎んでくれてもいい。

 それでも、そんなダメな母の願いを聞いてくれるなら……私やあなたのお父さんの目指したものを……。

 仲間を守り、いつか静かな平和の海を……。

 お願い……)

 

 懺悔と願いを込めて、『最強』がこの世から文字通り消え去る。

 そして……『究極』が産声を上げた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ここまで……か……」

 

 目の前で沈んでいった大和と武蔵に、長門は呟いた。

 視界を覆い尽くすような数の深海棲艦、大和と武蔵はせめて撤退のために包囲の一部でも喰い破るとトラック残存戦力すべてを投入した夜戦を決行、大和姉妹はその『最強』の名に恥じない猛攻を加え、かなりの数の敵を沈めたというのに深海棲艦の数は変わらない。

 包囲網は……破れない。

 これではトラック泊地を捨てて撤退というのも不可能だ。

 

「長門さんッ!!?」

 

 茫然としていた長門だが、僚艦である重巡洋艦『鳥海』の声で我に帰る。

 提督は戦死し、総旗艦であった大和も沈んだ。艦隊序列では、今は長門が司令官だ。

 ……もはやどうしようもないと分かっていても、自分以外の誰かにまで絶望して諦めろとは言えない。最後の瞬間まで最善を目指し指揮を執ることは長門の義務でもあった。

 

「鳥海、生き残っている艦娘すべてを連れてトラック泊地内に隠れろ!」

 

「バカ言わないでください! 泊地はほとんど吹き飛んでるじゃないですか!?」

 

「それでも四方を囲まれ、雷撃まで飛んでくる海上よりは遥かにマシだ。

 そこで籠城し、本土からの救援を待つんだ!!」

 

 言いながらも、長門はそれがあり得ない話だと自ら思っていた。

 襲われたのは何もこのトラック泊地だけではない。リンガ、ラバウル、シュートランド、ブイン、タウイタウイ、パラオ、ブルネイ……どの泊地・基地にも同レベルの数の深海棲艦が向かっているとは聞いている。本土の守備すら満足にできるか分からないほどの敵の数だ、どう考えてもこんな遠方に援軍を送るなど不可能に近い。

 しかし、そんな蜘蛛の糸より細い希望でも、考えなければやっていられない。

 

「しんがりは私が受け持つ!

 鳥海、早く後退を!!」

 

「その怪我で、何バカを言っているんですか!!」

 

 長門の怪我は、酷いものだった。艤装のほとんどが吹き飛び、自慢の41cm砲も2つが砲塔から吹き飛んでいる。

 そして長門自身も酷い怪我だ。

 左腕の肘から先が……無い。そしてその左目も抉られ、その瞳はもはや何も映すことはない。敵砲の直撃によって左腕は千切れ飛び、その時の破片が左目を潰したのだ。止血だけは済ませたとはいえ、その姿は最大限控え目に言っても何かの手違いで棺桶から這い出てきた死人である。

 

「だからこそ、私がしんがりになる。

 お前のような、まだ健常な艦娘たちにこんなことはさせられない」

 

「長門さん……」

 

 長門は死兵となって、僅かな時間を稼ぐ算段だ。

 

「……早くしろ。

 私の命程度で稼げる時間は、僅かばかりだ」

 

「……私の計算では、そんなナリじゃ1秒だって時間を稼げませんよ」

 

 そう言って、鳥海も砲を構えた。

 

「先程の指示は残存している全艦に送りました。

 ことここに至っては暗号で送る必要もありませんからね、手早く済みましたよ。

 あと必要なのは、1秒でも長く時間を稼ぐことです。

 私もお手伝いしますよ」

 

「……すまんな、鳥海」

 

「構いませんよ。私も艦娘になったときから、こういうことは覚悟の上です。

 でも気にしているようなら……あの世(むこう)に行ったら一杯くらい奢って下さいね」

 

「いいだろう。

 その時には、最高の一杯を奢ろう」

 

「約束ですよ。

 では……むこうで」

 

「ああ、むこうで会おう」

 

 今生最後と思われるその約束を交わし合い、長門と鳥海は微笑み合うと目の前へと視線を向ける。迫り来る深海棲艦が、2人に向けて砲を向けた。

 その時……。

 

 

 パァァァァ……

 

 

「な、何だ!?」

 

 海面下からの強い光、そのあまりの眩しさに長門と鳥海はもとより深海棲艦までもが目をつむる。

 そしてその光が収まった時……海上に一つの人影があった。

 

 それは、あまりに奇妙な影だった。

 明らかな子供……恐らく駆逐艦の艦娘たちと変わらない年頃と背丈の子だ。

 そしてその小柄な身体とは不釣り合い以外の何物でもない、巨大な『艤装』を背負っている。金剛型のようなX字型の『艤装』には大和の象徴たる46cm砲、それを超えるだろう巨大砲を備えている。しかもその巨大砲は四連装砲、それを左右の肩と左手に持っているもの合わせて合計3基12門だ。

 これだけでもあり得ない装備だが、その各所には大量の高角砲と機銃が空へと睨みを効かせていた。ハリネズミを思わせる、強力な対空能力を嫌でも印象付ける。

 さらに左下にあたる艤装には、これまた様々なものが付いていた。

 15.5cm三連副砲のようなものは分かるが、それ以外の大量のパラボナアンテナのような機器が何なのか、一目では分からない。あるいは電探の類なのかと思えるが、そこから放たれるオーラのようなものが、どうしても強力な武器であることを連想させる。

 

 だが、ここまでならまだ奇妙ながら理解はできる。

 もっとも奇妙かつ理解できないのは、右下にあたる艤装部分だ。そのアームの先に付いているものは鋭い先端を持つ回転する衝角……ドリルである。

 そんなものをつけた艦など、見たことも聞いたこともない。そんな突如現れた艦娘は、涙を流しながらその場に佇んでいた。

 あまりの光景に、長門たちはおろか深海棲艦までもが動きを止める。そんな中、一番最初に我を取り戻したのは長門だった。

 

「そこの艦娘、ここは危険だ! 今すぐ退避を!!」

 

 どういう状況で、その艦娘が何なのかは分からない。しかし、こんな年端もいかぬ子供が沈んで行く姿は見たくない。その想いで長門は叫ぶ。しかし、それは皮肉にも深海棲艦を正気に戻すことになった。

 新たに現れた謎の艦娘を敵と判断し、攻撃を始める。敵艦載機が爆撃と雷撃の体勢に入って、謎の艦娘に向かって行った。

 マズイ、と長門と鳥海はその場に向かおうとするが……それよりも早くその謎の艦娘が動いていた。

 

 

 ガガガガガガ……!!!

 

 

「……」

 

「なん、だと……!?」

 

 大量の高角砲と機銃が、あり得ないほどの命中精度ですべての敵艦載機を叩き落とす。そしてその艦娘は左手の砲と、両肩の砲を構えた。

 

「50.8cm砲……全門斉射!」

 

 綺麗なソプラノボイスとともに響くその爆音に、大気が震える。凶悪な威力を秘めた大口径砲は、再びあり得ないほどの命中率をもって深海棲艦に襲い掛かる。それは戦艦級や空母級の深海棲艦の分厚い装甲を突き破り、一瞬にして水底へと招待する片道チケットだ。

 その段階になり、目の前の脅威を認識したのだろう。残存している深海棲艦が一気に押し寄せる。

 だがその艦娘は眉一つ動かさず、左下の『艤装』が動いた。

 

電子熱線砲(マーカライト・ファーブ)、冷凍光線砲……照射開始!」

 

 パラボナアンテナのようなものから放たれたのは、赤と青の二色の光線だ。

 赤い光線が横切ると、それにそって深海棲艦が千切れ飛んで行く。その様子はまるで温かいナイフでバターを切るようだ。

 青い光線が横切ると、それにそって海が凍りつき、深海棲艦たちが動きを止める。直撃を受けたものは凍りつき、物言わぬ氷像となって固まる。

 

「光線兵器……!?

 そんなもの……あるはずが……」

 

 鳥海の呟きを打ち消すように、その艦娘は最後の仕上げに入っていた。

 右下のアームのドリルが、甲高い音とともに回転を始める。そしてその艦娘はドリルに右手を刺し込むようにして接続を完了すると声を上げた。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

 それは雄たけびか、それとも涙の咆哮か?

 その艦娘はドリルを構え、走り出す。その速度は艦娘最速と言われる島風など物ともしない。まさしく別次元の速度だった。

 そんな巨大ドリルの突撃に深海棲艦からの砲撃が集中するが、そのすべてがドリルに弾かれ、その突撃は止まらない。その様はまるで台風(ハリケーン)だ。そしてその台風(ハリケーン)によって……敵が轢き潰されていく。

 触れば吹き飛ぶといったドリル突進(チャージ)に、一体何が耐えられるというのか?

 その艦娘の通った後には元深海棲艦の破片が、海に沈んで行くだけである。文字通りの『鎧袖一触』だ。

 

 そして、その台風(ハリケーン)の止んだ後には、気が付けば深海棲艦はただの1体も残っていなかった。

 

「私たち……助かったの……?」

 

 あまりのことに、信じられないといった風に鳥海は呟いた。

 

「……」

 

 長門はゆっくりと、その謎の艦娘に近付いていく。そして、そんな長門に気付いたのか、その艦娘が振り向いた。

 綺麗な黒い髪に澄んだ黒い瞳……それがどうしてか、沈んでいった戦友である大和を強烈に連想させる不思議な子だった。そう考えてみると、格好もどことなく大和に似ている。半袖に短パンという差はあるが、色合いなどは大和を思い起こさせた。

 その子は先程までの暴れぶりはどこへやら、何が悲しいのかずっと泣き続けている。

 

「ん、短パン……?」

 

 その時、長門は何か違和感に気付いた。

 別に短パンの艦娘は珍しくは無いが……この子にはどうしても違和感がある。声も普通のソプラノだと思ったが、どことなくボーイソプラノの方がしっくりくる声だ。

 その時、長門はその言葉を呟いた。

 

「まさか……男の子、なのか?」

 

「……」

 

 その言葉に、その子はコクリと頷く。だが、それは本来ならあり得ないことだ。

 

 この世界に『艤装』を装備できる男は存在しない。

 『艤装』自体が女しか装備できないものであり、これは異様なまでに適正の高い『二世世代』だとしても同じだ。一説には現実世界で艦艇を形容する場合に『女性』として扱うため、『艤装』も女性にしか装備できないという。

 とにかくこの世界における一般的かつ絶対的なルールとして、『現実世界で女性として扱われていた艦艇の艤装は、適正ある女性でしか装備できない』のだ。

 男の艦娘――この場合『艦息(かんむす)』だろうか?――など、あり得ない事態だが……目の前に実物がいる以上、否定はできない。

 そんなことよりも、長門にはどうしても気になることがあった。

 

「君は、何を泣いているんだ……?」

 

「お母さんが……死んじゃったよぉ……」

 

 長門の問いかけに、その子はゆっくりと握りしめた右手を開く。

 そこには優しい光を放つ、指輪があった。そして、その指輪を長門はよく知っている。

 初めてアレをもらった日、それを祝って一緒に飲み明かしたのだ。大切な戦友との思い出、忘れるはずもない。

 そして、長門はこの子供の正体に気付く。

 

「大和の息子……なのだな?」

 

「……うん」

 

 そう答えて、またその子供は泣きだした。長門はゆっくりと近付くと、その子を抱きしめる。

 この時、長門は自分の左腕が無くなっていることを心底悔んだ。この子を両手で包み込んであげられないことに悔み、残る右手で何とかこの子を安心させようとその頭を撫で、背中を優しくさする。それが功を奏したのか、大声で泣き続けていた大和の息子もしばしの後にやっと落ち着いてきた。

 そこを見計らい、長門は静かに言う。

 

「偉いぞ、坊や。 1人で泣きやんだな。

 さすが大和の子……強い、強い子だ」

 

「うん……」

 

「私の名は長門……坊やのお母さん、大和の友達だ」

 

「お母さんの……?」

 

「ああ……。

 坊や……私に君の名前を教えてくれないか?」

 

「うん……」

 

 その子は長門の胸から離れると、よく通る、凛とした声でその名を名乗った。

 

「僕は大和型四番艦、万能戦艦『羅號』……」

 

「『羅號』か……。

 強そうな、いい名前だ!」

 

 そう言って、長門は再びその子……羅號を抱きしめる。

 

 

 ここに『究極』にして、人類最後の希望が誕生した。

 だが、そのことを知るものはまだ、誰もいない……。

 

 

 

                         第02話につづく

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 

万能戦艦『羅號』

出典:新海底軍艦他

 

 

解説:怪獣映画の大御所、あの東宝の生み出した『海底軍艦』に登場する万能ドリル戦艦『轟天号』。

   あの怪獣王ゴジラとも戦った『轟天号』だが、『羅號』は『新海底軍艦』での『轟天号』にあたる主役戦艦である。

   その船体は大和型四番艦を使用し、ある者たちのオーバーテクノロジーを取り入れて作成された究極の戦艦、『万能戦艦』の一隻。

   人類の命運を背負って戦いの海を行くことになる。

 

   強力な火砲に光線兵装、それに耐えうる重装甲、そして万能戦艦共通にして最大の特徴とも言えるドリルの一撃は強力無比。

   この一撃に耐えられる者は、基本的に存在しない。

 

   本作においても、大和の息子として戦いの海を行くことになる。

 

 




作者「おい、書いたのに全然大和出ないぞ! どういうことだ!!」
弟「いきなり大和轟沈スタートの小説書いておいて出るわけねーだろ!!
  大体なんで羅號なんだよ!!」
作者「ハーメルンには羅號も轟天号も活躍する小説がないからだよ!!
   だから俺が書くんだよ!!」
弟「アホだろお前! 何でそうマイノリティな方に全力で突っ走るんだよ!!」
作者「性分だ!!」
弟「アホだこいつ!!」

……そんな感じの会話を弟と交わしたキューマル式です。
気の向いた時の不定期更新ですが、今後ともよろしくお願いします。
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