今回は再び羅號のトンデモ炸裂。あっ、いつものことか……。
そして最後に、この物語が大きく動きます。
サイパンでの十分な休養をとったトラック残存艦隊は、いよいよ本格的な北方への旅に入った。
大量の物資・弾薬・燃料を満載しての旅路である。少しでも敵に発見される危険性を減らすため、移動は基本的に夜が中心だ。
なるべく夜のうちに距離を稼ぎ、昼間は島などに身を隠しながら整備と休養の繰り返し。
その艦隊速度は遅く、ゆっくりとした旅だ。
その速度の遅さから、長門たちは後方からの追撃部隊が追い付いてくることを懸念して長門と鳥海は飛ばせるだけの零観と夜偵を飛ばし警戒していたが……しかし、幸いにして敵艦隊からの追撃はなかった。
そのためだろうか、今まで張りつめていた緊張感がゆっくりと解けていくように子供たちに笑顔が戻っていく。
無論、長門を始めとする大人組は「油断をするな」と緊張感の保持に努めていたが、彼女たちも子供たちに笑顔が戻っていく様子は歓迎しており最低限の注意に留めている。
その順調さから、「もしかしたらこのまま何の問題もなく
そして……彼女たちに問題が起きたのは、まさにそんな時だった。
~~~~~~~~~~~~~~~
夜の闇の中をトラック残存艦隊がゆく。
南方とは違う澄んだ空気のためか月は明るく、無灯火でも静かな海をよく見渡せる。そんな星空を、羅號は航行しながら眺めていた。
それに気付いたローが、羅號に並ぶと話しかけてくる。
「らーくん、どうしたの?」
「うん。 遠くまで来たんだなぁ、って思って。
トラックとは空気が違うし、潮の香りだって違う。 星の輝きも違うや。
僕、こういうの初めてだから」
そう言って照れ臭そうに頭を掻く。
隔絶したその戦闘能力のせいで忘れがちではあるが、羅號はトラックで生まれたばかりである。そのため人生経験というものはトラックからこっちの短い期間でしかない。羅號にとって、この北の海は未知の発見に溢れていた。
そんな羅號に、ローはうんうんと頷く。
「らーくんの気持ち、とってもよく分かりますって。
ろーちゃんもドイツからこっちに来た時にはたくさん驚いたもん」
「北方は寒いから空気が澄んでるっていうのは聞いてたけど……その割には海はあんまり冷たくないんだね」
羅號は興味深そうにパシャパシャと足元の水を跳ね上げる。それは思ったほどに冷たくはなく、それどころかどこか温かいとまで感じた。
すると、今度は朝潮が羅號に並んで話しかけてくる。
「それは海底火山のせいです」
「海底火山?」
羅號の言葉に、朝潮は頷く。
「この周辺は活発な海底火山地帯で、その熱のために海水温が高くなっているんです」
「すごーい、あっしー。 物知りさんなんだね」
「朝潮、すごいよ!」
「こちらに来る前に、サイパンにあった本で少し予習しておきました。
だから実際に見るのは初めてで、『畳の上の水練』の状態なんですけどね」
あくまで付け焼刃の知識だと言いながらも褒められて嬉しいのか、朝潮は照れたように頬を掻く。
それを後ろで見ていた秋雲・吹雪・満潮の3人は、朝潮にピョコピョコ揺れる犬耳としっぽを見たような気がした。
そんなどこか観光めいた雰囲気……しかし、その雰囲気は長門の声で打ち壊された。
「なんだと!? それは確かなのか、鳥海!!」
その声に驚いた羅號たちが視線を向けると、トラック首脳陣4人が集まっている。
尋常ではないその様子に、羅號たちは何事か良くないことが起こったことを敏感に察した。やがて、すぐに全員集合するように声がかかったことでその嫌な予感は確信に変わる。
「全員、落ち着いて聞いてくれ。
先ほど鳥海の夜偵がこの先の海域に深海棲艦の大艦隊を確認した。
その規模は……あの日のトラック襲撃並みだ」
「「「「っ!!!?」」」」
長門のその言葉に、全員が息を呑む。全員にとってあの日の地獄のトラック泊地はトラウマものだ。それと同程度の敵が近くにいると言われれば、今までの平和な感覚も一発で吹き飛ぶ。
「みんな落ち着いて!」
ざわざわと騒ぎ出す中、夕張が手を叩き全員を落ち着かせる。
「鳥海、周辺の海図は?」
「一番近い身を隠せそうな島は……ダメです、夜のうちに辿り着ける距離じゃありません」
「……それでも行くしかあるまい。 幸いなことに敵はこちらには気付いていないからな。
全員、進路変更! 手近な島に退避するぞ!!」
そうして艦隊が夜の闇の中で進路を変えようとしたその時だった。
「対空レーダーに感!!」
「何ッ!?」
羅號の指す方を仰ぎ見れば、チカチカと黄色く光る敵の夜間偵察機の姿があった。
「羅號、やれ!!」
「はい!!」
長門の声とともに長門と羅號の砲が同時に轟音を響かせる。
装填されていた対空三式弾が花火のように炸裂し、敵の夜間偵察機が火の玉になって吹き飛ぶ。
「……鳥海、どうだ?」
「……電波は発信されていません」
その言葉に、ホッと長門は胸を撫で下ろす。現段階では、こちらの正確な情報が敵に渡ってはいないということだ。
「でも、そんなもの一時しのぎですよ。
未帰還機がある以上、その周辺に何かあるのは間違いないですから。
夜が明けたら本格的な敵機の偵察機隊が来襲しますよ。
そうすれば遠からず、攻撃隊もこちらに差し向けられるでしょう」
「わかっている」
夕張のもっともな言葉に、長門は苦虫を噛み潰したような顔をして思案する。
「明石、燃料や食料はどのくらい保つ?」
「燃料・食糧ともにまだ備蓄は十分ですよ。 多少の廻り道ならどうにでもなります。
ただ……投棄はおすすめしません。
必要分以外を投棄したとしても艦隊速度はそれほど劇的には上がりませんから」
「こちらが島に身を隠すまで、敵の目が節穴であることを祈るしかないというのか……」
このままでは夜の闇という守りが無くなった途端、敵の攻撃機隊が殺到するだろう。艦隊速度も遅く、可燃物満載の今の艦隊がそんな攻撃を受ければ間違いなく全滅だ。
「らーくん……」
「羅號……」
ローはいつの間にか、不安そうに羅號の手を握っていた。
朝潮も気丈にしているが、その肩が小刻みに震えているのに羅號は気付く。あの日のトラックの光景を思い出しているのかもしれない。
「……」
「らーくん……?」
「あっ……」
羅號はローと朝潮の手をギュッと握って一度頷くと、手を放して2人から離れていく。その視線の先では、長門たちが未だ喧々諤々の話し合いの真っ最中だ。
「だからこの長門が別方向に進出し、敵を誘引すると言っているのだ!」
「北の海で脳が塩漬けにでもなったんですかあなたは!
馬鹿も休み休み言ってください! そんな事すれば確実に死にますよ!!
それに敵だって馬鹿じゃない、戦艦一隻がこんなところでウロウロしてるわけないと考えて、確実に周辺に捜索を広げます。
あの数を相手に誘引も何もありませんよ! ただの無駄死にです!!
ここは全員揃って退避すべきです!!」
「だが……!!」
「ああもう! 夕張、明石!!
この分からず屋の頭、スパナとレンチでぶん殴って修理してよ!
私もハンマーでぶっ叩くの手伝うから!!」
「了解よ!」
「長門さんはちょっと修理が必要そうですね、っと!!」
「夕張! 明石! 離せッ!!」
どうやら長門が退避までの囮を買って出て、鳥海たちが必死で止めているようだ。
そんな彼女たちのところにやってきた羅號は言った。
「僕が……行きます!」
その言葉に、言い合っていた長門たちも動きを止める。
「羅號、お前……」
「僕の速度なら、夜明け前に敵艦隊にぶつかることができます。
そうすれば混乱で、こっちへの追撃は難しくなるでしょう。
対艦・対空能力だって僕はみんなよりずっと高い。おまけに……僕には『水中潜航能力』と『磁気シールド』があるんです。
少なくとも、敵艦隊がみんなを追う余裕が無くなるくらいには引っ掻き廻してみせます!」
羅號の言葉は正しい。
このまま夜明けを迎えれば、敵の大規模な航空隊の攻撃を受ける。羅號がいたとしても航空戦力が無いトラック残存艦隊が対空砲火だけでその猛攻を防ぎきれるはずは無い。艦隊の被害は甚大なものになるだろう。
だが現段階では敵偵察機はトラック残存艦隊の正確な位置を発信する前に撃墜された。敵はトラック残存艦隊の位置を『向こうの方』という大まかな方位でしか把握できない。それどころかまだ偵察機が撃墜されたことにも気付いていない可能性は十分にある。
それに対して、こちらは鳥海の夜偵によって敵艦隊の位置をほぼ正確に掴めていた。このアドバンテージを生かし足の遅い艦隊を守るためには、『攻める』ことが最良なのは分かっている。しかし、問題なのはその『攻める』ことができるのが羅號ただ1人だということだ。またすべてをこの小さな少年に丸投げして背負わせ、たった1人で敵の大艦隊に突っ込ませるということなのだ。
戦場に『絶対』など無い。いかに羅號が隔絶した性能を誇ろうとも、だ。
羅號は『最強』を超えた『究極』の艦息だが、決して『無敵』の艦息ではないのである。
だからこそ長門を始めとした大人たちは、大人としての良識と良心によって羅號の言葉が正しいと分かっていながらも頷けない。
しかし、羅號は変わらぬ笑顔のまま続けた。
「大丈夫、僕は沈みません。
だからお願いです。
みんなを守るために……僕を行かせてください!」
「……わかった」
その真っ直ぐな視線に貫かれ、しばしの後に長門は頷く。
「羅號、これより敵艦隊に対し奇襲攻撃を行い、艦隊退避までの時間を稼げ!」
「了解です!」
ビシリと綺麗な敬礼をとった羅號は、キビキビとした動きでまわれ右をした。
その羅號の背中に、長門は声をかける。
「羅號……お前の任務はあくまで奇襲と時間稼ぎだ。
絶対に、絶対に無理をするな」
「分かっています、長門さん」
そう答える羅號の元に、今度はローと朝潮がやってきた。
「うー、らーくん……。
その……気を付けてね、って……」
「よもやあなたが遅れをとるとは思わないけど……それでも気を付けて」
「心配してくれてありがとう、2人とも。
でも僕は大丈夫だから。 みんなこそ退避完了までは気を付けて」
そう言って2人を手で制して離れさせると、羅號の主機である『零式重力炉』が唸りを上げ始めた。
「万能戦艦『羅號』、出撃します!!」
巨大な波を立てながら羅號が海を滑り出す。その速度は最大級の大型艦であるにもかかわらず誰よりも速い。
あっという間に夜の闇に消えていく羅號、その背中を長門たちは誰からとも言わず敬礼を持って見送ると、手近な島への退避のために進路を変えたのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
「……レーダーに感。 敵大規模艦隊、発見」
夜の闇に隠れながら、羅號は敵の艦隊をレーダーに捉えていた。
その陣容は凄まじく、ル級・タ級の戦艦級はすべてエリートタイプ、正規空母ヲ級に至ってはフラグシップクラスが混ざる。
それを、それこそ海を染めるかのように駆逐・軽巡級の艦が廻りを固めていた。まさしく、威風堂々たる大艦隊である。
羅號は高性能なレーダーと夜の闇のおかげで、未だに敵艦隊には気付かれぬ位置でそれを観察していた。
だがこれ以上接近すれば確実に気付かれるだろう。それは潜航能力を使って水中を行ったとしても同じだ。羅號ほどでないにしろ、深海棲艦の対潜部隊はかなり性能のいいソナーを装備している。
「さて……」
羅號はその潜航能力で海中に身体のほとんどを沈めながら敵情を観察しながら思案する。
途方もない大艦隊を前にしても、羅號はそれほど危機感はなかった。
それというのも油断さえなければこの大艦隊を前にしても立ち回ることができるというのが分かるからだ。ここ最近では『潜航能力』や『磁気シールド』など、自分自身の能力を徐々に把握しつつあることで、この自信は自惚れでなく確信を持って言える。だから単純な時間稼ぎだけなら、今すぐ完全浮上して敵に突っ込んで行けば事足りるとも考えていた。
ならば、羅號は何を今思っているのか?
「少なくとも、空母だけは逃がすわけにはいかない……」
攻撃半径と索敵距離が広い空母は艦隊にとって脅威だ。特にトラック残存艦隊は航空戦力が皆無なのである。いかに羅號の対空能力が優れていてもそれにだって限界はある。だからこそ艦隊の安全のためには、この奇襲で最低限空母だけはすべて艦載機発着艦不能になる以上のダメージを与えなくてはならない。無傷などもっての外だ。
しかし、今このまま羅號が突撃を敢行したら、十重二十重にも展開された分厚い駆逐・軽巡の護衛艦隊を突破しなくてはならない。その突破の間に、空母に逃げられてしまう可能性がある。
「それに……」
チラリと、羅號は海中に視線を落とす。
羅號の高性能なソナーは、この海中に敵の潜水艦が多数いることを察知していた。
隠密性の高い潜水艦も、トラック残存艦隊にとっては非常に怖い存在だ。これらも羅號の襲撃を察知して逃げられたら、空母と同じような脅威になり得る。
羅號はいかにしてこの奇襲でこれらの脅威を逃すことなく、最大の出血を敵艦隊に強いられるかということを思案していたのだ。
「……どうしよう?」
温かい海に半身を浸かりながら羅號はため息をついた。その時、ふと羅號は違和感に気付く。
「?
そういえばここ、海水温が他より高い気が……?」
そんな羅號の脳裏を、朝潮の言葉が駆け巡った。
(この周辺は活発な海底火山地帯で……)
「……もしかして……」
羅號はいったん潜航すると、意識を集中させて海中を探り見る。そして……羅號は『それ』を見つけた。
「……よし、これなら!」
決断をしたのなら、迷わない。あとは行動の時間だ。
羅號は放たれた銃弾の如く、行動を開始する。羅號はその身体を完全に沈め潜航状態に入ると、力強く進んで行った……。
~~~~~~~~~~~~~~~
集結した深海棲艦の大艦隊は、『命令に従い』堂々たる輪形陣の万全の状態で『待ち伏せ』を行っていた。
やってくる艦隊は確かに強力だが、これだけの数ならば押し切れる。
深海棲艦隊は静かに、会敵の瞬間を待っていた。
その時だ。
ゴゴゴゴゴ……!!
不気味な地鳴りに何事かと警戒する深海棲艦隊。
そして……『海面が爆発した』。そうとしか表現できない。
海面が盛り上がったかと思うと轟音とともに弾け飛ぶ。それをモロに受けた駆逐艦が跳ね上がり、真っ二つに折れ曲がった。
そして直後に巻き起こる大渦。
その強い潮の流れに巻き込まれ、その多い数が逆に仇となって深海棲艦隊は衝突が続出して大混乱に陥った。方々で衝突による沈没が発生している。見事な防御陣形は散々に乱れ、もはや見る影もない。
旗艦である空母ヲ級フラグシップは懸命に隊列を整えようとするが、荒れ狂う波に翻弄され姿勢を維持することさえままならない。
そんな中、僚艦である空母ヲ級エリートクラスが突如として爆発を起こして海へと沈んで行く。
何事かと見れば、そこにいたのは巨大な砲とドリルを携えた敵……艦娘の姿があった。
「だぁぁぁぁぁぁ!!!」
荒れ狂う海を掻き分け、その艦娘は隊列の乱れ切った艦隊へと突撃してきた。
大口径砲が火を噴き、副砲が乱射され、見たこともない光線兵器が艦隊を焼き切り、凍りつかせて水底へと引きずり込む。ぶつかっていく艦は、その凶悪なドリルの回転に巻き込まれて弾け飛んだ。
戦艦ル級や戦艦タ級が砲撃を行ってそれを食い止めようとするも、安定しない足場での砲撃はあさっての方向に飛んでいき、酷いものだと味方に当たってしまっている。
その艦娘は止まらない。その暴れようはまさに
その
~~~~~~~~~~~~~~~
「「……」」
夜が明け、何とか近くの島に身を隠したトラック残存艦隊。
未だ緊張状態を解かず、島の植物の影に隠れながら彼女たちは注意深く監視をしていた。
そんな中、誰より早くローと朝潮がそれを見つける。
「あっ!」
「あれ!!」
それはゆっくりとこちらに向かってくる羅號の姿だ。大きな損傷は見受けられず、煙を吹いている様子もない。
「らーくん!」
「羅號!!」
「あっ、こらお前たち!」
長門の止める声も聞かず、思わず飛び出していくローと朝潮。
羅號はゆっくりとした足取りで水から上がる。そんな羅號にローは飛び掛かるようにして抱きついた。その様子を見た朝潮は目を丸くしてしばし逡巡するが、やがて意を決したようにローと同じように抱きつく。
そんな2人を受け止めて、髪を一撫でしながら羅號は2人に言った。
「ただいま、2人とも」
「「おかえりなさい!」」
笑顔の羅號に、ローと朝潮も返した、
「あー……再会を喜ぶのもいいが、まずは報告をしてくれないか、羅號」
「ご、ごめんなさい、長門さん」
長門の指摘に、羅號はローと朝潮を引き剥がすようにしてすぐさま敬礼をした。引き剥がされたローと朝潮も、ちょっとバツ悪そうに敬礼する。
その様に苦笑してから、長門は先を促した。
「敵艦隊に対して奇襲を敢行、敵艦隊の『殲滅』に成功しました」
その言葉に、長門は目を見張る。
「『殲滅』、だと?」
「はい、『殲滅』です。
敵主力大型艦も水雷戦隊も目に見える敵はすべて沈みました。
恐らく潜水艦隊も撃破してると思います」
間違いではないのかと聞きなおすも、羅號の言葉は変わらない。
その間に、偵察機を飛ばして周辺の警戒を続けていた鳥海がため息交じりに続けた。
「……長門さん、羅號くんの話、本当みたいですよ。
偵察の結果、あれだけの規模の敵艦隊が影も形もありません。
でも……」
そこで鳥海はもう一度ため息をついた。
「周辺の海流が無茶苦茶になって、そこらじゅうで大きな渦潮が起きてます。
一体、何をやらかしたんですか、羅號くん?」
「いえちょっと……海底火山を噴火させました」
「「「「……はぁ?」」」」
羅號の言葉に、長門たち大人4人は揃って間の抜けた声を上げた。
敵大規模艦隊、その数は多く十重二十重の護衛艦隊に守られた主力空母艦隊。さらには海中には多数の潜水艦が潜んでいた。
確かに羅號の戦闘力なら戦えばダメージは与えられるだろうが、時間はかかる。その間に少なくない数の敵が逃げてしまうことも間違いは無かった。
何とか敵に逃げることができないように大ダメージを与えられないものかと考えていた羅號。そんな時に羅號は妙な海水の温かさからこの辺り一帯が活発な海底火山帯であるという朝潮の言葉を思い出したのだ。
そして羅號が海底を調べてみると、そこには活発な反応をする海底火山が存在していたのである。そこで海底にまで潜航した羅號はそのドリルで海底火山を抉り、海底火山の噴火を誘発させた。それによって海中・海上問わず強力な潮流が巻き起こり、深海棲艦の艦隊に大損害を及ぼしたのである。
海上ではその影響で艦同士の衝突が相次ぎ、小型艦はそれにより多数が沈没。大型艦も身動きが取れなくなった。
海中では潮流によって揉みくちゃにされた潜水艦が、海中で沈むという事態に陥った。何とか急速浮上で海上まで辿り着いた潜水艦は、今度は艦同士の衝突に巻き込まれる。
そして、そんな大混乱に羅號が乱入し、文字通り敵を『殲滅』したのだった。
「「「「……」」」」
話を聞かされ、長門たち4人は開いた口が塞がらなかった。
どこの世界に敵を倒すのに海底火山を噴火させようと考え、あまつさえ実際に実行するような者がいるのか?
まぁ、目の前にいるわけだが……。
「……なぁ、みんな。 とりあえず今の話は誰にも言うなよ」
「当たり前ですよ。 こんな話、話したところで頭が大丈夫か心配されるだけです」
「……この辺りの生態系、しばらくは酷いことになるわね」
「お墓に入るまでこの話、確実に持っていかないと……」
長門・鳥海・夕張・明石は口々に言うと揃ってため息をつく。
「とりあえず、だ……」
長門はチラリと羅號を見る。
羅號の話にローや朝潮は素直に「凄い!」と褒め称え、羅號も照れ臭そうに頬を掻いていた。
「良く考えれば羅號は生まれたばかり。人生経験は足りないのだった。
これからは羅號には常識と自重という言葉をしっかりと教えようと思うのだが、どう思う?」
「「「賛成!」」」
大人4人は満場一致で頷きあうが、もう遅いかもしれない。
再び、大人たちは揃って大きなため息をついたのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
空から迫る黒い航空機……それは深海棲艦の航空機だ。
それを眺める影が海上にある。
透き通るように白い肌のその人影……それは深海棲艦と呼ばれるものだ。
空母ヲ級に戦艦タ級、戦艦ル級が1人ずつ。全員が改フラグシップを意味する黄色のオーラと目からの青い燐光を滲みださせている。その漂う覇気が、それぞれが各海域を預かる旗艦となり得るだけの猛者であることを示していた。そしてそんな3人に、駆逐ニ級後期型2隻が護衛として付き従う。
そして、そんな集団の先頭に一段背の高い存在が立っていた。
スラリと高い背に、縦じまのセーターのような服の女性だ。抜けるように白い肌と額から生えた角が、彼女も深海棲艦であることを物語る。
彼女はゆっくりと、空に向かって手を掲げた。
すると、その細いスラリとした手に巨大な鉤爪が出現する。同時に、その背中には巨大な艤装が現れた。
「来るナと、言ってイルのニ……」
困ったように、そして憂いるように呟くと彼女の背中の艤装から猛然と白い球体のような艦載機が次々と発艦していく。
同時に空母ヲ級改フラグシップからも白い艦載機が発艦、それらは向かってくる黒い航空機に襲い掛かった。圧倒的な機動力で白い球体のような艦載機が、黒い航空機を駆逐していく。
航空戦の敗北を悟ってか、それを行った者たちが接近してきていた。
軽空母ヌ級2、雷巡チ級2、戦艦ル級1、重巡リ級1の艦隊だ。
すると、再び鉤爪の彼女はその手を振り下ろす。
彼女の艤装に装備された、要塞砲とも言える大口径砲が吼えた。同時に戦艦タ級改フラグシップと戦艦ル級改フラグシップたちも猛然と砲撃を加える。
その砲弾の嵐とも言える集中砲火が終わった後には、海上に残っていたのは彼女たちの艦隊だけだった。
深海棲艦同士の奇妙な戦いを制した鉤爪の彼女は、もう敵がいないことをレーダーで確認すると艦隊を指揮して近くの島へとやってきた。
そこには補給ワ級が2、それらを護衛する軽巡ツ級が1、駆逐ロ級後期型3がいる。そして、クルーザーのような船が一隻、停泊していた。
彼女たちがその船に近付くと、その中から1人の影が飛び出す。
「ウィン、大丈夫!?
皆も怪我は無い!?」
それは女であった。
歳は20ほどだろう、柔和そうな垂れ目がポイントの美人である。
そんな彼女に、『ウィン』と呼ばれた鉤爪の彼女を筆頭に全員が礼をとるように膝を付き、頭を垂れた。
「大丈夫デす、アネット様……」
「そう、よかった……」
『アネット』と呼ばれた女性の、心底安心した表情。それを自分たちを心から気遣ってくれているのだとわかり、彼女たちは嬉しくなって頬が緩む。
しかし『ウィン』はすぐに真顔に戻ると続けた。
「追手ハ撒キましタ。 シバらくココは安全でショウ」
「そう。
……でもあまり時間は無いわ。 先を急がないと」
ホッとしつつも先を急かすアネットを、『ウィン』は手で制した。
「ここマデの強行軍で、艦隊にモ貴女にモ疲レが出ていマス。
休養ハ必要デすよ……」
「確かに、それは……」
今までの強行軍でかなり無茶をしている自覚のあるアネットはすぐに口ごもる。
「今、妹ガ先ノ海域を偵察していマス。
その結果ヲ持ち帰ルまでシバらく、休ンデ下さイ」
「……わかったわ」
『ウィン』の言葉に頷きながら、アネットは絞り出すように言う。
「もうあまり時間が無い……。
早く人類勢力に接触して、何としてもこんな戦争は止めないと……」
「……」
その言葉に『ウィン』……『港湾棲姫』と呼ばれる深海棲艦の上位種、『姫』の一角である彼女は静かに頷くのだった……。
海底火山の噴火は、ゴジラファイナルウォーズでの『轟天号VSマンダ』戦のオマージュでした。
次回、最後のヒロイン登場。
来週も更新予定です。
次回もよろしくお願いします。