独自設定満載ですが、この物語ではこうだということで……。
真実 艦娘と深海棲艦の謎 前編
『艦娘』と『深海棲艦』……これはともに謎の多い存在だったわ。
通常兵器がまるで通用しない『深海棲艦』は謎の塊、一から十まで謎だらけよ。そして、それに対抗する『艦娘』だって同じ分だけ謎を持っていたわ。
そもそもよ、『深海棲艦』の襲来からあまり間を置かずに『艤装システム』、そしてそれを装着することで『深海棲艦』と戦えるようになる『艦娘システム』、そしてそれらを運用・開発する『妖精さんの存在』……これらの技術は生み出されたことになっているわ。
深海棲艦襲来までその基礎的な研究すらなかったというのに、『深海棲艦』に対抗するための『艦娘』というシステムは驚異的な早さで実用化にまで至っているのよ。
これはどう考えてもおかしいわ。
確かに今までの人類の歴史を紐解けば、たった1人の天才によって生み出された画期的な技術が驚異的なスピードで広がったということはある。特に戦争のように切羽詰まった状況なら、画期的新技術っていうのは結構生み出されているわ。まさに『戦争は技術開発の母』といったところかしらね?
でも、こと『艦娘』に関してはその辺りがあまりにも不自然すぎた。
……今考えるとお笑いよね。
敵である『深海棲艦』のこと、それどころか『艦娘』という自分たちのことすら分からず私たちは戦っていたんだもの。あそこまで完璧で見事な情報隠ぺいは、他には無いんじゃないかしらね?
でもね……『謎』というものは往々にして、いつか解き明かされるものなのよ。
あの日私は……ううん、私たちトラック泊地残存艦隊は『艦娘』と『深海棲艦』、そしてあの戦争に関するすべての謎を知ったわ。そしてそのことで私たちは『艦娘』と『深海棲艦』、そして人類の未来に関わる重大な戦いに、首までドップリ浸かることになったのよ。
そして、そんな私たちの先頭を……人類の希望を背負ってひた走るのが羅號くんだった。
……明石は羅號くんの強すぎる力に、結構警戒心があったみたいだけど私は違うわ。未知という名のスリル、探究心という名の渇望とそれが満たされることで得られる、まるで麻薬のような快楽……はっきり言うと、私はそれに完全にハマってたってわけ。
あともう5歳、あともう5歳若かったら羅號くんと年齢的にもお似合いで、カップル候補に名乗り出るんだけどなぁ……。
って、今のはオフレコで! あの娘たちに知られたら何されるかわかんないから。
まぁ、今のお姉ちゃん枠も十分気に入ってるし、今のままでも十分だけどね。
色々……本当に色々試させてもらってるし!
――――――鎮守府研究部主任『夕張』へのインタビューより抜粋
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その夜、応急修理の終了した深海棲艦『重巡ネ級』こと『イリス』の先導に従ってトラック残存艦隊全艦は島を出立した。
距離的にはそう離れているわけでもなかったため、食糧や物資は島に置いたままである。
「……」
航行する彼女らの顔は、様々な色を含んでいた。それはそうだ、これはおそらく人類初の深海棲艦との『対話』となるのだから。
不安・恐怖・期待・希望……それらをミキサーで混ぜ合わせたような、何とも言えないような感情が渦巻き、それがどうしても顔に出てしまう。
だが……変わらない者だっている。
「ラゴウ、オネーチャンに紹介すル!」
「ちぃちゃんのお姉さんかぁ……どんな人なの?」
「オネーチャン、オッパイ大きイ! 背高イ! 綺麗! 優しイ! 大好キ!」
「うん……綺麗でとってもいい人だっていうのはわかったけど、何で最初に胸の話が出てくるの?」
テンションのひたすら高い北方棲姫『ちぃ』の言葉に、羅號は苦笑いだ。
「ローもアサシオも、オネーチャンに紹介すル! ちぃ、友達できタって紹介スる!」
「えへへっ……」
「ま、まぁいいですけど……」
『ちぃ』に友達だと言われて、ローも朝潮も照れくさそうに頬を掻いた。
『ちぃ』は人見知りがするのか中々簡単には心は聞かないが、どうやら一度心を開くとトコトン懐くタイプだったらしい 。そこにはおかしな思惑などなく、ローと朝潮に向けているのは純粋な好意と親愛だ。
普通、純粋な好意をぶつけられればその相手に悪い印象を持つことなど稀である。そしてローと朝潮はそんなひねくれた人間ではなかった。
最初は敵であった深海棲艦ということで身構えることはあったものの、ローも朝潮も『ちぃ』からの友達宣言をどこか受け入れている。そのため、彼女たちと羅號の間ではとっくに敵味方の区別などなかったのだ。
そんな光景に和まされることしばし……トラック残存艦隊は、目的海域へと到着していた。
「着イタぞ……」
先導していた『イリス』の声。その時、艦隊の頭上に白い球体のような艦載機が迫る。反射的に身構えるトラック艦隊だが、『イリス』がそれを制した。
「味方の偵察機ダ……」
『イリス』の言葉通り、その艦載機は頭上を二度三度旋回するとそのまま戻っていく。やがて、目的地である島からこちらに艦隊が 向かってきていた。
「あれは……」
「凄い陣容……」
向かってくる艦隊に長門と鳥海は思わず声が出てしまう。
タ級改フラグシップ、ル級改フラグシップ、ヲ級改フラグシップ、軽巡ツ級……それぞれが隙のない見事な艦隊機動をこなし、それだけで恐るべき練度を持つ集団であることがわかる。
さらにその先頭には、旗艦である港湾棲姫の姿があった。
普通ならば泊地や基地の総力を挙げて戦わねばならないような恐るべき集団である。しかし、視認距離にまで接近しても相手からの敵意は感じられない。
その時、羅號の隣にいた『ちぃ』が飛び出していった。
「オネーチャン!!」
『ちぃ』はそのまま、港湾棲姫の胸に飛び込んで行った。
港湾棲姫もその特徴的な鉤爪を消すと、その手で『ちぃ』を抱きとめる。
「ちぃ、大丈夫? ケガは無イ?」
「ウン。 ジュノーたチや、ラゴウたちニ助けテ貰っタ」
「ソう……」
そう言って『ちぃ』の頭を撫でる港湾棲姫には妹の無事を喜ぶ姉の顔と、妹の護衛戦力だった部下を失ったことを憂う指揮官としての顔の二つが同居していて、その複雑な胸中が見て取れる。
「……ジュノーは……妹ノ最後は……?」
「……最後まデちぃ様を守り、戦イ抜いタ。
ちぃ様や私ガ生きテいルノは、ジュノーのおかげダ。
……スマない、『アトラ』」
「謝ル必要はナイ。 妹はソノ役目を果たしタ。 ダ力ラ、褒めてヤッテほしイ」
一方、『イリス』は軽巡ツ級に対して『ジュノー』の最後を説明していた 。
『ジュノー』は彼女の妹だったらしい。その最後に目を伏せるが、『ジュノー』の立派な最後を褒めてほしいと言って気丈に振る舞う。
それを見てトラック艦隊の面々は、改めて彼女たちは他の深海棲艦とは違い、間違いなく自分たち人類と同じく『感情』を持っているのだということを理解した。
やがて一通りの説明を終えたらしく、『ちぃ』と『イリス』を伴って艦隊が接近してきた。
「話ハ聞かセテもらっタ。
私ハ旗艦、港湾棲姫の『ウィン』」
「戦艦タ級改フラグシップの『メリー』とイう」
「アタイは戦艦ル級改フラグシップの『アイ』ダ」
「空母ヲ級改フラグシップの『ヨーク』……でス」
「軽巡ツ級の『アトラ』」
次々に自分の『個体名』を名乗っていく。
「妹と仲間ヲ救ってクレて、アリガトウ。 貴艦隊の温情ニ、最大の敬意ト感謝を」
そう言って『ウィン』はスッと長門に向かって、手を差し出してきた。長門はその手を取って握手を返す。
「こちらこそ、君たちのような者に平和的に接触できたことをうれしく思う」
その言葉に『ウィン』は満足そうに微笑む。
「それで早速で済まないが……我々もそちらの事情が呑み込めていないのだ。そちらの事情の説明を頼めないだろうか?」
長門の言葉に、『ウィン』は少しだけ困ったような顔をする。
「スマなイ、それハ私たちノ『指導者』でナケレば……」
「? 貴女が旗艦なのだろう?
貴女が『イリス』の言っていた『指導者』ではないのか?」
その言葉に『ウィン』は首を振る。
「私はコの『指導者』を守ルためノ、護衛艦隊の旗艦にすぎナいノ」
そう言って『ウィン』は長門たちを促す。
「私たちノ『指導者』がオ待ちヨ。 こちらニ……」
『ウィン』たちに先導され、トラック艦隊の面々はその島へと上陸した。その少し先に、擬装された天幕が並んでいる。どうやらこの天幕にその『指導者』というのがいるようだ。
「……こう言ったらなんだけど……」
「深海棲艦っぽくないですね……」
『深海』という呼び名からどうしてもジメジメしたイメージがあるのだが、目の前の野営地からはそんなイメージは湧いてこないと、少しばかり失礼な感想を夕張と明石は小声で話す。
一方の鳥海はそんな野営地の『人間臭さ』から、どうにも嫌な予感がしてならない。
(まさか、あの与太話が真実だというのはさすがに……)
そんな鳥海の心情を無視して、ついに長門たちはその大きな天幕の前に立った。
「ココよ」
そう、中に入るように促されるトラック艦隊の面々。
この先に、長年の謎だった深海棲艦の真実があるのかもしれない……ゴクリと誰かの喉が鳴った。
ついに意を決したように長門がその天幕の入り口を開く。
「失礼する」
そして中にはいった長門たちの見たものは……。
「初めまして、地上人類の皆さん……」
そこにいたのは1人の女性だ。
甘栗色の肩までの髪。肌は白いが、深海棲艦のような病的な白さではなく、ごくごく普通の白人的な白い肌。
さらにそれを彩るように着けられたティアラ状の装飾に、身にまとう白い装束……これらは一目でかなり質のいいものであることが見て取れる。
歳のころは長門と同じくらいの20ほど、整った顔立ちの美人だ。
そんな彼女はトラック艦隊の面々を認めると、座っていた椅子から立ち上がって彼女たちを迎えた。
椅子から立ち上がる動作や、ただ歩くという動作からも気品のようなものが溢れ出ている。
彼女はどう見ても『深海棲艦』ではない、どう見ても……『人類』である。
面喰って硬直する長門たちに歩み寄ってきた彼女は、『ウィン』と同じように手を差し出しながら言った。
「私の名前はアネットといいます。
この『レムリア亡命艦隊』の指導者、そしてこの戦争を終わらせたいと願っている、『レムリア人』の1人です」
「『レムリア人』……?」
聞いたことのない呼称に思わず声が出てしまう長門に彼女……アネットはさらに驚くべき言葉を投下する。
「そうですね……『深海棲艦』を造り出し、ただいま地上人類勢力と戦争中で、あなたたち地上人類に『艦娘』のシステムを提供した国家の人間……と言えばわかりやすいでしょうか?」
再び投下された言葉の1トン爆弾に、今度こそその場にいた全員の心が驚きで吹き飛んだ……。
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島の中の野営用天幕……かなり大きめなそれの中は今、多くの『艦娘』と『深海棲艦』と呼ばれるものが揃っていた。
さすがに数が多すぎて椅子はないため 、床のシート上に全員が座っている。
『トラック残存艦隊』の面々はこれからの話を聞くために、長門が全員参加するように言ったことで10人全員集合した状態だ。
さすがに手狭でローや駆逐艦娘、そして羅號と子供たちは体育座りですし詰め状態だが、これからの話がどれだけ重要なのかは理解しているので文句は言わない。
長門を筆頭にした首脳部も姿勢を正して全員正座であった。あまり慣れないらしく夕張と明石は顔をしかめているが、さすがは鳥海は澄ましたものである。
一番意外なのは長門だろうか。スラリと背筋を伸ばした正座はとても美しい姿勢で、彼女が高い教養をつんだ名門のお嬢様だということを示していた。
一方、『深海棲艦』側……彼女らいわく『レムリア亡命艦隊』の面々はその旗艦である港湾棲姫の『ウィン』を筆頭に、『ちぃ』に『イリス』、『ヨーク』に『メリー』に『アイ』、そして彼女らの指導者だという『アネット』というメンバーである。
『アトラ』は他の駆逐を率いて 、周辺警戒を行っていた。
彼女らはどうも正座の文化はないらしく、全員足を崩した形で座っている。
そんな中、長門としてはアネットの様子が少しだけ気になった。
アネットは足は崩しているものの、その背はしっかりと伸ばされた綺麗な姿勢だ。その細い手の指もピンと伸ばされ、綺麗に組まれている。
他者から見て綺麗な姿勢というものは、実はなかなかやるのは難しい。それをアネットはまったくぎこちなさを感じさせない、『ごく自然』に行っているのである。
その様子から、長門はアネットを『かなり高い教養を受けた存在』である、と推測する。長門がそんなことを思っていると、そのアネットの方から話を始めた。
「少しは落ち着かれましたか?」
それは先ほど彼女が、『艦娘と深海棲艦を生み出した者たち』と言ったことへの動揺から回復したかという問いである。
「ああ……と言いたいところだが、正直私もいまだに話しが呑み込めていない。だから教えてほしい。
あなたたち 『レムリア人』とはなんなんだ?
我々『艦娘』と『深海棲艦』とは?
この戦争は一体何を目指しているのか?
そして……あなたたちは一体、何を目的としているのか?」
長門の言葉に、アネットは領く。
「わかっています。あなた方には、すべてをお話ししましょう」
そして、アネットは一つ息を吸い込むとその信じがたい話を語りだした……。