艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

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今回も説明回。

独自設定満載ですので、一応の注意です。
この設定はあくまでこの物語だけのものとなります。


真実 艦娘と深海棲艦の謎 後編

 遂にアネットの口から、この戦争の数々の謎が語られ始める。

 

 まずは『レムリア』という国家についてだ。

 アネットの言う『レムリア』という国家……これは遥か2万年の昔に、現代を遥かに超える科学力を持って栄えた、いわゆる『超古代文明』と言われるものだった。

 

 いきなり怪しげな雑誌にでも載っていそうな話に面食らうが、アネットの表情は真剣そのものだ。トラック残存艦隊の面々はそのまま先を促す。

 

 その超科学によって栄えた『レムリア』だが、その終焉は唐突だった。

 今から2万年ほど前に『レムリア』はその大陸ごと、海の底へと沈んだのである。

 その原因には地殻変動や新兵器の誤爆など、諸説はあるようだがはっきりとはしないようだ。

 とにかく結果として、超古代国家『レムリア』は跡形もなく海の底へと沈んでいったのである。

 しかし……『レムリア』の人々は絶滅してはいなかった。

 わずかな……その元の人口からすればほんのわずかな人々は、海底に造られた施設にて生き残っていたのである。

 

「私も、そんな生き残ったレムリア人の1人です」

 

 僅かに生き残ったレムリア人だが、その前途は暗かった。彼らは基本的な生活インフラのすべてを失ったのだ。

 遠からず滅びは避けられないと思われていたが、そんな彼らにいくつかの幸運が味方する。

 まず、都市管理級の超高性能コンピューターが生き残っていたことだ。そしてそのコンピューターが操る作業ロボットたちも生き残っていたのである。

 そこで生き残っていたレムリア人たちはコンピューターと作業ロボットたちが生きていくのに必要な生活インフラを整えるまでの間、生命維持装置によるハイバネーション……いわゆる『冬眠』することで時を待つことを選んだのである。

 

「つまり全自動ロボットたちがそこに生きてく環境を整えるまで寝て待つ、ってことね」

 

「その通りです。

 備蓄されていた食糧も酸素だっていつかは尽きますから、普通に私たちレムリア人が起きて環境を整えるという手段が時間的にも取れなかったんですよ」

 

 夕張のざっくり噛み砕いた理解に苦笑しながらも、アネットはそれ以外に方法がなかったということを語る。

 

「とはいえ、生き残った作業ロボットの数もそう多くはなく、私たちが生きていけるだけの状態まで環境が整うまでには、本当に長い長い時間がかかりました。

 私たちがその眠りから目覚めたのは約2万年後……今から20数年前のことです」

 

「20数年前!? それは深海棲艦の……!?」

 

「はい、出現と同時ですね。

 それは当然です。 私たちが……彼女たちを創ったのですから……」

 

 約2万年の長い眠りから目覚めたレムリア人たちは、さっそく地上の様子を調べ始めた。すると、そこには2万年前までは影も形もなかった人類文明が花開いていたのである。

 

「私たちレムリアはあなたたち……私たちから見ると『地上人類』ですが、その国家に接触して交渉を持つことになりました。

 しかし……気分を害さないで頂きたいんですが、今の地上人類の科学力はレムリアよりも低いです。

 しかし、私たちレムリア人の生き残りは2万人に僅かに届かない程度です。このまま交渉を行っても対等な話にはならず、レムリアが一方的に搾取されてしまいます。

 そのため、地上人類と平和的に対等な交渉をするために戦力を持つことが不可欠となりました……」

 

 平和的交渉をもつために武力を持つ……一見矛盾しているように思えるが、そうでもない。

 『平和を欲するならば戦いに備えよ』とは有名な言葉だが、武力の後ろ盾もなく国家間の交渉などできはしない。武力の後ろ盾が無ければ、ただ貪り食われるだけというのは当然の話だ。

 だから『平和的交渉をもつために武力を持つ』というのは国家として当然の、正しい発想である。

 

「そしてその戦力というのが……」

 

「『深海棲艦』というわけですね」

 

 鳥海の言葉に、アネットは頷く。

 

「恐らく察しているとは思いますが……レムリアは全部滅んで2万年かけて作り直したような歴史のため、科学知識や技術は高くとも、『工業力』という面では地上に劣っています。

 そのため『工業力がそれほど必要とならず、かつ戦力として十分なもの』が必要になりました。

 そこでとられたのが『想念固定化』という技術です」

 

 レムリアには『想念固定化』……つまり想いを形に変えるという技術があった。そして海の底には、先の大戦によって沈んでいった艦艇と、そこに残る想い……無念であったり後悔であったりというものがいくらでも存在している。

 それを固定化することで生み出された人工生命体……これが『深海棲艦』だと言うのだ。

 

「『深海棲艦』の正体……『深海棲艦の正体は海で死んだものの亡霊説』が、一番正解に近かったんですね……」

 

「これ、公表したら『某国家の秘密兵器暴走説』とか『宇宙人説』とか唱えてる学者は憤死ものじゃない?」

 

「『宇宙人説』はともかく、『某国家の秘密兵器暴走説』はニアヒットじゃないですか?

 レムリア国の『秘密兵器』なんですから」

 

 明石と夕張は、ついに判明した『深海棲艦』の正体について乾いた笑いで言い合う 。正直、あまりに衝撃的すぎてこのぐらいでないとやっていられないのだろう。

 実際、『深海棲艦』は秘密兵器と言って差し支えない。

 同等の『想念固定化技術』のものでなければまともに傷付けられず、さらにどれだけやられても再び数多ある想念を固定すればいい。

 まさに『無限艦隊』のようにいくらでも補充が可能なのだ。

 さらにコストも安い。

 恐らく兵器としては、最上級の有用性だろう。

 

「その内容からすると、やはり我々艦娘の『艤装』は……」

 

「はい。レムリアからの『想念固定化』技術によって作られています。

 その辺りの事情も後程出てきますので……」

 

 『深海棲艦』という武力を持ったことでついに地上との交渉を決意したレムリアだが、その段階になって交渉の方針が分かれてしまい、結果として2つの派閥が形成される。

 それは『共存派』と『制圧派』の2つだ。

 

 『共存派』というのは、その名の通り『地上人類との共存』を求める派閥だ。

 すでにレムリアは亡国であり、地上はこの2万年の間文明を発展させ続けた地上人類のものである。だからこそ彼らと融和し共存・共栄の道を歩むべきだというのがその趣旨だ。

 

 一方の『制圧派』はより過激な、『制圧又は軍事的圧力によって地上人類を屈服させる』という主張の派閥だ。

 地上人類の科学力はレムリアよりも数段劣っており、ならばその科学力を背景にレムリアが地上人類を導くべきだという趣旨である。

 

「では貴女がその『共存派』のリーダーというわけか?」

 

「ええ、その通りです」

 

 長門の言葉に、アネットが領く。

 

「そしてもう片方の『制圧派』のリーダーというのが、私の双子の姉である『アブトゥ』でした」

 

 アブトゥは自分たちよりも劣っている地上人類に頭を下げるなど許せない、と過激な主張で『制圧派』を纏めたのだ。

 

 しかし結局、彼女たちの父である国王コルドバが『共存派』の意見を採用したことでレムリア側の交渉方針は纏まったのだが……。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。 今、貴女の父が国王だと聞いたのだが……」

 

「ええ、それで間違いありません。

 私、一応レムリアの王位継承権を持つ『姫』となってます」

 

 アネットの答えに、長門はそのしぐさから滲み出る気品の正体がやっとわかった。

 

(育ちがいいとは察していたが、まさか王族とは……)

 

 心の中でひとりごちてから、長門はアネットに先を促す。

 

「今の話だと、レムリアは『共存派』の外交方針を採用したんだろう?

 それなのに何故、それが今のような泥沼の大戦争になっているんだ?」

 

「それは……すべてあの時……地上人類との初めての交渉の席でのことでした……」

 

 レムリアと地上人類との初の交渉……その席で事件は起きた。

 交渉に赴いていた国王コルドバが突如として血を吐き、その場で死亡したのである。

 口にしたものはすべて地上人類側が用意したものであり、地上人類の犯行であると断定。この卑劣なだまし討ちにレムリア側は激怒し報復を決意、外交方針を『共存派』路線から『制圧派』路線に変更、この戦争の戦端が開いたというのである。

 

「交渉に赴いた一国の王を、その席で毒殺だと……!?」

 

「これは……戦争になってもしかたありませんね……」

 

 長門がその卑劣な方法に憤慨し、鳥海はこの戦争の非が人類側にある『報復戦争』であることに表情を暗くする。

 しかし、その言葉にアネットは首を振った。

 

「実は、これはそう一概に言えない話なのです……」

 

「?

 それはどういう……」

 

 アネットはあまりの不自然さに、この一件を調べていた。そしてこの国王毒殺事件が実は姉であり『制圧派』の首魁であるアブトゥによって仕組まれたものであることを知ったのだ。

 

「アブトゥと私は双子の姉妹、そして私たちに男の兄弟はいません。

 だから私かアブトゥ、どちらかがいずれレムリアの王位を継ぐことになっていたんですが……どんな因果か、私が『共存派』のリーダー、そしてアブトゥが『制圧派』のリーダーとなりました。

 そしてそれが……」

 

「王位継承を巡った、擬似的な争いになっていたということですね?」

 

 鳥海の問いに、アネットは領く。

 

「『採用された派閥の方が次の王位を得る』……そんな根も葉もない話がささやかれるようになってしまいました。

 私は妹ですし、姉のアブトゥが王位を継ぎたいというのなら、何の異存もなかったのですが……」

 

「そのアブトゥさんの方が、そうではなかったということですね……」

 

 アブトゥは『制圧派』のリーダーであるだけに、科学技術の未熟な地上人類を『ただの野蛮人』だと毛嫌いしており、そんな彼女にはとても『共存派』の意見など受け入れられるはずもなかった。

 さらに王位継承について非常に貧欲だったアブトゥは、父王が王位継承権を巡るライバルであるアネットの『共存派』の案が採用されたことで父王への不快感と大きな危機感を持つにいたった。

 そしてついに、アブトゥはとある1人の海軍関係者と共謀して交渉の席での父王の毒殺という暴走に至ったのである。

 

「アブトゥは海軍の、当時少佐だった『君塚』という人物と共謀して毒を盛ったのです」

 

「君塚だと!? それは横須賀の君塚大将のことか!?」

 

 その名前に長門は声を上げる。

 『君塚大将』……現横須賀鎮守府総司令である提督だ。

 どうも長門の父である筑波大将との仲が激烈に悪いらしく、長門も近づきたくない相手ではある。

 

「アブトゥの策略が成功したあかつきには何かしらの地位や物品といったものを約束されていたようで、当時の君塚少佐はアブトゥからレムリアの科学力、そして『無限艦隊』ともいえるレムリアの戦力『深海棲艦』を見せられたことで、レムリアにつくことを決めたようです」

 

「君塚大将ですか……裏で汚職やら黒い噂も絶えませんし、なんか納得です」

 

 アネットの言葉に噂話を思い出した明石がうんうんと領くが、それに長門が待ったをかける。

 

「待て待て待て。

 君塚大将は確かに黒い噂の絶えない人物だが、この20数年にわたっていくつもの海戦で前線にて指揮をとり、大戦果をあげた名将であることは間違いないのだぞ。

 内通しているものが命がけで戦場に出たりなどするのか?

 第一、君塚大将が内通しているのなら『深海棲艦』の出現からこの20数年、まったくレムリアと通じて行動を起こさず、提督として勤め上げているのはおかしくはないか?」

 

 長門の疑問ももっともだ。

 

 君塚大将とレムリアが通じていたのなら、彼が今まで命懸けで勝ち取ってきた戦果はなんだったのか?

 何故『深海棲艦』の出現からこの20数年の間、まったく動きがなかったのか?

 

そこが長門にはわからない。その疑問に、アネットは答える。

 

「まず戦果についてですが……確かに内通しているのに、その相手に命懸けで戦うのはおかしいとは思います。

 しかしアブトゥから授けられた……『コード』がそれを解決します」

 

「『コード』?」

 

「はい……。

 『深海棲艦』はレムリアの戦力である、人工生命体です。そのため、一般的な『深海棲艦』は上位命令には絶対服従です。

 この『深海棲艦』への絶対的な上位優先命令を『コード』と言います。これを君塚少佐は与えられたようです」

 

「つまりその『コード』を使えば『深海棲艦』がほぼ無力化され、命懸けの戦いがただの出来の悪い八百長試合になる、というわけですね?」

 

「その通りです」

 

 鳥海の言葉に、アネットは領く。

 いくつもの海戦を勝利してきた名将が『実はただ八百長試合をしていただけだった』という衝撃の事実に一同声も出ない。

 

「もう一つの疑問……『なぜこの20数年の間、まったく動きがなかったのか?』という疑問ですが……これに関しては交渉決裂からの後の話をしましょ う……」

 

 『制圧派』路線に外交方針を変更したレムリア。

 しかし国王毒殺事件の裏側に気付いたアネットは、このまま本格的な戦端が開けば『深海棲艦』に対して無力な地上側が致命的なダメージを負い、『共存』など不可能になる……そう考え、地上人類側へ『深海棲艦』に対抗するための技術を極秘裏に提供したのである。

 その技術こそが……。

 

「私たち『艦娘システム』というわけね」

 

「はい……。

 艦娘の『艤装』、あれは『深海棲艦』と同じ『想念固定化』の技術です。

 『深海棲艦』は海に対するマイナス想念を基本的に固定化させていますが、艦娘は『希望』や『願い』や『祈り』といった純粋なプラス想念の結晶とも言えるものです」

 

「なるほど、同一技術の方向性の違うもの……まさに『艦娘』と『深海棲艦』はコインの表と裏の関係ということですね」

 

 アネットの話に、夕張と明石は今までの『艦娘』と『深海棲艦』の謎が解けていき感心しきりだ。

 

「こうして地上人類側に『艦娘』の技術は渡りました。

 でも……戦争開始の状態で『深海棲艦』を完全に配備しているレムリアと、これから『艦娘』を配備する地上人類では準備に差がありすぎます。

 そうでなくてもみなさんは不思議に思ったことはありませんか?

 海域にひしめく大量の『深海棲艦』、今回の南方での大襲撃のように一気に攻めればいいのにそれをしない。

 それどころか同じ編成で同じ場所にいたりなど、『決められたことをしているだけ』には見えませんでしたか?」

 

「……確かに、『深海棲艦』が戦術や戦略を駆使した戦いを行うということはなかった。今まではそれこそ『正体不明の何か』だと思っていたから違和感はなかったが、『深海棲艦』はレムリアの戦力、つまり背後には『レムリア人』というれっきとした人間がいたはず。

 それなのに、その行動に指揮官たる人間を感じることはできなかったな」

 

「……鋭いですね。

 その通りです、私たち『レムリア人』は……つい最近までいなかったのですから」

 

 アネットは奇妙な言葉とともに語り始めた。

 

 時はアネットが人類に『艦娘システム』の技術を供与してすぐのことだ、次々に『レムリア人』たちが倒れるという現象がレムリアではおこっていた。

 その原因は2万年という、あまりに長いハイバネーションが原因である。そのために実は身体に不調をきたしていたのだ。

 それを治すには再び調整のために生命維持装置に入り、ハイバネーションに入らねばならなくなったのである。

 しかし、すでに地上人類との戦端は開いた後だ。

 結果、『レムリア人』は全員再び眠りにつき、残された『深海棲艦』たちは自動で決められた通りの攻撃や反撃などしかしてこなくなったのだ。

 

「今までの話、20数年前の話なのですが私の体感としては、ほんの数か月前の話なんです」

 

「じゃあ君塚大将が20数年動かなかったのは……」

 

「私たち『レムリア人』が目覚めるのを待っていたんです……」

 

「そしてその目覚めたレムリア人が本格的に活動を始めた証が……あの南方での大攻勢ということですね?」

 

「その通りです。

 もっとも今目覚めているレムリア人は私やアブトゥを含めたごくごく少数、同胞すべての目覚めにはまだまだ時間がかかるでしょう」

 

 そこまで言うと、口を整えるためかアネットはすでに冷めてしまったお茶を口にする。

 長門は息をつくと、仰ぐように天幕の天井を見た。数々の衝撃の事実は、正直すでに長門の頭の許容量を超えていた。

 長門とてただの一艦隊の臨時司令でしかない。それが知るには過ぎた話だ。

 しかし……どんな運命の巡りあわせか、知ってしまった以上は知らなかったことにはできない。

 長門は再び、アネットを見つめる。

 

「……今までの話は分かった。

 それで……貴女は何を望んで行動しているんだ?」

 

 長門のその言葉に、アネットは長門をまっすぐに見つめながら返す。

 

「『地上人類とレムリア人の共存』……そのための、この戦争の早期終結が私の望みです」

 

 まっすぐに長門を見つめ返していたアネットは、フッと自重気味に笑う。

 

「この戦争、その始まりはやはり私たちレムリアが原因です。

 ならばその終結には、レムリア人として責任を持たねばならないと思うのです。

 それに……レムリアの王族として現実的な話をすれば、『共存』以外はレムリアにとっていい未来があるとは思えません。

 レムリアの人口は2万に届かない程度、一方の地上人類の人口は数十億です。

 アブトゥたち 『制圧派』は各国の頭さえ押さえれば軍事力と技術力を背景に支配できると考えているようですが……こんなに数に差があれば、無茶な話です」

 

「……確かに、『少数が圧倒的な大多数を支配する』ということの難しさは歴史が証明しているからな」

 

 アネットの言葉に、長門はウンウンと領く。

 

「だからこそ、私はこの事実を地球人類側に公表し、アブトゥの暴走を止めレムリアを間違った道から引き戻したいのです。

 そのために私はこの娘たち……『コード』の呪縛を逃れ、『感情』を持ったこの娘たちとともに『レムリア亡命艦隊』としてレムリアを出ました」

 

「『コード』の呪縛を逃れた?」

 

 おかしな言い回しに鳥海は首を傾げると、それを悟ったように『ウィン』が説明を始める。

 

「私ヲ含めタ、コの『レムリア亡命艦隊』の全員ハ生成過程のミスなノか偶然か……通常の『深海棲艦』と違イ『感情』を、そして『自我』ヲ持ッテいル。

 ソシてそノ『感情』と『自我』を持っテいルことデ通常の『深海棲艦』ヨり強力な個体とナッタばかりカ、本来最優先上位命令であル『コード』に逆らウことができるノダ。

 それ故ニ……私たチは『欠陥品』ノ熔印を押さレ、処分されルはずだった……」

 

 どんなに単体の力が強かろうと命令に逆らうことのできる兵器など、確かに『欠陥品』だろう。

 

「ダガ……そんナ私たチをアネット様が救っテくれタ。

 私たチを変えノ利くただの兵器でハなク、『感情』を持つ一つの存在としテ扱い、唯一無二の『名前』までクレた……。

 ダ力ら私たチは、アネット様のたメに……戦ウ!」

 

 『ウィン』のその言葉に、その場の『レムリア亡命艦隊』の全員が力強く領いた。その固い信頼で繋がった様子は、戦死した提督と自分たちとの関係を思い出させる。

 その姿を見て、長門は決意した。

 

「貴女の決意、そして目的は理解した、アネット司令。

 トラック臨時司令として、私は貴女の目的のために協力をすることを約束しよう。

 全員、異論のあるものはいるか!」

 

 長門は後ろのトラック残存艦隊に呼びかけるが、無論今までの話を聞いて異論を挟むようなものはいなかった。

 長門はゆっくりと立ち上がると、右手を差し出す。

 

「アネット司令……」

 

「司令なんて大層な呼び方は結構です。アネットとお呼びください、長門さん」

 

「ではアネット。 改めて、貴女に協力しよう。

 そして、ともに静かな平和な海を!」

 

「ええ!

 戦いのない平和の海を目指しましょう!」

 

 長門とアネットがしっかりと握手を交わす。その光景に、全員から喝采が上がった。

 そしてこれが、艦娘と深海棲艦が手を取り合った史上初の艦隊『トラック・レムリア聯合艦隊』の結成の瞬間だったのである……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 互いのメンバーは握手を交わし合い、その興奮も落ち着いたところで長門は今後のことをアネットと話す。

 

「それでアネット、そちらの予定はあったのか?」

 

「私たちは人類勢力に接触し、なんとか和平の道を開こうと考えていました。

 そのためには『深海棲艦』への命令を続ける、レムリアの中央制御コンピューターを何とか制圧しようと考えていたのですが……私たちの戦力ではまるで足りません。

 そこで……」

 

「人類勢力との共同戦線による、レムリアの本拠地への攻撃……か。

 だが、いいのか?」

 

「……もはやそれぐらいしか、この戦争の早期終結は見込めません。

 それに……」

 

 そこでアネットは少しだけ目を伏せ、やがて再び顔を上げるとはっきりと言った。

 

「あまり時間はありません。

 もし時間をかければ『奴ら』が動きだし、こちらの敗色は濃くなります」

 

「『奴ら』とは?」

 

 深刻そうなアネットの様子に長門が聞き返すと、アネットは視線を少しだけ泳がせ、そして羅號を見た後に長門へと答える。

 

「戦争の開始と同時なのですが……『制圧派』は自軍の切り札としての戦力、最強の『深海棲艦』の製造を考えていました」

 

「最強の『深海棲艦』だと?

 それは『姫級』や『レ級』のことではないのか?」

 

 長門の言葉に、アネットは首を振る。

 

「『姫級』や『レ級』はそれでもあなたたちの常識で測れる範囲内の存在でしょう?

 『制圧派』の切り札はそんなものではなく、完全な常識外の存在です。

 通常の深海棲艦は沈んだ艦の想念の塊のようなもの、そのためその能力はあなたたち艦娘と同じく、ベースとなった実際に存在した艦艇の能力に近くなります。

 ですが『制圧派』の切り札は、『レムリア系技術』を導入することで生まれた、架空で未知の艦です」

 

「『レムリア系技術導入の架空艦』だと!?」

 

 人類の科学力を大きく超えるというレムリアの超科学、それを導入した艦というだけで長門は一瞬にしてその脅威度を理解した。

 アネットは再び羅號を見ると続ける。

 

「その最大の特徴は……滅び去ったレムリアで造られた永久超動力機関『重力炉』を搭載し、回転衝角(ドリル)を装備していることです」

 

「ちょっと待ってください! その特徴って……!!」

 

 アネットの言葉に、ピンときた明石は悲鳴のような声を上げて羅號を見た。ほかの全員の視線もラゴウに集中する。『重力炉搭載』と『ドリル装備』……それは間違いなく、羅號の特徴だからだ。

 アネットは領くと、羅號を見つめる。

 

「……彼を初めてみた時から気付いていました。

 彼は『重力炉』と『ドリル』を装備した艦……そう、彼は『レムリア系技術導入艦』です」

 

 本日何度目か数えるのも馬鹿らしいほどの驚愕、だが長門にとっては今日一番の驚きだった。

 

「ば、馬鹿な!?

 この子は我らの戦友、大和と提督の忘れ形見だ!

 レムリアとの接点など、どこにもないぞ!?」

 

「いいえ、『艦娘』……いえ、『艦息』だというだけで、レムリアの技術との接点はすでにありますよ。

 それに……『建造』とは、強く正しい『想い』の結晶です。

 そして『建造の可能性』だけならば、どのようなものでも可能性はあるのです」

 

「ではこの子……羅號は……?」

 

「……あまりにも強く純粋な『想い』が、砂漠の中から一粒の砂を拾い上げるようなあり得ないはずの確率をねじ伏せた。

 それによって造り出された、まさしく『奇跡』の結晶。

 『ただ1隻の、地上人類のためのレムリア系技術導入艦』……それがその子、羅號くんです……」

 

 遂に羅號の強さと異常性の秘密が判明する。トラック艦隊の面々は羅號の今までの強さに合点がいったのと同時に、そんな天文学的な確率をねじ伏せ『奇跡』を為した、大和の母の愛の強さに脱帽の思いだ。

 だが、アネットの言葉の意味を正しく理解した鳥海が、アネットに恐る恐る確認する。

 

「ということは、その『制圧派』の切り札として建造中だというのは……」

 

「羅號くん級……あなた方地上人類風の呼称をするなら、『万能戦艦ラ級』といったところでしょうか?

 羅號くんと同等以上の存在と考えて間違いはありません……」

 

 羅號と同等以上の深海棲艦、『ラ級』……羅號の異常なまでの強さを知っているトラック艦隊の面々はその話に顔を青くする。

 

「『ラ級』を相手にするなら同等……『ラ級』でなければ、まともに戦えません」

 

「……その『ラ級』は一体、何隻いるんだ?」

 

「計5隻です。

 動力である『重力炉』は2万年前のレムリア全盛期に造られたもので、今の段階のレムリアでは再製造ができませんから、5隻以上に増えることはありません」

 

 たった1隻で艦隊を笑いながら一方的に殲滅できるような存在が5隻以上には増えない、というのは嬉しい情報なのかどうか判断に困る。

 

「だからこそ急ぐのです。

 私も、残念ながらあとどれぐらい建造完了までの時間が残されているのかわかりません。

 『ラ級』の建造が完了し、戦力化される前にこの戦争を終わらせるしかないのです」

 

「わ、わかった。

 幸い、私の父様は海軍大将の地位にある。 仲介は任せてほしい」

 

「お願いします……」

 

 今さらながら長門は、自分たちが下手をすれば人類の存亡にかかわるような重大なことに深く関わったということに身の震える思いだ。

 そんな長門の隣から、鳥海がアネットに問う。

 

「もし……『ラ級』の完成までに間に合わなかったら?」

 

「その時は……本当の意味での『最悪』を覚悟することが必要かもしれません。

 ただ……」

 

 そして、アネットは真っ直ぐに羅號を見つめた。

 

「幸い、というか奇跡としか言いようのないことに地上人類にも『ラ級』……羅號くんという存在がいます。

 最悪のその時は……この子だけが我々に残された、たった一つ最後の希望になるかもしれません……」

 

 皆の視線が、自然と羅號へと集中する。

 その視線をその小さな身体で受け止めながら、それでも羅號は静かに頷いたのだった……。

 




この世界の秘密と状況、終りが見え始めました。
次回から地獄の対ラ級戦の予定。
次回もよろしくお願いします。
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