PCが壊れるなどいろいろ散々な目に合いまして、久しぶりの投稿となりましたキューマル式です。
物語は中盤も最後、ついに対ラ級編に突入します。
今回はさわりと言うことで。
注意:艦娘の轟沈(虐殺)の様子が書かれています。
そういうのが苦手な人は気を付けて下さいね。
悪夢 ラ級襲来 前編
『地獄が、やってきた』
あの時の私たちの心情を表すのに、これ以上ないくらい的確な言葉ね……。
あの後……レムリアの『共存派』リーダーであるアネットからあの戦争の真実を知らされた私たち『トラック残存艦隊』は、『レムリア亡命艦隊』と合流したわ。それで一路、目的地である
その間、予想されていたレムリアの『制圧派』の息のかかった深海棲艦隊の襲撃もあったんだけど……楽勝だったわね。
『レムリア亡命艦隊』は物凄い練度だったわ。
『ヨーク』の航空戦能力、『メリー』と『アイ』の統制射撃、『イリス』と『アトラ』たち水雷戦隊の肉薄突撃、そして司令塔でもあり航空戦・砲撃戦双方に対応する『ウィン』に、練度は下がるけど『ウィン』と同じことのできる『ちぃ』……彼女たちと敵対しなくてよかったと、あの時は日頃信じてもいない神様に感謝したものよ。
しかもあっちは輸送艦もしっかり連れてたから物資も潤沢で、私たちトラック残存艦隊とは比べ物にならなかったわね。
おかげで予定よりも早く
でも……幸運はそこまでだったわね。
『奴ら』が……『制圧派』の切り札、『ラ級』がついにやってきたのよ。
アネットから『ラ級は羅號と同格の存在』だとは聞いていたし、覚悟はしていたつもりだった……。
でも……あの『化け物』はそんな私たちのちゃちな覚悟程度じゃ全然足りなかったのよ。
まさに埒外の怪物ね。絶望を感じる心すら打ち砕くような圧倒的な暴力……羅號と戦った敵も同じような気持ちだったのかしら?
その強さに私たちは壊滅寸前、あの羅號ですらボロボロにされたわ。
でも……それでも羅號は諦めなかった。轟沈寸前に追い詰められようと、それでも勝利のために、そして私たち仲間を救うために戦ったのよ。その姿はまるであの日の大和さんみたいだった。
勝利を諦めた者に勝利の女神は決して微笑まないわ。だから諦めなかった羅號は、『奇跡』を起こしたのかしらね。
……ええ、認めるわ。羅號はすごい漢よ。
朝潮やロー、それに『ちぃ』が惚れて夢中になるのも分かるわ。
いつまでたってもおどおどしてるあたりは問題だけどね。あれだけ強いんだから、もっとどっしり構えればいいのに……。
この間なんか新人の駆逐艦の『不知火』の子に、鎮守府に入り込んだ不審者だと間違われて誰何されてペコペコしてたわよ。
はっきり誤解だって言えばいいのに……あとで相手が羅號だって気付いたときの『不知火』の子、「不知火の落ち度です」って、可哀そうに顔真っ青だったわよ。
今でも少し強く出ると、もう条件反射的にペコペコするのよ、アイツ。
……まぁ、強いやつがそれを鼻にかけて威張り散らすなんて最悪だから、『究極』のアイツは謙虚なヘタレの今のままが釣り合いが取れてるのかもね。
――――――『満潮』へのインタビューより抜粋
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その海は悲鳴と怒号に支配されていた。
『衣笠さんが……!?』
『お前ら、もっと火力集中させろ!』
『もうとっくにやっている!!』
『あん、全然ダメよ!?』
ノイズ交じりでほとんど聞き取れない通信機から聞こえるのは明らかな異常だ。
「一体何が起こっているのよ……!?」
それを前に旗艦である艦娘『陸奥』は苛立たしげに立ち込める霧の中を睨みながら呟く。
すると、その霧の向こうからまさしく血相を変えてという言葉にふさわしい顔で天龍・睦月・如月・長月の4人が飛び出してきた。
駆逐艦の3人の顔色は青を通り越して、もうまるで死人のように白い。
「どうしたのみんな!? 敵が出たの!?
衣笠は? 衣笠はどうしたの!!」
明らかに尋常でない様子に陸奥は口早に天龍に問うが、そのとき陸奥は気付いた。あのどんな強力な敵であっても真っ先に切り込んでいく勇猛果敢な天龍が、青い顔でガタガタ震えているのである。そのせいで天龍は必死で何かを言おうとしているのだが言葉にできないのだ。
そのことで本当の意味で『最低最悪な何か』が現在進行形で起こっていることを陸奥は理解した。
「話はあとね! 全員、この海域から離脱するわ!」
理解すれば陸奥の決断は速かった。間違いなく、妥当かつ最適な判断を陸奥は下したと言える。
だから彼女に非はない。
たった一つ彼女に足りなかったものを上げるとするなら……それは『運』だったのだろう。
迫る『最低最悪な何か』が出会ってはいけない、どうしようもない化け物だったというだけなのだ。
キュィィィン! !
霧の中に何かの……まるで電動工具のような何かの駆動音が高らかに響く。その瞬間、天龍たちは訓練されたかのように一斉にその方に怯えた視線を向けた。
陸奥も震えあがりそうになる心を無理矢理抑えつけながら、その方を見る。
そして……陸奥ははっきりと、『ソレ』を見てしまった。
それは人の形をしていた。
艦娘に近いながらまがまがしい気配に黒みがかった艤装が、『ソレ』が『艦娘』ではないことを物語る。
しかし「では『深海棲艦』か?」と問われればそれも返答に困る。
その纏うまがまがしい気配が、今までの自分の知る『深海棲艦』とは文字通り桁が違いすぎて、同一にカテゴライズしていいものか困るのだ。
それに何より……この相手は『男』なのだ。
『深海棲艦』でも人型のものはすべて『女』である。これは常識だ。
だからこそ、この『艦娘』とも『深海棲艦』とも異質な『ソレ』を何と表現していいのか分からない。
金髪の男、外見上の歳は陸奥より少々上……20代半ばといったところか。
その整った顔立ちは、そのまま映画俳優だと言われても信じてしまうだろう。
だがそれ以上に目を引くのは、やはりその艤装だ。
大和型のように身体を包み込むような艤装に装備された41cmと思われる砲だが、陸奥たちが装備するものより明らかに長い。それの3連装砲が3基9門……強力な攻撃力を持つことは確実である。
しかしそれ以上に目を引くのは、左腕に装備された『ソレ』だ。
長い2本の凶悪な形の円錐……『ドリル』であった。
『ソレ』は連装ドリルを装備しているのである。
何もかもが異質すぎるその『男』……そしてその『男』はその顔で……ニタリと邪悪に嗤ったのだ。
「忘れものだぞ」
ブンッ、と『男』が右手で何かを放り投げる。
ベチャリと音を立てて落ちるものは……。
「き、衣笠さぁぁぁん!!」
「い、いやぁぁぁぁぁ!!?」
睦月と如月が悲鳴を上げる。それは彼女たちの僚艦であった衣笠だった。
しかし間違いなくそれは衣笠なのだが……『足りない』のだ。
腰から下……下半身がまるでパニックムービーの化け物鮫にでも喰いちぎられたように無くなっている。
とっくの昔に事切れていただろう衣笠はそのまま波間へと消えて行った。
今ので完全に駆逐艦娘たちは恐怖で恐慌一歩手前だ。
天龍も手にした刀を構えるが、もう見ていられないほどに震えている。そんな彼女らの反応が面白かったのか、その『男』は嗤う。
「な、なんなの、あなた……?」
一方の陸奥は恐怖に支配されそうになりながらも、それでも気丈に目の前の『男』に問う。
そして『男』からの答えは……。
「女の声って……気持ちいいよなぁ」
「……はぁ?」
訳のわからない言葉だった。
「知ってるか? 女の声ってのは、赤ん坊の泣き声と並んで人の耳に入りやすい音程なんだってよ。
だから耳に入ると気持ちいいんだろうなぁ……」
背筋を言いようもない悪寒が駆け巡っていくのを陸奥は感じた。
「そんな女の声でもさぁ……一番『クる』声ってのが何か知ってるか?」
「し、知らないわよ……」
恐怖に支配されそうになる中、声を何とか絞り出した陸奥に『男』はニタリと嗤って言った。
「悲鳴だよ」
キュイィィィィン!
男の言葉とともに、左腕の連装ドリルが回転を始める。
「いい声で哭けよ、メスども!」
その瞬間、陸奥は動く。自身の全8門の41cm砲が火を噴いたのだ。
「いけぇぇぇ!!」
必中を確信したその攻撃、しかし……。
「なっ! ?」
陸奥の表情が驚愕に染まる。
何故なら、その必中を確信した攻撃は『当たらなかった』のだ。
これが避けられたり、陸奥が恐怖のあまり攻撃を外したというのならまだいい。しかし陸奥は完璧なタイミングと狙いで、相手の『男』はまったく動いていないのだ。
そしてただ『当たらなかった』わけではない。当たると思われた直前、砲弾が見えない壁にでも阻まれたように反れてしまったのだ。
それを理解した陸奥は未だ恐怖で固まりきっている全員に叫んだ。
「全員逃げなさい! ! はやく! !
誰でもいいからこのことをほかのみんなにも伝えるのよ!!」
その言葉と同時に、弾かれたように駆逐艦娘たちは逃げ出した。ただ1人、天龍だけはその場に残る。
「天龍!?」
「……無理だよ、情けないけどブルッちまってまともに走れやしない。
それに……少しでも時間を稼がないと、今逃げたガキどもも確実に殺される……」
「……そうね。 悪いけど付き合ってくれる、天龍?」
「おう」
迫る圧倒的な恐怖の中で、ドリルの男は本当に楽しそうに邪悪に嗤う。
ふと、陸奥は思う。
この『男』を「映画俳優のようだ」と感じたのはあながち間違いではなかったのだろう。
ただ……出演作品がホラー映画なのだ。
こいつはホラー映画の主演男優の殺人鬼、そして自分たちは哀れな犠牲者の女Aという役どころだろうか……。
響くドリルの音に、そんなことを思ってしまう。
「ツいてないわね、ホント……」
……霧の中に響く2人の女の断末魔の悲鳴と爆発音を、逃げた駆逐艦娘たちが聞いたのはそのあとそう間がおかずにだった。
「ギャハハハ、どこに行ったのかなぁ……可愛い可愛いメスガキちゃんたちはよぉ!」
そして自分たちの後を追ってくる『化け物』の気配に、駆逐艦娘たちは恐怖から逃れたい本能だけで逃げ続けるのだった……。
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品のいい執務机の置かれた提督の執務室。室内には男と女が1人ずつだ。
男は執務用の椅子に腰かけている。歳は20代半ばだろうか、手入れの行き届いた軍服を着こむその姿からは、若さからの精悍さと歳に似合わぬ貫録のようなものを持っていた。
彼の前にいる女は浴衣のような、落ち着いた若草色の和服姿だ。歳は男と同じくらいだろう。左の薬指にはめた優しい輝きの指輪が、2人が『特別な関係』であることを物語っていた。
そんな2人は今、苦い顔で話をしていた。
「……また、未帰還か……」
「はい……」
重苦しい男の言葉に、女は頷く。
ここは北方を預かる
ここ
そこで歴戦の艦娘である『陸奥』を入れた形で捜索隊を出したのだが……結果は同じく未帰還である。
「……これはもう、あの霧の中には何かがいると考えて間違いないだろう。
これ以上の犠牲は出せん。
あの周辺への出撃は厳禁、泊地の警戒レベルを引き上げてくれ」
「了解です……。 航空偵察ができればいいのですが……」
「あんな霧の中を航空偵察なんて、それこそ自殺行為だ。
気持ちはわかるが落ち着いてくれ、天城」
「はい……」
提督に言われ、泊地の筆頭秘書官である艦娘……『天城』は領く。
「ご苦労だった。 下がって休んでくれ」
「……あなたの方が休んだ方がいいんじゃないですか?」
労をねぎらい下がるように提督は言うが、天城はゆっくり近づくと提督の顔にその細い指で触る。
「すごい隈……全然眠れてないんでしょう?」
「ああ、眠れないよ」
仕事は終わりと、プライベート用の口調に変えた天城の言葉にあっさりと肯定し、提督は視線を執務机の隅に移す。
そこには、一枚の写真が飾ってあった。
桜の木の下で、一組の家族が写真に向かって微笑みかける。その写真の中の提督の隣には、1人の少女の姿があった。
「あいつが……有希が死んだんだ。 そう思うだけで眠れないよ」
「有希ちゃん……」
提督だけでなく、彼女個人を知っている天城は悲しそうに眼を伏せる。
「……わかっているんだ、俺だってもう何人もの部下を失ってる。
休める時に休まないと、まともな指揮なんてとれやしない。休むのも仕事のうちだ。
そう思って、今まではやれていたのに……。
それが……今度は自分の身内の番になったってだけでこんなことになるのは駄目だ。
それが分かっているのに……駄目なんだ、目をつぶると有希の顔がちらつく」
嘆くように呟く提督を、天城はその胸に優しく掻き抱く。
「……天城はあったかいな。 こうしてると本当に安心する……」
「あなた……少し休んでください。 このままだと本当に保ちません」
「わかってる……でもそれはお前も同じだぞ、筆頭秘書官。
お前が色々やってくれてるのは、よく知ってる……」
「なら、このまま一緒に少し休みましょう。
私もあなたと一緒の方が安心しますから……」
「……そう、だな……」
2人はそのまま、連れだって隣の仮眠室に入っていく。
「……霧だって永遠にあるわけじゃない。気象条件を考えれば、もうすぐ晴れるはずだ。
そうしたら……」
「航空偵察ですね、もう準備は出来ています」
「……本当によくできた秘書官だ。
ただ、無理はするな。 あの霧の中に『何か』がいることは間違いないんだからな」
「はい……」
提督と天城はともに仮眠室に入ると、しばらくして安らかな寝息が聞こえ始める。
迫り来る嵐の前、2人は安らぎを共有するのだった……。
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北の海を航行する黒色の艦隊があった。
その陣容は戦艦ル級エリート4隻、空母ヲ級エリート2隻、それに護衛と思われる軽巡ホ級エリート1隻に駆逐イ級5隻からなる水雷戦隊が2つという堂々たる大艦隊だ。
それはアネットたち『レムリア亡命艦隊』を追う制圧派の差し向けた深海棲艦隊である。
そんな空母ヲ級エリートはふと何かに気付いたように空を見上げる。すると、その空の彼方には白い球形をした艦載機たちが迫ってきていた。
襲撃に艦隊はにわかに騒がしくなる。空母ヲ級エリートが即座に迎撃のための艦載機を発艦させ、各艦が対空戦闘を開始する。
しかし、その白い球形の艦載機たちは段違いの練度を誇っていた。球形の艦載機たちは、次々と空母ヲ級エリートの発艦させた迎撃の艦載機を撃墜し、対空砲火を潜り抜けて腹に抱えた爆弾と魚雷を次々に投下していく。
そしてその白い艦載機からの攻撃で散々に陣形を崩した深海棲艦隊に、今度は弾雨が降り注ぐ。大口径砲から発射された強力な対艦徹甲弾は制空権を確保したことで行われた正確な観測によって、高い命中率を叩き出す。
対艦徹甲弾の直撃によって、くの字に折れ曲がるようにして次々に海の底へと沈んでいく深海棲艦たち。深海棲艦隊が海上からその姿を消すのに、そう時間はかからなかった……。
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「凄いものだな……」
「ええ……」
砲から硝煙をたなびかせる長門の言葉に、隣にいた鳥海が頷く。
その近くには深海棲艦隊……『レムリア亡命艦隊』の面々も自身の砲から硝煙をなびかせていた。
合流した『トラック・レムリア聯合艦隊』は一路、人類の勢力圏である
その間も、レムリアの『制圧派』のものと思われる深海棲艦隊の襲撃を受けたのだが……『レムリア亡命艦隊』の力は凄まじかった。
『ウィン』と『ヨーク』の航空隊によってあっという間に制空権を確保、先制の航空攻撃によって敵に大打撃を与え、残ったものも観測機からの観測結果を元に行った統制弾着射撃により、驚くほどの短時間で敵を撃滅したのだ。長門もその統制弾着観測射撃には加わっていたので、その高い精度は今、身を持って体験した。それができる連携と練度に、長門は彼女らと敵対することが無くてよかったと心底思う。
そこに『メリー』がやってきた。
「ナガト、どうしタ? ソンな顔をして?」
「なに、お前たちの物凄い練度を目の当たりにして敵対しなくてよかったと神に感謝していたところだ」
肩をすくめながらおどけた口調で長門が言うと、『メリー』も同じように返す。
「ソレはオアイコだ。
ナガト、お前ノ艦隊の練度はスゴい。 是非トモ戦ってみたくアリ、戦いたくはない相手ダ」
『メリー』の純粋な賞賛の言葉に、長門はなんだか背中がむず痒くなる。そんな長門の反応を知ってか知らずか、『メリー』はそれに、と続けた。
「一番スゴいのは、あの万能戦艦ダ。
命中率・威力トモに1人だけ、ズバ抜けてイル」
その『メリー』の視線の先には羅號の姿があった。
「敵艦、撃破……」
「らーくん、すごーい!」
「ラゴウ、凄イ。
サスが、ちぃの王子サマ」
「あはは……『ウィン』さんや『ヨーク』さんの航空観測のおかげだよ」
案の定抱きつくように寄ってくるローと『ちぃ』をうまくあしらいながら、羅號は謙遜の言葉を述べている。ちなみに朝潮は今、他の水雷戦隊とともに先行偵察に出ているのでここにはいない。
「ああ、そうだろうな……」
その様子を見ながらさもありなんと、長門は『メリー』に頷く。
これだけの練度を誇る集団である『レムリア亡命艦隊』とともにあっても、羅號の強さは段違いだった。ただでさえ超高性能なレーダーによる高い命中率の射撃の精度が、さらに上がったのである。しかもその砲口径は当然のことながらこの艦隊の誰よりも大きい。
その力は頼もしい限りではある。しかし、長門としては刻一刻と本土へと近付く中で一抹の不安を覚えてしまう。長門の悩みというのは、本土に着いてからの羅號の身の振りについてだ。
(羅號の力を見て、羅號をモルモットのように扱おうとする不埒者は必ず出るだろう。
父様や兄様には当然協力をしてもらうようにお願いするが……それだけで足りるのか?)
無論、長門は父や兄に協力してもらうように交渉し、長門の敬愛する父や兄ならば羅號を守るために働きかけてくれるという自信はある。しかしこうして羅號の隔絶した力を見るたび、それだけで足りるのかという不安を抱いてしまう。
それにもう一つ、長門には思うことがあった。
(それに……どんなに強くても、羅號はまだ駆逐艦の娘たちと同じ程度の子供にすぎない。
そんな子供の未来を今のままでいいのか……?
やはり……)
「……」
何度も自問してきた問いに長門は静かに、ある決意を固めて頷く。
そんな時に、『アトラ』を旗艦とした先行偵察に出ていた水雷戦隊が戻ってきた。その艦隊には『アトラ』の配下である駆逐ロ級後期型3隻とともに、トラック艦隊からも朝潮と満潮がいる。
「今日ノ停泊予定ノ島の偵察が終わっタ。
敵の姿モ無ク、入江モ偽装に適しタ形ヨ。 何も問題は無イわ」
「ゴ苦労様、『アトラ』」
報告を受けた『ウィン』は『アトラ』をねぎらう。そして『ウィン』への報告を終えた『アトラ』は、今度は長門へと向き直った。
「先行偵察は無事に完了シタ。 貴艦隊から借りタ戦力をお返シすル」
「朝潮と満潮は役に立ってくれたか?」
「アア。 スグにこちらノ艦隊機動にアワせ、その動きに乱レもナイ。
目も良ク、今回ノ島を一番始めニ確認シタのは貴艦隊の朝潮ダ。
双方トモ素晴らシイ練度の駆逐タチだ」
『アトラ』に朝潮と満潮を褒められ、悪い気はしない長門はそのまま視線で2人の姿を探すと2人の姿はすぐに見つかった。
「あっしー、おかえりなさいですって」
「アサシオ、オ疲レ様」
「はい、ただいま……って、何を2人して羅號にくっついてるんですか!
離れなさい!」
「あー、あっしーもらーくんにくっつきたいんですね。
わっかりました! すぐにどきます、ですって」
「アサシオ、ラゴウ分を補給スル」
「ラゴウ分?」
「ラゴウにくっつくと補給サレる、必須栄養分」
「……何を言ってるんですか、この子は」
「あはは……」
ローと『ちぃ』の羅號から離れながらの言葉に朝潮は呆れ気味に肩を竦め、羅號も苦笑いする。
「朝潮、お疲れ様。
大丈夫? 怪我はない?」
「ええ、大丈夫。
命令があればまたいつでも出れるわ」
羅號のねぎらいの言葉に、どうということはないと朝潮は答える。
すると何かに気付いたように羅號は朝潮に近付くと、突然羅號は朝潮の頬を撫でるようにスッと触れた。
「な、何を!?」
「いや、朝潮の頬にすすが付いてたから拭ったんだけど……駄目だった?」
「べ、別にいいけれど……いきなり触れられると、その……心の準備が……」
キョトンとした顔の羅號とは裏腹に、朝潮は顔を真っ赤にして俯いてしまう。最後の方など、小声で聞きとれないくらいの声だ。
そんな朝潮の様子を見ながらいつの間にか朝潮を挟むように近付いたローと『ちぃ』は、ニンマリと笑いながらささやく。
「あっしー、補給完了、ですって」
「アサシオ、ラゴウ分補給できタ?」
「あー、もう! うるさいうるさい!!」
顔を真っ赤にしながらローと『ちぃ』を追いかけ回す朝潮に、羅號は苦笑いだ。
そして、朝潮の親友であり僚艦である満潮はもうなんというか……悟りきったような顔でその光景を見る。
「お、お疲れ様、満潮ちゃん。
その……いろいろ大変だね」
「……ありがと吹雪。
私のこの気持ちが分かってくれる常識人はあんただけよ」
ねぎらいの言葉をかけてくれる吹雪に、満潮はその優しさにしみじみと感謝する。
「イーヒッヒッヒ! 萌えよ、ペン!!」
そしてそんな艦隊を、相変わらず秋雲は高速でスケッチしている。
そんな『トラック残存艦隊』の様子を見て、『ウィン』は吹き出していた。
「楽しイ部隊デスね」
「何というか……すまん」
「イエイエ……人見知りの激シいあの子のあんな笑顔ハ、本当に珍シイ。
姉としテハ、嬉しイ限り。 今後も、末永くよい仲をお願イしたイです」
「末永く、か……」
『ウィン』の言う『末永く』という言葉に思うところのある長門は神妙な顔で頷き、艦隊は今日の停泊地である小さな島へと到着した……。
~~~~~~~~~~~~~~~
騒がしくも楽しい夕食の終わった夜、羅號は1人で浜辺に来ていた。
いつもは誰かが必ず一緒にいるイメージのローも朝潮も『ちぃ』も、今はその傍にはいない。そんな1人の時間に、羅號は浜辺に座って星空を眺める。
「もうすぐ日本……。
みんなの……お母さんたちの国……」
未だ羅號は見たことない母たちの故郷に期待と、そして幾ばくかく不安が募る。そんな羅號の元に、長門がやってきた。
「隣はいいか、羅號?」
「長門さん……」
少し身体をずらした羅號の隣に長門は座ると、しばし一緒に星空を眺める。そして、話を切り出した。
「羅號、ここを越えれば
これもすべては羅號のおかげだ」
「そんな、僕は自分のできることを精一杯やっただけです。
それにまだ無事には到着していない……到着するまでは余計なことを考えず、慢心しないようにしないと」
それはまるであの大真面目な大和を見ているようで、長門は思わず笑いをもらした。
「ああ、確かに慢心はいかんな。
だが……将来のことを考えることも大切なことだ」
「将来……」
その漠然とした言葉を、飲み込むように羅號は呟く。そんな羅號の顔を覗き込んで、長門は尋ねた。
「羅號……君はどうしたい?」
「……」
羅號は母である大和の引き起こした奇跡によってトラック泊地で生まれた子である。
長門は知っていたが、実は羅號の母である大和も父である提督も戦争孤児であり本土に頼るべき身内もなければ血縁もないのだ。
先行きなど、何も見えるはずもない。長門に将来など問われても、羅號には答えようがない。
しかし、そんなことは長門も百も承知だ。
沈黙する羅號。そんな様子をしばし見つめ、そして何か大きな決意をするように大きく息をつくと、長門はその言葉を言った。
「羅號……もし……もし羅號がいいと言うのなら……。
この私を、『お母さん』と呼ばないか?」
本格的な接触は次回以降になります。
次回もよろしくお願いします。