着任 トラック泊地の今 前編
『タイダルウェブ』……歴戦の戦艦や空母艦娘たちが次々沈んでったあの地獄のような戦いで、私みたいな工作艦が生き残ったのは運がよかったからですよ。
本当に運がいい……羅號くんみたいな子が助けにくるなんて奇跡、普通は掴めるもんじゃないですよ。あのトラックで生き残った艦娘全員、あの有名な雪風にだって
とにかく運良く生き残った艦娘はたったの9人だけでした。
私も手を尽くしたんだけど……どうしても、ね。
拠点のトラック泊地も度重なる敵の航空爆撃と艦砲射撃で、主要設備は軒並み瓦礫の山。
直せるものは夕張と一緒に直したけど、もう私たちにはまともな継戦能力は残されていなかった……。
でも幸いなことに、羅號くんが『タイダルウェブ』の時トラックに押し寄せた深海棲艦を相手に暴れまわって全滅させてくれていたおかげで、一時的だけどトラックの周辺海域は完全な空白地帯になっていた。そのおかげで、私たちには少しだけ時間ができたんですよ。
その間、色々動きましたよぉ。
使えそうな設備を復旧したり、残った資材をかき集めたり……正直、怪我と疲労困憊でいつ倒れてもおかしくない状態でしたね。あんな非常時じゃなかったらあんな強行重労働、絶対に二度とやりませんよ。
でも……ね。
私も夕張も長門さんに頼まれて羅號くんの検査を頼まれたんですけど……疲れとかそんなどうでもいいこと、一瞬で吹っ飛びましたよ。
……かなり控え目に言いますね。
あんな最高にイカれた、イカした存在は私のこれからの人生で二度とお目にかかることは無いでしょう。そのくらいにあの子は衝撃的だったんですよ。
根本部分にあるルールが違いすぎて……陳腐な言葉しか出て来ないんですが、文字通り桁が違いました。それも桁が3つか4つ、あるいはもっとかもしれませんね。
今思えば……あの時にはもう予感してたのかもしれません。
純粋なエンジニアとしての未知への興奮、この子がいれば死なずにすむという打算的な安心……それと同時にね、『何かが起こる』っていう漠然とした予感みたいなものを持っていたんですよ。
こんな桁違いの子がいないとどうしようもないような……そんな『何か』の予感……。
……当たってたでしょ?
――――――工廠長『明石』へのインタビューより抜粋
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
時は平等だ。
どんな状況であろうと、時は過ぎて朝が来る。
絶望的な戦いから一夜明け、壊滅状態のトラック泊地に朝日が差し込んでいた。生き残った艦娘たちは、ボロボロの身体のままトラック泊地へと戻っていく。
「それで、被害状況はどうだ?」
ここはトラック泊地内で、奇跡的にも無傷だった戦艦寮の一室だ。
ここを臨時の指揮所として乱雑に包帯を巻き、残骸とも形容できる状態の薬品庫から奇跡的に見つかった点滴と輸血パックで輸血しながら、長門は目の前の鳥海へと問う。
「まず生き残っている艦娘の報告からです。
生き残りは……私たちを含め、9人だけですね」
「……ずいぶん減ったな。
つい数日前まで100人をゆうに超える大所帯だったというのに……」
「確かに……。
でもあの状況では、皆殺しにならなかっただけ儲けものですよ」
長門も鳥海もあまりに大きすぎる被害に、そしてもう二度と会えない戦友たちを思い、少しだけ目を伏せる。だが、すぐに振り払うように顔を上げた。
長門と鳥海は今のトラック泊地を率いる立場なのだ。ここで悲しみに暮れ、思考停止は許されない。それをした途端、すぐにでも自分たちも先に逝った戦友たちの後を追うことになるだろう。
生き残った者の義務として、おいそれと死ぬわけにはいかない。
「生き残った艦娘の内訳ですが……。
まず長門さんに私に工作艦の明石さん。それに軽巡の夕張さん。
他には駆逐艦の朝潮ちゃんに満潮ちゃん、吹雪ちゃんに秋雲ちゃんの4人。
それに潜水艦の呂500ことローちゃん。
以上の合計9人です」
「明石と夕張が生き残ってくれているのはうれしいな」
明石と夕張はともに機械整備に関して高い才を持っている。彼女らの生存は、他の艦娘たちのこれからにも深く関わる事態だ。
「もっとも、全員中破以上なので、明石さんが艤装を直すのは無理だそうです」
「そうなると、メディカルポッド頼みになるな……」
長門の言葉に、鳥海が頷く。
艦娘は『艤装』と魂のレベルでリンクしており、それによって人間には出せないような攻撃力や防御力、耐久力を発揮することができる。だがそれだけではなく、『魂レベルでの艤装とのリンク』は様々な面で影響を艦娘に引き起こすのだ。
顕著な例が『性格』だろう。艦娘の性格は同名艦では似たり寄ったりになるが、それは元になった艦の史実を引く『艤装』によって精神が引っ張られるためだと言われている。
そしてそのリンクのため、厄介なことに『艤装の損傷が艦娘の身体にも影響を与える』のである。『艤装』がダメージを受けて中破以上の状態になると、艦娘の方も傷つき、服が破れたりするのはこのせいだ。
逆に艦娘本体がダメージを受けても、そのダメージは『艤装』へと反映される。いや、艦娘が受けたダメージを『艤装』が肩代わりして吸収している、といった方が正しい。もっともこれにも限界はあり、あまりに当たり所や運が悪ければ『艤装』の肩代わりが間に合わず、今の長門のように部位の欠損や場合によっては即死してしまうこともある。
ある意味では厄介なこの『艤装とのリンク』だが、利点も無いわけではない。
その利点の一つが『修復』に関することだ。
実はこのリンク、『双方向』なのである。
つまり、『艤装を直せば艦娘の身体の傷が治る』し、『艦娘の傷を治すと艤装も直る』のだ。
そのため、傷ついた艦娘が再び戦線に復帰する方法は2つある。
『艤装を直す方法』と『艦娘の傷を治す方法』だ。
前者の有名な例が明石の『泊地修理』である。
これは工作艦の艦娘である明石が『艤装』を修理することで、それに呼応して艦娘の身体の傷が治る現象だ。
もっとも、ブラックボックスの塊とも言える『艤装』の大幅な損傷は直せないため、『泊地修理』は『小破』判定のものまでしか直せない。
そして後者が『メディカルポッドでの艦娘の治癒』だ。
メディカルポッドは特殊な溶液を満たしたポッドで、それに浸かることで治癒力を爆発的に促進、傷を癒すものである。艦娘の傷の治癒に呼応して、艤装の方も修復に必要な鋼材と油を吸収しながら自己修復するのだ。
もっともこのメディカルポッドでの治療にも限界はあり、さすがに欠損してしまった部位を取り戻すような効果はない。
基本的には、この『メディカルポッドでの艦娘の治癒』の方が一般的であり『入渠』と呼ばれる行為のほとんどはこれを指す。『入渠』と呼ばれる行為を『風呂』と揶揄する艦娘は多いが、これはこの溶液に浸かる行為からだ。
さらに優れた点としてメディカルポッドでの治療は、その効果を爆発的に増大させる特殊反応剤『高速修復剤』によって治療完了までの時間を限りなく短くできる利点もある。
とにかく、今のトラック泊地の艦娘たちの損傷は全員が『中破』以上、これでは明石でも『泊地修理』は出来ず、必然的に全員が『メディカルポッドでの艦娘の治癒』が必要になるのだが……これにも問題がないわけではない。
メディカルポッドは一度入れば、治療完了までの間は出てこれないのだ。『泊地修理』はその場で修理をやめればいいだけの話だが、こと人体に密接に関係するメディカルポッドはデリケートで、途中で中断した場合はどんな後遺症がでるかも分からないし、運が悪いとそのまま死亡する。実際に、メディカルポッドの治療完了前に無理矢理出たことで死亡した艦娘というのは存在するのだ。その辺りは先に上げた『高速修復剤』を使用すれば問題は解決するのだが、資材関係の倉庫を破壊されてしまった今のトラック泊地にはそんなものは残っていない。
そのため今のような逼迫した状況では、拘束時間の長い『メディカルポッドでの治療』には不安があるのだ。
「いや、それ以前の問題なのだが……そもそも、メディカルポッドは無事だったのか?」
「そこは当然、当り前のように破壊されてましたよ。
ただ明石さんと夕張さんの必死のニコイチ修理のおかげで、半分の2個が使用できます」
「あの2人には感謝だな……」
「ええ……。
2人とも大破で酷いケガなのに、駆逐艦や潜水艦の子たちがケガで苦しんでるのは見ていられない、一刻も早く傷を治してあげたいと、夜通し修理を……」
明石と夕張の奮戦に、長門と鳥海は頭が下がるばかりだ。
「2個か……。
なら、効率的なように順番に入渠させてやってくれ」
「勝手ながら、私の方ですでにやらせてもらってます。
入渠時間の少ない潜水艦、駆逐艦の子たちから順々に入ってもらってます。
ただ……時間のかかる長門さんや私の入るタイミングは考えないといけませんね。
私や長門さんは指揮もさることながら、数は少ないですが水偵での偵察ができます。
今も私が水偵を飛ばしてますが、その警戒に穴が開くのは問題です。
もっとも少数の水偵での偵察網なんて焼け石に水かもしれませんが……」
そう言って鳥海は肩を竦めた。
「それでも、何もしないよりずっとマシだ。
とはいえ昨日あれだけ沈められたのだ、すぐすぐには敵も集まってはこないだろう。
明石と夕張、鳥海で入ってくれ。
私は最後でいい」
「……一番重症は長門さんですよ。
他の子たちは怪我はありますが、それでも五体満足ではありますから。
私個人としては、いの一番に長門さんに入って欲しいです」
「却下だ。
この怪我では確実に入渠は長くなる。入渠時間が短い方から入った方が効率的だし、何より私も明石と夕張と同意見、小さな子たちが怪我で苦しんでいるのを尻目に、先に入渠などできるものか。
それに今私が長時間離れるわけにもいかない」
「……わかってますよ、それくらい。
そうでなければ、今頃ぶん殴って気絶させてでもメディカルポッドに叩き込んでます」
知的な外見と物言いの割に、実はいくつもの武勲を重ねている武闘派の鳥海。彼女なら本当にやりかねないと、長門は苦笑した。
「次に、燃料や弾薬などの資材はどうだ?」
鳥海は手元の紙をめくると、メガネをクイッと直してから続ける。
「破壊された倉庫から回収できたもの、非常時のために提督が内陸部に隠していた非常備蓄をすべてかき集めました。
全員の補給と完全修理を差し引いて……残り燃料弾薬は1200ずつ、鋼材1000、ボーキサイトは300といったところですね」
「今すぐ身動きできなくなるわけではないが……」
「補給のメドが立たない現状では少なすぎます。
それにそれ以上に食料が心配です。
缶詰などの備蓄がいくらかありますが……豊富というわけではありません。
私たちはいいとしても、育ち盛りの駆逐艦の子たちにひもじい思いをさせたくはありませんから」
「……最悪、島の中で食糧を調達する必要があるな。
蛇でも狩ってくるか? あれは蒲焼きにすると案外美味いぞ」
「それはよく知ってますが……それは最悪の時に」
「そうだな……。
それで、開発用工廠はどうだ?」
「瓦礫の山です。
どこぞのアイドルの番組みたいに、一から作り直した方が早いそうですよ」
「わかっていたことだが……状況は芳しくないな」
「何なら白旗でも上げますか?」
「深海棲艦が条約に従い、丁重に捕虜を扱ってくれるならな」
互いの冗談を、長門と鳥海は肩をすくめて笑い飛ばす。だが、すぐに長門は表情を引き締め直した。
「それであの子……羅號のことだが……」
「あの子なら今、明石さんと夕張さんが検査をしてますよ」
その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「噂をすれば、のようですね」
やがて、いくつかの靴音が室内に入ってきた。
「長門さん、鳥海さん。
おまたせしました!」
「この子の検査、終わったわよ!」
部屋の中に入ってきたのは明石と夕張、そしてその2人に挟まれるように羅號がいる。
大破状態のため所どころに包帯を巻いた痛々しい姿だというのに、明石も夕張も異様にテンションが高い。そして、それに挟まれた羅號が何やら居辛そうにかしこまっていた。
それを見て、長門は強烈な頭痛を感じる。だがそれは決して怪我のためではないだろう。
長門はとりあえず明石と夕張を無視して、できる限り柔らかく羅號へと話しかける。
「では改めて……私は長門。
昨日も言ったが、君のお母さんである大和とは戦友だったよ。
ここにいる皆も、大和と苦楽を共にした仲間だ」
「鳥海です。
あなたのお母さんの大和さんとは、何度も艦隊を組ませてもらったわ」
「私と夕張はいいですよね?
もう挨拶も済ませたし」
そう言って羅號に水を向けると、改めて羅號も自己紹介をする。
「羅號……です。
大和お母さんの……子供です」
そう言って礼儀正しくお辞儀をする。
「さすが大和さんの息子ですね。
小さいのに礼儀正しく、しっかりしているわ」
「あ、ありがとうございます」
鳥海はクイッとメガネを直しながらにっこりと笑う。すると、羅號は褒められたことに照れ臭そうにしながらはにかんだ。
本当に、普通に見るなら駆逐艦の子たちとまるで変わらなく見える。
この可愛らしい男の子がたった1人で、このトラック泊地に津波の如く押し寄せた深海棲艦たちを海に沈めたなど、誰が信じられるだろう?
だが、長門たちは昨晩確かに羅號によって助けられた。だからこそ、今生きてここにいる。
「さて……今このトラック泊地は壊滅的な状況になっている。
そして悔しいことに私たちだけでは状況の好転は不可能、枕を並べて討ち死にを待つばかりだ。
この状況を打開するには、どうしても君の力が必要だ。
頼む、君の力を私たちに貸してくれないか?」
長門が残った右目で見つめると、羅號は真剣な表情でコクリと頷く。
「僕の意識が目覚める直前……お母さんの声が聞こえた気がするんです。
『仲間を守り、いつか静かな平和の海を』って……」
その言葉は艦娘たちの合言葉のようなものだ。
『平和の海』……失われてしまったそれを求めて、艦娘たちは戦っている。
「だから、僕も戦います。
いつかの平和の海を目指して」
「……流石大和の息子だ。
これから、色々と無理をさせるかもしれないが……頼む」
「はい!!」
子供らしいハキハキとした返事に、長門たちは満足げに頷いた。
「あまりゆっくりとした時間はないが、残っている艦娘たちにも紹介しよう。
夕張、頼めるか?
それが終わったら『入渠』で構わないから」
「OK!
羅號くん、残った艦娘の子たちに紹介するわ。
お姉さんに着いて来なさい」
「は、はい……」
おっかなびっくりといった感じの羅號を、夕張は怪我を物ともしない勢いで引っ張っていくと部屋から出て行く。
部屋には余韻ともいうべき静寂が訪れた。
「……それでは明石、あの子の検査結果を教えてくれ」
「そうですね……」
そして明石は、検査の結果を語りだした。
「まずはっきりさせておくところですが……あの子は間違いなく我々のよく知る大和さんと提督の子で、性別は男の子です。
前者はDNAが一致しましたので間違いないですね。
後者に関しても、私と夕張さんが『直接』確認をとりましたから間違いないです」
そしてニタリと笑いながら意味ありげにワシャワシャと手を蠢かす明石。長門は、さっきの羅號が妙に明石と夕張にかしこまっている様子をしていた理由が分かって目を覆いたくなった。
「頼むから大和たちの大事な忘れ形見を穢してくれるなよ。
女性不審にでもなったら、あの世で大和にどう詫びていいのかわからん」
「人聞きが悪いですね。
検査ですよ、検査。 検査に触診は基本ですから」
長門の言葉に、明石は手をヒラヒラとさせるばかりだ。
「それにしても……『艤装は女性にしか装備できない』という普遍的かつ絶対的なルールに真っ向から逆らってますね」
セオリー無視のいいところだと、鳥海は肩を竦める。
「それに私たちは大和さんのお腹が大きなところは見ていませんし、あの歳の子供が実はいたとも思えません。
仮に大和さんの『中にいた』としても、十月十日は一体どこに吹き飛んでしまったんでしょう?
まぁ、あの大和さんならそのくらい、豪快に46cm砲で吹き飛ばしそうですけど」
「それは言えるな」
淑やかなナリをしながら豪快かつ大雑把な部分のあった戦友を思い出しながら、長門は鳥海の冗談めかした言葉に頷く。
「セオリー無視なら、まだ幾らでもありますよ」
そう言って明石は手にした目録を見せた。それは見なれた補給の目録だった。
そして、そこに書かれた数字に長門も鳥海も目を丸くする。
「戦艦だというのに……弾薬の消費が少ない?」
「燃料に至っては補給要求量……ゼロ?」
「……先に言っておきますけど、間違いじゃないですからね」
明石はどこから話したものかと、幾度か自分の額を指でトントンと叩くと話しだす。
「まず弾薬が少ない理由ですが……お2人も見たと思いますけどあの子の武装は通常の実弾と、光線兵器です。光線兵器は内部エネルギーを変換して放つもので、実弾と違って補給がいらないんですよ。だからあの子の弾薬消費は少ないんです。
そして燃料のいらない理由もそれに関係するんですが……光線兵器を使うには、当然それをできるだけの膨大なエネルギーを生み出す主機が必要です。
あの子の主機は私たちのような缶とかじゃない。
『零式重力炉』とかいう、訳のわからない、完全にブラックボックスの機関でした。
これ……どうやら莫大なエネルギーを生む永久機関みたいで、燃料が必要ないんですよ」
「……セオリーとかルールとか、破るためにあるんでしたっけ?」
「そう言うな。
少なくとも、今のトラックにはこれほど嬉しいことは無い。」
基本、戦闘能力に比例して消費が多くなるというのが艦娘の常識である。それにまったくもって当てはまっていない。
「でも……今までのセオリー無視もしょうがないかもしれませんね。
あの子の装備……一番特徴的なのはなんですか?」
「それは……」
長門と鳥海は顔を見合わせるでもなく、すぐに思い当たる。それに明石は頷いた。
「そう、あの
工作艦として断言しますがあんな艦は現実はもとより、ペーパープランですら存在しません。
それが、『大和型四番艦』? 絶対ありえませんね。
つまりあの子は……完全な『架空艦』ですよ」
『架空艦』……これもあり得ない事項だ。
『艤装』や妖精さんの召喚というのは、『イメージ』と『願い』の結晶とも言われている。
『艤装』建造は、その元となる艦を強くイメージしなければならない。そして強く正しい『願い』を持つことで、妖精さんとともに現れる。それが足りない場合、狙っていたものが建造されない……いわゆる『ハズレ』が出るのだ。
そのため『艤装』建造には強くイメージできる、現実に存在した過去の艦となるのである。だから完全に空想の産物である『架空艦』は建造不可能なはずなのだ。
「男の子なのも、『架空艦』なら一応説明がつきます。
私たちの『艤装』が女性にしか装備できないのは、『実在した艦艇を女性として表記していた』からです。
なら、『架空艦は実在せず、女性として表されたことは無い』でしょう。
だから『架空艦』であるあの子は、『艤装』の装備できる男の子……『艦息』なのでしょうね。
もっとも、前例もありませんからただの仮説以外の何物でもありませんが……」
「それにしたって、『どこからどう産まれたのか?』って疑問は解決されないわ」
「そこは大和さんの『母の愛の奇跡』、でいいんじゃないですか?」
明石は髪を掻きあげると、フフッと笑って言う。
「実際、訳分かりませんからそれぐらいしか説明できませんよ。
『建造』は想いと願いの結晶です。
大和さんが沈みゆくあの瞬間に抱いた、想いと願いと愛……それがあの子という存在を引き当てた……。
『母の愛の奇跡』……それ以外に丁度いい言葉は考え付きませんし、他の理由を考えるなんて無粋じゃありませんか?」
「……とてもエンジニアの言葉とは思えんな」
「想いやら願いやらで創られる『艤装』や妖精さんたちと一緒に戦う私たち艦娘なんて、半分ファンタジーの世界の住人ですよ。このぐらい夢のある考えしたっていいじゃないですか。
長門さんはこういう考え、お嫌いですか?」
「まさか? 大好物だよ」
そう言って長門はフッと笑う。
「それで、あの子に怪我とかはなかったんだな?」
「それはもう、かすり傷1つありません。
あの子の装甲……これも普通じゃありませんでしたよ。
ただ一つ問題も……。
羅號くん、どうやら自分の持つ能力を完全には把握しきれていないみたいで……」
「つまり……」
「あれだけ大暴れしてなお、100%の戦闘能力じゃないということです。
まだまだ、羅號くんの戦闘能力や機構には上があるんですよ。
頼もしくはあるんですが……自分のことを正しく理解せずに戦場にでるというのは危険です。
本当なら、それなりの時間をかけて演習などで完熟させ、自分の持つ機能をフルに活用できるようになってからの実戦投入……というのを強く推奨するんですが……」
「それができる状況なら苦労はしていない」
「ですよねー……」
長門も明石も揃って深くため息をついた。
「状況はわかった。
明石の言うように不安要素は認める。
だがそれでも……それでも、もはや我々は今、あの子に頼るしかないんだ」
亡き戦友の忘れ形見……本来なら長門も鳥海も、明石や夕張だって我が子のように可愛がりたい。だが、そんな子を戦場に送りだすしかないのが現実だ。
それを理解し、鳥海も明石も神妙に頷く。
「……手立てを考えよう。 この状況を脱する、手立てを。
鳥海、次の報告を」
「ええ」
「私は直せそうなものを直してきますね」
鳥海は状況報告に戻り、明石も仕事に戻った。
今の自分たちのできる、『最善』のために……。