艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

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あ、暁ーーー!! 若葉ーーー!!
なんで中国相手でいつの間にか轟沈してるんだーーー!?

猿のごとく発売した『HOI4』をプレイしているキューマル式です。
まさか対中戦で轟沈を出すことになるとは……。『HOI2』をやりまくった身としては対中戦で轟沈なんてあり得ないと思ってたのに……。
しかし扶桑型の次の級の戦艦が金剛型っておい……。あと長門型戦艦がないぞ……。
……完全に『HOI2』に慣れ過ぎました。

今回は長門たちの合流と、ついに登場の羅號改です。



業火 帝都炎上(その4)

「……前衛艦隊の全滅を確認した。 敵艦隊はほぼ無傷だ。

 現在、第二防衛ラインの60隻が急行している」

 

「そうか……」

 

 20にも満たぬ数の艦隊がその3倍以上にものぼる数の艦隊を全滅させ、今なお交戦中という信じがたい報告を『ソビエツキー・ソユーズ』から受けるが、君塚は慌てる様子も無く静かだ。

 

「……友軍がやられたというのに貴官は冷静だな」

 

 『ソビエツキー・ソユーズ』のその言葉に、君塚はニヤリと笑った。

 

「どうせいくらでも補充の利く戦力だ。

 『物量』の本当の恐ろしさはこれからよ。その前ではいかな優秀な個人であろうと敵わん。

 それにこの作戦……実は貴艦1隻だけで十分事足りるのだろう?」

 

「無論だ」

 

 君塚はどこか挑発的に『ソビエツキー・ソユーズ』を見やると、それに応えて『ソビエツキー・ソユーズ』は頷いた。

 その表情は虚勢を張って出来もしないことを言っている表情ではない。本当に、心の底から可能だと思っている顔だ。

 そして、恐るべきことにその自信は『慢心』なのではなく『真実』なのである。

 

「ならば帝都に残るものに対する絶好の見せしめとなる。

 自分たちの最後の希望が、じわじわとなぶり殺しになる様をよく見せつけてやれ」

 

「了解した。 そのまま戦闘を継続させる」

 

 『ソビエツキー・ソユーズ』が指示を出していく中、誰にも聞こえない声で君塚はつぶやく。

 

「そう……圧倒的な数の前には何をやっても無意味なのだ。 臣従しか生き残る道はない。

 何故それを理解してなかったのだ、八重さん……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……まずいわね」

 

 全体を見通す艦隊の目である瑞鶴はポツリとつぶやく。

 現在、彼女たちは再び現れた敵艦隊相手に交戦状態に入っていた。彼女たちの高すぎる個々の戦闘能力は健在、全員未だに目立った損傷は見受けられず次々に敵を沈めていっているというのに瑞鶴は……いや、彼女たち全員が『自分たちが追い詰められている』ことを感じ取っていた。

 その原因は2つ、『疲労の蓄積』と『燃料・弾薬の残量』だ。

 

 いかに強かろうとも彼女たちとて人間、疲れを知らぬ怪物ではない。そして疲れはミスへと繋がり、いつか致命的な事態を呼び込むだろう。連続戦闘によって蓄積された疲労がゆっくりと、しかし着実に彼女たちを破滅へと近付けていく。

 同時に弾薬と燃料の残量に底が見え始めていた。

 弾薬は全員ができる限り節約をしているが、それでも限界はある。もっとも、彼女たちは弾薬が無くなろうと鍛え抜いた近接格闘戦だけで深海棲艦を沈めることも可能なので、この問題は致命的ではない。

 致命的なのは燃料の方だ。

 海上を自在に移動できるようになる『艤装』は、回避・接近その他ありとあらゆるすべての行動に対価となる燃料を要求する。

 『敵の攻撃をすべて避け、こちらの攻撃を当て続ければどんな相手だろうが勝てる』……こんな無茶苦茶な暴論を、その無茶苦茶な技量で可能にしているのが彼女たちなのだ。しかし燃料がなければ、その暴論の大前提となる『足』が止まってしまう。

 

 そんな彼女たちに対して、深海棲艦隊は沈めても沈めてもその後からまったく消耗していない新鮮な戦力が補充され続け、戦闘能力が低下する兆しは見受けられない。

 これが『数』の本当の恐ろしさである。

 『数』の力とは『一斉投入されることによる圧倒的火力の破壊力』もあるが、それ以上に『最大戦闘能力をより長く維持できる持久力』こそが『数』の本当の力なのだ。

 

「きゃっ!?」

 

「熊野、無事!?」

 

 そんな中で、遂に熊野が直撃弾を受けた。

 

「ええ、かすり傷ですわ」

 

 それは装甲で止まった、小破判定にさえ届かないだろういわゆる『カスダメ』である。

 しかし『あの熊野に直撃弾が出た』という事実がすでに彼女たちの限界点が見え始めているという証拠だ。

 

「榛名!」

 

「全員戦闘海域を後退!

 数隻ずつ交代で補給を行います!!」

 

 彼女たちが出撃した隠しドッグにはまだ物資は残っている。即座に榛名は戦線を下げ、交代で補給作業を行うよう指示を出した。

 陽炎を筆頭とした駆逐艦娘たちが煙幕を張り視界を遮りながら、鮮やかな手並みで全員が一気に後退に入る。

 そんな中、瑞鶴は榛名に並んで小声で言った。

 

「榛名……」

 

「……わかっています、これが得策でないことぐらい。

 でも、これ以外の手もありません……」

 

 瑞鶴の言葉より早く、彼女の言いたいことを呑み込んだ榛名は頷いた。

 隠しドッグの物資は少ない。すべてを使いきったとしても、敵を倒しきるには足りないのだ。かといって敵の本隊を叩こうにも、彼女たちを持ってしても『数』と『突破力』が足りない。

 現状では、彼女たちの力を持ってしても勝ち目が見えないのだ。そして、それは彼女たちの誰もが理解していた。

 しかしそれでも……。

 

「ここで私たちが退けば帝都は陥落し、人類はこの戦争に敗北します。退くわけにはいきません。退けば、勝利の可能性は完全に無くなってしまいます。

 ……私たちがこうして戦う姿勢を見せて時間を稼げば、まだ戦力を残している場所からの援軍の可能性もあるでしょう。

 例え万に一つの可能性だろうと……勝利の可能性に、私は賭けています」

 

「そうよね……」

 

 榛名の言葉に頷いてから、瑞鶴は肩を竦めた。

 

「絶望の真っ暗闇の中で蜘蛛の糸より細い希望を追い求めて足掻く……私たち昔っからそういうの得意だったわね。

 いつでもどこでもそんな戦いばっかりで、とっくの昔に慣れたわ。

 他のみんなだってそうよ。

 今まで通り、やってやりましょう」

 

「ええ、やってやりましょう」

 

 その彼女たちの晴れやかな顔に悲壮感などない。

 しかし、状況は確実に悪い方向に転がり始めていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「敵勢力の抵抗が鈍化してきた。

 恐らく燃料・弾薬が欠乏しているものと思われる」

 

「だろうな。 どのように優秀な兵であろうと補給と休養無くしては戦い続けられん。

 各種倉庫の焼かれた状態だ、物資の手持ちなどたかが知れている。

 こうなることは必然よ」

 

 『ソビエツキー・ソユーズ』の報告に君塚は当然のことと深く頷く。

 

「物資も無く兵力も少ない、そして何より援軍も無い。

 そんな状態の防衛戦など成功することなどあるものか」

 

「道理だな。

 では包囲が完了し次第、殲滅する」

 

「ああ、そうしろ」

 

 そう言って君塚は頷く。

 多少のイレギュラーはあったもののこれで終わりだ。最後の戦力だろう彼女たちが沈黙すれば、もはや帝都を守るものなどない。

 

「これで日本はレムリアに臣従し、日本の戦争は終わる……」

 

 感慨深く君塚が呟いたその時だ。

 

「これは……敵援軍だと!?」

 

「バカな!?」

 

 その『ソビエツキー・ソユーズ』の言葉に、君塚は驚きの声をあげた。

 今この瞬間にも深海棲艦は陽動ともいえる攻勢を北方・南方戦線ともにかけており、こちらに廻すような戦力など存在しないはずだ。

 そんな再びのイレギュラーの発生に君塚は目を見開く。

 そして送られてきた映像の異質さに、君塚は声を上げた。

 

「何ぃ!?」

 

 あり得ない援軍、あり得ない陣容。そしてその先頭を行くあり得ない艦娘……それに呻くように言った。

 

「トラック泊地の『長門』だと……!?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「はぁはぁ……ああ、クソッ! こんな程度で息が上がるなんて私もずいぶん衰えたわね」

 

「四六時中吸ってる煙草が原因じゃないですか、それ?」

 

 大きく息をつく瑞鶴、隣の榛名は涼しい顔ながらもその額には汗が滲んでいる。榛名の指摘に瑞鶴は恨みがましい視線を送るが気にせず榛名は大声を張り上げる。

 

「各艦、状況を報告して下さい!」

 

「羽黒です。 主砲弾と魚雷は残弾ゼロ。 副砲弾があと十数発で撃ち止めです」

 

「北上だよ。 単装砲が残り10発くらい。 魚雷はあと4発だね」

 

 榛名と瑞鶴の隣で、油断なく周りを見渡しながら羽黒と北上が答える。2人とも榛名や瑞鶴と同じくほぼ無傷の状態だが、その顔からは疲労の色が見て取れた。

 

「損傷がないだけマシか……で、そっちは?」

 

 そう言って瑞鶴は振り返る。

 

「……熊野、損傷は中破判定ですわ。

 武装は一応、主砲が一基無事で、あと8発程度の残弾がありますわね」

 

「陽炎、同じく中破です。

 魚雷は残弾ゼロ、主砲があと5発ってところですかね……」

 

 答えたのは熊野と陽炎だ。

 熊野の着ていた豪奢なアフタヌーンドレスは見る影もなくボロボロとなり、陽炎の着ていたGパンとジャンパーも煤と衝撃でボロボロだ。

 その後ろの艦娘たちも中破状態、大破がいないというのは流石としか言いようがないが、それでも大なり小なり怪我をしている。残弾に関しては全員空っぽだ。

 

「これで全員、燃料に関しては空よりマシって状態か……。

 ところで北上、敵はあとどのくらいに見える?」

 

「ひー、ふー、みー……ああ、メンドくさっ!

 もう『たくさん』ってことでいいじゃん」

 

 瑞鶴が何となく尋ねると、彼方から接近する敵の姿を数えようとしたが北上はすぐに面倒だと投げ出した。つまり、そのくらいには大量の敵が未だに残っているということだ。

 

「やれやれだわ……榛名、どうする?」

 

「……皆さん、ここまでお疲れさまでした。

 あとは榛名に任せて撤退して下さい。 榛名なら大丈夫です」

 

 その言葉に、心底呆れたように瑞鶴は肩を竦める。

 

「あんたねぇ……ここにいる全員、今さら退くようなお利口な脳ミソしてたら最初っからこんな戦いやらないわよ。

 それに今ここで後退のために背を向けたら、その段階で敵の集中砲火を背中から受けて終わりよ。

 ……最後まで一緒にやらせなさい、榛名」

 

「榛名さん、私だって戦います。

 それが例え最後になろうと……私は後悔しません」

 

「私を後ろから襲っていいのは旦那だけって決めてるからね~。

 あんな連中に後ろからやられて沈むとかまっぴらだし、最後まで付き合うよ」

 

「もちろんわたくしも行きますわ。

 まさかこの熊野を除け者にしようとは言わないですわよね、榛名さん?」

 

「護衛の駆逐が必要でしょう?

 陽炎、志願します」

 

 瑞鶴、羽黒、北上、熊野、陽炎が即座に榛名とともに最後まで戦うことを決めると、ほかの艦娘たちからも賛同の声が上がる。

 その戦友たちの姿に榛名は少し俯くが、すぐに彼方の敵を見やる。

 

「行きますよ、皆さん……」

 

「全員、相討ちなんて安っぽいこと言うんじゃないわよ!

 あのぐらい素手で全滅させてやるわ!!」

 

 榛名と瑞鶴の言葉に、錨や弾の切れた砲をナックルガードがわりに構えると全員が突撃の体勢に入る。

 その時だ。

 

「電探に感! 航空機編隊!!」

 

 その言葉にバッと空を見上げれば正面の敵集団からは別方向から迫る深海棲艦特有の艦載機が見えた。それはどれもが白い球形をした高性能機だ。

 

「全艦、回避行動!!」

 

 全員が回避行動に移ろうとするが、その艦載機群はそのまま彼女たちの正面の敵集団に向かって猛然と襲い掛かった。

 艦爆の急降下爆撃が、艦攻の魚雷が炎と爆発を生み出す。

 

「これは一体……?」

 

 榛名たち古兵ですら今まで見たことも聞いたこともない深海棲艦の同士討ちの光景をどこか呆然と眺める。

 そしてその時、戦場にその声が響く。

 

「艦隊、この長門に続けぇぇぇぇ!!」

 

 怒号にも似た声と供に砲声が響き、深海棲艦の艦隊に砲弾が降り注ぐ。

 破壊を呼ぶ鋼鉄の雨が降り注ぎ同時にまるで解き放たれた矢のように、敵艦隊の横からあり得ぬような艦隊が突入していく。

 

「突入よ! 砲雷撃戦開始!!」

 

「了解! みんな私について来て!!」

 

「「「「了解ッッ!!」」」」

 

 鳥海の艦娘と夕張の艦娘の言葉に、配下と思われる駆逐艦の朝潮・満潮・吹雪・秋雲が答えて突入を開始した。その練度は遠目から見てもかなりの修羅場を潜り抜けてきただろうことを窺い知ることが出来る。

 しかし、そんな彼女たちに続くものがあった。

 

「遅れヲとるナ! 我ラも突入スル!!」

 

「3隻は後方で対潜警戒! 残りハ我に続ケ!!」

 

 重巡ネ級、そして軽巡ツ級と駆逐イ級や駆逐ロ級といった深海棲艦たちだ。それがどういうわけか、先ほど突入を開始した艦娘たちと連携しながら同じ深海棲艦に襲い掛かっている。

 それだけでも十分に驚きだが、その後にもまだ続く者がいる。

 

「オラオラァ! 殴リ合いの時間ダァァァ!!」

 

「バカ者、突出するナ。 私も行くゾ!!」

 

 戦艦ル級改フラグシップと戦艦タ級改フラグシップ、一目で各海域を任されるレベルの猛者であることがわかる。

 

「第二次攻撃隊、発艦……撃滅セヨ!!」

 

 これまた一目で猛者とわかる空母ヲ級改フラグシップの航空隊が、敵の艦載機隊を粉砕した。

 そして……。

 

「長門サン、仕上げト行きまショウ……」

 

「ああ! 全砲門、一斉射!!」

 

 最強クラスの深海棲艦である港湾棲姫、そして長門の艦娘の号令のもと、艦娘・深海棲艦の混成部隊が一斉に砲と魚雷を放つ。

 これらの猛攻に対し、榛名たちに集中して完全に横合いからの奇襲を受ける形となった深海棲艦隊は完全に瓦解、海の藻屑となって消えていった。

 あまりに突然な出来事に、歴戦の艦娘である榛名たちも呆然として声が出ない。

 そんな彼女たちに向かって声が聞こえた。

 

「みなさん、大丈夫ですか~~~!!」

 

 見れば明石の艦娘が手を振りながら榛名たちに近付いてくる。その後ろには、これまた信じがたいことに姫クラスである北方棲姫が、足の遅い輸送ワ級2隻と呂500の艦娘を曳航していた。

 

「ろーちゃん、『ちぃ』ちゃん。 周辺の警戒をお願いします!」

 

「わっかりました、ですって!」

 

「ンッ、ワカッタ!」

 

 呂500と北方棲姫が榛名たちの周辺警戒を始めると、輸送ワ級を連れた明石がやってきた。

 

「友軍がいるとは思いませんでした。

 燃料と弾薬、それに鋼材もボーキサイトもあります。

 補給と修理、お任せ下さい!」

 

 そう明石が言うと、それを証明するように輸送ワ級が頷いてコンテナを開き中を見せる。

 

「ええっと……物凄~くありがたいんだけどさ、先にこの状況の説明をお願いできるかな?」

 

 北上が輸送ワ級を指差しながら言うと、十分それは理解していたらしい明石が苦笑いをしながら言った。

 

「あはは、やっぱりそういう質問が出ちゃいますよね。

 簡単に言えば、深海棲艦も一枚岩じゃなかったってことです。人類との和平を望む深海棲艦の勢力もあったんですよ。

 彼女たちはそんな和平推進派の深海棲艦たちで、私たちの味方になってくれました。

 ……どうやらあちらも一段落ついたみたいですね。詳しい話は私たちの旗艦たちにお任せしますよ」

 

 明石がそう言うと、敵艦隊の撃滅を終えた艦隊がこちらに合流すべくやってくる。

 

「なんて言うか……夢でも見てる気分だわ」

 

 艦娘と深海棲艦が仲良く隊伍を組んで航行するという普通ならあり得ない光景に、瑞鶴がポツリと呟く。

 すると、その言葉に意外なところから反応があった。

 

「……醒めないで」

 

「えっ?」

 

 自分の真横から聞こえた声に瑞鶴が見ると、榛名が涙を流していた。よく見れば隣の羽黒もボロボロと涙を流している。

 

「夢なら……お願い、醒めないで」

 

「榛名、それに羽黒もどうして……」

 

 そこまで来て瑞鶴も気付いた。艦隊の艦娘たち……その先頭に位置する、長門と鳥海の艦娘に見覚えがあることを。

 

「あの娘たち、まさか!?」

 

 やがて彼女たちが榛名たちの前に並ぶと、ビシリと敬礼した。

 

「我らトラック泊地残存艦隊およびレムリア亡命艦隊、帝都奪還のため貴艦隊に合流します!

 力を合わせて、奴らを叩き返してやりましょう!」

 

 長門もどこか震えながら、その言葉を絞り出す。そして続けて小さく、言った。

 

「母様……ただいま戻りました!」

 

「ゆ、有希ッッ!!?」

 

「黒子ちゃん! 黒子ちゃん!!?」

 

 もう限界だった。榛名と羽黒が弾かれたように飛び出すと榛名は長門に、羽黒は鳥海に飛びつくようにして抱きしめる。

 

「有希! ああ、有希!!

 夢じゃない! 有希が、有希が生きてる!!」

 

「はい。母様、有希は生きて帰りました。もっとも片目と片腕は奴らに持っていかれましたが……。

 申し訳ありません、せっかく母様が五体満足に授けてくれた身体をこんなにして……」

 

「いい、そんなことはどうでもいいの!

 生きてさえ、生きてさえいてくれたのなら……!」

 

 泣きながら抱きつく榛名に、長門も涙を浮かべて抱き返す。

 

「黒子ちゃん! 黒子ちゃん! 黒子ちゃん!!」

 

「お母さん、名前連呼するのは恥ずかしいからやめてよ……。

 心配かけてごめんなさい、お母さん……」

 

 泣きながら抱きつく羽黒はそれ以外に言葉が出ないのか、鳥海の人間としての名前を連呼する。鳥海は本名を連呼されることに少し気恥ずかしそうにするが、それでも涙を浮かべて母を抱き返した。

 死んだと思われていた愛娘が実は生きていて、こうして再会したのだ。母親として、この反応は当然である。

 母娘は一時ここが戦場であることも忘れ、そのぬくもりを堪能するのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「トラック泊地の『長門』……まさか生きていただと!?

 しかも深海棲艦の共存派と合流もしていたのか!母娘揃って私の邪魔を……!!

 『ソビエツキー・ソユーズ』、貴様を投入する!

 すべての敵を撃滅せよ!!」

 

「……了解した。

 敵艦娘も、祖国を裏切った裏切り者どももすべてを打ち砕き、任務を完遂しよう!」

 

 予想もしない敵増援に、ついに君塚は『ソビエツキー・ソユーズ』の投入を決意する。『ソビエツキー・ソユーズ』はその命令に敬礼とともに答え機関を始動させ離水、戦場へと向かっていく。

 そして苛立たしげにギリギリと歯を鳴らす君塚の前で、映像は現場の様子を克明に映していた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「母様、私も名残惜しいのですが……」

 

「……ええ、そうですね。

 私もつい嬉しくて、周りのことが見えないくなっていました……」

 

 そう言って長門と榛名は離れる。同じように抱擁していた鳥海と羽黒も離れていた。

 その彼女らの視線の向こうには、こちらに接近中の敵艦隊がうっすらと見えている。そして……それよりももっと危険なものも接近していた。

 

「長門サン、偵察機かラ入電!

 『ラ級』接近中でス!!」

 

「やはり配備されていたか!!

 全艦、敵『ラ級』接近中! 繰り返す、敵『ラ級』接近中!

 総員戦闘態勢!!」

 

 『ウィン』からの報告に顔色を変えた長門は即座に艦隊に指示を出す。

 榛名たちには『ラ級』というのが何のことかは分からなかったが、トラック・レムリア聯合艦隊の反応と気配に、尋常でない何者かであることを理解する。

 そして、それはすぐに目の前に現れた。

 

「あれは何!?」

 

「戦艦が……空を飛んでる!?」

 

 今まで幾多の戦場を超えてきた最古参兵である榛名たちですらその驚愕に目を見開き、そしてそれは彼女たちの前に着水した。

 それはウシャンカを被り、コートを纏った男であった。

 背負う巨大な艤装。その砲口径は41cm級、長砲身の三連装砲と連装砲が2基ずつの10門の砲である。対空火器も充実しているが、それ以上に装甲の厚さが目立つ。恐らく装甲は対41cm防御よりも分厚い。また、どういうわけか船尾と思われる個所は他よりも肉厚で、『何か』が入っているようにも見える。

 そしてどうしても目を引くのは右手に装備したドリルだ。

 そんな何もかもが異質すぎる、そして隠しようもないほどの強者のオーラをまき散らす男の登場に声も出ない。

 そんな中、長門が口を開く。

 

「やはり帝都侵攻部隊に配備されていたか、レムリアの万能戦艦。

 私の名は長門、貴様も名前ぐらい名乗ったらどうだ?」

 

「……いいだろう。

 私の名は帝都侵攻艦隊旗艦『ソビエツキー・ソユーズ』、レムリアの誇る最強の艦、万能戦艦の一隻!!

 偉大なる我が祖国レムリアの命により、地上勢力の重要拠点『帝都』を破壊し、貴様らや裏切り者どもを沈める!!」

 

 その言葉とともに男……『ソビエツキー・ソユーズ』から圧倒的なまでの殺気が放たれた。しかしそれを前に、長門はどこかおどけた様に言う。

 

「素晴らしい肩書だが、その割に今の今まで友軍がやられていても前には出てこなかったのだな」

 

「司令からの命だ。

 それに……このような作戦、私1人で完遂できる」

 

「まったく……『モンタナ』といい、貴様らレムリアの万能戦艦は少々、自意識過剰が過ぎるようだな」

 

「何?」

 

 そこで始めて『ソビエツキー・ソユーズ』は長門の言葉に眉をひそめた。

 

「貴様、何故『モンタナ』の名を知っている?

 万能戦艦の存在自体はそこの裏切り者どもから知ることができるだろう。だが我々が進水し、名前がついたのはそこの裏切り者たちがいなくなった後だ。

 貴様らが知り得る情報ではないはずだが?」

 

 その言葉に、長門はニヤリと笑って答えた。

 

「それは無論、『モンタナ』本人に直接聞いたからだ。

 『モンタナ』が沈む前にな」

 

「『モンタナ』を沈めただと? ふん、悪い冗談だな。

 我ら万能戦艦が通常艦ごときに沈められるはずが無い」

 

「ほぅ……では私が『モンタナ』の名を知りながら、今この場に生きていることはどう説明する?」

 

「……」

 

 その言葉に『ソビエツキー・ソユーズ』は押し黙る。

 確かに裏切り者の始末を任務としていた『モンタナ』が、裏切り者と目撃者である艦娘を沈めずに見逃すということなどありえるはずもなく、『モンタナ』から逃げ切れるとも思わない。そうなると目の前の長門の言葉にも信憑性が出てくる……。

 思案する『ソビエツキー・ソユーズ』、そこに長門は笑って答えた。

 

「ふっ……『モンタナ』を私たちが沈めたというのは冗談だ。

 もっとも、沈んだというのは嘘でも何でもないがな」

 

「バカな、我らは偉大なレムリアの科学の粋、万能戦艦だ。

 それを倒せるような戦力が地上にあるはずが……」

 

 その時、『ソビエツキー・ソユーズ』の後方から接近中だった艦隊から爆発音が響き渡る。その音に『ソビエツキー・ソユーズ』は振り返り、そして見た。

 巨大なドリルを持つ、その姿を。

 

「ば、バカな!? 何だ『アレ』は!?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 もうもうと立ち込める水しぶき……敵艦隊に対して増援として送られた深海棲艦隊は突如として上がった水しぶきに、思わずそちらの方を見た。そしてそこに、その姿を見る。

 

 大和型と金剛型を足したような超巨大艤装、それを見に付けるのはまだ幼さを残した少年だ。

 まるで羽のように背に背負うそれには凶悪な輝きを放つ51cm4連装砲が3基12門搭載されている。2基が左右の艤装に取りつけられ、1基を左手で構えている。

 船体全体を覆う分厚い装甲、各所には対空火器が空に対して睨みをきかせ、副砲とパラボナアンテナのような機器が周辺に対して有無を言わせぬ威圧感を醸し出す。

 船体左右には3連装の大型魚雷発射管が装備され、船体左右装甲にはそこにめり込むように埋まった、筒のようなパーツが見える。

 そして極め付けが艤装からアームによって支えられ右手に接続されたドリルだ。

 これこそが改造によって進化を果たした羅號の姿である。

 

「間に合った……」

 

 改造を完了させ単冠湾(ひとかっぷわん)を出撃した羅號は、全速の飛行で帝都へと向かっていた。そのため到着時間は先行していた長門たち艦隊とほとんど変わらなかったのだ。

 羅號は長門たちに向かう新たな艦隊を認め、一気に高度を下げると派手な水しぶきを上げながら海面に着水する。

 

「各部チェック……オールグリーン。

 テスト無しのぶっつけ本番、ここで武装の感覚を覚える!!」

 

 羅號は改造後、何のテストも行わずにここまでやってきていた。そのため羅號はこの艦隊を相手に武装のテストを行うつもりなのである。

 そんな羅號の考えも知らず、現れた羅號を敵と認識し深海棲艦隊は攻撃を開始する。

 空を覆うように羅號に接近するのは深海棲艦の航空機だ。

 しかしそれを意にも介さず、それどころか丁度いいとばかりに羅號は滑らかに自らの新たな力を使う。

 

「リボルバーシリンダー、展開!!」

 

 その言葉とともに、船体左右側面にめり込むように埋め込まれた筒が左右に展開した。

 それはその名の通り、銃の回転式弾倉(リボルバー)のような形状をしており、6つの穴が空いている。そしてその穴の中にあったのはリボルバー拳銃のように銃弾ではない。その穴に入っていたのは鋭角的なフォルムの機械……艦載機であった。

 

「リニアカタパルト準備よし!

 特殊戦闘機『氷龍』、発艦始め!!」

 

 羅號の号令の元に発艦が始まった。

 電磁力を利用したリニアカタパルトでリボルバーシリンダーから高速で『氷龍』が射出されると、リボルバーシリンダーは本当にリボルバー拳銃のように回転、次の『氷龍』が射出される。

 左右から各6機、計12機の『氷龍』が瞬く間に発艦した。そしてリボルバーシリンダーが一度艦内に戻ったかと思うと再び展開、同じように12機の『氷龍』が射出され、合計24機からなる『氷龍』が猛然と敵航空機群に向かっていく。

 その速度は尋常ではない。それもそのはず、『氷龍』はその後部から炎を吐き出していた。そう、『氷龍』はジェット機なのである。

 超音速飛行可能な、低深度ならば水中からでも発艦できる、超特殊ジェット戦闘機がこの『氷龍』なのだ。

 最高速度がまるで違う『氷龍』はヒットアンドアウェイで敵航空機の群れを引き裂いていく。その様はまるで、小魚の魚群を喰い散らかす肉食魚のようだ。

 だが敵航空機の数は圧倒的に多い。『氷龍』の攻撃から生き残ったものが攻撃のために羅號に殺到する。

 しかし羅號は慌てることなく、次の指示を出す。

 

「各速射砲、自動迎撃機銃、対空射撃はじめ!!」

 

 羅號の各所から火線が伸び、それが正確に敵航空機を叩き落とす。

 羅號のただでさえ高性能だった電探は改造によってさらに強化され、それと連動して対空兵器が自動的に敵を攻撃する。その対空防御に穴は無い。

 結局、敵航空機群に投弾に成功した機体は1機もなくすべて火の玉になって海へと墜ちた。

 その惨状を目の当たりにし航空機ではどうしようもないと悟ったのだろうか、砲雷撃戦のために敵水上艦が接近する。

 羅號に向けて大小さまざまな砲が火を噴いた。しかし、羅號はそれに臆することなく突撃を開始する。

 羅號の心臓とも言える『零式重力炉』が咆哮を上げ、その莫大な出力を推進力に変換した羅號は一気に加速した。それによって敵の攻撃を振り切ると、羅號は攻撃を開始する。

 

「全力射撃、薙ぎ払え!!」

 

 12門の51cm砲が吼え猛り、敵の戦艦級の装甲を容易く喰い破る。

 15.5cm3連装速射砲が敵を文字通りの蜂の巣にし、熱線と冷凍光線が敵を切り裂く。

 目を見張るべきはその連射速度だ。51cmの主砲は約8秒に一度の斉射を可能にしていた。副砲である15.5cm3連装速射砲は一門につき分間20発という狂った速度で連射され弾が途切れない。

電子熱線砲(マーカライト・ファープ)と冷凍光線砲も10秒を超える連続照射をしている。

 羅號は改造によって、強力な自動装填装置とエネルギー伝達システム、そして冷却システムが装備された。そのため実弾の高速連射が可能となり、光線兵器も高出力・長時間の使用が可能になったのだ。

 だが、羅號の力はそれだけではない。

 

「!? 海中、ソナーに感!!」

 

 やはり海中には敵の潜水艦も潜んでいたようだ。しかしそれにも羅號は慌てることなく応じる。

 

「対艦・対潜誘導魚雷、発射!!」

 

 羅號の両脇の3連装大型魚雷発射管が動き、魚雷が発射される。魚雷は高速で水中を突き進み、まるで意思を持つかのように自分で向きを変えながら敵へと向かっていく。しばしの後、水中爆発による水柱が上がると、海面には油と黒い残骸が漂ってきた。羅號の魚雷が敵潜水艦を撃沈したのだ。

 対艦・対潜誘導魚雷は羅號の武装の中では派手さはないが、それでも威力は通常の酸素魚雷の1.5倍以上に相当するという規格外だ。しかも誘導による高い命中率も期待できる武装である。さらには羅號が水中潜航中でも使える唯一の射撃兵装であった。

 

「あとは!!」

 

 大型アームに支えられた超硬度ドリルに羅號が右腕を突き刺すように接続させる。羅號の魂とも言える復活したドリルが唸りを上げて回転を始めた。

 

「だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 羅號がドリル突進(チャージ)で敵艦隊に正面から突っ込む。

 ドリルが触れた敵が文字通りの粉々になっていく様はまさに鎧袖一触だ。その間にも各種火器は絶えることなく射撃を続けていく。

 敵とて黙ってやられているわけでもなく、必中距離とも言える距離で砲撃を加えるがそれは羅號に触れることなく弾かれる。強化された羅號の『磁気シールド』がその攻撃を弾いたのだ。

 

 圧倒的な連射速度を得た主砲と副砲。

 高出力・長時間持続の光線兵装。

 濃密で正確な火線を形成する対空火器。

 さらに高性能化したレーダーとソナー。

 潜水状態でも使用可能な、大型対艦・対潜水誘導魚雷。

 計24機からなるジェット戦闘機隊。

 強化された防御機構、『磁気シールド』。

 そして……より回転率の高まった超硬度ドリル。

 

 これこそが改造によって復活・強化された羅號の姿だ。

 そんな羅號の前に深海棲艦隊などすでに物の数ではない。気がつけば羅號の周囲にいた敵は海上から姿を消した。水中にも生き残った敵など存在していない。

 

「全システム、オールグリーン……」

 

 改造後始めての全力運転だというのにほとんどストレスのない艤装に満足げに頷くと、羅號は離水を開始する。

 目指す先はただ一つ、先行した長門たちの元、姿を表した敵『ラ級』の元だ。

 

「いくよ、みんな!!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「バカな!? 『アレ』は万能戦艦!?

 地上の科学力で万能戦艦が造れる訳が無い!

 それが何故、存在する!?」

 

「そうだな、貴様の言う通り今の地上にはそんな科学力はない。

 だが……その程度の些細なことなど、母と愛と執念と妄執でぶち壊す『奇跡』を起こした女がいたのだ。

 そしてその『奇跡』が……今、すんでのところで間に合ってくれた」

 

 そして長門は未だに驚愕する『ソビエツキー・ソユーズ』に、どこか憐れむように言った。

 

「貴様らの指揮官は無能だな。

 戦闘とは必要となれば持てる戦力を集中し、一気に終わらせるのが最善だ。

 正直、貴様が最初から戦線に投入されていれば我々に勝ち目などなかっただろう。

 だが、貴様の指揮官はどんな意図があったのか知らんが、いくら補充の利く戦力だからと戦場において愚かな選択である戦力の逐次投入を行い続けた。

 そして戦場において最も重要な『時間』を浪費し続け……我ら人類の『希望』が間に合ったのだ!」

 

 そして……派手な水しぶきを上げながら羅號が『ソビエツキー・ソユーズ』に相対するように着水する。

 

「さぁ羅號! 名乗りをあげてやれ!

 お前という人類の『希望』の名前を、誰もが知るように轟かせろ!!」

 

「うん、長門ママ!」

 

 新たな母である長門の言葉に頷き、羅號は名乗りを上げる。

 

「僕の名は大和型4番艦、万能戦艦『羅號』!

 父と母の無限の愛で造られた、いつかの平和の海のために戦う人類のための万能戦艦だ!!」

 

 帝都攻防戦の最終決戦、万能戦艦同士の戦いの幕が今、切って落とされようとしていた……。

 

 




おめでとう、羅號は羅號改になりました。
ますますチートに磨きがかかりましたが……原作を知っているとかなり控えめにしていると分かってもらえると思います。
いわば羅號が『羅號最初期型』で、羅號改が『羅號OVA版改装後仕様(弱体化)』といった感じですね。

次回もよろしくおねがいします。
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