艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

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ウォースパイト様、なんとお美しい……。

というわけでついに帝都炎上編の最終決戦、羅號VSソビエツキー・ソユーズの戦いになります。
相変わらずのトンデモバトル。そして炸裂する羅號の必殺兵装。
お楽しみに。



業火 帝都炎上(その5)

 日本の命運、ひいては世界の命運を左右するであろうレムリア深海棲艦隊による帝都侵攻作戦。

 その最終局面、ついに双方の最大戦力である『万能戦艦』が対峙した。

 

「我らレムリア以外を生まれとする万能戦艦だと!?」

 

 その事実に『ソビエツキー・ソユーズ』は驚きの声を上げるが、すぐに冷静さを取り戻す。

 

「なるほど……万能戦艦が敵戦力に存在するのなら、モンタナが撃沈されたことも頷ける。レムリアにとってはこの上ない脅威だ。

 しかし……貴様の誕生は偶然による奇跡だと判断した」

 

 『ソビエツキー・ソユーズ』はその聡明な頭で、羅號の存在を奇跡の産物だと看破する。つまり、地上には羅號に代わる戦力など存在しない。

 

「『奇跡』は2度も3度も起こりはしない。

 ここで私が討ち取り、祖国に害為すかもしれん芽を潰す!!」

 

「こっちだってママやみんなの故郷である日本を、これ以上やらせない!!」

 

 羅號と『ソビエツキー・ソユーズ』の主機『重力炉』が唸りを上げて、2隻の万能戦艦が宙に浮いていく。

 

「ママやみんなを守るため、砕けろレムリアの万能戦艦!!」

 

「偉大なる祖国のため、消えろ人類の万能戦艦!!」

 

 そして2隻は空中で戦闘を開始した。

 その様子を海上から眺める艦隊、ややあって長門はことの成行きを見守り呆然としていた榛名たち退役艦娘艦隊に向き直る。

 

「母様、羅號が敵ラ級の相手をしている間に、我々は残った敵通常戦力を叩きましょう」

 

「ええ、それは異存ないのだけど……有希、あの子さっきあなたのことを『ママ』って……」

 

 幾分困惑した榛名の言葉に、長門は胸を張って答える。

 

「あの子は羅號。

 この腹を痛めて産んだ子でないのは事実ですが、それでも羅號は私の自慢の息子です、母様!」

 

 その迷いない力強い言葉に、榛名は頷く。

 

「そう……。

 有希が生きていてくれたばかりでなく、可愛い初孫までできるなんて……これほど素晴らしいことはないわ」

 

 長門の言葉に、目じりに涙を溜めて感極まる榛名の隣で、瑞鶴がいたずらを思いついたかのようにニヤリと笑うと、戦友たちに振り返って叫んだ。

 

「みんな聞いた? 榛名に初孫ができて、ババァ一番乗りだそうよ!」

 

「ちょ! 瑞鶴!!」

 

 慌てて口を挟もうとするものの、仲間たちも面白がって言葉を返す。

 

「榛名さん、初孫おめでとうございます!」

 

「榛名さんもこれでおばあちゃんだねぇ」

 

「流石は我らが旗艦ですわ。

 おばあさま一番乗り、おめでとうございます」

 

「駆逐一同、榛名さんのおばあちゃん一番乗りにお祝い申し上げます!」

 

 羽黒・北上・熊野・陽炎と次々と戦友たちがニヤニヤと笑いながら、わざとらしいお祝いの言葉を述べてくる。

 

「おめでとう、おばあちゃん!」

 

「瑞鶴……ッ!!」

 

 いくらなんでもさすがに戦友たちからの『おばあちゃん』の連呼は心にくるものがあり榛名は瑞鶴を睨む。その視線は黒い殺気がオーラのように見え、トラック・レムリア聯合艦隊はヒヤヒヤするが、とうの瑞鶴は慣れたもので気にせず笑っている。そして一しきり笑い終えると、再び瑞鶴は戦友たちに振り返った。

 

「それじゃ榛名おばあちゃんに戦友一同でお祝いしないとね。

 あんたたち、補給作業は終わったでしょうね!!」

 

「「「「当然!」」」」

 

 その答えに満足そうに頷くと、彼方の深海棲艦隊、『帝都侵攻艦隊』の本隊を指差す。

 

「あのアホどもにさっさと海の底にお帰り願ってから宴会よ!

 全員、つづけぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 その声とともに補給を終えた瑞鶴たちが出撃していく。

 

「ちょっと、みんな!!」

 

 一呼吸おいて、補給を完了させた榛名もそれに続いた。

 

「我らも行くぞ!!

 明石以下補給隊は後方に退避、他は敵に対して突撃を敢行する!!

 我らのあの『伝説』の大先輩たちの前だ、みっともないところを見せるなよ!!

 突撃ぃぃぃぃ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

「此方モ行ク!

 『ちぃ』以下駆逐5隻は補給隊ヲ護衛、残りハ突撃!!

 我らレムリア亡命艦隊の力、見せツケろ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 榛名たち『もっとも古い伝説』に導かれるように、トラック・レムリア聯合艦隊も敵に向かって突撃していく。

 未だに数の上では彼我兵力差は圧倒的に敵に有利だ。しかし、一気に士気が上がった彼女たちには敗北など微塵も考えてはいない。

 今、敗北に大きく傾いていた帝都攻防戦の天秤は、ゆっくりとその様子を変えていくのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 横須賀正面海域上空に巨砲が響く。

 

「51cm砲、全力斉射! 薙ぎ払え!!」

 

「全門斉射!! 奴を沈めろ!!」

 

 羅號と『ソビエツキー・ソユーズ』が激しい砲撃戦を展開していた。巨砲から放たれた砲弾が互いの磁気シールドにぶつかって弾けて消える。高速で空を飛び回りながらの砲撃戦、まさに万能戦艦の本領とも言える戦いだ。

 しかし、その砲撃性能には羅號の方に軍配が上がる。

 

「ぐっ! これが51cm砲の威力か!?」

 

 自身に襲い来る衝撃に、『ソビエツキー・ソユーズ』は憎々しげに吐き捨てる。

 『ソビエツキー・ソユーズ』は長41cm3連装砲2基、長41cm連装砲2基という計10門の主砲を装備する戦艦だ。しかしその防御装甲については対41cm防御ではなく、対46cm防御相当のものを採用した重防御艦だ。しかしその防御装甲も、それ以上の大威力を持つ羅號の51cm砲に対しては完全には防御しきれない。逆に対51cm防御の装甲を持つ羅號に対しては、『ソビエツキー・ソユーズ』の長41cm砲は決定打にはたりなかった。

 だが、羅號の能力はそれだけではない。

 

「それにこの砲連射速度に砲撃の正確性はなんだ!?」

 

 重量の軽い『ソビエツキー・ソユーズ』の41cm砲の方が装填速度は速く時間当たりの砲攻撃力では負けはしないと『ソビエツキー・ソユーズ』は考えていたが、その認識はすぐに改めさせられる。羅號が改造によって手にした自動装填装置が装填速度の高速化を成功させ、結果として時間当たりでの砲攻撃力で『ソビエツキー・ソユーズ』に大きく勝るものになったのだ。

 さらにその砲撃精度の凄まじさも尋常ではない。

 超高性能レーダーと連動した51cm砲は、飛び回るジェット特殊戦闘機『氷龍』による観測によって凄まじく精度を上げていた。

 

「なんという総合力とバランス!

 これが地上の万能戦艦の性能か!?」

 

 冷静に羅號の性能を分析する『ソビエツキー・ソユーズ』、その中に『所詮地上の万能戦艦』などという侮りは無い。

 やがて煙によって視界を完全に防がれ、羅號と『ソビエツキー・ソユーズ』双方の砲撃が一時止む。

 煙が晴れると、羅號と『ソビエツキー・ソユーズ』はともに健在だったが、その様子は大きく異なっていた。

 羅號は左肩の主砲塔への攻撃によって砲身が2本折れ曲がり、稼働可能な主砲数が10本に減じている。しかしそれ以外は自動迎撃機銃数基が吹き飛ぶくらいのもので、そこまで大きな損傷は生じていなかった。

 一方の『ソビエツキー・ソユーズ』の様子は違った。長41cm3連装砲の1基に被弾し、ターレットが歪んでいた。これでは砲の旋回など不可能だろう。これによって稼働可能な主砲数を10本から7本に減じている。

 だがそれだけならば、それほどの問題でもなかった。『ソビエツキー・ソユーズ』にとって一番の問題は他の損傷である。

 『ソビエツキー・ソユーズ』の被っていたウシャンカが吹き飛び、流れる血が『ソビエツキー・ソユーズ』の右の顔面を赤く濡らしていた。あのウシャンカは『ソビエツキー・ソユーズ』のレーダー部の艤装でもあるのだ。レーダーに損傷を受けたことによって射撃精度が大きく低下してしまったのである。

 どんな攻撃だろうと当たらなければ意味は無い。こちらの方が『ソビエツキー・ソユーズ』にとって主砲数が減ったことよりも問題だった。

 

「……なるほど、地上の万能戦艦『羅號』だったか。

 認めよう、貴様の存在は祖国レムリアにとって脅威だとな」

 

 ポツリと、しかしよく通る『ソビエツキー・ソユーズ』その声に羅號は背筋に冷たいものが走るのを感じる。

 現状、羅號の有利は揺るがないはずだ。しかし羅號は艦息の勘で、『ソビエツキー・ソユーズ』にはまだ何かがあるのだと気付いた。

 

「私は如何なる理由があろうと任務を遂行する!

 見せてやろう、この『ソビエツキー・ソユーズ』の真の力を!!」

 

 『ソビエツキー・ソユーズ』のその言葉とともにその艤装、船尾にあたる部分に変化が現れる。不自然に肉厚になっていた装甲が開き、まるで羅號の『氷龍』発進用のリボルバーシリンダーのような装置が上下左右に4基展開される。そして聞こえ始める、キュィィィンという何かの音。

 

「右舷スラスター全開、急速回避!!」

 

 羅號は本能的に感じ取った予感に従い、空中姿勢制御用のスラスターを全開にして緊急回避に入る。そしてその決断が羅號を救った。

 

 

 ドンッ!!

 

 

 爆発音にも似た音とともに、衝撃が羅號を掠める。もしも羅號が回避をしていなければ直撃を受けていただろう。

 

「うわぁぁ!!?」

 

 その衝撃にあおられて崩したバランスをすぐに立て直す羅號。

 

「一体今の攻撃は……?」

 

 今の一撃はあまりに強力だった。あれは磁気シールドの有無など関係無く、直撃を受ければ羅號でも一撃で間違いなく轟沈だ。

 その正体を探るべく羅號は視線を巡らせるが、その場には『ソビエツキー・ソユーズ』はいない。

 

「ま、まさか……!?」

 

 レーダーを見れば、『ソビエツキー・ソユーズ』の反応が高速で移動している。そして羅號はその視線の先に『ソビエツキー・ソユーズ』を見つけた。『ソビエツキー・ソユーズ』は炎の尾を引きながら空を舞っている。

 それは……。

 

「ジェットエンジン!?」

 

 そう、『ソビエツキー・ソユーズ』のせり出した4基の装置は大型ジェットエンジンだったのだ。それによるドリル突進(チャージ)が先ほどの一撃の正体だったのである。驚愕する羅號に、『ソビエツキー・ソユーズ』の声が届く。

 

「これこそが偉大なる祖国レムリアが私に与えてくださった力だ!!

 このスピードについてこれる存在などいない!!」

 

 羅號とて重力制御飛行でかなりの飛行速度は出せるが、今のジェットエンジンを起動させた『ソビエツキー・ソユーズ』はその比ではない。その差はまるでレプシロ戦闘機とジェット戦闘機のようだ。

 羅號に向かって、旋回しながら再び『ソビエツキー・ソユーズ』が迫る。

 

「左主砲斉射と同時に左舷スラスター全開!!」

 

 羅號の51cm砲が吼えるが、その砲弾は『ソビエツキー・ソユーズ』を捉えきれない。しかし主砲発射時の反動とスラスターの併用によって、『ソビエツキー・ソユーズ』の必殺のドリル突進(チャージ)を再び避けきった。

 

「なかなかやるな。

 しかし、この速度差でいつまで避けられるかな?」

 

「くぅ!?」

 

 羅號の額に冷たい汗が一筋流れる。

 『ソビエツキー・ソユーズ』の真の力を前に、羅號は窮地に陥っていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 空中からの派手な爆発音が響き、弾薬補給に一時戻っていた長門は空を見上げる。そして見えた光景に長門は悲鳴のような声を上げた。

 

「ら、羅號!?」

 

 羅號の左肩に存在する51cm四連装砲塔が炎を上げて吹き飛んでいた。

 だがその爆発の衝撃で羅號は高速で突っ込んでくる『ソビエツキー・ソユーズ』のドリル突進(チャージ)をかわす。

 その様子にホッとする長門だが、すぐに何一つ安心できる状態ではないことを思い出す。

 

「ら、羅號ッ!!」

 

「ラゴウッ!!」

 

「何をするつもりだ、朝潮!!」

 

 同じく補給に戻っていた朝潮と補給隊の護衛をしていた『ちぃ』が羅號の危機に空中に向けて砲を向けるが、長門がそれを止める。

 

「何をするんです、長門さんッ!?

 羅號を、羅號を早く援護しないと!?」

 

「ナガト、ドクッ!!」

 

「落ちつけ朝潮! 『ちぃ』!!

 ……悔しいが我々の砲では、敵ラ級をまともに傷付けることはできん」

 

 握りしめた拳を震わせながら、悔しげに長門が呻く。

 そう、2人の砲撃では電磁シールドに阻まれ、『ソビエツキー・ソユーズ』に傷一つ負わせられないのだ。そればかりか、ともすれば羅號を更なる危機に陥れる可能性すらある。

 

「でもっ! でもっ!!」

 

「ラゴウがっ!?」

 

 長門の言葉を理解はできても、目の前の羅號の危機に朝潮と『ちぃ』は冷静さを無くして泣きだす寸前だ。

 

「我々に……もっと力があれば!!」

 

 長門が血を吐くように呻いた。

 だが、その時だ。

 

「こんなこともあろうかとぉぉぉぉぉ!!!」

 

 戦場にそんな声が響く。その声の主は……。

 

「明石か……」

 

 声の主は明石だ。

 

「やっと言えた……お父さん、これで私も一流のメカニックだよね」

 

彼女は自らの言葉に何か感極まったように、彼方に向けて何やら呟いている。だがすぐに真剣な表情に戻って長門に言った。

 

「ありますよ。

 私たちが……長門さんがあのラ級にダメージを負わせられるだろうものが!!」

 

 そして明石が取り出したものは……。

 

「それは?」

 

「これは、羅號くんが開発で引き当てた特殊砲弾です!」

 

「何ッ、羅號の開発したものだと!?」

 

 そう、それは単冠湾(ひとかっぷわん)で羅號が開発した特殊砲弾だった。

 

「対艦・対空特殊砲弾……だと!?」

 

 すぐにそのデータを呼び出した長門はその内容に驚愕する。

 あの羅號の開発したものだと言うからとんでもないものだろうとは思っていたが、思った通りのとんでもない代物だった。

 確かに、これならば『ソビエツキー・ソユーズ』にもダメージを与えられるだろう。

 

「工作艦の激ウラ技ですが、ここで長門さんに『コレ』を装填することはできます。

 しかし……」

 

 そこまで言って、明石は顔を曇らせる。

 

「これは羅號くんの開発した試作品のようなもの。

 弾数は……たった1発です」

 

「なん……だと……!?」

 

 敵ラ級である『ソビエツキー・ソユーズ』はジェットエンジンによって、常識外の速度を誇っている。それに一発で当てろというのは神業に等しい。そして、残念ながら長門にはそれだけの神業をこなす技量は無い。

 そのとき、横から声が掛けられた。

 

「ならば、それを私の砲に装填してください。

 私が撃ちます!」

 

「母様!」

 

 それは同じく弾薬補給に戻った榛名だ。

 孫の危機と聞き即座に榛名は志願するが、明石は首を振る。

 

「榛名さんの技量ならできるかもしれませんけど……砲口径的に装備できるのは長門さんの41cm以上の砲だけで、榛名さんの旧式35.6cm砲では装填できないんです」

 

 せっかくの羅號の危機を救えるかも知れない装備だが、長門では技量が足りず、技量の足りる榛名は装備が出来ないのだ。

 その話を聞いた朝潮と『ちぃ』は目の前が真っ暗になったような感覚に襲われるのだが、しかし長門と榛名は互いに顔を見合わせ頷いた。

 

「……ならばやることは一つですね。

 有希!!」

 

「はい、母様!!

 明石、私の砲にその砲弾を早く装填しろ!!」

 

「な、何をするつもりなんですか?」

 

 言われたままに長門の砲に特殊砲弾を装填しながら、明石が問う。

 

「何ということはありません。

 私が狙いを定め……」

 

「私が引き金を引く、それだけのことだ!」

 

 そう、2人は榛名が狙いを付け、長門が発射を行うという役割分担をすることにしたのである。

 

「有希、砲の照準を私に!」

 

「わかりました、照準、母様に任せます!」

 

 長門の砲が、榛名によって旋回されて狙いを定めていく。

 針の穴を通すような集中による調整……そして、榛名が叫んだ。

 

「今です! 有希!!」

 

「羅號ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 ドゥン!!

 

 

 轟音とともに、一発の砲弾が空に向かって放たれた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「くっ!?」

 

 羅號は今、間違いなく追い詰められていた。『ソビエツキー・ソユーズ』の速度の前に、攻撃が全く当たらないのだ。

 よしんば当てられたとしても、『ソビエツキー・ソユーズ』の耐久力を考えれば1発2発では戦闘不能に追い込むことはできないだろう。逆に『ソビエツキー・ソユーズ』のドリルの直撃を受ければ一撃でおしまいである。なんとも馬鹿げたダメージゲームだ。

 

(動きを止めることさえできれば……『アレ』を使えるけど……)

 

 実は羅號にも秘策はある。改造によって手に入れた、未だに見せていない力だ。その威力は必殺のドリル同様、相手を一撃で大破できるだけの力を持っていると確信している。しかしそれは絶大な威力を誇る半面、問題も抱えているものなのだ。

 

(あれは、『絶対に命中させないといけない』……)

 

 そんな制約のため、現状では使うに使えない。

 だからこそ羅號は回避に全神経を集中させて機会をうかがうが、『ソビエツキー・ソユーズ』は並大抵の相手ではない。ゆっくりと、しかし確実にそのドリルは羅號を捉えんと迫る。

 そして、ついにその切っ先が羅號を捉えた。

 

「これで終わりだ!!」

 

「!?」

 

 度重なる使用でついにオーバーヒートしてしまった羅號のスラスター、その冷却時間を狙った『ソビエツキー・ソユーズ』のドリル突進(チャージ)。それは羅號の真芯を捉えていた。

 

(回避は……駄目だ、間に合わない!!

 こんな手、本当はやりたくないけど……!)

 

 瞬時に回避が不可能であることを悟った羅號は、その度胸と持ち前の思い切りの良さである決断を下した。

 

「第三砲塔、弾薬庫着火!!」

 

 

 ドゥゥン!!

 

 

「ぐぅ!?」

 

「何ぃ!!?」

 

 響き渡る爆発音とともに、必中を確信していた『ソビエツキー・ソユーズ』のドリルが虚しく空をきった。見れば、羅號の左肩に位置する51cm四連装砲が炎を噴きながら、砲塔から吹き飛んでいる。

 なんと羅號は51cm四連装砲を自爆させ、その反動によって『ソビエツキー・ソユーズ』のドリル突進(チャージ)を回避したのだ。

 

「何と言う往生際の悪さだ!

 だが、そんな奇策など何度もできるものか!!」

 

 『ソビエツキー・ソユーズ』の言う通り、これは羅號にとっても苦肉の策だ。羅號のダメージも大きく、砲塔1基を犠牲にしたため攻撃力の減退も著しい。しかし、それをしなければ今ので終わっていたのだから仕方ない。

 そして、当然だがこんな緊急措置は何度も使えるわけがない。

 

「今度こそトドメだ!!」

 

 大きく旋回しながら向かってくる『ソビエツキー・ソユーズ』。

 

「こうなったら!!」

 

 羅號は一か八かで自身もドリルを構え、正面からのドリルで受け止める覚悟を決めた。

 その時だ。

 

「羅號ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「長門ママッ!!」

 

 遥か海上から聞こえた長門の声。同時に発射された砲弾が『ソビエツキー・ソユーズ』の真正面で炸裂した。

 

「ふんっ! この万能戦艦に通常艦艇の攻撃など……何ッ!?」

 

 展開された電磁シールドに阻まれ空中で爆散する砲弾に、意にも介さず突進(チャージ)を続ける『ソビエツキー・ソユーズ』はすぐに異常に気付いた。

 爆散する砲弾の周囲の空気が瞬時に真っ白に変化していく。そして『ソビエツキー・ソユーズ』のスピードを支える4基のジェットエンジンが突如としてストップしたのだ。

 

「何だこれは!? ジェットエンジンが……凍りついている!?」

 

 そう、白く見えたのは周囲の空気が一瞬で凍結してしまったためだ。そして吸気によってその空気を吸い込んでいたジェットエンジンは一瞬で凍りついてしまったのである。

 

「なんなのだ、これは!?」

 

 突然の事態に混乱する『ソビエツキー・ソユーズ』。羅號はこの攻撃の正体に気付いた。

 

「これは……あの時開発で出てきた『95式対空対艦冷凍弾』!?」

 

 『95式対空対艦冷凍弾』……これが羅號が単冠湾(ひとかっぷわん)で開発に成功した装備だった。

 羅號の冷凍砲に匹敵する威力を誇る冷凍兵器である。その威力は一瞬にして周辺温度を-200度にまで低下させることが可能で、空中で爆発させれば三式弾のような対空兵器として、対艦として使えば敵を一瞬にして氷像に変える威力を誇る装備だ。

 ただ大きな問題として、あまりにもコストが高いということが上げられるので色々な意味で難しい装備なのである。

 とにかく、長門から放たれた『95式対空対艦冷凍弾』は『ソビエツキー・ソユーズ』に対してその威力を如何なく発揮したのだ。

 

「くっ、動きが!?」

 

 各部が凍りついて空中で動きを大幅に鈍らせた『ソビエツキー・ソユーズ』に、羅號は自身の切り札の一つを切る。

 左手に持つ51cm四連装砲を『ソビエツキー・ソユーズ』に向けて構える。動きの鈍った『ソビエツキー・ソユーズ』にはかわす術はない。

 

「第一主砲塔……プラズマ弾装填!

 撃てぇぇぇぇぇ!!」

 

 羅號の掛け声とともに、通常弾とは明らかに違う砲弾が発射される。

 『ソビエツキー・ソユーズ』は電磁シールドを発生させてその砲弾を防ぐが、その瞬間……空に太陽が生まれた。

 

「うぐぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 熱波と衝撃波の直撃に『ソビエツキー・ソユーズ』が絶叫する。

 一定範囲内の空間をプラズマ化させ、その超高熱と衝撃によって敵を打ち砕く防御不能の特殊砲弾、それが羅號の切り札である『プラズマ弾』だった。

 強力無比である『プラズマ弾』だが、その特性上目標を外した場合に被害が甚大なものになること、そして……。

 

「第一主砲塔、パージ……」

 

 砲身すべてがドロドロに溶けてしまった左手の51cm四連装砲を羅號は切り離す。『プラズマ弾』はその発射にも高熱を発生させ、砲塔を犠牲にしなければならないのだ。そのため最大で3発しか撃つことができず、撃てば撃つだけダメージを受け、しかも攻撃力まで落ちていくという諸刃の剣なのである。

 

 『プラズマ弾』の熱波が引き、煙の向こうから『ソビエツキー・ソユーズ』の姿が見えてきた。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

 その姿は控えめに言っても満身創痍なのは明らかだった。

 『ソビエツキー・ソユーズ』の身体は焼け爛れ、艤装は熱波による高温で構造物のことごとくが融解している。完全な形を残していること、そして空中浮遊能力を失っていないのはさすがはラ級万能戦艦だが、戦闘力はすでに残されてはいまい。

 

「もう勝負はつきました。 降伏をして下さい」

 

 そう言って羅號は降伏を促すが、その羅號に満身創痍の『ソビエツキー・ソユーズ』はニヤリと笑った。

 

「……ふん、確かに戦いは貴様の勝ちだろう。それは認める。

 だが……だが、それでも任務は達成される!!」

 

 そう断言すると、『ソビエツキー・ソユーズ』は反転し飛行を開始する。その視線の先にあるのは……帝都。

 

「まさか!!」

 

「そのまさかよ!

 帝都中心で私の重力炉を自爆させればどうなるか……帝都は灰塵に帰し、私の任務は達成される!!」

 

「くっ!?」

 

 慌てて羅號は『ソビエツキー・ソユーズ』の後を追うが、最後の力を振り絞る『ソビエツキー・ソユーズ』は推進器から炎が噴き出るのもお構いなしで速度を上げ、羅號は追い付けない。

 

「祖国ばんざーい!! レムリアばんさーい!!!」

 

 叫びながら突き進む『ソビエツキー・ソユーズ』、このままでは帝都に侵入されるというその時だ。

 

 

 ドゥン! ドゥン!! ドゥン!!!

 

 

「がぁ!?」

 

 上と下から同時に衝撃が走り、『ソビエツキー・ソユーズ』の足が止まる。殺意の籠った視線を巡らせれば、海上には砲から硝煙を棚引かせる榛名と、弓矢を放った形で構える瑞鶴の姿があった。

 瑞鶴の艦爆隊が空中移動目標である『ソビエツキー・ソユーズ』に上から爆弾を直撃させ、同時に榛名が『ソビエツキー・ソユーズ』を下から砲撃したのだ。

 その瞬間に『ソビエツキー・ソユーズ』は悟る。

 

「ぐっ!!

 甘く見ていた……通常艦艇など、我ら万能戦艦の敵ではないと……。

 その慢心が……最後に任務を失敗に導いた!!」

 

 足の止まった『ソビエツキー・ソユーズ』の側面から、羅號がドリルを構えながら突進する。

 

「だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ぐがぁぁぁぁぁ!!?」

 

 横からの羅號のドリルは『ソビエツキー・ソユーズ』の真芯を抉っていた。『ソビエツキー・ソユーズ』の艤装中枢を貫きながら、羅號はそのまま最大出力で『ソビエツキー・ソユーズ』を押しながら海上まで運び出すと、そのまま海へと叩きつける。

 海中に沈みながら、羅號はドリルを抜いて浮上を開始した。

 

「ぐぅ……レムリアに栄光あれぇぇぇぇぇ!!!」

 

 そして『ソビエツキー・ソユーズ』は海中に没しながら、大爆発を起こす。

 水中爆発によって立ち上る水柱。ややあって、ゆっくりと羅號が海面に浮上してくる。

 

「敵ラ級万能戦艦……撃沈……」

 

羅號は海上へと立つが、今までの激戦と、最後の『ソビエツキー・ソユーズ』の爆発による衝撃を受けていたためところどころから黒煙を噴いていた。

 

「らーくんっ!!」

 

「羅號!!」

 

「ラゴウ!!」

 

 聞こえる声に視線を向ければ、いつもの3人娘が羅號の元に駆け寄ってきていた。

 それに応えるように羅號は微笑みながらゆっくりと手を上げる。

 

「勝ったよ、みんな……」

 

 そんな羅號にむかって速度を上げるローと朝潮と『ちぃ』に、疲労と怪我で廻らない頭で羅號は考える。

 

(……今飛び掛かられたら沈むんじゃないかな、僕)

 

 ……沈みはしなかったが、その超重量弾(スーパーヘビィシェル)に匹敵する衝撃はとんでもなく痛かった。

 羅號は痛みで離れそうになる意識を必死に手繰り寄せながら、それでも自分を心配してくれる少女3人に微笑みかけるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 羅號が万能戦艦同士の戦いを制した頃、もう一つの戦いも終わりを告げようとしていた。

 

「……まさか、私の人生をかけた計画がこんな風に潰えるとはな」

 

 クルーザーの壁に寄りかかるように座ると自嘲気味に呟き、男は胸元を弄る。

 男の名は君塚、レムリアと内通しこの戦いを引き起こした男だ。

 帝都侵攻艦隊の旗艦である『ソビエツキー・ソユーズ』が撃沈されたことで、帝都侵攻作戦の成功は無くなった。残った艦隊は数には勝っていても、練度においては明らかに相手より下だ。それでも指揮官の指揮と連携によって戦うこともできるだろうが、それに関しても相手のほうが一枚も二枚も上手である。

 絶対の自信を持っていた長年の計画が予測不能のイレギュラーが重なったことで崩れ去る……笑いを漏らしながら懐の煙草を取り出すが、それは赤くべっとりと濡れていて、とても火が付きそうにない。

 君塚の胸には鉄の塊が突き刺さっていた。付近の護衛が爆発したときにその破片が君塚に直撃したのだ。肺まで達するその傷は、もはや致命傷である。

 

「最後に煙草の一本も吸えんとは……」

 

 そう呟いてからゴボリと血を吐くと、憎々しげに血に濡れて役立たずに成った煙草を投げ捨てる。

 すると、その投げ捨てた煙草の先に誰かが立っていた。

 君塚はゆっくりと視線を上げる。

 そこにいたのは……。

 

「ああ……私の最後には君が来るのか、八重さん……」

 

 榛名が君塚を見下ろしながら立っていた。

 

「ふん……首謀者を捕えに来たのか?」

 

「……ええ、あなたにはこの事件の責任を取ってもらおうと思ったのですが……」

 

「生憎とこの様だ。

 あと数分もせんうちに責任などとれん身体になるよ」

 

「……そのようですね」

 

 榛名は即座に君塚の傷が致命傷であることを理解する。

 死期を悟った君塚は、胸の内を吐き出すように榛名に話しかける。

 

「……私は自分が間違えたとは思っていない。

 あのレムリアの力の前に、日本を存続させる方法は臣従のみだ。

 私はそれを信じ、そのために行動した。

 悔いなど、ない」

 

 そこには一片の迷いも無かった。そう、心の底から信じているのだということがわかる。

 そんな迷い無い言葉に、榛名は言葉を返した。

 

「……あなたは変わらないのですね。

 間違えることも無く、ただ真っ直ぐに進む……その心の強さを、私は尊敬していました。

 でも……あなたはいつも1人ですべてを決めていた……」

 

 榛名の脳裏によぎるのは、古いあの日の光景。

 秘書艦すら置かず、全てを自らの采配で指揮する君塚の姿。

 

「胸の内を話してほしかった。相談して欲しかった。一緒に歩むことを許して欲しかった。

 でも、あなたはいつだってすべてを1人で決めていました。

 だから私はあの人を……貴繁さんを選んだんです。

 あの人はあなたから見れば間違いだらけの人、でも……一緒に泣いて一緒に笑って、一緒に歩むことを許してくれた。

 ……確かにつらいことも悲しいこともたくさんあった。

 それでも……それを共有し、歩めた私は幸せでしたよ。

 あなたも……その心を共有できる、誰かに自分の胸の内を吐き出すべきだったんです……。

 そしてその誰かとともに歩んだのなら……別の結末もあったのだと思います」

 

 そう榛名は悲しそうに言う。そんな彼女の言葉に君塚はしばし呆然としていたが、いつの間にか苦笑して皮肉げに口を歪めた。

 

「なるほど、共犯者をもう少し作っておくべきだったということだな。

 次回の参考にさせてもらおう……」

 

「ええ、ぜひ参考にしてください」

 

 そうして、榛名は君塚に艤装の機銃を構えた。

 

「……やってくれるのか?

 正直、この痛みがしばらく続くのは願い下げだったのだ」

 

「ええ。

 これは私を初めて指揮してくれた古き提督への、最後の御奉公ですよ……」

 

 その言葉に、君塚はゆっくりと目を瞑った。

 

「……ありがとう、八重さん」

 

「ええ。

 おやすみなさい、提督……」

 

 

 パンッ……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……榛名、終わった?」

 

「ええ……」

 

 沈みゆくクルーザーから戻ってくる榛名に、瑞鶴は口にしていた煙草から紫煙を燻らせながら尋ねる。

 君塚が致命傷なのはわかっていた。正直に言えば、瑞鶴も他の戦友たちも君塚のことは八つ裂きにしてやりたい気分だったのだが、榛名たっての頼みだったのでその最後を譲ったのである。

 どうやら、この戦いの決着はついたようだ。瑞鶴がそう思っていると戻ってきた榛名が瑞鶴の隣に並び、スッと手を出した。

 

「何?」

 

「煙草、一本下さい」

 

 言われて瑞鶴は懐から煙草を一本取り出して榛名に渡す。

 榛名はその煙草を咥えると、瑞鶴が出したライターで火をつけて思い切り吸い込んだ。

 

「……ゴホッゴホッ!!」

 

「あーあ、慣れないことするから」

 

 即座にむせ返る榛名に瑞鶴は苦笑する。

 

「……よくこんなどぎついもの四六時中吸えますね」

 

「これでも慣れるといけるの。

 それにこの『少し明るい海』って銘柄、新埼玉の一部でしか売ってない激レアなんだからね。

 せめて味わいながら吸いなさいよ」

 

 榛名は少々涙目に成りながら瑞鶴とともに紫煙を燻らせていた。

 そしてしばしの後、榛名は短くなった煙草を艤装に押し付けて火を消す。

 

「……もういいの?」

 

「線香一本……十分でしょう?」

 

「……そうね」

 

 言ってから瑞鶴も煙草の火を消した。

 

「さて、戻りましょうか」

 

「ええ、後始末が待ってるわ」

 

 そう言って榛名と瑞鶴は横須賀へと戻っていく。

 

 

 こうして、帝都を襲った未曾有の大事件は収束した。

 そしてそれは同時に、この戦争に大きな転機が訪れたことも意味したのだった……。

 

 

 

 




『95式対空対艦冷凍弾』

装備可能艦種:戦艦(41cm以上の大型砲を装備した艦のみ)

解説:羅號印の対空・対艦両方に使える特殊砲弾で、元々はとある航空兵器の兵装でした。
   その力は強力で、最強なバーニング怪獣王でもカドミウム弾と併用すれば6時間も氷漬けに出来ます。
   ただし非常に高価なので使いすぎに注意。使いすぎると来年度の防衛予算がゼロになります。

能力:火力+25
   対空+20
   対空弾、徹甲弾双方として扱える(弾着観測・対空カットインに対応)
   補給時に消費される弾薬が5倍になる。


~~~


というわけで帝都炎上編完結です。
今回でやっと羅號は羅號(OVA改修後版)近くになりました。
あと使っていない武装と言えば、対艦・対空ミサイル群と艦首大型コンテナミサイルくらいかな?
……なんだこのチートは(驚愕)

今回の帝都炎上編の主役は羅號たちではなく、榛名を筆頭とした親世代の方を主役のように考えていました。
そのためママン‘S艦隊にいろんなネタを仕込んだりと描写に力を入れていれました。
加賀=サンや瑞鶴=サンの煙草に誰も反応してくれなかったのは悲しかったですが(笑)

特にラストの榛名・長門・羅號の、親子孫三代合体攻撃シーンは

『チートな主人公がたった一人で敵を蹂躙するのではなく、既存のキャラとの協力あって始めて強敵に打ち勝てる』

という、この手のチートものを書く上での私なりのルールを全面に押し出した感じにしてあって、個人的にもお気に入りです。
ほら、悟空と悟飯の親子合体かめはめ波って最高でしょ?(笑)


では次回もよろしくおねがいします。
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