艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

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ついに物語も終盤に差し掛かりました。
今回からはラ級2隻の相手の話になりますが……。



第十話
罠 氷海の激闘(その1)


 あの戦い……帝都を混乱の渦に巻き込んだ『帝都攻防戦』の終了は同時に、この戦争が新たな局面に突入したことを示していた。

 君塚の降伏を促すための声明には、深海棲艦がただの怪物なのではなく、何者かに制御された存在だということが明確にされていた。そしてアネット代表による発表によって、人類は自分たちと相対しているのが『レムリア』という国家であることを知ったのだ。

 

 この発表による反応はそれぞれだった。それこそ千差万別、流言飛語まで飛び交い、世論もなにも大混乱だ。

 そこで役立ったのはやはり、先の帝都攻防戦において人類側に協力して戦った『レムリア亡命艦隊』の存在だ。あの状況下において日本に対する救援を行ったことは、彼女たちの信用に大いに貢献したよ。そのあたりアネット代表の読み通りで、先見の明があったということだろうな。

 それに運もよかった。あの時レムリア亡命艦隊と共闘した母上たち……『退役艦娘会』がアネット代表の味方についたのだ。戦場でともに背中を預け戦った戦友となったレムリア亡命艦隊は信用できる、とね。

 

 君も知っての通り『退役艦娘会』、特に母上たち『伝説』の発言力は強力だ。

 今現在の海戦戦術の基礎のすべては彼女たちが完成させたものであるし、後進育成の場でも活躍している。彼女たちの直接の教え子も多く、シンパも多い。

 それに国民からの受けもいい。戦争最初期の絶望的状況下での彼女たちの活躍は、大本営の士気高揚の意向で映画などで散々喧伝されていたからな。

 母上たちをはじめ、彼女たちの夫には軍部上層部の人間も多い。

 そして極め付けが熊野おばさん……失礼、熊王グループの熊之宮総帥だ。熊王グループからの献金は軍にとっては無くてはならないものになっていたから、それを握る熊之宮総帥を怒らせるとどうなるか……下手をすれば日本の経済活動がストップしてしまうよ。

 

 そのため、おおむねアネット代表の考え通りで話は纏まったよ。深海棲艦、そして『レムリア』の本拠地に赴き戦争を主導するアブトゥを筆頭とした制圧派の排除、アネット代表の主導する国家への転換ということだな。

 目的地はあの呪われた海と呼ばれた『パンタラサ海域最深部』……とにかく、日本は深海棲艦、そしてレムリアとの最終決戦に向けて動き出した。

 そんな日本の最大の懸念は、敵ラ級万能戦艦の存在だ。

 ラ級万能戦艦とまともに戦えるもは同じラ級万能戦艦だけ……つまりこちらは羅號だけが頼りだ。だからこそ羅號の扱いには慎重になっていたんだが……やられたよ。羅號のいつも近くにいた朝潮が奴らに連れ去られた。

 明らかな罠……有希も母上も止めたのだが、本気になった羅號を止められる存在などこの世界のどこにも存在しない。それほどに連れ去られた娘が大事だったんだろう。

 秘密裏に出撃した羅號に付いていったのはあの呂500と北方棲姫の2人だ。あの2人も朝潮とは親友同士であったし当然でもあったな。

 

 敵の居場所は北極海、その氷の海で羅號は……ラ級万能戦艦2隻の攻撃によって轟沈寸前にまで追い詰められた。羅號1人だったのなら、間違いなく轟沈していただろう。

 だがそんな状況をあの子たちが……羅號に恋する3人の少女が覆した。

 

 ……羅號は幸運な漢だよ。

 普通は勝利の女神など、一生に1人見つかるかどうかというものだ。それが羅號の近くには、常に3人もの勝利の女神がキスの雨を降らせてるんだ。どこにも負ける要素がないよ。

 

 ……同じ男として羨ましいかって? まさか。

 嫁の機嫌取りの大変さは骨身に沁みてるよ、それが三倍に増えるとか私なら御免こうむるね。

 ……いや、三倍程度ではなかったな。戦後には羅號とお近付きになりたい伊・英・米の各国からも、同じくらいの歳の嫁候補とも言える駆逐艦娘がやって来ていた。おかげで羅號が暮らすうちの実家は、ほとんど駆逐艦寮兼外交駆け引き兼恋愛駆け引きの伏魔殿だよ。

 それでそれぞれと上手くやっているのだから、本当にあの子は凄い。同じ男としては、強さよりもそっちの方が尊敬に値するな。

 

 

 

       ――――――呉鎮守府司令官 筑波茂雄少将へのインタビューより抜粋

 

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 

 ある部屋に、2人の男がいた。

 片方はスーツにも見える服にインバネスコートを纏っている。頭に被ったボーラーハット、レーダーマストを模した杖のようなものを右手にしており、外見は古き良き時代の紳士のようにも見えるが皮肉げに歪む口元がどうしても好意的な印象を拒む。

 もう片方は黒い帽子を被り黒いズボン、そして赤いチョッキの男だ。モノクルを掛け、椅子に座って本を読んでいる。

 

「モンタナとソビエツキー・ソユーズがやられたそうだ」

 

「らしいな、聞いている。」

 

 スーツの男の言葉に、モノクルの男は視線を手元の本に落としたまま答える。どうもモノクルの男はスーツの男をよく思っていないのか、その表情はどことなく迷惑そうな顔だ。

 しかしスーツの男はその様子に気付いていないのか、はたまた気付いていても無視しているのかそのまま続けた。

 

「相手は地上の万能戦艦、『羅號』という艦だそうだ」

 

「……ほう、地上の万能戦艦か」

 

 そこで始めて、モノクルの男は興味深げに本から視線を外す。

 

「そこで、アブトゥ様からレムリアに対して脅威となるこの万能戦艦を撃沈してこいとの御命令だ。

 君にも来てもらおう、ガスコーニュ」

 

「……構わないが、それは俺がお前の指揮下に入るということか、インヴィンシブル?」

 

 スーツの男……万能戦艦『インヴィンシブル』の言葉にモノクルの男……万能戦艦『ガスコーニュ』は不満そうに眉をひそめる。そんなガスコーニュにインヴィンシブルは大仰に手を広げて言った。

 

「私は当然の采配だと思うがね?

 君の『指揮官』としての適正はそう高くないことは理解しているだろう?」

 

「……」

 

 ガスコーニュ自身、万能戦艦としての力は誰にも負けてはいないと自負しているが、こと『指揮官』としての適性は決して高くないことは理解しているので納得したように押し黙る。

 そんなガスコーニュに、インヴィンシブルはどこか小馬鹿にしたように続けた。

 

「それに……最近君は『ペット遊び』に耽っているとのもっぱらの噂だからね。

 そんな君に指揮は任せられんよ」

 

「……なんだと?」

 

 ガスコーニュの声に危険な色が混じっていく。ガスコーニュの放つ殺気によって、部屋の中の温度が一気に下がっていくように感じられた。

 しかしそんな中、その様子を知らない第三者によって部屋のドアが開けられる。

 

「ガスコーニュ様、コーヒーが……」

 

 そう言って現れたのはつややかな銀の髪が美しい女だ。病的なまでに白い肌が、彼女が深海棲艦であることを物語る。彼女は深海棲艦の1体、『空母水鬼』であった。まるで『水母棲鬼』のような大きな黒いリボンの髪飾りが特徴的だ。

 しかしその表情に浮かんでいたのは深海棲艦特有の感情の読めない不気味な笑みではない。その顔に浮かんでいた笑みは、明らかに『喜び』という感情の産物だった。彼女には間違いなく、『感情』がある。

 しかしそんな彼女の笑みは、部屋にインヴィンシブルの姿を認めると一気に凍りついた。彼女の持つコーヒーを載せた盆が小刻みに揺れる、震える彼女にインヴィンシブルはニヤリと笑いながらゆっくりと近付くと、無遠慮にその頬と髪を撫でまわす。

 

「ほう、これが噂の君のペットか。

 なるほどなるほど、毛並みはそれなりにいいな。

 観賞用の造花程度には見れるじゃないか」

 

「ア、アア……」

 

「しかし客人に挨拶の一つもできないようじゃペット失格じゃないかね?」

 

「ス、スミマセン……」

 

 恐怖でガチガチと歯を鳴らす彼女から、何とか言葉が絞り出された。だがそんな彼女にニタリと笑いながら、インヴィンシブルは続ける。

 

「これはもう『躾』が必要なのではないかな?」

 

「ヒッ……!?」

 

 彼女の悲鳴が口から洩れたその瞬間だった。

 

 突然バッと身を離したインヴィンシブルが艤装を展開する。

 左右と上の4連装砲、恐らく35.6cmと思われる。長砲身のタイプで攻撃力と命中力が強化されているようだ。それが左右と上で合計3基12門。

 そしてもっとも目を引くのが左手に構えた巨大な円形の盾だ。盾の表面には無数の歯がついており、さながら採掘用のシールドマシーンである。これこそがインヴィンシブルのシールドドリルだ。

 そんな艤装を展開したインヴィンシブルはがっちりと盾と砲を向けている。

 

 その視線の先ではガスコーニュもまた艤装を展開していた。

 左右の腰から伸びる長いアーム、その先に艦を真ん中で割ったような艤装が付いている。

 そして左の艤装を後部に、右の艤装を前部にしてドッキングさせ、超巨大な対戦車ライフルのように左の腰だめに構えていた。その船尾部分には万能戦艦の証である船尾ドリルが輝いている。

 前部にはいびつな砲が2基……41cm相当だろうが、その砲身は長いというレベルではない。まさに超長砲身である。

 そしてその砲塔も特殊だ。まるで台形のように配置された上部2門下部3門の5連装砲なのである。

 その超長41cm5連装砲2基10門……ガスコーニュの砲すべてがインヴィンシブルに向いていた。

 

「何のつもりかな、ガスコーニュ?」

 

「人のものに勝手に手を付ければ盗人同然、盗人に対する妥当な反応だと思うが?」

 

「おやおや、私はペットの躾を手伝おうといったのだが気に触ったかな?」

 

「いらん世話だ」

 

 両者の間で殺気がぶつかり合い、まるで黒いオーラが見えるようだ。

 

「……狙撃手(スナイパー)がこの至近距離まで寄られて、何かできるのかな?」

 

「そちらこそ、お前の貧弱な砲が俺の装甲を貫くのと、お前御自慢のその盾を俺にぶち抜かれるのと、どちらが早いと思っている?」

 

 お互いに殺気を放つインヴィンシブルとガスコーニュ。やがて、首を竦めてインヴィンシブルが艤装を解いた。

 

「やめだよ、たかだたペットの躾程度の話で無駄なことはしたくない。

 とにかく、任務は伝えたぞ」

 

「……了解した」

 

 インヴィンシブルはそう言うと、未だに震えている『空母水鬼』の持つ盆からカップを一つ取るとコーヒーを一口含み、顔をしかめた。

 

「やはり泥水はいかんな。

 紅茶のような深く上品な味わいが無い」

 

「俺はその泥水が好みだ」

 

 皮肉とともにカップを元の盆に戻して、インヴィンシブルは部屋から出て言った。

 

Merde(メルド)! (クソがっ!)」

 

 吐き捨てると、ガスコーニュも艤装を解く。

 

「ハゥ……」

 

 緊張が解けた『空母水鬼』が、腰が抜けたようにペタンと座り込んだ。

 そんな彼女にガスコーニュはゆっくりと近付くと、しゃがみこんでインヴィンシブルと同じようにその頬を撫でる。だが彼女の反応はインヴィンシブルの時とは真逆だ。

 恐怖による震えが収まっていく。彼女はまるで縋り付くように、頬を撫でるガスコーニュの手に触れた。

 

「……大丈夫か?」

 

「ハイ……」

 

 しばしの後、震えの収まった彼女が立ち上がり、ガスコーニュは先ほどまでの本を手に再び椅子に座る。

 

「聞いての通りだ。 近いうちに出撃することになる。

 ……お前にも来てもらうぞ」

 

「ワカリましタ。

 貴方の為ナラ、ドンナことでも……」

 

 心なしか頬を赤く染めながら答える彼女に、ガスコーニュは表情を変えることなく続ける。

 

「そうか。

 なら、まずはコーヒーを淹れ直してくれるか……『ベル』」

 

「ハイ!」

 

 彼がくれた唯一無二の名前を呼ばれた彼女は嬉しそうに、コーヒーを淹れ直しに向かうのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 帝都を襲った未曾有の危機も過ぎ、帝都はゆっくりとだが復興に向かいつつあった。各所で壊れた建物の解体に建て直しと、帝都は今どこでも建設のための喧騒が絶えない。

 しかし、そんな喧騒すら吹き飛ばす重大発表が為された。

 アネットを代表とするレムリア亡命艦隊により深海棲艦の真実、超古代国家『レムリア』の存在が発表されたのだ。

 人類との共存を訴えるアネットに、会話可能な深海棲艦であるレムリア亡命艦隊……今、日本は歴史的な選択を迫られていた。

 

 そんな頃、帝都に位置する古風な屋敷で羅號は正座していた。羅號の格好はいつもの短パン姿ではなく、今日のために大急ぎで造られた海軍礼服である。

 そんな羅號の隣では長門がこれまたいつもと違う格好で正座していた。落ちついた和服姿で、まさに良家のお嬢様といったたたずまいである。

 ここは帝都にある長門の実家、筑波家の屋敷である。

 あの戦いを生き残ったトラック艦隊は、約1ヶ月の休暇を貰うことになった。地獄のような状況の連続を九死に一生を得続けたのだ、幾らなんでも全員限界であったし、このくらいの余裕は許されるだろう。

 かくしてトラック艦隊はしばしの間、各々が自由な時間を過ごすことになるのだが……今日は長門は羅號をある人物に会わせるために自宅で待機していた。

 

「……」

 

「羅號、落ち着きなさい」

 

 緊張の面持ちでどこかそわそわしている羅號を長門がたしなめる。

 

「でも……」

 

「まぁ、気持ちも分かるがな。

 そういう私も、実は緊張している」

 

 すると、ゆっくりとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。

 

「来るぞ、羅號」

 

 そして、ふすまが開かれた。

 そこに立っていたのは巌のような男だ。歳を感じさせない精悍さ、まさに『良い』歳のとり方をした、海の漢である。服装は海軍礼服、大将の階級章が輝いていた。

 長門はゆっくりと頭を下げる。

 

「父様……ご心配をおかけしました。

 有希は生きて帰りました……」

 

 この男こそ長門の父、呉を預かる海軍大将である筑波大将である。

 

「お、おお……!」

 

 筑波大将は震えながらゆっくりと長門に近付くと、感極まったように長門を抱きしめた。

 

「有希ぃぃぃぃ!!

 よく、よく生きていてくれた!!」

 

「はい、父様……申し訳ありません。

 五体満足では、戻れませんでした……」

 

「何を言う!

 生きて、生きていてくれたのだ!

 それだけで十分、それ以上の贅沢など言わんわ!!」

 

 筑波大将は号泣し、長門も感極まって涙を流す。再会を果たした父娘はしばしの間抱擁を続けて、離れた。

 長門は涙を拭うと、再び真剣な顔で筑波大将へと話を始める。

 

「父様、今日は大切な話が……」

 

「わかっておる」

 

 長門の言葉を遮るように筑波大将が言うと、羅號の前にやってきた。

 

「あ、あの……長門ママの子供の、羅號です。

 はじめまして、おじいちゃん」

 

 その瞬間だ。

 

「これが、これがワシの初孫か!!」

 

「わ、わっ!?」

 

 満面の笑みで羅號を抱え上げた。突然抱え上げられたことで羅號は驚きで目を白黒させる。だが筑波大将は構わずに抱き上げた羅號の顔を覗き込んだ。

 

「なんという凛々しい面構えだ。

 どんな困難をも乗り越える、そんな強い海の漢の顔だ。

 これが、これがワシの孫か!」

 

「父様……羅號は私とは血は繋がっておりません。

 それでも不満は……」

 

「不満? あるはずなかろう!

 お前が息子と認め、この子がお前を母と認めたのだ。

 ならワシにとっても八重にとっても、この子は大事な孫よ!」

 

 その言葉を聞いて、長門はほっと胸を撫で下ろす。

 母である八重にはすでに認めてもらっていたが、父に羅號が受け入れてもらえるかはやはり心配だったのである。

 

「それで、八重のやつはどこにおる?」

 

「ああ、母様でしたら……」

 

 すると、再びふすまが開いた。

 

「あなた、お帰りなさいませ」

 

「おお、八重! 帝都防衛の活躍はワシも聞いて……」

 

 その時になって、筑波大将は妻の横に3人の少女が並んでいることに気付いた。全員が着物姿である。

 

「この子たちの着付に時間がかかってしまいました。

 ほらっ」

 

 そう押し出されて、照れくさそうな3人は前に出る。

 

「あの……はじめまして、呂500潜水艦の、エミーリア=フォン=エッシェンバッハです。

 らーくんにはお世話になってます、ですって」

 

「はじめまして筑波大将閣下!

 自分は朝潮の艦娘の、香原朝霞といいます!」

 

「……『ちぃ』、なの。

 はじめマシて……ナノ」

 

「みんな有希の戦友で、羅號の大切なお友達なの。

 いま家で預かっているのよ」

 

 3人のあいさつをニコニコ顔で八重は見つめる。

 1ヶ月近い休暇をもらったトラック艦隊だが、実は中にはそれを持て余してしまう者もいた。その筆頭格がローと朝潮である。

 ローは故郷は遠くドイツのハンブルクである。他のみんなのようにちょっと親の顔を見てくる、というような使い方ができなかった。同じように戦争孤児である朝潮の場合、帰る実家すらない。

 そんなわけで特に予定が無かったのだが、それを知った八重が『ちぃ』も巻き込んで休暇の間、筑波家に住むように仕向けたのである。

 八重は短時間ではあるが、羅號と3人娘の関係を見抜いていたのだ。そのため、いちいち艦名だけでなく人間としての本名まで名乗らせたのである。

 八重としては、羅號の許嫁候補のお披露目のつもりだった。

 

「らーくん、ろーちゃんの着物、似合ってますか?」

 

「羅號……その……変じゃありませんか?」

 

「ラゴウ、『ちぃ』綺麗?」

 

 さっそく3人娘は着物姿で羅號ににじり寄っていく。

 

「うん、3人ともかわいいしその……すっごく綺麗だよ」

 

 そんな風に羅號が褒めれば、3人は顔を赤くしながらうれしそうにはにかむ。その様子を見ながら筑波大将は合点がいったように豪快に笑った。

 

「がははっ、なるほどな。

 これは孫娘ができるのも、ともすればひ孫の顔を見るのも早いかもしれんな」

 

「あら、あなた。 少し気が早すぎですよ」

 

 筑波大将の笑いにつられるように、八重も長門の笑った。しばしの後、筑波大将はその表情を少し真剣な顔に戻すと呟く。

 

「しかし……深海棲艦が我が家にいるというのは、少し前には夢にも思わん光景だな」

 

 その視線の先にあるのは『ちぃ』の姿である。

 

「父様、それは……」

 

「わかっておる。 ワシも今の光景を嘘とは言わんし納得しておるよ」

 

 その視線の先にはお互いに仲良くじゃれあう羅號たち4人の姿。

 

「だがそう思わん者もおる。

 これからワシはそういう頭の固い連中を説き伏せてくるよ」

 

「父様……」

 

「あなた……」

 

「心配せんでも、すでに足場は固めておる。

 レムリア主戦派に対し最終決戦を行い、アネット代表の主導する国家へ転換させ友好条約を結ぶ……日本がこの路線で行くのはほぼ間違いない。

 しかしな……レムリアとの決戦ともなれば、羅號の力が必要となる……」

 

 筑波大将はため息をつくと帽子を被りなおした。

 

「息子娘だけでなく、孫まで戦場に出さねばならんとは……ワシは情けない老人よ。

 そんな情けない老人の、精一杯の仕事をするとしよう……」

 

「閣下、お時間です……」

 

 すると、ずっと室外で控えていた筑波大将の秘書艦が声を掛けてきた。

 

「おお、もう時間か……。

 ワシは行ってくる。八重たちは……」

 

「今夜は熊王グループ主催での帝都防衛の戦勝会でして……この子たちと一緒に海の上です」

 

「そうか……熊之宮総帥や天城の奥にはよろしく伝えておいてくれ。

 羅號、すまんがじいちゃんはもう行かねばならん。

 羅號、それにそこの子らもゆっくりとここで遊んで行きなさい」

 

 そう言って別れをつげると、筑波大将は車に乗って屋敷を後にする。

 

「父様……」

 

「……大丈夫ですよ、有希。 あなたの父様ならきっと上手くやってくださるはずです。

 それよりも、あなたや羅號たちは今ゆっくりと休まなければなりません。

 そんな顔はいつまでもするものではないわ」

 

「はい……」

 

 去っていく父の車を見つめていた長門の不安そうな言葉を八重は優しく諭す。長門はこれから父の出席する会議の内容に少しだけ、不安を覚えるのだった……。

 

 

 




今回は日常編。もうしばらくは日常編かな?
この作品の深海棲艦の本拠地、元ネタわかった人はどれだけいるのだろうか……。

次回もよろしくお願いします。
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