艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

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ついに秋イベが始まりました。
シスターサラはどんな艦娘かな?

今回はやっと羅號出撃と戦闘です。


罠 氷海の激闘(その4)

 深夜の横須賀鎮守府……再建のための喧騒もいったん途絶えたそこに怪しい小さな影が3つ、周囲を伺うようにしながら移動していた。その3つの影の正体、それは言わずと知れた羅號・ロー・『ちぃ』の3人組である。

 そこらじゅうの部屋には昼間を問わない仕事に追われていることを示すように明かりが灯っていた。そのうちのいくつかは誘拐された朝潮の対策のために使われていることだろう。

 羅號は母である長門、そして義祖父や義祖母、そしてたくさんの人たちが今、朝潮のために必死になって頑張ってくれていることは理解している。

 しかし……。

 

「もう待てないよ、ママ……」

 

 羅號はその明かりに向かってポツリとつぶやく。

 敵にラ級万能戦艦がいることが判明したため、朝潮救出のための手立てがまったくといっていいほど進んでいないのだ。『会議は踊るされど進まず』といったところである。そのため羅號はしびれを切らしてしまったのだ。

 

「朝潮を助けに行く!」

 

「ろーちゃんも行きます、って!」

 

「『ちぃ』もアサシオ、助けル!!」

 

 本来羅號がこういう暴走をしないようにお目付け役を期待されていたローと『ちぃ』も、親友である朝潮の救出について話が進まないことに思うところはあった。そんなおりローが『ある話』を聞いてしまったことで、ローと『ちぃ』の不安がついにオーバーフロー、羅號にその話をしてしまい、思い立った羅號についていくことを条件に2人は立派な共犯者になっていた。

 

「……よしっ!」

 

 艤装の置いてある工廠兼発進ドッグの明かりは消えている。くすねてきた鍵で扉を開けると、3人はソロリと中に入った。

 その時だ。

 

「計算どおり、ですね」

 

「いやいや鳥海さん、ドヤ顔で言われなくても普通に予想できますって」

 

「こればかりは夕張に賛成ですねぇ」

 

 工廠の中には、休暇中であるはずの鳥海・夕張・明石の姿があった。完全に待ち構えていたらしく、皆揃って呆れ顔である。

 

「3人とも休暇のはずじゃ……なんでここに……?」

 

「……こんな一大事に休暇も何もありますか。

 お母さんから話を聞いて、こうなるんじゃないかと思って張っていたら案の定です。

 さて……」

 

 鳥海は肩を竦めてから、鋭い視線で羅號を射抜く。

 

「羅號くん、あなたは何をするつもりですか?」

 

「決まってます。 朝潮を助けに行くんです!」

 

「それで、手はあるんですか?」

 

「……」

 

 押し黙る羅號に鳥海は「やっぱり……」とため息をつく。

 

「羅號くん、あなたたちじゃここに保管された艤装の取り出しも出撃用ハッチの開閉すらできませんよ。

 よしんばそこを力技で解決したとしましょう。羅號くんなら艤装なしでもここのロックぐらいは破壊できます。でも、それをやったらまわりに確実にバレてみんな何事かと集まってきますね。そしてあなたを止めようとする。

 羅號くん、あなたは味方に砲を向けて蹴散らし、朝潮ちゃんのところに向かうんですか?」

 

「それは……」

 

 味方に砲を向けるなど羅號は考えたこともない。しかし、このまま強行すればそうなる可能性が高いことは鳥海の話で理解できた。だが、そんな程度の覚悟で羅號もここにいるのではない。

 

「羅號くん、筑波大将閣下を筆頭にみんな頑張っています。

 もう少し、もう少しだけ様子を見ましょう」

 

「……そのセリフならママたちからもう何度も聞きました。

 敵にラ級万能戦艦がいる時点で、僕が行かないと助けられないよ。

 早くしないと朝潮の身が危ない!」

 

 あくまで理を説く鳥海に、しかし一歩も引かないといった羅號が言い返す。

 しばらくにらみ合う両者。やがて、恐る恐るといった感じで羅號は鳥海に尋ねた。

 

「まさか……鳥海さんたちまで『朝潮を見捨てるべき』なんてこと言いませんよね?」

 

 その言葉こそ、羅號たちを急かし駆り立てた理由だった。

 実はこの朝潮誘拐事件に関して、『朝潮を見捨てる』という意見の方が強いのだ。

 敵にラ級万能戦艦が存在する以上、動くのならば羅號の力が確実に必要になる。だが敵の狙いは明らかに羅號であり、レムリアに対して羅號は人類の唯一無二の希望だ。

 対する朝潮は身寄りすらない戦争孤児で、いくらでも替えの利くただの駆逐艦娘の1人でしかない。

 そんな朝潮のために羅號を危険にさらすのは愚の骨頂として、『朝潮を見捨てる』というのだ。

 この話をローが立ち聞きして知ってしまったことで、3人はもう自分たちだけで朝潮を助けにいこうと思い立ったのである。

 しかしその話に鳥海は表情を変えることなく、メガネをクイッと直した。

 

「なるほど……羅號くんたちが焦った理由はそれですか……。

 羅號くんの重要性を鑑みれば十分選択肢に入る、妥当な話ですね……計算どおりです」

 

「そんな……鳥海さんまでそんなことを……。

 本気で、本気で朝潮を見捨てるなんてことを思っているんですか!?」

 

 羅號たちは鳥海が朝潮のことをまるで妹のように可愛がっていたのを知っている。そんな鳥海が『朝潮を見捨てる』ということに肯定的な発言をしたため、羅號はまるで怒鳴るように詰問した。

 しかし鳥海はその質問には答えず、逆に羅號に問い返す。

 

「羅號くん……あなたは自分の重要性を理解していますか?

 あなたはレムリアのラ級万能戦艦たちに対するたった一つの希望です。あなたが沈めばこの日本だけでなく、この『世界』はレムリアとの戦争に敗北するでしょう。

 その身に背負った重要性を理解し、その上であなたは危険を冒してでも朝潮ちゃんを助けたいと思っていますか?」

 

 有無を言わせぬ鳥海の雰囲気に呑まれ、羅號の熱くなっていた感情がゆっくりと元に戻っていく。そして、羅號は鳥海に答えた。

 

「……僕の重要性だとか希望だとか、みんなが僕に期待してくれているのは分かってますし、それに応えたいとは思っています。

 でも……何よりも僕のやりたことはあの時トラック泊地で生まれた時と何も変わらない。

 『仲間を守り、いつか静かな平和の海を』……それが大和お母さんとの最初で最後の約束であり、僕のやりたいことです。

 だから……僕たちの大切な仲間を、朝潮を助けます。

 きっと朝潮だって僕のことを待ってると思うから……」

 

 羅號の言葉に、鳥海は「そう……」と呟きながら、呑みこむようにゆっくりと頷いた。

 

「……羅號くん、さっきの『朝潮ちゃんを見捨てることに納得しているのか?』という質問に答えましょう」

 

 鳥海は羅號たちにゆっくりと近付いた。そして目線を合わせるようにしゃがみ込むと、羅號たち3人をまとめてえ掻き抱く。

 

「納得するわけないでしょう! 艦隊は家族、艦隊は姉妹なのよ!

 私は朝潮ちゃんのことを本当の妹みたいに思ってるの。

 ううん、朝潮ちゃんだけじゃない。羅號くんもろーちゃんも、それに『ちぃ』ちゃんだって私は弟や妹みたいに思ってるの。

 そして……そう思ってるのは私だけじゃないわ」

 

 鳥海に任せてことの成り行きを見守っていた夕張と明石も、肩を竦めながらその言葉に頷く。

 

「そんなの当たり前じゃないの」

 

「そうじゃなきゃ、今ここに集まりませんよね」

 

 その様子を見て、羅號は少しでも3人を疑ったことを恥じた。

 少し考えれば分かることだ。この3人は羅號だけでなく、ローや『ちぃ』、朝潮や吹雪や満潮に姉のように今まで接してくれていたのだ。羅號にとっては長門が『ママ』なら、この3人は『姉』である。その姉を疑うことなどなかったのだ。

 ややあって、鳥海は3人を離すと決意したかのように立ち上がった。

 

「羅號くん、あなたの決意は分かりました。

 これが海軍の者として正しいのかは分かりませんが……出来るだけ周りに気付かれないように羅號くんたちが朝潮ちゃんを助けに行けるようにしてあげます」

 

「もーっとこのお姉ちゃんたちに頼りなさい」

 

「まぁ、ちょーっと頼りないお姉ちゃんズですけどね」

 

「鳥海さん、夕張さん、明石さん……」

 

「時間がないわ、こっちよ」

 

 感極まる羅號たちを、鳥海たちは奥に促す。そしてそこにはすでに羅號たちの艤装がスタンバイされていた。

 

「大急ぎだけど、整備と調整は私たちでやっておいたわ」

 

 そう言って夕張が胸を張る。その言葉通り、艤装はどれも万全な状態だ。朝潮の艤装も一式が輸送コンテナに詰められており、簡単に曳航できるようになっている。

 

「朝潮ちゃんを救出したら必ず必要になるでしょう」

 

 鳥海のその言葉に頷きながら自分たちの艤装を眺めていたローと『ちぃ』は、自分たちの艤装が微妙に違うことに気付いた。

 

「あれ、この魚雷って……」

 

「ヒコーキに付いてルこのバクダン、見たことナイ……」

 

「気付きましたか?

 そうです、羅號くんの開発した新装備をろーちゃんと『ちぃ』ちゃん、そして朝潮ちゃんの艤装に装備してあります。

 『ちぃ』ちゃんの方は艦載機から投下する、妨害電波発生弾(ノイズボム)を装備しました。これを炸裂させれば、その周辺は短時間ですが妨害電波によって電探や通信に異常を起こさせますから敵のかく乱にうまく使ってください。

 あとはろーちゃんには特殊魚雷を、朝潮ちゃんには……」

 

 そんな風に装備説明をしてくれる明石。その目は輝いており、こんなときでも明石らしいと羅號は苦笑した。

 

「夕張さん、明石さん、ありがとうですって!」

 

「アリガト、なの」

 

 羅號たちは3人に礼を言いながら、大急ぎで艤装を装備し出立の準備をする。

 

『全員、準備はいい?』

 

「「「はい!!」」」

 

 スピーカーから聞こえる鳥海の声に3人は答える。

 

『今から私たち3人で出撃用ハッチのシステムをハッキングして操作するわ。

 ハッチが開いたら速やかに、なるべく静かに朝潮ちゃんのところへ……北極海に向かいなさい!』

 

『必ず、朝潮ちゃんを加えて4人で戻ってくるのよ!』

 

『たいていの怪我なら私が何とかしてみせます。

 だから絶対に沈んじゃダメですからね!』

 

 そんな風に自分たちを気遣ってくれる3人に、羅號は答える。

 

「黒子お姉ちゃん、苺お姉ちゃん、幸子お姉ちゃん、ありがとう!

 羅號、出撃します!!」

 

「ろーちゃん、いきますって!」

 

「『ちぃ』、行くノ!」

 

 出撃用ハッチが開いたのを見計らい、半潜水状態になった羅號に曳航されてローと『ちぃ』も出撃していく。羅號の超パワーだ、3人の姿はすぐに夜の闇の彼方に消えていった。

 そして出撃ドッグに残ったのは鳥海・夕張・明石だけだ。

 

「……口惜しいわ。 私も艤装が持ち出せたら……」

 

「休暇中だったんだから仕方ないですって」

 

「そうですよ。

 それにあの子たちにハッキングなんて芸当できますか?

 その辺の大人の仕事のために私たちはここに来たんですから」

 

「そうね……大人の仕事ね……」

 

 羅號たちの航跡を見つめながら、鳥海は笑う。

 

「『お姉ちゃん』、か……これは気持ちのいいものですね」

 

「なんか……本名で呼ばれたの久しぶりだわ」

 

「むぅ……なんか『幸子お姉ちゃん』は堅い感じですねぇ。

 帰ってきたらもっと柔らかく、『ゆきねぇ』と呼ぶように変えさせよう」

 

「その法則だと私は『黒ねぇ』ですか……。

 ものすごい腹黒そうなイメージですけど」

 

 そう言って3人はアハハと笑い合った。一しきり笑うと3人は顔を見合わせる。

 

「羅號くんたちの艤装の無断持ち出しと無断出撃のほう助……さて、私たちはどんな罰になりますかね?」

 

「羅號くんが無事じゃなかったら、ブタ箱どころか絞首台直行コースじゃない?」

 

「それ、あんまり笑えませんよ」

 

 3人はそう言って苦笑し合う。

 耳を澄ませばどうも騒がしい。思ったよりも羅號たちの出撃は早くバレたようだ。

 

「さて……私たちは大人の仕事と責任を果たしましょうか」

 

 鳥海の言葉に、夕張と明石はコクリと頷く。

 3人はゆっくりとした足取りで、工廠の出口へと向かっていく。そこにいるだろう筑波大将ほか御歴々に事情を説明しなければならないからだ。

 

「羅號くん、ろーちゃん、『ちぃ』ちゃん、そして……朝潮ちゃん。

 みんな必ず無事で帰ってくるんですよ」

 

 鳥海は最後に工廠の闇に向かって、それだけ呟いた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 狭いコンテナ内に笑い声が響く。

 

「ハハハッ!

 君の王子様の出撃が確認されたよ。

 もうすぐ彼がここにやってくる。 どうかな、嬉しいかな?」

 

「……」

 

「ん? 嬉しすぎて声も出ないかな?」

 

(この男……何を白々しいことを!)

 

 インヴィンシブルの言葉に、朝潮は心の中で毒づく。もしも自由がきくのなら、その顔面に一撃をいれてやりたい気分だ。

 いま朝潮は声を出したくても出せない状態だ。手は後ろ手に縛られ、口には猿ぐつわを噛まされている。

 

「さて、では舞台に上がってもらおうか。

 演目名は『悲劇! 姫を取り戻しに来た王子様、返り討ちに合う』といったところかな」

 

「んー!!」

 

 強引に立ち上がらせてどこかへ連れて行こうとするインヴィンシブルにせめてもの抵抗をする朝潮だが、ラ級万能戦艦であるインヴィンシブルのパワーの前では、朝潮など見た目通りのか弱い少女でしかない。

 そのままどこかへと運ばれていく朝潮。

 

(『ベル』さんも、そしてもう1人のラ級万能戦艦のガスコーニュの姿もない。

 恐らく羅號を沈めるために、配置に付いているんだ!)

 

 それを理解するが、今の朝潮ではどうしようもない。

 

(羅號、どうか無事でいて!)

 

 今の朝潮にできるのはそうやって祈ることだけだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 横須賀鎮守府を秘密裏に出撃した羅號たち3人は、目的のポイントまでたどり着いていた。

 

「もうすぐ、朝潮のいるはずのポイントのはず……」

 

 情報によれば、敵は羅號を待ち構えるかのように動いていないらしい。

 

「「「……」」」

 

 緊張の面持ちで進む3人、その時羅號のレーダーが影を捉えた。

 

「レーダーに感! 敵、航空機編隊接近!!」

 

 同時に羅號はローと『ちぃ』の曳航を切り離して空中へと離水する。

 

「ろーちゃん! 『ちぃ』ちゃん!」

 

「分かってます、ですって!」

 

「ンッ! ワカッタ!」

 

 羅號の言葉に頷いてローは潜水状態に、『ちぃ』は朝潮の艤装の入ったコンテナを引きながら進む。

 そんな中、空中の羅號は敵の姿を認めた。

 

「あれは……ジェット機か!」

 

 向かってくるのはインヴィンシブルの艦載機であるジェット機の編隊であった。それに対して羅號も艦載機を発艦させる。

 

「『氷龍』、全機発艦! 対空戦闘用意!!」

 

 羅號から発艦した『氷龍』とインヴィンシブルのジェット機が熾烈な空中戦を展開し、そこを対空砲火で弾幕を張りながら羅號が突撃する。やがてその視線の先に目標の船が見えてきた。

 その船のコンテナ上にいるのは……。

 

「朝潮ッ!!」

 

 そこには朝潮の姿があった。後ろ手で縛られ猿ぐつわを噛まされたその姿を見て、羅號の頭に血が上る。

 そして朝潮の隣には、スーツにも見える服にインバネスコートを纏った男。頭に被ったボーラーハット、レーダーマストを模した杖のようなものを右手にしており、左手には採掘用のシールドマシーンのような形状をした円形の大盾を持っている。

 すると、男は羅號に向かって大仰に礼をした。

 

「初めまして、私はレムリアの万能戦艦『インヴィンシブル』。

 短い付き合いになるだろうが、お見知りおきを」

 

「……僕は万能戦艦『羅號』」

 

「君とはどうしても会いたくてね。 来てくれてうれしいよ」

 

「……朝潮を攫っておいてよくも言う。

 さぁ、僕が来ればもう朝潮には用はないだろ。 朝潮を返せ!!」

 

「安心したまえ、私は紳士だ」

 

 そう言うと男……インヴィンシブルは朝潮を杖を持つ右手で朝潮を抱え込み、そのまま宙へと浮き始める。

 

「んー!」

 

「朝潮!? 何をするつもりだ!!」

 

 羅號を見下ろすほどに高度をとったインヴィンシブルがニヤリと笑った。

 

「言っただろう、私は紳士だと。

 紳士の決闘には作法がある。

 本来ならば手袋を投げつけるところなのだが生憎と手袋が無くてね、別のもので代用しよう」

 

 そしてインヴィンシブルはチラリと朝潮を見た。嫌な予感が羅號の背を駆け抜ける。

 

「ま、まさか……」

 

「さぁ、地上の万能戦艦……正々堂々、よい決闘をしよう」

 

 そして、朝潮の身体を空中に放り投げた。

 

「んんっーーー!!」

 

「朝潮ぉぉぉ!!?」

 

 重力に従って落下していく朝潮に向かって、羅號は全速力で飛翔する。

 

「どうした地上の万能戦艦。

 決闘中に相手を見ないとは礼儀がなっていないぞ!」

 

 インヴィンシブルの長砲身35.6cm4連装砲3基12門が火を噴く。

 羅號に比べれば小さな口径の砲だがこの至近距離だ、磁気シールドを展開していても羅號への衝撃を完全には防げない。

 

「ぐっ!?

 邪魔をするなぁぁぁぁぁ!!」

 

 その衝撃に揺らされながら、羅號はこのままでは間に合わなくなると悟る。すると羅號は迷うことなく磁気シールドに廻していたエネルギーをカットすると、出力のすべてを推進力に廻した。

 

「朝潮ぉぉぉ!!」

 

 磁気シールドが無くなったため、インヴィンシブルの砲がモロに羅號の装甲を叩く。しかし羅號はその痛みにまるで怯まず、朝潮だけを目指して突き進む。

 そしてついに羅號が朝潮の身体を海面スレスレで右手で抱き止めた。だが、羅號には朝潮との再会を喜ぶ時間はない。

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

「ッ!? 直上!!」

 

 朝潮を抱き止めた羅號の真上から、シールドドリルをうならせながらインヴィンシブルが向かってくる。それはさながら急降下爆撃のようだ。

 ラ級万能戦艦の象徴であり必殺の兵装、ドリルが羅號に迫る。

 

「左舷姿勢制御スラスター全開! 同時に全主砲、左に斉射!!」

 

 左舷の姿勢制御用スラスターが出力全開で稼働し、羅號はすべての主砲を左側に向けると斉射した。

 スラスターの推力に羅號の12門の51cm砲の一斉射による反動が加わり、朝潮を抱えた羅號の身体が右に向かって吹き飛ぶように横滑りする。それによって間一髪、羅號はインヴィンシブルの必殺のドリルを回避した。

 

「よく避けたな。 だが朝潮(重り)を持った状態でいつまで逃げ切れるかな?」

 

「冷凍砲、照射!!」

 

「おっと!」

 

 羅號から放たれた冷凍砲を、インヴィンシブルがシールドドリルを構えて防ぐ。

 ピキピキと音を立ててシールドドリルが凍り付くが、すぐにドリルが回転を始め、氷は砕かれた。

 

「私のシールドドリルの硬度は万能戦艦最硬だ。

 この盾を突破することはできない!」

 

 そう得意そうに言うインヴィンシブルだが、その時になって羅號が朝潮を抱えていないことに気付いた。

 

「何? どこへ……」

 

 そして朝潮を潜水艦の艦娘……ローが朝潮を抱えて逃げている姿が視界の隅に映る。

 

「潜水艦?」

 

「……僕は1人で来たわけじゃない。

 仲間に頼ることだってできる」

 

 羅號は最初から、朝潮の救出に関してはローに任せるつもりだった。

 自分がラ級万能戦艦の気を引いているうちに隠密作戦の得意なローが船に侵入、朝潮を救出し『ちぃ』のところまで退避するというのが羅號たちの作戦だったのである。

 しかし思わぬ形で朝潮が戦いに巻き込まれてしまったため、羅號は冷凍砲を囮にしてその隙に潜航して接近していたローに朝潮を託したのだ。

 

「やれやれ、重りを外されてしまったな。

 決闘に自分以外の助けを借りるなど、紳士のやることではないぞ」

 

「……お前は、お前だけは絶対に許さない」

 

 インヴィンシブルの軽口には答えず、羅號は今まで朝潮を掻き抱いていた右手にドリルを装着する。その顔には明らかな怒りが浮かんでいた。

 

「では決闘の続きと行こう、地上の万能戦艦!」

 

「インヴィンシブル!!」

 

 羅號とインヴィンシブルの2人は再び戦いの舞台を空に移す。

 怒りとともに吼える羅號の51cm砲の猛攻。そんな中インヴィンシブルは小さく口元を歪め嗤う……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あっしー、もう安心ですって。

 もう少しで『ちぃ』ちゃんのところに着きます、って!」

 

「んー! んんーーー!!」

 

 ローは朝潮を抱えて、後続の『ちぃ』のところへと退避していた。腕の中の朝潮は先ほどからジタバタと動いている。

 口に噛まされた猿ぐつわが苦しいのかもしれない……そう考えたが、今は一刻も早く退避しないと羅號の戦いの邪魔になる。そのためローはただひたすらに速度を上げて『ちぃ』との合流を急いだ。

 

「ロー! アサシオッ!!」

 

「『ちぃ』ちゃん!」

 

 そしてついにローは『ちぃ』との合流を果たした。

 

「アサシオ、ヨカッタ!!」

 

「んーーー!!!」

 

 嬉しそうに『ちぃ』は朝潮に抱きつくが、朝潮はブンブンと首を振る。

 

「? アサシオ、嬉しくナイ?」

 

「あっしー、苦しいんですって。

 今すぐ外しますって」

 

 そう言ってローが朝潮の手の拘束を解くと、即座に朝潮は自分の口の猿ぐつわを外した。

 

「こんなことしてる場合じゃない! 今すぐ羅號に通信を!!」

 

「あっしー、どうしたの?」

 

 あまりに尋常でない朝潮の様子に何事かと尋ねると、朝潮は一秒の時間すら惜しいとばかりに叫んだ。

 

「敵はあいつだけじゃない!!

 もう1隻! ラ級万能戦艦がもう1隻潜んでいるのよ!!」

 

「えっ!!?」

 

「早く、早く羅號にこのことを……!!」

 

 その時だった。

 

 

 ズドォォォン!!

 

 

「「「ッ!!?」」」

 

 戦場をつんざく轟音。その音に慌てて3人は振り返った。そして……傷を負い艤装から黒煙を上げる羅號の姿を3人は見てしまったのである。

 それをやった相手は明らかに、羅號と相対しているインヴィンシブルではない。

 

 

 ズドォォォン!!

 

 

 再びの轟音。羅號が横合いから殴りつけられたかのように吹き飛ぶ。

 そして……黒煙をまとわりつかせた羅號はその高度を一気に下げてきた。

 これは『着陸』ではない。これは……『墜落』だ。

 

「らーくん!!?」

 

「羅號ッ!!?」

 

「ラゴウ!!?」

 

 3人の少女の悲鳴のような声が響いた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 羅號とインヴィンシブルの空中戦はお互いが決め手にかけるこう着状態に陥っていた。

 砲に関しては羅號は51cm砲、対するインヴィンシブルは長砲身35.6cm砲である。攻撃力に関しては圧倒的に羅號の方が優れているのだが、インヴィンシブルの自慢のシールドドリルを突破するには至っていない。同じように磁気シールドを再度展開し、さらに対51cm防御装甲を持つ羅號にはインヴィンシブルの35.6cm砲では有効打を与えるのが難しかった。

 そのため互いに必殺の一撃であるドリル攻撃を狙うが、双方の速度はそれほど差がなく、互いにドリルには最大の警戒をしているので簡単にはいかない。

 

「くっ!?」

 

「ハハハッ、頭に血が上っているようじゃないか、地上の万能戦艦!」

 

 ただでさえ朝潮を攫ったことで頭にきているところに、神経を逆なでするような癇に障るインヴィンシブルの声が羅號のイライラを加速させる。

 

(……どうする。 このままだとお互いに決定打がない……)

 

 そこまで考えて、羅號は違和感を覚えた。

 

(お互いに決定打が無い? なら……インヴィンシブルは何を狙ってる?)

 

 今までのやり取りで、インヴィンシブルは何の手もなく勝負を挑んでくるようなタイプではないことは分かる。インヴィンシブルは策士タイプ……絶対の勝利の自信がなければ動かないタイプである。

 ならば……その自信の源はなんだ?

 

 熱くなった羅號の頭が、徐々にクールダウンし始めるその時だった。

 

 

 ズドォォォン!!

 

 

 轟音が響く。

 

(発砲音!? ……違う、インヴィンシブルのものじゃない!!)

 

 次の瞬間、凄まじい衝撃が羅號を襲った。

 

「がぁっ!?」

 

 一撃だ。

 一撃で羅號の磁気シールドが負荷限界点を突破し、衝撃が羅號を叩く。羅號の対51cm防御装甲がひしゃげ、速射砲と迎撃機銃がいくつもまとめて吹き飛んだ。

 

「な、何が……?」

 

 あまりの出来事に、羅號が思わず呆然としてしまう。

 その時、羅號はレーダーに時折揺らぎのような奇妙な反応が出ていることに気付いた。

 

(これは……電探欺瞞(アクティブステルス)!?)

 

 とても注意深くしていなければ発見できないような異常だ。

 しかもこの異常なまでの威力の攻撃……。

 

(もう1隻、万能戦艦がいる!?)

 

 そして羅號はやっとインヴィンシブルの自信の源に気付いた。

 この戦いは最初から、1対2の戦いだったのである。

 防御力に優れたインヴィンシブルが羅號の目を引きつけながらキルゾーンに誘い込み、もう1隻が電子的に隠れながら狙撃する……そういう作戦なのだ。

 インヴィンシブルの各種羅號を怒らせるような挑発的な行動の数々も、羅號から冷静さを奪い、もう1隻が隠れていることを悟らせないための作戦だったのである。

 それに気付いた羅號に、再び衝撃が襲い掛かる。

 

 

 ズドォォォン!!

 

 

「がぁぁぁぁ!!?」

 

 横合いから殴りつけられるような衝撃に羅號が吹き飛ぶ。そして羅號の身体が降下を……否、『墜落』を始めた。

 

(零式重力炉が……止まった!?)

 

 機関部へのダメージによって羅號の力の源である心臓、『零式重力炉』が安全装置によって停止してしまったのである。

 補助システムだけでは飛行状態を維持できず『墜落』を始める羅號。その高度はグングン下がっていった……。

 

 




鳥海「艦隊は家族。 艦隊は姉妹
   嘘を言うな!
   猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら笑う
   お前も! お前も!! お前も!!!
   私のために……」

羅號「それ以上いけない」

次回は3人娘の戦いとなります。
次回もよろしくお願いします。

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