今回は氷海激闘編の最後、羅號VSガスコーニュの戦いです。
原作で結局決着のつかなかった2隻の戦いの結果は……。
水中での大爆発による水柱が立つ。そしてその水しぶきの中で離水を始める万能戦艦の姿……それが最大望遠にしたガスコーニュのモノクルには映し出されていた。
「今の爆発……やられたというのか、インヴィンシブル!?」
あの爆発と、そして通信にも出ずまったくその存在を感知できないとなればそう言うことなんだろう。
「ちっ! 功を焦って返り討ちなど笑い話にもならないではないか!!」
ガスコーニュはそう吐き捨てると、すぐ『ベル』へと通信を送る。
「『ベル』、インヴィンシブルがやられた。
敵万能戦艦は未だ健在、もう一度狙撃する!
観測機からの詳細データを送れ」
『……』
しかし、通信機から帰ってくるのは沈黙だけだ。
「どうした『ベル』! 何があった、『ベル』!!」
『……』
ガスコーニュは先ほどよりも幾分焦ったように通信機に怒鳴るが、状況は何も変わらない。
『ベル』はちょうどこの直前に朝潮と『ちぃ』の決死の攻撃によって大破、航空機運用能力や無線・データ送信能力といった『
「『ベル』、まさか……いや、今は敵万能戦艦の相手が先か」
『ベル』のことを考えるガスコーニュだが、すぐに頭を振って敵万能戦艦へと集中する。
敵はアクティブステルス機能を持つガスコーニュの正確な位置は掴んでいないと見える。ならば先制攻撃のチャンスはこちらにある。
『ベル』からの情報支援がないため先ほどのような100%の精度の精密射撃は難しいだろうが、それでも敵がこちらを発見し主砲の有効射程にまで接近するまでには時間がかかるだろう。
先制攻撃と敵が接近するまでの時間での一方的な攻撃チャンス……ガスコーニュはそれを勝機と見た。
勝機と見ればガスコーニュの行動は素早い。ガスコーニュのモノクルには、羅號が周囲を探るようにしている姿が映っている。こちらを索敵中なのだろう。ほぼ静止状態、ガスコーニュにとっては命中は容易い。
「……」
ドゥン!!
ガスコーニュがトリガーを引いた。
轟音とともに発射された超長砲身41cm5連装砲が放たれる。その音と発砲の光に反応してか羅號は身を捻るが、それだけ回避ができるわけもない。
砲弾は直撃、左側面に直撃したその一撃は羅號の装甲を貫き、羅號の艦載機格納庫が吹き飛ぶ。だが、羅號は墜ちない。
「咄嗟に身体を捻って装甲の厚い面を前面に押し出したか……だが、まだ第二、第三射がある!」
羅號の咄嗟の行動に敵ながら見事とガスコーニュは心の中で称賛するが、ガスコーニュは自分の絶対的な優位を疑わない。だがそんなガスコーニュのモノクル、その先に映るダメージを受けた羅號が……不敵に笑った。
次の瞬間、羅號の左肩に位置する51cm4連装砲が咆える。
「何を? まだ射程には……まさか!?」
意図が読めず困惑するガスコーニュだが、すぐにその真意を読み対応しようとする。しかし困惑した一瞬が、ガスコーニュのその対応を間に合わなくさせた。
カッ!!
圧倒的な閃光、そして熱が発生する。羅號のプラズマ弾だ。しかしそれはガスコーニュの位置を知り、そこに向かって放たれたわけではない。
羅號の目的は別にあった。
「うぉぉぉ! 目が……!?」
モノクルをかけた目を押さえてもだえるガスコーニュ。突然すぎて閃光防御が間に合わなかったのだ。それでも気力で再び最大望遠にして羅號の姿を探ろうとするが……。
「水蒸気、だと!?」
視界の先は水蒸気に覆われて真っ白だ。
これが羅號の狙いだった。プラズマ弾によって発生する閃光でガスコーニュの目を焼き、続く熱量で周辺の氷山・海面を瞬時に蒸発させたことによって発生する水蒸気で、『
「おのれ、やってくれる!!」
もし『ベル』の情報支援を受けられれば話は別だが、今のガスコーニュにこの手はあまりにも有効だ。視界を塞がれたことでガスコーニュの計算していた『敵が接近してくるまでの一方的な攻撃チャンス』という勝利の方程式が根底から覆される。そして……その水蒸気を引き裂いてドリルが飛び出した。
「見つけた!」……ガスコーニュのモノクルに映る羅號の口がそう動くのがわかった。
~~~~~~~~~~~~~~~
それは、はっきり言って『賭け』以外の何物でもなかった。
もう1隻の敵ラ級万能戦艦、遠距離砲撃を得意としアクティブステルス機能を持つこの難敵の位置を掴むことは容易ではない。だからそのために、羅號はその身を囮にすることにした。
いつかの北方の偵察任務の時に、朝潮が熟練見張り員妖精さんの目視の重要性を説いていたが、それは何も間違ってはいなかった。
羅號のレーダーは確かに強力無比だが絶対ではない。人は機械と違って『正確』ではないが『精密』だ、滅多なことでは故障しない優秀さを持つ。だから羅號がこの土壇場で頼ったのは『目視』だったのである。その身に再び砲撃を受け、そして目視によって発砲炎から方角を割り出し接近、その位置を探ろうというのだ。アクティブステルス機能も絶対的なものではなく、ある程度接近し注意深く観察すれば位置の特定は可能である。通常の接近砲撃戦なら羅號にも十分な勝算があった。
この作戦に問題があるとすればそれは初撃……今の傷付いた羅號が、敵の位置を割り出すために受ける初撃に耐えられるかどうかだ。
(再起動した磁気シールドもそれほどの出力は出ていない……装甲の破られたところにあの超威力を受けたら終わりだ)
不安はある。しかし、勝利のためにはその賭けをする必要もあった。
羅號は迷うことなく、その賭けに自分の命をチップにする。その思い切りの良さと度胸はさすがである。
そして、その瞬間は来た。
「発砲炎!?」
監視をしていた妖精さんに従い、羅號は生き残った姿勢制御スラスターを使って急旋回、その方向に必死で厚い装甲面を向けた。同時に、いまだ本調子ではない磁気シールドを稼働させる。
飛来した敵弾はくすぶっていた磁気シールドを紙のごとく突き破り、羅號の装甲を叩く。そのまま左舷の艦載機発艦用のリボルバーシリンダーが吹き飛び、脱落する。しかし羅號はまだ戦える。羅號はその強力な一撃を耐え切ったのだ。
(どういうわけか分からないけど、最初ほどの攻撃力がない。
運が良かった……)
痛みに顔をしかめながらも、『賭け』の勝利に羅號は心の中で笑った。しかし、その『賭け』の勝利は決して運が良かったからではない。
朝潮と『ちぃ』が決死の覚悟で戦い、『
敵の潜む方角が分かれば、次の作業は接近である。
羅號は左肩の51cm4連装砲を構える。狙いは敵がいるだろう方向というだけで適当だ。しかしそれで構わない。この砲撃は別に、敵を撃破するために撃つのではないのだからだ。
「プラズマ弾装填、撃てぇぇぇぇ!!」
発射されたプラズマ弾は目のくらむ閃光と熱を発生させる。これが羅號の狙いだ。
何の用意もなくこの閃光を受ければ目をやられてしまう。そして発生した熱は周囲の氷山や海水を蒸発させ、大量の水蒸気を巻き上げて視界を奪う。そんな中での遠距離精密射撃は不可能だ。
その間に距離を詰める……羅號はその真っ白な水蒸気の中に飛び込むと、先ほどの発砲炎の見えた方向に向かって最大戦速で飛ぶ。そして接近したことで羅號のレーダーがその揺らぎを捉え、羅號は水蒸気を引き裂いて飛び出した。
「見つけたっ!!」
そこにいたのは長いアームで繋がった艤装を連結させ、まるで対戦車ライフルのようになった艤装を腰だめに構えるラ級万能戦艦の姿だ。
「残存主砲、斉射!!」
「くっ! 近接砲撃戦用意、斉射!!」
羅號の残った51cm砲8門とガスコーニュの超長砲身41cm砲10門が咆哮した。凄まじい衝撃が両者を叩く。
その戦いはすでに磁気シールドを消耗しきった羅號が不利と思われていた。しかし、その差がみるみる縮まっていく。
「くぅ……この連射速度は!?」
羅號の自動装填装置によって次々と発射される砲弾に、ガスコーニュの磁気シールドはみるみるその力を失っていく。時間当たりの攻撃力ではやはり羅號の側に分があった。
しかしそんな羅號もガスコーニュの41cm砲によって迎撃機銃や速射砲といった艦上構造物が次々に吹き飛び脱落していく。戦いは両者がギリギリの凌ぎ合いとなった。
そしてその戦いが動く。
「ぐおっ!?」
羅號の51cm砲がガスコーニュの磁気シールドを突き破り、ガスコーニュの2基の5連装砲塔、その後ろの砲塔に直撃した。
装甲を突き破り、砲塔が爆発する。これでガスコーニュの火力は半減だ。
「ぐっ……おのれ!」
残された主砲を羅號に放つガスコーニュ。その主砲は羅號を捉えるが、それでも羅號は沈まない。
何故同じように撃ち合った羅號とガスコーニュのダメージに差がついているのか……それは2人にとって1つの、そして大きな違いのせいだ。
それは『実戦経験』である。
ガスコーニュたちレムリアの万能戦艦は格下の、それこそ『狩りの獲物』のような相手としか戦ったことはなく、当然ガスコーニュたちは今まで傷一つ負ったことはない。
それに対して羅號は今まで『モンタナ』、『ソビエツキー・ソユーズ』、そして『インヴィンシブル』という自分と同等以上の相手と戦い続けた。傷付き、轟沈寸前にまで追い詰められながらも、それでも勝利をもぎ取ってきた。
その蓄積された戦闘経験が無意識に『どこに当たれば被害を最小限にできるか?』という判断をさせ、羅號は被弾個所をある程度自分の意思でコントロールし続けていたのである。
その『練度』の差が、この土壇場で表面化したのだ。
「だぁぁぁぁぁぁ!!」
羅號は最大のチャンスと、全力で空を駆ける。ドリルが唸りを上げて、ガスコーニュへと迫った。
「ちぃっ!?」
ガスコーニュの生き残った超長砲身41cm5連装砲が咆えるが、羅號はそれに怯まず突き進む。
そして……。
「だぁぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉっ!?」
羅號のドリルがガスコーニュの艤装を抉った。
とっさにガスコーニュが退いたためそのドリルは真芯を外したが、それでもガスコーニュの艦首を生き残っていた超長砲身41cm5連装砲塔もろとも抉り取る。
艦首を失い、そこで起こった爆発によってガスコーニュは海面に叩きつけられるように吹き飛ばされる。
「ぐ……うぅ……!!」
海面に仰向けで倒れたガスコーニュは上体を起こそうとするが、艦首もろともすべての主砲を失ったガスコーニュの損傷は酷い。その痛みに顔をしかめるガスコーニュの前に、ゆっくりと羅號が降り立った。
「僕の勝ちです。
もう降伏してください……」
羅號の降伏勧告、それにガスコーニュは不敵に笑って答える。
「もう勝ったつもりでいるのか、少年?
それは少々気が早いというものだぞ」
そう言ってガスコーニュは倒れたまま、生き残っていた副砲を構える。
それは降伏はしないという意思の現れだ。
「……」
そんなガスコーニュに、羅號も左手の51cm砲を構える。
その時だ。
「ガスコーニュ様ァァァァァ!!」
「!? 『ベル』!?」
横合いから空母水鬼の『ベル』が突撃してくる。
その姿は控えめに見ても、動けるのが不思議なくらいの損傷だ。機関はガコンガコンと不吉な振動を繰り返し、黒煙を垂れ流している。そんな姿になりながらも、必死の形相で迫ってきていた。
『ベル』の手にしたボロボロの副砲が火を吹くが、数発で副砲は煙を吹いて動かなくなった。そんな副砲を投げ捨てると、『ベル』はさらに加速する。
「来るな、『ベル』!!」
ガスコーニュの静止の声に、しかし『ベル』はそのまま突っ込んでくると羅號にぶつかる。
「逃げテ! 逃げテ下さいガスコーニュ様!!」
羅號にとって今のボロボロの『ベル』の出力は子供の戯れ程度のものだ。羅號はビクともしない。
しかしそれでも『ベル』は羅號へ組み付くのをやめなかった。
「……」
「あゥッ!?」
羅號が少しだけ力を入れると、それだけで『ベル』は振りほどかれてしまう。しかしそれでも『ベル』はすぐに立ち上がると両手を広げ、ガスコーニュを守るように羅號の前に立ちふさがった。
そんな『ベル』に、ガスコーニュは優しく諭すように語りかける。
「『ベル』、もういい。
お前の任を解く。 お前は降伏しろ」
「イヤです! 聞けまセン!」
「お前は無駄に命を散らす必要はない。
いいから言うことを聞け」
「ソンなの、聞けまセン!
ダッテ……だって……私はアナタの居なイ世界で生きたクはありませン!
アナタが生きるためナラ、この命を捧げマス!
アナタが死ぬというナラ、私も一緒に死にマス!!」
「『ベル』……」
2人の会話に困るのは羅號だ。恐らくこの2人は深い関係なんだろうなぁということは察するが、それ以上はちんぷんかんぷんである。
「え、えーと……」
空気の読める羅號は、さすがにこの状況で撃つわけにもいかず油断なく砲を構えながらも困ったように首を傾げた。
その時だ。
「羅號、待ってください!!」
声に振り返ると、朝潮が慌てたように羅號の隣に滑り込んでくる。その後ろを見れば、途中で合流したのかローと『ちぃ』の姿もあった。
「朝潮! それに『ちぃ』ちゃんもその怪我……!?」
朝潮は中破状態。『ちぃ』に至ってはもうズタボロ、見るも無残な大破状態だ。ローが『ちぃ』に肩を貸しながらこちらにやってきている。
しかし朝潮は、そんな怪我を心配する羅號に「大丈夫」とだけ答えると、羅號に向かって必死に訴え始めた。
「私は捕まっている間、そこにいる空母水鬼の『ベル』さんのずっと面倒を見てもらいました。不当な扱いなんて一度だってされてません。
それにそっちの万能戦艦……ガスコーニュには、私がインヴィンシブルにひどいことをされそうになったところを助けてもらいました。それが無かったら私はいまごろ腕や足をもがれるか顔を潰されたか……とても羅號の前に立てない姿にされていたかもしれません。
この戦い、もう羅號の勝ちです。これ以上の戦いはもう……。
どうか、どうかその2人の投降を認めてください。
お願いします、羅號……」
朝潮の必死の訴え、それだけで朝潮の言葉が真実なのだと分かった。
羅號としてもこれ以上の無益な戦いはしたくない。だから羅號は朝潮に「わかった」と頷くと、再び降伏勧告をする。
「もう一度です。
これ以上の戦いは無意味です。もう降伏してください」
その羅號の言葉に、ガスコーニュは苦笑する。
「俺一人なら最後まで戦うのだがな……地獄に関係のない『ベル』まで道連れにはできんか……。
いいだろう、敗者は敗者らしく勝者の言葉に従おう。
そちらの降伏勧告を受諾する」
そう言ってガスコーニュは副砲を投げ捨てた。
「ガスコーニュ様!!」
すぐさま『ベル』がガスコーニュに抱きつくと泣き始める。そんな『ベル』の髪をガスコーニュは優しくなでた。
「まったく……逃げろと命じたのに……。
命令違反は重罪だぞ」
「ごめん、なサイ……でモ……!」
「言い訳はいい。
罰はそうだな……お前の残りの人生、俺のそばに居てもらうというのはどうだ?」
「!
ハイ、ガスコーニュ様!
いついつまでも『ベル』はアナタのお傍ニ!」
そして2人は情熱的な大人のキスを交わす。
愛し合う男女の美しい愛情表現なのだが……ここはお子様の目の前である。
「あぅ……(顔真っ赤」
「あ、あわわ。 『ベル』さん……(顔真っ赤」
「だ、大胆ですって……(顔真っ赤」
「うぅ……チュー、凄イ……(顔真っ赤」
お子様4人はもう顔を真っ赤にしながらも興味があったためガン見である。
特に羅號とローは無意識にさっきの自分たちの口づけと比べてしまい、もう限界まで真っ赤であった。
羅號は気恥ずかしそうに空を仰ぎ見ると、その向こうに機影を見つけた。機種は彩雲、友軍機だ。
「みんな、味方だよ!
おーい!!」
羅號は気恥ずかしさを払拭しようとでもするかのようにわざとらしく大声で言ってから、友軍機に状況を送るのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
「ふぅ……綺麗だなぁ……」
水平線に落ちていく夕日を桟橋に腰かけて眺めながら羅號は呟いた。
ここはあの
あの後、戦いを終えた羅號たちを発見したのは横須賀からの依頼で偵察に来ていた
最悪の場合、羅號を逃がすために決死の時間稼ぎすら視野に入れていた天城たち
「隣いいですか、羅號?」
後ろから声をかけられ振り返れば、その声の主は朝潮だった。高速修復剤を使った治療によってその傷はすっかり癒えている。
羅號は肯定の意図を込めて少し横にずれると朝潮はそこに座った。
「羅號、身体は大丈夫ですか?」
気遣うような朝潮の言葉通り、羅號は身体のいたるところに包帯が巻かれた痛々しい姿だ。相変わらず資材の関係上、再び大破した羅號の艤装は早急に修復というわけにはいかなかったのである。
だがもう羅號も慣れたもので、あははと笑って返した。
「大丈夫、このくらいどうってことないよ。
それよりも……明日のことが気になってね」
そう言って羅號は深いため息をついた。
羅號たちの無事を聞いた長門や筑波大将といった横須賀の主だった面々は、羅號の修復に必要な資材を持って明日には
「長門ママたち、カンカンに怒ってるらしいから気が重いや」
無断出撃の件でどんなお説教が待っているのやらと、再び羅號は深くため息をついた。
たしかに無断出撃は大きな問題になる事案である。それを送り出した鳥海たちも相応の罰は覚悟しているが……蓋を開けて見ればこちらは損傷はあれど轟沈なし。レムリア側は切り札である万能戦艦1隻轟沈、万能戦艦1隻と強力な空母水鬼級の拿捕という大戦果である。無断出撃の咎など補ってなお有り余る。
大人たちもこれだけの大戦果を出した羅號を頭ごなしに怒るというわけにもいかず、かといってお咎めなしというわけにもいかず、その辺りのさじ加減をどうするかで大いに悩んでいるわけだが羅號にはあずかり知らぬ話だ。
「朝潮の方こそ大丈夫なの? 向こうに連れて行かれて身体に異常とか……」
「ええ、大丈夫。 『ベル』さんに良くしてもらったから、どこにも異常なんて無いわ」
「そっか……」
朝潮の言葉に羅號は頷く。
ガスコーニュと『ベル』は驚くほど素直にこちらに従ってくれている。伯父である
「……あの2人、大丈夫かな」
「何があっても、きっと大丈夫です。
だって……大切な人そばにいてくれるなら、人はどこまでだって強くなれるんですから」
「そうだね……」
そこまで言うと、朝潮はスッと羅號の頬に触れた。
「羅號……羅號は私が攫われたと知って、心配してくれましたか?」
「当たり前だよ。朝潮にもしものことがあったらって考えただけで僕は……」
「羅號……」
そこまで言うと朝潮はそのまま羅號に顔を近づけ、唇を重ねる。
真っ赤な夕陽の中、2人の影が重なった。
「あ、朝潮……」
「……ローから聞きましたよ、羅號とキス……したって。
私だって……羅號のことが大好きなんですから、これで抜け駆けなしです。
それに……悪いドラゴンに攫われたお姫様は、救ってくれた王子さまにお礼のキスをするものですよ」
夕陽の赤に負けないくらい真っ赤な顔の羅號にちょっと冗談交じりに朝潮は答える。だがその朝潮の顔も羅號に負けず劣らず真っ赤だ。
そのとき背後からタッタッタという軽快な足音が聞こえてきた。
「ラゴウ、見ツケタ!」
「『ちぃ』ちゃん、それにろーちゃんも」
羅號の言う通りやってきたのは『ちぃ』、そしてその後ろからローもやってくる。
「あっしー……しちゃった?」
「……」
やってきたローは朝潮の様子を見て尋ねると、朝潮は顔を赤くしたままコクンと頷く。それを見てローはうんうんと頷くと、『ちぃ』の後ろに回り込む。
「ほら、今度は『ちぃ』ちゃんの番ですって」
「ウン! 『ちぃ』、ヤルの!!」
『ちぃ』は鼻息を荒く頷くと、羅號に向かって飛びかかる。
「ラゴウ、『ちぃ』とチューする!!」
「ちょ、ちょっと『ちぃ』ちゃん」
そして混乱する羅號に、『ちぃ』は問答無用で唇を重ねた。
しばしの後、『ちぃ』はその色白の顔を真っ赤に染めながら言う。
「ラゴウ、大好キ!!」
「『ちぃ』ちゃん……」
「えへへっ……これでみんなお揃いですって」
そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべるローを見て、羅號はあははと苦笑混じりに尋ねた。
「ねぇ……みんなは本当にこれでいいの? 僕は駄目な男なんだよ?
だって……ろーちゃんも朝潮も『ちぃ』ちゃんも……僕はみんな大好きなんだ。
本当に、心の底から大好きなんだ……だから、僕は選べないよ……」
だがそんな羅號に返ってきたのは、3人の少女たちのとびっきりの笑顔だ。
「私は……私たちは羅號が世界で一番大好きだって、胸を張って言えます。
いいじゃないですか、私たちは私たちらしい関係で」
「そうですって。
偉い人も言いました。
『よそはよそ、うちはうち』!」
「『そんなによそがいいなら、よその子にナレ!』、なノ!」
「いやそれ偉い人の言葉じゃなくて、世のお母さんたちの言葉なんじゃないの?」
そう苦笑すると、羅號はゆっくりと3人を抱き締める。
「今日はありがとう。 みんながいなかったらきっと、僕は勝てなかった。
だから、ありがとう……。
それと……みんな大好きだよ。
僕、絶対みんなを守るから……だからみんなで一緒に幸せになろう! 絶対だよ!」
「「「うん!」」」
これを見た大人はきっと『子供の夢語り』『たわ言』と笑うだろう。事実、子供たちだけの小さな小さな約束だ。
だが、本人たちにとっては本気の、何物よりも勝る『誓い』だった。
今回の戦いによってレムリアに残った万能戦艦は残り1隻となった。
世界の命運を賭けた最終決戦はもう、間近に迫っていた……。
というわけでガスコーニュは鹵獲ENDとなりました。
原作でも結局決着がつきませんでしたが、1対1で羅號とガスコーニュが殴り合えばこうだろうなぁ、と。
この辺りは『倒した敵が仲間になる少年漫画の王道展開』をイメージしていますね。そのために即興ながら朝潮と『ベル』の関係を作り、ガスコーニュのイメージアップもしましたので……。
次回からはついに物語の最終章に入ります。
次回もよろしくお願いします。