物語はついに最終章、レムリアとの決戦に向かいます。
今回はある人物にあるセリフを言わせたかっただけの回、と言っても過言ではありません。
あの、外してはならない名言の入る部分はここぐらいだしなぁ。
決戦 轟ケ天ニ (その1)
……その時はついにやってきました。
長きにわたり続いていたレムリアとの戦争、そのすべてを終わらせるための最後の決戦。
レムリアの本拠地である、あの呪われた海と呼ばれた『パンタラサ海域最深部』への攻略作戦……作戦名『轟天作戦』がついに開始されました。
その規模は間違いなく人類海戦史上最大級、熊王財閥の熊之宮会長はその規模を「仮に戦闘が2週間続いたのなら、日本の経済が吹っ飛びますわ」と称していましたが、それは比喩でも誇張でもなかったでしょう。
長引く戦争によって世界中の経済は干上がる寸前、その中でも世界的に見て日本はほぼ最上の状態でしたがそんな日本でもギリギリの状態でした。あの時点でレムリアを叩かなければ、膨大な戦力を持つレムリアによって世界はジリジリと押しつぶされる運命と分析した上での、まさに乾坤一擲の大作戦です。
しかしそんなレムリアの大戦力を前にしても日本……人類には希望がありました。それが羅號くんです。
羅號くんの今までの戦いによってレムリアの保有する万能戦艦は残り1隻となっていました。もはや数的不利はなくそれならば今まで幾多の激戦をくぐり抜け勝利し続けた羅號くんならば勝てる……言葉にしなくてもそんな希望を誰もが持っていました。
……今思えば、なんて楽観的で能天気で無責任極まりない考えだったのでしょう。だから忘れていたんですよ。
光が強ければ、当然のように影は濃くなる。同じように羅號くんという『希望』が大きければ大きいほど相手だって対応し、『絶望』だって巨大になっていくということを……。
最後にして正真正銘レムリア最強の切り札、万能戦艦『フリードリヒ・デア・グロッセ』……ただでさえ強力だというのにまさかあんな『隠し玉』まで用意しているとは、本当に計算外でした。
今でもはっきりと覚えていますよ、あの絶望的という言葉すら生ぬるい、絶対的な暴力を……。
あの時、戦力分析を終えた明石さんと夕張さんがはじき出した羅號くんの勝率……何パーセントだったかご存知ですか?
『0.7%』……あの羅號くんの勝率がこの数字です。
羅號くんをもってしても絶望的すぎる戦力差……誰もが折れそうになりました。
しかし……しかしそれでも、羅號くんだけは違っていた。
目蓋を閉じれば、今でもあの姿を鮮明に思いだせます。
絶望を前にしようとも戦意を失わず、Z旗を掲げて天へと轟かせた彼の声を。
絶望の海に、それでも希望を信じて勇気をもって漕ぎ出した彼の姿を。
……きっと歴史にその名を刻まれた『英雄』たちは、ああだったのだろうと彼を見ながら思いました。
羅號くんは間違いなく『英雄』ですよ。
その力だけじゃない、その魂のあり方まですべてをひっくるめて『英雄』と呼んでいい存在だと思いますね。
もっとも、本人は『英雄』なんて呼ばれても困ったような顔をするでしょうけど。
ただ……『英雄色好む』の部分だけは『英雄』にはなって欲しくはなかったです。あの無自覚に女を次々に骨抜きにしていくのは正直なんとかしてほしいですね。
あの子、裏で何て呼ばれているかご存知ですか?
『
あれでまだ10代前半だというから恐ろしい……あの子が大人になった時に、彼を中心としたハーレムが独立国家になってるんじゃないかと、もう今から心配しているんです。
……冗談言ってると思います?
まさか。私は100%本気で心配していますよ。
ハニートラップ用に送り込まれた子たちは各国の特別優秀な人材、さらに熊之宮会長たちの薫陶で経済・交渉の鬼と化した朝潮ちゃん、朝食前のジョギング感覚でホワイトハウスに忍び込めるようなろーちゃん、要塞級火力を持った『ちぃ』に、地球上で最大の単体戦力である羅號くん……ほら、もう独立くらいできそうな状態でしょ?
まったく……本当にどこまでもスケールの大きな子ですよ、羅號くんは。
――――――レムリア皇国国家元首『アネット』の謁見記録より抜粋
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帝都襲撃によって大ダメージを受けていた横須賀鎮守府は、その昼夜を問わぬ復旧作業によってその機能を急速に回復させていた。
そしてそんなひと段落がついた横須賀鎮守府は今、空前の賑わいを見せている。
「……これはなんとも壮観な眺めだな」
窓からの光景に、筑波大将は盟友である天城大将に呟く。
その視線の先には大和型や長門型を始めとした日本の誇る超弩級戦艦艦娘、そして大鳳や翔鶴型といった正規空母艦娘たちの姿があった。そのすべてがいくつもの実戦を生き抜いてきた強者であることが感じられる。
いや、彼女たちだけではない。彼女たちに付き従う重巡・軽巡・駆逐艦娘のすべてが選りすぐりの精鋭たちであることがその気配から容易に察することができた。
「誰もが各鎮守府・基地のエース級の人材だからな。
間違いなく現在の日本において最大最強の艦隊だ。 壮観なのは当然よ」
天城大将の言葉に、筑波大将はため息を漏らす。
「急な招集で各地の提督たちには恨まれただろうな……」
「何を言っている。レムリアはこちらが出し惜しみなしで全力で挑んでも勝利できるか分からん相手よ。
この程度の努力、努力のうちに入らんさ」
「確かにな……」
言いながら筑波大将は机の上の書類を手にするとそれをめくった。
「参加艦娘数、総勢220名……一度に投入される戦力としては史上最大の海戦じゃな。
おまけに羅號の開発した新型装備も惜しげもなく全投入よ。
あの運用コスト度外視の装備の数々……今から補給に必要な物資を考えると頭が痛いわい。
これで来年度の海軍予算はゼロじゃな。
もっとも、『来年』があればの話だが……」
「勝っても負けても、楽はできん運命らしい」
筑波大将の冗談めかした言葉に、同じく天城大将も苦笑しながら返す。
「それで、羅號くんは今、どこに?」
「ああ、羅號なら……」
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「これで!」
「……ふん、いい手だな」
羅號は四方を分厚いコンクリートの壁に囲まれた部屋にいた。唯一の入り口は銀行の金庫のような、数人がかりでないと開けられないような分厚い金属の扉だ。
そして羅號は目の前の人物とチェスに興じている。その相手とは前回の北極海での戦いで投降したレムリアの万能戦艦『ガスコーニュ』である。ここは特別に造られたガスコーニュ専用の独房であった。
「だがいささか正直すぎる。 ほら。こうすれば……」
「あっ!」
羅號は渾身の一手をたやすく返され、再び危機に立ち返る。
「周りをよく見て、相手の動きを読んでみろ。
戦場での戦いと同じだ」
「頭ではわかってるんですけど……戦いの時と違ってうまく動けないっていうか……」
「……戦場ではあれほどの動きができるのに、こうしていると歳相応の子供なんだな」
ガスコーニュは苦笑しながらコーヒーに口を付けた。チェスをさしながら2人は会話を続ける。
「……『ベル』は、どうしてる?」
「同じような感じです。
いちおう捕虜なので不便はかけていますが、不当な扱いはけっして……そのあたりは昨日朝潮が会いに行って確認しました」
さすがに捕虜のためガスコーニュを『ベル』と同じ部屋にするわけにもいかず、当然ながら『ベル』は別の場所にいた。
「……そうか、ならいい」
何の気なしにガスコーニュは言うが、その裏には深い愛情が感じ取れる気がする。羅號はガスコーニュと『ベル』の特別な関係を再確認した気がした。
同時に、羅號をして背筋が寒くなる感覚を覚える。
ガスコーニュが協力的でおとなしくしてくれている理由ははっきり言って、『ベル』のことと戦いで敗れた羅號の言葉に従おうという彼自身の『敗者の吟味』からである。もし仮に『ベル』が何かしら不当な扱いを受けていたとしたら、間違いなくガスコーニュは『ベル』を助け出しに行くだろう。この部屋の鉄壁とも思えるセキュリティすらも容易く突破して、だ。
ガスコーニュの実力を知る身として、羅號はその光景が鮮明に想像できてしまう。
「……レムリアとの決戦は間近か?」
「軍機なのでお答えできません」
「そうか……ならそのピリピリとした覇気は抑えることだ。
答えを喧伝しているようなものだぞ、少年」
やはりガスコーニュは羅號よりも数段大人だ。羅號は精神的な面ではまだかなわないと肩を竦める。
そんな羅號に、ガスコーニュは続けた。
「……レムリア最後の万能戦艦、『フリードリヒ・デア・グロッセ』はお前とよく似たタイプの万能戦艦だ。
砲は長砲身51cm連装砲4基8門、一撃の威力に関してはお前を上回る」
「……」
チェスの駒を動かしながらのガスコーニュの言葉に、羅號は無言で頷くと同じくチェスの駒を動かす。
「『フリードリヒ・デア・グロッセ』は正真正銘、レムリアの切り札であることを期待された万能戦艦だ。
そのために完成し進水して俺たちとともに実戦テストを行った直後から改装作業に移っていた。
やつの改装計画については俺も知らんが……どう転んでも弱くなるなどということはあり得まい。
つまり……『フリードリヒ・デア・グロッセ』はほぼすべてにおいてお前よりも能力が上だという可能性が高かろう。
……勝ち目は薄いかもしれんぞ、少年」
「何を今さら……レムリアの万能戦艦に勝ち目の薄くない楽な相手なんて、ただの1人もいませんでしたよ。
『モンタナ』、『ソビエツキー・ソユーズ』、『インヴィンシブル』、そしてあなた……すべての戦いが勝ち目の薄い、ギャンブルみたいなものでした。
今までやってきたことをもう一度やるだけのことです」
「……なるほど、心配は無用か」
その言葉に気負いもなければ迷いもない。
歳相応かと思えば芯にあるのは大人ですら持っていないような強靭な心……これでは本来子供を導くべき大人の立つ瀬が無くなってしまうとガスコーニュは苦笑した。
「子供としては面白みに欠けるぞ、少年」
「この性根は文字通りの生まれつきですからね」
言われて羅號は困ったように頬を掻いた。
「……では少年、一つ大人として教示してやろう」
「拝聴します」
「出撃前の大事な時間を、男とチェスをさすのに使うなんて馬鹿はやめておけ。お前を大切に想ってくれている娘たちとの時間に使うべきだ。
ギリギリの分水嶺、勝利と敗北を決定づけるのは『想い』だろう。
『想い』は『理由』になり、『理由』は人を前に進めてくれるからな」
「なるほど、ごもっともな話ですが……」
「ほれ、チェックメイトだ」
コンッ、という音とともに駒を動かしガスコーニュが勝負を決める。
「参りました……」
「早く戻って、同じ時間を過ごしてやれ」
話は終わりだとばかりに、ガスコーニュは視線を手元の本へと落とす。
羅號は一礼すると独房から出ていった。
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さて、ガスコーニュは羅號に決戦前の大事な時間を大切な誰かと過ごすべきだと説いた。
ガスコーニュの弁は至極その通りである。戦いの中で本当に追い詰められたとき、その足を前に進めてくれるのはそれまでに結んだ誰かとの絆の数々である。今までの戦いでも羅號はそれを決して感情論ではなく、実感として理解していた。だから羅號はガスコーニュに言われるまでもなくそれは理解しているつもりである。
しかし……。
「えへへっ、らーくん♪」
「ラゴウ!」
「あ、ろーちゃんに『ちぃ』ちゃん」
背中から飛びついてきたローと『ちぃ』に、羅號は内心少しだけ頭を抱えながら言葉を返す。そしてこの2人がいるのなら当然のように朝潮もそこにいた。
「羅號、背中流しますね」
一番真面目な朝潮がもう当然のような顔でそんなことを言うものだから、羅號は半分以上逃避していた思考をもとに戻した。
「あの……みんな。
さすがにお風呂にまで入ってくるどうかと思うんだけど……」
困ったように、そして恥ずかしそうに頬を染めながら羅號は言うが彼女たちが止まるわけもない。いつだって恋する乙女は暴走機関車よりも止まらないものだ。
朝潮の誘拐から始まった前回のインヴィンシブル・ガスコーニュとの戦い、これは彼女たち3人との関係に大きな変化をもたらしていた。
羅號は改めて戦いの後3人に気持ちを伝え、3人も口付けとともに羅號への思いを再確認した。それだけなら微笑ましい小さな恋人たちの一幕なのだが……ここに一つだけ誤算が加わってしまう。それがガスコーニュと『ベル』という、自分たちよりも数段進んだ大人の恋人たちの存在だった。
その関係をつぶさに見ていたことで彼女たち3人は『羅號に対する恋心を表すには、全然足りていない』という風に学習してしまったのである。大体、ガスコーニュと『ベル』が感極まっていたとはいえ子供のまえで情熱的なキスをしていたせいなのであるが。
それによって彼女たち3人はもはや遠慮なし、就寝の際には羅號の布団に潜り込み、風呂にだって入り込む。正直羅號が1人でいる時間などトイレ程度しかないのではないかというくらいだ。
羅號は彼女たち3人を好いている。それも彼女たちのためになら当然のように命を賭けれるくらいに、だ。
だがそれと同時に『限度というものがある』とも理解している、きわめて常識的な少年なのだ。その羅號の『常識』からすれば布団や風呂にまで入り込むのはさすがに『やり過ぎ』に該当する行為だと思っていた。
だが……。
「でも……ガスコーニュさんも『一緒の時間を大切にしろ』って言ってたしなぁ……」
そう、なんとも困ったような顔で呟く羅號。
羅號は大人の忠告はしっかりと聞く、素直で聞き分けのいい少年だ。ガスコーニュの言葉を真摯に受け止めている。そのためこういう彼女たちの行動も受け止めよう、と決意してしまっていたのだ。
……実を言うと、ちょっと一人の時間が欲しくてガスコーニュとの面会を希望した羅號だったのだが、そこで彼女たち3人の『やり過ぎ』だと思った行動をそう思わない方向に修正されてしまったというのは皮肉としか言いようがない。
のちに『
もしかしたら歴史はその原因であるガスコーニュを永遠に許さないかもしれない……。
だがそんなことは本人たちはつゆとも知らず、他人からすれば胸焼けするほどにひたすらに甘ったるい時間を過ごしていく。
そして……。
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晴天……その日はどこまでも続く、雲一つない青空だった。
これは天がこの日を祝福しているのか、それともただの嵐の前の静けさなのか……少しだけ目を瞑り感傷に浸っていた彼、筑波大将は目を開く。その視線の先には、ずらりと整列した艦娘たちの姿。
筑波大将はそれを頼もしそうに見つめてから、目の前のマイクに向かって語りだした。
『今日この日を迎えられたこと……ワシの胸には今、多くのものが去来している。
今でもよく覚えておるよ、あの圧倒的な深海棲艦の襲撃を。あの平和の海を奪われていく瞬間を。
あれから長い長い月日が流れた。子を産み、育て、その子が大人になるほどの……二十数年の長い長い月日だ。
それだけの長い月日を、我々はこの絶望的な戦争に費やしてきた。
その間に失われていったものの数は、もはや数え切れん……。
だが……どんな戦いにも終わりの時は来る。
ついに、ついに我らはこの戦争に終止符を打つ、この戦いへとこぎ着けた!
数え切れぬ同胞たちの屍の山を、絶望の海を越えてここまで、ここまでたどり着いたのだ!
これはこの戦争を終わらせるための戦いである!
これより我が海軍はこの戦争における最後の作戦、『轟天作戦』を発動する!!
総員、勝利を! 勝利だけを考え、奮戦せよ!!
暁の水平線に、勝利を刻むのだ!!!』
ワァァァァァァ!!!
艦娘たちから歓声が上がる。そしてその中には当然、羅號たちトラック・レムリア聯合艦隊の姿もあった。
こうしてついに賽は投げられたのである。
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同時刻、どことも知れぬその場所で。
1人の女が、溶液で満たされた巨大なカプセルの前にいた。
「ふん、愚かなサルどもが裏切り者と一緒にバカ面さげてやってくる。
すべて一気に終わって好都合というものよ」
そうして女……レムリアの『制圧派』の首魁であるアブトゥはそのカプセルを撫でる。
「お前と『アレ』の力で、すべてを海の藻屑に変えてやりなさい。
そしてその瞬間から再びレムリアの、そして私の千年帝国が始まるのよ!」
アブトゥの言葉に応えるように、カプセルの中でゴポリと気泡が鳴った……。
というわけで物語はついに最後の決戦へと向かいます。
次回はついに最後の万能戦艦の登場の予定。
次回もよろしくお願いします。
追伸:今回は半分以上、あのセリフを言わせたいがための回でした。
冷凍兵器山盛り使用なら当然外しちゃいけませんよね、アレは(笑)