今回は最後の決戦の導入となりました。
最後の万能戦艦、そしてその能力は如何に?
海原を大艦隊が行く。レムリアの本拠地である『パンタラサ海域最深部』へと向かう日本海軍の決戦艦隊である。
その堂々たる輪形陣の中央には指揮を司る提督たちの座上する船が一隻……大量の情報が飛び交うその指揮室では、筑波大将と天城大将が顔を突き合わせていた。
「今のところは順調なようだな」
「まだ目標海域に到達してもおらんのだ、ここで問題が出ていたらそれこそお話しにもならんわい」
「それもそうだ」
筑波大将の言葉に天城大将はもっともだと肩を竦めながら言葉を返すと、手元の書類を手に取った。
これだけ大規模な艦隊だ、今まで艦隊が敵の襲撃を受けなかったわけでもない。この書類はその襲撃や偵察によって発生した戦闘報告書である。
「……改めて凄いものだな、羅號くんの開発した新型兵装は」
羅號はもともと『95式対空対艦冷凍弾』や『
『高性能レーダーユニット』はその名の通り、高性能な対水上対空複合レーダーだ。そして『羅式防御電磁膜』は重巡以上の大型艦専用の、羅號の特殊防御機構である『磁気シールド』の発生装置なのである。
双方ともオリジナルともいえる羅號に搭載されたものに比べれば数段性能は落ちてしまうものの、艦娘の装備としては破格の性能だ。その証拠に、この報告書においてもこれらを使用した部隊からはその性能を絶賛されている。
しかしながらこれらも弱点がある。『高性能レーダーユニット』は『情報処理ユニット』を、『羅式防御電磁膜』は『追加特設発電装置』を別途で装備しなければ動かないのだ。つまり『スロット』とも呼ばれる装備部位を2か所も消費するのである。どうしても攻撃力の低下は免れない。そして『コスト高』という問題も健在、調整のために『鉄鋼』と『ボーキサイト』を消費してしまうのである。
羅號製新兵器は総じて『画期的だがコスト高で扱いが難しい』ものだったが、この2つもその宿命から逃れることは出来なかった。
「まぁいい。順調なのは良いことだが……」
未だ艦隊は威力偵察部隊と思われるレベルの少数の部隊とだけしか戦っていない。間違いなく、敵はこちらの動向をつかんでいるだろうに、だ。
「これは間違いなく、本拠地であるパンタラサ海域最深部で待ち構えているのだろう。
深海棲艦、いやレムリアの本拠地であるパンタラサ海域最深部……一体どれだけの数の敵が待ち構えていることやら」
「……」
天城大将の言葉に、筑波大将は無言で頷くだけだ。
そして……。
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「ここが……パンタラサ海域最深部……」
決戦艦隊のたどり着いたその海域を前に、羅號はポツリとつぶやいた。
空は黒い雲に覆われ雷の電光が見えるが、不思議なことに雨の降りだす様子はない。吹き荒ぶ風が海面を揺らすが、嵐のような荒れ方はしていない。艦娘であるのなら全く問題にならないはずの海の様子である。しかしそこにいた全員が、得も言われぬ不気味さを感じ取っていた。
生命の気配の感じられないその不気味な静かな海は、まるではまったら最後、何物をも水底へと導く渦潮とでも表現できる雰囲気を醸し出している。
「あぅ……らーくん……」
「羅號……」
「……」
羅號の隣を航行していたローと朝潮が不安そうに羅號の手を握り、羅號は2人を安心させるように無言でその手を握り返した。
「久しぶりの場所デスね……」
「ココ、タノシクないから『ちぃ』、嫌イ」
一方、レムリア亡命艦隊の面々は艦娘たちの感じている不安とは違う意味で苦い顔をする。
ここは彼女たち『欠陥品』にとっては故郷であるのと同時に、自らを追い立てた場所でもあるのだ。アネットに助けられていなかったらレムリア制圧派によって『処分』されていただろう彼女たちとしては、いい思い出などあるはずもない。
「私たちは……ここに帰ってきた」
だが、アネットだけは違った。アネットにとってここは懐かしき故郷であるのと同時に、間違った道を進もうとしている愛する祖国なのである。その間違いを正すために祖国を飛び出したアネットにとって、地上人類と接触をしてここまで戻ってきたという感慨は一押しであった。
その時だ。
「レーダーに感! 前方に何かいる!!」
その羅號の言葉で、艦隊すべての意識が前方に集中する。そしてそこにあったのは一隻の船であった。レムリアの司令船だ。そしてその船の上空に、モニターのように巨大な映像が浮かび上がる。
『久しぶりね、アネット!』
「アブトゥ!!」
それはアネットによく似た姿だった。アネットよりも釣り目気味で、気の強そうな印象を受ける。
彼女こそがアネットの双子の姉、この戦争を主導するレムリア制圧派の首魁であるアブトゥであった。
『のこのこと、どの面さげて来れたものね。
おまけにそんな猿の集団を引き連れて』
アブトゥの挑発的な物言いに、アネットは悲しそうに目を伏せると言った。
「アブトゥ、こんなことはもうやめて」
そんなアネットの訴えに、アブトゥは肩を竦める。
『それで、そんな猿どもとお手て繋いで仲良しごっこをやれっていうの?
あんただって見たでしょ、私たちレムリア人が眠りについてからの地上人たちの歴史。
殺し合い、奪い合うことしかできない猿山の猿よ』
「私たちだってあのまま何もなくいたのなら、同じようなことをしていた可能性は十分にある。彼ら地上の人々を野蛮な人たちだと決めつけるのは間違いよ。
それに……私たちレムリアの人口で、どうすれば数十億もいる地上人類を支配なんてできるのよ」
『しょせんは烏合の衆、頭さえ潰せればなんとでもなるわ』
「力なんかじゃ、地上人類の心は支配できないわ」
『心なんてどうでもいいのよ。
強大な武力、これさえあればどんな理不尽だってまかり通る!』
その言葉と同時に、海面が揺れ始める。そして現れたのは深海棲艦の軍団だ。
そして……。
『さぁ、見せてあげるわ!
地上人類の一切合切を従わせる強大な武力の具現を!!』
ついに、『ソレ』は現れた。
海中から姿を現したのは長身の男、軍帽を目深にかぶりきっちりと軍服を着こんでいる。
『男』ということからも、彼がレムリア最後の万能戦艦、『フリードリヒ・デア・グロッセ』であることは間違いないだろう。
しかしその姿は……あまりに異様すぎた。
艦娘の艤装とは『纏う』ものである。それは巨大な艤装を背負う戦艦級艦娘であっても変わらない。
しかし『フリードリヒ・デア・グロッセ』の艤装は……あまりに巨大すぎた。190をゆうに超えるだろう『フリードリヒ・デア・グロッセ』が小さく見える。艤装を纏うというより、『艤装の制御ユニットとして艦息が組み込まれている』といった状態だ。
即座に解析を始めた明石が、悲鳴のような声を上げる。
「て、敵万能戦艦の装甲……推定でも180cm級の強度と思われます!?」
「何だと!?」
その信じられないような数値に長門が声を荒げた。それはもはや、羅號の51cm砲を含めたすべての兵装が通用しないと言っていることと同レベルだ。
そして、戦場に声が響く。
「私の名は万能戦艦『フリードリヒ・デア・グロッセ』、祖国レムリアの名の元にすべての敵を破壊する……」
それは抑揚なく淡々とした、決して大きくはない声だ。しかしそれは無視できない威圧感をもって、この場に集ったすべての存在に叩きつけられる。
「これが……あなたの言う強大な武力なの、アブトゥ……」
アネットの衝撃でカラカラに乾いた喉からそんな言葉が漏れる。しかしその言葉への回答は、最悪をさらに凌駕するものだった。
『ふふふっ、何を寝ぼけたことを言っているの?
私の言う『強大な武力』はまだ、こんなもんじゃないわ!』
アブトゥのその言葉とともに、再び海面が泡立ち始める。
「な、なんだ!? まだ何かあるのか!?」
「水中から何かが!?」
そして現れたもの……それは巨大な『何か』だ。形状は寺の釣鐘とも古代の銅鐸とも言えるものである。それが空中に浮遊していた。
「アネット、あれは何だ!?」
叫ぶような長門の声に、震えながらアネットが答える。
「あれは2万年前のレムリア最盛期に存在した、浮遊機動要塞です!?
でも……それは外装は修理できても、肝心の火器管制システムが修理不可能と診断されたはずのもの!?
何故、そんなものを!?」
驚愕するアネットに、アブトゥは鼻で笑って答える。
『確かに火器管制システムの修理は不可能だった。
でもね……それなら他のもので代用すればいいだけの話よ』
するとその釣鐘型浮遊機動要塞の最頂部にフリードリヒ・デア・グロッセが接続された。
「が、合体しただと!?」
「まさか……万能戦艦そのものを火器管制システムの代わりに使っているというの!?」
アネットの驚愕の声に、アブトゥが得意そうに答える。
『その通りよ!
さぁ、見せてやりなさい。世界すべてをひれ伏させる『強大な武力』を!!』
アブトゥのその言葉とともに、釣鐘型浮遊機動要塞からいくつもの
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フリードリヒ・デア・グロッセと、合体した釣鐘型浮遊機動要塞からの攻撃が日本艦隊へと襲い掛かる。
「何が起こった!?」
「敵の光線兵器の攻撃です!!」
揺れる指揮室で筑波大将が怒鳴るように言うと、同じように悲鳴のような声で艦娘が答えた。
本来は直進しかしないはずの光線、しかしそれが釣鐘型浮遊機動要塞から射出された
光線系兵装に対し、艦娘の装甲などほとんど役に立たない。直撃を受けた艦娘は艦種に関わらず装甲を焼き切られ、大破・あるいは轟沈していた。
光線系兵器にとってのただ唯一の例外は羅號の装備する『磁気シールド』と、羅號の開発した『羅式防御電磁膜』という特殊防御兵装である。これらを装備した艦は飛んできた光線を捻じ曲げ、無傷だ。
しかしそんな特殊防御兵装を装備した艦娘に狙いを定めたように、今度は長51cm砲弾が襲い掛かる。羅號の51cm砲を超える攻撃力を誇るその砲弾は『羅式防御電磁膜』、そして艦娘の装甲もろともを吹き飛ばし、轟沈させていった。
「味方の被害甚大です! 同時に敵深海棲艦隊、動き始めました!!」
「『羅式防御電磁膜』を装備した艦娘は光線兵器から艦隊を守るように陣形を組み直せ!
第一から第四までの駆逐艦は煙幕を展開、艦隊との射線を遮り敵砲の命中率を落とせ!」
「全空母隊は至急艦載機を全機発艦! 艦隊の頭を守れ!
他の艦娘は対空攻撃、あの
強力な先制攻撃を受け混乱しかける艦隊を、しかし歴戦の提督である筑波大将と天城大将は即座に混乱を収めるように指示を出す。筑波大将が艦隊の防御の指示をし、天城大将が対空防御と射出された
光線が曲がるという不可思議な現象は光線が
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一方そのころ、戦場では砲火が飛び交っていた。
「深雪スペシャル! いっけー!!」
空の
「やったぜー! 深雪さまの活躍、見てくれた?」
「深雪ちゃん、そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
得意げに戦果を報告する深雪をたしなめながら、同じように空に向かって全力の対空戦闘を展開する駆逐艦娘の白雪。その時、彼女は敵の動きに気付いた。
「あの
「何だって!?」
白雪の言う通り、
「やばっ!?」
「!? 深雪ちゃん、危ない!!」
危険を察知した白雪が、深雪を突き飛ばす。
「うわっ!?」
海面を転がった深雪、そして彼女はその瞬間を見てしまった……。
直上から降りてきた
「えっ……?」
深雪とて今まで凄惨な地獄の戦場を戦い抜いてきた勇猛果敢な駆逐艦娘だ。仲間たちの戦死だってその目にいくつも焼き付けている。しかし目の前の光景はあまりにも異質すぎた。
「おい……嘘だよな?
どこにいるんだよ白雪! おいっ!」
現実を直視できず叫ぶが事実は変わらない。海面のまるで地面に叩きつけたトマトのような赤と、艤装の鉄と油の混じった黒がすべての事実だ。
神話にある、まるで塩の柱にでもなったかのような一瞬に、彼女の戦友は血だまりに変えさせられたのだ。
見れば同じような惨劇が、そこかしこで起こっている。
「くそっ! くそくそくそっ!!」
深雪が、そして他の艦娘たちも狂ったように弾幕を形成していくが
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「分析結果、出ました!
あの
同じように輪の中に強力な重力場を発生させて物体を圧潰させています!」
「羅號くんと同じ重力制御能力ということ!?」
同時刻、攻撃を受けているトラック・レムリア聯合艦隊で、明石の出した分析結果に鳥海が驚愕する。
そして明石と同じように分析作業を行っていた夕張は青い顔で、その分析結果を口にした。
「あの釣鐘型浮遊機動要塞と合体したフリードリヒ・デア・グロッセを相手にした羅號くんの勝率……計算できました。
羅號くんの勝率は……0.7%……です……」
「なにっ!?」
羅號をもってしてもその数字……それがいかに絶望的な状況下を物語る。
『あら、意外にあるのね。
0%以外ありえないと思ってたけど』
それを聞いていたのか、勝ち誇ったようなアブトゥの声が響き、泥のように重い絶望感があたりに漂っていく……。
しかし、その声を撃ち消すように大音響の砲声が響き、空を赤と青の光線が引き裂いた。それは周辺の
羅號の全力砲火だ。それによって一瞬の静けさを得た戦場に、羅號の声が響く。
「それがどうした! そんな確率なんて、ただのハードウェアの差でしかない!!
勝敗を決するのはソフト……内にある『魂』の差だ!」
そのまま羅號は自分の艤装へと声をかけた。
「妖精さん、Z旗を掲げて!」
羅號の指示で、羅號の艤装の妖精さんたちがZ旗を掲げる。そして羅號の声が、戦場に轟く。
「世界の荒廃この一戦に有り!
一層奮励、HEATせよ!!」
その言葉は、絶望に沈みかけていた艦娘たちの魂に火を付けた。各所で低下していた士気が一気に高揚して、艦娘たちの混乱が収まっていく。
そして羅號はフリードリヒ・デア・グロッセと相対する高度まで浮き上がった。
「気取るな。 キサマは東郷ではない」
「あなただってネルソンじゃない。
なら……勝ちの目はいくらでもある!」
フリードリヒ・デア・グロッセの言葉に羅號が答え、左手の砲を構える。
フリードリヒ・デア・グロッセの長51cm砲、そして釣鐘型浮遊機動要塞の光線砲が羅號の砲を向く。
そして……世界の命運を決する、万能戦艦同士の最後の戦いが幕を開けた。
というわけで原作通りの装甲マシマシ100万トン超戦艦のフリードリヒ・デア・グロッセと、OVAに登場したあの浮遊要塞の合体がラスボスとして登場しました。
外見のイメージはネオジオングですかね(笑)
次回もよろしくお願いします。