太陽から零れ落ちた2つの火の玉の結末……その1つ目、フリードリヒ・デア・グロッセの結末から。
モニターを見ていたアブトゥは、驚きのあまり文字通り玉座から転げ落ちていた。
「バカな……こんなバカなことがあるはずがないわ!!
フリードリヒ・デア・グロッセはレムリア最強の万能戦艦なのよ!!
それが、それが
頭を掻き毟りながらヒステリックに叫ぶアブトゥ。
しかし、彼女の時間はあまり残ってはいなかった。
「アブトゥ様、フリードリヒ・デア・グロッセがこちらに落ちてきます!!」
「なんですって!?」
部下の言葉に空を見れば、火の玉と化したフリードリヒ・デア・グロッセがアブトゥの乗る司令艦へ向かって落ちてきていた。
「回避、回避するのよ!!」
「だ、ダメです! 間に合いません!!」
「ッッ!!?」
フリードリヒ・デア・グロッセが司令艦の艦橋の根元辺りに墜落した。その瞬間、フリードリヒ・デア・グロッセの心臓である重力炉が砕け散る。超重力をともなう大爆発に巻き込まれ司令艦が圧潰し、爆発の中に消えていった。
「……」
その様子を、アネットは静かに見つめていた。双子の姉がその野望の末に果てた姿に、アネットは沈黙し心の中で祈りを捧げる。
しばしの後、意を決したように叫んだ。
「これで障害はありません。
一刻も早く中央制御コンピューターを掌握して、戦闘を停止させるのよ!!」
その言葉に、即座にレムリア亡命艦隊が動き出す。
ほどなくして、この戦場だけでなく地球上すべての深海棲艦からの攻撃が止んだ……。
~~~~~~~~~~~~~~~
もう1つの太陽から零れ落ちた火の玉の結末……戦い続けた少年、羅號の結末だ。
バシャァァァン!!
派手な水しぶきを上げながら、羅號は海面へと墜落した。
「らーくん!!」
「羅號っ!!」
「ラゴウ!!」
そしてその場に最初に到着したのは、やはり羅號に恋する3人の少女たちだった。
彼女たちは仰向けに倒れた羅號の姿を一目見て、言葉を失う。
装甲・兵装、そのすべてがすでに意味をなさない鉄くずへと姿を変えていた。羅號の象徴ともいえるドリルも、半ばから折れてしまって切っ先がない。最後のプラズマ弾の影響だろうか、左手から左足にかけた左半身が無残に焼け爛れている。着水の際にかぶった海水のおかげか炎は消えていたことが唯一の幸運だ。
『満身創痍』などという言葉では生ぬるい、命のすべてを賭けて戦い、出し尽した姿がそこにはあった。
「らーくん!!」
「羅號っ!!」
「ラゴウ!!」
少女たちが再びその名を呼ぶが、羅號からの返事はない。そして……ブクブクという不吉な音とともに、羅號の身体が沈み始めたのだ。
「!? いけない!!」
それに気付いたローは即座に潜航し、水中から羅號を海上に押し上げようとする。朝潮と『ちぃ』も羅號の艤装へとワイヤーを括り付けると、機関出力を全開にして羅號を引っ張りあげようとする。
だが羅號の沈降は止まらない。その重量に負けて支えるローと朝潮、そして『ちぃ』が海中へと引きずり込まれそうになっていた。しかしそれでも、3人は決して手を離さない。
そんな中だ。
「私もやるぞ!!」
長門が、鳥海が、夕張が、明石が、吹雪が、満潮が、秋雲が!
トラック艦隊の全員がたどり着き、3人と同じように羅號を引っ張りあげる作業に加わる。
いや、それだけではない。続いてレムリア亡命艦隊が、日本艦隊が、そして先ほどまで激しく戦っていたはずの深海棲艦隊までもが次々とその作業に加わっていく。
変化は海上だけではない。ローの元には同じように水中から羅號を押し上げようと、潜水艦娘と潜水艦型深海棲艦たちが集結していた。
艦娘と深海棲艦が手を取り合う奇跡の光景……その目的はただ一つ、この戦争を終わらせ、静かな平和の海を取り戻した、たった1人の少年に生きて欲しいという願いだ。
それを理解した3人は、溢れる涙をそのままに再びその愛しい名を呼んだ。
「らーくん!!」
「羅號っ!!」
「ラゴウ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~
「……」
羅號はどこか、暗い海の上を漂っていた。生命を感じられない、光の見えないその暗い海に、羅號は『これが臨死体験ってものなのかな?』と自然と状況を受け止めている。最後のあの攻撃が自爆同然だということは自分でもよくわかっていたからだ。
だが、あの瞬間の判断は間違っていなかったと思うし、羅號には後悔はない。だから、その心は驚くほど落ち着いていた。
しかし、そんな生命の感じられない海に突然、羅號は何かの気配を感じ取る。羅號がその方向に振り向けば、そこには2つの人影があった。
かたや軍服を着た男性、そしてその傍らにいるポニーテールに日傘をさした女性の姿。羅號には彼らが何なのか、すぐにわかった。
「お父さんにお母さん……」
羅號の言葉に、その影たちはゆっくり頷く。そして声が響いた。
『よく頑張りましたね、羅號。
あなたは私の願い通り、静かな平和の海を取り戻してくれました……』
「お母さん……」
母からのねぎらいの言葉に、羅號は目頭が熱くなるのを感じる。
『でも……感心しませんよ。 女の子を泣かすのは!』
「えっ?」
『メッ!』とでも擬音のつきそうな様子で母である大和に言われ、羅號は何のことかと首を傾げる。
『ほら、聞こえませんか?
あなたを呼ぶ、その声が……』
言われて羅號が耳を澄ますと、遠く彼方から、確かに自分を呼ぶ声が聞こえた。その声の主を、羅號は知っていた。
「ろーちゃん……朝潮……『ちぃ』ちゃん……」
自然と、羅號の口から少女たちの名前が漏れる。同時に、羅號の胸に彼女たちに会いたいという想いが膨れ上がった。その様子を見て、大和は満足そうに頷く。
すると、それまで黙っていたその隣の提督が、口を開いた。
『俺は……数限りない悔いを残した。
お前を抱き上げられなかった……お前の成長を見守れなかった……あの戦いに勝てなかった……あの戦いで多くの
どれもこれも、大きな悔いだ。
だがその中でも最大の悔いは……俺の死によって大和を、俺を想ってくれた女を泣かせてしまったことだ。
羅號……自分を想ってくれる女を泣かせるな。
それが俺ができなかった、男としての正しい生き方だ……』
「お父さん……」
それは見るからに寡黙そうな彼の、息子に宛てた精一杯の言葉だったのだろう。それが分かる。
やがて、羅號は2人に頷いた。
「うん……僕は帰るよ、みんなのところに!」
その答えに2人は満足そうに頷くと、その身体が光りだし、暗い世界に一条の光が伸びていく。
『羅號、お前の人生という航海はまだ始まったばかりだ。
悔いを残さないように精一杯、世界という名の海を駆け抜けろ』
『生きなさい、羅號。
私たちが灯台ように、あなたをあの娘たちのもとに導きましょう。
あの娘たちのいる場所に、あの世界に帰りなさい』
「うん……。
お父さん、お母さん……またいつか、僕の航海の果てで……」
そう敬礼すると、クルリとターンした羅號は、光の指し示す方向に向かって進み続ける。
そしてその果てには……。
~~~~~~~~~~~~~~~
「……零式重力炉、起動」
ポツリとその言葉が聞こえた瞬間、今まで海中へと引きずり込まれそうだった重量がゆっくりと軽くなっていく。それは羅號の船体の浮遊システムが起動したということだ。
つまり……。
「らーくん!!」
「羅號っ!!」
「ラゴウ!!」
ローが急速浮上で海面まで飛びあがり、すぐに朝潮と『ちぃ』が羅號のそばに駆け寄ってくる。
すると、羅號がうっすらとその目を開けた。
「ろーちゃん……朝潮……『ちぃ』ちゃん……」
そこまでが限界だった。
3人がもう耐えきれないといった風に、泣きながら羅號に抱きつく。
そんな3人の頭を撫でようとするが、そこで左手が焼けてまともに動かないことに初めて気付き、ため息をつきながら動く右手だけで3人の頭を順に撫でた。
「羅號……よく、頑張ったな」
「長門ママ……この3人のおかげだよ。
僕を呼ぶ声が聞こえて……会いたいって思ったから……」
図らずも出撃前にガスコーニュの言っていた通りだ。土壇場で生と死を分けるのは強い想い……彼女たち3人の声が自分を生かしてくれたのだと羅號は感じていた。
その答えを聞いて微笑みながら長門は頷くと、3人を押しのけるような真似はせず、優しく羅號の頭を撫でる。
「……今、お父さんと大和お母さんに会いました」
「……2人は何か言っていたか?」
「自分を想ってくれる女の子を泣かせるな、って。
それと……人生という名の航海を、精一杯悔いのないように生きなさい、って……」
「そうか……あの2人らしい言葉だ。
羅號もその言葉を守るために頑張らねばな」
「うん……」
そこまで言うと、羅號は顔を歪めてもぞもぞと動き出す。
「3人ともごめん……これ以上やってると多分、僕、沈むから……」
そこまで来て、その場にいた全員がやっと羅號が普通なら10回は沈んでもお釣りがくるような酷い大けがをしていることを思いだした。3人が羅號の身体を支え、長門が後ろから壊れかけの艤装を支えながら、支援艦の元へとむかってゆっくり進む。
その間、その海域にいたすべての艦娘と深海棲艦がその光景を敬礼とともに見送っていた。
こうして、20数年にもわたる長い長い戦争は、ついに幕を閉じたのであった……。
羅號くん生存大勝利エンドとなります。
さすがにここまで来て相打ちには、ねぇ。
羅號くんはダメコン女神なしでも、外側に3つも女神(ヒロイン)搭載ということです。
明日にはエピローグを投稿し、この作品は完結となります。
次回もよろしくお願いします。