艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

40 / 40
結末 タノシイウミのおとぎ話(後編)

 私があの『伝説』に出会ったのはあの戦争最後の大決戦、『轟天作戦』のさなかだった。

 

 右を見ても左を見ても、どこを見ても地獄の広がっていたあの戦場……私とてあの絶望的な戦いである『タイダルウェブ』を生き延びた、当時すでに古参と言われた艦娘だったし、地獄の戦場など慣れっこのはずだった。

 しかし、そんな私も突然隣にいた戦友が地面に叩きつけたトマトのように潰されるような戦場は見たことはない。飛んできた光線で、まるでバターか何かのように戦友が溶け千切れるような戦場は見たことがない。

 あれは私の初めて見る本物以上の地獄の光景だった。戦場にいながらそんなことを客観的に考えられたのは、当時私が最新型の『羅式防御電磁膜』を装備していたので心に余裕があったせいか、心がマヒしていたのか……恐らく両方だったと思う。

 とにかく地獄の戦場、私は『羅式防御電磁膜』のおかげで防御力は上がっていたものの、あの場で死ぬか生きるかを分けるには誤差程度の効果しかない。その証拠に、あの戦いでは多くの私と同じ『羅式防御電磁膜』を装備していた艦娘が沈んでいた。だから、私にも当然のように『死』がすり寄ってきた。

 

 撃ち漏らした円環(リング)が迫る。私に迎撃の手段はなく、頼みの『羅式防御電磁膜』も連続稼働で冷却停止中。戦友のようにトマトのように潰れる未来を幻視し、それは瞬きの後に現実になる……そんな時だった。

 円環(リング)を見覚えのない航空機が破壊し、私の目の前を高速で通り過ぎた。そしてその機体を目で追って空を仰ぎ見た先に……私は初めて『伝説』を目撃したのである。確かに当時すでにいろいろ噂は聞いていたものの、実物を見たのはあの戦場でが初めてだった。

 

 そして……私は一瞬で『伝説』に魅せられた。

 小さな身体で雄々しく強大な敵に一歩も退かぬ彼の戦いが、言葉が、魂が、そのすべてがあの戦場に伝播し、私たち艦娘の心を高揚させたその瞬間を私は今でも忘れはしないし、生涯忘れることはないだろう。

 

 やがて地獄は終わり、戦争の終了とともに夢にまで見た平和の海がやってきた。そうなったときに、私は抗えない、猛烈な欲求に襲われたのだ。彼のことを、あの『伝説』のことをもっと知りたい、と。

 私が『青葉』の艦娘であったのも関係あるだろうが、あの火のついたように燃え上がる好奇心と欲求は、どうあっても抑えられなかった。

 

 軍縮の折、私は艦娘を退役し憧れていた記者としての道を選択した。そして私は元艦娘という経歴もあり運良く、『伝説』についての特集記事の取材を任されることになったのである。

 私はこれに狂喜し、全力を傾けた。元艦娘という特権をフルに活用し、軍内部の知り合いたちすべてに声をかけ、コネを使って大量の当時の関係者へのインタビューに成功した。

 ところがだ、『伝説』の素顔を知る当時の関係者からの証言はのべ数十時間にも及ぶ膨大なものであり、とてもではないがすべてを載せていては紙面がいくらあっても足りない。情報を大幅にカットし、本当に表面だけを摘まむようにした程度で予定された紙面はいっぱいになってしまった。

 

 しかし私はこの取材を通して『伝説』と言われる彼の、その等身大の姿を見た。

 雄々しく敵を蹴散らす、決して手の届かないほど遠くにいる『伝説』としてだけではない、愛し愛される当たり前の1人の人間、『羅號』という名の少年としての姿を見た。

 この姿を私だけが知っていていいものではない、もっと知らしめるべきであると私は思ったがその手段はなく、悶々とした日々を送っていた。そんな思い悩む私に、私がお世話になっている人が「自分で本にしてみるのはどうか?」と言ってきたのである。目から鱗とは、まさにこのことだった。

 

 そしてその言葉通りに私が執筆したものが本書である。

 今でも制圧派残党であるテロ組織の鎮圧や、アメリカを中心とした国家からのレムリアへの報復戦争の回避と、彼やその周りにいるものたちは現在進行形で『伝説』を創り続けているが、そんな彼の素顔の一部だけでも本書を通して知ってもらえ、また少しでも身近に感じて貰えたのなら、著者としてこれに勝る喜びはない。

 

 最後に、ある人は彼のめぐった物語を「まるでおとぎ話のようだ」と称した。

 母の愛の奇跡によって産まれた特別な、そして当たり前の少年が、大いなる力で女の子たちを救い、傷付きながらも戦争という悲しみの連鎖を終わらせる……なるほど、確かにまるで『おとぎ話』のようだ。

 ならば彼の物語の一部を綴った本書の最後の言葉は、これ以上にふさわしいものはないだろう。

 

 

 めでたし、めでたし

 

 

 

――元『青葉』の艦娘、青柳葉子著『万能戦艦の航路 轟ケ天ニ』のあとがきより抜粋

 

 

 




これにて約2年連載した『艦隊これくしょん-轟ケ天ニ-』は完結となります。
ここまで読んでくださった方に、百万の感謝を。

艦これで大和でない病からの大和祈願として、そして当時ハーメルンでの轟天号や羅號といった海底軍艦の活躍する小説がまるでなかったなかったことから書き始めた本作でしたが、いかがだったでしょうか?
今では大和も着任してくれて、ハーメルンでも海底軍艦の活躍する作品をちらほらと見かけるようになり、私の作品を書いた理由も達成できました。

それと、本作では艦これ小説であまりヒロインを張ることのないろーちゃんや朝潮をピックアップしています。
ほっぽちゃんはまぁまぁ見るんですが……正直、ろーちゃんや朝潮ヒロイン小説には見覚えがなく、『無いんだったら俺が書く』のマイノリティー精神でこの2人をヒロイン化しています。まぁ筆者の趣味の方が大きい理由ですが(笑)

さて、今回で羅號くんたちのお話しは一応の完結ですが、一応コラボ企画などの話をもらっていますので、またどこかで羅號くんたちの活躍を見せれたらいいなと思います。


最後に、ちょっとした宣伝を。
轟天号と羅號の艦これ小説を始めました。本来なら本作完結後の新連載として投稿予定だった作品ですが、少々早く投稿してしまった作品です。
こちらも最高に可愛いのにヒロインをやってる小説を見覚えがない村雨さんがヒロインと、マイノリティー精神全開となっていますので興味があれば是非。


では、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。