艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

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朝潮編の続きです。
一応ですが注意です。

この朝潮は、この作品だけの朝潮です。
皆さんの朝潮は真面目で素直ないい子なので可愛がってくださいね。


偵察 その道を探せ 中編

 そして鳥海を旗艦としたサイパン調査艦隊はトラック泊地から出撃した。

 最重要艦ともいえる明石を守る形の輪形陣で、ゆっくりと艦隊は進む。

 

「えへへっ……らーくん♪」

 

「だめだよ、ろーちゃん。 任務中なんだから私語は慎まなきゃ」

 

 移動中も何かと楽しそうに話しかけてくるローを、羅號はやんわりとたしなめるがローはニコニコ笑いながら改める気配はない。

 

「……」

 

 そのたびに何故か朝潮から、物理的な効果を持っているんじゃないかと錯覚しそうなほどの視線を浴びることになり、羅號の胃がキリキリと痛む。

 満潮は我関せずといったスタイルを貫き、無言のままだ。

 その様子に、このサイパン調査艦隊の旗艦である鳥海は頭を抱える。

 

「まさかたった1日でろーちゃんが羅號くんにここまでベッタベタになるとは……」

 

「まぁいいじゃないですか、鳥海さん。

 私としては小さい弟に可愛い彼女ができたような、ほっこりした気持ちですよ」

 

 もう一方のトラック首脳陣でもある明石は笑いながら、慰めるように鳥海の肩をポンと叩く。

 

「そのほっこりした気持ちというのは私も同感ですけど、問題は……」

 

 そう言って鳥海は朝潮をチラリと見た。

 相変わらず朝潮はどこか敵意のようなものが滲み出た視線で羅號を見ている。

 

「あの子はきっちりとしていて、確かに仲間の素行には口うるさいタイプだけどそれは仲間を思ってのこと。間違ってもあんな風に仲間に敵意なんて持つ子じゃないわ。

 どう考えても朝潮ちゃんらしくないわね」

 

 鳥海としてもしっかり者の朝潮は自分と性格が似ていることもあり、目をかけて可愛がっていた駆逐艦娘の1人だ。

 その朝潮の様子が明らかにおかしいことに面喰ってしまう。

 

「まぁ、朝潮ちゃんのことは……」

 

「知っているの、明石?」

 

 ポリポリと困った顔で頬を掻く明石に、鳥海が視線を向けた。

 

「……私も一応、工作艦です。艦娘の身体に密接に関わる仕事上、機械整備以外にも軍医の真似事くらいはできますからね。

 満潮ちゃんからも相談されて、大まかな事情は聞いていますよ」

 

「それなら……」

 

 何か対策を、と言いかけた鳥海だったが明石はそれを首を振って否定する。

 

「朝潮ちゃんのことは、あの日の戦いでのトラウマの話です。

 こればかりは時間をかけて、ゆっくりと自分の中で整理をつける必要があることですから……」

 

 今は下手につつかず経過を見守るしかないと言う明石に、鳥海も思うところはあるものの納得せざるをえない。

 事実、今のトラック泊地にはトラウマ克服のためのカウンセリングなど悠長にやっている余裕はない。

 それに鳥海としては、可愛がっている朝潮のことを信頼していたのだ。

 真面目でしっかり者である朝潮のことだから必ず自分で立ち直ってくれると、ある意味では楽観視していたのである。

 

 しかし、それは鳥海の甘い判断だった。

 しっかりしたものほど、精神的な病にはかかりやすい。その責任感から、どうしても過去を風化させることができないからだ。忘れられぬつらい過去は、棘のように痛みを発し続ける。

 そして、突き刺さった棘というものは処置しなければ、ゆっくりとその周辺を腐らせていく。それは身体にせよ、心にせよ同じことだ。

 心に深く突き刺さったその棘は、ゆっくりと朝潮の心を腐らせていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「水上レーダーに感! 敵です!!」

 

 羅號の高性能なレーダーが敵の姿を捉え、艦隊に緊張が走る。

 

「羅號くん、接敵までの時間は?」

 

「30分もあれば、視認距離だと思いますけど……」

 

 その報告に、鳥海はしばし考える。

 こちらには明石がいるし、なるべくなら戦闘は避けたいのが本音だ。

 しかし、足の遅い明石に合わせて移動している以上、逃げ切れるかどうかは微妙である。

 ならば、明石の護衛を残してこちらから仕掛けれるというのも一つの手だ。先手を取って一当てして敵を退かせることができれば明石の安全が保たれる。

 鳥海がそう考えるその時だ。

 

「朝潮、吶喊します!!」

 

「!?

 待って、朝潮ちゃん!!」

 

 鳥海が命令を出すより早く、朝潮が敵艦隊方面へと全速力で駆け出していた。

 あの命令に忠実、陰で『忠犬』などと揶揄されていた朝潮が命令違反同然に飛び出していく……その行動が鳥海には信じられない。

 

(本当にどうしたの、朝潮ちゃん!?)

 

 あまりに計算外の出来事に、鳥海はしばし唖然としてしまう。そして情けないことに鳥海が我を取り戻したのはもう1人の命令違反者が出てからだった。

 

「1人じゃ危ないよ! 僕もいきます!!」

 

「羅號くんまで!?」

 

 旗艦である鳥海の指示を待たずに、朝潮の後を羅號が追う。

 

「もう、私の計算が!!」

 

 鳥海は苛立たしげに言うと、改めて指示を出した。

 

「敵に関しては2人に任せます! ほかはこのまま明石の護衛を続行!!

 対空・対潜警戒を厳とせよ!!」

 

 実力としては、羅號もいる以上敵にあたる分には十分すぎる。鳥海の指示に従い、明石を守る形で残った艦娘たちは周囲への警戒を強めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 一方、敵に向かっていった朝潮は主機の出力を一杯にまで高めて一気に敵へと接近していく。

 

「敵艦隊見ゆ!」

 

 敵の構成は軽巡ホ級に駆逐イ級とロ級が各2隻という、典型的な哨戒部隊である。

 

「肉薄するわ!!」

 

 朝潮はその加速のままに砲を連射する。

 その砲撃は敵艦に当たることは無かったが、その砲撃に驚いたのか隊列が乱れた。

 完全に奇襲に成功した朝潮はそのまますり抜けざまに酸素魚雷を放つ。酸素魚雷の直撃を受けた駆逐イ級の1隻が爆炎を上げて海へと沈んで行った。

 

「まず1つ!」

 

 朝潮は大きく旋回し、酸素魚雷を再装填しながら呟く。

 そのころになると流石に最初の混乱から脱したらしい敵艦隊は隊列を組み直して朝潮へと砲撃を始めた。

 

「くぅ!?」

 

 その集中砲火は直撃こそないものの、かすった砲弾が朝潮の綺麗な肌に傷を創っていく。しかし、朝潮はそれを気にせず突撃を続けた。

 朝潮の次の狙いは駆逐ロ級だ。一見無謀に見える正面突撃の朝潮に、駆逐ロ級から真っ直ぐに魚雷が放たれる。

 正面からの魚雷の直撃コース、しかし朝潮は突撃をやめない。かわりに、砲と機銃が海面に向けて大量に連射する。

 そのうちの一発が魚雷に当たり、魚雷が爆発して巨大な水柱が上がった。

 その水柱を突っ切り、朝潮が駆逐ロ級に格闘距離まで肉薄する。そして右手の砲がクルリと旋回、砲身の反対に位置する防盾部分をナックルガードがわりにして駆逐ロ級を殴りつけた。

 その一撃にたまらず態勢を崩す駆逐ロ級。再び砲が旋回し射撃体勢をとると、そのまま至近距離で砲を放つ。

 駆逐艦の口径の小さな砲とはいえこの至近距離だ、その砲弾は容易く駆逐ロ級の内部を蹂躙し水底へと叩き込む。

 

「次!!」

 

 朝潮は次の敵へと視線を向けるが、朝潮とて無傷ではない。

 魚雷の爆発による衝撃波は朝潮にもダメージを与えている。その肌にはところどころ傷がつき、血が滲んでいた。

 しかし、朝潮は自分の怪我も何もかも、まるで度外視しているように敵だけを睨みつけている。

 そして、そのまま再び駆けだそうとしたその時だった。

 

「朝潮さん!!」

 

 ヒュー、という飛翔音とともに砲弾が敵艦隊に降り注いだ。やってきた羅號の50.8cm主砲12門による一斉射撃である。

 その正確な射撃は、一瞬にして駆逐イ級と駆逐ロ級を仕留めた。軽巡ホ級は直撃こそ免れたものの船尾あたりに砲弾がかすったことで舵にダメージを受けたのか、ヨタヨタとした動きだ。その軽巡ホ級に間髪いれずに朝潮が酸素魚雷を放つ。酸素魚雷の直撃を受け船体が真っ二つになり、軽巡ホ級は爆発を繰り返しながら沈んでいく。

 敵艦隊は全滅し、海上に静寂が戻った。

 

「くぅ……」

 

「大丈夫、朝潮さん!?」

 

 戦闘が終わると、やはりそれなりのダメージがあるのか朝潮は膝をつく。

 それを羅號は慌てて支えようとするが……。

 

「触らないで!!」

 

 朝潮は支えようとした羅號を払いのけるようにして立ち上がった。

 

「朝潮さん……」

 

 明らかな拒絶に、羅號は目を白黒させる。

 そんな羅號を無視するように、鳥海たちに合流しようと進み始める朝潮。そんな彼女は、羅號の隣を通り抜けざまに言った。

 

「触らないで。

 私は……あなたが嫌いです」

 

 睨み付けるようにして朝潮はその言葉を絞り出す。

 そんな彼女に、羅號はどうしていいのか分からず言葉を失うのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 戻ってきた羅號と朝潮を迎えたのは、怒り狂った鳥海からのビンタだった。

 

「あなたたち、今の状況を分かってるの!

 こんな時に勝手な行動は自分だけじゃなく、仲間の危機を招くことだってくらいわかるでしょ!!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 文字通り鬼のように怒る鳥海に、羅號はしゅんと小さくなりながら謝る。

 

「申し訳ありませんでした。 仲間の仇と思うと自分を抑えきれませんでした。

 以後はこのようなことがないように精進します」

 

 一方の朝潮は、叩かれた頬を気にすることもなく敬礼をしながら言い放った。

 

「くっ!」

 

 その明らかに反省の色の見えない朝潮にもう一発と手を振り上げる鳥海だが、それを明石が背後から羽交い絞めにして止めた。

 

「落ちついてください、鳥海さん!

 今は任務の真っ最中ですよ。 まずは任務を完遂することのほうが先決です!」

 

「……わかったわ」

 

 その言葉に落ち着きを取り戻した鳥海は振り上げた手を降ろすと、ずれたメガネを直す。

 

「……処分や罰についてはこの任務の後にします。

 今は引き続き、任務に集中しなさい」

 

「了解です」

 

 敬礼で朝潮は答えると、鳥海に背を向けて艦隊の位置に戻る。

 

「本当に……どうしちゃったの、朝潮ちゃん?」

 

 それは、本当に朝潮を心配しての鳥海の言葉だ。しかし、その言葉を聞こえていないかのように朝潮は去っていく。

 

「……らーくん、痛くない?」

 

「うん、大丈夫だよろーちゃん」

 

 叩かれた頬を心配するようにローが言ってくるが、羅號はそれに手をひらひらとさせ大丈夫とジェスチャーで返すが、その視線は鳥海と、その向こうの朝潮の背中に注がれていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 それ以降は敵との接触もなく、艦隊は無事にサイパンの中継基地建設予定地に辿り着いた。

そして、そのサイパンでの収穫は、大きなものだった。放置された各種資材と、そしてその資材の輸送に使用していたのか無傷の『超大発』が2隻見つかったのである。

 『超大発』は遠征任務や物資揚陸の際に活躍する『大発』の同種の揚陸艇だ。『大発』の上の『特大発』、そしてそれより巨大なものがこの『超大発』なのである。

 これから北の単冠湾(ひとかっぷわん)泊地までの長い旅には中継地点はない。そのためには油や弾薬といった資材を持ち、海上や周辺の島で補給しながらの移動になる。その輸送用の即席イカダやドラム缶を今夕張たちは用意しているだろうが、『超大発』はその一助になるだろう。

 さらに、ここから北方に繋がる詳細な海図も発見された。小さな無人島なども記されており、旅の役に立つだろう。

 そして何より嬉しいことに、作業員のためのものか纏まった量の食糧が発見されたのである。あの大敗によって食糧庫が焼かれ、基本缶詰などの保存食しか食べて来なかったトラック泊地の面々にとってはごちそうの山だ。

 夜間移動は敵潜水艦などで危険なためサイパンに一泊することを決めた艦隊は、その食糧の一部を使って、久しぶりに温かいご飯にありついた。

 

「らーくん、おいしいね」

 

「うん」

 

 デザートとして一缶だけ開けた桃缶の桃を、満面の笑顔で食べるローに羅號は頷くがその視線の先に朝潮の姿を捉える。

 朝潮はなんの感傷も抱いた様子は無く、ただ黙々と食事をするだけだ。

 昼間のこともあり食事はローと羅號以外は基本無言、明石や鳥海も出来る限りローと羅號の話に乗って何とか艦隊の雰囲気をよくしようと努めるが、朝潮と満潮だけは乗ってこない。微妙な空気のまま、艦隊は交代で身体を休めることになった。

 そして羅號は今、見張りをやっているのだが……。

 チラリと羅號が隣を見れば、見張りの相棒役は満潮だった。その顔からは、何を考えているのか窺い知ることはできない。

 羅號も何とか話はできないものかと話題を探すのだが……悲しいかな、羅號にはそんな話題は思いつかなかった。

 そうして羅號が話を諦めかかったその時だった……。

 

「……昼間は、運がなかったわね」

 

「えっ?」

 

 何と、満潮の方から話をしてきたのだ。予想していなかっただけに、羅號からは気の抜けた返事が出てきてしまう。しかし満潮は気にした様子もなく続けた。

 

「昼間の戦いよ。 朝潮が心配で付いていったんでしょ?

 なのに褒めても貰えず感謝もされず、貰ったものは鳥海さんのビンタだけ。

 運がないわね」

 

「別に、褒められたくてやったわけじゃないから……」

 

 そう小さく呟く羅號。そして、再び沈黙がおりる。その沈黙を破ったのはまた、満潮だった。

 

「朝潮は……私とは違うわ」

 

「え?」

 

「私は捻くれてて助けてもらったお礼の一つも言えないやつけど、朝潮は違う。

 しっかり者で礼儀正しくて……少なくとも助けてもらったお礼くらい素直に言える、物凄くいい娘なのよ。

 でも……朝潮はあの戦いで、あんなことがあったから……」

 

「あんなことって?」

 

 そう聞き返す羅號に、満潮は息を一つつくと星を仰ぎ見た。

 

「……そうね、あんたには知る権利くらいはあるわよね。

 いいわ、話してあげる。

 あの戦いで、朝潮に何があったのか……」

 

 そして、満潮はあの戦いで起こったことを語りだした。

 

 あの戦い……大和たちと敵に対して最後の突撃を行った戦いで、朝潮は満潮、そして僚艦であった大潮・荒潮とともに戦いに臨んだ。

 戦いは熾烈を極め、敵戦艦からの主砲の集中砲火にて大潮が轟沈。そして、荒潮はその胸を貫かれる瀕死の重傷を負う。

 肺を貫いたその攻撃はその溢れる自身の血で、海上でありながら荒潮は溺れる。そしてその溺死のジワジワとした苦痛に耐えかね、一番の親友である朝潮に介錯を頼んだ。

 

「朝潮さんは……」

 

「……ええ。 したわよ、荒潮の介錯」

 

 羅號の問いに、満潮は頷いた。

 荒潮の介錯を終えた朝潮は、満潮とともに最後の突撃をしようとしていた。自身の逃れられない『死』を感じながら。

 しかし……。

 

「そうよ。 あんたが、現れた……」

 

 大和と武蔵が沈み、代わりに生誕した羅號が朝潮が突撃するはずだった敵艦隊を殲滅していたのだ。

 降って湧いたような幸運によって、九死に一生を得た朝潮と満潮。しかし、朝潮はその幸運を喜ぶことができなかった。

 

「もしもあんたがあと5分早く現れていたら荒潮が、10分早く現れていたら大潮も助かっていたかもしれないのよ」

 

「……」

 

 満潮の話に、羅號は無言だ。その羅號に満潮は肩を竦める。

 

「もちろん、無茶苦茶なこと言ってるのは分かってるわ。

 『あと10分早く産まれてこい』なんて、理不尽極まりないふざけたタワゴトだっていうのは重々承知しているわよ。

 朝潮も……それは頭では理解してるはず。

 ただ大潮の件はどうしようもなくとも、荒潮の件は……朝潮が直接手を下したのよ。

 たったの5分間……朝潮が何かのはずみにたった5分間だけ荒潮の介錯をためらっていれば、あんたがやってきて敵は倒され、荒潮は助かったかもしれない……その『もしかしたら』という思いで朝潮は自分を責めて、理不尽にあんたを嫌って……はっきり言って今の朝潮の心の中はグチャグチャよ」

 

 そこまで言うと満潮はフッと苦笑した。

 

「本当はね、もし仮に朝潮が介錯をためらってあんたが敵を倒してくれたとしても、荒潮は助からなかったわ。

 当然よね、助けるために必要な『メディカルポッド』はあの時全部壊れてたんだもの。明石さんと夕張さんがニコイチで修理が終わるまでなんて、荒潮はとても保たなかった。

 だから朝潮が介錯しようがしまいが、あの傷を受けた段階で荒潮が死ぬのは避けられなかったのよ。

 だから荒潮の件に、朝潮に罪は無いし判断は間違っていなかった。

 それが正しい、まさしく『正論』よ。

 でもね……時に『感情』は、『正論』を無視する。

 朝潮は荒潮に手を下した自分を責めて、そんな自分が今でものうのうと生きていることが許せない……」

 

 そして、満潮はゆっくりと羅號を見る。

 その満潮の顔には、『表情』がなかった。喜怒哀楽すべての感情が抜け落ちてしまったような、言うなれば『無色』の顔。

 その顔に、羅號は思わずゾクリとしてしまう。

 

「朝潮があんたのことを嫌ってる本当のところはね、『荒潮に手を下した自分が死に損なった』からなのよ。

 荒潮に手を下した自分が受けるはずだった『死』という罰を、あんたがその力でぶち壊した。

 今日の戦い方や態度を見てもわかったでしょ?

 朝潮はね……死にたがってるのよ」

 

 親友の介錯を行い、それでもその親友が生き残ったかもしれない『もしも』の可能性を思い、自らの死を望むようになった……朝潮の話を聞き、羅號は言葉を発することができない。

 そんな羅號に、満潮は続けた。

 

「だからね、もし今度朝潮が無茶なことをやり始めたら……手を出さないであげて。

 望み通りあの娘を……死なせてあげて」

 

「そんな!?」

 

 満潮の言葉に、羅號は声を上げた。

 

「満潮さんは朝潮さんの友達なんじゃないんですか!

 なのに、なんでそんな……」

 

 羅號の非難じみた言葉に、満潮の『無色』の表情に感情の色が灯る。それは怒りの色だ。

 

「友達よ! 友達に決まってるじゃない!!

 あんたなんぞ及びもつかないくらい、一緒に地獄を潜り抜けてきた大切な友達よ!!」

 

「だったら……」

 

「だったら……だったら何ができるって言うのよ!!」

 

 満潮の瞳からツゥ、と涙が零れた。

 

「何度だって朝潮には言ってやったわ! あんたは悪くない、荒潮だってあんたを恨んでるはずない、って!!

 でも……それでも朝潮の心を軽くしてあげることは出来なかった。

 私じゃ……何も出来なかったのよ!」

 

 その姿に、羅號は何も言えない。

 

「生きてさえいれば……そう言うかもしれない。

 でも生きてその先にあるのが地獄じゃないと、誰が言えるの?

 自分で自分を責め続けて心を壊していく日々なんて……まるっきり地獄じゃない。

 あの娘が望むなら……それが本当に朝潮が楽になれる道なら……」

 

 そう言って満潮は泣き崩れる。

 満潮とて、朝潮に立ち直って欲しいと心から思っているのだ。

 しかし自分では何もできないもどかしさに苦しみ、その果ての結論だったのだろう。

 

「……」

 

 涙を流す満潮の苦悩を知り、羅號は何も言うことができなかった……。

 




ひたすら長くなった朝潮編。
次回に続きます。
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