艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

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朝潮編のラストです。


偵察 その道を探せ 後編

「では、全員トラック泊地へと帰還します」

 

 翌日、調査を終えたサイパン調査艦隊はトラック泊地への帰路についていた。

 結果は上々だ。各種資源1000ずつほどを確保できたし、それの輸送を容易にする『超大発』を2隻発見、さらにサイパンから北方に向けての詳細な海図資料が確保できた。

 資料では北方からの中継地点の建設を多数考えていたようで、その候補となる島をいくつかピックアップしている。

 もちろんただの候補地で別段中継拠点が建設されているわけではないが、北方までの旅の一時的な宿泊地として利用できるだろう。

 艦娘といってもずっと海上にいるわけではない。そこはやはり、『艤装を装備した人間』なのである。海上で立ったまま休めるわけでもなく、休憩のための島の位置の確認はやはり重要だった。

 そして何より不足していた食糧が確保できたことは大きい。

 保存のきく乾パンはもとより、米・干し肉・ラムネといった飲食物、缶詰のフルーツなどもある。さらには缶詰のパンケーキという甘味までそれなりに確保できたのだ。

 

「これで普通にやれば2ヶ月、節約すれば3ヶ月近くは保ちますね」

 

 物資管理をし、食糧の少なさに危機感を感じていた明石はホッと胸を撫で下ろす。

 それらをドラム缶や発見された『超大発』に満載して曳航する。その量は多く、輸送任務経験豊富な駆逐艦である朝潮や満潮のみならず、ローですら運貨筒を引いて物資輸送を行っているくらいだ。

 あとはこれらの物資を、無事にトラック泊地へと持ち帰れれば任務完了である。

 しかし往々にしてそういう時ほど、ことはうまくいかないものだ。

 

「……!? ソナーに感!

 敵の潜水艦です!!」

 

 羅號からの報告に、艦隊に緊張が走る。

 

「羅號くん、敵潜水艦の位置は分かりますか?」

 

「はい……」

 

 艦隊は今、前方に島を見る形で進行中だ。

 羅號の高性能なソナーによれば、進行中の艦隊の側面から数隻、そして正面の島に待ち伏せる形で数隻がいるらしい。

 

「……」

 

 今は艦隊は燃料・弾薬などの可燃物を満載している。

 幸いにして羅號のおかげで、それなりに距離がある状態で敵潜水艦を捕捉できた。雷撃距離にまで接近される前に撃沈するようにこちらから迎撃に出たほうがいいだろう。

 そう考えた鳥海はその指示を出そうとしたその時だった。

 

「朝潮、先行します!」

 

 言うが早いか、朝潮は曳航していたドラム缶を切り離すと艦隊の前方、島の方へと加速していく。

 

「あの娘また独断専行を!?」

 

 止める間もないその行動に、鳥海は苛立たしげにガリガリと頭を掻き毟った。

 だが、他の全員が自分に視線を集中させ指示を待っているのを悟るとすぐに冷静さを取り戻して指示を出す。

 

「……羅號くん、あなたのソナーなら、敵の位置が高精度でわかるでしょ。

 満潮ちゃんと一緒に艦隊側面からの潜水艦を叩いて」

 

「いいですけど……朝潮さんはどうするんですか?」

 

「向こうはまだ距離があるわ。

 まずは近くから。 艦隊の安全の確保が最優先よ」

 

「わかりました……」

 

 羅號はどこか思うところがあるようだが、鳥海の言葉に素直に頷いた。

 

「……敵への誘導は任せるわ」

 

「お願いします、満潮さん」

 

 2人も曳航していた荷物を切り離すと、艦隊から敵の方へと向かっていく。

 

「ローちゃんも周辺警戒をして。 明石もお願い」

 

「了解、ですって!」

 

「それはいいんですが……敵潜水艦を発見したらどうします?

 夕張じゃないんですから、さすがに対潜攻撃はできませんよ」

 

 鳥海の指示に、明石はもっともな意見を述べる。残っているこのメンバーには対潜能力はないのだ。

 

「……そのときには、私が身体で防ぐわ」

 

 鳥海は朝潮や満潮の曳航していた荷物の牽引ワイヤーを引き寄せながら、そんな物騒極まりないことを言う。

 

「……これ以上敵がいないことを心から祈りますよ」

 

「それは私も同感ね」

 

 明石と鳥海はお互いに苦笑いをする。

 

「らーくん、がんばれがんばれ」

 

 一方のローは敵に向かった羅號に小さくエールを送るのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「羅號、敵潜水艦の方位と数は?」

 

「このまま真っ直ぐ。 数は……合計4隻!」

 

 羅號と満潮は並んで真っ直ぐに進んで行く。そんな2人に魚雷が放たれた。

 

「満潮さん!」

 

 しかしその魚雷群に向けて、羅號が50.8cm砲を1発放っていた。その砲弾は空中で爆発し、そこから生まれた散弾の雨が魚雷を吹き飛ばす。羅號が榴弾を使って魚雷を迎撃したのだ。

 

「上出来よ!!」

 

 そのまま直進する満潮の視界に、急速潜航で水中へと逃げようとしている敵潜水艦の姿が見えた。

 

「馬鹿ね、その先に待っているのは地獄よ!」

 

 満潮はそのまま爆雷投射機でポンポンと爆雷をばら撒いた。

 やがて巻き起こる水中爆発、そして浮遊物とともに海を黒く汚す液体……撃沈は確実だ。しかしすべての敵を倒せたかというと自信はない。満潮は水中に向かって、いまだに警戒しながら耳をすませた。

 だが、そんな満潮におかしな音が聞こえてきた。

 キュルキュルという、スクリューとはどこか違う回転音。

 そして……。

 

「だぁぁぁぁぁ!!」

 

 水中から、そのドリルに敵を貫きながら羅號が勢いよく飛び出してきた。その衝撃に耐えかね、その潜水艦は真っ二つに折れて爆発する。

 

「あんた……聞いてた以上に無茶苦茶ね」

 

 満潮は呆れたように言った。

 羅號が潜航可能な話は聞いてはいたが、思っていた以上に無茶苦茶だ。

 敵より深い場所にまで一気に潜り、アップトリム90で敵を真下からドリルで貫くとかもう無茶苦茶である。

 

「あんた、ほんとは艦息じゃなくてサメか何か? 実はジョーズなの?」

 

「その言い草はさすがに酷いよ」

 

 まるでホオジロザメの狩りのようだと揶揄すると、あまりの言われように羅號は情けない声を上げた。

 その時だ。

 

「ッ!?」

 

 聞こえた轟音に羅號が顔を向ける。その方角は……朝潮の向かった先だ。その方角をしばし眺めた羅號は、意を決したように頷くと満潮に背を向ける。

 

「行くの?」

 

「うん……」

 

 どこに、とは聞かなくても分かる。

 

「……昨日の夜、私の頼みは全く聞いていなかったのね」

 

「聞いてたよ。 聞いてたけど……行ってくる。

 まだ僕は朝潮さんに何もやってないから……満潮さんみたいにやるだけのことをやってみたいんだ」

 

「そう……」

 

 それ以上、満潮は何も言わない。それを背中で感じながら、羅號の主機『零式重力炉』が唸りを上げ始める。

 そんな羅號の背中に向けて、満潮は絞り出すようにポツリと言った。

 

「お願い……朝潮を助けてあげて」

 

「……うん!」

 

 その満潮の言葉に頷くと、唸る羅號の主機『零式重力炉』から生み出された膨大な出力を推進力に変え、羅號は解き放たれた矢のように進み始めた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 正面から敵に突撃する朝潮、かなり接近したためかその存在は朝潮のソナーにも感じられた。

 

「来るッ……!」

 

 雷撃のために潜望鏡深度まで浮上してきた敵潜水艦型深海棲艦、潜水カ級の姿を確認する。それとともに白い航跡を残しながら魚雷が朝潮めがけて発射された。その数は6。

 しかし、側面からならいざ知らず真正面から放たれた魚雷だ。しかも航跡が見えにくい酸素魚雷ならまだしも、鮮明に航跡の見える通常魚雷である。落ちつけば回避も迎撃も難しくは無い。

 

「突撃するわ!!」

 

 朝潮の砲と機銃が正面に弾幕を張ると、それに当たった魚雷が爆発した。身を叩く衝撃を気にも留めず、朝潮はその爆発の中を保身無き前進で突き進む。

 今の攻撃は潜水艦の艦首連装魚雷……となれば潜水艦は3隻だ。

 対潜用の爆雷をセットしながら朝潮のソナーはその3隻を捉えていた。

 しかし……。

 

 

ドゴォォン!!

 

 

「きゃあ!?」

 

 ヒューという飛翔音、そして至近距離での炸裂音と衝撃が朝潮を吹き飛ばした。

 

「今のは!?」

 

 海面にしたたかに叩きつけられた身体を起こすと、島の向こうから戦艦ル級、重巡リ級2隻が砲から硝煙をたなびかせている。

 それを見て、朝潮は気付いた。

 この潜水艦は囮だ。潜水艦によって足止めを行い、島の向こうに隠れた艦隊の砲撃によって仕留めるというのが敵の手なのだ。

 そして、朝潮はそんな敵のキルゾーンの中心へと入りこんでいたのである。

 

「ちぃ!?」

 

 立ち上がった朝潮はすぐに移動しようとするが、連続した砲撃が朝潮の周囲に着弾し移動すらできない。

 そして、その1発が朝潮を捉えた。

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!?」

 

 その衝撃で再び朝潮は海面を転がる。そしてすぐに立ち上がるも、朝潮は自分の艤装の異常に気付いた。

 

「スクリューが……」

 

 今の1発は朝潮の船尾艤装に当たり、スクリューが脱落していた。推進力を失い駆逐艦最大の武器であるスピードを無くした朝潮は、もはや突撃すらできない。

 敵の照準はどんどん正確になっていき、、動けない朝潮への直撃は時間の問題だ。

 

「あ、あはは……」

 

 朝潮はペタンと女の子座りで座りこむと、自らに迫る砲弾の雨を見つめた。

 だがその顔は、死が迫りつつあるというのに驚くほど安らかだ。それどころか、どこかその瞬間を待ち望んでいるかのような雰囲気さえ見て取れる。

 事実、朝潮にあったのは死の恐怖ではなかった。

 

「これで、これでやっと終われる……。

 荒潮、大潮……今、逝くわ……」

 

 朝潮は微笑みすら浮かべていた。

 そんな朝潮に戦艦からの砲弾が、そして潜水艦からの魚雷が放たれる、どこにも逃げ場はなく、朝潮にも逃げるつもりはない。

 そして、朝潮はゆっくりと目を閉じる。

 巨大な爆発音と水柱がその場に巻き起こった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ……痛みはなかった。

 あるいは『死ぬ』というのはそういうものなのかもしれない……そんな風にも思ったが、何かがおかしい。どうにも普通じゃない、なにか温かな感触がする。

 そして、朝潮はゆっくりと目を開けた。

 すると……。

 

「!?」

 

「……大丈夫?」

 

 そこには、あの羅號の姿があった。羅號が自分を前から抱きしめている。

 

「何を……!?」

 

 何をしている、という言葉は途中で途切れた。それは羅號の背中……艤装部分に黒い煙を見たからだ。

 その姿から、朝潮はすぐに向かってきていた砲弾と魚雷のすべてをその背中で受けたのだということが分かる。

 

「大丈夫? 怪我は無い?」

 

 普通なら轟沈してもおかしくないだけの攻撃、それを背中で受けたというのに羅號はその痛みすらないかのように朝潮の無事を確認してくる。

 事実、羅號の表情に苦痛は無い。変わりにあったのは、朝潮の無事にうっすら涙すら浮かべた安堵の表情だ。

 

「何……で……?」

 

 だが羅號はその言葉には答えず、キッと敵艦隊の方に振り向く。羅號たちが健在なことを知ったのか、敵艦隊からの砲撃が再開された。戦艦ル級と重巡リ級からの砲弾が再び羅號に、そして動けない朝潮へと殺到する。

 

「何やってるの! 早く逃げなさい!!」

 

 朝潮は羅號に叫ぶ。

 自分は最初から死を望んでいるが、それに誰かを巻き込む気など毛頭ない。それにあれだけの攻撃、何度も受けてはいくら羅號といえども持たないだろう。

 

「……」

 

「早く!!」

 

 朝潮が再度叫ぶが、しかし羅號は動かない。何故なら、ここで動けば敵からの攻撃全てが動けない朝潮に直撃するからだ。そうなれば、今度こそ間違いなく朝潮は死ぬ。そして、羅號はそれを決して許容しない。

 

「させない……そんなこと、絶対させない!!」

 

 羅號は何かに突き動かされるように右手を掲げる。そして、羅號は自身でも理解していなかった隠された機構を発動させた。

 

「磁気シールド、展開!!」

 

 瞬間、羅號を中心として半透明のフィールドが展開された。

 その半透明のフィールドに当たった敵の砲弾が、まるで動きを阻害されたかのように勢いを弱めた。

 電磁力によって実態弾兵器の運動エネルギーを著しく減退させ、その威力を減退させる特殊フィールドを発生させる能力だ。

 そのフィールドによって力を無くした砲弾が、羅號の強力な装甲の前に明後日の方向に弾き返されていく。

 『磁気シールド』……羅號自身すら理解していなかったその機能を、朝潮を守るという思いが使用可能にしたのである。

 その信じがたい光景に、物言わぬはずの深海棲艦たちに動揺が広がった。そんな動きの止まった敵に、羅號は両肩の50.8cm主砲を構える。

 

「主砲斉射! 薙ぎ払え!!」

 

 羅號の放った砲弾は狙いたがわず、戦艦ル級と2隻の重巡リ級の装甲を喰い破り轟沈させた。だが、まだ敵潜水艦が残っている。

 しかし、そんな2人の脇をすり抜けていく影があった。それは満潮だ。

 

「こっちは任せなさい」

 

 それだけ言うと、満潮は残った潜水艦を掃討しようと爆雷を投射し始めている。

 それを見て、任せて大丈夫と思った羅號は肩の力を抜いて未だに呆然としている朝潮へと向き直った。

 そして視線を合わせるため、座り込んだ朝潮に合わせて膝をつく羅號。

 

「朝潮さん、大丈夫?」

 

 本当に朝潮を心配したとわかる言葉に、朝潮は混乱に陥ってしまう。

 

 あれだけ理不尽な敵意をぶつけた自分を何故助けに来たのか?

 何故こんなに自分何かを心底心配したような顔をしているのか?

 

 いろいろな思いがグチャグチャと混ざり合い、最終的に朝潮から出たのは感謝の言葉でもなんでもなかった。

 

「何で……? 何でなんですか……?

 何で邪魔するんですか? 何で私を死なせてくれないんですか……!?

 私の気持ちを何も知らないくせに! 知らないくせに!!」

 

 結局、朝潮の口から飛び出したのは、変わらず理不尽な恨み言だった。その言葉に羅號はしばし目を伏せるが、すぐに朝潮を正面から見つめ直す。

 

「満潮さんから、荒潮さんのことは聞きました。

 だから、朝潮さんがもう死んでしまいたいって思ってるのも知ってます」

 

「だったら……!!」

 

 しかし、そんな朝潮の言葉を遮るように羅號は叫んだ。

 

「でも僕は仲間に! 朝潮さんに死んでほしくなんかないんだ!!」

 

 そのまま羅號は勢いのままに言う。

 

「僕はまだ生まれたばかりで何も知らない。 朝潮さんの辛さだって全部はわからないよ。

 そんな僕に、何も言う権利は無いのかもしれない。

 でも……それでも、生きてください……」

 

 いつの間にか羅號は涙を流していた。

 

「僕の最初の記憶は、死んだ大和母さんからの遺言なんだ。

 『仲間を守って、いつか平和の海を』って……。

 僕はどうあっても、大和母さんの遺言を守りたいんだ。

 トラックにいるみんなを……守りたいんだ。

 

 だから……お願いですから、生きてください。

 僕のわがままを聞いて、生きてください。

 自分のために生きられないのなら……僕のわがままのために、僕のために生きてください。

 それでもなんでもいいから……お願いです、生きてください朝潮さん。

 そのために、僕は命を賭けてあなたを守りますから。

 だからお願いです、朝潮さん」

 

 泣きながら、朝潮に何度も何度も生きてほしいと頭を下げる羅號。

 

「何よそれ……何で……何で泣きながら『生きて』なんて頼むのよ。

 やめてよ。

 やめてよ! やめてよ!!」

 

「朝潮さん!」

 

 いつの間にか朝潮も泣いていた。

 2人で泣きながら、お互いに訳の分からないことを喚き続ける。

 それは互いの純粋な感情の吐露だ。2人は本人たちも気付かないうちに、その心をさらけ出していたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ん……」

 

 朝潮の意識は心地よいまどろみの中にいた。

 ゆらゆらと規則正しく揺れるのはまるで寄せては返す波のようであり、母が我が子をあやすかのような、えもいわれぬ心地よい印象を受ける。すぐそばに感じる暖かい何かが、その印象を加速させた。

 こんなに心地いいまどろみはいつ以来だろうか?

 そんな風に考えながら、朝潮はそのまどろみに身を委ねる。

 すると、それを邪魔するような声が聞こえた。

 

「うー! あっしー、ズルい!

 ろーちゃんもらーくんにおんぶされたい!」

 

「やめなさい。 というか、お願いだからやめて。

 こんなスッキリした顔の朝潮は久しぶりなの。

 だからどうか今だけは、今日だけは邪魔しないであげて。

 お願い」

 

「うー……みっしーが、そういうなら……」

 

「……ありがと」

 

 何やら聞こえたが、まどろむ頭では何の事だか分からない。

 ただ満潮が何かしてくれたらしいということは分かり、あとでお礼をいわないと……と朝潮は頭の片隅で思う。

 そしてそのまま、朝潮は心地いいまどろみに身を委ねた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 どこまでも広い海原、朝潮はそこに立っていた。即座に、朝潮は自分が夢を見ていることを悟る。

 すると、その朝潮の前に見知った影が現れた。

 

「荒潮……」

 

 その呟きに、彼女は答えない。しかし、朝潮は構わず続けた。

 

「……ごめんなさい、荒潮を殺してしまって。

 ……ごめんなさい、荒潮を殺した私がのうのうと生きてて。

 怒ってるよね? 恨んでるよね?

 荒潮が望むなら、いつでもこの命を投げ出す所存よ。

 でも……」

 

 そこで一度言葉を切った朝潮は、うつむき気味だった顔を上げ正面から荒潮を見つめた。

 

「もう少しだけ、待ってもらえないかしら?

 私に生きてほしいって……私に生きてくださいなんて泣きながら頼む、そんな男の子に会ったの。

 その子の泣きながらの頼み……私は断れなかった。

 だから……そっちに行くのは、もう少しだけ待ってほしい……」

 

 これはただの夢だ。だから何を言おうが、朝潮も反応は期待していない。

 これはただの独白だった。

 だがそれでも……夢の中の荒潮はあの頃のまま……一緒に戦い、一緒に笑い、一緒に泣いたあの頃のままの、優しい笑顔で朝潮に微笑みかける。

 

(がんばって……)

 

 どこからか、そんな荒潮のあの綺麗な甘い声を聞いたような気がした……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……以上です、報告終わります」

 

「無事でよかった……」

 

 ここはトラック泊地臨時司令所、鳥海からサイパン調査艦隊の帰還と報告を聞いて、全員の無事に長門はホッと胸を撫で下ろした。

 

「ごめんなさい、鳥海さん。

 朝潮ちゃんのこと、本当なら私がもっと気にかけなきゃいけなかったのに……」

 

 報告を聞いていた夕張はそう言って鳥海に詫びる。

 本来なら駆逐艦を率い、統率するのは軽巡洋艦娘の仕事なのだ。しかも朝潮の異常には夕張は羅號を紹介しに行った時点で気付いていたのに、何も出来なかったことを悔やんでいたのだ。

 

「仕方ありません。

 夕張も明石も、このところ忙しくてあの娘にかまう時間はなかったでしょうから……」

 

 あの大敗からずっと、機械修理を得意とする夕張と明石は働き詰めである。その上で、駆逐艦娘たちの心のケアまではさすがに手が廻らないということは鳥海も理解していた。

 そして鳥海は続ける。

 

「それに感謝なら羅號くんにしてあげてください。

 今回も全員が無事で帰れたのは羅號くんのおかげです。

 羅號くんがいなければ犠牲者が、よしんば轟沈がなくとも朝潮ちゃんの心が確実に死んでいましたから……」

 

「羅號くん……本当に凄い子ね」

 

 しみじみと夕張は言う。

 そんな中、長門は含みを込めてニヤリと笑いながら言った。

 

「鳥海はどう見る?」

 

「態度が今までとまるで違いますし、なんでも『俺のために生きろ』とかプロポーズまがいのことまで言われたらしいですよ。

 朝潮ちゃん本人がその感情に気付いているか分かりませんが……私の計算では、朝潮ちゃんも羅號くんに心奪われてますね。

 まぁ、ただの吊り橋効果とも言えなくもありませんけど」

 

 そう言ってクイッとメガネを直して鳥海が笑うと、長門も堪らないといった感じで笑った。

 

「そうか。 ローに続いて、か。

 結構結構。

 あの大和の息子だ、男としてそのくらいの度量がなければな」

 

「風紀を乱されても困りますけどね」

 

 口では長門をたしなめるようなことを言う鳥海だが、その目は笑っている。

 ここにいる全員、羅號のことも生き残った艦娘たちのことも弟や妹のように思っている。この殺伐とした状況の中で、そんな羅號や少女たちの関係は見ていてほっこりする癒しなのだ。あの子たちの関係を温かい目で見守りたいと思う。

 

「……」

 

 そんな羅號関連でほっこりする首脳陣の中にあって、ただ一人明石だけが報告書を見ながらずっと黙って思案を続けている。

 

「どうした明石? 何か懸念があるのか?」

 

「……いえ、物資もかなり手に入りましたし、食糧の問題も解決しました。

 羅號くんも……これまた常識外れの『磁気シールド』なんてもの……いわゆるバリアを使って朝潮ちゃんを守りました。

 これらの能力を使う羅號くんの存在は、これからの旅には非常に心強いんですが……」

 

 そう言って、明石はガリガリと頭を掻く。

 

「……長門さん、三国志とか戦国時代とかの歴史ものは好きですか?」

 

「ああ、好きだぞ。

 英雄英傑同士がぶつかり合い、しのぎを削るというのは読んでいてワクワクするからな」

 

「ええ、私も歴史は好きですよ。

 だからこそ分かるんですが……人類の歴史ってものは面白いもので、世界は『1人勝ち』を決して許さないんですよ。

 三国志なんて綺羅星のように同じ時代に英雄英傑の揃い踏みです。

 戦国時代だって織田信長には今川家や石山本願寺や三好家、毛利家などがその天下を阻むように立ち塞がりますし、有名な上杉謙信と武田信玄みたいな例もあります。

 世界に唯一無二は存在しない。 必ず、同じ時代に『並び立つ者』が存在するんです。

 

 ……羅號くんは確かに凄い。 間違いなく、世界最強の戦力です。

 じゃあ……その羅號くんに『並び立つ者』は、恐らくそれと同レベルですよ。

 そんなものが私たちの前に立ち塞がったら……そんな風に思ったんです」

 

「「「……」」」

 

 ブルリと身を震わせる明石。

 彼女の真剣な様子に、長門たち3人はそれをただの杞憂だと笑い飛ばすことは出来なかった……。

 

 

 




ひたすら長くなった朝潮編終了です。
朝潮かわいいよ朝潮。

羅號の能力『磁気シールド』がアンロックされました。
着々と決戦のためにレベルアップしてきています。
とはいえ羅號として無くてはならないあの機能のアンロックがまだなんで、今かち合うと確実に羅號が負けるという……。

次回はちょっとした骨休め回。
次回もよろしくお願いします。
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