艦隊これくしょん -轟ケ天ニ-   作:キューマル式

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第5話は物語が大きく動く話ですが……前編はひたすら骨休めの回です。


第五話
航海 北方への旅路 前編


 そうして、私たちトラック泊地残存艦隊の北方への旅は始まりました。

 大量の物資を曳航しながらのため、艦隊速度は輸送船団並みのゆっくりとした旅でしたね。

 サイパンで手に入った中継地点建設候補の海図……おかげで小さな無人島の位置がいくつも分かり、そこを経由しながらの旅です。

 敵の哨戒機に見つからないようになるべく夜闇に紛れて移動し、無人島に停泊して整備と休養……それを繰り返しながら私たちは北上を続けました。

 その旅は思わぬほど順調でしたよ。

 無論、私たちも警戒を続けていましたが、後方からの追手は無し。明石も夕張もいるから整備の方も万全、食糧や物資にも余裕があったおかげでしょうね、小さなあの子たちにも笑顔が戻ってきていました。

 

 ……今だからこそ分かる話ですが、あの時の南方戦線の深海棲艦隊は南方から本土への圧力をかけるように命令されていました。艦娘の撃滅は二の次です。

 だから、私たちのことを必要以上に追撃してこなかったのでしょうね。

 

 とにかく、そんな目に見えない幸運に助けられたこともあって、私たちの旅路は思いもよらぬほどに順調でした。

 不気味なほどに、まるで……『今のうちに楽しんでおけ』とでも言うようにね。

 

 さてこれで北方に抜けられる……そんなところまで進んだ時ですよ、『前方』に深海棲艦の大艦隊を確認したのは。

 まさかまさかでしたね、『後方』ではなく『前方』にあんな大艦隊がいるなんて。あれは完全に計算外でした。加えて航空偵察ができたのが私と長門さんの夜偵と零観だけで圧倒的にその数が少なく、そのほとんどを後方からの敵に注意を払っていた私たちのミスでもあります。

 

 ……これも今だから分かる話ですが、あの北方に展開していた大艦隊は『あの人たち』を待ち伏せていたんですね。そこに運の無い私たちが、丁度飛び込んでしまったということなんですが……。

 

 とにかく、私たちにとっては絶体絶命でした。敵の偵察機にも発見されてましたし、こちらの艦隊速度では逃げ切れるものでもありません。

 それこそトラック泊地を襲ったのと同レベルの敵艦隊です。あの時は本気で全滅を覚悟しましたよ。

 でも……やっぱりまた、羅號くんがやってくれました。

 何をやったのか……詳細のほうはご勘弁を。私にも立場と言うものがありますし、下手をすれば羅號くんに非が及ぶ可能性もあるので。

 

 ただ……そうですね、青葉さんは映画は好きですか?

 ……ええ、私も映画は大好きです。

 それで昔、子供の頃にビデオで見た『スーパーマン』という映画があるんですが……これで恋人が死んだ時なんですが、地球を逆回転させて時間を巻き戻すというシーンがあるんです。

 子供だった私でも、随分むちゃくちゃな力技だなぁと呆れたものです。

 ……その時の羅號くんのやったことを聞いた私たちの反応は、まさしくそれでしたよ。

 

 本当に、あの子は間違いなく大和さんの息子ですね。

 落ちついた佇まいのくせにやることは案外にも脳筋全開、全力の力技で何でも解決という辺りが本当にそっくりですよ。

 

 

 

             ――――――筆頭参謀『鳥海』へのインタビューより抜粋

 

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 

 ヒュー……

 

 空を裂く、ともすれば悲鳴にも似た甲高い飛翔音。そして響く爆発音とともにクレーターが形成される。それは戦艦級の深海棲艦隊からの艦砲射撃だ。

 まさに『弾雨』と表現できるほどに濃密なそれは、地上を絶え間なく耕していく。

 同時に、空に広がる黒い点……深海棲艦側の航空機が、その腹に抱えた爆弾を投下していく。

 爆弾がさく裂し、巻き起こるのは衝撃波。それは一切合財を等しく吹き飛ばしていく。

 そのすべてが終わった時、そこに残っていたのは完全に焼け焦げた大地と、元が何だったのか判別の付かない瓦礫だけだ。

 

 ここに南方戦線の要衝と言われたトラック泊地は完全に壊滅したのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 トラック泊地は完全に地上から消え去った。

 では、そこに所属していた生き残りの艦娘たちも、その業火の中に沈んでしまったのか?

 もちろん答えは『否』である。

 

「……どうやらトラック泊地は敵の攻撃で完全に破壊されたようです。

 敵さん、贅沢な艦隊演習をしてくれたようですね」

 

 回収した零観の妖精さんからの報告に、鳥海はため息をつく。

 

「そうか……分かっていても、慣れ親しんだ場所が無くなってしまったというのは悲しいな……」

 

 長門はしばしの間、黙祷するように目を瞑る。その脳裏には戦友たちとの思い出が去来した。

 

 ここは、あのサイパンの中継基地建設予定地だ。

 実はサイパンへの調査任務のすぐ後から、トラック泊地の面々はすぐに北方への移動を開始していたのだ。

 発見された『超大発』、そして夕張が廃材から造った即席の輸送用イカダ、そして駆逐艦お得意のドラム缶……それらに持てる限りの食糧や物資を満載してトラック泊地を脱出したのが4日前。そしてトラック残存艦隊はこのサイパンへと移動していたのである。

 司令部兼宿舎として使っている作業員用のプレハブ、そこに明石と夕張が入ってきた。

 

「長門さん、鳥海さん。 整備の方は終わりましたよ」

 

「ご苦労。 どうだった?」

 

「もうばっちりです。 いつでもまた出港できます」

 

 全員の艤装や物資の運搬に使った『超大発』、それにイカダなどのチェックを行っていた明石はサムズアップで問題ないことを伝える。

 その答えに長門は満足そうに頷くと、今度は夕張へと水を向ける。

 

「夕張、あの子たちの様子はどうだ?

 休めているか?」

 

 あの大敗から早いものでもう2週間以上、その間全員が休みなく働き詰めの状態だ。

 だが、これから本格的な北方への旅は極度の緊張と困難が予想される。

 しかも当然ながら治療用の『メディカルポッド』は運ぶことはできず、出来るとすれば明石の『泊地修理』頼みである。

 それは中破判定以上の損傷を受けた場合、その怪我が治せないということを意味していた。今まで以上に一瞬の油断が命取りになりかねない危険で困難な旅である。

 そのため、そろそろこの辺りで全員一度、本格的な休養をとった方がいいという結論に至ったわけだ。

 そして今夕張は淡い緑のワンポイントの入った競泳水着姿で、子供たちの引率をしているわけだが、ポリポリと頬を掻いて苦笑するばかりだ。

 

「……どうした? 何か問題でもあったのか?」

 

「いえ、それがですね……」

 

 何事かあったのかといぶかしむ長門に、夕張は子供たちの様子を話しだした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「綺麗な砂浜……」

 

 目の前に広がるのは、澄んだ海と白い砂浜。

 ここはサイパンの砂浜である。自然のままのその風景は、まるで白い宝石のような輝きを放っていた。

 今の羅號の姿はいつもの大和にどこか似たような短パンに艤装という格好ではない。ブリーフタイプの水着にパーカーという、完全な海水浴スタイルである。艤装の変わりに大量の荷物を背負い、パラソルを手にしていた。

 いつもの艤装もかくやというレベルの荷物だが、文句の一つもでない辺りそこは男の子である。手にしたパラソルが何となく大和とダブる辺り、そこはやはり大和の息子であった。

 何故羅號がこんな恰好かというとそれもそのはず、今日は羅號たちは夕張の引率で海水浴に来ているのだ。

 年がら年中、海を舞台に戦うのが仕事の艦娘と艦息である羅號たちが今さら海水浴などと思うかもしれないが、そこは艤装を使っての航行と水泳とではまったく違う。それに仕事とは違う海水浴は十分なストレス発散の手段だ。

 そんなわけで彼らはリフレッシュのために砂浜まで来たわけである。

 

「ふぅ……」

 

 しばしその自然の美しさに目を奪われる羅號。

 すると、後ろから声がかけられた。

 

「おっまたせ、羅號くん!」

 

 そこにいたのは水着姿の夕張である。淡い緑のワンポイントの入った競泳水着に身を包んだ夕張はスラリとしており、その美貌もあってもしもここが一般人でごった返す普通の海水浴場だったらひっきりなしに声をかけられたこと間違いなしだろう。

 ただし、残念なことにその胸は平坦だった。

 

「……何かしら、ものすごく失礼なこと考えてる気がするんだけど……?」

 

「ひぅっ!?」

 

 夕張から滲み出るような怒気にあてられて、思わず羅號はすくみ上がる。しばしの後、夕張は肩をすくめた。

 

「まぁ、羅號くんとしては私の水着姿なんてどうでもいいものね。

 他の娘たちの水着が気になって仕方ないんでしょ?」

 

「いや、別にそういうわけじゃ……」

 

「それじゃお披露目よ!」

 

 羅號の言葉を無視して、夕張が勿体つけたようにバッと身を横に移すと、途端に影が走り込んでくる。

 

「らーく~~ん!!」

 

「うわっ!?」

 

 勢いそのままに羅號に飛び付くように抱きついてきたのはローだった。

しかし、ローの姿はいつものスクール水着ではない。ローが身につけていたのは白い色の眩しい、いわゆる『白スク』であった。

 ローの健康的な小麦色に焼けた肌に水着跡の白い肌、そのコントラストに『白スク』は新しいアクセントを加えており、眩しいほどに何とも言えない魅力を解き放っている。

 

「どう、らーくん?

 マル・ユーの着てた水着なんだけど、似合ってますか、ですって」

 

「もちろん。 ろーちゃんすごく可愛くて似合ってるよ」

 

「えへへっ。 Danke (ダンケ)Danke (ダンケ)♪」

 

 羅號にいつもとは違う水着を褒められてローは満面の笑みだ。そのまま、狼というよりはまるで子犬のように羅號にスリスリしようとするのだが、ローの背後から伸びた手がその首根っこをムンズッ、と掴み引き剥がす。

 

「羅號が困ってるじゃないですか、離れなさい!」

 

 それは朝潮だった。その姿はいつもの服装ではなく、紺色のスクール水着である。白いゼッケンに書かれた「おしさあ」の文字が眩しい。

 こちらも歳相応とも言える格好になり、自分に厳しく日頃から身体を鍛えている朝潮の引き締まった身体のラインがくっきりと浮き出ており、ローに負けず劣らずの人を惹きつける奇妙な魅力を放っている。

 そんな朝潮に邪魔されたローは不満そうに口を尖らせた。

 

「う~~。 あっしー、何するの?」

 

「何って、荷物を持ってる状態で飛び着いたら羅號が迷惑でしょ!

 よく考えなさい!」

 

 朝潮にピシャリと言われてローは羅號に尋ねた。

 

「らーくん、ろーちゃん迷惑だった?」

 

 可愛らしく、上目使いで尋ねるロー。

 そんな風に言われて『迷惑だ』などと言える男が果たしてどれだけいるのだろうか?

 もし彼女がこれを狙ってやっているとしたら相当の小悪魔である。

 

「べ、別に僕は大丈……」

 

 ローの上目使いに負け大多数の男と同じく『別に大丈夫』と言いかけた羅號に、朝潮がギンッ、とでも擬音の付きそうなくらい鋭い視線を送って黙らせた。

 

「羅號もそこはしっかり言いなさい。

 甘やかしていてはローのためにもなりません」

 

「でも、朝潮さん……」

 

 すると、再び朝潮からの鋭い視線が飛んだ。

 

「言ったはずですよ。 私のことは呼び捨てでいい、と」

 

 前回のサイパンへの調査任務で羅號に助けられてから朝潮は変わった。

 羅號によって助けられたことで、朝潮はもう死に急ぐようなことはしないと羅號に約束していた。そして、そんな自分を助けてくれた羅號に名前を呼び捨てにしてほしいと言っていたのだ。

 羅號としては朝潮が前向きになってくれて、そして自分を仲間と認めてくれたのだと一連の朝潮の変化を喜んでいたが、そう思っているのは羅號本人だけである。

 他の全員が、朝潮の変化の中に含まれる感情に敏感に気付いていた。その辺りの勘の鋭さはさすがは『女』である。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「謝らなくていいですから、正しく言い直してください。

 ほら」

 

「あ、朝潮……」

 

 まだ慣れず、ちょっとぎこちない感じだが羅號が朝潮の名前を呼ぶと、朝潮は少しだけ微笑んで満足そうに頷いた。

 

「荷物、手伝います」

 

「ありがとう、朝潮」

 

「ろーちゃんも手伝いますって」

 

「ろーちゃんもありがとう」

 

 朝潮とローの2人が羅號の背負う荷物を受け取り、テキパキと広げ始める。

 そんな朝潮の後ろ姿に、羅號はふと思い出したかのように言った。

 

「朝潮も水着、似合ってるね。

 いつもと違う格好ですごく可愛いからドキドキしちゃった」

 

 その言葉にガタリと派手な音を立てて、作業の手が止まる朝潮。

 

「な、何を言うのよ……」

 

「あっしー、顔真っ赤だよー」

 

「う、うるさいわね! ローだってさっきまで同じような顔してたでしょうが!」

 

「もう、あっしーの怒りんぼさん。 うれしいです、って正直に言えばいいのに」

 

「うるさいうるさい!」

 

 そんなことを言い合いながらも作業を続けるローと朝潮。そして、そんな3人を何とも言えない目で見る満潮と吹雪。

 

「……朝潮が元気になったのはいいけど、何なのこの甘ったるい空間」

 

「あ、あはは……まぁ、仲が良くていいんじゃないかなぁ」

 

「それはそうだけど、代わりに私らが死ぬわよ。

 主に糖尿病で」

 

「うん、それは同感」

 

 一方の秋雲はいいネタが手に入ったと笑いながらスケッチをする。

 

「さすがギャルゲー主人公体質だねぇ、らごやん。

 あのお堅い『忠犬』が、もう『愛玩犬』になっちゃって尻尾フリフリしちゃってるじゃん。

 いやぁ、ネタがたぎるたぎる!」

 

 どうやら今日も秋雲は平常運転らしい。

 とにかく、そんな感じで海水浴は始まったのだが……。

 

「あはは、それ~!」

 

「わぷっ!? やったね、ろーちゃん!

 って、うわっ!?」

 

「油断大敵です。 小さな損傷が命取りになることもあるのよ」

 

「朝潮まで!? もう、このこの!!」

 

「きゃ~~、らーくんが怒ったぁ~~」

 

「さすが大型艦、凄い水量。 でも!」

 

 水辺で楽しそうに笑いながら水をかけ合う3人だが、残り3人は砂浜にいた。

 

「……吹雪、あんたせっかくの海水浴なんだから泳ぎなさいよ」

 

「満潮ちゃんこそ泳ぎに行ったら?」

 

「無茶言わないで。 あの空間に近づけなんて、どんな地獄よ。

 近付くだけで砂が無限に吐けそう」

 

「……私、ちょっと向こうまで潮干狩りに行ってくるね」

 

「……私も付き合うわよ。 というかお願いだからこの空間に置いていかないで」

 

 色々悟ったような顔で潮干狩りに行く吹雪と満潮、そして変わらずスケッチを続ける秋雲。

 同じ明るい太陽の下、しかしそこにはあまりにも大きな温度差が生まれていたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「と、まぁこんな感じよ。

 それで昼食のバーベキューの準備に入ったから呼びに来たんだけど……」

 

 そんな話を引率の夕張から聞いた長門・鳥海・明石は顔が引きつるのを止められなかった。

 

「夕張……今の話を聞いたうえであの子たちのところに行くというのは中々に難易度が高いぞ」

 

「それは私もわかってますけどね、じゃあみんな昼食抜きにします?」

 

 『食べる』というのは軍隊生活の中では数少ない娯楽の一つだ。せっかくリフレッシュしようという趣旨なのに、その貴重な娯楽の一つをいちいち潰すような選択肢はない。

 

「長門さんも鳥海さんも、『赤信号 みんなで渡れば怖くない』といいますし……」

 

「それ、普通に全員轢かれるだけですからね」

 

「……ここまで来たのだ、何であろうと皆で一緒に乗り越えるぞ」

 

 長門・鳥海・明石はお互いの結束を高めて頷きあう。そんな3人に夕張は困り顔でポリポリと頬を掻いた。

 

「さすがにあの子たちだって食事中くらいは自重するでしょ?」

 

「だといいがな……」

 

 一抹の不安を覚えつつも、長門たち4人はバーベキュー会場へとやってきていた。そこでは……。

 

「うー! らーくんはろーちゃんの獲ってきたお魚の方が好きだもん!」

 

「羅號は男性なんだから、私の獲ってきたお肉の方が気に入るに決まってます!」

 

 バーベキューの網の前に、ローと朝潮がなにやら言い合っている。

 頬をぷくぅ、と膨らませながら言い合う2人はケンカというよりも可愛らしくじゃれあっているようにも見えるのだが……2人の手にした、血のついたナイフがその可愛さすべてを台無しにしていた。

 そして、そんな2人を頭を抱えた吹雪と満潮が見ている。

 

「2人とも、これはどういうことだ?」

 

「ああ、長門さん。 実は……」

 

 長門に問われ、困り顔で吹雪が説明を始めた。

 ことの始まりはバーベキューの準備となった時、ローが素潜りで見事な魚を仕留めてきたことだという。さすがは潜水艦娘、艤装なしでも水中は彼女の世界だ。

 その現役の海女さんもはだしで逃げ出す潜水能力で次々と魚や貝を獲ってくるロー。そんな彼女に、朝潮が対抗心を燃やしてしまったのである。

 

「あの朝潮がそんなくだらないことで対抗意識を?」

 

「それは普通なら朝潮だってそんなことはなかったですよ。

 でもね……あの天然系バカ男が燃料を投下しちゃったんですよ」

 

 いぶかしむ鳥海に、満潮は肩を竦めて言った。

 

「……羅號はなんて言ったんだ?」

 

「……実際は大したことじゃないんですけどね。

 

 『ろーちゃんが獲ってきてくれたものだとますます美味しそう。楽しみにしてるね』

 

 ……そう言ったんですよ。 しかもすごくいいスマイルのおまけつきで。

 普通ならなんてことない話のはずなんですが……ろーちゃんと朝潮ちゃんにはニトロ並だったみたいで、ハッスルしちゃったんです……」

 

 吹雪もどう言ったものかという顔で説明する。

 対抗意識を燃やした朝潮だが、さすがに水中ではローの足元にも及ばない。

 そこで朝潮はナイフ1本片手に森の中に入って行った。そしてしばしの後、朝潮は仕留めた動物を引きずりながら戻ってきたのである。

 

「それが……あれか?」

 

 パッと見ではイノシシかと見えたそれだが、よく見れば豚らしい。どうやら外部から持ち込まれたものが野生化してしまったもののようだ。

 トラック泊地時代に、陸軍所属のあきつ丸から各種サバイバル技術を学んでいた朝潮によって見事に解体されている。

 

「……まぁ、肉は燻製なりでこれからの旅にも持っていける貴重な食糧だ。

 何も文句はないのだが……」

 

 長門がチラリと見てみると……。

 

「はい、らーくん。 ろーちゃんの獲ってきたお魚食べて食べて。

 はい、あーん」

 

「羅號、男性なんだからお肉の方が好きですよね。

 私の獲ってきたお肉です。 どうぞ」

 

「え、あー、うーん……」

 

 左右からローが焼いた魚と、朝潮が焼いた肉を差し出してくる。

 普通に見れば両手に花の羨ましい状況であるのだが……羅號本人はそんなこと楽しむような余裕などない。羅號は本能的に、ここでの食べる順番だけで何かが起こりそうだということを理解できたからだ。

 そしてしばしの後、羅號は意を決したように口を開く。

 

「え、えい!」

 

 そして器用にも差し出された魚と肉を同時に食べたのである。その健啖さはさすが大和の息子、といったところか。

 

「お、美味しいよ2人とも」

 

 ちょっと汗しながらの羅號の言葉に、ローと朝潮は満足そうに笑みを見せる。その花咲くような笑顔は同性である長門たちから見ても綺麗だと思え、『これが恋の力か』などと思ったりする。

 

「……というか今、明らかにどちらかの名前を先に出すのを避けましたね」

 

「物凄い危機回避力ですねぇ……」

 

 そんなどうでもいいことを鳥海と明石は感心したように頷いた。そして、夕張は長門たちに頭を下げる。

 

「……ごめんなさい、みんな。

 あの子たちが自重とか、ちょっと夢見過ぎてたみたい」

 

「まぁ、仲良いことは良いことなのだが……」

 

 今度は長門が困ったようにポリポリと頬を掻いた。

 

「それで、食事はどうする?」

 

 暗に『あの3人と一緒に食べるのか?』と目で問うと、何故か吹雪と満潮が頷いた。

 

「ご安心ください。 実は満潮ちゃんと一緒にもう一つ網を用意しました」

 

「でかしたぞ、吹雪、満潮!」

 

 トラック首脳陣は吹雪と満潮の有能さを噛みしめながら、魚介と肉のちょっと豪勢なバーベキューを楽しんだ。

 ちなみに秋雲はというと、羅號たちの網で悠々とバーベキューを楽しんでいた。

 

「このぐらいの空気、余裕でスルーできないと創作活動なんてやってらんないよ」

 

 ……実は秋雲はとんでもない大物なのかもしれない、とトラック泊地の面々は認識を新たにしたという……。

 

 

 




ろーちゃんと朝潮ちゃん、かわいいです。
天使かッ!?

次回もよろしくお願いします。
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