ウルトラマンと上遠野作品をクロスさせたらどうなるんだろう?という思いつき短編

という皮を被ったナイトウォッチ三部作の知名度向上目的の短編です

1 / 1
宇宙に向かうTAKE ME HIGHER

 無限に広がる空の闇の彼方。

 無数に煌めく星屑空の彼方。

 無情に佇む虚空の蛻の彼方。

 

 そこに、君にも見えるウルトラの星があるのなら。

 宇宙を往く者達にとって、それはどれだけの救いとなってくれるのだろうか。

 ゼロから始める新天地を探す人類、虚空牙、ゼロの名を持つウルトラマン。

 

 三つのゼロの物語。

 

 

 

 

 

 人類が宇宙に進出してから、長い長い時が流れた。

 人はかつて夢見たように、ビルよりも大きなロボットに乗り、宇宙を駆けている。

 かつて夢見た希望のほとんどを、宇宙の何処かに置き忘れたままに。

 

《……?》

 

《工藤くん、どうしたの?》

 

《いや、何か見たような……景瀬は何か感じなかったか?》

 

《景瀬じゃなくてリーパクレキスと呼――いや、もういいわ。

 各センサーは正常値よ。……貴方がそういうこと言うと怖いわね。

 誰も彼もが、貴方みたいな勘の良さを持っているわけじゃないのに。虚空牙かしら?》

 

《いや、どうだろうな》

 

 男女は親しさをほとんど感じさせないままに、けれど友人のように語り合っている。

 その会話は通信機越しで、機体越し。

 男の名は『工藤兵吾』(くどう ひょうご)。女の名は『景瀬観叉子』(かげせ みさこ)

 二人はかつて人類が夢見た宇宙で戦う戦闘用ロボット、超光速戦闘機『ナイトウォッチ』を駆る、ナイトウォッチ・コアと呼ばれるパイロットの一角である。

 

《それとも工藤くんは、幼馴染さんとまた喧嘩したことで疲れてるのかしら》

 

《うっせ》

 

 戦闘機と名が付いているものの、その外観は骨格標本を継ぎ接ぎし、博物館の化石を繋ぎ合わせたかのような奇妙奇天烈な容姿の巨大なロボットだ。

 恐竜、獣、化物、悪魔、死神を思わせるフォルム。

 開発初期のナイトウォッチには人型に近いものもあったらしいが、彼らが駆るナイトウォッチの外観は、人が悪魔の想像図として描くようなおぞましさを内包している。

 

《新造の武装テスト、だっけか。こういう呼び出しもあるんだな》

 

《フランケンシュタイン・コンプレックスはシステムの根幹だもの、仕方ないわ。

 機械に武装の開発は許しても、機械にナイトウォッチの武装の使用は許さない、と》

 

《面倒くさいと思うのは俺が勤勉じゃないからか?》

 

《安心しなさい、私もそう思うわ》

 

 ナイトウォッチ達は、数え切れないほどの命を乗せた宇宙船を護衛している。

 SF小説で言うところの移民船、と呼ばれるものであった。

 彼らは地球を遠く離れ、遠く離れた宇宙のどこかにある新天地を探し求めている。

 どこにあるかも分からない、第二の故郷を探すために。

 

 彼らは西暦の枠の先の時代の人間であり、この時代の技術の粋を集められた戦闘機を文字通り手足のように操っている。

 全長260m。航行速度は光速の5000倍。半径777億7777万7777kmの知覚範囲。

 ナイトウォッチですらそうなのだから、移民船の性能も推し量れるというものだ。

 だが、それでも。

 長い長い年月をかけ、宇宙を彷徨い続けても……未だ人類は、新たな故郷を得られていない。

 

《この遠隔操作鏡面兵器、相剋渦動励振原理の対象内なんだろうか》

 

《してなければただの光速兵器、弾速が遅すぎて役に立たないわね。

 流石にそんな間抜けなことになるとは思えないけど》

 

 故郷は地球。けれど人類は、その故郷を捨て旅立った。

 

《そういえば景瀬、今俺達がどこに向かってるか聞いてるか?》

 

《あら、工藤くんは聞かされてないの? 私達が今向かっている星雲は……》

 

 何故か? 地球が、太陽系が、人の生きられる場所ではなくなってしまったからだ。

 何故か? 敵が攻めてきたからだ。

 敵とは何か?

 

《!》

 

 その答えは今、移民船とナイトウォッチに迫る『光』の正体と同一である。

 

《来たぞ!》

 

《本当に来るとは思ってなかったわよ!》

 

 かつて人類は、太陽系の外にまで進出していた。

 幾多の宇宙ステーションを作り、太陽系の全ての星を住居としていた。

 総人口は2000億人を超え、光速の70%ほどの速度を出す戦闘機の時間を7000倍以上に加速させることで光速すら過去のものとし、かつての物理学すら超越していた。

 彼らは文明の絶頂期にあった。

 

 そんな彼らが外宇宙からの侵略者に叩きのめされたのは、いつのことだったか。

 2000億あった人口が数年で30億にまで減らされてしまったのは、いつのことだったか。

 数多くのナイトウォッチが破壊され、宇宙港はそのことごとくが機能停止に陥り、地球人は地球に僅かに残った者達、宇宙の彼方に旅立った者達しか生き残っていない。

 あと一歩、あと一歩どこか間違った方に踏み出してしまえば、その日人類は滅びてしまうであろう、そんな危機に人類はずっと脅かされている。

 

 ある者が言った。あれは人の世界の敵だ。世界の敵なのだ、と。

 ある者が言った。違う、あれは人の敵だ。人間の敵なのだ、と。

 ある者が言った。彼らは虚空より湧いてきた光の牙なのだ、と。

 

 水面に浮かぶ不気味な泡(ブギーポップ)のように、宇宙の暗黒より湧き出づる光の巨人。

 

 人はその『敵』を、『虚空牙』と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大昔、どこかの宇宙、どこかの世界。

 遥か彼方に続いている銀河の向こうで、地球人に『ウルトラマン』と呼ばれる者達が居る。

 彼らは遠く輝く夜空の星から光と共にやって来た、光の戦士。

 ずっとずっと地球を守り、地球人を守り、怪獣や侵略者と戦い続けてくれた心優しき巨人だ。

 その戦いに、物語に、大切なことを教わった者は多い。

 

 ここは工藤兵吾や景瀬観叉子が居た宇宙とは別の世界。

 彼らが虚空牙と戦う世界とは違い、ウルトラマンの存在が知られている宇宙の何処か。

 そこで戦い続ける、一人のウルトラマンの姿があった。

 

「ガルネイトッ、バスター!!」

 

 彼は光の国の中でも指折りに若く、強い戦士。

 多くの人、多くの仲間、多くのウルトラマンと触れ合い。

 多くを学び、多くを受け取り、多くを成して来た新世代のウルトラマン。

 

 彼の名はゼロ。『ウルトラマンゼロ』。ウルトラマンセブンの息子だ。

 

「ウルトラぁ、ハリケーン!」

 

 ゼロはかつて、『ウルトラマンベリアル』という敵と幾度となく戦い、勝利した。

 ベリアルは世界の敵、あるいは世界の敵に堕とされたウルトラマンとでも言うべき存在であり、宇宙を丸ごと脅かすほどの恐ろしい悪のウルトラマンであった。

 しかし仲間達と一丸になったゼロはこれに立ち向かい、宇宙の征服から光の国への侵攻までもを企んでいたウルトラマンベリアルの野望を打ち砕いたのだった。

 

 しかし、ベリアルの銀河帝国は一度は宇宙を支配しかけた大組織。

 ベリアルを打倒した後も残党は宇宙のいたる所に潜伏し、力なき人々を脅かし続けていた。

 ゆえに、ゼロは今日も戦う。

 この宇宙に平和を取り戻すために、弱者の敵と戦い続ける。

 

 時に別の宇宙の危機に駆けつけ、ウルトラマンダイナやウルトラマンコスモスと共闘もした。

 時に復活したベリアルやその部下と戦い、新たな輝きを纏うこともあった。

 それを若さと言うのだろうが、ちょっと無茶なくらいにゼロは四方八方に飛び回り、助けを求める誰かのために戦い続けていた。

 

「ふぅ。こんなもんかな」

 

 目につく残党をあらかた片付けたことを確認すると、ゼロはパンパンと手を叩き払う。

 特に手が汚れているというわけではないが、結構サマになっている仕草だ。

 

『ゼロ……』

 

「! 誰だ!」

 

 そんなゼロに声が掛かる。

 ゼロは思わず周囲を見渡し、超能力と超感覚で周囲を探るが、何も感じ取ることができない。

 宇宙は音すらも伝わらない絶対真空の世界だ。

 そこで戦っていたゼロに声を届けたということは、知性ある異星人などの大半が持つテレパシー能力であることに疑いはない。

 そして、テレパシーにも限界距離というものはあるのだ。

 なのにゼロが周囲をいくら探ろうと、その声の主はどこにも見当たらない。

 

『ある世界に、危機が迫っている。

 彼が殺されてしまえば、その宇宙の人類は途絶えてしまうわ。

 直接的にそうなるのではなく……因果が、そう繋がってしまう』

 

「因果?」

 

 ゼロはなんとなく、幼い頃に耳にしたお伽話を思い出した。

 魔女ヴァルプルギスと魔女アルケスティス、未来・過去・多世界宇宙(マルチバース)の全てにおいて戦い続ける、因果や運命よりも上位にあるという伝承の魔女。

 今となっては懐かしい、彼が幼い頃に父から聞かされたお伽話だ。

 彼がそれを思い出したのは、その女性であろう声があまりにも『魔女』らしかったからだろう。

 

「まるで、未来のことを知っているかのような口ぶりだな」

 

『近くて遠いわね。私はこれから先訪れるその未来を、回避して欲しいだけ。人を守りたいの』

 

 何故魔女と思ったのか。それはその声が、あまりにも信用に足るものではなかったからだ。

 メフィラス星人のような、あるいはクレア星雲人のような。

 

「……胡散くせえな。本当のこととウソを混ぜてる感じがするぜ。

 お前みたいな奴は大抵本音を語らねえ。喋り方すら作ってる気がするんだよ」

 

 ましてゼロは、他のウルトラマンと比べても直情的というか、理性より感覚で生きているタイプのウルトラマンである。

 姿も見せずに声だけを聞かせてくる奴を、信用するわけがなかった。

 

『……行くの? 行かないの?』

 

「その宇宙の人類に危機が迫っているのは、本当なんだな?」

 

『ええ。それは確かな真実よ』

 

 本当のことは言っていない。

 だが真実も混じっている、そういう言い方をこの女はしている。

 "もしも"を考えれば、ゼロに選択肢はなかった。

 以前にもこうして別の宇宙から呼ばれた先では、本当に人類が滅びかけていたから、というのもあるのかもしれない。

 

「よし、分かった。行ってやる」

 

『へぇ……』

 

「罠だったら、てめえをぶん殴ればいい話だしな!」

 

 ウルトラマンゼロは、きっと誰かが呼ぶ声がしたなら、すぐ駆け付ける。

 彼はそういうウルトラマンだった。

 

「お前、名前は?」

 

『名前? そうね……厳密には、無いのかしら。

 貴方達の種族の最初に地球に触れた者(スタースクレイパー)が、ウルトラマン……

 ただ、代名詞のみでそう呼ばれているのと一緒でね。変質した残り粕みたいなものだから』

 

「名前がない? 呼びづらいな、おい」

 

『もう会うことはないでしょうけどね。けど、もしももう一度会う時が来たならば』

 

 ゼロの左腕のブレスレットが光り、翼のような鎧と剣へと変わる。

 それを纏ったゼロは光を放ちながら飛び上がり、宇宙の壁を突き破る。

 光の国の全てのエネルギーを集約させても届かないであろう莫大なエネルギーが一瞬で使い切られ、ゼロは宇宙の壁を飛び越えた。

 

『その時は、"イマジネーター"と呼んで頂戴』

 

 最後に聞いた女の声を、耳の中に残しながら。

 

 

 

 

 

 ゼロがウルティメイトイージスを用いて時空を超えた先は、また新たな宇宙だった。

 イマジネーター、と名乗った女性の導きにより辿り着いた宇宙は、彼女の言を信じるならば人類が絶滅の危機に瀕しているらしい。

 

「さて、ウルティメイトイージスのエネルギーは全部使っちまったな……

 回復まで時間がかかるが、ここはアナザースペースよりはマシか。

 どうやら、三分の行動時間制限はないものと考えていいみたいだ」

 

 ゼロが左腕に据えている神器、ウルティメイトイージス。

 これはエネルギーが補充できない状況でもウルトラマンにエネルギー補充を可能とさせ、いわゆる『三分間』の縛りからウルトラマンを開放する。

 ゼロの鎧であり、剣であり、弓であり、翼であり、生命線でもある武器だ。

 しかしながら、流石に宇宙から宇宙への空間転移にはエネルギーの大半を使い果たしてしまったようで、自動回復まで多少の時間を必要としているようだった。

 

「! あれは……早速か!」

 

 だが、運命は休憩のための時間をゼロに与える気はさらさら無いようだ。

 ウルトラマン特有の宇宙空間を見渡す超視力が、何かを捉える。

 目を凝らせば、それは数億kmは離れた宇宙にて行われている戦闘だった。

 ゼロはここまでイマジネーターの導きに従って来た。

 ならばこの邂逅も、おそらくは偶然ではない。

 

「間に合え……よっ!」

 

 ゼロが片手より放った青い光を全身に纏うと、ゼロの全身のカラーリングが変化する。

 赤と青の入り混じっていた部分が全て青に染まり、青のウルトラマンへと変化した。

 ウルトラ戦士の中でも、限られたものしか持たない特殊能力。

 戦闘形態変化(モードチェンジ)である。

 この状態のゼロは超能力と高速戦闘に特化した高速戦士。名を、『ルナミラクルゼロ』と呼ぶ。

 

 光の国の一族が皆持つ、ウルトラの星と地球の間のような長距離――銀河数個分の距離であっても一瞬――を移動するゲートを作る技、トゥインクルウェイを使い、ゼロは飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『虚空牙』。

 人類が自分達の天敵であると定義付けた存在である。

 正体不明。目的不明。詳細不明。

 大きさは100mほどの光の巨人であり、人類が滅びそうになっている現在ですら、彼らは何が出来て何が出来ないのかすら判明していない。

 人類にできることはほとんど出来て、人類に出来ないことを星の数ほど出来る、ということだけは疑いようもないが。

 

《こちらムーグニージイ、敵が多すぎる! 救援求む!》

 

《こちらフォッケゼメルト。マバロハーレイ!

 こっちはいい、ムーグニージイの方に行ってやれ!》

 

《おう! フォッケゼメルト、10億分の7秒(7ナノセカンド)持ち堪えてくれよ!》

 

 仲間達の声に応じ、マバロハーレイ――工藤兵吾の乗機の名称――は動く。

 この移民船を守るナイトウォッチは十機存在するが、その中でも工藤兵吾とマバロハーレイの強さは群を抜いていて、彼の動きこそが勝敗を決すると言っていいほどであった。

 そしてその戦意は、人類が地上で幼稚な戦いをしていた頃では想像もできないほどの、あまりにも次元が違いすぎる戦闘を織り成していく。

 

 兵吾のマバロハーレイが亜空間ブラスターを放てば、体表面から10kmという肌に触れそうな距離を攻撃が通りすぎたことで虚空牙は体勢を崩し、秒速15億kmのマバロハーレイが置き土産のように置いて行ったヌル爆雷の直撃を受けた。

 ヌル爆雷は六個もあれば太陽系を丸ごと蒸発させるだけの威力を持つ。

 しかしながら"その程度では"虚空牙を倒すには至らない。

 それを分かっている兵吾は振り向きざまに亜空間ブラスターを発射。

 ヌル爆雷で吹っ飛ばされスピンしている虚空牙の胴体を抉り取り、止めを刺した。

 

《こちらリーパクレキス。フォッケゼメルトの援護に回るわ》

 

《そっちは任せた、景瀬》

 

《はいはい》

 

 虚空牙の内一体が、物質の域を超えた波動を用いた攻撃を放たんとする。

 しかし光速の500倍程度、秒速1.5億km程度にまで速度を落としているなど、いい的だ。

 マバロハーレイが兵吾に操作され、水爆の数千兆倍の威力を持つセグエ粒子弾を雨あられと乱射する。ナイトウォッチの武装は、それら全てが水爆の数千億倍から数千兆倍の威力である。

 直撃を幾つか貰い、体勢を崩した虚空牙の頭を亜空間ブラスターがごっそりと削り取っていた。

 

(今日はまた一段と多いみたいだな、虚空牙!)

 

 ムーグニージイを取り囲んでいた虚空牙の数をいくらか減らすと、工藤兵吾は戦場を見渡す。

 ナイトウォッチは777億7777万7777km離れた敵をも感知する優れたセンサーを持っている。

 それが、敵はまだまだ居るということを彼に告げていた。

 

《うわっ!?》

 

《フォッケゼメルト!》

 

 通信機越しに聞こえる、兵吾の仲間のナイトウォッチからの声。

 兵吾が全身の神経と繋がるセンサーの目でそちらを見やれば、虚空牙の攻撃で仲間のナイトウォッチが損傷していた。

 ナイトウォッチは西暦の時代の戦闘機ならば戦闘不能に陥るような度合いの損傷を受けても、数万分の一秒もあれば自己再生を完了させる。

 攻撃のショックで機体が一時停止してからの再起動ならば、10億分の3秒もあれば十分だろう。

 しかし10億分の1秒(ナノセカンド)の世界で戦闘を行う、ナイトウォッチと虚空牙の戦闘においては戦線離脱と同義であった。

 

 ナイトウォッチはその防御力においても次元が違う。

 空間を捻じ曲げ攻撃を届かなくさせる反撥装甲、空間と時間の連続性を断ち切る時空切断スクリーンの多重構造、能動的防御の力場パルサー。

 しかし虚空牙は今、それら全てを貫通してフォッケゼメルトを破壊したのだ。

 その攻撃が全力のものであるのかすら、人類には判別できない。

 

《今日は厄日かもな》

 

 舌打ち一つ。

 機体を操作し仲間の援護に向かおうとする兵吾だが、そこでその手が止まった。

 フォッケゼメルトとリーパクレキスを、誰かが援護している。

 

《? なに……!?》

 

 兵吾のマバロハーレイではない。ムーグニージイでもない。

 この宇宙には、人類とその敵である虚空牙しか居ないはずだ。

 人の心が耐えられないこの絶対真空の宇宙には、人が心の拠り所にできるような『味方』なんてものは存在しないはず。

 なのに間違いなく、その誰かはナイトウォッチを守り、虚空牙を攻撃していた。

 

《あれは……》

 

 虚空牙は全長100mを超える。ナイトウォッチも全長は260mほどもある。

 だが新たな乱入者は、どう見ても50mほどしかない。

 人から見れば巨人、ナイトウォッチから見れば小人。

 そして人類の天敵たる虚空牙と同じ、『光の巨人』だった。

 

(仲間割れ? いや、外見はかなり違うが……なんなんだ、あれは……?)

 

 新たに現れた光の巨人は、青い体色を輝かせながら虚空牙に接近し、全身の色を一瞬で赤く変えて虚空牙をぶん殴り、その首をもぎ取った。

 そして通信ではなく、テレパシーでその場の全員に向かって叫ぶ。

 

 

「俺はゼロ! ウルトラマンゼロ! 助太刀するぜ!」

 

 

 ウルトラマンと、そう名乗って。

 

超人(ウルトラマン)、だと……?)

 

 困惑する人類側とは違い、虚空牙の対応は早かった。

 それは思考力の違い。精神構造の違い。前提の違い。

 これがウルトラマンとのファーストコンタクトとなるこの宇宙の人類とは違い、虚空牙は『ウルトラマン』という存在を知っていたのだ。

 

「むっ、来るか!」

 

 光の虚人――虚空牙――が、光の巨人――ウルトラマン――と激突する。

 本来、虚空牙とウルトラマンの間にはどうしようもない規模の差がある。

 何しろ光速の5000倍で動き、太陽系を消し飛ばす攻撃に耐え、かすめるだけで惑星を破壊する規模の存在なのだ。

 一見ウルトラマンでは届かない存在にも見えよう。が、実はそうでもない。

 

 かつてウルトラマンAは多用こそしなかったものの、平気で光速を超えて飛んでいた。

 ウルトラマンダイナは体長1万kmを超え、太陽系よりも大きなブラックホールに近い重力場を纏うグランスフィアを連携により光線で破壊した。

 ウルトラマンは地球上では加減をしなければならないものの、宇宙空間ではその限りではないのである。

 彼らは太陽系を一撃で破壊するような技を持たない。

 しかし、太陽系を一撃で破壊するような敵を倒すのがウルトラマンなのだ。

 

 ナイトウォッチにおいても同じことが言える。

 太陽系を木っ端微塵にするヌル爆雷よりも、太さ50mもない亜空間ブラスターの砲撃の方が威力は高いのだ。実際、虚空牙の多くはこれで仕留められている。

 規模で言えば、ウルトラマンは虚空牙には及ばない。

 だが、それが絶対的に勝てないかといえばそうでもない。

 

 そしてゼロは、前述のウルトラ兄弟より鍛え上げられ、ウルトラマンダイナにその力の一分を分けてもらった超戦士。

 光の国のウルトラマンの多くは虚空牙のスペックに押し切られてしまうだろう。

 ゼロもまだ、本気で戦って勝てないウルトラ兄弟も数人居る。

 けれど、多くのウルトラマンから力と技を受け継いできたゼロならば、その馬鹿みたいに高いスペックで虚空牙に力で押し切られることもなく、なんとか戦う事ができる。

 ゼロ、虚空牙、ウルトラ兄弟。

 事実上、この三者で三すくみができているようなものだった。

 

「うらぁっ!」

 

 青のウルトラマンゼロ、ルナミラクルゼロ。

 超能力を操る超高速戦士の名に恥じず、ウルトラ兄弟直伝の超光速飛行を更に加速させ、虚空牙の光線を弾いたり跳ね返したりしながら接近し、再度変身。

 青に染まっていた体色を、今度は赤に染めるモードチェンジを行った。

 

「どぅりゃ!」

 

 赤のウルトラマンゼロ、『ストロングコロナゼロ』だ。

 持てる力の全てを身体能力に注いだ超パワー戦士が、拳を振り上げる。

 虚空牙は空間を歪め、時間を歪め、それを何層にも重ねて防御。

 しかし、時空間の繋がりが無いのがなんだ! と言わんばかりにゼロはぶん殴る。

 すると幾多の障壁はぶち抜かれ、拳の当たった虚空牙の胴体が弾け飛んだ。

 

 ナイトウォッチの武装の威力は、それら全てが水爆の数千億倍から数千兆倍だ。

 で、あるにも関わらず虚空牙を一撃で殺し切れない武器も多い。

 ウルトラマンの攻撃は純粋な破壊力では語れない、というのもあるが……いずれにせよ、今のゼロの本気のパンチは、ナイトウォッチのそれらの武装と同格の威力があるということなのだろう。

 

「!? ちっ!」

 

 が、今のゼロが虚空牙を仕留めるにはストロングコロナゼロにならなければならない。

 虚空牙のスピードに付いて行くにはルナミラクルゼロにならなければならない。

 そしてモードチェンジという切り替えが必要で、虚空牙が10億分の1秒の世界で戦っている存在である以上、モードチェンジの際の隙を突かれるのは必然。

 形態変化の継ぎ目を虚空牙は見逃さず、かすっただけで惑星を粉微塵に粉砕するであろう破壊渦動エネルギーが、拡散されてゼロに襲いかかった。

 ゼロはその全身をルナミラクルゼロの青に染め、テレポーテーションで回避したものの、危うくやられそうになったことに背筋をヒヤリとさせる。

 

(こいつら強い……! 駆け引きは心がないみたいに適当だが、なんてパワーだ!)

 

 どうする、とゼロが思案したその時。

 ゼロから見れば頭上から、ゼロと相対していた虚空牙に向かって砲撃の雨を降らせる、そんな援軍がやって来てくれた。

 宇宙の夜闇を切り裂く機体、夜を視るもの(ナイトウォッチ)

 マバロハーレイが、ゼロを助けるように虚空牙に攻撃を仕掛けていた。

 

「こいつは……!」

 

《……えるか、聞こえたら応答してくれ。聞こえるか、聞こえたら応答してくれ》

 

「! この声は、お前なのか?」

 

《よし、素粒子通信なら通じるみたいだな。俺は工藤兵吾、こいつはマバロハーレイだ》

 

「俺はゼロ。ウルトラマンゼロだ」

 

《さっき聞いたさ。お前、俺達の味方ってことでいいのか?》

 

「とりあえずはなっ!」

 

 虚空牙の体より光の槍が生え、光の数千倍の速度で飛来する。

 それをゼロは右に、マバロハーレイは左に動いて避け、その虚空牙に向かって飛んだ。

 

「まずはこいつらを片付けてからだっ!」

 

《まったくもって正論だな!》

 

 一気に虚空牙に接近するマバロハーレイと、その後ろに付いて飛ぶルナミラクルゼロ。

 虚空牙ははマバロハーレイとゼロを纏めて攻撃しようと光の矢を放つが、マバロハーレイの八本の武装腕(アームドアーム)が発する力場パルサーによって次々と弾かれ、残ったものもマバロハーレイの背後から光線の曲射を続けるゼロに撃ち落とされていく。

 そして虚空牙まであと一万km、という至近距離まで近付いた時、兵吾とゼロは奇襲を仕掛けた。

 

 マバロハーレイが背後のゼロを武装腕で掴んだと思うと、ゼロを虚空牙に投げつけたのである。

 ゼロはゼロで武装腕を踏み台にして跳躍、ルナミラクルゼロの能力で更に加速。

 一時的にその速度は、秒速20億kmにまで届いていた。

 

「くらいやがれぇ!」

 

 そして速度を殺さずモードチェンジ、ストロングコロナゼロへ。

 最大威力でウルトラマンレオとの特訓で編み出した、レオ直伝『ウルトラゼロキック』を放つ。

 もはやキックというものに許されないほどの威力を内包した燃えるキックは、虚空牙の障壁を真正面から粉砕し、虚空牙の全身をも爆発四散させた。

 

「しかし助けようとは思ってたが、助けられるとは予想外だぜ!

 言っちゃなんだがウルトラマンを知らない奴に、初対面で信じられるとは思ってなかった!

 なんで俺を助けてくれたんだ、ヒョーゴ!」

 

《理由なんかねえよ。虚空牙から誰かを守る。

 ずっと前からそうやって来た! ただそれだけのことだ!》

 

「―――!」

 

 虚空牙の光の砲弾が、空間を消滅させる爆雷が、波動の攻撃が二人に襲いかかる。

 けれど二人は速さでさけるでもなく、硬さで防御するでもなく、ただただ巧さでそれら全てをくぐり抜け、滑るように抜けて行った。

 

《ゼロ、お前はどうなんだ?》

 

「悪いな、俺も同じだ! ウルトラマンは地球人を守る……

 ずっと昔から、そうやって来た! 理由なんか要らねえな!」

 

 マバロハーレイが今回テスト用に外装に装着されていた、ミラービットを射出。

 鏡が付いた遠隔操作子機が数千個同時に解き放たれ、宇宙空間を縦横無尽に駆け回る。

 そこにゼロは、セブンより受け継いだエメリウム光線を発射した。

 ルナミラクルゼロの力で光速度を軽く置き去りにした光線はミラービットで反射され、兵吾が操作するままに空間を埋め尽くす。

 一体、二体と虚空牙にエメリウム光線が当たって行き、ダメージで動きの止まった虚空牙にナイトウォッチ達とゼロが飛びかかっていく。

 

 幾度となく、ここではない宇宙で繰り返されてきた光景。

 地球人とウルトラマンが力を合わせ、侵略者に立ち向かうという光景だった。

 

 

 

 

 

「これで、全部倒したか?」

 

《みたいだな》

 

 背中合わせに周囲の宇宙の全てを見渡すゼロとマバロハーレイ。

 ナイトウォッチ数機でも手こずる数の虚空牙であったが、結果的に言えばゼロとマバロハーレイがその九割を撃退していた。

 他のナイトウォッチもマバロハーレイのサポートをいかんなくこなし、最終的に死人が出なかったことを考えれば、大金星と言えるだろう。

 

《ありがとよ、ゼロ。お前が居なかったらヤバかったかもしれん》

 

「へっ、いいってことよ。俺も呼ばれて助けに来た身だ」

 

《呼ばれて? お前はいったい……》

 

 ゼロはイマジネーターと呼ばれる女性の声に導かれ、ここに辿り着いた。

 本音であるとはまるで思えない「人を守りたい」という主張、『彼』を守って欲しいという願いを聞き、その声に導かれるままに宇宙を越えてきたのだ。

 だからか、分かる。

 人類の存亡に関わる『彼』とはこの工藤兵吾であり、近い内に迫る危機が彼を死なせてしまう可能性があるのだと、イマジネーターの導きがそう告げていた。

 

(だとすりゃ、あの虚空牙とか呼ばれてたやつらが可能性高いか)

 

 ゼロにとっても初めて戦うタイプの敵だった。

 圧倒的なスペックを持ちながらも、戦い方に研鑽や駆け引きが全く見られなかった。

 相手の考えや思考を読み、自分の行動の先を読ませないようにし、敵を知り己を知って戦いの流れを調整する、といったものが全く見られない敵。

 AIで動いていた戦闘機械(ジャンナイン)よりも更に人形的な、心の存在がまるで感じられない、そんな敵であった。

 不気味に思いつつも、ゼロは兵吾に自分がここに来た敬意を話そうとして。

 

 接近して来た、ナイトウォッチ・ムーグニージイからの攻撃を回避した。

 

「なに!?」

 

《ムーグニージイ!? おいやめろ! あいつは俺達を守ってくれたんだぞ!》

 

《マバロハーレイ、惑わされるな! そいつは虚空牙と同じ光の巨人だ!

 お前は知らないだろうが、歴史上虚空牙はこうやって何度も人間に騙し打ちをしてきた!

 戦いが終わったらコーサ・ムーグで調べてみろ!》

 

《こいつがそうとは限らないだろうが!》

 

《そうじゃない保証がないなら、今ここで落とすべきだ!》

 

「あああくそっ、めんどくせえ!」

 

 ムーグニージイは仲間が騙し討されるリスク、仲間が殺されてしまうリスクを恐れ、ゼロに向かってセグエ粒子弾を連射する。一つ一つが原爆の数千兆倍の威力の弾幕だ。

 ゼロは瞬時にルナミラクルゼロへと変身し、弾幕の合間を抜けて行く。

 そして右手に蛍火のような光を溜め込むと、ムーグニージイに向けて解き放った。

 

「頭冷やせ、ガイコツロボのパイロットッ!」

 

 この宇宙ではない、別の宇宙であれば知る者はその光を見てこう叫んだだろう。

 ウルトラマンコスモスのフルムーンレクトだ、と。

 

《う、な、なんだこれは!?》

 

 その光の効果は単純明快。

 感情の昂ぶりを抑え、落ち着かせる。ただそれだけの光線だ。

 話し合い、分かり合うために用いられる何よりも優しい技である。

 

《……》

 

「落ち着いたか?」

 

《……まだお前が虚空牙の手先じゃないと、確証が持てたわけじゃない》

 

「話を聞いてくれりゃあそれでいいさ。ええっと、ムーグニージイさんよ」

 

《ゼロ、お前今、ムーグニージイに何をしたんだ?》

 

「イライラしてるやつを落ち着かせる光線だ。

 あのままじゃロクに話もできなさそうだったからな」

 

《すまないマバロハーレイ、迷惑をかけた。戦闘後で気が立っていたらしい》

 

《そうか。なら話を聞かせてくれ、ゼロ。仲間も集まってきたみたいだからよ》

 

「任せなヒョーゴ。まずは俺が、ここじゃない宇宙から来たってことなんだが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロが話したことは非常にシンプルだ。

 ここではない宇宙から来たこと。誰かに導かれて、兵吾を守りに来たこと。

 光の国のこと。ウルトラマンのこと。

 ウルトラマンが別の宇宙では地球人と友好的にやっていたということ。

 

 対し兵吾が話したことも、結構ざっくばらんだった。

 虚空牙のこと。虚空牙に追い詰められ、滅びへの道を進んでいる人類のこと。

 人類がもう地球上のほんの僅かな数と、いくつかの移民船にしか残っていないこと。

 虚空牙の脅威。ナイトウォッチの存在。

 

 交換する情報はゼロと兵吾がいわゆる『良心的で勉強が出来ない不良属性』であったためか、非常に分かりやすく簡潔なものであった。

 

「お前ら大変なんだな、ヒョーゴ」

 

《なーに、学生寮の夜警当番(ナイトウォッチ)やってるようなもんだ》

 

「へぇ……気に入ったぜヒョーゴ。そりゃあんだけ強いわけだ」

 

《その言葉そのままそっくり返してやるよ、ゼロ》

 

 マバロハーレイ・兵吾以外のナイトウォッチは遠巻きに二人を監視しているようだ。

 完全に信用もせず、さりとて不信を向けるわけでもなく。

 兵吾が何かされそうになったら、すぐにそれを止められる位置にいる。

 そんな景瀬達の心配や疑いなんてどこ吹く風で、話し合うゼロと兵吾はかなり気安い。

 まあ、それも当然か。

 

 ウルトラマンは人間よりも遥かに長い寿命を持つが、それは人間の年齢に換算できる。

 ゼロの年齢は人間換算で高校生。

 まあつまり、ゼロと兵吾は同い年で気の合う同性なのであった。

 

《しかし別の宇宙か……なんというか、すげえ話だよな》

 

「信じられないか?」

 

《いや、信じる。人類が初めて出会った異星人がお前であってくれたら、とは思うけどよ》

 

「……この宇宙には、ウルトラマンが居ないようだしな」

 

 ゼロはおそらく人類が宇宙という新天地に出て、初めて出会った友好的な地球外生命体であり、初めて友好的に対話を成功させた知性体となるのだろう。

 昔は、人類だって夢見ていたはずなのだ。

 宇宙人との出会いを、分かり合う過程を、そこで育まれる絆を。

 夢見て、宇宙に飛び立ったはずなのだ。

 それが、虚空牙という最悪の結論によって否定されただけで。

 宇宙人との出会いに心躍らせていた人類は、輝く銀河の彼方から、地球と人類を見ていたあの瞳(虚空牙)を見た時、どれほど絶望したことだろうか。

 

「昔、親父に聞いたことがある。つってもこっちの宇宙での話なんだがな」

 

《うん?》

 

「昔は俺達ウルトラマンも、お前達地球人と変わらない心と姿だったって話さ」

 

《!? 別宇宙がどうって話より信じられねえな……》

 

「まあ、マジらしいぜ? なんやかんやで、今のウルトラ族は皆こんな感じだけどな」

 

 昔々、ウルトラマンは地球人とそう変わらない生き物だった。

 だがある日、太陽が爆発してしまう。

 光を失った星の住民は生き残るために、人工太陽『プラズマスパーク』を作り上げた。

 プラズマスパークが放つ放射線は、強く浴びることで星の人間達を光の巨人へと変える効果を持ち、それによって生まれた超人達が『ウルトラマン』と呼ばれるようになった……

 そんな歴史が、光の国にはある。

 

 光の国のことを兵吾に語る最中、ゼロはプラズマスパークのことを話す時、少し胸の奥が痛むのを感じ、それを一生付き合わなければならない罪悪感と理解した上で、押し込んだ。

 

「親父は言ってた。

 『いつか地球人と肩を並べ、星々の狭間を駆ける時が来る。

  力を合わせ、同じものを守ろうとする時が来る。

  それまでは我々が彼らの世界の盾にならなければならない』

 ってよ。つまりはそいつが、ウルトラマンの使命ってわけだ」

 

《……!》

 

「ったく、光栄極まりないぜ。

 こうして俺達と肩を並べるくらい強くなった地球人と初めて共闘するのが、俺だなんてよ」

 

 地球人が初めて自分に友好的な宇宙人に出会ったことへの感動を、ゼロは想像できまい。

 だがそれと同じくらい、兵吾には『ウルトラマンと同じくらい強く、ウルトラマンを守ろうとする地球人』というものにゼロが感じたことを想像できないだろう。

 この出会いは幸運な偶然か、何時の日か来ることが約束されていた運命の日か。

 神にも魔女にも、それを知るすべはない。

 

《この世界に、ウルトラマンが居ないって分かるわけだ。

 ゼロやその親父さんみたいな奴が居たら、絶対見逃さねえだろうしな》

 

「ああ、そういうことだ。

 それによ、地球に行った先輩達……ウルトラ兄弟は、皆口を揃えてこう言うんだ。

 『光の星に、地球に、自分と同じように戦おうとしてくれる人達が居る。

  そう思えば自分が一人でないとよく分かる。仲間の存在を心に感じられる。

  宇宙の暗黒、あの絶対虚空を一人でも飛んで行く勇気が湧いて来る』

 ってな。俺も地球には一度行ったことがあるから、その辺よく分かるぜ」

 

《―――》

 

「俺達光の一族でも、いや光の一族だからこそ、この宇宙の暗黒は少し堪える」

 

 ウルトラマンとて、地球人を心の拠り所にすることもある。

 ここではない別の宇宙でゼロに力を分けた、慈愛の戦士コスモスがそう在り続けたように。

 

(ウルトラマン、か)

 

 兵吾は宇宙を見渡す。

 そこには広くて、広くて、広過ぎる宇宙の虚空が広がっている。

 何も無さ過ぎる。広過ぎる。その暗黒は、人の心を壊すには十分過ぎた。

 

 広大な海を見て、自分と自分の悩みがちっぽけなことを理解する、という踏ん切りの付け方があるという。自殺を死に来た人間が広大な海を見て、自分の小ささと無価値さを再認識して自殺に踏み切ってしまう、ということもあるという。

 ならば、宇宙の海ならば?

 地球の海よりももっと広く、もっと何もなくて、人類そのものが消滅しても埃が一つ消えただけ程度にしかならない、そんなあまりにも巨大過ぎる『現実』を前にしたならば?

 それまで守ろうとしていたもの、自分の命、人類の歴史、それらが相対的にあまりにも無価値に見えてしまうほどの圧倒的な虚空を前にして……人は、正気を保てない。

 少なくとも、様々な工夫を凝らしている現在でさえも、ナイトウォッチを操る人間が戦闘中に『自殺』してしまう案件は、なくなってはいないのだ。

 

 ゼロは、かつてウルトラマンと地球人が似た心と体を持っていたと言った。

 そしてこの宇宙の虚空を、隣人を思うことで越えてきたと言った。

 地球人の心は宇宙の絶対的な虚空に耐えられない。

 だが、もしかしたら……その頭には、『今は』という言葉が付くのかもしれない。

 

「ところでこの移民船、今はどこに向かってるんだ?」

 

《え? どこだったっけか、景瀬、ちょっと来てくれ》

 

《今日はとことんリーパクレキスって呼べてないわね……私達が今向かってるのはM―――》

 

 ガオン、と音がした。

 けれど音は伝えるものがない宇宙で響くことはない。

 それはどこからか飛んできた攻撃の衝撃であり、それを抜き打ち気味に亜空間バスターで撃ち落としたマバロハーレイの妙技の余波、敵の襲来を知らせる鐘の音だった。

 

「なに!? どこから現れやがった!」

 

《私の方のセンサーにも予兆はなかったわ。これは……》

 

《……突如現れたさっきの襲撃といい、いつもの虚空牙とは違うようだぜ》

 

「いつもと違う? どういうことだ、ヒョーゴ」

 

 空間からにじみ出るように現れる新たな虚空牙。

 すかさず構えるゼロにマバロハーレイ、近寄ってきていたリーパクレキス。

 だが、何か様子がおかしい。

 他のナイトウォッチが駆け付けるまでナノセカンドでどれほどかかるか分からないが、それまでの間にこの虚空牙が仕掛けてこようとする様子が見られない。

 むしろなんというか、不定形のスライムやアメーバのようにうねうねと動いていて、光の塊でなければ虚空牙であると判別することすら出来なかっただろう。

 

《俺にも上手く説明できないんだが……

 ただなんというか、いつもの虚空牙が自動的な存在だとするなら……

 今俺達の目の前にいるこいつは、半自動的というかなんというか……》

 

《何にせよ、殺せば終わりよ》

 

「は? って待ておい!」

 

 類稀なる戦闘センスを持つ兵吾が感じ取った何かを最後まで聞くこともなく、敵の動きを待つような悠長な選択を選ぶこともなく、仲間の到着を待つ慎重さなんてものもなく。

 景瀬観叉子――リーパクレキス――は、亜空間ブラスターを虚空牙に向けてぶっ放した。

 しかしながら虚空牙に対し必殺となるはずのその一撃は、いとも容易く弾かれてしまう。

 それこそ、戦車に小石を投げつけた程度のダメージに終わってしまった。

 

《嘘!?》

 

 驚愕するリーパクレキスをよそに、虚空牙は形を変え、なんと言葉を発して来た。

 

『人類史上最強の男、工藤兵吾。光の者。

 我らは、ここでお前達を終わらせよう』

 

(! なんだ、この違和感……戦いの前に口上? 虚空牙が?)

 

「はっ、なんだか知らねーが、どうやら俺のことも知ってるみたいだな」

 

 兵吾の感覚に強烈な違和感が走る。

 虚空牙は"こういうものではない"という直感。もっと無情で、もっと圧倒的で、もっと人から遠くて、それでいて人が滅びる結末には繋げさせないような、そんな化物だった。

 そう、兵吾は目の前の怪物にないものと余計にあるものを感じ取る。

 

 工藤兵吾は虚空牙がそう言ったように、人類史上最強の男である。

 例えば、ナイトウォッチがあっても人類は特例を除き虚空牙に太刀打ち出来たことなんてなく、せいぜい囮になって移民船から虚空牙を引き剥がすことしか出来なかった。

 しかし工藤兵吾は次元が違う。

 彼は初陣にて虚空牙を四体撃破、という結果を導き出したのだ。

 直接的な撃破、及び誰かの撃破のサポートを工藤兵吾が行うことで、ようやく人類は虚空牙という天敵を倒すことが出来るのだ。

 

 逆説的に言えば、工藤兵吾は人類の中で強さという部分において最も虚空牙に近付き、虚空牙という存在の多くを理解した人間ということでもある。

 何故ならば、彼ほど強くなければ見えないものがあるからだ。

 虚空牙は人間に殺意も敵意も持っていないということも。

 虚空牙は蟻の巣をつつく子供くらいの意識しか持っていないのだということも。

 工藤兵吾のような、虚空牙に勝てるほどの強さを持つ者でなければ、虚空牙が人類に殺意を抱いていないこと、虚空牙が手を抜いていることには気付けない。

 

 人間を殺しに来る虚空牙という時点で、矛盾している。

 それは人間が蟻の特定個体に対し、憎悪と殺意を向けるようなものだ。

 

《なんだ……何か、混ざってるのか?》

 

「なに? どういうことだ、ヒョーゴ」

 

《いや、俺にもさっぱり分からん。この虚空牙が正常じゃない理由を考えてたら、なんとなくよ》

 

「……お前がそういうなら、試してみるか」

 

 目の前の虚空牙は、虚空牙らしくない。

 何故かいつものように出現と同時に襲い掛かって来ないのもそうだ。

 虚空牙のことをロクに知らないゼロではあったが、信じた兵吾の言葉を聞く内に、何かを思いついた様子だ。

 ゼロはルナミラクルゼロにモードチェンジし、コスモスより受け継いだ力の一部を励起して、コスモスがカオスヘッダーを怪獣から切り離すために使っていた光線を発射する。

 

「ゼロエキストラクトっ!」

 

 その光線は虚空牙の光体に当たり、光が光に染み込んでいく。

 もぞもぞもぞ、と光体が蠢くと、何かがそこから顔を出した。

 それは、人間の形をした何かであった。

 

《人間!?》

 

「いや、違う。だが……俺は見覚えがあるぜ、こいつ」

 

《知っているのかゼロ!》

 

「ああ、どうやらこの虚空牙、悪いもん食って腹壊しちまってたみてえだな」

 

 一旦切り離された人型のそれが、再び虚空牙に飲み込まれていく。

 ゼロは知っている。

 同化を使う宇宙人は、同化をした相手との相性によっては悪影響を受けてしまうということを。

 おそらくはこの虚空牙も、相性の悪い相手を知るために取り込み、その果てに悪影響を受けてしまった個体なのだろう。

 それを彼は、悪いもんを食ったと表現しているのだ。

 

 

「一回会ったことがあるだけだがな……その性根の腐った匂い、忘れるかよ『キリエル』ッ!」

 

 

 "腐っている"と、ゼロはそう思っているから、なおさらに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつてとある宇宙の地球に、『キリエル人』という精神生命体が存在した。

 彼らは中世の頃から地球に潜伏し、地球人を愚かな生物と見下しながらも徐々に浸透しながら機を伺い、地球人全てが自分達を神と崇める世界を作ろうとした。

 その野望は『ウルトラマンティガ』により打ち砕かれたが、キリエル人のほとんどは時空の狭間に住んでいたため、敗北が滅亡へと繋がらなかったのである。

 彼らは後に、邪神(ガタノゾーア)の襲来の際に地球人を見捨て、地球を切り捨てて宇宙のどこかへと旅立っていった。

 

 しかし、彼らは『地球』というものに未練があったのだろう。

 何しろ1000年以上、執着し続けた星だ。どうでもいいと切り捨てられるわけがない。

 彼らは時空の断層に自分達が住める世界を作り上げられるほどの技術を用いて、別の宇宙へと旅立った。別の宇宙の、別の地球を手に入れるために。

 しかしながら、前途は多難であった。

 地球は多くの宇宙で、その宇宙におけるウルトラマンによって守られていたのだ。

 ウルトラ兄弟。ジョーニアス。コスモス。ガイアとアグル。

 キリエルはほうほうの体で、半ば意地になりながらも、ウルトラマンが居ない宇宙の地球を探し続けた。その過程でゼロと一度だけ出会い、一言二言言葉を交わしただけで蛇蝎の如く嫌われたりなどの、数々の紆余曲折を経て。

 

 そしてある日。

 何の伏線も前兆もなく、たった一体の虚空牙に全てのキリエル人は丸呑みにされた。

 それが彼らが想像もしていなかった、彼らの滅び。遅れて与えられた天罰だった。

 

 虚空牙が『精神生命体』を取り込んでしまったこれが、最悪の結末を生む。

 

 虚空牙には心がない。

 だから彼らは人間に敵意を持たないままに、人間に執着し続けている。

 

 心がない。心を知りたい。彼らに触れよう。ああ、脆くて壊れてしまった。

 宇宙の絶対虚空によって人間が心を壊している。

 なら、心の拠り所が必要だ。「やつらのせい」と感情をぶつけられる敵を用意しよう。

 いや、我々が敵になろう。あっという間に滅びないように手加減もしよう。

 敵として居る我らに彼らが怒りをぶつければ、心は長持ちする。

 その間に、心というものを知ろう。

 

 これが虚空牙の基本行動理念である。

 彼らには心がない。心を知ろうとし、人類に触れようとする所作ですら恒星を破壊する。

 それが邪悪な精神生命体……言い換えるならば、邪悪な心だけで生きている生命体の『心』を知ろうと、その全てを取り込んだとしたら、どうなるのだろうか?

 心がない人類の天敵という器に、地球人に対する悪意の心を注ぎ込んだなら?

 

 キリエルは自我を無くし、意識を無くし、記憶を無くし、その残滓だけが残り。

 純然たる邪悪な心が空っぽの虚空牙の心に流れ込み、それを汚染する。

 みじめな結末を迎えキリエルは滅びたが、その悪意だけは虚空牙の中に残り、最悪な存在が生まれてしまったのだ。

 人類をいつでも滅ぼせるが滅ぼしていなかった、そんな虚空牙から生まれた最悪の敵。

 

 "人類に悪意を持つ虚空牙"。

 

『心とは何か。もうそんなものに興味はない』

 

 心という強力無比な存在のブースターを手に入れたキリエルの虚空牙は、次々と同族を召喚し、取り込み、巨大化していく。

 心がないということは、個がないということ。

 いくつもの虚空牙が、その虚空牙に取り込まれ、汚染されていく。

 虚空牙としての純度を失い、一部の力を失い、在り方を失い、力を求める。

 その大きさは50mのゼロでは比較にすらならず、100mであった虚空牙でも霞む、260mのナイトウォッチでも見上げるしかない1000mの巨体。

 

 1000mの、キリエルの戦士(キリエロイド)

 

《で、でっ、けえ……!》

 

「気圧されんなヒョーゴ! どうせ見掛け倒しだ!」

 

 全てのナイトウォッチの搭乗者が、ゼロの声にハッと我に帰る。

 ゼロが先駆けとして真っ先に立ち向かう勇気を見せ、アイスラッガーを放った。

 アイスラッガー。ウルトラセブンの代名詞であるそれは、ウルトラセブンの息子であるゼロにもきちんと受け継がれている。

 超巨大キリエロイドの硬い表皮に弾かれたものの、それは他のナイトウォッチに勇気を見せた。

 

 ゼロに続け、とばかりにマバロハーレイ達が攻撃を開始する。

 太陽系を跡形も残さない量の二倍、三倍の数のヌル爆雷が発射される。

 水爆の数千兆倍程度の威力しかないものの、数だけは撃てるセグエ粒子弾で弾幕を張る。

 爆発半径だけで太陽系の全長より大きい、強重力子メギドが顔面に叩き込まれる。

 それは敵を倒す、なんて規模に収まる攻撃ではなかった。

 規模だけで言えば、銀河を破壊する目的で使われるような、そんな攻撃だった。

 

 だと、言うのに。

 

《嘘でしょ……!?》

 

《沢山仲間を食った分だけ、カチコチになってるみてーだな》

 

《……余裕ね、工藤くん》

 

 超巨大キリエロイドは、全くの無傷であった。

 

『滅びよ』

 

 そう、キリエルの虚空牙が口にした瞬間。

 超巨大キリエロイドの胸部が開き、そこから多くの怪物が飛び出してきた。

 

 恐龍(ゼットン)(バードン)合成怪獣(タイラント)

 球体(スフィア)黒い円盤(ブラックエンド)

 邪悪(ゴーデス)邪神(ガタノゾーア)

 どれもこれもが本物ではなく、けれどガワだけコピーした丸っきりの偽物でもなく。

 虚空牙が己の肉と莫大なエネルギーを用いて再現した、人を滅ぼすための軍団だった。

 

 

『恐れよ。お前達が我らをまだ"根源的破滅招来体"と呼んでいた、あの頃のように!』

 

 

 数十数百、まだ生産され続けあるいは数千数万に届きかねない怪獣の軍団が、戦闘区域を飽和させる勢いで、ゼロとナイトウォッチ達に襲いかかった。

 

《散開!》

 

 兵吾の声が一瞬遅ければ、どうなっていたことか。

 数機のナイトウォッチとゼロは一気に散開し、スピードを活かしての引き撃ち、あるいはヒット・アンド・アウェイ戦法へと切り替えた。

 が、戦力差はざっと一対千。

 しかもキリエロイドから吐き出された怪獣達は、虚空牙に次ぐほどの戦闘力を持っていた。

 仮に人類側のエネルギーが無尽蔵だとしても、人類側の精神がそれだけの長期戦には耐えられない、戦域がそういう絶望的な戦況に成り果てる。

 

《ゼロ! 長引かせるとマズい!》

 

「おう、仕掛けるぜ、ヒョーゴ!」

 

 幾千の怪獣が織り成す壁。

 そこにゼロは親仕込みのワイドショット、兵吾は亜空間ブラスターを叩き込み風穴を開ける。

 僅かに開いたその隙間に自分達をねじ込み、格闘を組み合わせながら無理矢理に突破して、二人はそうして怪獣による超巨大キリエロイドを守る壁を突き抜けた。

 ゼロは向かって左から、兵吾のマバロハーレイは右から、左右からの挟み撃ち。

 司令塔の超巨大キリエロイドを潰せば、勝機はある。

 

『愚かな』

 

 超巨大キリエロイドは、左腕を魔女が杖を振るように振った。

 マバロハーレイの攻撃の進行上に、次元違いの引力と斥力が発生する。

 斥力は半分の攻撃を弾き、エネルギーの指向性すら霧散させ、原子間に斥力を発生することであらゆる物質と攻撃を炸裂霧散させ、どこかへと弾いて散らす。

 引力は命ですらも凝縮させかねないほどの力場を作り、残り半分の攻撃が凍りついたかのように空中で止まり、極小のブラックホールが防御には過大な力で全てを飲み込んでいく。

 

《なん――》

 

 超巨大キリエロイドは右腕で何もない空間を、非常に強く(フォルテッシモ)叩く。

 すると空間がみるみる内にひび割れ、空間が擬似的にではなく、本当の意味で断絶された。

 ゼロは直前の戦いで、空間と時空を操っていた虚空牙の障壁を打ち破っている。

 にも関わらず、ルナミラクルゼロがダイナより受け継いだ技、レボリウムウェーブを全力全開で叩き込もうとしたというのに、レボリウムウェーブは空間の断絶に遮られ、届かなかった。

 

「――だとっ!?」

 

 そして引力と斥力が、時間と空間に干渉するほどの規模で攻撃にマバロハーレイへの攻撃に転じられ、空間のひび割れも無尽蔵の範囲に干渉できるのか、ゼロへと一直線に向かって来る。

 

《くそったれめ!》

「くそっ!」

 

 たまらず、兵吾とゼロは回避に全身全霊を傾ける。

 それでも回避に専念すれば、宇宙規模の大災厄とでも言うべきそれらの攻撃をかわし切れる。

 そんな彼らは、まごうことなくその種族の歴史の中でも指折りの天才であると言えよう。

 ここでゼロは、「ここで仕留めないと人間達の精神が保たない長期戦になる」と判断する。

 ここで兵吾は、「どうやってもこのタイミングでは仕留められない」と判断する。

 

 全ての未来と過去を見通すことが出来る虚空牙が『人類史上最強』と評したのは伊達ではなく、工藤兵吾の戦闘センスはウルトラ戦士の中でも屈指のゼロのそれを上回る。

 つまり、この時点での判断は兵吾の方が正しかったのだ。

 人間を守らなければ、敵が強すぎるし多すぎる、という意識があったのも相まってゼロは判断を致命的に間違えてしまう。

 

「うおおおおおッ!!」

 

《! 待てゼロ、一旦引けっ!》

 

 最善手としか言いようがない手際で、再度怪獣の壁に穴を空け脱出しようとする兵吾だが、そこで自分と同じ判断をすると思っていたゼロが突っ込んだのを見て、踏み止まった。

 ゼロが兵吾を認めているように、兵吾もゼロを認めている。

 ここで引き際を見誤るようなバカではない、と兵吾はゼロを信じすぎたのだ。

 先程のナイトウォッチの総攻撃でもびくともしない防御力に、あの本体の対応力と攻撃力が組み合わさった超巨大キリエロイドに、無策で挑めばいかにゼロとはいえどただでは済まない。

 

 ゼロは基本的に熱く、仲間思いで、向こう見ずで無茶ばかりするウルトラマンであった。

 

『……"ウルトラマン"』

 

 だから昔から、失敗しないウルトラマンではなく、失敗した後反省するウルトラマンであり。

 罠だと分かっていても、誰かのために罠に突っ込んでいくウルトラマンであり。

 今度もこうして、人を思うがために罠にはまる。

 

『目障りだ』

 

 既にキリエル人の意識は消滅しているものの、キリエルの悪辣さだけはそこに残っている。

 

「―――なっ」

 

 ゼロが一気に接近し、炎を纏ったパンチを繰り出そうとした、その瞬間。

 彼の周囲を一瞬で包囲した、20の女神(ゾグ)の姿。

 超巨大キリエロイドは体内で、女神型怪獣ゾグをこっそりと精製。

 そして攻撃に合わせ、空間転移によるゼロ時間移動を実行、ゼロを包囲。

 攻撃発射まで10億分の1秒(ナノセカンド)という状況での包囲を完成させたのだ。

 

 ゼロは回避も防御もできない。

 彼が気付いた瞬間から包囲攻撃の開始までの時間が1ナノセカンドしかないのだ。

 今の虚空牙は、キリエルが混じっている。

 地球人を支配しようとし、ウルトラマンティガに叩き潰されたキリエルが、だ。

 なればこそ、人間よりもウルトラマンへの憎悪、仕打ちが苛烈になるのは当然で。

 

《ゼローーーッ!!》

 

 並のウルトラマンでは何人がかりでも勝てないような女神(ゾグ)20体からの飽和攻撃が、ゼロ一人に向かって集約され、大爆発を起こした。

 

《こちらマバロハーレイ、ゼロがやられた!

 回収して脱出する、怪獣軍団に逃げ道を作って脱出経路を――》

 

《無茶言わないで工藤くん! こっちはこっちで、船に向かう怪獣を食い止めるので精一杯よ!》

 

《――!》

 

《分かるでしょう? こっちをやられたら、本当の本当におしまいなのよ!》

 

 爆発で吹っ飛ばされたゼロへと向かい飛びながら、兵吾は歯を強く噛みしめる。

 敵が強すぎる。数が多すぎる。

 虚空牙相手に人類がいつも思っていたことだが、人類最強たる工藤兵吾が心底そう思ったのは、これが初めてだったかもしれない。

 着々と、着々と、人類は悪意ある虚空牙に追い詰められていく。

 

《ゼロ! ゼロ! しっかりしろ!》

 

「う、つ……だい、じょうぶだ……」

 

《どう見ても大丈夫じゃねえだろ、馬鹿野郎!》

 

 ゼロは全身が焼け焦げていて、ぐったりとしていた。

 人間のように顔色や表情がないからその状態がわかりにくいが、気持ち目の光が弱まっているように見えて、弱っているのだということが分かる。

 だがそれよりも何よりも目を引いたのは、胸のランプの点滅だ。

 

 ゼロの容姿の中でも一際目を引いていた胸のランプ。

 いつもは透き通った水色に輝いていたそれが、赤く色を変えて点滅している。

 警告灯だ、と兵吾は直感する。

 何の警告灯だ? この状況だ、教えてもらわなくとも大抵の人間は察するだろう。

 この胸の光は、ゼロの命の危機を警告しているのだ。

 

 しかも一分一秒ごとに、その点滅は早くなっていく。

 ゼロの命が危機に瀕して、どんどん死に近付いているのだと、そう告げるように。

 

《死なせてたまるかぁ!》

 

 そんなゼロにトドメを刺すために、周囲の幾千の怪獣達が群がってくる。

 コピーモデルが強力な上に、虚空牙によって強化された怪獣軍団が、だ。

 工藤兵吾は光速の5000倍の速度に付いて来ることも、その速度のナイトウォッチに運ばれることにも耐えられない今のゼロを連れて逃げることは叶わず、この位置でゼロの護衛に付くしかない。

 その時点で、圧倒的不利になるハンデを背負っているのと同じだった。

 

 逃げ回ることもできない。

 宇宙空間で一対数千という、四方八方から波動や光線が飛んでくるこの状況において、ひとところに留まり集中砲火を受けなければならないこの状況は、最悪の詰みと言ってよかった。

 絶望的だ。

 なのに工藤兵吾は諦めない。足掻いて、足掻いて、足掻き続ける。

 人類最強の称号は伊達ではなく、信じられないような反応速度とアクロバティックな行動の連続で、動けないゼロを完璧に守り続けている。

 だが、それもいずれは限界が来るだろう。

 

 工藤兵吾が虚空牙から攻撃を貰ったのは過去にただ一度のみ。

 それも今と同じく、守るべき誰かを守るためにその身を張って守った時だったのだから。

 

《ぐ……つ……!》

 

「もういい、もういいヒョーゴ! 俺はもういい! お前は逃げるんだ!」

 

《……うるせえ、お前はさっさと回復しやがれ》

 

 とうとう時空切断スクリーンが抜かれ、反撥装甲が破壊されてしまう。

 胴体にダメージが伝えられ、スラスターの一部がイカれてしまった。

 このタイミングで攻撃を捌く武装腕(アームドアーム)が損傷せず、特に使わない機動力にダメージが行ったのは幸運だと、兵吾は人知れずほくそ笑む。

 

「これじゃあべこべなんだよ! 俺はお前を助けに来たんだ、守りに来たんだ!

 お前はここで死ぬべきやつじゃない、そう俺は思ってるんだ!

 逃げに徹すれば、こいつら相手だってお前を殺せるわけが……」

 

《俺もお前が死ぬべきやつじゃないと思ってるからこうしてるんだぜ、ゼロ》

 

「―――」

 

《逃げろったって、どこに逃げるんだ? 何から逃げるんだ?

 敵から逃げるのか? 自分から逃げるのか? 守りたいものに背を向けて逃げるのか?》

 

 精神的・肉体的・機体的に限界が近いのか、隠してはいても通信機から伝えられる兵吾の声は誰が聞いても分かるほどに切れ切れだ。

 

《俺もお前も、旅の途中だ。

 人生って旅は、目的地がないからどこに辿り着いても終わらない。

 何かをやろうとしても、中途半端な所で終わることだって多くて……

 どこかに至っても、そこでもまだ旅の途中。どこかに歩いて行かないといけない。

 誰も彼もが中途半端で、踏み出したならまだどこかに行けるけど……

 それはきっと、どんなゴールにも辿り着いてないのと同じで》

 

 夢を追う、ただそれだけでも。

 夢を叶えたなら、その後にどこかに踏み出さなければならない。夢を叶えたその地点が、中途半端な中継地点でしかなかったことを人は知る。

 夢を叶えられなかったとしても、そこで終わらない。夢を叶えられなかった人生は、夢を叶えられなかった時点でゲームオーバーになんてなることもなく、そこからも続いていく。

 夢を追わなかったとしても、道半ばであることには変わりない。

 誰も彼もが道半ば。

 どこにだって行けるということは、どんなゴールにも辿り着けていないということ。

 誰もが本当は、心の奥底で自分が道半ばであることを自覚している。

 だから、死ぬ時にこう叫ぶのだ。

 

 "こんなところで死にたくはない"、と。

 

《俺も、お前も、こんな中途半端なところで滅びたくなんかないだろう―――!!》

 

 ゼロはいつだって、旅の中で友を得て、何かを学んで来た。

 宿敵を倒す旅に、別の宇宙の地球を守る旅に、与えられた力の意味を探す旅。

 そして今、工藤兵吾という友と出会えた一つの旅。

 兵吾は言う。こんな中途半端なところで死んで、お前は本当にそれいいのか、と。

 

 ゼロの胸の『カラータイマー』の点滅が早まり、消えかける。

 マバロハーレイのセンサーの警告に従い、超巨大キリエロイドの方を見た兵吾が目にしたのは、莫大な熱量を溜め込む敵の姿。

 おそらくは銀河を端から端まで一瞬で突き抜けて、その射線上にある全ての星々を蒸発させるであろうエネルギーが込められた、明らかにオーバーキルな一撃。

 兵吾があまりにも常識外れに粘ったがために、業を煮やした虚空牙が一撃で確実に決める方法を選んだのだろう。

 だが、それを見てもマバロハーレイは動かない。

 工藤兵吾は逃げない。

 人類最強の戦士は、仲間を絶対に見捨てない。

 

 360°に星明かりの瞬く宇宙(そら)の中心で、少年は叫ぶ。

 

《仲間を見捨てて、見捨てた仲間が夜のお星様になって!

 その上でこの先ずっと、平気なツラでこの宇宙の夜を視て行くなんて、出来るわけねえだろ!》

 

「―――っ!」

 

 超巨大キリエロイドが放った熱線は、周囲の数百体の怪獣達を巻き添えにしながら、ゼロとマバロハーレイが居た場所をあっという間に飲み込んで、一直線に突き抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙には、語り継がれる神が居る。

 多くの宇宙で語り継がれる神が居る。

 希望を諦めない者に力を貸す、光り輝く神が居る。

 それは同じく人に『試練を与える者』でありながら、"知るため"に人に試練を与える虚空牙の対極にある、受け継がれる光の絆。

 心を知らぬ虚空牙とは違う、心を知る神秘の光。

 

 (ノア)はいつでも、希望を諦めない者を見守っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に気が付いたのは虚空牙であった。

 熱線が二つに分かれている。二股になって一直線に突き抜けている。

 赤色巨星にぶつかったとしても一瞬で蒸発させる熱線が、だ。

 おかしい。

 何かがおかしい。

 熱線を吐き切った後、熱線が二股に分かれていた場所を見れば、その答えは一目瞭然だった。

 

 光の翼……いや、そう見えるだけの光の盾が、そこにある。

 

神の心臓(エナジーコア)を象った、神の盾(ノアイージス)の模造品……』

 

 虚空牙はそれを知っている。

 その力の形を知っている。

 

『そうか、そういうことか』

 

 翼にして盾であった光が収まり、やがてその中から二つの影が現れた。

 片やマバロハーレイ。

 既に損傷は自己修復を終えており、工藤兵吾の手足となるには十分な状態である。

 片やウルトラマンゼロ。

 その姿は、元いた宇宙からこの宇宙へやって来た時と同じ姿であった。

 

 普段は左腕のブレスレットとなっているウルティメイトイージスは、今は銀色の鎧と銀色の剣となり、ゼロの体に装着されている。

 それは最強の翼であり、最強の矛であり、最強の盾である鎧。

 この鎧を纏ったゼロは、こう呼ばれる。

 

 光の勇者『ウルティメイトゼロ』と。

 

『貴様、(ノア)に選ばれたウルトラマンだったか……!』

 

 虚空牙の言葉への返答代わりに、ゼロは右手に装着された剣を振るう。

 すると剣より、白銀の巨大な光刃が放たれた。

 惑星ですらも容易に真っ二つにするであろうサイズのその光刃は、周囲の有象無象の怪獣達を薙ぎ払いながら超巨大キリエロイドの表皮を切り裂く。

 

『ぐ、ぅ!?』

 

 この戦いが始まって初めて、キリエルの虚空牙にダメージを与えた瞬間だった。

 

「そうだな。俺もまだ……旅の途中だ。ダイナだって、そう言っていた」

 

 ゼロはその場で一回転。

 すると回転の最中にも剣からは光刃が発生し、周囲一帯の怪獣達を切り裂いていく。

 移民船や他のナイトウォッチ達を襲おうとしていた怪獣達も、その多くが消滅させられた。

 

「こんなところで終われねえ……終わってたまるか! そうだろ、ヒョーゴ!」

 

《ああ!》

 

 ゼロが、マバロハーレイが一気に接近する。

 先程の光刃のダメージが効いているのか、超巨大キリエロイドは反応が一瞬遅れたようだ。

 ゼロは光を纏った剣を振り上げ、マバロハーレイは小惑星程度ならば一撃で粉砕する武装腕を八本一緒に振り上げ、二人同時に振り下ろすように突き出した。

 

『舐めるな、下等生物共がッ!』

 

 だが、超巨大キリエロイドは両腕の表面に数千の亜空間障壁を同時展開。

 二人の攻撃を両腕で受け止め、虫を払うように腕を振り、吹き飛ばした。

 

《ちっ!》

 

「なら、こうするまでだ!」

 

 障害物や重力や空気抵抗といった、吹き飛ばされる彼らを止めるものがない宇宙空間。

 何もしなければ宇宙の彼方まで吹っ飛ばされていただろうが、そんな間抜けなことになるような二人ではない。

 兵吾は吹き飛ばされてすぐに姿勢を制御、亜空間ブラスターでゼロが切り裂いた傷口を重点的に攻撃し始める。そしてゼロは、纏っていた鎧をパージしていた。

 パージされた鎧と剣は変形し、合体、再構築される。そうしてゼロの左手に戻ってきたウルティメイトイージスは、弓と矢が融合したような形状をしていた。

 ゼロは吹っ飛ばされた後の自分の動きから、自分の意志を無言で汲み取って時間稼ぎをしてくれた兵吾に近寄り、ファイナルウルティメイトゼロモードへと変形したウルティメイトイージスを兵吾に手渡す。

 

「ヒョーゴ、こいつを使え」

 

《使え……って、どういうことだ?》

 

「こいつは構えてれば勝手にエネルギーが溜まる。お前が撃てるように調整もした。

 あいつが止まった一瞬を狙って、お前が撃つんだ。俺より多分、お前の方が確実に当てられる」

 

《止まった一瞬……って、まさか!》

 

「俺が突っ込んでヤツの足を止める! そこにぶち込め!」

 

 そして、とんでもないことを言い出した。

 

《待て! そんな危険なことやらせるわけねえだろうが!》

 

「へっ、このゼロ様を誰だと思ってんだ、絶対無傷で帰って――」

 

《さっきボロ雑巾みたいになってたのはどこのどいつだ》

 

「ぐっ、それ言うのは卑怯だろ!」

 

《お前は他人を守るために犠牲になれるタイプだ! 何を信じろってんだよ!》

 

 兵吾は仲間を使い捨てになんて出来ない男だ。

 だから、ゼロのその提案を蹴るのは当然だった。

 二人が言葉を交わす間にも、超巨大キリエロイドからの攻撃は絶え間なく二人に向かって放たれており、それだけで戦域を埋め尽くす勢いだ。

 時間は、そう多くは残されてはいないだろう。

 

「なあ、ヒョーゴ。俺達ウルトラマンは、ずっと昔から地球人(おまえら)と一緒に戦ってきた」

 

《……それが、どうしたんだ》

 

「俺の親父も、俺の師匠も、俺の仲間も、俺自身も。ずっと、ずっとだ」

 

 ゼロに死ぬ気はない。

 彼はただ、勝ち筋がもうこれしか残っていないことを分かっているのだ。

 だから行かせてくれと、言葉を尽くす。

 必ず帰ると、誓いを紡ぐ。

 今日出会った時にはゼロだったとしても、今はゼロではないと信じる、兵吾との間にある信頼と友情に懸けて。

 

 

「必ず生きて戻る。俺達を……ウルトラマンを、信じろ!」

 

《―――》

 

 

 その言葉は、きっとゼロも特別な思い入れのある言葉だったのだろう。

 この場しのぎの聞こえのいい言葉ではない、心揺らがす重みのある言葉。

 もしも本当に最悪の事態になったとしても、今ゼロが発した言葉をないがしろにしないために、ゼロは本気で生きて帰ろうとする。

 そう兵吾に思わせるだけの、熱く重みのある言葉だった。

 

《……信じるぜ、裏切るなよゼロ!》

 

「おうっ!」

 

 超巨大キリエロイドの攻撃を回避する二人の機動が、ある一点で交わる。

 その一瞬でハイタッチでもするかのように、ゼロは武器を兵吾に手渡した。

 そしてそれまで、超巨大キリエロイドを中心とした円を描くように動いていた二人の動きが変わり、ゼロは敵へ一直線に迫り、兵吾は敵から一直線に離れて行った。

 

『? 何か、企むか』

 

「てめえの相手なんざ俺一人で十分だってことだよっ!」

 

 いまだ左手のウルティメイトブレスから、ウルティメイトイージスのバックアップを受けるゼロが超巨大キリエロイドに接近、ワイドショットをいきなり顔面にぶち込んだ。

 効かないことは分かっているが、挑発目的というやつである。

 対し兵吾は遠距離からちまちまと怪獣を狩っていた仲間達、他のナイトウォッチ達と合流していた。

 

《皆、集まってくれ!》

 

《工藤くん、何かあったの?》

 

《どうしたマバロハーレイ》

 

《全員のナイトウォッチを直結して、この武器にエネルギーを注ぐんだ! 急いでくれ!》

 

《!》

 

 通信機越しにも、兵吾に仲間達の動揺が伝わる。

 兵吾は戦いの中でとんでもない作戦を何度も立案し、その度にそれらを実現させてきた。

 仲間達は兵吾が突拍子もない奴であることも、それを形にできる人間であることも知っている。

 何しろ彼は、人類史上始まって以来と頭に付く戦闘の天才なのだから。

 

 それでも彼らが疑問に思ってしまうくらい、その提案は奇天烈だった。

 

《武器の手応えから分かる……ギリギリ間に合わねえんだ!

 外側からエネルギーを供給してやらなけりゃ、ゼロが先にやられちまう!》

 

《それで私達のナイトウォッチのエネルギーを……なるほどね》

 

《……なあ、マバロハーレイ。そんなに急いで危険を犯す必要はあるのか?》

 

《何? どういう意味だフォッケゼメルト》

 

《あいつは俺達と同じ人間じゃない。守ってやる義理なんて無いじゃないか。

 自動でエネルギーが溜まるなら、それまでは生存を第一にしてさ……》

 

《俺達を守ってくれたゼロを、見捨てろって言うのか!?》

 

《……》

 

 マバロハーレイ、工藤兵吾は激昂する。

 フォッケゼメルトはあくまで人間の生存を優先するようで、ゼロの生存には興味がなさそうだ。

 リーパクレキス、景瀬観叉子は兵吾と同意見のようだが、それはゼロの生存を望んでいるからではなく、あくまで兵吾の味方であるからのようだ。

 ムーグニージイは沈黙を保っているが、兵吾は色好い返事は得られないだろうと考えている。

 他のナイトウォッチも、基本的にはフォッケゼメルトと同意見のようだ。

 

《また、ゼロに戻すのか!?》

 

 けれど兵吾のその言葉で、彼らを包んでいた空気は一変する。

 

《昔、まだ人間が地に足付けてた時……誰もが夢見てたはずだ!

 宇宙人と話し合って、分かり合って、助け合って、絆を紡ぐってやつを!》

 

 それは虚空牙に否定され、泡沫に消えた夢物語だった。今日までは。

 

《今日、そいつは"ゼロから"再出発したんだ!

 人類が初めて、遠い宇宙の彼方から来た宇宙人と仲間になって、助け合えたんだ!

 昔、地に足付けてた人が夢見てた光景は、今日ゼロじゃなくなった!》

 

 かつて人は、夢に見ていた光景が一度も実現せずに、ゼロのままに終わることを嘆いた。

 宇宙の絶対虚空を憎み、宇宙という何もないゼロの世界を罵倒した。

 虚空牙という宇宙からやって来た絶望が人の夢を奪い、そして今日、宇宙からやって来たウルトラマンという希望が人の夢を、ほんの少しだけ叶えてくれた。

 虚空牙に奪われた夢を、人の手に取り戻してくれたのだ。

 宇宙人と助け合い、友誼を結ぶという、その夢を。

 

《あいつを死なせたら、今日あったことは何もかもなかったことになるのと同じだろうが!》

 

《―――》

 

《もう一度言う。人類(俺達)ウルトラマン(ゼロ)の出会いを、ゼロに戻していいのか!?》

 

 かつて、人が地に足を付けて生きていた世界に満ちていた夢。

 それはある理由で、ナイトウォッチのコアたる彼らには軽んじられないことだった。

 それを夢見る人々の姿を彼らは知っていた。

 それを尊いと思う心があった。

 

 心が、彼らを奮い立たせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、あ、あ……!?」

 

『ウルトラマンとは、つくづく愚かなものだな』

 

 メリッ、と音が聞こえるような錯覚が発生する。

 音が伝わらないはずの宇宙空間でそんな錯覚が生まれるほど、痛々しい光景だった。

 超巨大キリエロイドは三本の指でゼロを摘み、サイズの差と力の差のせいでゼロは今でも押し潰されてしまいそうだ。

 サイズ差で言えば、ゼロはもはや人間に摘み潰される前の芋虫程度でしかない。

 ゼロは超パワー戦士・ストロングコロナゼロに変身し、エネルギーをありったけ肉体強化に回して耐えているものの、限界が近いことは見れば分かる。

 このまま行けば芋虫が潰されるように、ゼロの体は押し潰されてちぎれてしまうだろう。

 

『光のものよ。いつかお前達にも、終わりが訪れる』

 

「な、に……!?」

 

『未来を見通す我らには分かる』

 

 息も絶え絶えなゼロとは違い、キリエルの虚空牙は余裕綽々だ。

 キリエルの残滓が混ざった虚空牙は、ウルトラマンを見下しながら言葉を続ける。

 

『我らが人に与えたハンディキャップ、命を傷付かぬ結晶へと変え保存する奇蹟の力。

 死を回避させ、その生命を永遠の中に留める力。

 外宇宙へと旅立った人類を通して、遠い未来にその技術は悪へと渡る』

 

 虚空牙は時間軸すら超越する上位の生命体。

 キリエルによって純度を失ったこの虚空牙に、もはや未来と過去に意のままに干渉する力は残っていないが、それでも確定した未来を観測することくらいならば出来る。

 告げられる未来に虚飾はない。それは彼らが見て来た、未来の真実。

 

光は(スパーク)人形達に(ドールズ)。お前達の滅びが、我らには見える』

 

 それは遠い未来の、銀河の物語。

 どんなものにも永遠はなく、ウルトラマンであってもいつか、この宇宙を守るために飛び回ることが出来なくなる未来が来るという、あまりにも残酷な真実の通告でもあった。

 

『それでもお前達は、その愚かな在り方を続けるのか?』

 

 そしてゼロを摘む指に込める力を、また増した。

 

「ぐあああああああッ!!」

 

 ここまでなのか、とゼロが自分の死期を悟ったその時。

 超巨大キリエロイドが、キリエルの虚空牙が、宇宙の彼方に目をやった。

 そこには十機のナイトウォッチと、先頭に立つマバロハーレイが構える弓矢がある。

 ナイトウォッチも、構えられた弓矢も、共に迸るエネルギーからか光り輝いていた。

 

『なに?』

 

 どのナイトウォッチにも、強制された気配はない。

 つまりは皆が己の意志で、マバロハーレイに力を貸していた。力を注ぎ込んでいた。

 弓矢に集めるという形で、皆が力を合わせていた。

 

『バカな!?』

 

 ナイトウォッチは超光速戦闘機。

 そのエネルギー量は尋常ではなく、一機で一億の人間が一万年の文明と歴史を重ねる間、物資食料燃料……あらゆる意味で彼らを養うことが可能なほどだ。

 それが十機も力を合わせたならば、そのエネルギーの総量は絶大。

 しかし、虚空牙が驚愕したのはそんな点ではない。

 

 彼らの集めたエネルギーに、ウルトラマンの光線と同じ『物理的破壊力では測れないもの』が混ざっていたこと、言い換えるならば。

 人間達がエネルギーに乗せ、『光』を注いでいたことに対しての驚愕だ。

 

『何故光の者でもない貴様らが、虫けらと変わらない貴様らが……!?』

 

「はっ……ぐっ、心の無い虚空牙と…キリエル、じゃ、分かんねえだろうなあ……」

 

 ゼロを押し潰そうとしていた指が押し返される感覚に、超巨大キリエロイドは息も絶え絶えであった、しかし先程よりも力の増したゼロを見やる。

 

「人は皆、自分自身の力で光になれるんだ、よっ……!」

 

 ゼロの力は増したものの、脱出できるほどではない。

 このまま力を更に込めて潰してやる、と超巨大キリエロイドは指に力を込めようとし―――その中指を、亜空間ブラスターに弾かれた。

 

『何!?』

 

 それは擁護のしようもなく油断。

 ナイトウォッチがいつの間にか十機でエネルギーを注いでいるのではなく、九機でエネルギーを注いでいて、一機が回り込んでいたことにも気付いていなかった。

 飛び抜けて強いゼロとマバロハーレイに注意を払い過ぎた、心がなかった時の虚空牙ならば絶対にしなかったようなミスだった。

 

《こちらムーグニージイ。

 さっきは虚空牙かと疑って悪かった、ウルトラマン!

 そこからさっさと逃げな!》

 

「ありがとよ!」

 

 一本指が外れたならば、ゼロも脱出するのは容易。

 先程ゼロを疑って倒そうとしていたナイトウォッチに礼を言い、ゼロもその場を飛び去った。

 

「遠い未来、俺達ウルトラマンが一人で何もできなくなったとしても!

 飾られるだけのお人形みてえに無力になっちまったとしても!

 ウルトラマン(おれたち)はまた地球人と力を合わせて乗り越えてやるさ!」

 

 ゼロが逃げ、助けたムーグニージイも仲間の下に帰還した。

 そうして、射線が空く。仲間を巻き込む心配がなくなる。

 

「てめえが人間の価値を語ろうなんざ、二万年早いぜ!」

 

 この瞬間を、ムーグニージイを行かせた工藤兵吾は待っていた。

 

《くたばりやがれ! これが! 俺達の!》

 

 弓と矢が一体化したような形状の、ウルティメイトイージス・ファイナルウルティメイトゼロモード。工藤兵吾/マバロハーレイはそこから発せられる光の弦を引き絞り、狙いを定める。

 そして、叫ぶように。

 

《光だッ!!》

 

 その弓矢を、解き放った。

 

『にんげ―――』

 

 弓と矢は一体となって飛翔し、翼の生えた剣のように一直線に飛んで行く。

 その速度は光を置き去りにして、光速度の5000倍のナイトウォッチですら防御不能、回避不可能であるほどの威力と速度。

 だが、虚空牙は回避した。

 

《な、に―――!?》

 

 同一時間軸の別空間座標への転移。

 空間転移のゼロ時間移動よりも更に短い時間単位での、時間跳躍を用いた擬似空間転移。

 マバロハーレイが放ったウルティメイトイージスは、超巨大キリエロイドがさっきまで居た場所を、今超巨大キリエロイドが居ない場所を抜けて行く。

 

『貴様らの考えなどお見通しだ。そんなもの、当たるわけが――』

 

「俺を忘れてもらっちゃあ困るぜ!」

 

『――なに!?』

 

 だが、抜けて行ったウルティメイトイージスをゼロは左手首のウルティメイトブレスレットでキャッチ、元々そこにあったウルティメイトイージスは綺麗に収まる。

 そしてゼロは発射の勢いを殺さないよう受け止め回転。

 Uの字を描くように軌道をねじ曲げ、ウルティメイトイージスを再発射した。

 超巨大キリエロイドが振り向いたその瞬間、その胸の中央に銀の弓矢が突き刺さる。

 

『が―――』

 

 ウルティメイトイージスは着弾と同時に、超光速で回転を始める。

 光を放出しながら回転するその光景は、まるで光のドリルのようだ。

 全てのナイトウォッチと、ゼロの力を合わせた一撃が。

 人類と、ウルトラマンの力を合わせた一撃が。

 

 この宇宙を支配する、人類の敵に突き刺さる。

 

『―――あぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』

 

 ウルティメイトイージスが超巨大キリエロイドを貫通し、その身に亀裂を走らせる。

 亀裂の内から赤い光が漏れ、ひび割れが広がっていき、そして走る閃光。

 大爆発。

 宇宙の虚空を埋め尽くして余りある大爆発が、この戦いの決着だった。

 

 兵吾はそんな爆発の中、最後の最後で。

 

『……感謝する。お前達は我らの疑問に、我らが求めた反響(エコー)を返してくれた……』

 

 そんな声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……終わった、の……?》

 

 爆発が収まった後、最初に口を開いたのは景瀬観叉子だった。

 

《ああ、終わったはずだ》

 

「へへっ、見たかヒョーゴ? 俺の超ファインプレー!」

 

《俺野球にはいい思い出ねえんだよ、ゼロ》

 

 戦いが終わり、危機は去った。

 ゼロはイマジネーターと名乗った女が告げた危機が去ったことを感じ取る。

 導かれるような、誘導されるような感覚がなくなったからだ。

 これで兵吾の命の危機は去り、ひいては人類滅亡の危機も去ったということなのだろう。

 

 ゼロの役目は終わった。ならば後は帰るだけだ。

 まだまだベリアルの銀河帝国の残党は根強く、ゼロはまた元の宇宙での戦いの日々に戻らなくてはならない。

 だが、とゼロは迷う。

 ここで戻っていいのだろうか、と彼が思ったのも仕方のない事だろう。

 この宇宙の人類が、虚空牙という脅威に晒されている現実は、何も変わってはいないのだ。

 兵吾達地球人を守るため、この宇宙に残って戦うべきなんじゃないかと、お人好しで背負い込みがちなゼロは迷ってしまう。

 

「……」

 

《あら、どうかしたの? ゼロ。工藤くんが何か失礼なことを言ったのかしら》

 

「……いや」

 

《……》

 

 それを読み取ったのは、今日ゼロと誰よりも長く共闘した兵吾。

 兵吾はゼロの友人として、そしてこの世界に生きる人間の一人として、ゼロの背中を押す。

 

《ゼロ、お前は帰っても大丈夫だ》

 

「なに?」

 

《この世界の人間のことは、この世界の人間で何とかする。

 この世界の人類の未来は、この世界の人類で勝ち取る。それがスジってもんだろ?》

 

「だが……」

 

《俺達はこれまでも滅びなかった。今日も滅びなかった。明日も滅びたりしない。

 俺達(じんるい)は滅びたりしない。こんな中途半端なところじゃ、絶対に》

 

「ヒョーゴ……」

 

 ナイトウォッチ・マバロハーレイのコクピットの外部が稼働する。

 兵吾の操作で外部装甲が展開し、キャビンブロックのキャノピーが二次段階まで露出した。

 透明な装甲だけがそこに残り、ここに初めて兵吾とゼロは生身の自分同士で顔を合わせる。

 

《やっぱ自分の目で見ても、仏像みたいな顔してんな、ゼロ》

 

「へっ、そう言うお前も思った通りのふてぶてしい面構えだぜ」

 

 そして、二人揃って笑う。

 

《なあ、ゼロ。俺の旅はどこに辿り着くかなんて分からない。

 だけど、人類がどこかに辿り着こうとする歩みを止めないのなら……

 きっとお前達の宇宙にだって辿り着いて、お前達を助けに行くはずだ》

 

「!」

 

《この絶対虚空の宇宙の暗黒の中で、人類が孤独じゃないって証明するために。

 人類の夢。宇宙人と助け合って、支え合って、ここではないどこかに向かっていくために。

 助けに行くだけじゃなく、助けを求めに行くって場合もあるかもしれねえ。

 だけど人類(おれたち)は必ず、ウルトラマン(おまえら)に会いに行く》

 

 人が人であるのなら。

 人が歩みを止めないのなら。

 ウルトラマンというものを知った人類は、宇宙を越えてウルトラマンに会いに行くだろう……そう、工藤兵吾は確信を持っている。

 

 兵吾は透明な装甲に、拳を軽く打ち付ける。

 ゼロも意図を読んだのか、装甲を傷付けないよう、そっと透明な装甲に拳を打ち付ける。

 透明な装甲越しに、二人の拳がコツンと打ち付けられた。

 

《待ってろよ、ウルトラマン》

 

「待ってるぜ、地球人」

 

 マバロハーレイは装甲を再展開。リーパクレキスを引き連れて移民船の下へと帰る。

 ゼロはそれに背を向けてウルティメイトイージスを纏い、宇宙の壁を再度越えた。

 

《じゃあな、ゼロ》

「じゃあな、兵吾」

 

 それが奇跡のような出来事によって出会い、言葉にせずとも友となった男二人の、最後の別れの言葉となった。

 

 

 

 

 

 宇宙を越えたゼロは、ウルティメイトイージスをブレスレットの中に収める。

 

「さて、本拠地(マイティベース)に帰って休むか! あいつらサボってなきゃいいんだがな」

 

 宇宙の虚空を飛びながら、ゼロは左手首のウルティメイトイージスを見やる。

 そこにはナイトウォッチの世界に行く前にはなかった、新たな光が宿っていた。

 其はナイトウォッチの光。工藤兵吾達の光。

 ゼロも今は気付いていないが、いずれは気付く時が来るだろう。

 

 その光が、『輝きのゼロ』を彼の力として定着させたということに。

 

「おーいそこのにいちゃん、ちょっと待ちな」

「こいつウルトラマンだぜ兄貴!」

「へへ、とっ捕まえてスライ様のとこに連れてけば出世間違いなしだ!」

 

「ったく、休みてえと思ったそばからこれだ」

 

 そこに現れる、ベリアル軍の残党。

 どうやらどこかの星人のようだが、間違いなく弱っちい下っ端であろう。

 ベリアル軍で名のあるものなら、ゼロの顔を見て分からないわけがないのだから。

 

「あれ、こいつ……」

「どうした?」

「いや、まさか……手配書で見た覚えが、まさか……」

 

「てめーらの帝国をぶっ潰したウルトラマンの顔も分かんねえのか?」

 

「「「 ま、まさか! 」」」

 

「知らねえんなら教えてやる!」

 

 光り輝くその瞳、流星の如き胸のマークが光輝き、夜を視る。

 

「俺の名はゼロ! ウルトラマンゼロ! セブンの息子だ!」

 

 君の名は、ウルトラマンゼロ。

 

 

 

 

 

 かの宇宙では、終わりの見えない虚空牙との戦いがまだ続いていた。

 この世界にウルトラマンはいない。

 けれど戦う意志を持った人類と、ナイトウォッチがここに居る。

 

《そういえば景瀬、結局俺達の次の目的はどこなんだっけか》

 

《私、今日何回その質問されるのかしらね……まあ、いいけど》

 

 ゼロが去った後、ナイトウォッチの搭乗者達が戦闘から日常に戻るまでの僅かな時間。

 周囲を警戒するためだけのその時間に、工藤兵吾はそんなことを問う。

 景瀬観叉子は呆れたように、他のナイトウォッチ・コア達も知る当たり前の事実を兵吾に告げた。

 

《『M78星雲』よ》

 

 『光の国から来たウルトラマン』とゼロに自己紹介された二人には、心の中に何も引っかかることのない、その星雲の名を思い返しながら。

 

《M78星雲、か》

 

 そこで彼らが何かに出会うか。

 あるいは地球人のことをその日まで知らなかった者達に出会うか。

 かつては地球人と似ていたというウルトラマン。人類は、M78星雲に安住の地を見付けられるのだろうか。

 可能性は多々あれど、人に未来は分からない。

 

《……結局、ウルトラマンって何だったのかしらね》

 

 景瀬観叉子は唐突に、工藤兵吾にそんなことを呟いた。

 ナイトウォッチのコアである者達の多くも、移民船に積まれた人間以上に高度なAIも、ウルトラマンが何であるかという問いには答えられないだろう。

 

《そんなの、決まってる》

 

 けれど、未来と過去の全ての人類の中で、一つの頂点に立っているこの男ならば。

 ウルトラマンゼロと友であった彼ならば。

 工藤兵吾なら、彼女の問いに最もふさわしい答えを返すことが出来る。

 

 

《『正義の味方』ってやつさ》

 

 

 その答えを聞き、景瀬観叉子は驚きと納得を表情に浮かべ、笑い、ただ一言。

 

《素敵》

 

 そう言って、通信を切るボタンを押した。

 

 

 

 

 

 無限に広がる空の闇の彼方。

 無数に煌めく星屑空の彼方。

 無情に佇む虚空の蛻の彼方。

 

 そこに、君にも見えるウルトラの星があるのなら。

 宇宙を往く者達にとって、それはどれだけの救いとなってくれるのだろうか。

 ゼロから始める新天地を探す人類、虚空牙、ゼロの名を持つウルトラマン。

 

 三つのゼロの物語。

 

 

 




ウルトラゼロファイト二部→この作品→ギンガ→十勇士

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。