八月なので旧約一巻より後ですね。
暑い、暑い、暑い!
暑いのはホント嫌い!
何でこんな季節が世界に存在しているのよ。
ずっと春か秋でいいのに、生きるのに不便すぎるんじゃないかしらこの地球のシステムは……。
文句を垂れながら、第七学区の道を歩く。
とはいえ、もう少しで地下街に入れる、そうしたら少しはましにもなるだろう。
「そういえば、夏期都市水害防止プログラムとかいうあの神イベントはまだかしら? しばらくこんな暑っ苦しい制服着なくても水着で外歩けるから好きなんだけどなあ……」
泳げない人間には申し訳ないんだけど、私のように心待ちにしている人間だっているのよ。
もし、その人たちが上層部に苦情でも入れようものなら全力で潰しにいくけどね。
「やっと地下街か。……あ~でも日差しがない分、まだいいわ」
地下街への階段を降りる。
夏休みのせいか、なかなかの賑わいで、空調が効いているのか効いていないのか分からないくらいの熱気があふれていた。
「えっと、演算さんの指定場所は……っと」
スマホのメール画面を開き、送られてきた内容を確認する。
場所はこの第七学区地下街……の……。
「何よここ……?」
私は目をこすったが、見間違えているわけではないようだ。
文字化け、にしては高度な化けかただ。
「…………とりあえず、行くしかないわね」
暑さでただでさえ重い足取りはさらに重くなった。
*****
「いらっしゃいませ♪コスプレ希望ですか?それともご飲食のほうでしょうか?」
私の目の前で、アニメでみる様なゴスロリ服の店員さんが丁寧な接客をする。
そんな格好で……苦労してるんだろうなあ、この人も。
「い、いえ、その待ち合わせなんですけど……あっ」
見ているこっちが恥ずかしくなった私は、店内を見渡しようやく彼の姿を発見する。
そのまま、怒りに任せ演算さんの元へ突っ込む。
「ちょっと!? 何なのここは!?」
「オオ、キタキた! 何ってコスプレ喫茶ですよ? 私のお気に入リデス」
「いや、それは見れば分かるわよ! なんでここが集合場所なのかを聞いてるの!」
「ハッハッハ、それはですね。……おっと、コレはまだ言ってはいけないのでした。ミホちゃん、あれを持ってきてクダサイ」
演算さんが隣に座っているメイド服姿のミホと呼んでいる女の子に言った。
なぜかその子に睨みつけられる私。
「その子は……おにいちゃんのなんなの?」
ヤンデレ属性!? しかも、おにいちゃんって……。
身長は私より小さいからそう見えるけど。
顔も体格もどことなく那由他ちゃんに似てる気がする。
「オオウ、怒ラないでください。私と彼女はなんでもないのですよ。だから、お願いします。あれを持ってきてクダサイ?」
はーい、とやたら甘ったらしい声で、この場を離れるミホさん。
そして睨まれる私、多分そういうキャラ作りなのね。
「演算さん、あなた、ヤンデレ妹好きだったの。ドン引きだわ」
「ナンデスト!? いいではありませんか! 私は性癖を隠したりなどはしませんですよ? ていうか、愛されているなら私は妹に殺されても幸セデース」
「ごめん、多分私、今までとは違う目であなたを見ることになると思うわ」
ジト目で彼を見る。
演算さんは本当に特に何も気にしていないようで、いつもの調子のまま話を続ける。
「ハイハイ、ソれでは本題です。私がここに来た理由ですが……。おおう、丁度持ってきマシタネ」
ミホさんが持ってきたのは服だろうか、しかもやたらヒラヒラとしているような。
「アナタニハそれを着てもらって、家政女学校で一日研修をしてもライマス!」
「ちょっと待ちなさい。理由を聞かせるところから始めなさいよ」
家政女学校って……メイド用の学校とかいうエロゲみたいなとこよね?
私のレベルを上げることと何の関係があるというのか。
「アナタノ能力の希少性については前話しマシタネ?」
「ええ……それが何なの」
「後、アナタニ足りていないものは社会への実用性とそして貢献力、この二つです。だからこそ、あなたにはそこで人間への奉仕の心を学び、人への役立ち方を知り、それを実行すれば学園都市上層部もきっとあなたへの態度を改めることデショウ」
「……言っていることはなんとなく理解できたわ。なんかずれている気がするけど」
「オウ? 気ノセいですよ。さあ、そうと決まったら着替えるのです。サア早ク!」
演算さんはメイド服を持ちながら近づいてくる。
その目はキラキラと少年のような輝きを帯びていた。
なんだか面倒なことになってきたような気がする。
*****
「オウオウ!コれはこれは……。お似合いですよ、菜優花サン」
「あのねえ、舐めまわすように見ないでくれるかしら」
メイド服の着用は家政女学校の義務だと昔、友人から聞いたことがあった。
私達が普段着ている制服のようなものなんだろう。
こんなものを普段から身に着けるとか、自分には絶対無理ね。
暑いし、動きにくいし……。まあ、かわいいとは思うけど。
「身長、体重、スリーサイズ調べておいて正解デシタネ」
「どこで調べたのよそんな物……」
この人には何でもお見通しのようで、この間なんか昨日食べたものから見ていたテレビ番組、パソコンのウェブサイトまで当てられたときはさすがに戦慄した。
ここまでくると、もうストーカーのレベルはとっくに振り切ってると思うんだけど。
「私ニ菜優花さんのことで分からないことはほとんどありません。なぜなら私は」
「菜優花さんの最高最強のマネージャーだカラデース! でしょ?」
「オオウ、その通り! では菜優花さんさっさと行きマショウ」
演算さんが私の手を引っ張り、店を出ようとする。
と、思いきや演算さんの動きが止まる。
「オウ? 菜優花さん? なぜそんなに強く引っ張るのです? やはり行きたくないノデスカ?」
「はあ? 私、そんな……力……入れてな……い……」
ここで気づいた。
演算さんの白衣に伸びている手。
私の手は演算さんが握っているから自分のではない。
チラッ、と手を伸ばしている人間の方を見る。
そこには先ほどのミホさん。
確かこの人は……
「ちょっとおにいちゃん。この人とどこへいくつもり? ねえ、おねえちゃん? 私のおにいちゃん泥棒しようっていうなら……殺すよ?」
ヤンデレ妹ミホさん(キャラ)が私を睨みつけ、威圧する。
キャラなのは分かるけど、普通に怖いから! なんでこの店はクレームが来ないのか不思議なくらいなんだけど!?
「ひぃっ、ちょ、ちょっと! 演算さん、アンタの妹でしょ!? 何とかしてよ!」
「オオウコレは私の待ちに待ったシチュエーション、ヤンデレっ子による修羅場ですね! さあ、私をナイフでブッ刺しに来るのです!」
「アホ! こんな時にそういう性癖は出なくていいの! 早く手を……」
ミホさんの手を振りほどこうと私が引っ張るがビクともしない。
ていうか、ホントに怖いからそのハイライトを失った目でこっちを見ないで!
「仕方ナイデすねェ……ミホさん
演算さんが謎の暗号を言うと、ミホさんは白衣から手を離した。
「……お客様、次は何がよろしいでしょうか」
先ほどの彼女とはうって変わり、怖いくらいの無機質な声でそう言った。
本当の彼女はこっちなのだろうか。
「私達ハ帰リますので、もう大丈夫ですよ。今日もありがとうございました。楽しかったですよ、また会いに来マスネ」
「いえ、楽しめていただけたのなら何よりです」
ミホさんは丁寧なお辞儀と接客業において満点の笑顔でお礼をいう。
「ところで、演算様。私、家政女学校のほうから命を受けていまして」
「ホウ? ソレハまたどウイッタ?」
彼女はポケットから取り出した紙を広げこちらに見せる。
「繚乱家政女学校特別一日研修コース、担当のミホ(仮称)です。よろしくお願いします、小夜啼菜優花さん」
夏期都市水害防止プログラム……新約十一巻 学園都市で夏に行われる、街全体をつかった防災訓練。街をわざと水没させることで道は流れるプールのようになり、水着を着て泳ぎながら移動することが必要。