「ミホさん、ところでどうして私達があそこに来ると知っていったんです?」
「超スーパーメイドですから。当然です」
家政女学校に向かう歩を進めながら彼女は答えた。
「ヤッパリ、メイドさんは凄いですね! 見習いたいモノデス」
「アンタは見習わなくていい、余計なことまで調べ始めそうだから」
過剰ともいえるほど私の生活を監視している人がこれ以上レベルアップされるのは私の精神衛生上、大変よくない。
「ここですよ」
ミホさんが止まり、指をさす。
案外、普通の学校だ。とんでもない敷地のとんでもないほどの豪華な飾りのかかったところだと思っていたが、質素という言葉がふさわしいくらい何の変哲もないところだった。
「『学舎の園』より、目立ってはいけませんからね」
「……ナチュラルに思考を読まないでください、
「いえ、ここに来た人は大体そんなふうに思ってますから、さあ中に入りましょう」
ミホさんが校門脇の扉を開け、私達と中をくぐる。
そのまま、校舎への道を歩く。
夏休みにも関わらず、生徒はメイド服を着たまま活動していた。
ミホさん曰く、『真のメイドさんには休息はいらない』という校則が存在しているらしく、夏休みどころか土日の休みすら存在しないのだという。
到底、自分には向いていないと感じた。
というか、ここに向いている人というのはどんな人なのだ。休みもなく人のために全てを尽くす、お人好しと言われたことのある私だが考えられないと思った。
「ホントニ休みがないんですね。ただの心構えのだと思っていマシタガ」
「当然です。超スーパーメイドになるためには休みなど取っている場合ではないですし、そもそも要らないのですよ」
校舎のガラス戸を開け、中を進む。
校舎内も学生さんがせっせと学習に励んでいた。
窓ガラスの拭き方を教わっている者、わざと絵の具を付着させた壁で汚れ落しの仕方を学んでいる者、様々だ。
そして、ミホさんは第四学習室という部屋へ入り、私達もそれに続けて中に入る。
「改めまして、ようこそ
「はい、よろしくお願いします」
人への奉仕の心、それを学べば私への評価は変わる……といいなあ。
でも、せっかく演算さんがこんな貴重な舞台を用意してくれたのだ。変わろうが変わらなかろうが、やるだけだ。
「それでは、あなたには今から私と模擬戦をやっていただきます」
…………はい?
「え、あの…………何を?」
模擬戦?
どうして? いやいや、メイドに戦闘力って必要あるの、そもそも!?
「演算さんこれはどういう」
「オウ? ソレデは私は外の方で目の保養をしてきますね。ゴユックリー」
あの野郎、逃げやがった!
「質問などしても、相手は待ってくれませんよ」
ミホさんが自分の目の前に気づかぬ間に接近していた。
彼女は正拳突きを放ち、私に当たる寸前で止める。
「菜優花さん、コレで一回あなたは気絶しました。この間にあなたの主人は連れ去られてしまうのですよ」
ミホさんは拳を下ろし、バックステップで後ろへ下がる。
「演算様から、あなたは能力者だと聞いています。出力など気にせず使ってくださって結構ですよ、この部屋少し頑丈なものですから」
……仕方ない、ならちょっと暴れるのも良いかもしれないわね。
あの人はなんだかヤバイ感じがする。
「わかりましたよ、やればいいんでしょやれば!」
私はまず駆ける、とりあえずモノ探しから始めなくては。
自分の能力では空気中から作るには遅すぎる。
この第四学習室は、多分彼女の言い方から察するに模擬戦用なのだろう。
要人の秘書室のような場所に設定されている。
なら、何かしらあるはずだ。
「あった!」
秘書室の机の中にしまわれたノートパソコン。
少し面倒だが、これがあれば武器にはなる。
「残念ですが、拳銃やナイフの類はさすがに置いておりません。リアリティには欠けてしまいますが、生徒の安全のためですので」
「そんなもの私には必要ないですよ」
ノートパソコンを地面に叩きつけ基盤を露出させ、それを本体から引き抜く。
そして、液晶画面も邪魔だと雑に取り外す。
残ったのはキーボードと画面の枠のプラスチック。
「形状を変える……!」
両手で握ったノートパソコンのプラスチックは溶け、形を変えていく。
それを一本の棒状に整え、やがて長さ三十センチ、太さ三センチほどの大きさになった。
「後は、材質!」
棒の端と端を握る。棒の重さが少しずつ増していくのを頭で感じ取った。
プラスチックの棒を鉄に変えたのが成功したようだ。
「よし!」
私は片手で持ちそれを振り上げ、地面に叩き下ろす。
重さも音も鉄そのものだ――色はそのまま引き継いでいるので黒のままだが。
「へえ、これはまたおもしろいものをもっていますね」
どうやら能力持ちだとは聞いていた様だが、中身までは知らないみたいね。
演算さんの口が軽くなくて良かったわ。
「モノの材質と形を変える能力でしょうか……『モノ』というのがどこまでの範囲なのかはまだ分かりませんけどね」
大体、そんなところだけどそれだとまだ八十点ってところかな。
もちろん教えるつもりはないけど。
「超スーパーメイドたるもの、武器の対処くらいは心得ているんでしょう?」
「当然です。私は超スーパーメイドですから」
繚乱家政女学校……土御門舞夏の通っているメイド学校です。
設定では第七学区にあるとか。