あれから三十分が経過した。
ミホさんの攻撃を私は鉄の盾と鉄の剣と能力を使ったトリッキーな攻撃で全ていなしていた。
彼女はこれほど動き回っているにも関わらず、息すら上げていない。
対して、私はミホさんほどの体力もなく、能力を使用しているため疲れが溜まってきていた。
それでも相手は手を休めず攻撃してくる。
これはどう見ても私の不利、でもこんなのは想定の範囲内だし、計画通りなのだ。
そう、私の剣と盾、大きさが先ほどに比べてかなり大きくなり、盾はもう持ち上げるほどの重量ではなく盾というよりはただの塊と呼べるほどになっていて、棒の剣に至ってはもう電柱のような大きさと太さで天井に届きそうなほどだ。
動かすことができないなら避けられないじゃないか、と思うかも知れないがそうではない。
そもそも動かす必要がないのだ。
能力によって、形状を自由に変化させ、攻撃の来たところへ盾を伸ばし、スキができたのならそこへ棒を伸ばし、攻撃を加える。
だが、それもこれだけ大きくなると話は変わってくる。
「そろそろ、ね」
私はつい笑みをこぼす。
そう、あれだけ続けていたミホさんの攻撃回数は少しずつ減少していた。
ミホさん自身もそれに気づいているだろうし、理由もわかっているだろう。
私は棒と盾を伸ばし、攻撃と防御を行っていた。
まるで触手のような動きをしていたそれは盾と棒が大きくなるにつれ段々と本数を増やしていたのだ。
「これは……マズイかもしれませ……くッ!」
ちょっとずつ、ちょっとずつ優勢の針はこちらに向いてくる。
そして、とうとうミホさんは攻撃を避けることだけしかできなくなってしまった。
完全にこちらの術中にはまっている。
ここまでくればやることは決まってくる。
攻撃のみに専念、能力の使用も鉄の成長は抑えることにする。
「本数が多すぎる……! あっ」
ミホさんの足を棒の鉄触手が捉える。
そして、地面に引き倒し、別の触手を使い拘束する。
「詰みですねミホさん」
私は棒に手を触れたまま彼女に言う。
「……そのようですね」
彼女を拘束していた棒を解く。
ミホさんは引き倒されていた地面から立ち上がる。
彼女の顔はずっと無表情だったのだが、このときばかりはさすがに悔しかったらしく少し顔に出ていた。
「お見事です。……これは負け惜しみではないのですが、要人を護衛するときの戦闘には少々使いづらいですね」
「はい。まあ、使おうと思えば床や壁のコンクリートや、ガラスなんかも使うことはできるのですが、それをやると建物にダメージがいってしまうのでさすがにやめました」
とはいえ、実際の戦闘時にはそんなの躊躇はしていられないため、もしそんなことになればおそらく自分ならやっていただろう。
だが、これを言えば手を抜いていたというようにも聞こえるため私は黙っていた。
「そうそう、あなたの能力ですが……」
思い出したようにミホさんが言う。
「あなたが弄ることができるのはモノというくくりではない……のでしょうか?」
「そうです。物体と区切ってしまうと分かりづらくなりますね。正確に言えば……原子です」
「原子……ですか」
「はい。細かい話だと難しくなってしまいますので大まかな部分だけで説明しますが、私の能力でできることは三つあります」
細かい理論はあるのだが、それは口で説明するのは難しすぎる。
「一つは、固体、液体、気体の原子を別の原子に変えることができます。二つ目は原子と原子を無理やりくっつけ分子を作ることができます。簡単な例えだと、酸素を燃やさなくても二酸化炭素を作ることができるということです。そして三つ目はその逆で、分子を無理やり原子、一つ一つに引き剥がすことができます。こちらも簡単な例えで表しますが、塩酸を水素と塩素に分けることができるんです」
長くなってしまったが、仕方のないことなのだ。
先ほどの私がやったのは、一つ目と二つ目の能力だ。
プラスチックという物質の結合している分子を分解する。さらにそこから原子一つ一つに分解し、その全ての原子を鉄に変える。
これが私の行ったことの全てだ。
しかし、ミホさんは納得がいかない顔で私に再び質問を投げる。
「それでは、鉄を伸ばしたり、動かしたり、というのは何なのでしょう。別の能力……というわけではないのですよね?」
「あれは能力の応用です。弄った原子を自分の触れている物の好きな場所に付け加えることもできるんですよ。それの座標を同じ場所に指定し、伸ばしているように見せているだけなので動いているというのは間違いですね」
粘土遊びで例えよう。
手元に丸く固めた粘土がある。
その球体の面のどこかに点Aを設置する。そこに点A以外の部分から粘土を千切り、点Aにくっつける。
それを繰り返すことで、伸びたように見せているというわけだ(縮ませる場合はその逆を行えばいい)。
まあ、形も自由で、伸ばし、縮ませも自由という考えで特に問題はないのだが。
「これが私の能力。
「原子変換ですか……中々難しい能力ですね。扱うのも面倒かと思いますが」
「はい……。演算処理も多くて頭が痛くなるんですよね」
元々、体力が少ないのもあるのだが私の息が早々に切れ始めたのにはこういう理由があった。
「とりあえず戦闘に関してはギリギリ合格ですね。おめでとうございます」
「え……あ、ありがとうございます」
まあ、時間掛かり過ぎなのは確かだしね。
多分、四十分くらいはかかっている。彼女が手ごわいのもあったが、一人の敵の排除のためにこんなにかかっては人は守れない。
メイドは世話焼きと同時に護衛もできなくては意味がないのだろう。
でも、これははたして必要あったんでしょうかねミホさん?
「さて、そろそろ他の研修に移らなくてはいけませんね。ではまずここの掃除です」
「いやここそれなりに広いですけど……終わるんですか?」
「大丈夫です。超スーパーメイドの私にかかればあっという間ですよ」
掃除は苦手なのだが、仕方ない。
ミホさんがいつの間にか持っていた箒を手に取る。
がんばろう、自分の価値を上の連中に教えてやるために。
もっと細かい能力の理論については後々。
かなり複雑なんですよねえ……