「……………………」
「……………………」
え、何この空気は。
私はマジな話をしただけなのに、この拍子抜けみたいな顔は。
「アホくせェ」
一方通行は杖をつきながら、ドアへ向かい始める。
「ちょっと待って! まだ、続きが……」
「表の人間の話なんざ一ミリたりとも興味ねェよ。後、オレと暗部の人間には二度と関わるな。オマエみたいに楽しく表の生活できるうちはこっちに来るべきじゃねェ。表と裏は住み分けするべきだ、一部のヤツを除いてな」
彼は私にそう忠告する。
裏の人間だからこそできるものなんだろう。
でも、そんなことで諦めるわけにはいかない。
私は強くならなくちゃいけないんだ。
そのためには一方通行という最強を知らなくてはならない。
そして、それを達成するためだったらどんな事だってしてやる。
「お、おい! 待てって一方通行!」
ツンツン頭の男は一方通行を追いかけ、引き止める。
しかし、彼の足は止まらない。
「おい、三下ァ。オマエはオレを引き止める立場じゃアねェはずだ」
「いや、でも……」
「さっきも言ったがよォ、助けたのはオマエだ、オレじゃねェ。関わってすらいない人間だったんなら、どうだっていい。オレの勝手だ」
そのまま、足を止めず歩き出す。
ドアを開けようと手を伸ばす。
しかし、彼の手が届く前に扉は勝手に開いた。
向こう側から誰かが開けたのだ。
一方通行と外の人間の目が合う。
私は向こうの人間を見てハッとする。
そして思わず口に出す。
「え、演算さん!?」
演算さんはその場を動かず、私を見る。
「菜優花サン、お怪我の方は大丈夫デスカ?」
「……はい。あと、ごめんなさい。勝手に飛び出していって……」
「マッタクデす。方法はともかくですが、あなたの行動は間違ってはいません。それにより一人の命とその他の人間の命も助かったのですから。ですが、今度から私の言うことはキチンと守ってくダサイネ?」
演算さんはそこまでお説教すると、一方通行の方を見る。
「ヤア、第一位。どこへ行くノデスカ?」
「……テメェには関係ねェ」
「ソウハイキません。あなたには彼女の話を最後まで聞く義務があります。彼女に暗部への興味を持たせてしまった、その責任を取ってもらうタメニネ」
どこで見ていたのか、彼には私達がここで何をしていたのかもお見通しのようだ。
一方通行は当然、それに応じることはなかった。
「オマエ、木原演算とか言ったなァ?」
「ソレガナニカ?」
「オレはあのクソッタレ一族が大嫌いでなァ。道を塞ぐようならぶっ壊しちまうが……良いんだな?」
「…………ヤメテオキなさい。私には効きませんよ、あなタノ
その一言は一方通行の怒りを買った。
彼の手が演算さんの腹へ伸びる。
ツンツンも止めようと、行動を起こすがこの距離では絶対間に合うわけがない。
一方通行の手が演算さんに触れる。
演算さんがその直後、壁に吹っ飛びひび割れるほどの威力で叩きつけられる。
と、なるはずだった。
しかし現実そうはならず、演算さんはその場に直立し、意識を保っている。
「…………は」
「ダカラ効カないと、申し上げたはズデスガ」
演算さんが一方通行を無理やり病室内に押し戻すかのように蹴りを入れる。
それは、ベクトルの反射を無視し腹に直撃する。
「ガハァ………………ッ!」
彼はうずくまり、腹部を押さえる。
無理もない、今まではベクトルの反射で攻撃はすべて打ち返せたのだから。
「……ヤハリ本体はただの少年のよウデスネ」
「テメエ、まさか
「残念デスガ、あんな高等技術は使っていません。攻撃を当たる直前で引き戻すなど数多のような変人でないと無理デスヨ」
……なんの話だろう、裏の話をしているのはなんとなく雰囲気でわかるのだが。
「あれは……オレと同じ…………?
ツンツン頭も呟く。
イマ……何とかは彼の能力なのかしら。
「オウ、君ハ菜優花さんを救っていタダイタ……」
「あ……上条です。上条当麻」
そういえば助けてもらったのに名前すら聞いていなかった。
……ちょっと失礼だったかな。
「キ、キミは何者だい? 彼のベクトル操作をものともせず近づいてくるなどありえないよ?」
カエルのお医者さんもさすがに驚いたようで、動揺しながら彼に問うた。
「……特異ナ体質なもので。ある人は『原石』と呼んでいマシタガ」
「『原石』……ねえ?」
「エエ、私ノ体からは『反AIM拡散力場』というものが出ているようなのです。それが彼の能力の発動を妨げたノデスヨ」
AIM拡散力場、能力者が意識せずとも発せられてしまう微弱な力のフィールドのことだ。
学園都市にはこれを使う人間もいるらしいが、まあそれは今は関係ない。
「AIM拡散力場って、能力者が出してるっていうあれだろ。ってことは、アンタは能力者ってことか?」
「イイエ。能力は持ってはいませんよ。ただ、生まれつき……だったようなのです。『能力』というものが発見され、AIM拡散力場という磁波が見つかって、初めて分かったことナノデス」
ツンツン、じゃなくて上条君の問いに答える演算さん。
実はこの話、前に一度聞かされたことがある。
実感が湧かなくて彼の目の前で空気中から鉄を精製してみたのだが本当にできなかった。
「なんだねそれは? 私でも……聞いたことがないけどね?」
「反AIM拡散力場とは、AIM拡散力場とは対になるものです。例えるなら、物質と反物質のような関係といったところでしょう。この両方がぶつかり合うと、対消滅を起こし消えてしまうノデスヨ」
「……キミの体から発せられている反AIM拡散力場が、一方通行のAIM拡散力場にぶつかり対消滅を起こし彼の能力もその影響を受け消えてしまった、ということかい?」
「ソウイウ解釈でよろしいかと思いますよ。私の力はまだあまり解明されていない所が多いのです。理論的には間違っていないと信じたいとコロデス」
そして、演算さんは地面にうずくまっている一方通行を見やる。
「サテ、一方通行。そのままそこで寝ているのも結構ですが、さっさと起き上がって彼女の話を聞いてやって欲しいのデスガネ」
「テメェは……オレに何がしてェんだ?」
「ダカラ、暗部に興味を持たせてしまった責任をアナタが取るべきだと、私は言っているのですよ。この子が二度とあんなところに触れられないように諭して欲しいというコトデス」
「責任もクソもオレには全く関係のねェことだ。第一、過去にアイツにあったことなんざ一度もねェんだよ」
「……『
「……!?」
「仮ニモ木原を冠していますからね。それなりにあっちの事情には詳しいのですよ。一方通行に感謝を抱き、そして憧れを持ってしまった彼女は自分からあの計画に志願したのです。彼女が実験体になる直前で私が方便を使い、うまいこと救い出さなければどうなっテイタカ……」
暗闇の五月計画のことは私も深く反省しているつもりだ。
私は彼にいち早く近づきたい、その一心だった。
他の木原、そしてその他の研究者は私を歓迎した。実験動物のラットのようなことをされようが私は全然構わない、当時はそう思い実験に参加した。
「トハイエ、ドちらにしろあの計画は途中で頓挫したようなのですがそんなことは関係ありません。菜優花さんは純粋でとてもいい子なのです。だからこそ、彼女は危ない。目標のための道を進むためなら、表、裏、どちらにだって転んでしまう。私はもう、この子に危険な道を歩ませたくありません! 一方通行、アナタが昔とある実験施設を壊したとき実はそこで彼女に会っているノデスヨ」
「…………知らねェな。ぶっ壊した研究所なんて両手の指じゃ足らねェくらいやってる。あいつらのことだって一々覚えてねェよ」
「デショウネ。たしか、アナタが一方通行の能力を手に入れて間もない頃です。実験施設を壊したあなたは被験者である彼女を見逃した。研究者を憎み、恨んでいるアナタは彼女に同情してしまったンデスヨ」
「……違ェよ」
「違イマセン。彼女がこうして今も生きているのはアナタのおかげなのです。でも、彼女が危ない道に走るのも同時にアナタの責任なのですよ。恩着せがましいかもしれませんが、助けた人間には助けた人間なりの責任が伴ウノデス」
「なんだよ、それ。アンタ、それ本気で言ってるのか!?」
上条君はそれを納得がいかないような顔で反論する。
「上条君……デシたね。アナタも大分、裏を知っているようですが……。じゃあ、アナタに聞きましょう。本来いけないことですが自分の家族がご飯に困っている状況で、父親が自分に保険金を掛け自殺すると言い出しています。アナタは止メマスカ?」
「止める。そんなのは間違ってるだろ」
「……ソレデハ、家族全員が飢え死んでしまいますが、いいのでしょうか? 家族のためにと自殺を図ろうとした父親を止めたアナタには父親の家族を守るという責任が乗っかってきます。それを承知で止めるのデスヨネ?」
「……それは……」
「ソウイウコとなのです、彼がやったのは。そして、私に菜優花さんという人間と出会わせてしまった。私は彼女を守ろうと思ってしまった。もし、アナタがその責任を放棄するというなら、私がアナタの首をふっ飛ばしてでも菜優花さんの話を聞カセマス」
「演算さん! あのことは私が悪いんだからもうそれ以上は……!」
「…………ケッ。面倒くせェやつだ……」
一方通行は立ち上がり、近くの丸イスをとりその上に腰掛ける。
「……面倒だが、仕方ねェ。オレにも甘い部分があったみてェだしな。話聞くだけだってンならそれで良い。だが、オレに諭してやるだとかそんなことは期待するな。……あくまで話を聞くだけだ」
「……別ニ構イマセンヨ」
演算さんは私の方を見て、続ける。
「彼ガソウ言っているので。……お願いシマスネ」
「……ええ」
そして私は彼との物語の続きを語る。