演算さんと私が来たのはまっ平らな土地。
あるといっても、何かの記念碑のようなものが立っているだけで他は何も見当たらない。
「なんですかここは?」
「昔ココデ、事故があったのですよ。『オリオン号事件』と言われるモノデス」
そう言い、私にデータの入ったタブレット端末を渡してくる。
中身を要約すると、オービット・ポータル社という会社の宇宙用旅客機の記念試験飛行時にトラブルがあり、ここに不時着したということらしい。
乗員、乗客八十八人が生還していることから、『八十八の奇跡』という名前が付けられているという。
「……へえ。だから、そこに記念碑が飾ってあるのね。……かわいいお人形さんも飾ってあるわ」
記念碑の前に置かれていた、かなり大き目の人形を触る。
随分リアルね。髪の毛もサラッサラだし。
……持ち帰っちゃダメかしら。
「……ありがとう」
「え……っ!」
何、今の声は。
近くで聞こえた気がするが……
「……演算さん、女声下手ね。びっくりさせるなら、もう少し練習してきたら?」
「違イマスッて! 今のは私デハナク」
なにやら騒ぎ立てる演算さんを無視し、人形を近くで眺める。
質感もリアルね。
本物のお肌のようで、スベスベしてそう。
ん? なんか今瞬きしたような……
見間違いかな?
「飾ってある物をウチに持ち帰るのはダメよ。菜優花さん」
いいいいいいいい、今口が動いてたわよね!?
それは間違いではなく、その人形だと思っていたものは、すっくとひとりでに立ち上がる。
「初めまして、小夜啼菜優花さん。レディリー=タングルロードと申します」
「ななななななななななななななな、何でお人形さんのフリなんてしてるんですか!? 心臓がはじけ散りそうになりましたよ!?」
「趣味よ」
そんな趣味聞いたことないけど!
人形と間違えてしまうだけあって、かなり背が小さい。
この身長だからこそゴスロリが似合っている気がする。
高くても似合う人は似合うけどね、もちろん。
「レディリーさん、こんな所で何をやっているんです。日射病になりますよ? こんな、日差しのいいところニイテハ」
「大丈夫よ。私はそんなんじゃ死なないわ」
怪しさがメーターを振り切っているが、この人が今回の依頼人だろうか。
「冗談はさておきだけど。今回、オービット・ポータル社の社長として、あなたにとても大きなお仕事を頼みたいの。聞いていただけるかしら?」
「え? ええ。モチロンです。そのために来ましたから」
「そう……なら助かるわ」
レディリーと名乗る社長は電話を取り出し、どこかに掛ける。
「私よ。ええ、彼女が来たわ。……宜しく、シャットアウラ」
携帯を閉じ、ポケットにしまう。
「……あの、何を?」
「ああ、ごめんなさい。あなたへのお仕事の内容についてまだ話してなかったわね」
彼女は辺りを見ながら、また語りだす。
「ここが『オリオン号事件』の場所だっていうのはさっき知ったのよね?」
「はい。宇宙用の旅客機がここに不時着したということも資料で……」
「それはまだ私が社長になる前の話ね。オービット・ポータル社の経営の委託をされたのはその事故の後なのよ」
「彼女ハカナりの敏腕ですよ。事件の後、オービット・ポータル社の株価は大暴落。しかし、レディリーさんが社長になってからまるで事件がなかったかのように業績が回復していったのでスカラネ」
「敏腕だなんて嬉しいこと言ってくれるわね。ここでこれからあなたに頼む仕事も我が社の新たな一歩を踏み出すためのとても大きな計画なの。……こういうことを言うとプレッシャーになってしまうかしらね?」
「正直少し不安です。でも、こんな大きなお仕事いただけたんですから期待に応えられるようがんばります!」
「……ふふ、頼もしいわね。じゃあ、作業の内容ね……あの子が来ないと始められないんだけど、でもそろそろ来る頃かしらね」
社長が、何かを待つようにある一点を見つめている。
何か来るのかと思い私もその場所を見つめる。
ブゥゥゥゥゥゥウン、というエンジン音のような低い音が聞こえてくる。
私はさらに目を凝らす。
何かがこちらに近づいてくる。
その点はどんどん大きくなり、輪郭がはっきりとしてきた。
バイクに乗った人間が何か大きい棒を背中に抱えこちらに向かってきたいるというところまではこの距離でも認識できた。
「来たわね。じゃあ、中身の説明だけど私がここで何をするのか。そこから話をしなくてはいけないわ。……『オリオン号事件』の後、宇宙事業から撤退したんだけどあれをもう一度復活させるのよ。今度こそ、宇宙旅行を実現させるためにね。そのために、この二十三学区のこの場所に宇宙エレベーターを作るのよ。菜優花さん、あなたにはその建設を手伝っていただきたいの」
「宇宙エレベーター……!?」
「オウ、コレハまたとんでもない内容で。詳細は機密保持のため教えて貰えなかったですが……菜優花さん、大丈夫デスカ?」
大丈夫も何も……こんな大仕事、私の手には余る気がするけど。
「……断ってもらっても構わないわ。こんな大作業、学生のあなたにはかなり重いかもしれないし」
「…………いえ、やらせてもらいます」
もうここまで来たらなんだってやってやる。
今更引けるか!
「そう、ありがとう」
バイクも無事到着し、運転手が降りる。
背中に預けていた、かなりデカイ柱を地面に下ろしヘルメットを外す。
男性だと思っていたが、どうやら女性のようで彼女がメットを取ると同時に綺麗な長い黒髪がたなびいていた。
「お待たせしました」
「……時間通りよ。彼女が菜優花さん」
「小夜啼菜優花です! よ、よろしくお願いします!」
「木原演算デす。お仕事の仲介人のような立場だと思ってください。ヨロシク」
「シャットアウラ=セクウェンツィアだ。シャットアウラでいい」
彼女はクールというか、今のところ少し怖い印象だ。
あの大荷物をどうやって持ち上げたのだろう、少し気になる。
元々筋肉があるのかそれとも能力を使ったことによるものなのだろうか。
「自己紹介はもういいわね? それじゃあ、今回のお仕事の簡単なテストをやってもらうわ」
「テスト……ですか?」
また、模擬戦とか言い出さないでしょうね?
前のメイド研修のせいで疑心暗鬼になってしまうのは仕方ないでしょう。
戦うんだって言うなら、やってやるけどね。
「あなたの能力は事前に彼から聞いているわ。
レディリー社長はシャットアウラさんが持ってきた、柱に触れながら話を続ける。
「宇宙エレベーターに使うカーボンナノチューブって素材がとても作りづらくてね。かといって、それ以外で作るのではダメなのよ。カーボンは軽く、丈夫で宇宙エレベーターの材料にはもってこいなの。……そこであなたの出番というわけ」
「その何かを能力でカーボンに変えればいいんですね?」
そうよ、彼女はそう肯定する。
「分かりました。それくらいならお安い御用です」
固体の物質なら問題ない。
今すぐにでも変えられる。
「ところでこの柱は何でできてるんですか?」
「ただの鉄骨だ。廃棄処分場から拾ってきた」
ますます楽勝だ。電子と陽子の数が多くなければその分演算量も比例的に少なくなる。
私は鉄骨に手を触れる。
「それでは始めます」
アリサどっかで出したいなぁ……。
ストーリー的に難しいかもしれないですね。