第七学区に存在するスーパーマーケット。
実はこのスーパー、学園都市の学生達に人気が高い。
この店の商品一個一個が安い上に量が多く、それ故に自然産でない物が大半を占めている。しかし、質に拘る必要性を感じない人間にはそれでも重宝されている。
安く、量が多い。
そんな激安スーパーの精肉店コーナーに
気乗りしなさそうな一方通行を尻目に打ち止めは、はしゃぎながら買い物を楽しんでいる。
「挽肉、挽肉〜♪ あっ、あったあった! ってミサカはミサカはこっそり高そうな方のお肉を手に取ってみたり」
「ちょっと待った、打ち止め! アンタ、ガキのクセに美味そうなモン食おうとしてんじゃないわよ。 こっちの安いやつで良いの。 子供の舌に高級品の良さが分かってたまるかッ!」
「ふふん、番外個体……。 私がただ美味しい方が食べたいからってこっちを選んだと思っているの? ってミサカはミサカは悪い笑みを浮かべながら問いかけてみる」
「な、何を? 高級品にそれ以外の価値があるとでも言うの……? いや、違うもしかしてアンタッ……」
「気づいちゃいまいましたか……。 そう、お金を払うのはミサカじゃない。だからあの人に二倍のお金を嫌がらせで支払わせてやる事が出来るのだぁっ! ってミサカはミサカは悪役張りのケタケタ笑いをしてみる」
「グゥッ! ゲスい、なんてゲスいやつなんだこいつはッ……。 こ、こいつの悪意が流れ込んでくるッ! あぁ、手が……手が勝手に『国産黒豚百パーセント挽肉』の方へと……」
「なンでもいいから早くしろ、バカどもが」
一方通行がそのバカどもの茶番に呆れながら一喝する。
「一方通行、アンタも言ってやってよ。 このお子様は高級なお肉を口にされたいそうですけど? 」
「あァ? ンなの知るか。 腹に入っちまえば一緒だろうが。 いいからさっさとカゴに入れろ」
そう言うと、一方通行は打ち止めから『国産黒豚百パーセント挽肉』を引ったくりカゴに突っ込んだ。
「イッェーイ! 今日は最高のラグジーなのだぁー! ってミサカはミサカはショッピングカートで爆走してみたり!」
「おい、あんまり走り回るな! はぁ……まったく、本当にアンタってあの子に甘いよね。 やっぱりロリコンの気があるんじゃないの? 」
「叩き潰すぞ」
一方通行の今日の気分は最悪である。
なぜなら、
それだけならまだ良かった。
彼が気に入らないのは、テーブルの上に置いてあった置き手紙の内容である。
打ち止めが目をキラキラさせながらそのメモを読んでいたのを第一位は覚えている。
内容はこうだった。
『今日も面倒の方をよろしく。 ああ、そうそう打ち止めにジャンクフードばかり食べさせるのは良くないから料理を作ってあげること。レシピも置いておいたからその通りにやれば猿でも出来るわ。 というわけで頼むわね。 PS 証拠の為私達の分も作っておく事』
「あァ、面倒くせェ」
「アンタさっきからそれしか言わないわね」
「生まれてこの方飯なんざ作ったこともねェよ」
「そうなの。 でも面倒って言うわりにはやるんだよね〜? どこまでツンデレなのホント」
番外個体がニヤニヤしながら一方通行を見る。
「はァ……とっと帰るぞ。 つまんねェ事はサクッと終わらせるに限る」
ため息をつきながらそう呟き、番外個体の視線から逃れようとした。
その時だ。
後ろから聞いたことのある声が聞こえてきたのは。
「とうま、聞きたいことがあるんだよ」
「何でしょう、お嬢様」
「とうまと私が出会って今日で何ヶ月になるか覚えてるかな? 」
「三ヶ月くらいでございますね」
「じゃあその中で私のご飯が何回抜かれたのかは覚えているのかな? 」
「記憶にございま……嘘ですからその歯をガチガチして威嚇するのはやめてくれませんかね!? 」
「何回だったのかなぁ? ……とうま? 」
「数えきれません」
「正直で大変よろしい。 というわけで今日はその分、豪勢にして欲しいんだよ」
「………………………………はい? 」
「つまり、今日こそはご飯一杯食べさせて欲しいかな」
「できるわけないだろ!? お前の一食にどれだけかかってんのか分かるか!? ご飯なしになった分含めても釣り合うくらいは食ってるぞ!?
「そんなことは知らないんだよ。 お金では量れない誠意というものが私は欲しいんだよ」
「………………………………世界救ってもこれだけは変わらない、不幸だ…………」
そうだ、アイツだ。
あの
それも一方通行自身が良く知っている。
約一万人と一人の命を賭け拳を突き合わせたことのあるヤツ。
そのヤツと目が合う。
なぜか、食品店の精肉コーナーで。
「あれ、おまえこんな所で何やってんだ? 」
「…………面倒が増えちまッたじゃねェか、クソ」
一方通行は頭を片手で掻き毟り、毒づいた。
ツンツン頭の不幸少年君はそれを聞こえない振りをするだけに留める。
そして、一方通行の買い物カゴを見て気づく。
「もしかしてお買い物? あの一方通行が!? スーパーで!? 」
「……見りゃわかんだろ」
「『あの一方通行』が……プククッ。 ミサカ、生きていて一番面白い場面に出会ったかも」
「テメェ、後で覚えとけ」
ミサカを自称する少女を見て当麻は首を傾げる。
「お前は御さ……か? いや、なんか違うような……」
似ている……けど、どこか違う。
「合ってはいるわね。 でもアンタは知らなくていいことよ。 どちらにしろあの子たちに危害が加わるようなことは起きないし」
当麻にはあの子たちというのが誰を指すのかニュアンスで理解できた。 かつてロシアの地で打ち止めを助けるために動いていた一方通行とこうして共に行動しているということはこの御坂(?)の言っていることは嘘ではないのだろう。
「ンなことはどうだっていい、このバカが何かやらそうがどうとでもできる」
「あら? ミサカとの初戦闘でボッコボコにされてたのどこの誰でしたっけね」
「ほォ……? 言うじャねェかポンコツ野郎。 何なら今すぐ食肉にしてここに並べてやってもいいんだぜ」
「ちょっと待った、ちょっと待った! こんな所で戦闘とかホントにやめろ! 御坂(?)さんももう何も聞かないから、今まで事件に見境なく首突っ込んできたことは自分自身で反省してるからマジでやめろ! 」
昨日、空から落ちてくる巨大要塞から街を守るため走り回った上条は心身ともにボロボロのため、二人のケンカを止める程の体力は残ってない。
「……冗談に決まってるでしょ。 ジョークの通じない男はモテないゾ☆」
「…………だったらもっと平和に暮らせたんだろうけどな」
この一年、女の子絡みの件で何回病院送りプラス死にかけたかわからない。
元はと言えばこのモテ男が自分から火に飛び込んでいくのが悪いのではあるが、もうこれは彼の性のようなもので反省しても治りはしないのかもしれない。 ある種不治の病である。
「ところで……」
当麻は一方通行の持っていたカゴを覗き込む。
「ず、随分とゴージャスなんですね、お宅は」
「主婦かテメェは。 腹に入れば何食ったって一緒だろうが」
「それは、あれですか!? この私への嫌味ですか!? 少ない金でやりくりしながらこの暴食少女を養っている上条さんへの当て付けですかっっ!? 」
安物モヤシ三パックセットをカゴに入れていた当麻は吠えた。
金がない理由は、北極海から引き上げてもらった上条はかなりの大怪我だったそうで、魔術による治療のできない彼は現代の医療に頼るしかなく向こうの一般病院に入れられた。その後、バードウェイから治療費をふんだくられていた彼の財布はかなりピンチでここ最近まともな飯を食っていないのだ。
「とうま、わたしたちもあれにするんだよ。 ゼロが三つのお肉をカゴにポイっ」
「バカやめなさい! これはサラリーマンがボーナス出たときに年何回かの贅沢で買うようなやつだろ。その辺の貧乏学生に買えるような代物じゃないぞコレ!? そんなことより禁書目録、もうそろそろモヤシが補充されるだろうからとって来い。 しばらくはモヤシで食いつなぐからな」
「え~……あれお腹に溜まった感じしないから好きじゃないんだよ」
禁書目録はそう言いながらもしぶしぶモヤシを取りに生鮮品コーナーヘ向かっていった。
「モヤシまだ買うの?」
「ああ、まだ二パックしか手に入れてないからな。かなり人気なのかすぐ売れちまうみたいだ」
「ならもう残ってないんじゃない? そんなに人気ならバックにも在庫があるか微妙だと思うけど」
「いやその辺は大丈夫だ。 ここの店のシステム、かなり変わってるみたいでな在庫切らしたことないんだよ」
そういえば、と番外個体は何かを思い出したように口を開く。
「このスーパーの地下に馬鹿でかい装置を作って運搬するとか何とか言ってた気がするわね」
「そう、そのおかげですぐに商品が補充されるから助かる、助かる。 なんて言ったかな……超高真空……」
「
出かかっていた言葉を一方通行が補う。
「そうそれだ! 機械によるテレポーテーションの実験だったっけ?」
「……学園都市の能力者が使っている空間移動系能力とは違う理論で物体の移動を行うンだとよ」
「ミサカ、思い出した。 確か、三次元から十一次元へ物質を飛ばすんじゃなくて、物体を解析してから分解。それから転送して目的地で再構築する。 『量子テレポーテーション』ってヤツね」
上条は真っ先にあの『ですの』口調の風紀委員を思い出す。
というか、違う理論を言われてもオツムのない上条当麻くんにはさっぱり理解できないのだ。
「そもそも何に使うものだかミサカには分かんない。 武装のためだったら普通に能力者の手を借りて敵の大将のところに飛ばしてもらって首掻っ切れば済む話だし」
「どうでもいい。 こんなただの食料品店の地下でやってること自体オレには理解できねェ」
「……そうかもね。 そもそもコストに見合ってないし、だから実験なんでしょうけど……。 っとそんなことよりお菓子! お菓子コーナーはどこよ!? 」
今物騒な物言いをしていた人間とは思えない物を探し出す御坂(?)。
「おい、余計なモン買おうとしてんじゃねェ。 ガキ連れてさっさと戻るぞ」
「いいじゃない別に、せっかく『お友達』と会えたんだから、ゆっくり話でもしてたら」
「お、お友達?」
お友達という単語は、この当麻と一方通行の間には確実に当てはまらないだろう。
もしコレとお友達だったらホラー映画も真っ青のどんなスリリングな展開が待っているか考えもつかない。
「あァ、本当に面倒くせェ……」
「やっぱり思うんだけど、お前と買い物カゴって似合わないよな。 中年のおっさんとメイド服くらい」
「殺す」