続きをどうぞ。
元原子は鉄。
不純物は除外、鉄原子のみに的を絞る!
「………………」
全員、私の方を見つめ結果を待っている。
できるとわかっていても緊張は避けられないわね。
「鉄を全部、炭素へ変更」
一個、一個鉄を炭素に変える作業をしていては脳に負担がかかってしまう。
だから私は一つ工夫を加えている。
鉄原子を炭素原子に変えるという作業を計算式として割り出し、それをコピペすることで脳の演算量を減らしている。
不純物が多いとエラーが頻発するので、できれば純物質でやりたいのだがそんな物質は自然界にはなかなか存在しないため、基本エラー承知か、不純物は除外でやることの方が多い。
「…………よし」
一個の鉄原子を炭素原子へ変えることに成功した。
後、もう何個かの鉄原子をサンプルとして式を割り出しておかないと実は困ってしまうことがある。
同位体の存在だ。
原子としては同じものなのだが、原子の質量が極微小ではあるが違うためこれを何兆、何京と出してしまうと完成形の物質に何らかの影響が出る可能性がある。
化学的な性質面ではあまり差がでない原子も存在するが、そうでない物も多い。
その辺の理由があるため、少し時間をかけている。
……よし、何個かのサンプル式は割り出せた。
後はこれをコピーし、他の鉄原子にこの計算式をペーストするだけでいい。
色が黒く変わっていく。
カーボン特有の色つきだ。
「できました。完成です」
レディリーさんができたてのカーボンの柱に触れる。
「すごいわ。でもこれではまだ、ただの炭素の柱なのよね」
「……え? カーボンを作るだけではいけないんですか?」
「カーボンナノチューブは文字通り、ナノサイズなのよ。これではエレベーターの外壁にはなるけど、肝心のエレベーターの吊り下げ用のロープにはできないかもしれないわね……」
できないこともない。
だが、内部構造が分からない限り、下手に作っても失敗する確立の方が大きい。
この柱をところてんのように一本一本をナノサイズに切断して作れば良いのか、原子をある一定の法則に基づいて並べ替えてそれをナノサイズの棒状にすれば良いのかのどちらかだ。
両方この場でやってみるのもありだが、それをはたして彼女が許してくれるかどうかだ。
「とは言っても、私も機密保持のために詳細を話しておかなかったのも悪いのよね……。構造が分かれば作りだすことは可能なのよね?」
「はい、今はそれを証明する方法がないですけど」
「なら合格よ。これだけできれば、私達の思ったとおりに計画が進められそうよ」
「ヤリマシタね、菜優花サン」
「……ふぅ、社長の顔見たときこれはダメかなと思ったけど……。奇跡ね」
「奇跡なんかじゃない。これはキミの実力だ」
シャットアウラさんが口を開く。
寡黙な人だと思っていたので、少し驚いた。
「奇跡なんて天任せ、私は絶対に信じていない。キミは運でその力を手にいれたのか? 違うだろう。そこの白衣と努力をして掴み取った結果だ。だったら、運が良かったなんて思わず、この結果を誇れ」
「は、はい!」
嬉しかった。
認められて、嬉しくない人間なんていない。
……そうだ、彼女の言うとおりこれは運なんかじゃない。
演算さんと地道な努力をしてここまで上り詰めることができたんだ。
「菜優花サン、少し顔が赤いようですが大丈夫デスカ?」
「え?」
そういわれると、先ほどからなんだか体が熱い。
力が入らなくなってきたような……。
目がぼやけてきたような気もする。
「菜優花サン!?」
「失礼する」
シャットアウラさんの手が私の体に触れる。
「……この異常な発汗量と倦怠感から見て熱中症だな。このままここにいるのはマズイだろう」
「涼シイ場所に移動させないといけませんね。このまま放っておけば最悪、臓器に異常をきたす可能性がアリマス」
目の霞は悪化し、もうすでに彼らの声しか聞くことはできなくなった。
「救急車モ呼んだ方がいいかもしれませんね。とりあえず、涼しいところに移動させるのが先決カト」
演算さんが私の体を持ち上げる。
いわゆる、お姫様だっこというやつだが、こういう状況では嬉しくない。
「駅まで戻るのが良いだろう。そこなら救急車も見つけやすいし、何より日陰もある」
走っているのだろう、演算さんの息が聞こえる。
彼はどうして私のためにこんなにも必死になってくれるのか。
大能力者止まりのこんな私のために。
でも。
でも少し嬉しい……かな。
*****
「ほら、飲め」
私の口に何かが当たる。
そこから水が出て来ると、私はそれを一気に喉に通す。
「スポーツドリンクよ。氷を体に当てると良いらしいんだけどこの場では見つからないわね」
「二十三学区の職員用の商店等がこの辺りにあるはずです。私が買ってきマショウ」
「頼むわ。菜優花さん大丈夫?」
演算さんが、氷を買いに行くためこの場を離れる。
目のぼやけはなくなり、先ほどよりは楽になったが、全身の倦怠感は未だ取れていない。
「だ……大丈夫です。心配かけて……すみません」
「あなたが謝ることではないわ。私ももう少し場所を考えておくべきだった……ごめんなさいね」
い、いえと私は否定するが、彼女の態度は変わらなかった。
「しばらく、このまま横になっていろ。じきに良くなる」
「ありがとうございます。シャットアウラさん」
駅のベンチで寝かされたまま私はお礼を言った。
足の下に自分の学生カバンを敷かれた状態で寝かされているため、周りから見ると少し滑稽でもあった。
「意識はあるみたいだな……救急車は必要ないだろう」
「あの、シャットアウラさん」
「……なんだ?」
「私は、役に立てるんでしょうか」
「……どうしてそんなことを聞く」
「あなたは私の実力を評価してくれました。でもあんな作業一つで今みたいに倒れてちゃ使えないのと一緒なんじゃないかな……って思ったんです」
実際の現場では、これを何十回、何百回と繰り返さなければいけない。
それを毎日たったの一回ずつでおしまいでは作業が進まない。
だったら、やはり私には向いていないのではないか、と思ってしまった。
「安心して、あなたが作業しやすくなるように色々考えておくわ。あなたの能力を実際に見て、やっぱり私達が今最も必要としている力だってわかったもの。私もこんなことで諦めるわけにはいかないのよ」
「気持ちはうれしいんですけど……どうしてそこまで私の
「第十五学区に何があるか知っているか?」
シャットアウラさんが私に問う。
第十五学区……確か、繁華街があるところだったかしら。
友人を連れて何回か遊びに行ったことがある。
「あそこには、ダイヤノイドという目玉施設があってな。建材が名前の通りダイヤ、というかカーボン系の素材で統一されているんだ。学園都市内で生産されているカーボンは大体あそこへ流れていくようになっている」
「そう。そのせいで一般に流通されているカーボンはかなり少ないのよ。しかも、ウチみたいに持ち直したばかりの企業にはなかなか回してもらえないの。それどころか、倍近い値段を吹っかけられたこともあったわ」
そこで私の出番、と言うわけか。
その辺の有余った素材でカーボンを作ってもらい、それを宇宙エレベーター用の建材にすることでコストを抑える。
ということなんだろう。
「オ待タセシマシタ」
ビニール袋をぶら下げた演算さんが戻ってきた。
氷を取り出し、私の首に当てる。
「……大丈夫ソうですね。容態が急変することもあるので念のため病院は行っておいたほうが良いデショウ」
「ありがとう演算さん。……いつも助けられてばかりね」
「イインデスよ。私が勝手にやっていることですから。那由他ちゃんを向かえに呼んでおいたのでここから一番近い病院にいってクダサイ」
さすが演算さん仕事が早い。
「演算さんはどうするの?」
「私ハ少シオ話があるのでしばらくここにいます。あなたが大変なときに申し訳ないのですが、今回の仕事の関係の相談もありマスシネ」
彼は私の体質についてよく知っている。
今回私が体調をくずしてしまった理由もおそらく検討がついているんだろう。
その辺の細かい話は全てこの人がやってくれる。私は言われたとおりに動くだけでいい。
まだ万全ではないせいか、私はベンチからフラフラと立ち上がる。
それをシャットアウラさんが支えに入る。
「……まだ良くないようだな」
「すみません……」
「那由他チャんが来るまでもう少しここで横になっているといいですよ。ちょっと時間がかかりそうデスカラ」
数十分後、私は風紀委員の仕事の合間を縫って来てくれた那由他ちゃんに支えられながら、第二十三学区を後にした。