上条の目線の先には武装した三人の男、車の上で寝かされている打ち止め。
そして、なぜか銃を突きつけられた一人の見ず知らずの少女。
誰が敵か。
一目瞭然だ。
「マズイ……ッ! この距離だと間に合わない! そうだ、
「あん?」
これは一か八かの賭けだ、外せば当麻もただでは済まない。
「今からお前にとび蹴りする」
「あァ? テメェ、ふざけたこと言って……はァ、そういうことかよ」
一方通行は彼がやろうとしていることを瞬時に理解した。
そして思った。 やはりこいつはバカだった、と。
「行くぞ! 一方通行、あいつらの方向へ全ベクトルを向けてくれ!」
上条は一歩後ろに下がり、全力のとび蹴りを加える。
一方通行はそれをバレーボールをレシーブするような体制で受ける。
当麻の自分に向かってきたベクトルを全て、銃を突きつけている男の方へ照準を合わせ、腕を振り切る。
「死んで来い、クソッタレェェェェェェ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
一,七メートルの砲弾と化した上条はそのまま突っ込んでいく。
そして、数瞬後その弾は、銃を突きつけた男へと
「何……がっ、ああああああああああああああああああああああああああああああ!」
人間砲弾上条と、激突されたその男はそこから数メートル飛ばされた。
その塊は雑居ビルの壁へ激突することでようやく止まる。
「え……何?」
*****
私は困惑した。
生きている、それもあったが、何より助けが来たことに一番驚いている。
「な、なんだ今のは!?」
「また能力者か!?」
腰を抜かしている、残り二人も驚きは隠せないようだ。
「痛ってえ……、おい!もう少し加減しろっつーの!アメコミヒーローじゃねえんだからあの速度で壁にぶつかったら普通即死だからな!?」
スーパーマンのように飛んできた人は私に銃を向けた男がクッション代わりになっていたおかげで怪我はしていないようだ。
いや、普通それでも何かしら怪我はするでしょう……、能力者なの?
「死なない程度に調整してやったんだから文句言ってンじゃねェ。寧ろ感謝しろ」
そして、あとから気だるそうに歩いてくる白い髪を持った男。
「ところでテメェら。死ぬ準備はできてんのかァ?」
「はっ、早く殺せよ!」
「こちとら死ぬのは前提でこのガキを攫ってんだ。覚悟はしてんだよ!」
「ほォ、そうかよ。でもその割りには……」
白い人は足を上に振り上げ、それをたたきつけるように下ろす。
「があああああああああああああああああああああああああああっ!」
「痛みに慣れていないようだが。オマエ、本当に暗部の
足を踏みつけられた男は失神した。
それを見ていた男も迫る一方通行にビビリ、こいつもまた失神した。
あれは……肉体操作系?
違う、私は見たことがある。
あの能力を。どこで?
「一方通行、それ以上はやめとけ。そいつらはなんか違う、裏の顔って柄じゃない」
え……?
「あなた! 一方通行なの!?」
「……あァ?」
「私よ! 菜優花! さよな……!?」
ああ、ヤバイ。
目の前が霞み、歪む。
また、また私は話せないのか。
また、彼が遠い所へ行ってしまう。
せっかく、こうして会えたのに。
そして、視界は途切れた。
*****
「おい! 大丈夫か!?」
上条は、倒れた菜優花と名乗る少女を片腕に抱える。
息はまだある。
出血はしていないようだが、病院に運んでプロに見てもらったほうが手っ取り速そうだ。
「何だァ……こいつは……?」
「お前の知り合いじゃないのか?」
「…………見たこともねェよ」
一方通行は即答する。
大体彼にはそんなもの数えるほどにしかいない。
会う人間の八割は殺すか、傷めつけているかしかしていないからだ。
「ま、待て……! 一方通行……っ!」
上条の激突を受けた男はフラフラと立ち上がり、弱弱しくなった声も気にせず叫ぶ。
「あァン?」
「お前……お前だけは……っ!」
そこで震えている二人と彼は少し違う。
こいつは闇を知っている目をしている、一方通行にはそう見えた。
「もうやめろ! お前、何のためにそこまで……!」
「うるさい! 一方通行、お前。
「猟犬部隊だァ……!?」
一方通行にとって、忌々しいとも言える名前だった。
あの、木原数多の指揮する部隊。
正直、二度と聞きたくはなかった。
「殺したやつの名前なんざ一々覚えてねえよ」
「あいつは……あいつはオレの恋人だったんだよ! あの、作戦……
「……………………」
「オレみたいなクズでも人を好きになって悪いのか! 猟犬部隊はクズの中のクズが集まる場所だ、でもその中にオレみたいなのがいちゃ悪いって言うのかよ! クズが表の世界に憧れちゃいけねえのかよ! クズが結婚しちゃ悪いのかよ! クズが幸せな家庭を持とうとしちゃいけねえのかよ!」
彼の叫びは止まらない。
今まで一方通行に対して溜め込んでいた憎悪を吐き出すかのように。
ノブの取れてしまった水道の蛇口のように止められなかった。
「違う。 そんなのは逆恨みだ」
「……何?」
声に出したのは上条。
彼は今まで同じような人間を幾度となく見てきた。
時にそれは魔術を使う人間。
時にそれは能力を使う人間。
時にそれは特別な力を持たない人間。
彼ら一人一人に悲しい過去がない人間などほとんどいなかった。
だから、当麻には彼への答えを出してやることができる。
「お前達だって人は殺してきた。だからこそ、お前に一方通行がどうだ、という資格なんてないんだよ」
「そんなことは分かってる! でも、殺しは連鎖するんだよ無限に! ナンシーはアイツに殺された! だったらオレがアイツを殺す。 それができないから代わりにあのガキを殺す。 それでアイツがオレを殺せばいい! それで万事解決だろうが!」
「違う! そんなもの、何も解決なんてしていない! 殺しの連鎖? だから何だ! 結果的に何の関係もない子まで巻き込んで何が万事解決だ、ふざけんな! 殺しの連鎖なんてくだらない考えに囚われて自分が楽になろうとしてるだけだ! お前はナンシーのためじゃない、自分のためにやってるんだよ!」
これは上条にとって正しい答えだ。
でもそれは相手にとって最適解だとは限らない。
だが、意見の合わない人間が答えを出す簡単な方法がある。
「オレには、オレみたいなクズにはよ……そんなきれいな考えはできねえんだ。……代わりにお前でもいい、そいつがオレを殺すんだったら、オレが殺せる相手だったら誰でもいい……! お前から……殺す! オレに、お前の思っていることが……お前の見てきたものが正しいと証明してみせろッ!」
自分をクズと呼ぶ、その男は鉄の棒っ切れを持ち、上条の方へ向かってくる。
「わかったよ、俺が助けてやる」
上条はキッと突っ込んでくる男を睨みつけ、言う。
「殺しの連鎖に囚われた、お前の幻想を! 全部俺がぶっ壊してやる!」
そして。