だからこれからは、君が俺を見つけてくれなくても俺が君を見つける。
彼女と出会ってからのショートラブストーリー。
「私たち、別れましょう」
俺、速水 翔(はやみ しょう)は2年前に彼女ができた。
彼女の名前は田辺 晴菜(たなべ はるな)。俺より一つ下の26歳だ。
晴菜との出会いは散歩中であった。
仕事で失敗して何もやる気がなくなった時に散歩に出た。桜が満開の公園のベンチに座って俯いていると「あの、大丈夫ですか?」と声が聞こえた。前を見ると、ピンク色のワンピースに薄黄色のカーディガンを羽織ったショートカットの女の人がいた。
彼女は「気分悪いのですか?」と聞いてきた。
「いや、大丈夫ですよ。少し考え事をしていて。心配かけてすみません」
「なら良かったです。体調が悪いのだと思ってしまって」と彼女は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「あの、ここには良く来るのですか?」俺は聞いてみた。
「えぇ、散歩が大好きで。この公園は沢山の物が見えて、聞こえてとても楽しいんですよ」と彼女は本当に楽しそうな笑顔で話していた。俺には眩しすぎるような笑顔で。
「俺は久々の散歩で。…ここに来ればまた会えますかね?」と言ってしまってから焦った。
「あっ、えっと、はい!この時間帯に散歩してることが多いので、きっと会えますよ」
「俺の名前は速水翔と言います。名前を教えてくれませんか?」
「私の名前は、田辺晴菜です!」
その後俺と彼女は時々公園で会い、時間を過ごしていった。会うごとに彼女を知り、彼女を好きになった。24の冬、俺は晴菜と付き合い始めた。
* * * * *
私は23になったばかりの春に翔と出会った。最初はただ具合が悪そうな彼に話しかけた。それから彼との時間が増えて、彼のことを知っていった。彼から付き合おうと言われた時、本当に嬉しかった。
付き合い始めて2年半という時間が過ぎた。
翔と出会った公園は、今では2人の散歩コースになっている。
「翔、今年も満開の桜だね!春の色は本当に素敵!」 と子どものように桜の木の周りを走り回った。
「晴菜、あんまはしゃぐなよ。怪我するぞー」と私を見る翔は呆れ顔になっていた。
「だって、ここは翔と出会った大切な場所だよ!はしゃがなくてどうします!」
「俺はあの時憂鬱だったけどな…」
「だから、一回の失敗でくよくよしないの!…わあっ!!」
急に強い風が吹き、沢山の桜の花びらが舞い上がった。
「おー、綺麗だな!」
「本当に綺麗い。翔、耳をすませてみて」
「耳?」と翔は目をつぶって周りを聞いてるようであった。
「春の音がするでしょ?フワフワ~サラサラ~って感じで」
「よく分からないけど、春の風と一緒に来る香りが良い感じかな」
「香りかぁ。香りも好きだけど、私は音が好きなんだよね。音があれば翔のことすぐ見つけちゃうよ」
「俺はもう晴菜のこと見つけてるよ」
「えっ?」といった瞬間に翔に抱き締められた。
「晴菜と出会えて本当に良かった。あの時俺を見つけてくれてありがとう。晴菜のおかげで、自分の大切な存在を見つけられた」と抱き締めた腕をゆっくり下ろし、目と目が会った。
「俺と、結婚してくれませんか?」
「…は、はいっ!」涙が溢れ出てきた。
結婚式は12月にすることになり、沢山の幸せな時間が過ぎて行った。
だか結婚式まで残り1ヶ月となった時、不幸な出来事が起こった。
私は真っ暗な世界に座っていた。
仕事場に向かっている時、私は車と事故を起こした。
そして、病院で目覚めた私は光を失っていた。
* * * * *
俺は病院までの道を走っていた。1時間前、病院から連絡がきた。晴菜が事故にあったと。
「晴菜っ!」勢い良く扉を開けた俺が見たのは、包帯にくるまれた晴菜の姿だった。
「翔?」
「晴菜、大丈夫か?」と晴菜の手を握った。晴菜の目にも包帯が巻かれていた。
「翔、ごめん。ごめんね」
「晴菜、謝らなくていいから」
晴菜はゆっくりと俺の手を離した。
包帯にくるまれた目で俺を見つめるように
「私たち、別れましょう」
頭を殴られた気分になった。
「なん…なんで?」
「私はもう、翔のことを見ることができない。私の目は光を見ることができないのっ!!」とベッドを殴った。
「私はこれからは誰かに助けてもらわないと生きていけない。だけど、翔には迷惑かけたくない」
「迷惑なんて」そっと晴菜を抱き締めると、ビクッと怯えたように震えた。
「痛かったらごめん。でもこのまま聞いてほしい。…迷惑がなんだよ。迷惑なんて沢山かけていんだよ。これからの人生は、晴菜にとっては苦しいかもしれない。だけど俺は、晴菜の人生の幸せの中の一部になりたい。それに、もう俺は晴菜がいないと毎日がつまらないよ。だから、晴菜の側にいさせて下さい」
晴菜の腕がギュッと服を握ってきた。
「翔…翔っ!ずっとずっと一緒にいたいよ」
「うん、大丈夫。ずっと一緒にいる。ずっと隣で支える」
それから2週間経ち、晴菜はまだ入院している。
トントン。晴菜の病室の扉をノックした。
「どうぞ」と扉の奥から声が聞こえ、病室に入った。
「あっ、翔。来てくれてありがとう」
「よく俺だって分かったね」
「足音だよ。翔の足音はもう登録されました」と面白そうに笑った。
「晴菜にはどこにいてもバレバレだな」と俺も笑った。
「さっき医師に話を聞いたら、外に出ていいって。良ければ今からいつもの公園に行かないか?」
「行きたい!」
「うーん、いい風。翔、今はどんな天気なの?」
「雲ひとつない快晴だよ。寒くない?」
「大丈夫だよ。なんか不思議だなぁ。見えないけど、風景が広がってくるの。音、風、気温、匂い。全てが風景を映し出してくれる。それにね、なぜか翔のいる場所は暖かいの」
俺は晴菜の手を握った。
「この場所で晴菜と出会えて良かった。俺を見つけてくれてありがとう。これからは俺が晴菜を見つけるから」