今回は難産でひたすらに困っていましたが、ようやっと完成しました。
こないだの海鳴温泉でのジュエルシード封印から、
海鳴でのジュエルシードの捜索は難航していた。
魔術の捜索、魔法の捜索では海鳴に存在するのはわかっても、
どこにあって、誰が持っているのか、進展はなかったのだ。
フェイトちゃんとの同居生活にもある程度は慣れて、
彼女も自分に多少は心を開いてくれたのかもしれない。
なのはちゃんはジュエルシードが見つからないゆえ、
ときどき、ボーッと悩んでいる時もあった。
「ダメだ、ジュエルシードが海鳴にあるのはわかってるんだけど」
「ホノカも見つかってない?」
「ということはフェイトちゃんの方もなのかぁ」
「フェイトはしっかり探してんだよ!
あんたはどうなんだい!」
「アルフさん、別にフェイトちゃんが調べてないとまでは、
言ってませんよ。ただ、僕の方も引っ掛かりませんね」
「そうなんだ、ホノカも見つかってないんだ」
「なのはちゃんの方も見つかってないらしいし、
これは、しばらく静観するしかないかなぁ」
仄の一言にフェイトは肩を僅かに動かした。
彼女の表情は何か思案し、悩んでいるようだった。
「フェイトちゃん?どうかしたの?」
「あ、うん、私は早くジュエルシードを見つけなきゃいけないんだ」
「そんなこと言っても現状じゃ打つ手はないし、
ここは大人しくジュエルシードが、
発動するのを待つしかないんじゃないんじゃないかな?」
「……………………うん、そうだね」
フェイトは何やら納得できないながらも、
自分なりに折り合いをつけて返事をした。
「じゃあ、僕は学校に行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい。ホノカ」
「先生が起きたら、朝御飯は冷蔵庫にあるって伝えておいてね」
「うん、わかった。冷蔵庫の中だね」
多華宮はそうして学校へ出掛けていった。
そしてフェイトたちは出掛けた仄を見送るとある相談を始めた。
「本当に戻るのかい?あのババァなんて無視すればいいじゃないか」
「アルフ、お母さんにそんなこと言っちゃダメだよ。
お母さんが呼んでるだから、早く帰らないと………」
「むむむ、わかったよ。フェイトがそういうなら私は一緒にいくよ」
「ありがとう、アルフ」
二人の主従が穏やかに話をしていると、
コツン、コツン、コツン、
階段を静かに降りてくる足音が聞こえてきた。
「…………おや?ホノカはもう学校に行ったのかね?」
「あ、ゼルレッチさん。おはようございます」
「あんた、もっと早く起きらんないのかい?」
「おや、これは手厳しいな」
楽しげにニヤニヤと笑いながらフェイトとアルフの反応を、
楽しむように軽口を叩いていた。
それにフェイトは少しムッとして、
「ホノカが朝御飯は冷蔵庫にあると言ってました。
早く食べてください」
と素っ気ない感じで朝御飯のことを伝えた。
それでも朝御飯があると伝えるあたり、
フェイトはお人好しに分類できるのだろう。
「ふむ、ならば朝飯を食べて、少し散歩でもしてくるかな。
君たちはどうするのかね?」
「………………私たちはいったんお母さんのところに行ってきます。
夜中までには帰ってきます」
「そうかね、なら晩飯までには帰ってくるといい、
今日はホノカに肉料理でも作らせようと思っているのでね」
「肉料理!わかった、とっとと終わらせて帰るから、
お肉を残してくれよ!ほら、フェイト早く行こう!」
「ちょ、ちょっとアルフ、引っ張らないで~」
仄は学校に、お嬢ちゃんたちは今、外に出掛けた。
さて、今日はどこに行くとするか。
本当に、この海鳴という街はなかなかに面白い。
魔導元帥と呼ばれる、魔法使いの吸血鬼は笑いながら、
本日の予定を考えていた。
いつもと変わらない学校の日常。
仄は周りの小学生に比べて落ち着きはらっていて、
大人びている印象を持たれている。
だが、それでいて取っつきにくいという訳でもない。
簡単に言えば、クラスでは人気者なのだ。
そして、放課後の校庭では彼や男子生徒がサッカーを楽しんでいた。
「行くぞ、仄!」 「うん、行こう!」
相手の陣地の真ん中、攻撃の最前線でボールを競り合っているのは、
仄と同じクラスの羽中翼の二人。
仄はそれなりの運動神経である程度なら、
スポーツをそつなくこなせる少年だ。
一方の翼は、あの士朗が監督している翠屋JFCのエースだ。
相手チームにもそれなりに運動神経のいい少年がいるが、
この場合は相手が悪すぎた。
まるでボールが足に貼り付いているかのようなボールコントロールに、相手チームはボールを取ることができない。
そんな彼らをまるでいないかのように、すり抜けていく。
どうしても逃げられない時になったら、
翼は仄に、仄は翼に、片方がマークされてるなら、
マークされていないメンバーにパスを通して、
ゴール前へとあっという間に辿り着く。
そしてゴール前でキーパーとの一騎打ち。
翼がキーパーの一挙一動を観察する。
キーパーは翼の一手先を読もうとする。
この距離ではボールをシュートする方が早く、そうすれば一点を奪われるだろう。ならば、ここですべき最善の行動は後ろに下がることではなく、一歩前に出ることだ。翼もそれは予想していなかったのか、挙動が一手遅れてしまう。ボールはこのままでは奪われ、逆に味方の減ったコートに反撃されてしまう。万事休す、絶体絶命という瞬間。
「翼くん、こっち!」
そう仄の、仲間の声が聞こえる。
なかば反射的に声のした方向にパスをする。
「いっけーー!」
キーパーは翼についているので、ゴールは今、現在はがら空きだ。
その絶好の機会を逃すわけにはいかない。
ここまで繋いでくれた仲間に感謝して、
ボールをゴールへと押し込んだ。
「ナイスシュート、仄」
「いや、みんなのおかげだよ。
みんなが繋げてくれたから、シュートがはいったんだ」
「そっか、なら今度はチーム変えてもう一度試合しようぜ」
それからもう一試合をして、
本日の放課後は終了したのだった。
帰り道では、今日の夕食は先生が肉料理を食べたいと言っていたのを思い出したので、肉屋で肉を買って家路につくのだった。
SIDEなのは
ここ最近ではジュエルシードの発動がまったくない。
仄くんは海鳴には必ずあるっていってた。
それにも関わらずジュエルシードは海鳴温泉での発動以来、見つかっていない。ユーノくんも探査魔法というのを使っているのに当たりはない。
この前に仄くんの家に少し寄ってフェイトちゃん、アルフさん、仄くん、ゼルレッチさんとお茶をしながらどうするか相談したが、とりあえず今は大人しくしていることになった。それでも、夜中に家族の眼を盗んで外に出掛けるも成果はなかった。自分はおそらく焦っているんだろう、ジュエルシードのことを考えてすずかちゃん、アリサちゃんの話を聞いてなくて怒られてしまうこともあった。
まぁ、二人が許してくれたからよかったけど。
「あれ、仄くんはどうしたの?」
「仄は今、校庭で男子たちとサッカーをしているみたいよ」
「仄くんって運動神経良いよね~」
「すずか、あんたが言うのかしら運動神経なら、
あんたもずば抜けてるじゃない」
「え、あ~、アハハハハ」
「笑っても誤魔化されないわよ。
男子にもひけをとらないどころか、あんたは完全に上回ってるじゃない。なのはに少しわけてあげなさい」
「う~ん、私の運動神経をわけて、やっとなのはちゃんは人並みになるんじゃないかな?なのはちゃんはすごい運動音痴だし」
「すずか、あんたってたまにものすごい毒を吐くわね」
「そうかなぁ」 「そうよ、なのはもそう思わない?」
「………………へっ?何?」
ボーッとしていたせいで、話を聞きそびれてしまった。
何の話をしていたのか、聞き返す。
するとアリサちゃんがため息をついて質問してきた。
「はぁーー、なのは、あんた最近話をしてても、
上の空が多いんじゃない。どうしたってのよ」
「うん、なのはちゃん、困っているのなら相談してほしいな」
なのはは戸惑った、魔法に関することを話しても信じてはもらえない。
しかし、友人が頼ってほしいと言っているのだ。
何も言わないでいるなどはできない。
ちなみにアリサ、すずかは魔法関係のことを知っているのだが、なのはがそれを知らないのは無理もない。そしてなのはがここで誰かを頼れるようになったのが正史とは違う点だ。
「うん、全部は言えないんだけど今、探してるモノがあるんだ。
でも、探そうとしても何も手がかりがないんだ。
どうすればいいのかな?」
「……………とりあえず、全部は言えないのね」
「うん、ごめんね」
「何であやまるのよ、隠し事なんて誰にでもあるでしょ。
むしろ相談しない方が怒ったわよ」
「そうだよ、なのはちゃん。相談してくれてありがとう」
「…………うん、二人ともありがとう」
「それで探してるモノね?そうね。
私の家でさがさせましょうか?」
「ええっと、そういう探し方はしないでほしいんだけどなぁ」
「なっ!じゃあどうしろってんのよーーー!!」
「アリサちゃん、落ち着いて~~」
正史と異なり、なのはが人に頼ることによってすずか、アリサとも険悪になることはなかった。こうして仲良しの三人がさらに絆が深まり、なのはもジュエルシードにたいしての焦りが消えるのだった。そして焦りが消えることで事態が進展することになる。だが、彼女は今夜ジュエルシードが発動することを知らない。
SIDEフェイト
ジュエルシードの捜索は現地で協力者の仄、
そして、なのはというライバルに出会うこともできた。
なのはとは最後にジュエルシードを全て賭けた戦いをする。
だが、現時点では自分の方の実力が上手だ。
傲慢というわけではない、彼女の魔法の成長率は非常に高いが、
母さんのために、それでも勝たなくてはならない。
そして今は母さんに現状を伝えるため、時の庭園に来ている。
「それで、フェイト?あなたはその現地協力者と協力しているのね」
「はい、最後にはジュエルシードを賭け、戦闘を行います」
「………ジュエルシードの収集率が早いし、効率的といえばそうね。
でも、あなたはその協力者に勝つことができるの?」
「はい、きっとジュエルシードを全て手にいれます」
「……………………必ずジュエルシードを全て手にいれるのよ。
用件は済んだでしょう、さっさと戻ってジュエルシードの捜索なさい」
「ちょっと!フェイトが頑張ってるっていうのに、
そんだけしか言うことはないのかい!」
「アルフ、私は大丈夫だから、ね。海鳴に戻ろう」
傷ついた顔ながらもアルフを止めて、フェイトは帰還を促した。
アルフはプレシアを睨むが、大人しくフェイトに従う。
「ううう、納得いかない。けどフェイトがそういうのなら」
アルフはしぶしぶとフェイトの言い分を聞き入れて、
それ以上のプレシアに対する悪態を飲み込んだ。
「………………それじゃあ、母さん。また連絡に来ます」
プレシアはそっぽを向いて無言で返事をしない。
アルフがまた、文句を言おうとするが、
その前にフェイトの次元跳躍魔法が発動するのだった。
アルフは不満があったが、フェイトが鞭で打たれる虐待を受けなかっただけ、マシな方かと自身に言い聞かせる。フェイトはプレシアの態度から焦りを増してしまい今夜にジュエルシードを強制発動させることを決めたのだった。
そのころ時の庭園ではプレシアが倒れていた。
彼女の体を蝕む病魔が彼女に止めを刺そうとしていて、
彼女もとうとうそれに耐えきれなくなっているのだ。
「あと少しなの、まだ倒れるわけにはいかない。
……………………………………アリシア…」
彼女が呟いるのは、数年前に喪ってしまった娘だ。
彼女はただ、アリシアのことだけを考えてここまでやったのだ。
失敗するわけにはいかない、ただアリシアと過ごす未来を想像する。
しかし、その想像の中に自身が失敗作と断じたフェイトの姿が思い浮かぶ。それがまるで自分がアリシアを忘れさろうとしているように感じ、フェイトを忘れようと試みる。それでもフェイトを忘れさることができない。アリシアとのかつて記憶の中、手のかからなかった彼女が言った唯一の我が儘『妹が欲しい』と言っていたことを思い出す。だが、自分は既に誓ったのだ。たとえこの手を汚すことになろうとアリシアを呼び戻すと、プレシアはアリシアの棺の前で膝をつく。
それは祈りを捧げるようにも見えたし、アリシアにすがりついて泣いているようにも見えた。はたして、どちらなのかはプレシア本人しかわからないだろう。
夜、海鳴の光の消え去った街並みを箒に乗って見下ろす人影。
夜の空気は冷たく、体に突き刺さっている。
彼が捜索しているのはジュエルシードという異世界の古代遺産。
しかし、探しても、捜しても見つかる気配は欠片もない。
魔法使いの少年は今日もハズレかと肩を下げ自宅に戻ろうとする。
その時に街の中心部から魔力の凄まじい奔流を感じる。
「まさか、これってジュエルシード?」
今まではジュエルシードの発動によって起きた事件を解決して封印していた。だが今回は魔力その物が暴走している。しかも自分の勘違いでなければこの魔力は海鳴の霊脈から汲み出している。このままでは魔力の暴走で街の中心部が消滅するなんてこともありえる。そんなことになれば、前回の大樹騒動でもギリギリだった神秘の隠匿をしきれなくなってしまう。
この時間帯では人も多い、すると犠牲者も出るかもしれない。
街のジュエルシードの発動したと思われる場所に向かおうとすると、突然に魔力の反応が消えた。そしてそこには結界と思われるモノが張ってあった。
「誰かが結界を張ってくれたんだぁ、本当によかったぁ。
………って安心してる場合じゃない、結界の中に入ろうかな」
気軽に言うが結界は外と中を隔絶するためのモノ。
そう簡単に侵入することなどできるわけがない。
しかし、多華宮仄ならば、どんな結界だろうと侵入することができる。それは魔術にしろ、魔法にしろ関係ない。仄の魔法はそういったものに特化している。
頭に思い描くのは手首にスナップを効かせるイメージ。
すると魔力が体を循環し始め魔術回路が開く、準備が終わると結界に手をあてる。それだけで結界などないかのように結界に立ち入ることに成功する。
入った先にはなのはちゃん、フェイトちゃんの二人がいた。
「ねぇ、これってどういうことなのかなぁ」
さすがに自分の管理地でこんな真似をされて、
多少は苛立ってしまうのも仕方がないだろう。
というか他の魔術師が自分の管理地の霊脈を勝手に使用したのなら、間違いなくその使用した人間を殺しにかかるだろう。その言葉にフェイトがビクッと反応する。彼女は申し訳なさそうに、泣き出しそうに謝った。
「仄、ごめんなさい。どうしてもジュエルシードが見つからなくて、どうしても早く見つけなきゃいけなくて、それで……………………………」
「仄くん!フェイトちゃんを許してあげておねがい!」
「えっ、えっ~わかったよ。これじゃ僕が悪者みたいじゃないか。
……………………わかった、でも後でお説教だからね、フェイトちゃん!」
「……………うん!」
すると、お説教するといったはずなのに、
許してもらったせいで満面の笑顔で返事をするフェイト。
仄はそれで毒気を抜かれたのか、ジュエルシードを見据える。
「悪かったね、ホノカ。こんな面倒なことにしちゃって
あと、ありがとう。フェイトを許してくれて」
「別に事前に伝えてくれれば、むしろ協力したんですけど」
ジト目でアルフを睨む、居心地の悪くなったアルフは冷や汗をかいてしまいこの状況をどうにかするべく話をそらそうとする。
「ほら!そうと決まったらさっさとジュエルシードを封印しちゃうよ!」
まだ言いたいことはあったがジュエルシードを早く封印することに反対はない。仄、なのは、フェイトはジュエルシードを封印しようとデバイスを向けたり、魔術回路に魔力を注いで準備をする。しかし、ジュエルシードが異変を起こす、まるで心臓が脈を打つように、ドクン、ドクンと不気味で規則性のある脈動をあげる。危険に真っ先に気づいたユーノが悲鳴をあげるように警告を叫ぶ。
「みんな伏せてぇーーーーー」
その突然の警告に、かろうじて反応できたのは仄だけだった。
なのはとフェイトはジュエルシードの放った魔力の衝撃波に吹き飛ばされる。仄は吹き飛ばされた二人のもとに向かって駆け寄る。
「二人とも大丈夫?返事をして!」
「…………大丈夫だよ~仄くん」
「………私も平気です。あ、でもバルディシュが」
「私もレイジングハートが」
二人のデバイスにはヒビが入っていて、機械に詳しくない仄でも使えないとわか
った。それでも、幸いなことに二人とも大声に反応していて意識はある。
吹き飛ばされたものの大怪我はないようだ。
二人の無事が確認できたのはいいが、この事態を起こしたあれは本当に異世界の魔法がらみの代物なのか?
いや、そんな訳がない。おそらく…あれはこちらの世界の、具体的にいえば魔術がらみの代物だ。
土地から魔力を吸い上げ、その魔力を放出して根源まで繋がる孔を抉じ開ける仕掛けと予想するが世界が魔力に耐えきれず、全てが滅んでしまうだろう。
なんてことだ、あのジュエルシードというものは異世界の古代遺産とユーノくん、フェイトちゃんたちに聞いていたが、とんでもない。この本末転倒ともいえる機構、手段を選ばない構造、これは魔術師の創ったモノだ。
……………なんて、ゆっくりと解析をしてる場合ではない。
このままでは世界が滅んでしまう、いいやそれより先に抑止力の守護者(カウンターガーディアン)が来るかもしれない。どのみち、ここにいる人間は皆が死んでしまう。それはダメだ、……………しかし、二人のデバイスは先ほどの衝撃波で破損している。手段を模索していると、
「私が止める」
「そんなの無茶だよ!バルディシュが壊れてるっていうのに、ジュエルシードを封印しようとするなんて、フェイト頼むから止めて、フェイト!」
フェイトちゃんが覚悟を決めた目でジュエルシードに向かおうとしていた。それをアルフさんが必死で止めている、…………………………女の子が、頑張っているのに自分だけここでのんびりしていられない。ここが男の意地を張るべきところだ。
「フェイトちゃん、周りの魔力を吹き飛ばせば封印はできそう?」
「え?う、うん。できると思うけど」
「なら大丈夫、任せておいてよ」
「でも、さっきのは私のせいで私がどうにかしないといけないのに」
「でもとか、たらとか、ればとかはナシだよ。フェイトちゃん」
「仄くん、大丈夫?」
「うん、なのはちゃん。僕に任せておいてよ。
なんていったって僕は魔法使いなんだからさ」
フェイトを安心させるように笑顔で笑って彼女の前に出る。
なのはに心配をかけないように見栄を張る。
その姿はフェイト、なのはの心を揺さぶった。
二人の少女は自分たちの顔に熱が出ていることに気づかず、
ただ、自分たちを守ってくれている仄の背中を見ていた。
仄は最初に蒼崎青子に師事をしていた。
そんな彼女に教えてもらった魔術といえば魔弾系統の魔術だ。
彼女の教えを思い出して、地面に手をつき魔力を注ぐ。
すると突如、地面に魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣は赤く光って、回転を始める。
「刻印、配置 (ルート・セット)」
それは砲身の土台を造る魔法陣の配置を知らせる呪文。
続いて魔術回路を廻して呪文をさらに繋げる。
「魔力提供、大源に固定。魔力変換率正常化、循環よし、術式安定確認」
仄は下拵えを終えて暴れ狂うジュエルシードに砲台を向ける。
なのはは仄の魔術を驚きながら見ている、一方でフェイト、アルフ、ユーノたちの魔導師はデバイスを使わない魔術に動揺を隠せない。
それは史上最年少で魔法に至った少年の魔術。
フェイトたちからすればデバイスを用いない未知の技術。
「魔弾形式、収束投射(ツアープラン、スターマイン)」
詠唱を重ね、仄は自分が持ちうる中で最も攻撃力の高い一手を打つ。
術式は正常稼働、射程距離はおおよそ800メートル。
しかし、ジュエルシードとの距離は30メートル。
その僅かとも言える距離でジュエルシードを仄は凝視する。
「魔術回路完全解放、全術式起動!(サーキットフルオープン、スタート、マギカオペレーション)」
それに反応するようにジュエルシードはさらに魔力を放出する。
それに応じるが如く仄も右腕を掲げ、魔弾の引き金を引く。
それは己の師匠から伝えられた、かの魔天の一角、緑色の霧、魔術世界の至宝にして一つの王国より稀少とされた至高の幻想(クラウン・ファンタズム)第一法より別たれた、この世で最も大きな虚構、フラットスナークを撃滅した最強の魔弾。
魔法使いは自分の後ろにいる少女たちを守るために魔弾を放った。
ジュエルシードも心なしか、魔力を増幅させる。
しかし、仄の魔弾はそれを上回り無駄な足掻きと嘲笑う。
刹那の拮抗の末、ジュエルシードの周囲の分厚い魔力の壁が剥がされた。
なぜ、ジュエルシードを真っ向から打ち破ることができたのか、それは多華宮仄の魔術回路の特性に由来する。師の蒼崎青子は魔力の使い方は、100倍くらい燃費がいいらしい。車に例えるならば、「1リットルのガソリンで軽く1000キロの距離を走らせられる」ということだった。それに比べて仄は燃費の良さは平均値であって師匠ほど魔術を連発できない。魔力も多い方かと思うが、ずば抜けているわけでもない。彼の強みはそこではなく、魔力の変換効率だ。魔術師はマナ(大源)とオド(小源)と呼ばれる二つの魔力源を利用して魔術を発動する。仄はその魔力の増幅率が尋常ではないのだ。彼の回路は魔力を通して外に放出するさいに、10倍にして外界に出すことができる。例えるならばホースを通った水が出る頃に十倍に増えていると想像してもらおう。このような特異な回路は世界に二つと存在しない、これだけで仄は封印指定を受けてしまったほどだ。だが、これは回路に由来する現象ではなく彼の魔法が原因で起きているのだが、これはまたの機会に話すとしよう。
魔力の壁が消失し、その瞬間にフェイトがジュエルシードに向かって走る。仄の作った千載一遇のチャンスを無駄にはしない。
「止まれぇぇぇぇ」
フェイトがジュエルシードを抱くように手のひらで抑えると、
魔力が止まり、ジュエルシードが活動を停止する。
「やったね!フェイト」
「フェイトちゃん、すご~い!」
「なのは、もう動いて平気なの?」
「やっと、終わったかぁ。……………………………それにしてもジュエルシードなんて誰が作ったんだろう?フェイトちゃんたち、ユーノくんは何なのかわかってなかったし」
フェイトは封印に成功して被害は結界があったおかげで少なく済んだ。結果的に今回ジュエルシードを封印できた訳だが、フェイトは帰った後に仄にこってりと絞られて、なのはは自分の力不足を痛感しユーノに朝晩、魔法の特訓を頼んだ。
こうしてジュエルシード暴走事件は終了したのだった。
一方、時を同じくしてどこか機械だらけの部屋。
いや、例えるならば某宇宙戦艦の中とでも言うべきだろう。
多くの人間がキーボードを叩き、モニターを凝視する。
その中で年若い少女、エイミィ・リミエッタがモニターを見ながら、
上司である女性、リンディ・ハラオウンに報告をする。
「第97管理外世界で小規模次元震が観測。
どうしますか?艦長」
「…………どうするも何も急ぎ、第97管理外世界に向かいます」
「はーい、じゃあ、クロノを呼んできますね~」
「ええ、お願いするわね。管理外世界で次元震が起きるなんて、
ただ事ではないわ。……………そういえば最近、ロストロギアを積んでいた船が事故にあったと報告があったし、もしかするとそれが関係しているのかも」
全ての次元世界から質量兵器の根絶、ロストロギアの管理を目的に発足した組織、時空管理局が動き始めた。彼らの参戦は舞台にどのような影響を与えるのか、そして魔法使いと出会った時にどのような対応をするのか。
舞台は後半に進み、更なる登場人物も参加する。
それでは魔法使いたちの物語をお楽しみあれ。