ーーSideアースラーー
時空航行艦アースラ、管理局の時空航行艦の一つであり、これは現在、地球におけるジュエルシード事件の対処に当たっている。いわば事件の中核にいると言ってもいい。そんな重要なポジションのアースラは、事件の終幕に近付きつつあった。先の海上でのジュエルシード封印において、管理局はジュエルシードを手にいれようとするも現地の謎の少年、多華宮仄によって妨害された。その後、次元跳躍魔法で現場のフェイト・テスタロッサとアースラに雷撃を撃ったのだ。アースラは常時、艦の表層に防御魔法を張っていたため、被害はそれほどではなかった。それどころか、次元跳躍魔法の逆探知をして、フェイトを操るプレシアの所在を突き止めたのだ。しかし、事件が解決に近づくにつれ、おかしなことが増えていく。一つはジュエルシードを狙うフェイトをその親であるプレシアが攻撃したこと、そしてもう一つは現地で魔法使いと名乗る少年の持っている凄まじいロストロギアである。フェイトの件はプレシアに聴取を取らない限り、事情は判断できないだろう。だが、もう一つは早急に対処しなければならない。幸いなことに、なのはは以前、仄の自宅に招待されていたと言う。仄の自宅は海沿いの一軒家、近くには家もないらしい。アースラで、ジュエルシードに関する最後となるだろう会議が始まっていた。
「それでは、なのはさん。この海鳴に散らばったジュエルシードは先日の海上戦で全てが封印されました。あなたと、仄くんはジュエルシードが全て封印した後、フェイトさんとジュエルシードの全てを賭した決闘を行うそうですね」
「はい!………………ずっと約束していたことなんです。フェイトちゃんと仄くんたちが全部封印したら、ジュエルシードを全て賭けた本気の戦いをしようって」
「彼らが本当に決闘をするのか、不安要素が残るがな」
クロノの仄たちを信用していないような口ぶりに、なのはがムッとして口を怒りで歪ませる。フェイトたちと今までジュエルシードを封印してきたのだ、友情に信頼は当然のごとく存在する。そんな彼らを信用しないことは、自分を信じないよりも頭にきたのだろう。
「仄くんにフェイトちゃんはそんなこと、絶対にしないよ。それよりクロノくんこそ、フェイトちゃんとの戦いで邪魔しないでね」
不機嫌ですと言わんばかりに、強い口調で否定の言葉をクロノにぶつけ、決闘の邪魔をしないように釘を指す。その言い方にクロノは反射的に言い返そうとするが、上司にして母であるリンディが片手を軽く挙げて、クロノの言い返そうとした言葉を押し止める。
「なのはさん。これはあなたとフェイトさんだけの戦いではないということを、覚えておいてください。ジュエルシードというロストロギアは地球を滅ぼしうる危険なモノです。フェイトさんの目的がわからないので、どうとも言えませんがそれでもロストロギアを個人が所有することは基本的にできません。それゆえになのはさん。プレッシャーをかけるようなことを言ってしまいますが、お願いです。絶対に負けないでください」
「え、えーっと、負ける気で戦わないですけど、絶対なんて………そんな」
「そんな弱気でどうする、今、君は管理局の協力者としてここにいるんだ。君が負ければジュエルシードを全て奪われ……痛ったぁ!」
なのはを叱ろうとしていたクロノは、自身の足を隣にいたエイミィによって踏みつけられ、説教を中断する。
「クロノくん。女の子にはもっと優しくしなきゃダメでしょ~」
「………だからといって……思いきり爪先を踏みつけるヤツがあるか……」
クロノの文句を華麗に聞き流したエイミィは、なのはの方に顔を向けて別の話に移る。それは多華宮仄の自宅について。
「あ、それとなのはちゃん。仄くんの家の場所ってこの前に教えてもらったところでいいんだよね」
「はい、仄くんの家は海辺にある家で近くには何にもないから、わかりやすいと思いますけど。………仄くんに用事でもあるんですか?」
「………ええ、なのはさんとフェイトさんの決闘についてね。それと彼がこの間の海上で使った宝石の剣、あれの詳しい話を聞こうと思って…」
「仄くんの?」
クロノとリンディ、エイミィは厳かに頷く。
「あれは、ロストロギアに分類できるほどの物だ。それも危険度のランクは最上級でも、まだ足りない。………以前、管理局が調査を行った結果、この世界に魔法技術は存在しないはずなんだ。だが、彼が言うには、この世界にも魔法を使う者が存在する。そこで矛盾が生じた、ここで重要なのは゛彼はロストロギアをどこで手にいれたのか?゛ということだ。彼の言う通り、この世界にいる魔術師が作ったモノかもしれない。それでも、あれは次元震を引き起こせるほどのモノだ!それをあんな少年が保持しているなど、正気の沙汰ではない!」
「クロノ、落ち着きなさい。………でもクロノの言うことは正論よ。あれほどの魔力を放出する器物なんて、一個人が所有するには危険すぎるわ。どうにか、仄くんを説得して、あのロストロギアを提出してもらわないと…」
「リンディ艦長、仄くんの自宅までの道順。デバイスにインプット完了しました。これで迷うことはありませんよ。…………もしも、もしもですけど、仄くんがロストロギアの提出を拒んでしまった場合は、どうするんですか?」
「納得してもらえるまで、説得し続ける……かしら?彼が危険なことに使わなくとも、周囲の人が悪用しないとも限らないわ。なので早急に彼の自宅に訪問して、宝石の剣を譲渡してもらえるように説得をしましょう。フェイトさんとの決闘もあることだし…その話もしなくちゃね」
「リンディ艦長。僕が護衛につきましょう。逆上して襲いかかってこないとも、言い切れないですし」
「仄くんは、そんなことしないよ!」
「確実に保証できるのか?いざというときに傷つくのは君ではなく、リンディ艦長なんだぞ!」
「仄くんの何を知ってるの!仄くんは人を訳もなく傷つけたりしない!」
「理由があれば、傷つけるということだろう!」
「ストップ!二人とも冷静になって。………クロノ、彼の自宅には私だけでいきます。異論は一切、認めません」
なのはたちの口喧嘩を止め、リンディは仄の自宅に行くことを宣言する。まさかのアースラ指揮官の直々の来訪ということに、クロノ、エイミィは考え直すように詰め寄り、危険だと説得する。しかし、その全てを一切聞かずにリンディは口を閉じる。その態度にクロノは自身の立場も忘れ、リンディと自分のもう一つの立場で説得を試みる。
「母さん!相手はロストロギアを持っているんですよ!それも成熟した大人ならばまだしも、善悪の基準もあやふやな子供なんです。そんなヤツに説得をするなど危険すぎます!」
「むっ!仄くんはそんなことしないよ。それに子供って言っても、クロノくんだって子供なの」
「彼が絶対に凶行を行わないと確証があるのか?それに僕は子供じゃない!」
二人は互いの発言を曲げるつもりはなく、案の定、意見は衝突する。二人の論議は延々と平行線を辿る。
「そこまでです!クロノもなのはさんも落ち着きなさい。これからすべきことは山のようにあるでしょう。なのはさんは決闘の準備。クロノはプレシア・テスタロッサの現在地を完全に把握して、突入の用意をなさい。私は仄くんの元に行く。これ以上の反論は一切、聞きません!」
ウィーン……
リンディの一喝にクロノとなのはたちは口論をやめる、その瞬間、扉が開かれて、なのはの相棒であるユーノ・スクライアが登場した。部屋内の強張った雰囲気に僅かにユーノはたじろぐ。そして、苦笑いをしながら、空気を和ませようと冗談混じりに軽口を叩いた。
「………え……えっと、どういう状況?」
もっとも、ユーノが言った冗談混じりの一言は、部屋の雰囲気改善に何も貢献しなかったことを、ここに報告しておこう。
ーーーSide多華宮仄ーーー
海上での封印が終わって、フェイトちゃんは何でもお母さんに近況報告に行くと言って、アルフさんとウチを出た。ゼルレッチ先生との生活は悪くない、さびしいと言うつもりもない。もとより自分は一人暮らしだったのだ。…………だが、フェイトちゃんがいないウチは何だか不思議な感じだ。それになのはちゃんも最近、学校に来ていない。ジュエルシードはその全てが封印された。なのはちゃん、フェイトちゃんのジュエルシードを全て賭けた決闘を行えば、この一件は終了。自分はその先に一切、関与しない。魔術師としては当然のこと、もっとも自分は魔法使いなのだが。そんなとりとめもないことを夢想していると外から声が投げられた。
「おい、ホノカ。お前はどちらが勝つと睨んでいる?」
「えっ!あ~……………突然どうしたんですか?ゼルレッチ先生はこの一件に興味を持っていましたっけ」
「まぁ、可愛い弟子が行うセカンドオーナーとしての最初の活動だからな。それにあの二人はお前にとっては、縁深い少女だろう。お前がどちらの肩を持つのか、単純に気になってな」
「趣味が悪い。いや、この場合は性格が悪いといったほうがいいのかな?」
「何をブツブツ言っておる。……それでどちらかな?幼き魔法使い」
「経験値で言えば、フェイトちゃん。成長速度で言えば、なのはちゃんと言ったところですかね。フェイトちゃんは努力と時間で今の実力を形成した。一方のなのはちゃんは、ジュエルシード事件の短期間でフェイトちゃんに比肩するほどの実力をつけてきた。今の彼女たちの勝率は五分五分、どちらが勝ってもおかしくないですよ」
「つまらん、もう少し愉快な回答ができんのか?」
「先生の教育の賜物ですよ。さてと、フェイトちゃんが帰ってきたら、決闘をいつするか打ち合わせをしようかな。…………それまで暇なので、ちょっと買い物に行ってきます」
「ああ、行ってこい。………そうだ、お前はこの事件が終わったら彼女らとはどうする気だ?」
いかにも愉快そうに笑って、ソファーに座った第二法の魔法使いは己の弟子である仄に問いかける。それは多華宮仄の進む道がどのようなモノか、直接的に関わる魔法使いの問答。異世界の魔法、魔導師と呼ばれる者たち。それらと関わるのか、関わらないのか答えを求める。
「……………今まで通りですよ、二人とは友達です。二人がどうなろうとそれだけは変わりません。二人の立場が変わったくらいで態度をあれこれ変えられるほど、僕は器用じゃないので。………………………そうだ、僕も一つ聞いていいですか?」
「まぁ、お前の及第点の答えに免じて、一つなら許そう」
「それでは、一つだけ。…………もしかして異世界の魔導師っていう人たちは、元々魔術師なのではないですか?」
「…ほぉ………何故その結論に辿りついた?」
「否定しないということは、答えは是ということですね。……………この結論に至ったのは、ジュエルシードの暴走の時です。ジュエルシードは地脈、大気中の魔力を収束して溜め込むモノだとわかった。あんな支離滅裂なモノを創る奴らなんて魔術師くらいでしょう。そして彼らを異世界に送ったのは、………ゼルレッチ先生。あなたではないですか?」
「……………見事だ、お前の考えていることは正鵠を射ている」
「何で先生が魔術師の人を異世界へ?はっきり言って先生が、そんなボランティアをするなんて信じられないんですが……」
「一昔前に地球では根源に至れないと勝手に諦めた魔術師がいてな。どうしてもと泣きつくものなので、魔法を使ってどこか適当な場所に跳ばしたのだ」
「ちょっ!せめて、生き物が生きれる世界だったんですよね?!」
「さて?昔のことだからな、それにあの時は酒で酔っていたから大して覚えておらん」
「酒で酔った勢いで魔法使うって………」
師匠の過去の愚行と、あまりに適当な性格に仄は疲れたように肩を落とす。そして何よりも聞きたかったことを質問する。既に真っ当な答えは微塵も期待していないが。
「じゃあ、何で彼らは機械を使っているんですか?神秘に思いっきり反してますよ、根源を目指しているのに逆方向に一直線じゃないですか」
「知らん、根源を目指すうちに前に向かうのかも、後ろに向かうかもわからなくなったのではないか?」
「………………買い物に行ってきます」
異世界の魔導師の謎はようやく解けた。神秘を棄てて、科学や機械の観点で根源を求めた彼ら。根源は全ての始まりだ、それゆえに神秘という過去の遺物から魔術師は根源を目指す。そんな根源を諦め未来を見ることにした魔導師の魔法。少なくとも自分はそんな魔法を好ましく思えた。過去にすがり未来を生きようとしない魔術師よりは健全だ。………しかし、そうすると更なる謎が出てくる。彼らは元は地球にいたはずだ。それなのに彼らは何故にこの地球に魔法技術がないと断言したのだろうか?…細かいことを頭の片隅に放り、なのはちゃん、フェイトちゃんの決闘のことを考えながら買い物に行くため、玄関を出て外に向かった。
ーーーSideリンディーーー
クロノ、エイミィたちを説き伏せアースラから海鳴に転移する。海鳴に来るのは以前、なのはさんの家族を説得した時以来だ。海鳴について最初に目についたのは、
この場に住まう人々の笑顔。ジュエルシードという世界を滅ぼしかねない重大な事件が起きているのに、この世界の人々は何も知らずに安寧と過ごしている。この平和な日常を守るため、ジュエルシード事件を早急に終わらせ、多華宮仄の所持するロストロギアを回収せねばと意思をより一層強く固めた。デバイスに入った仄くんの自宅までの道を歩き進む、海沿いの一本道を歩くうちにだんだんと人気が消えていく。まるで世界と隔絶されたかのような道がひたすらに伸びている。
ひたすら直進し続け歩く、彼の自宅まではこの道を進むだけ。こんな簡単な道順ならデバイスのナビは要らなかったかとリンディはデバイスを懐にしまい、道を直線に進んでいく。左を振り向けば海、右には街。何故、こんな人気がない場所に家があるのか気になるが、ただただ真っ直ぐに伸びた道を歩く。はたして仄があの宝石で出来た剣型のロストロギアを素直に渡してくれるか思案し、交渉でどのように説得するか考え足を動かす。
ーーー1時間経過ーーー
行けども、行けども家が見当たらない。デバイスにある通りなら、三十分前についてもいいはずだ。それなのに仄くんの自宅は見えず確認できない。理解できない不可思議な状況に、デバイスを取りだし探査の魔法を発動させる。周囲、五百メートルに自身の魔力が広がり、ソナーのように周囲の地形や魔力の多寡を調べていく。
「どういうこと!?」
空気中の魔力は特におかしな点はない。それどころか一般的な場所より多いくらいだ。この場所ならば魔導師は普段の三割増しで魔法を上手く使えるかもしれない。いや、それよりおかしいのは道の遥か先には更に道しかないということだ。デバイスにインプットされた仄くんの自宅の場所は既に通りすぎている。この道を真っ直ぐに行けば、彼の家には到着するはずなのに明らかに異常だ。なのはさんが嘘を言っていたのかと思考の天秤が疑いに傾く。一旦、立ち止まって、なのはさんが言っていたことが嘘か真実か秤にかけていく。………答えは真実だ、リンディは今まで多くの犯罪者や詐欺師、一癖も二癖もある上官と対峙してきた。自分の息子と年近い少女に欺かれるほどリンディは甘くない。しかし、それだと明らかにおかしい。異常とわかっているのに、何が異常の原因なのかわからないため更に不安が高まる。一旦、アースラに戻るか考えていると正面から人影が見えた。クロノと同じ程の背丈、黒髪にやや中性的な顔立ち。彼はこれから交渉を行おうとしていた多華宮仄、その人だった。
「あ、…………あなたは確か?…………管理局の?」
リンディは思いがけない仄の登場に驚きながらも、頭の中身を交渉モードに切り替えて仄に話しかけた。
ーーーSideフェイトーーー
前回の海上での戦いで海鳴に散ったジュエルシードは全てが封印された。そして、ジュエルシードを一気に6個も手にいれた。現時点では、フェイトの持つジュエルシードの数はなのはに勝っている。そこで海鳴を一旦離れ、母の元へ経過報告をしてきたのだ。フェイトはプレシアに笑顔で状況を伝えに来た、ただプレシア(母)に喜んで欲しいという子供の純粋な願い。そんな彼女を待っていたのは、母の冷たい眼差しと躾とさえ言えない虐待だった。
パシーン! パシーン!
空気を裂いて鞭がしなる。目にも止まらぬ速度で振るわれた鞭はフェイトの柔肌に打たれる。凄まじい運動速度を伴い、鞭は少女の肌に一筋の裂傷を刻む。母であるプレシアはそんな凶行に何の感慨もないのか無表情で鞭を振るいフェイトを叱る。この鞭は母の愛ゆえの暴力ではなく、プレシアの怒りと憎しみが込められていた。
「フェイト、あなたは何をしていたの?」
鞭を振るう手を止めてプレシアは、フェイトを淡々となじった。フェイトが努力した結晶をプレシアは無表情で否定する。
「ごめん……なさい………でもこれ…から全部の……ジュエルシードを賭けて戦って……全部……持ってきます…」
フェイトは鞭で与えられた痛みでまともに答えられないのか、途切れ途切れに母に話を答える。プレシアはそんな彼女を眺めて、溜飲を下げたのか鞭を手放しフェイトを解放する。フェイトも多少は体力が回復したのか、呼吸が整い出す。そこでプレシアは思い出したかのように、フェイトにとあることを尋ねた。
「そういえば、現地で協力させていた魔法使いの少年はどうなの?ジュエルシードを狙っていないの?」
「………ホノカはジュエルシードに興味がないみたいです。だから、管理局だけに気を付けていれば」
「そう、………゛フェイト゛必ず勝ちなさい。良いわね……」
フェイトはその言葉を聞いた瞬間、顔を上げる。フェイトは気のせいかと僅かに自身を疑う、自分の勘違いなのだろうか?自分に都合のいい思い込みかもしれないが、母の自分の名前を呼ぶ声に温かい何かが含まれたような気がした。その声はやがて遠くなり、意識は薄れ消えていった。
ーーーSideプレシアーーー
ガクリと意識を失ったのか、フェイトはダラりと倒れこむ。気絶したフェイトを横目にプレシアは咳き込む。咳きが治まると部屋を出ようと出口の方へ足をゆっくりと歩きだした。すると
ドカーン!!
扉がまるで爆破されたような轟音をたてて崩れ去る。砕け散った扉の向こう側にいたのは、フェイトの使い魔であるアルフがそこに怒りを露にして立っていた。アルフはフェイトの姿を見るとプレシアにツカツカと迫り、彼女の胸ぐらを掴み上げた。
「な……なん……で…何で………何であんたはあの子にそんな態度をとるんだ!あの子はあんたのためにあそこまで頑張ってんだよ!!……………それなのに、何でこんな残酷なことが出来るんだ!!」
アルフの怒りを込めた恫喝に、プレシアは肩をすくめ聞き流した。それどころかアルフをまるで壊れた道具を見るような冷徹な眼を向ける。
「フェイトは使い魔の作り方が下手ね。余分な感情が多すぎる」
何の想いのこもっていない言い方に、激怒したアルフは拳を握って振りかぶる。それに先んじてプレシアのデバイスから雷光がアルフに吸い込まれるように撃たれた。アルフは雷の魔法を撃たれ、ずたぼろになる。倒れそうになる体を必死で誤魔化し、転移魔法を何とか発動させて姿を消した。
「(フェイト、ごめん。少し待っていて………ホノカ。フェイトを頼ん……だ)」
消えたアルフのことを無視して、プレシアは再び咳き込む。本来、彼女は魔法を連発できるような体ではない。プレシアの体は不治の病魔に蝕まれ日々を何とか薬でまぎらわせている。それもこれも、たった一つの自分の愛のため。失われた過去をこの手で取り戻すために、プレシアはフェイトが全てのジュエルシードを手にいれる時を待つ。落ち着きだすと思い出すのは、彼女に鞭を振るった先程の時間。似ている、それだけだ、そういくら否定しても胸を疼かせる病気とは無関係の痛みが自分を苛む(さいな)。
それは己が取り戻そうとしている子と似ているフェイトに鞭を振るったからか?それともフェイトに対する情というモノか?
違う!違う違う違う違う違う違う!!!!!!!
そんなことない、あり得ない。もしもそうだとしたら、私は■■■■をどうすればいい?過ぎた過去のモノとするのか?断じて違う。何にもならないのはわかっている、それでもプレシア・テスタロッサを構成するたった一つの真実のため、母親という唯一の救いのために自分はもう止まれない!
プレシアの顔から迷いが消えた。そこにあるのは悼ましいほどに強く研ぎ澄まされた覚悟。プレシアは部屋を出て自室で眠ろうとする。眠る前に急に脳裏をよぎったのは■■■■の誕生日の記憶。我が儘など言わない■■■■が言った最初で最後のお願い。内容が内容だけに実現不可能と諭すことしか出来なかった頼み事。………そういえば、自分は何故にあの子にフェイトと名付けたのか?■■■■と名付ければ良かったではないか。自分は薄々気づいているのではないか?喪ったモノは戻りはしない、そんなことをしても■■■■は喜ばないと…………
泥沼に嵌まった自問自答を強制的に切り上げて、プレシアは眼を閉じる。ただ、幸せをありふれた幸福を夢見て眠る、眠る、眠る。
ーーーSideリンディーーー
直線の道で目的地に到着しないという、世にも稀な経験をしたリンディ。そんな彼女の前にタイミングを見計らったように現れた仄。唐突な登場に呆然とする前に警戒するリンディ。まぁ、これで警戒するなというのは無理な相談だ。一方、仄はまさか管理局の上役であろう人が現れたことを、面倒そうな面持ちで見る。リンディは仄の突然の登場に腰が引けたのか、無言で身構えている。そんなリンディを相手にする気が無くなった仄は、自然体そのもので彼女の横を通りすぎる。攻撃されるかとシュミレーションまでたてていたリンディは肩透かしをくらい思わず固まった。一秒弱、呆然としていたが二秒半で気を取り直して仄に話しかける。
「ちょっと待って!仄くん。………話があるの。少しだけ時間をもらえないかしら?」
「僕はそちらとしたい話は特にありません。………ああ、でも…一つだけ………決闘は出来れば早めに終わらせてください」
リンディの呼び掛けに興味を示さず振り返ることすらしない仄、リンディは歩く仄の前に立つ。立ち止まった彼の前に立ってリンディは是が非でも話をする気のようだ。仄は一度、厄介事に巻き込まれたとでも言いたげに溜め息を吐き出す。諦めて話を聞く体勢をとる仄。リンディはそれを協力的な態度になったのかと思い、息をゆっくり吐く。話をする用意はここに整った。
「話を聞く気になってくれてありがとう。今回私が来たのには、一つになのはさん、フェイトさんのジュエルシードに関する話を纏めに来たの、それともう一つ大事な話があってね」
「今、フェイトちゃんはうちにいないからジュエルシードの話は今度でいいですか?」
「あら、そう?でほもう一つの話をしましょうか」
「………あ、魔術のことを教える、という話ならお断りしますよ」
「ん~それは残念ね。この道のこととか聞きたかったんだけど」
「(この道の認識阻害も看破できないのかな?神秘に対する耐性はゼロに近いっと)」
「それでは、単刀直入に…………仄くん。あなあの持つあの宝石の剣を我々、時空管理局に譲渡していただきたいのです」
「…………………………はっ!?」
仄はあまりに無茶で理屈のない交渉に驚き呆れた。
「あなたの持つあれは次元震を起こせるモノ、つまりロストロギアといってもいいでしょう。それを一個人が所有するなど危険極まりない、ゆえに管理局で厳重に保管したいのです。もちろん、それに見合う褒賞はだすつもりです」
「………リンディさん、悪いことは言わないから、早く帰ってください。宝石剣は僕が先生から正式に受け継いだモノで、そう簡単にポンと渡せるモノじゃないんです。今の話はなかったことにしましょう。お互いのために………」
リンディの強い想いが込められた言葉を仄はバッサリと切り捨てる。リンディの横を通りすぎようとすると、リンディはもう一度、仄を引き留める。
「待って!あの宝石の剣が、受け継いがれた重要なモノであることはわかりました。それを承知でお願いします!どうか私たちを、管理局を信じてください!その宝石剣を決して悪用しないと確約します。あれほどのロストロギアは個人の手に余る、ですが管理局という集団なら」
「大丈夫だと?」 「……はい」
仄は買い物するため、商店街の方に歩く。リンディはそんな仄の横に追走する。仄が頷くまで、粘る気だろう。仄は魔術回路を少し稼働させる。リンディがこのままついてくるのは面倒だと、仄は認識阻害、隠蔽の魔術を発動させる用意をした。そしてリンディに自分の意思をキッパリと伝える。
「はっきり言っておくと何があっても宝石剣は譲れません。でも安心してください………僕や先生以外にとってはただの宝石塊ですから」
「え?それはどういう……」 「それでは、さよなら………」
仄の姿が空気に紛れ込むように薄れる、最初からそこに居なかったように、少年は消えていく。リンディは少年の消えた場所に急いで手を伸ばすが、まさしく影も形もない。いっそ、ホログラムと言われれば信じてしまいそうな神出鬼没っぷり。デバイスで一応、周囲を探索するも手掛かりは欠片もない。
ここで、魔法使いと魔導師の会合は五分たらずで終了した。
物語もようやく、終盤へ。魔法使いと魔導師の物語はどうなるのか?舞台役者は全員揃いぶみ。ここにジュエルシードを巡る舞台の最終幕が始まろうとしていた。