リリカルな魔法使い<一時凍結>   作:悪事

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前に進むために

海鳴に散らばったジュエルシードはその全てが回収された。現在、ジュエルシードを所有するのはフェイト・テスタロッサ、そして高町なのはの二人。二人のバックにいるのは大魔導師と謳われたプレシア・テスタロッサ、そして管理局の時空航行艦アースラ。全てのジュエルシードが集まった以上、これ以上為すべきことは無い。後は二人の少女が全てのジュエルシードを賭け、決闘の結果によってこの事件の終幕とする。魔法使いはこの結末を見届けるだけ、どちらかに肩入れをすることはない中立の立場。例え二人の少女が親しい相手であろうと魔術を手繰る者であるなら、これ以上の干渉はできない。ここからそれぞれの願いと意思、使命が交錯する魔法使いと異世界の魔導師のジュエルシードを巡る物語は佳境に突入する。

 

 

 

 

 

Sideなのは

 

決闘を行う日程が決まったことでなのははアースラから降りて、一時帰宅をすることにした。リンディから仄に決闘のことを伝える旨、一時的とは言え日常へ帰還したのだ。朝焼けの中、背中にフェレットを乗せて翠屋のドアを開く。朝の開店前ということもあって、客の姿は無い。代わりに居たのは開店前の仕込みをする両親の姿。なのははやっと帰ってきたのかと実感する。少女は笑いながら日常への帰還を告げるため、シンプルな一言を口に出す。

 

 

「…………ただいま……」

 

 

「「おかえり、なのは」」

 

 

その一言になのはが帰ったことに気づいたのか、士郎と桃子は笑顔を返して『ただいま』の応えを言った。静かな翠屋の中にあったのは暖かな家族の絆、そして、なのははフェイトとの戦いに勝利を願い、また必ずこの場所に帰ると誓いを立てる。しばらくして、美由紀と恭也が一階のリビングに降りてきた。そうして、なのはたちは久方ぶりの家族全員の朝食を楽しんだのだった。だが、朝食をとればあっという間に学校に行く時間。なのははカバンを持って学校へ行こうとするが、少し立ち止まって、普段から兄と姉が切磋琢磨する道場へ足を踏み入れる。誰もいない道場で、なのはは静かに正座をして心を研ぎ澄ます。ジュエルシードや勝負についての不安。アースラでユーノ、エイミィ、クロノたちと特訓して編み出した必殺技への期待。仄とフェイトと戦うことへの言葉に出来ない想い。様々な感情が入り乱れる心を学校に行く前に落ち着けようとする。そうすること、およそ三分弱。そろそろ学校に向かわなければと、なのはは立ち上がり道場の入り口に顔を向ける。すると、そこには自身の父、高町士郎がそこにいた。士郎はなのはを優しげな瞳で見守り、入り口で立っていた。まるでなのはが立ち上がるのを待っていたように。

 

 

「やぁ、なのは。もういいんだね?」

 

 

主語は無い、それでもその言葉の示す意味をなのはは理解していた。なのははゆっくりと歩いていき、自分なりの答えを士郎に返す。

 

 

「…うん、まだ、迷っていることもあるけど、もう止まって悩むのはやめたの。もう止まらない、おもいっきり前を向いて走ってみる…………」

 

 

「……そうか、やれやれ。子供が成長するのは早いなぁ…………なのは、一つだけアドバイスだ。友達が困っていたら必ず助けなさい。簡単で当たり前に思えそうだけど、これさえ覚えていればどんな時でも、なのははきっと前を向いて走れる………」

 

 

友人を助ける、当たり前と思っていたことだが、士郎から言われたことはそれ以上の何かを感じさせるモノがあった。それはなのはの胸に刻まれ、なのはの迷いを斬り裂いた。

 

 

「…………うん、じゃあ、いってきます!」

 

 

晴れ渡る青い空のような笑みを見せて、なのはは学校(日常)へ向かう。迷いなき軽やかな足取り。元気に揺れる茶髪のツインテール。それを士郎は太陽を見るかのごとく眩しそうに見送った。

 

 

 

 

 

Side仄

 

 

この前、リンディさんが来てから、二日が経過した。もう十月の初め、この間が夏だなんて信じられないくらい寒さがやって来つつある。しかし、季節が変わっても学校は休みにはならない。それどころか、テストが近づいているという現実。自分は今のところ管理者としての作業、警戒で忙殺されて勉強の暇がない。まぁ、小学校の勉強は普通にこなせるのだが、それでも何もやっていないというのは気分が悪いモノ。そんなことを考えている内に学校に到着する、ジュエルシードの事件が早く終わらないかと願いながら教室に入る。

 

 

「おはよう、仄くん」 「おはよ、仄」

 

 

「おはよう、二人とも今日も元気だね。何か良いことでもあったの?」

 

 

「まぁね、ってあんたはどうしたのよ。そんな眠そうな顔をして、ちゃんと寝てるんでしょうね?」

 

 

「仄くん、大丈夫?今にも眠っちゃいそうだよ」

 

 

「大丈夫、それより良いことって?」

 

 

「あぁ、そろそろ来るわよ」

 

 

「来るって何が?」

 

 

「おはよう、仄くん」

 

 

そう、ここへ突然あらわれたのは、異世界の魔導師たちの所に行った友人、高町なのはだったのだ。

 

 

「………………………………………」

 

 

「どうしたのよ、そんな鳩が豆鉄砲でも受けたような顔して」

 

 

「やっぱり、仄くん。寝不足なんじゃ?」

 

 

「いや、大丈夫、大丈夫だから。それよりそろそろ授業が始まるよ」

 

 

「あ、そうだね。席に着かないと…仄くん、お昼の時、少しお話があるの。図書室に来てもらってもいい?」

 

 

「あ~、わかったよ。それじゃあ、席に戻って………」

 

 

なのはは席に戻っていったが、アリサとすずかは今の話がどういうことなのか問い詰められて大変だったことを知らせておこう。何とか誤魔化せて良かった。翠屋のシュークリームをおごることになったが、隠蔽のためには仕方ない費用と諦めよう。いや、領収書で゛魔術協会、秋葉原支部 ゛に出してしまおうか。

 

 

時は過ぎてお昼休み。小学校では給食が主流だが、私立聖祥大附属小学校は弁当持参となっている。授業の合間に癒しと安らぎを楽しむお昼時。そんな中でなのはと仄の二人組は普段食事をしている屋上ではなく図書室に向かう。二人は図書室に到着、司書の教員も図書室を利用する者もいない。何故、この場所に来たのか、仄が訪ねる前に、なのはがその理由を告げた。

 

 

「仄くん、フェイトちゃんに伝えてほしいの。明日に決着をつけようって」

 

 

「…………そうか、明日なんだね」

 

 

「うん、これが最初で最後のフェイトちゃんとの真剣勝負。…………………明日の夜、七時に海鳴公園で………」

 

 

なのはが告げる決闘の話は、仄が予期していたこと。それゆえ仄はなのはの言葉を正面から受けとめ、この土地の管理者として真摯な返答を行う。

 

 

「了解しました、この地の管理者として僕がその決闘の立会人に。………そして、その結果がどのようになろうと、全てを受け入れます」

 

 

「え、あ…あの……はい!」

 

 

普段はマイペースというか天然なのんびり屋の仄が、唐突に毅然とした言葉使いで応じたのでなのはは驚きながらも、ひとまず答えを返す。そんな、なのはがおかしかったのか仄は少し笑いながら屋上へ歩いていく。

 

 

「プッ、アハハハ。行こう、なのはちゃん」

 

 

「あ、待って~、仄くん~」

 

 

 

屋上では律儀にアリサとすずかがお弁当を開けずに二人を待っていたようだ。仄、なのはの二人が加わり昼食が始まる。

 

 

「それにしても、すずかの家のネコが最近また増えたんじゃない?」

 

 

「あ、うん、実はまた五匹くらい家族になった子がいるんだ。みんな可愛い子なんだぁ、そういえば、アリサちゃんだって犬を拾ったんでしょ?」

 

 

「犬?へぇ、アリサちゃん、犬が好きなの?」

 

 

「違うわよ、仄。ペットショップで見つけたとかじゃなくて、道路でズタボロになってた所に見つかったのよ」

 

 

「え、ズタボロ?………もしかして車に轢かれたの?」

 

 

なのはが心配そうな声色で最悪の事態を想像する。だが、予想に反してアリサは首を横に振った。どうやら一命はとりとめたらしく、アリサの家で介抱をしているそうだ。しかし、問題となる点は、そこではない。仄となのはが興味を示したのは最後の部分だった。

 

 

「交通事故とかじゃなくて、火傷っぽい傷があったの。それに、どこかの飼い犬なのか首輪があったのよね。それに額には宝石みたいなモノが……………」

 

 

「宝石?…………へぇ、宝石が額にか」

 

 

「それに犬?」

 

 

「ん、どうしたの。犬のことを何か、二人とも知ってるの?」

 

 

「え~っと、たぶんだけど知ってる子かもしれないの。放課後、見に行ってもいいかな、アリサちゃん?」

 

 

「なるほど、で仄はどうするのよ。ウチに来る?」

 

 

「あ~、ごめん。今日はちょっと忙しいかな」

 

 

結局、なのはがアリサの家に向かうことになり、すずかと仄は用事があるというので行かないことになった。そんな話をしている間に昼休みは過ぎて、なのははアリサの家に。一方の仄は真っ直ぐに家へ帰る。家に帰ると最初にすることは、一階奥の工房で海鳴を覆う結界の確認作業。ついで宝石剣の手入れ。それを終えると二階のリビングでコーヒーを飲みながらくつろぐ。………そこに乱入者が現れるのは、もはや予定調和といった所だろう。

 

 

「コーヒーか、紅茶はないのか?」

 

 

「ありますけど、先生ってホント、コーヒー嫌いですよね」

 

 

「ふん、せっかく素晴らしい茶葉と日本の軟水があるのに、紅茶をいれないなどあり得んだろうが。それにコーヒーの苦味が気に食わん。まったく、そんなモノよく飲めるな」

 

 

「紅茶だって苦味があるでしょうに。それに紅茶って入れるまでが面倒なんです。そんな凝った飲み物よりインスタントなコーヒーの方がいいですよ。そういう手間隙かけたのなんて、祝い事の時だけで勘弁してください」

 

 

魔導元帥であるゼルレッチ相手に小学生が敬語とは言え気軽に会話をしている。この風景を他の魔術師が見れば卒倒するのは間違いない。何だかんだと言って、キッチンで手間隙かけた紅茶を入れ、仄は師匠に紅茶を出す。そうして休息をとり、仄はジュエルシード事件が解決しそうだと師への報告をする。

 

 

「ふむ、もうすぐ、この騒動も終わりそうか………なら、ワシもそろそろこの街を離れるとするか。ワシがこの街に居るのはまずいからのぅ」

 

 

「ですね、いつかは知りませんけど、アルトがこの街に来るそうですし。ゼルレッチ先生がアルトと鉢合わせれば、この街が地図から消えかねないので」

 

 

「ああ、アルクェイドの後見であるワシが月蝕姫と出くわすのは都合が悪い。というわけで、ジュエルシードの事件が解決し次第、この街を出ようと思う」

 

 

「はい、アルトは理由なしに暴れたりはしませんけど、理由があれば街の一つを消すなんて簡単にしますから…………プライミッツも来るんだったなぁ……あぁ仕事が増える」

 

 

「ガイアの魔犬が来るというのに、仕事が増えるだけで済むのだ。むしろそれだけで片付くことに感謝しておけ。それと高校卒業までに決めるんだな。時計塔へ進むか、世界を旅するか」

 

 

「平和に暮らすって案は」 「論外だ」

 

 

師匠のありがたい言葉に仄は諦観の笑みを浮かべ返事をする。

 

 

「ですよねー」

 

ガチャ

 

 

一階のドアの開く音が聞こえてきた。この洋館まで辿り着けるのは仄自身が案内した者か、誤認魔術に耐性のある、もしくは解ける魔術師くらいだ。今回は前者に当たる、美しい金髪の少女である彼女の名はフェイト・テスタロッサ。仄がこの家に住むことを許可した同居人の一人だ。久しぶりに帰ってきたことを喜び、仄はフェイトを迎えに階下へ降りていく。だが、降りるとそこに居たのは、これまでの彼女ではない。むしろ最初に出会った彼女に戻った感がある。

 

 

「……フェイトちゃん」

 

 

「ホノカ、あの子との決闘の日はもう決まった?」

 

 

「うん、明日の夜七時に海鳴公園で…………フェイトちゃん、アルフさんはどうしたの?」

 

 

「大丈夫………大丈夫だから………時間まで少し休んでるね」

 

 

それだけいうとフェイトは二階の客室へ。ゼルレッチ先生が何事かとこちらにやってくる。これまでの彼女は最初に会ったときよりは心が開いていたと思う、だが、今の彼女はまるっきり以前の彼女だ。確か母の所に行くといっただけのはずだが。

 

 

「おい、ホノカ。気づいたか…あの娘の背中から血の匂いがしたぞ」

 

 

「あいにくと、気付けませんでした。本当ですか、かすり傷レベルの傷では?」

 

 

「いや、血の匂いの濃さからして、相当痛め付けられたらしい」

 

 

「………」 ガシガシ

 

 

頭を掻きながら仄はフェイトの部屋に向かう。部屋をノックする、部屋の主からの返事がない。仄は静かに部屋の扉を開く、部屋にはベットでスヤスヤと眠るフェイト。彼女の目尻には、キラリと光るものがあった。

 

 

「まったく、アルフさんはいない。自分は怪我しているってのに黙って我慢しているとか、どこのお伽噺のヒロインなのさ…………まぁ、これくらいはやっておかないとね」

 

 

涙をこぼし眠っているフェイトの額に仄は手を当てる、すると手の平から肘までうっすらと幾何学模様が輝きだした。それが黄色から朱色の光に変わると、仄は三工程(トリプル・アクション)の魔術を起動する。

 

 

『身体走査(アクセス・ジャッジ)』

 

 

『損壊箇所固定(ポイント・ジャッジ)』

 

 

『治癒力、最大化(マキシマム・エクスキュート)』

 

 

仄は魔術を使う場合、モノを直すより壊す方が得意だ。それは師の蒼崎青子の教育に由来する。他にも他者をマダガスカルガエルに変身させるとか、簡単な催眠など微妙にずれた魔術ばかりを習得済み。治癒は時計塔でバルトメロイから学んでいるモノで仄がかなり上手くなった魔術の一つなのだ。そして、仄はゆっくりと眠るフェイトを撫でて部屋を後にする。彼がフェイトを治した理由は、フェイトが怪我をしている状況でなのはと戦わせるのはフェアではないというだけ。これで仄は本当に決闘に一切関与出来なくなり、見届けることしかできなくなった。

 

光を放つような金髪の少女の眠るベットを離れる魔法使い。彼はゆっくりと静かに客室を出ていく。部屋を出た魔法使いは彼女らの戦いの果てにあることを願う。願うといっても大層なことではない。

 

 

『願わくば少女たちの明日に幸あらんことを………』

 

 

世界から争いが無くなればいいとか、生きる者が皆、平和であれ。といった高潔で愚かしいモノではない。願うのは友の幸福、たったそれだけ。

 

 

さぁ、夜が明けて、次の日が来た。当たり前だが、太陽はどんなに暗い夜の後にも必ず上がる。土曜日の朝陽を体に浴びながら、仄は時間まで一眠りすることに。仄の顔には疲れが色濃く出ていたが、同時に完璧な仕事をこなした職人のような満足感もあったようだ。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

Sideフェイト

 

 

眠りながらここまでの状況を思い返す。まず、母さんから頼まれたジュエルシードの回収も終わり。全てのジュエルシードが回収された以上、あの白い魔導師の子、なのはと戦うだけ。シンプルすぎるが、これは今までとは明確に難度が跳ね上がっている。ジュエルシードの暴走体と違い、相手は思考する。今までは経験の差から自分の方が有利に立ち回ってきたが、彼女の成長速度は私の比ではない。管理局がバックにいるのならば、おそらく相当のレベルアップをしているだろう。勝負を決める上で重要になるのは時間だ。高速機動で攪乱し、自身の持つ最大威力、火力の一撃で相手を堕とす。窓から差し込む光はすっかり朱色に染まっている。もうすぐ、決闘の時間。フェイトは着替えをしようと上着を脱ぐ、するとフェイトはようやく気づいた。寝起きのせいかと違和感を無視していたが、普通では考えられないことが起きている。それは゛背中の傷が無くなっている゛ということ、背中の皮膚が裂けるまで鞭で打たれたというのに痛みがないどころか、部屋の姿見を使って背中を確認すると゛傷、そのもの゛がきれいさっぱり無くなっているではないか。

 

 

「………もしかして………ホノカなの?」

 

 

傷のことを詳しく聞くためにフェイトは部屋を飛び出した。……………下着姿で。二階の応接間には幸運なことに、もしくは運悪く仄がコーヒーを飲みながらソファーに座っていた。

 

 

「ブッ!」

 

口に含んでいたコーヒーを吹き出し、仄はむせかえる。その姿を見て驚いたフェイトは、ようやく自分が今、下着姿なのだと理解した。さすがにまずいと言うことを理解したのだろう、Uターンして部屋へ着替えに。以前は裸であろうと気にしなかったフェイトが、よくここまで成長したものだ。

 

「…………えっと、仄。ごめんね」

 

 

「いや、コーヒー噴いただけで済んだから、謝るほどのことじゃないって。むしろ、女の子の下着を見た僕が謝るべきなんだけど」

 

 

「えっ、いや、それでも私が不注意だったのがいけないわけで……」

 

 

「じゃあ、お互いの手打ちってことで。それでいいよね……フェイトちゃん」

 

 

「…わかった…それで……仄、あの……その、私の背中……背中の傷を治してくれてありがとう!」

 

 

「あ、えーと。…それは決闘がフェアになるようにしただけで、フェイトちゃんが礼を言うことじゃないんだけどな」

 

 

僅かな沈黙、仄は一瞬フェイトを傷つけたかと、肝を冷やしたが次のフェイトの言葉でそれが勘違いだったと気づく。

 

 

「それでも、それでも、本当に嬉しかったんだ」

 

 

幸せそうに微笑みながらフェイトは魔法使いに自分の本心を口に出す。その瞬間、時計が六時の合図をあげる。そうして仄とフェイトは海鳴公園へ行くために洋館を出発した。

 

こうして並んで歩く二人の後ろ姿を魔導元帥たるゼルレッチが意地悪く、にやけながら見物していたことを仄とフェイトは知るよしもない。

 

 

 

 

洋館を出て、仄とフェイトは海鳴公園へ歩いていく。その途中、仄はフェイトに自分がゼルレッチと旅した場所のことに関して語る。魔術、魔法、吸血鬼のことは触れず、単純に今まで旅をした場所で体験したこと、知り合った人について少し語りだす。フェイトはその話に相槌を打ったり、驚いたりして目的地までの道のりを進む。だが、海鳴公園が見えてきた所で仄もフェイトも黙り、海鳴公園に到着した。到着した公園で待っていたのは、茶髪のツインテールを靡かせ佇む友、高町なのは。その隣には見知らぬ少年が立っていた。…………フェイトは、それがなのはの肩にいたフェレットのユーノと看破したが、仄は彼が誰だかわからない。仄は疑問を解消するため、謎の少年に問いかける。

 

 

「君は管理局の子?えーっと、初めまして僕は多華宮 仄。…………それで質問なんだけど、君は何をしに来たのかな?ことと次第によっては速攻で退場してもらうけど」

 

 

仄の発言に世界が静止する(様に感じた)。フェイトはまさか、そんなと驚愕し仄を見て、なのはは、うんうんと納得、共感し同意するスタンスで、問題のユーノにいたってはジュエルシードの封印作業で何度か協力した相手に忘れられるというショックのため所在なさげに立ち尽くしていた。なのはの説明で仄がようやく理解して、決闘が始まるのかと思いきや仄がふとした疑問を出した、出してしまった。

 

 

「ん?………じゃあ、ユーノくんは使い魔ではないんだよね…」

 

 

「はい、僕はフェレットに変身することが出来るんです。……そういえばなのはにもそんな風に驚かれたっけなぁ……」

 

 

「なるほど、じゃあ、一つ疑問に思っていることがあるから、決闘前にちょっと質問したいんだけど」

 

 

「あ、はい。何ですか、仄さん」

 

 

「ユーノくん、この前の温泉で女湯に入ったよね。動物の格好だったから、特にツッコミはしなかったけど、人間なら色々と問題があるんじゃない?そこら辺は管理局の人にも意見を聞きたいんだけど……」

 

 

素朴な疑問というか、天然ゆえの爆弾を放り投げ決闘前のシリアスな雰囲気が全てパーになる。ユーノは改めてツッコまれた自身の不祥事に気づいて顔面が青から白に変化していく。だが、暴かれたユーノの温泉に関する事案にチェインして仄が更に爆弾を着火させた。

 

 

「まぁ、僕もフェイトちゃんとお風呂に入ったんだけどさ」

 

 

仄が告げた言葉の『入っ』の部分で空中のモニターと近くにいるなのはが奇跡的に同じセリフを口走った。

 

 

「『…………………ちょっと、待ったぁ!!!』」

 

 

なのはとほぼ同時に空中に現れたのは傷だらけで包帯を巻いたフェイトの使い魔、アルフが映し出されたのだ。アルフはフェイトに愛想をつかしていなくなったはずとプレシアに聞いていたのだが、唐突な登場に驚き事態が把握しきれず呆然として、アースラでは絶対安静を条件になのはとフェイトの決闘を見ることを許されたアルフがモニターに絶叫したもんだから傷が開いただの、病室へ運べだので大騒ぎに。いよいよ収拾がつかなくなってきた。

 

 

「アルフ!?どうして管理局に、あ、いや、それよりその怪我どうしたの?!どうしてそんな大怪我しているの?」

 

 

「仄くん、フェイトちゃんとお風呂に入ったってどういうことなの!それにユーノくんも気づいてなかったけど私に他の皆の裸みたんだよね!」

 

 

「「いや、それは、…………ごめんなさい!!」」

 

 

『違うんだよ!フェイト、管理局の奴らといるのはフェイトの敵になったんじゃなくて。あのババァにって、あいたた!!火傷がぁぁぁぁぁ!』

 

 

『言わんこっちゃない!おい、誰か!このバカワンコを病室へ連れていけ!ボロボロなんだから大人しくしてろと言ったのに、案の定無茶をして!雷の火傷でズタボロだってのに 』

 

 

『ワンコじゃないぃぃぃ、狼だぁぁ』

 

 

ガクッ、自分のアイデンティティーに関することなのか、ワンコではなく狼だとアルフは言い切るとそのまま電池が切れたように倒れ、数人かの管理局員に担がれてフェードアウトした。フェイトは何が何やらわからないが、アルフの怪我の原因が母プレシアらしいことは理解する。なのはは仄とユーノのやらかした女の子と一緒に風呂に入ったことについて聞き出そうとしたがアルフが倒れたことに乗じてユーノが煙にまけたようだ。そして、モニターが静かになると今度はアースラ指揮官リンディが映される。

 

 

『ふぅ、アルフさんを病室に搬送できました。それでは、そろそろ始めましょう。このジュエルシード事件の決着を。なのはさん、フェイトさん、準備はいいですか?』

 

 

「……………あのアルフは大丈夫なんですか」

 

 

『ええ、アルフさんは火傷などの怪我で今、治療中です。心配しないで、というのは無理でしょうが命に別状はありません。それと仄くん、今回の戦闘には我々管理局は一切、干渉しません。仄くんも同じように今回の戦闘に』

 

 

「わかってます、この土地の管理者として今回の決闘で、そちらが決闘の横槍を入れる、もしくは二人の命に危険がない限り僕は口出し、手出しをしません。それじゃあ、始めましょう。この騒動の清算を」

 

 

仄の宣言と共になのはとフェイトは互いに向き合う。

 

 

「それじゃあ、戦おう。フェイトちゃん。これが私たちの最初で最後の真剣勝負。手加減なんてしないよ、全力全開でいくからね!」

 

 

「うん、この街に来てなのは、そして仄とジュエルシードを封印してきた。なのはと仄には色々と助けてもらったけど、それでも、私はしなきゃいけないことがあるんだ。そのためにはジュエルシードが必要で………ごめん……上手く言葉に出来ないや…………なのは、本気で戦おう。そうしないと私は前に進めないんだ……私も手加減しない。…………行くよ、なのは」

 

 

フェイトの言葉が途切れた瞬間、ユーノが二人の少女のため、戦闘の舞台となる結界を展開する。フェイトとなのはは互いにバリアジャケットを身に纏い、魔導師の杖であるデバイスを構える。最初に動いたのは速度でフェイトに劣るなのは。アースラで魔法戦闘の訓練を重ねてきた。それでも数日の訓練でフェイトとの経験の差が覆せるほど、事は甘く運びはしない。故にユーノたちと編み出した対フェイト用の戦法は距離をとり、砲撃で決着をつけるというモノ。一方、フェイトは高速の動きで距離をつめてなのはと接近戦を仕掛けてくる。もちろん、近づかれるのを防ぐため弾丸状のシューターで牽制を行う。どちらも一手が足りない、決め手に欠ける。どちらかがこの状態を打ち破る技を使えば、この均衡は崩される。命を吹き込まれた雷のごとく、縦横無尽に雷速でなのはに近づこうとするフェイト。方や、城壁のような守りに、臆さず攻めいるフェイトをシューターと飛行魔法で引き剥がそうとするなのは。この戦いはただ自然と膠着しているように見えて、緻密な戦法の上に成り立っている。どちらかが一手、誤れば事態はすぐに傾くはず。こうして魔導師たちの戦いはますます激しさを増し、決着へと向かうのだった。

 

 

 

 

その頃、仄とユーノの男子サイドは二人の戦闘を見ていることしか出来ない。そんな状況のせいでユーノはネガティブに陥っていた。

 

 

 

「……なのは、……………結局、最初から最後まで僕はなのはを頼ることしか出来ていない。何にも出来ないことがこんなにもツラいなんて」

 

 

「………ん~、それは違うと思うよ」

 

 

何も出来ないと己の無力さにうちひしがれるユーノの隣で、幼き魔法使いがユーノの発言を否定した。慰めるでも、怒るのでもなく、それは違うのだと、ただ否定をする。

 

 

「君はなのはちゃんにあのデバイスを託した、そうして彼女は自分よりも修練を重ねた相手に一歩も引かない段階まで成長し、事件の結末を左右するほどになった。全ては君の功績だ、君の一番始めの選択がなのはちゃんをここまで連れてきたんだ。それだけは誇るべきだと思う。もし、悩んでいるのなら《なのはちゃんをここまでの重要人物にしたのは僕なんだ》って考えればいいんじゃない?」

 

 

つまり、要約すると《なのはの功績は全部自分がいたおかげなんだぞ》という風に考えろと言っているのだ。実の所、ユーノがそんな図々しいことを言えるはずがないのだが、彼の顔から険が消えて清々しそうに誇らしげに胸を張るユーノ。仄の言葉で彼の中の無力感が無くなり、笑いながら自分なりの答えを返す。

 

 

「………なのはの功績が全部、僕のモノだなんて………とてもじゃないけど考えられませんよ………あぁ、それでも………それでも、僕のやったことは間違いじゃなかったんですね」

 

 

「いや、普通に間違いだと思うよ」 「えぇぇ!?」

 

 

仄の連続で放たれた否定の口撃にユーノは口をぽっかり開けて呆ける。確かにユーノの行った行為は結果的には上手くいったが、何かが狂えばなのはが大怪我をしていた可能性もある。機密保持の観点から言っても、ユーノの行動は過ちとしか例えようがない。そして、仄が街の事件が起こった際、どれほど苦労したのかをユーノに愚痴り出す。ユーノのライフがゼロを過ぎた辺りで、仄は説教と自分の憂さ晴らしを終わらせた。どうやら、頭上の戦闘に何やら変化があったようなので、仄とユーノは戦闘の方に意識を集中させる。これからが、この決闘の最終幕、魔法少女たちは互いの信じる願いのため、限界を超えて空を舞う。

 

 

 

 

 

 

 

「セヤァァァ!」

 

 

フェイトは雷で編まれた鎌をもってなのはに斬りかかる。それをなのははその場凌ぎのプロテクションで防御した。これで都合三回目の攻防、恐るべきことになのははたった二回の攻撃からフェイトの鎌の太刀筋に反応出来るレベルの戦略眼をモノにし始めている。何と凄まじい成長速度、だが、攻撃が読めるようになったとしても、なのはは状況を変えられない。彼女にはまさしく必殺と呼べる大技がある、その技も相手の速度が捉えられなければ意味はない。なのはとフェイトは互いを見つめ、先程と同じような攻防に移ろうとする。その時、この状況に焦れたフェイトが勝負を決めにきた。無理もない、母のためと焦りと不安を内在したフェイトが勝負の結果を急ぐのは自然の成り行きだろう。いきなり距離をとったフェイト、それがどういうことかは理解していないがなのはは好機と思い、砲撃をしようとする。そこで突如、金色に輝く魔方陣がなのはを縛した。

 

 

「アルカス・クルタス・エイギアス」

 

 

フェイトの唱える呪文と共に彼女のデバイス、バルディシュが帯電していく。帯電したのはデバイスだけではない、その持ち手たるフェイトも同様に雷をその身に纏う。ここで空中にモニターが現れ、先程に退場したアルフがなのはに警告する。

 

 

「逃げな!これはフェイトのとっておきだ。まともに受ければ防御の上から堕とされるよ!」

 

 

そのあまりに鬼気迫る声色からユーノはなのはを助けるために、飛び上がろうとする。そこでユーノを止めたのは仄だった。勝負の邪魔をさせないため、仄はユーノを留める。なのはを助けられないユーノに許されるのは、ただ彼女の無事を願うことのみ。

 

 

「疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

 

 

なのはは恐怖する、フェイトの今唱えている魔法が確実に勝負を決するものだと思考ではなく、本能が察知した。バインドを破ろうと足掻くがバインドはびくともしない。逃げようにも体は動かない、こんな絶望的な状況でなのはは逃げることを止めた。彼女はありったけの魔力で強固な防壁を創成する。今までとは比較にならない強度の壁、もう、これでなのはに出来ることは終わった。後はフェイトの一撃を耐えきるのみ、覚悟を決めた瞬間、詠唱が終わりを迎え雷弾の軍隊がその猛威を振るう。

 

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト!撃ち砕け、ファイアー!」

 

 

 

フェイトは己の全てをなのはに叩き込む、夥しいほどの雷の弾幕はなのはを蹂躙する。この弾丸の嵐の中でなのはを撃ち落とした、とフェイトは気を緩めた、緩めてしまった。そのフェイトが弛緩した刹那、今度はフェイトにバインドが掛けられる。まさかとフェイトは目を見張った、彼女が見たのは肩で息をしながらも空を翔ぶなのはの姿だったのだ。この凄まじい弾幕をなのはが凌ぎきれたのは単なる運。なのはの諦めない心が奇跡的に勝利の可能性を手繰り寄せた。そして、今度はフェイトがバインドを破ろうと躍起になるが、先の一撃で彼女の魔力は底を尽きている。なのははフェイトに狙いを定め、レイジングハートを構える。これより放たれるは星光すら砕く砲撃魔法、後に仄がマジックガンナーの後継者に成りえる、と恐れたほどの一撃。

 

 

「受けてみて!ディバインバスターの集束バリエーション!」

 

 

フェイトの必殺の一撃を防御したことでなのは自身の魔力はほぼ空になっている。そんな状況でなのはは周囲に残留する魔力を集め束ねることで、最後の大技を放つ。

 

 

「これが私の、私たちの全力全開。スター……ライト、ブレイカー!!」

 

 

『Star.light.Breaker』

 

 

レイジングハートと共になのはは、勝利の一発をフェイトへお見舞いする。桃色の極光が海鳴の夜空を駆け抜け、魔導師たちのジュエルシードを賭けた勝負は決着した。

 

 

『Put.Out』

 

 

フェイトが何とか飛行していると、バルディシュが己の内に収納されたジュエルシードを外に出す。これは敗北を認めたことに違いない。合計十個のジュエルシードが空に滞空している。なのはがそのジュエルシードを回収しようとすると、以前の海上と同様の雷が襲いかかる。フェイトもなのはも魔力を使いきり、まともに動くことが出来ない。そこに魔法使いの少年は箒に跨がり、二人を間一髪の所で救出する。しかし、浮かんでいたジュエルシードの全ては奪われてしまったらしい。空中に現れたモニターから、なのはとフェイトをアースラに連れてきてほしいと伝えられる。以前は断ったが、今度は事態が事態だ。なのはとフェイトが行く以上自分も行かない訳にはいかない。念のため魔術礼装であるローブと帽子に魔力を伝導させて、仄はアースラへ跳んでいった。

 

 

 

 

 

 

「……………これは魔法とか魔術じゃなくてSFだろう?」

 

 

「はは、それ、なのはも言ってたよ。僕としてはこちらがスタンダードな魔法なんだけどなぁ」

 

 

「のんびりと話すのもいいが、急ぎブリッジに行くぞ。それと君、先ほどの雷は君の仕業ではないんだな?」

 

 

ユーノと仄がマイペースな話をしていると、待っていたクロノが仄とユーノをブリッジへ案内しようとする。フェイトとなのはは一旦、休んでからブリッジへ向かうらしい。

 

 

「まったく、無関係。それにしても雷か、フェイトちゃんも雷を使っていた…ということは…………あれをやったのって」

 

 

「………君は彼女の母、プレシア・テスタロッサを知っているのか?」

 

 

「全然、むしろ、今ので名前を知ったよ。実の母が娘に雷落とすって、そういうのはお父さんの領分だろうに」

 

 

 

会話をしながら、メカメカしい通路を進んでいくと宇宙戦艦そのものの空間へ到着した。

 

 

「久しぶりね、仄くん」

 

 

「はい、出来ればこのまま会わない方が互いのためだったんでしょうけど、このままじゃ、事態が更に面倒なことになりそうですしね。とりあえず、ここは協力しますよ」

 

 

「とても、心強いわ。………でも、貴方の所有するロストロギアのことを考えると、この事件が終わってからも、仄くんとは長い付き合いになるかもね」

 

 

「勘弁してください、まったく。………それでプレシアさんは今、どこにいるんですか。個人的に一言もの申したいんですけど」

 

 

「それは母親として私も同感よ、ちょうど、彼女の潜伏している場所に部隊が突入したわ。前方のモニターに現状を映して!」

 

 

リンディの言葉と同時に前方のモニターがアースラでも海鳴でもない場所を映し出す。そこには黒を基調とした服を着た女性が部隊に囲まれている映像が。おそらく、あの女性がプレシアなのだろう。しかし、注目すべきはそこではない彼女の隣にある入れ物、いやこの場合は棺桶と認識するのが正しいのか?その入れ物にはフェイトより幼いが、彼女に゛瓜二つの少女゛が入れられていたのだ。

 

 

「………なるほど、フェイトちゃんは」

 

 

「え………?」

 

 

背後からフェイトが困惑の呻きをした瞬間、武装した部隊がプレシアに接近する。その行動にプレシアは激怒した。

 

 

『私のアリシアに近づかないで!!』

 

 

その怒りは雷撃となって、部隊を一気に鎮圧する。非殺傷のおかげか部隊の人たちは何とか息をしている模様。その部隊全員をエイミィがとっさの判断、いや英断でアースラに転送させた。そして、管理局のモニターにプレシアが気づくと、彼女はとうとう、このジュエルシード事件の真相に関わる哀しき真実を語り始めた。

 

 

『ああ、もう駄目かしら。本来はジュエルシード全てでようやく到達できると思っていたんだけど、たった十個ではアルハザードに辿り着けるか、どうか。………それでも、ないよりマシね。これで終わりする。聞こえているのでしょう、フェイト。貴方のことよ、せっかくアリシアの記憶を与えたのに似ているのは見かけだけ。貴方は本当に私を失望させてくれたわ、ちっとも使えない私の゛おにんぎょう゛』

 

 

「そういうことだったんだ………………」

 

 

仄は全てを理解すると、リンディがプレシアの過去について補足する。

 

 

「……彼女は過去に時空航行エネルギー駆動炉ヒュードラの事故で一人娘アリシア・テスタロッサを無くしているわ。それから、彼女が研究していたのは使い魔より強力で量産可能な魔導師の人造計画。…………その計画の名を゛プロジェクト・フェイト゛」

 

 

「「「「「………っ!」」」」」

 

 

 

ブリッジにいる者たちは驚愕する、何という狂気、何と哀しき真実。あまりの出来事にフェイトは膝をつく。その姿はあまりにも悼ましいモノだった。

 

 

 

『そう、私が望んでいたのはたった一つ、アリシアの蘇生、それだけよ。プロジェクト・フェイトもその一つ、でも駄目ね。やはり紛い物は紛い物。……フェイトの利き腕は右、アリシアは左利きだったわ。フェイトは優秀な魔法資質を持っているけど、アリシアは魔法が得意ではなかった。…………このことに気づいた時の私の気持ちがわかる?』

 

 

「わからない、というか知らないよ。そんな甘ったれた妄執」

 

 

プレシアの怒りと憎しみが満ちた呪詛がアースラに響く。そんなプレシアの言葉を魔法使いは真っ向から挑んでいく。

 

 

「死者の蘇生は絶対に出来ない。それが動物だろうと人であろうと変わらず、命あるものは死ねば蘇れない。それは第一から第六法の全てを用いても不可能だ。死者の蘇生なんて詰まるところ子供の我儘、癇癪と大差ない。貴方は最初から間違えているんだよ。時間は不可逆だ、過去に戻ろうとしてもそれは許されない。貴方は過去に生きるのではなく、未来に生きるべきだったんだ」

 

 

『知ったような口を!………私の願いを、そこらの子供の駄々と同列に考えているとでもいうつもり!それに第一?第六?………そのもの言い、貴方はいったい何者なの………』

 

 

モニターの向こうのプレシア、ブリッジにいるリンディ、クロノ、エイミィを初めとした管理局の面々、そしてユーノと なのは。絶望にうちひしがれるフェイト、その総ての者が幼き少年に注目する。そう彼こそが今、世界でもっとも新しき第一、第二法の後継者。魔法に至り、人理、可能性を守る者。彼の名は………

 

 

 

「………多華宮、仄。通りすがりの魔法使いだよ」

 

 

少年は少し笑いながら自分自身が何者であるかを、今、高らかにこの場の者たちへ向けて宣言した。

 

 

 

『…………魔法使い?フフ、ハハハ!そんなお伽噺のような子供だましが私の願いを邪魔しようと言うの!下らない、下らない、下らない!!……私は、私たちは旅立つの。忘れられた都、アルハザードへ!……………それでも私の邪魔をするというなら、救ってみなさい、私をアリシアを!絶望したフェイトを!………魔法使いなんて大層な名前を吼えるのなら、やってごらんなさい』

 

 

 

プレシアが吐き捨てるように、憎悪を含んだ言葉を仄にぶつける。それは仄と同年代なら、あまりの恐ろしさに身じろぎも出来ないような恐怖を刻み込むだろう。現に近くにいたなのははプレシアの憎悪に震えている。執務管として、それなりに犯罪者と遭遇したクロノですら腰が引けている状態。だが、仄は怯えも恐れもせずリンディに告げる。

 

 

「それじゃあ、僕をプレシアのいるとこまで、送ってくれませんか?」

 

 

「なっ!……………本気?…」

 

 

「はい、海鳴にならどれだけ離れていても跳べるんですけど、初めて行く場所はそうもいかないんですよねぇ」

 

 

「いえ、そうではなくて…………」

 

 

仄の危機感を感じさせないマイペースな言葉にクロノが叫ぶ。

 

 

「おい、わかっているのか!?相手は完全に興奮していて、今、君が行けば無事に帰れる保証はないんだぞ!」

 

 

クロノが仄を止めるが、仄は頑として意見を変えない。結局、クロノが同行するということで話は落ち着く。そして、プレシアのもとに向かおうとする彼らに、今度はなのはが同行すると言いだした。これも一悶着あったがどうにかなのはは同行許可をもぎ取る。その交渉劇の凄まじさは、後にクロノが《地球出身者は頑固者しかいない》とレポートに記したほどだ。なのはの同行に関して仄は、同意しかねていたが、なのはの強い意思の前に認め(諦め)ざるをえなかった。それと同時にユーノの同行も許される。こうして、紆余曲折があったにしろ、少年、少女たちはプレシアのいる時の庭園へ向かう。

 

 

 

プレシアの所に行く前、床に座り込んだフェイトに、仄は一言だけ語りかける。それは慰めの言葉でなければ、励ましの言葉ですらない。それは単純な信頼の込められた一言。

 

 

 

「先に行ってるよ、フェイトちゃん」

 

 

 

仄を含む四人が、プレシアのもとへ転送されると、フェイトは先ほどの言葉の意味を考える。ホノカは自分を人形と知ったのに、以前と同じように接したのだ。先に行ってる、彼はそう言った。待ってるでも、立ちあがれとも異なる言葉。彼は自分が来ると思っているのか?それは何故、どうして?

信じている?私を?私の何を彼は信じているというの?

 

 

 

 

 

仄たちはプレシアのもとへ行ってしまう。しかし、フェイトは悩み、迷いの中にあった。彼女は仄が自身の何を信じたのか思考し続ける。人形と断じられた自分の中にあるたった一つの真実が何なのか。彼女は既にわかっている、後はそれを自覚するだけ。

そして、この迷いが晴れたとき、最後の役者が舞台に出揃うだろう。………ジュエルシードを巡る戦いは終わり、これからが、今までの物語の最終戦となる。魔法使いと魔導師は全ての因縁を終わらせるため、ただ一直線に進むのだった。

 

 

 

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