リリカルな魔法使い<一時凍結>   作:悪事

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意思を貫くとは?

死者は決して還ってこない。これを当然と知っている者は多くいても゛理解゛している者は非常に少ない。例えば、死んだ大事な人に再び会いたい………という願い。不可能と頭ではわかっていても人間は感情に動かされ暴走する場合がある。そうした者たちの大半は死者の蘇生、不老不死なんて夢物語に生涯を費やす。

死はこの世の理そのもの、しかし、その理を破る者がいるとすればその者は人理の脅威だ。故に魔法使いとなった者は世界から疎外された存在へと変わってしまう。人理から逸脱してしまった魔法使いに停滞は許されない。少しでも立ち止まれば、抑止の影は魔法使いに追い付く。それ故に幼かろうと老いていようと魔法使いには停滞は許されない。魔法使いに許されたことはたった一つ、足掻き続けることだけなのだ。

 

 

 

 

 

Side 仄

 

 

アースラから仄たちはプレシア・テスタロッサのいるであろう、時の庭園へ転移した。……………………転移先は、よりにもよってメカメカしいロボットの集団の真ん前に。数百体はいるだろうロボット兵を見て、仄はあり得ないとでも言いたげに愚痴りだした。

 

 

「……………宇宙戦艦の次はロボットの兵隊、もう完全に魔法じゃなくて、SFの領域だ。こんな神秘の欠片もないようなモノまで魔法と呼ぶなんて…………魔法どころか魔術と言うのも憚られる代物だよ………」

 

 

「言ってる場合かーー!!」

 

 

仄の冷静な(または場違いな)台詞に、クロノはそれどころではないと言わんばかりにデバイスから魔力弾を撃つ。なのは、ユーノもそれに続いてロボットたちに攻撃。仄もシングルアクションの魔弾をロボットへ撃ちだす。あらかた、ロボットたちの撃退が終わり、仄たちは時の庭園、プレシアのいると思われる方向へ向かう。しかし、少し進む度にロボットが群を成して突貫してくるではないか。これでは、プレシアの所に着いたころには日が暮れている。

 

 

「このロボットたちを動かすためには、莫大なエネルギーが必要だ。だが、ジュエルシードはプレシアがアルハザードへ到達するために温存されている。となれば、時の庭園のどこかに動力炉があるはずだ。なのは、ユーノ、仄、君たちは動力炉を破壊しろ…………その間に僕がプレシアを確保する」

 

 

クロノの提案に仄は懸念を示す。

 

 

「プレシアさんはジュエルシードを持ってるはずだよね、だとすればクロノ、一人じゃ荷が重いと思うんだけど」

 

 

「そうです、いくら執務官とはいえ、ロストロギアを持つ相手に一人で挑むなんて!」

 

 

ユーノがクロノに危険ということを確かに警告する。しかし、その警告を聞いたクロノは重い覚悟と感情の込められた発言を返した。

 

 

 

「確かに僕だけでは勝てる確率は低いかもしれないな。けれど、今のプレシアは僕らに対して激怒している、下手をすれば彼女は非殺傷設定を解除しているかもしれない。そんな危険人物を君たち(仄、なのは、ユーノ)に相手させる訳にはいかないだろ。それと彼女には、僕個人として一言言ってやりたいことがあるからな…………………」

 

 

「……………必ず、追い付くから!」

 

 

なのはが大声で宣言すると同時に仄たちは動力炉へと駆け出した。その後ろ姿を見届けたクロノはプレシアの所へと向かう。

………クロノ・ハラオウンはプレシアの信念を認められない。しかし、クロノが幾ら言葉を尽くした所で、プレシアは己の信念を曲げないだろう。ならば、クロノがすることはたった一つ。プレシアを確保して彼女の罪を償わせる。己の信念を貫き通すためにクロノは速度を増してプレシアの下へ飛び出した。

 

 

 

 

 

 

Sideフェイト

 

自分の存在の全てが偽りだった、自分と母親の記憶は紛い物で、自分の命は鍍金に過ぎない。ならば、この命に……意思に……願いは゛価値あるモノ゛なのか?

 

 

自分を構成する全ては偽物だ。空っぽの人形にアリシアという少女の残骸を上書きしただけの存在。人間と言うことも出来ず生き物と認めることも滑稽。事実を認識して目の前が暗くなる、絶望の闇に落ちる、墜ちる、堕ちる。

 

 

そんな時、絶望の暗黒の中で微かな光が見えた。それは金色の光、自分の手の内にあるバルディシュが強く明滅している。まるで自分を叱咤激励するかのように………

 

 

バルディシュの放った光は、フェイトの迷いと絶望を消し祓った。そうだ、価値がないのが、存在を否定される理由にはならない。何よりフェイトが゛フェイト゛を否定することは今まで自分と関わった全てを否定することになる。それだけは駄目だ、そんなことは許されるはずがない。アルフ、リニス、なのは、ユーノ、そして仄。自分自身は無意味で無価値かもしれない、それでも彼らは決して無価値ではない!

 

 

 

私は゛フェイト゛(自分)に価値を見出だせない。けれど、そんな自分と絆を結んでくれた友たちは゛私゛を信じてくれた。フェイトは自分を信じられない、でも、それでも友が信じてくれた自分なら私は信じることが出来る!

 

 

 

「そっか、私の物語はまだ始まってすらいないんだ…………」

 

 

自分を信じることすら出来ない未熟者が、自身の物語を始めるなんて烏滸がましいにも程がある。それでも私の物語を始めよう…………これは単なるプロローグ。だとすれば、こんなところで足踏みしていられない………

 

 

「バルディシュ。私はまだ始まってもいなかったんだね?」

 

 

『get set』

 

 

フェイトの意思の満ちた言葉に、バルディシュは一際強く輝きと共に応える。

 

 

「じゃあ、バルディシュもこのまま終わりたくないんだね。………うん、私も同じ、このまま終わりになんてしたくない!」

 

 

座り込んでいたフェイトは勢いよく立ち上がる。その勢いを止めることなく、バルディシュにありったけの魔力を充填し始めた。発動するのは転移魔法、転移先など説明するまでもない。

 

 

「うまく、出来るかわからないけど一緒に頑張ろう……」

 

 

『yes sir』

 

 

その会話を終えた瞬間にフェイトはアースラの一室から忽然と消える。迷いを断ち切った少女の瞳には希望の光が映っていた。

 

 

 

 

 

 

Side仄

 

うじゃうじゃと迫り来るロボットの軍勢、一体一体は弱いのだが、こうも膨大な物量で攻め立てられると流石に苦しいモノがある。迫るロボットどもを蹴散らして、無双状態で時の庭園の深部へと進む。凄まじい数のロボットたちを倒し、何やら拓けた広い空間に辿り着いた。この空間の中心には明らかに動力炉らしきモノが。

 

 

「あれが動力炉?一応、魔力を使ってはいるけど、清々しいまでにSFぽい外観だなぁ」

 

 

「とりあえず、あれを壊せばロボットたちは動きを止めるはずです!」

 

 

「うん、早く壊してクロノくんを助けに行かないと………」

 

 

なのはと仄が魔力弾を動力炉に放つと、周辺に散在していたロボットたちが集まって受け止めた。烏合の衆であったロボットたちが急に集まりだしてきた、いや、集まるではなく固まるという方が正確だろう。数百体ほどのロボットの群れが噛み合うように合体し、一体の大きなロボットに変形したではないか。その光景になのは、ユーノは警戒を深め、仄はうんざりと憂鬱そうに頭を抱える。

 

 

「魔法というか、これって特撮の間違いだろう。ロボットだけなら、まだゴーレムとかの一種と自分を誤魔化せたけど。合体するとか…………」

 

 

「あっ……、仄くん。元気だして!」

 

 

なのはの慰めの甲斐があったのか、モチベーションを取り戻した仄は腕を巨大ロボットに向ける。とりあえず、一工程の魔弾がロボットに当たった。先ほどまでなら、この一発でオシャカに出来たはず、しかし、ロボットの表面には傷の一つもない。どうやら、変わったのは見てくれだけではないようだ。強度はおそらく倍増し。破壊力も同様に上がっていると考えた方がいいだろう。

 

 

「それで、あのデカブツをどうしようか?」

 

 

 

動力炉を前にしての思わぬ強敵。仄たち三人は激戦を予感する。片や、合体し巨大化したロボットは感情を見せない眼で三人の幼い敵を観察している。しかし、突如、ロボットの背後から金色の閃光が煌めき、ロボットの片腕を斬りさいた。それを見た仄は、ようやくかと言わんばかりに肩をすくめる。なのはとユーノは驚きながらもフェイトに向かって笑いかけた。

 

 

「遅いよ、フェイトちゃん。待ちくたびれたじゃないか」

 

 

「待ってたよ!フェイトちゃん」 「フェイトさん!」

 

 

「うん、待たせてゴメンね。仄、なのは、ユーノ。………………もう私は迷わない、お母さんにしっかりと私の気持ちを言う、言わなきゃ始まらない。だから、力を貸して。私も皆に力を貸すから!」

 

 

「「「勿論!!!」」」

 

 

 

なのははユーノを肩に乗せて飛びあがる、同じく仄も箒に乗って空中へ。魔法使いと魔導師たちは空中を自由自在に動き回ってロボットを攪乱する。ロボットは増えた敵を、なんとか払い落とそうと巨腕を振るう。少年、少女たちは迫る豪腕を避けてロボットの正面に陣取った。ロボットの正面、危険ではあるがロボットと後方の動力炉が射線に捉えられる所。どうやら、仄たちは次の一撃で終わらせるつもりらしい。

 

 

「魔弾最大出力(エクスキュート)」

 

 

箒の上に両足を乗せ、バランスよく箒上に直立した仄。彼がロボットへ向けた腕に魔術回路が紅く発光する。少年の魔力が回路に流れ弾丸を生成し始めた。砲身は己の体、標準を定めるのは自分の理性。撃ち抜くは機械仕掛けのヒトガタ。

 

 

「行こう、バルディシュ!」 『get  set』

 

 

「私たちも行こう!レイジングハート!」 『stand by ready』

 

 

魔導師の少女たちは鋼鉄の杖に魔力を注ぐ。注がれた魔力に応えるようにデバイスたちが光を放つ。すると杖と持ち主を中心に魔法陣が展開されたではないか。展開された魔法陣は大きくなっていく。金色、桃色の魔力光が薄暗かった時の庭園を照らし出した。

 

 

次の瞬間ーーーー少年たちは一斉に動いた。

 

 

 

「魔弾炸裂、全魔力開放(バースト、フルスロットル)!!!」

 

 

「サンダースマッシャー!!!」

 

 

「ディバインバスター!!!」

 

 

ロボットに向かって撃たれた魔力の奔流はロボットを消し飛ばすだけでは止まらず、背後の動力炉に着弾。三人の一撃はロボットと動力炉に巨大な風穴を開け、時の庭園を盛大に揺らす。いや、揺らすどころか、動力炉が爆発を起こして時の庭園にまで大きな穴を開けてしまった。

 

 

 

少年たちはロボットや動力炉に目もくれず、戦場に戻ってきたフェイトに近づく。最初に話しかけたのは魔法使いである少年、多華宮 仄。

 

 

「……………それで、フェイトちゃん。ここに来たってことは、もうやるべきことを決めてきたんだよね?」

 

 

「うん、決めてきた。………やっぱり、私はお母さんの娘だから、お母さんがどれだけ゛違う゛って言っても、もう迷わない!私は母さんの娘だ!」

 

 

「フェイトちゃん…」 「フェイトさん…」

 

 

フェイトの叫びになのは、ユーノは安心したように笑った。

 

 

「動力炉の下には母さんがいるはず。この穴に入ろう、きっとこの先は母さんのいる場所に通じてる」

 

 

フェイトは穴へ勢いよく飛び込む、それに続いて、なのは、ユーノ、仄たちも大穴に突入していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Sideクロノ

 

 

なのはたちと別れたクロノは、すぐにプレシアの居場所に辿り着いた。クロノはプレシア・テスタロッサという犯罪者を捕まえるつもりで彼女の前に立つ。しかし、彼女の目を見た瞬間、僅かだが、彼女を捕まえるという覚悟が揺らいだ。

 

 

そう、クロノはまだ少年だ。それでも執務官として犯罪者やそれに準じた者と相対した経験を持っている。そんな彼が何故、僅かであろうと揺らいだのか?それはプレシアが゛犯罪者の目゛ではなく゛哀しむ母親の目゛をしていたからだ。今の彼女は自分のために動いているのではない、正真正銘、喪った娘のために罪を犯している。彼女が己のエゴのために行動していたら、クロノは迷わなかっただろう。しかし、プレシアは哀しいほどに゛母親゛としてしか動いていない。かつて、他の事件で娘を喪った母親が今の彼女と同じ瞳をしていたことを想起しかけた。

 

 

だが、一瞬の迷いをクロノは即座に切り捨てる。確かに彼女の境遇には同情するところがある。だけど、それでも、例え誰であろうと<罪には罰>がなければならない。

 

 

「プレシア・テスタロッサ、貴女を逮捕する」

 

 

己のデバイスをプレシアに向けて、クロノは自身の゛正義゛を厳粛に唱えた。それに対するプレシアの返答は……………

 

 

 

青白い雷撃、クロノに向かって直進する稲妻。クロノは高速移動の魔法を使って、プレシアの雷撃を回避した。が、相手は大魔導師を謳う女、クロノの回避を見越していたのか、クロノの回避先に雷の属性付きのバインドがクロノを捕らえた。

 

 

「ガァァァァァァ!!」

 

 

 

全身に奔る痛み、ただのバインドに雷が付与されただけで、ここまでのダメージを負うとは。叫ぶクロノをプレシアは無感動に観察する。クロノはバインドを無理矢理抉じ開けて脱出。バインドから逃れたクロノはプレシアから距離を取った。

 

 

 

「スナイプショット!」

 

 

クロノのデバイス、S2Uから回転のかかった魔力弾が放たれる。この魔法は魔力弾に強い回転を加えて発射する攻撃魔法。下手な障壁なら貫通できるのだが、

 

カンッ

 

 

「チッ!やはり駄目か?!」

 

 

プレシアの魔法障壁はクロノの魔法を甲高い音をたてて弾いた。クロノも今ので決まると楽観していたわけではないが、眼中にすらないとなると悪態も吐きたくなる。

 

 

「わかったでしょう、貴方では私には勝てない。これ以上、私の手を煩わせるのなら゛殺す゛わよ」

 

 

プレシアの冷たい意思を感じさせる言葉にクロノは退きかけるが、ありったけの自制心をもってその場になんとか踏みとどまる。クロノは先ほどよりも速度を上げて、プレシアに接近する。彼女は鼻白んだ顔で雷撃を放つ。その雷撃はクロノに迫る途中で十に枝分かれしたではないか。突然のことにもクロノはなんとか対応して回避した。バインドを警戒して周囲をサーチし続け、彼女に向かって攻撃魔法を射つ千日手。クロノにとっては現状ですら命がけの攻防、しかしプレシアはまだまだ余力を残している。遊ばれているのかとクロノは心の中で憤慨する。

 

 

 

しかし、クロノはこの千日手を繰り返す内にどこか違和感を持った。クロノは遠近・攻防をこなす万能型でAAA+クラスという高い魔導師ランクの持ち主である。しかし、クロノは己の力量を過信していない、それどころか冷静に己の力量を計ることが出来る。言ってしまえば簡単だが、実際は非常に難易度が高い。自分の力量と相手の力量を計るには己の自尊心を押し殺し、相手を認める度量がなければ不可能な芸当。それをクロノは弱冠14歳で可能としているのだ。プレシアはクロノを圧倒出来る実力を持つ、そんな彼女はクロノを相手にして手加減する理由はない。ならば彼女は本気を出していないのではなく、何か゛本気を出せない゛理由がある?

 

 

『ブレイズキャノン』

 

 

クロノはこれを楽観、妄想に近しいと唾棄しつつ。プレシアに己の大技をブッ放した。S2Uの機械的な音声と共に一際大きな魔力弾が放たれる。

 

 

「なっーーーーー」

 

 

プレシアは攻撃に回していた魔力を防御に回す。巨大な魔力弾、プレシアの障壁。軍配の上がったのはプレシアの障壁、クロノの一撃はプレシアに傷をつけることなく消えていく。クロノはダメか、と歯を食いしばって

 

 

ゴフッ

 

 

障壁内のプレシアがいきなり吐血したではないか、クロノは自分の想定が当たっていたという事実に驚くが今の彼女を刺激しないようにゆっくりと近づく。だが、倒れたプレシアはクロノに向かって雷が跳ぶ。だが、先ほどまでの攻撃のキレが欠けている。クロノは難なくその攻撃を避けた。

 

 

「どうして、……………娘を救いたい。娘に生きていて欲しいという願いを邪魔するの!私の願いが間違っているとでもいうの!!」

 

 

「いや、貴方の願いは間違いではない。むしろ、尊い願いだと感じた……」

 

 

「ならっ!!」 「ーーーそれでもーーー」

 

 

プレシアの叫びにクロノは粛々と答える。

 

 

「貴女は手段を間違えた、ロストロギアを使い次元震を起こしてでもアルハザードに至る。娘のためとはいえ、それは悪、そして罪だ。ならば貴女は罪を償わなければならない」

 

 

「邪魔をしないで!私はどんなことをしてでもアルハザードへ辿り着く。そしてアリシアを取り戻すのよ。こんなはずじゃなかった世界から!」

 

 

その台詞はクロノの琴線に触れた。プレシアの言葉にクロノは怒りで震える、それはプレシアが以前の自分によく似ていたから。要するに同族嫌悪。

 

 

「こんな筈じゃない世界?そんなの当然だろ!貴女はなんでも自分の思い通りに世界が動くとでも思ってるのか?思い通りになるわけがない、そんなこと、誰でもわかってる。ずっと昔からいつだって、どこだって、誰だってそうなんだ!」

 

 

クロノは父親を喪った、その事実を認められない時期があった。それでも彼は現実を直視することを選んだ。失ったモノは戻らない、当然のことを当然と受け入れることの困難さ。それを乗り越えたクロノだからこそ、今のプレシア・テスタロッサの戯れ言の全てを認められない。彼女の言葉を認めるということは、これまでの自分の生き方を、関わってきた全ての人を゛無駄゛と斬り捨てるに等しいから。

 

 

「こんな筈じゃない世界から逃げるか?、それとも立ち向かうか?それはあんたの決めることだ。僕は一切干渉しないさ。だけど、あんたの勝手な悲しみで無関係な人間を傷つけるのだけは許さない!そんな権利は何処の誰にもありはしないんだから!!」

 

 

 

ドーーン!!!!

 

 

 

突然の爆音と共に時の庭園が揺れ、クロノとプレシアのいた空間の天井が砕け散る。砕け落ちた天井の瓦礫をクロノ、プレシアは障壁を張ってやり過ごす。瓦礫が全て落ちきったところに三つの人影が落ちて、いや飛んでくる。最初に見えた二つの影は肩にフェレット、もといユーノを乗せたなのは、金髪を翻し降りてきたフェイト。飛行魔法で飛んでいる二人はまだ分かる。しかし、三人目の人影は箒?に乗ってきた多華宮 仄。見慣れていないプレシアは目を見開いてその三人を見つめる。これにて、役者は出揃ったのだ。

 

 

 

 

 

Side仄

 

 

ロボットたちを動かしていた動力炉を巨大ロボごと粉砕して、クロノとプレシアさんのいる空間にあっという間に到着したわけだが、さて、どうしたものか?プレシアさんは、会ったら必ず始末しようと思っていたが、フェイトちゃんに情が移ったのか、どうにもヤル気が起きない。かといって、ここで根源の孔を開ける真似事をされても厄介だ。

 

 

「お母さん…………どうしても、言わなきゃいけないことがあります。私は、私は人形なんかじゃない。私の名前は゛フェイト・テスタロッサ゛……………貴女の、貴女の娘です!!!」

 

 

なんて物騒なことを考えているとフェイトちゃんがプレシアさんに自分の答えをぶつけたようだ。プレシアさんの傍らにはフェイトちゃんによく似た少女の亡骸が。それを見た瞬間、頭が痛くなるのを感じた。フェイトちゃんとは面識がある。しかし、彼女には何の面識も思い出もない。したがって僕があのアリシアという少女に何かする理由はない。

 

 

ーーーー本当に?ーーーー

 

 

自分の中で゛自分゛が聞き返す。

 

 

ーーーあのプレシアという女は母親として、人として最低の類いだ。どんな形であろうと己の産んだ命から目を背け、今を見ずに過去にすがり付いている。ああ、人としては赤点だな?だが、それでもフェイト・テスタロッサの母親はプレシアしかいない。それと同様にフェイトの姉妹は゛アリシア・テスタロッサ゛しか有り得ないーーー

 

 

だから、救えというのか知り合って日も浅い、少女のために゛魔法を使え゛とでも?数秒死んだ人を蘇らせるだけでも、世界に相当の負荷をかける。数年前に死んだアリシアを蘇らせるなんて、どれほど膨大な負荷が生じるか。考えただけで頭が痛くなる。人一人を蘇らせたところでそれに対する利益が、リターンがない。つまり、意味がない。

 

 

ーーー意味が、理由がなければ動かないのか?ーーー

 

 

それが人間だ。

 

 

ーーー考えるより先に動く、これも人間だーーー

 

 

それが出来れば苦労しない。

 

 

ーーーでは、質問を変えるとしよう、これは簡単だ。多華宮 仄なら分かる。わかりきった質問だ。゛多華宮 仄゛は゛フェイト・テスタロッサ゛を救いたいか?ーーー

 

 

……………………………………………救いたい。

 

 

救いたいに決まっている!!でも、アリシアちゃんを蘇らせなくてもいいだろう!プレシア・テスタロッサの目を覚まさせ、プレシアがフェイトちゃんを認めて大団円。それじゃあ、ダメなのか?

 

 

ーーーまったく、駄目だ。確かにアリシアを蘇らせずともいいだろう。だが、多華宮 仄には゛手段゛がある。魔法使いとして自分は二つの魔法を継承した。魔法なんて大仰なモノを持っていても、使い道のない無用の長物ではないか。それならば、少女を救うためにその全てを使い尽くせ。フェイトの生涯を完膚なきまでに救うために魔法を使え!ーーー

 

 

 

 

 

多華宮 仄は孤児だった、生まれた場所がどこかを知らず、両親の名前すら検討もつかない。仄が偶然、魔法を使える素養と魔術回路がなければ蒼崎青子と出会うこともなかった。仄にとって、魔法は使えるモノ、という程度でしかない。意味がなかった、そんな魔法が大事な友人のために使えるというなら、きっと魔法に新たな価値が見出だせる!!

 

 

 

 

 

仄は意識を自分の内側から、外側に向ける。刹那の自問自答を終わらせ、フェイトがプレシアに自分の意思を告げたところで意識を戻す。 フェイトの言葉にプレシアが答えを返す。

 

 

「貴女を認めろと?…………ふざけないで、私は貴女を認められないから、ここにいるの。だから、はっきり言ってあげる。私は貴女を絶対に認めない!!」

 

 

 

プレシアの叫びにフェイトは唇を強く噛み締める。悲しみを堪えるように強く、強く。その姿を見てクロノ、なのは、ユーノたちはプレシアに何か言おうとするが、それより先に仄が箒から降りて、プレシアと真っ向から相対する。

 

 

「みんな、ここは僕に任せて……………」

 

 

激昂したプレシアの前に立ち、三角帽を被った仄が呟く。なのはたちは仄を止めようとするが仄の背中を見た瞬間、口にしようとしていた台詞を閉ざした。彼の背中は少女たちと同年代とは思えないほどの鮮烈な覚悟が見てとれる。その背中に圧倒され、なのはたち四人は呆然と立ち尽くす。そして、仄は腰のホルスターから宝石剣を抜いた。プレシアは仄の宝石剣を観察するが、魔力が欠片も感じられないとわかると、殺意を込めて仄にデバイスを構える。

 

 

 

 

哀しみの大魔導士と最新の魔法使い。互いにそれぞれの意思を貫くため、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

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