この回は死者蘇生や独自解釈が中心のお話になっています。賛否両論あろうとは思いますが、是非ともご覧くだされば喜ばしい限りです。
プレシアと仄、思えば彼らはその思想に関しても生き方に焦点を当てても、まったく対極に位置すると言える。プレシアは過去を取り戻すため後退の道を選び、仄は魔法使いとなって未来へ前進することを決めた。その在り方は互いの意思の根幹に根ざすモノであると同時に譲ることの出来ない信念。今、仄とプレシアは己の存在の定義を賭して激突している。
その戦闘の光景は魔法を使う者たちから見ても圧巻の一言、黄金の閃雷、虹色の極光。どちらも通常では考えられないほどの魔力が高密度に詰まっており、防御など不可能とさえ思わせる光の乱舞。されど、ここにいるプレシアは大魔導師と謳われた女、それに対する仄も最年少で根源に達し魔法使いと呼ばれる怪物に成った少年。空気という高絶縁体を物ともせず直進する雷撃を仄は宝石剣の斬撃で撃ち落とす。プレシアも同じく虹色の斬光をデバイスから発した雷撃で応戦する。一歩も譲らぬ魔法の撃ち合い、放たれた魔法がぶつかり合い美しい光の華を空中に咲き誇らせた。それを起こした二人は、互いに魔力を白熱させて勝利をもぎ取らんと魔法を相手へ掃射し続けた。
Side仄
宝石剣、それは第二の魔法という平行世界に干渉する魔法を攻撃に転用させた魔導元帥の持つ最強の礼装。第二魔法を、ざっくばらんに説明するならば平行世界(パラレルワールド)への干渉と操作、大げさに言えば運営とも言い換えられる。宝石剣は無限に等しい平行世界の同一座標に漂う魔力を収束し放出するなどが可能。つまり、この戦闘で仄が魔力ぎれを起こすことはありえないと考えて構わない。されど、プレシアは違う、彼女の保有魔力は莫大だと言っても所詮は有限。時間が経過すれば彼女の魔力は空になるはず。しかし、プレシアの顔色を見る限り、彼女は今にも倒れてしまいそうだ。プレシアの卓越した魔法技術が皮肉にも彼女を内部から苛んでいる。これはプレシアを殺すための戦いではない、彼女にフェイトを認めさせる戦いでもあるのだから彼女が死んでしまっては本末転倒。一秒でも早く勝負を終わらせなければならない。間髪入れず飛んでくる雷の弾幕を宝石剣で活路を見出す。雷の弾幕を抜けきった時、プレシアが胸を強く抑えつける。その表情を見るからにかなりの激痛があるのだろう。その必死の姿を見て仄は疑問をぶつける。
「………貴方はなぜ、フェイトちゃんだけをジュエルシード回収に向かわせた?」
あまりにも唐突な質問、そして何と今更な疑問。仄の疑問に仲間であるなのはたちですら何を今更な疑問をしているのかと言う表情。プレシア・テスタロッサの目的は娘であるアリシアの蘇生であり、ジュエルシードを手に入れようとしたのは、アルハザードに行くために必要だったから。プレシアは眉をひそめるも、体力回復のため仄の疑問に返答する。
「何度も言わなければわからないの?私の目的はアリシアを取り戻すことよ。そのためにはジュエルシードが必要不可欠だった。けれど、私は数年前から心臓病を患っていて自力でジュエルシードを回収するのは困難。だから、私はフェイトをジュエルシードの回収に行かせたの……」
プレシアが病気を患っていると知ったフェイトは口元を抑え、その事実に驚愕する。だが、質問をした仄本人はプレシアの返答に満足していないようだ。
「プロジェクト・フェイト。それが人造魔導師を作る計画っていうことは聞いてる。言っとくけど命の尊さ云々の話をするわけじゃないよ。僕ら魔術師だってホムンクルスとか人造生命を作り出すことはある。ろくでなしの度合いで言えば僕ら魔術師の方が人間としては落第だろう。でも引っかかるんだよ、その手の人造生命ってのは"大量生産"が出来るってのがウリのはずだ。それなのに、海鳴にきたのはフェイトちゃんとアルフさんだけ。明らかにおかしい」
仄の言及にプレシアは一歩足を退いて言いよどんでしまう。それが仄の中の違和感を氷解させた。
「……フフ、アハハハ!」
突如、仄が緊迫した空気を無視して朗らかに笑い出す。その笑いはまるで相手を祝福するかのように嘲りも同情も見せない純粋な喜びに満ちていた。
「いったい何がおかしいというの!!」
仄の笑いを嘲笑とでも受け取ったのか、プレシアは仄へ怒りを込め一喝。その怒声は離れたなのはたちですら、竦ませる怒りの意思を受け取らせた。しかし、それを正面から受けた仄は微笑みながらプレシアを見返す。
「無理しない方がいいよ、貴方に悪役は似合わない。それよりも過保護なお母さん役が向いている。それにしても、何で気がつかなかったのかなぁ」
「何を言って………」
「ジュエルシードを回収させるなら、人造魔導師を数人行かせればよかった。それをしなかったのは、貴方がフェイトちゃんを一人の人間として真っ直ぐに見ていたからだ。それにフェイトちゃんを傷つけたのは、貴方の心にある罪悪感のせいじゃないのか」
「っつ!」
仄の強い確信を持った言葉にプレシアは反論を叩き返そうと口を開こうとする。悪意を込めて嫌みたらしく、嘲笑うようにプレシアは言葉を探す。しかし、待てども待てども眼前の少年にぶつける罵詈雑言が見つからない。それどころか、プレシアの瞳から熱い涙が零れ出す。
「アリシアちゃんの代わりとして生み出されたはずのフェイトちゃん。貴方はフェイトちゃんを見ているうちにアリシアちゃんとの差異に気づいたと言っていた。でも貴方はフェイトちゃんと暮らすことに幸福感を抱き始めていたんじゃないのか。死んでしまったアリシアちゃんを差し置いて幸せに暮らす自分とフェイトちゃんを許せなくなった。いや、もしかしたら幸せに暮らすうちにアリシアちゃんを忘れることが怖かったのか?……どちらでもいい、貴方はフェイトちゃんを愛していたんだろう!!!」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
泣きながら、涙を流しながらデバイスを振るうプレシア、先ほどの弾幕よりも高密度のもはや壁とさえ言える弾幕が放たれる。しかし、仄は迫る弾幕を前に宝石剣を振るおうとしない。ただ、宝石剣を弾幕に向け両手でしっかりと握って固定した。なのはたちは仄の姿に唖然とする。何もしない仄、その姿を見て彼が諦めたのかと僅かにだが考えてしまったなのはたち。しかし、その考えを覆す現象が具現した。
恐ろしい量の弾幕が宝石剣に触れた瞬間、その弾幕が宝石剣に吸い込まれていく。いや、その表現は適当ではない。正確には"宝石剣の前に出現した亀裂"に弾幕が吸い込まれていくのだ。そのあまりの非常識な事態に敵であるプレシアはおろか、仲間であるなのはたちも、そんな馬鹿な、と言いたげに驚いていた。
宝石剣は平行世界に通ずる孔を開け、そこから干渉を行う。電波として例えるなら、こちらから受信することも、あちらに向けて送信することも不可能ではない。つまり、先の弾幕は宝石剣によって"ここではないどこか"の平行世界へ跳ばされたという訳だ。もっともそれを知らないプレシア、なのはたちは驚きしか感情を発せられない。そんな彼女らを無視して仄はプレシア目掛けて疾る。近接戦闘に縁のないプレシアは仄へ魔力弾を放とうとした、しかしそれは失敗してしまう。何故なら、金色のバインドがプレシアを拘束していたからだ。驚きから目を覚ましたフェイトが仄の援護にバインドを発動した。不意を突かれる形で捕らえられたプレシア、されど彼女は大魔導師と呼ばれた女性。いくら天賦の才を持つとはいえフェイトの未熟なバインドなど即座に解除出来る。しかし、プレシアはバインドを解除する前にフェイトに視線を向けてしまった。……視線を向けた先…………そこには、憎しみなどない。ただ母親を案じる子供の心配気で泣き出しそうな顔があった。バインドを解除しようと回転させていたプレシアの思考が真っ白になる。半ば無意識にプレシアは泣き出しそうなフェイトの方に手を伸ばす。
「やっぱり、貴方は悪役を演じるのに向いていないよ……」
すぐそばで聞こえた仄の呟きでプレシアは我に帰る。しかし、懐に潜り込んだ仄はプレシアのバインド解除を先んじ人差し指でプレシアを指差す。彼の放とうとしている魔術はガンド。北欧に伝わる呪いを起源とする極めてポピュラーな魔術。仄のそれはさほど強力な呪いを発揮せず、せいぜい相手を一、二分昏倒させる程度。殺傷能力など皆無に近い魔術。師匠である蒼崎青子から最初に学んだ初歩の魔術が異世界の大魔導師に命中した。
Side Out
Sideプレシア
あぁ、まったく嫌になる。アリシアを蘇らせることもアルハザードへ向かうことも不可能だと、冷静な自分が頭の中で断言していた。それなのに、自分は何故ジュエルシードを収集しようとしたんだろう?…………何だ、結局自分は最後まで甘さを捨てられなかったということか。
フェイトはアリシアではない、そんなこと始めから理解していた。そして、フェイトと過ごすうちに私は幸福を感じていたはずだ。それにアリシアを忘却する恐怖もあったけど、何より病に蝕まれ死んだ後、人造魔導師という特異な生まれのフェイトを誰が面倒を見る。だから、ジュエルシードを巡る事件を起こしフェイトの面倒を見るに値する誰かを探すことにしたのだ。私が腹を痛めて産んだ命ではない、けどフェイトは私の"二人目の娘"なんだから。
「………………ぉーぃ、おーぃ、おーい!」
プレシアは外から聞こえた大声に鼓膜を襲撃され、びっくり仰天。体調が優れぬためノロノロとではあるがゆっくりと体を起こそうとする。しかし、仄と重病の身でありながらドンパチを繰り広げた代償か、プレシアは体を起こすことも出来ない。体を起こそうと四苦八苦するプレシアの背中を小さな手が支え、いたわるように体をゆっくりと起こすのを手伝う。その手の持ち主は、さんざんプレシアがなじり痛めつけたフェイトだった。
「だから、殺してないって言っただろう」
「君の魔術とやらは非殺傷設定がないと言っていたはずだが?いったい何をやらかした。怒らないから、正直に言ってみろ」
「君は僕の保護者かい……それよりどうもプレシアさん、おはよう」
「…………私は負けたのね、当然と言うべきかしら。…………貴方のせいよ、フェイト。貴方がもっといけ好かない子供だったら私はこんなに迷わずに済んだのに」
「ごめんなさい……それでも、どんなことがされても私はお母さんが大好きだから……どうしても嫌いになれなかったんだ」
「馬鹿な娘……えぇ、そうでしょうね。だって、私の子供なんだから、……ねぇ、"フェイト"」
「っつ!……うん……うん、お母さん……………」
涙を隠さずに静かに泣きじゃくるプレシアと同じように、フェイトも瞳から涙が溢れ出てくる。そして、二人はそっと互いを優しく愛おしそうに抱きしめるのだった。
「……プレシア・テスタロッサ。それでは貴女をたい、ムグッ、何を」
「クロノくん、今はダメなの」 「流石にこの状況で……」
「うん、これは僕も同意見……」
なのは、ユーノ、仄に口を閉ざされクロノは決めゼリフ的なモノを黙することとなった。そして、抱き合っていたプレシアとフェイトは、抱擁を解きなのはたちへ振り向く。
「迷惑をかけてしまったようね。魔法使いさん?それとも仄くんと呼んだ方がいいかしら?」
「お好きなように、というか今回の件は僕だけじゃない。なのはちゃんやクロノくんにも面倒を被ってるんだ」
「そうね、みなさん。本当に申し訳ありません」
プレシアの素直な謝罪をなのはたちは受け取った。けれど、これは管理局からすれば大犯罪。クロノも当然、したくはないだろうが罪には罰がなければならない。クロノはプレシアをアースラへ連行しようとした時、仄がアリシアの棺を開いたではないか。突然、仄が行った行動。まるで眠っているかのようなアリシアの体を仄は抱えてそっと地面に横たわらせる。
「あなた!アリシアに何を!!」 「仄、どうしたの!」
プレシアとフェイトが大声で仄の行動を咎める。しかし、仄は彼女たちには目もくれず、光を放つ両腕をアリシアの上にかざした。
SideOut
ーーーー
刮目せよ、これぞ第一と第二へ到達した魔法使いの本当の魔法。仄は己の裡に存在する魔術回路に魔力を叩き込む。回路が魔力を通るにつれ、腕の光はさらに輝きを増していく。なのはたちから見たこの光景は神秘的というよりも未知のモノに対する漠然とした恐怖を感じさせる。彼女らは直感的に理解する、これから起こる全ての事象が自分たちの常識、価値観の埒外にあるということを。
仄はこれから行うことが生命への侮辱だと己を唾棄する。個人の都合で世界法則を捻じ曲げるという罪深い驕り。それら全てを覚悟して仄は魔術回路を回転させた。不安が思考を侵食する、魔法による死者の蘇生。それがどのような未来を創造するのか。下手をすればアリシアは蘇生した人間として管理局でモルモット扱いされるかもしれない。それでなくとも蘇ったアリシアが幸せになれるかどうか。不安に脚を取られ竦んでいく魂に喝を入れる。魔術回路はより回転を早め、同時に回路内で迸る魔力を増幅させる。それら全ての恐怖を踏み越え魔術回路をさらに加速させながら目を閉じ、仄は自身の内側にあるイメージを喚び起す。
それは曇りなき無垢の世界、無限に広がる青い空、地面には空が映りこみ空と地面のどちらに立っているのかわからなくなりそうな果てなき空間。(イメージするならウユニ塩湖) ここはありとあらゆる可能性の超越地点。あらゆる矛盾とパラドックスの証明可能領域。生と死の両立、可能と不可能を突破するセカイ。この場所は固有結界ではない、されど魔術でもない。これは魔法の発動に呼応して溢れたキセキの欠片。周囲の急な変貌になのはたちやアースラから観測する面々は言葉を失う。
『ーーーー告げる』
この行いはきっと間違いだ。少年時代の失敗、なんて生やさしいものではなく生涯の恥として仄の記憶に刻まれる。それでもきっと、"後悔"だけはしない。してたまるものか。泣いてる女の子を救うことが悔いになるなんて、多華宮仄は考えすらしないだろう。魔術回路から漏れ出した魔力が紅く発光し、回路内の魔力が沸騰した。覚悟なんて魔法使いになった時から出来ている。仄が口にした呪文は全て、外ではなく内部に向けたモノ。さぁ、始めよう。この物語を完膚なきまでにハッピーエンドにするために!!
『無限を認め、その果てを超越する』
魔術回路を通じて全身を激痛が貫く。ヤメロ、何者かが仄の愚行を嗜める。この行いには一片の正当性もない。止めどない葛藤、正しさと間違いの狭間で揺れ動く心。その全てを"やかましい"ときっぱり黙らせて仄は激痛を無視し続ける。それどころか回路のキャパシティを無視した魔力を注ぎ込む。
世界の法則、死者蘇生の正当性、魔法使いの領分?知るか構うか、どうでもいい。そんなスケールのデカい話に納得できるか。そんなモノより大きな問題があるんだよ!!……彼女(フェイト)が泣いていた。うんざりなんだよ、泣いてるフェイトちゃんを見ているのは。世界の存亡と一人の少女の涙。天秤が狂っている、いやこの場合狂っているのは計る側である僕自身か?答えなんて存在しない、今重要なことは行動するかしないかだけ。魔力が猛る、魔術回路に収まりきらず魔力がパチパチと小さな破裂音を発した。
『可能性を踏破し、その彼方を臨む』
これより姿を現すは、多くを認めた第二法。多華宮仄がゼルレッチから継承した魔法。なのはたちは、この光景から目を背けられない。魔術師でも、魔導師でも届かぬ未踏破領域。彼女たちはただ仄の一挙一動に焦点を合わせた。そして、仄の詠唱が末節に至る。
『刻め、ここに可能性は顕された』
最後の言葉と共に、空が赤く染まっていく。まるで夕焼けのように紅に変わっていく空の色。蒼白の空が燃えるような赤に変わった瞬間、仄は接続(アクセス)を開始する。死んでいるアリシアの肉体をスタート地点に見立て、数千数億、いや数え切れない平行世界へ。
ーーー検索(サーチ)ーーー
プレシアと笑いあうフェイトによく似た少女。彼女が生存し続けている可能性を探っていく。
ーーー該当(ヒット)ーーー
ある可能性世界で生存するアリシアの可能性を確認、生存するアリシアの可能性を目の前のアリシアの肉体へ憑依(インストール)開始。同時に世界からの修正がかかる。偽れ、騙せ、虚飾しろ。死者蘇生と大仰なことを言っても、要するにこれは世界を相手にした詐欺、ペテン。
ーーー生存可能性の憑依(インストール)完了ーーー
最終段階……死んでいたアリシアの体にインストールした可能性を定着。可能性を事実として世界に留める。その後、生きて成長していたアリシアの可能性と死んでいて幼いままのアリシアの体の差異を調整するだけ。しかし、調整に生ずる負荷が想定よりも重い。まずい、荒れ狂う負荷を気合いと根性でどうにか抑えつけるが、このままでは調整しきれず修正力に敗北する。
腕からミシミシと嫌な軋む音が発生し、仄の顔が苦痛に歪む。その姿を見た瞬間、なのはたちは動いた。仮に行ったとしても何ができる?むしろ邪魔になるのでは?そんな迷いを考えるより先になのはとフェイトの二人が仄に駆け寄る。
「なっ!おい待て!!」 「なのは!!」 「待ちなさい!フェイト!」
クロノ、ユーノ、プレシアが引き止めようとするが、それを聞くより先に仄の手に己の手の平を載せる。その瞬間、負荷に伴う激痛がなのは、フェイトの二人に牙をむく。
「「キャァァァァァ!!!!!!!!」」
「ちょっ!二人とも何してるの!!」
負荷がなのはたちに分散したおかげで、少しは最終工程が楽になった。それでも二人の行動は見過ごせない。仄が二人に退がれという前に、仄たちの手の上に三つの手がさらに重ねられた。
「何かするなら早くやれ!だが、後で説明はしてもらうぞ!!」
「急いで、僕じゃあまり長くは耐えられない!」
「……貴方を信じてるわけじゃないわ。ただ、私は貴方を信じるフェイトを信じてるだけよ!」
負荷が六人に分散されて、仄はイケると確信する。感謝の言葉を皆に言いたいが、それより先に皆の覚悟に応えるため臨界を越える速度で魔術回路を回転させる。そして、ありったけの魔力がアリシアの肉体に収束され体が成長し始めた、それを契機に空の世界が薄れながら消えていき、時の庭園に皆が帰還した。
「ふぅ、何とか成功。インストールを確認、定着完了っと」
疲れた口調で仄はどっと地面に寝転がる。その姿を周囲の人々が、先ほどの現象について質問を殺到させようとする。しかし、それ以上の衝撃的なことが起こり、仄への追及どころではなくなった。そう、アリシアの口から静かに、だがはっきりと規則正しい呼吸音が聞こえてくる。
「スゥ、スゥ」
「そんな、まさか……」 「アリシアさん?」
感情を言葉にしきれないプレシアと、アリシアに対してどこか他人行儀なフェイト。なのはたちはただ沈黙を守っている。プレシアがフェイトと眠るアリシアを抱きしめた。抱きしめられたことでアリシアの瞼が開かれて………………
「ーーーーあれ?………お母さん?どう……したの?そんなに泣いて?」
叶わざる奇跡は降誕し、アリシア・テスタロッサは永き眠りから目を覚ました。こうして、ジュエルシードを巡る物語は幕を閉じ、魔法使い・多華宮仄が海鳴の管理人になってからの最初の事件は決着を迎えたのである。
ーーーー
Last Side
アリシアの蘇生後、時の庭園からアースラへ帰還したメンバーたち、中でも仄は皆からかなりの追及を受けることとなる。しかし、本人は何があっても語る気はなさげであった。なのは、フェイト、ユーノはこれが掘り下げてはならないと仄の意思を尊重したが、クロノ、リンディたちは諦めることは出来なかった。死者蘇生という規格外の奇跡、何としても管理局への登録を取り継ぎたかったようだ。プレシアも聞きたげな顔をしていたが、これが一時的なモノでないということだけを聞いて黙することにしたらしい。あまりにもしつこいので、仄はあることだけは明言した。
『言っておきますけど、死者蘇生自体は魔法では実現出来ませんよ』
『えっ!それって、どういうこと?』
『あくまでも死者蘇生が結果として出来るという話ですよ』
それだけでは納得しきれないのか、リンディ、クロノの両名は仄に質問をし続けたが、仄は質問に答えることなくアースラから海鳴へ戻っていった。プレシアたちはというとジュエルシードの強奪に関する罪に問われていたのだが、アリシアの蘇生した体の走査をすることを決して許さず、リンディの必死の話し合いの末プレシアも付いていくことを条件に身体検査が出来たようだ。
おまけに仄がポロッと口走ったことが、とんでもないことになった。その口走った話の内容とは、師匠の名前のことだ。
『第二魔法はゼルレッチ先生から僕が受け継いだ代物で、宝石剣はその結晶ですから譲れません。というかこの話は前回もしましたよね』
『ですよね〜、はぁ、仄くんの意思はどうしても変わらないみたいね。………………ん?ゼルレッチ?…………仄くん、今、先生といった人の名前ってゼルレッチで間違いないの?』
『ん、はい。間違いないですけど……もしかして、どこかで聞いたことが?』
『聞いたことも何も、ゼルレッチって古代ベルカで"無限の魔導王"と呼ばれた謎の魔導師よ!それに宝石剣ってゼルレッチが持っていたデバイスという説が。……まさか、貴方はゼルレッチの子孫!?』
という風にリンディにはかなり驚かれた。それと古代ベルカは三百年も過去の話だというが三百年など時間旅行でどうとでもなる上に、ゼルレッチは吸血鬼。三百年経っても寿命などくるはずもない。仄はリンディが驚き油断している間に会話を打ち切り、海鳴へこっそりと帰還する。
そして、久しぶりに仄は海鳴に戻り三日間の休息と日常を謳歌した。と言っても戻った矢先にすずかとアリサに問い詰められて学校では彼女らとのスキンシップ(追跡)に追われる羽目になり、家に戻るとゼルレッチは既にいなくなった後で自宅は無人。結局、師匠は嵐のように来訪し凪のように去っていった。他にジュエルシードの影響で歪んだ地脈の復元や今回使用した礼装の調整をすることに。一方、なのはも同じく日常へ帰ってきたが、家族は深い追及をしないで笑顔で受け入れたらしい。そして、四日目になのははユーノからの連絡を聞き、急ぎ仄の家に向かった。
「それで、なのはちゃん。どうしたのこんな朝早くに…………」
「仄くん、急いで急いで。フェイトちゃんたちが行っちゃう前に!」
なのはに連れられた先にいたのは、今回の事件に関わった人たち。その中にはフェイトはもちろん、アリシア、プレシアたちの姿もあった。
「おはよう、仄。こんなに早く呼び出してゴメンね」
「いや、大丈夫。そろそろ頭も冴えてきたし。というか、これは何の集まりかな?」
「なのはから聞いてないのかい?今回の事件でプレシアさんは事件の首謀者として罪に問われることになったんだ。けど、仄がアリシアを蘇生させたっていうとんでもない話で、管理局はてんやわんや。それで事件に関わった者として仄に裁判で証言を頼もうと呼んだんだけど」
「無理、散々関わっておいてなんだけど、これ以上はそっちに干渉する気はないよ。それよりもこの街に来るお客様の方で僕は手一杯なんだから」
「我儘を言うな、今回の事件で君はかなり重要な立場にある。君の証言いかんによってはプレシアの減刑も検討されているんだぞ。何より死者蘇生という全次元世界を揺るがしかねない魔法の使い手を野放しに出来るものか」
クロノは仄を説得するようにまくし立てる。だが、プレシアはそれとは対照的に仄の意見を推すスタンスだった。
「いいえ、それにはおよばないわ。私の仕出かしたことは全て私が責任をとる。今回の一件は全て私の責任よ」
「プレシアさん、貴方が事件の責任を取ると言っても、実行犯をすることになったフェイトさん、死者蘇生を施されたアリシアさんはどうするの?貴方一人で抱え切れる問題じゃないわ」
「あ〜、だから僕が行かなければという話に」
「ええ、仄くんが証言をしてくれればプレシアさんの減刑も可能ですし。何より管理局の登録を済ませれば、君の身の安全を約束出来るわ」
「身の安全?」
「君の魔法はあまりにも規格外すぎる。そして、ゼルレッチから受け継いだ貴方のデバイス。それは全次元世界に潜む無法者が君を狙う原因になると言っても過言ではないわ。だから、貴方の警護のため管理局に登録してほしいの」
「ダメです、というか不可能です。……本当に今はそれどころじゃないんだ、下手すれば海鳴を地図から消しかねない客の来訪でこの街から離れられないし。……ただ、アリシアちゃんたちの面倒を見る人がいないのなら、僕の家の部屋を貸すけど?幸い、部屋はあまりに余ってるから」
海鳴を地図から、のところが気になったのか、なのはが仄にどういうことか尋ねようとした時、フェイトの隣にいた、アリシアがフェイトへ楽しそうに話かけた。
「ねぇ、フェイト!仄の家ってどんなとこなの!」
「あ、アリシア、さん。落ち着いて」
「むぅ、お姉ちゃん!フェイトったらなんだか遠い感じだよー」
「あぅ、え〜と、その姉さん…………」
「仕方ない、今はそれでいいかなぁ。……それで仄の家ってどんなとこなの」
「そのね、とっても広くて怖いとこがあってその〜」
「近いうちに見にくればいい、いつでも歓迎するよ。アリシアちゃん」
「本当!わかった、絶対に皆で行こうね!お母さん、フェイト!!」
本来はなかった光景、アリシアが笑いながらフェイトと話す姿。フェイトはどこか距離を置いているが、この調子ならいずれ仲のいい姉妹として生活できると確信を持てる。そして、プレシアは二人の姿に母親らしい柔らかな微笑を浮かべ穏やかに見守る。難しげな顔をしていたクロノ、リンディたちも二人の姿を微笑ましそうに見つめる。
「まぁ、ひとまずは大団円ということなのかな?」
「だから、君には裁判での証言と管理局での登録があると言ってる!」
「それより!仄くん、今、さらっと海鳴が地図から消えるって言ってたけど、それってどういうことなの!?」
「詳しく言うと長いんだよなぁ。そういえば、フェイトちゃんたちはどれくらいで海鳴に遊びに来れそうかい?」
「……とりあえず、今はわからない、けど、仄。私たちまた会いに来るね。必ず、どんなことがあっても……」
「ええ、裁判では無罪、までは無理でも年単位の執行猶予をもぎとってくるわ。それが叶わないなら、フェイトとアリシアを連れて、どこかの次元世界へ逃亡して見せる!!」
「プレシアさん、仮にも管理局員の前でそんなことを言うのはやめてもらえないかしら。こちらとしても、冗談か本気かで反応に困るから」
「なんか、お母さんがすごい過保護になってるような?……ねぇねぇフェイト、お母さんっていつもこんな調子なの?」
「う〜ん、どうだろう?たぶん、しばらくはこの調子なのかな?」
フェイトとアリシアは、若干というかガッツリ過保護な親になったプレシアをしょうがないなぁ、と苦笑している。ついでに、プレシアの持病の病はきちんと養生すれば治る病気で、アースラでの治療の結果。とりあえず動き回れる程度には体力と健康を取り戻した。そして、ユーノ、アルフはというと皆の会話を嬉しそうに聞いていた。
「ああ、フェイトがこんなにも笑顔で過ごせる日が来るなんて……」
「アルフさん、よかったですね。僕もジュエルシードの件がこういう形で解決するなんて予想もしてませんでしたし。本当によかった」
ユーノのセリフでシメがついたと仄が思った矢先、なのは、クロノの二人が仄に詰め寄る。
「仄くん、さっきの話を詳しく!!」
「ええい、とにかく拘束してでも来てもらうぞ!仄ーー!!」
「ええぇーー!!ここはめでたしめでたしで閉じるんじゃないの!?」
駆け寄る二人から逃亡を図るべく、仄はローブと三角帽子を身につけ箒を呼び出す。クロノたちが止めるより先に仄は蒼天へ飛び立つ。まだまだ、解決していない問題は山積みとなっている。しかし、それでも魔法使いは無限に広がるこの蒼天を箒に乗った魔法使いは堂々と飛翔する、まだ見ぬ果てなき未来を望みながら。
無印、魔法使いの空. Fin
Another Side
海鳴の東端付近、交通量の少ない道路の中央辺りにソレはいた。ソレとは、抱きしめられるくらいのサイズの小さな白い犬?いや、犬にしては牙が長い。それにどこか精悍な顔立ちは野生の狼すら思わせる。そう、ここにいる小さな犬こそ、人類の殺害特権を持ちガイアの魔犬として恐れられるプライミッツ・マーダー。それが単独で普通の街中にいるということ自体が明らかな異常事態。下手な吸血鬼や人外、魔術師、代行者ですら逃げ出す規格外。もし、プライミッツを前に逃げ出さない存在がいるとすれば、それは何も知らない一般人か、よほどの馬鹿者、もしくはそれ以上の怪物しかいない。そして、偶然か必然か、プライミッツへ近づく一般人が一人いた。
「何しとるん、こんなところにいたら、危ないやろ」
近づいてきたのは車椅子に乗り物腰柔らかな関西弁で話しかける少女。彼女はプライミッツを静かに抱え上げ、ゆっくりと道路を渡ろうとする。しかし、プライミッツを抱え上げていたせいで、道路を渡りきるのが遅れてしまう。そんな時に、タイミング悪く早い速度で大型トラックが迫る。車椅子に座った少女はまずいと急いで、車椅子の横の車輪を回す。急いでしまったせいで、道路のヒビか、僅かな突起に車輪が接触。車輪は体勢が悪くなり、少女は車椅子から落ちてしまう。視点が高いトラックの運転席からでは、倒れた少女が死角に。このままでは少女はトラックに轢かれてその生涯を終わらせるだろう。そんな最期になるやもしれない瞬間、少女は抱いていた犬を逃がそうと道路の向かい側に犬を行かせようとする。
「はやく、逃げぇ!早く!!」
必死に少女は犬を遠ざけようとするが、犬は応えない。それどころか、少女の顔を優しげに舐める。迫るトラック、少女と犬を潰さんと近づく巨大なタイヤ。少女は死を覚悟し、ギュッと目を瞑る。
ガシャーン!!!!!
何かが砕け破砕する暴音。少女は感じるであろう、痛みを待つ。だが、待てど待てど痛みはやってこない。どういうことかと、少女はゆっくり目を開ける。そこには巨大化した白の大狼が佇んでいる。打つかってきたと思われるトラックは、反対車線で横転している。それが信じられず少女は自分の頬を引っ張って、これが現実か検討した。そのあと、赤くなった頬をさすり、少女はデカくなったプライミッツを撫でてみた。フサフサのフカフカ、少女はそれが気に入ったのか現実逃避ぎみにしばらく撫で続けて、大狼へ話しかける。
「どうして、こんなに大きくなったんや?もしかして、すごい成長期でも来てもーたんか?」
撫で続けられたプライミッツはくすぐったそうに首を少し揺らす。そして、少女が無事か確認するように顔をこすり合わせる。少女は何がなんだかわからないが、プライミッツの為すままで困惑気味のようだ。トラックの運転手は酔っているのか、千鳥足で運転席から脱出しこの場を急いで立ち去る。それと入れ替わるように、新たな人影がこちらにやってくる。白の大狼は、その人影が見えると少女の服の襟を加えて荷物でも運ぶように連れて行く。
「あら、プライミッツが彼以外に懐くなんて。よっぽど、特異な人格をしてるのかしら。それとも大層、不思議な魂でも持っているの?ふふ、この街には彼に会いに来ただけだったのだけれど、面白い娘を見つけたようね。プライミッツ?」
「ワォン!」
その人影は、女性だった。それも頭に絶世の、とか傾国の、がつくレベルの美女。濡れ羽のような黒髪。赤々と輝くアカメ。身に纏った漆黒のドレス。それに、まるでどこかの王族とでも思ってしまいそうな気品ある立ち居振る舞い。少女は目の前の女性の存在に圧倒されている。
「ねぇ、貴女?名前を教えてくれないかしら……」
「……もしかしなくても、私のこと?」
「ええ、そうよ。……それにしても、貴女の日本語って面白い訛り?があるわね。知ってるわ、確かナンデヤネーン、とかいうのよね、その訛り」
「なんでやねん!すっごい間違え方しとるで、お姉さん!l」
「ワゥ〜」
プライミッツもやれやれといいたげに唸って同意を示す。黒いドレスの女性は、車椅子に座りなおした少女から、自分の話し方は関西弁という説明をうける。
「なるほど、日本語って奥が深いのね。ありがとう……えっと………そういえば、名前を聞く途中だったわ」
「そうやったな、お姉さん。私の名前は八神はやて。よろしくな」
「ええ、よろしく、はやて。私はアルトルージュ、アルトルージュ・ブリュンスタッドよ。それで、こちらがプライミッツ」
アルトルージュの紹介を受けたあと、プライミッツは巨大な大狼から小さな子犬に姿を変えた。はやてはそれを不思議そうに見つめ、アルトルージュたちに質問をいくつかする。アルトルージュは物怖じしない彼女の態度を好ましく思ったのか、微笑みつつ質問を差し障らない程度に返して優雅に笑う。アルトルージュに抱えられたプライミッツも嬉しそうにワンと一鳴きした。
さて、次の物語の種はまかれた。
これが後々どういうトラブルに発展するのか、魔法使いの物語はまだまだ終わらない。