あまり謙虚じゃない騎士と小さな覇王のイチャイチャ話 作:佐鷹
深紅に染まった空の下、クラウス・G・S・イングヴァルトは、傷ついた己が体に鞭を打ち、覚束ない足取りで歩を進めていた。
大地の至る所に亀裂が走り、また足の踏み場もない程に瓦礫が積み上がっている。体力は枯渇しており、そして足場は非常に劣悪。しかもその足場がじわじわと、真綿で首を絞めるかのように体力を削るという悪循環。
それでも──クラウスは、歩き続けなければいけなかった。
自らの大切な人を守る/止める為に。
一体どれほど歩いただろうか。
クラウスの眼前で燃え盛る、深紅の炎──その中から、一人の男がこちらに向かって歩を進めて来る。
クラウスよりも頭一つ二つは大きい長身。髪は白銀の短髪。身に纏う騎士甲冑も同じく白銀。右手には漆黒の、禍々しい意匠の剣を携え。そして左手には、紫色の、豪奢な装飾を施された騎士盾が。
その男の姿には見覚えがあった。何故なら、男はクラウスの、唯一無二の親友なのだから。
「…ブロン、ト?」
「…なにいきなり話かけてきてるわけ?」
よく耳に馴染んだ、サンドリア訛りのベルカ語による返事。それは、姿形が似ている別人ではなく、紛れも無いブロント本人だという証左。
「…一体、何故君がここに…それよりも、その傷は…?」
目を凝らしてみれば、ブロントの騎士甲冑は所々がひび割れ、そして体の至る所には大小様々な傷がある。自分ほどボロボロではないとはいえ、しかし常人ならば歩くことも叶わない大怪我であることは間違いなかろう。
「お前はばかすぐる俺はナイトなんだからつねに主の側に控えてるのは当然。傷はちょっとそこらで転んだだけだから心配しなくていいぞ(リアル話)」
「…君みたいに頑丈な奴が、ちょっと転んだ程度でそんなになる筈がないだろう」
言って、彼の顔を見つめる。暫く交差する互いの視線。やがて、ブロントが気まずそうに視線を逸らし、
「…止めようと、思ったんだが」
「……」
「ちくしょう俺は馬鹿だ。主が間違ったことをしてても止められにいとかメイン盾失格でしょう?」
「…そう、か」
悲痛な面持ちで言葉を紡ぐブロント。その心境はクラウスにもよくわかった。
何故ならば彼も、ブロントと同じ──
その時、大地が大きく脈動した。
「これ、は──?」
「…どうやら聖王のゆりかごが起動したようなんだがこうなってしまってはもうだめ。オリヴィエをたすけられる可能性は裏世界でひっそりと幕を閉じられた」
「ッ…ま、まだだ! まだ私は──」
こんな所で歩を止めている暇はない。クラウスは最後の力を振り絞り、駆け出そうとして──
「メガトンパンチ!」
ブロントのシールドバッシュで頬を打たれ、無様にも地面へと倒れ伏せた。
「が、ぐ……ブロン…ト……君、は…一体何、を…」
全身に走る激痛を気合で無視しながら、クラウスは立ち上がり、そしてブロントを強く睨みつける。
「何をとか主に仕える騎士に対して愚問すぎるでしょう? クラウスが来たらバラバラに引き裂け、それがオリヴィエが俺に下した命令なんだが?」
「君は…それでいいのか?」
「……」
「君だって…オリヴィエを…止めようと…」
「うるさい…だまれ!」
叫び、ブロントは右手の黒剣をクラウスに向け振るう。クラウスはそれを魔力を込めた右腕で受けた。
鈍い衝撃が全身の傷に響き、思わず顔を顰めた。
「やめろ! こんなところで君とやり合っている時間は──」
「黙れと言っているんだが。どうしても通るつもりなら──」
再び、交差する二人の視線。
そして──
「ッ…そこを退け、ブロントぉぉぉぉぉぉ!!」
「お前…ハイスラでボコるわ…」
戦いの火蓋は、切って落とされた。