あまり謙虚じゃない騎士と小さな覇王のイチャイチャ話 作:佐鷹
──なんか、変な夢を見ていたような気がする。
そんな感覚に首を傾げながら、Stヒルデ魔法学院中等科一年生──ロト=サンドリアはゆっくりと学院の中庭に備え付けられたベンチから身を起こした。
まだ若干寝ぼけた頭を振りながら、校舎の壁にかかっている時計を見る。次の授業が始まるまでにはまだ幾らか時間があった。
「…うーん。さすがに二度寝するには足りんが、かといってほかにやることもないしな。どうしたもんか…」
「でしたら──」
唐突に、ロトの後方から響く、凛とした少女の声色。
それを聞いたロトは、実に嫌そうな、心底うんざりしたような顔を浮かべながら、ゆっくりと後ろを振り向く。
「今日という今日こそは、決着を付けていただきます」
薄い緑がかったブロンドの長髪。ロトよりも頭一つ二つは小さい小柄な体躯。非常に高いレベルでバランスの取れた顔つきの中で、紫と青のオッドアイが圧倒的な存在感を放っている──そんな美少女が、ロトのことを、強い意思を秘めた瞳で見つめていた。
「…またお前か、アインハルト」
アインハルト=ストラトス。『ベルカ王家の末裔』としての正式なフルネームは、ハイディ・E・S・イングヴァルト。それが少女の名前だった。
「ええ、また私です」
ロト=サンドリアは、数年前、まだ初等科にいた頃に初めてアインハルトとクラスメイトになった日から、毎日のように彼女に粘着される日々を送っていた。
なんでも、アインハルトの先祖である『覇王イングヴァルト』とロトの先祖である『騎士王ブロント』の間には並々ならぬ因縁があるそうで、ことあるごとに『決闘だ』だの『決着を付けよう』だの宣ってくるのである。
ぶっちゃけご先祖様のことには全くもって興味のないロトにとってアインハルトの存在は、平穏な学園生活をぶち壊すイレギュラーでしかない。最初の数年は、まあ自分も血気盛んなお子様だったということもあり普通に付き合ってやっていたが、それが何年も続くとさすがにうんざりしてくる。
「…だから、先祖の因縁だかなんだか知らんけどさ。そういうのを持ちだされてもこっちとしては困るだけだって、何度言ったら理解できるんかね?」
ゆったりとした動作でベンチから立ち上がると、ロトはアインハルトの方をしっかりと向き直し、先程まで座っていたベンチを挟む形で彼女と正対した。
自分よりも遥かに大柄なロトに睨みつけられ、しかしアインハルトは欠片も物怖じせずに言葉を紡ぐ。
「貴方にとってはそうかもしれません。ですが、私は──」
「覇王…クラウス・G・S・イングヴァルトの記憶がある…んだったっけ? まったく、難儀なもんだねぇ。ベルカが滅んでから何百年も経つっていうのに」
こんな言い草だが、ロトにだってベルカ王家の末裔である自覚はあるし、次期当主として、騎士王家の名を次代へと繋いでいかなければならない、という覚悟も持っている。
しかし、何百年も前の因縁に縛られ、そしてそれに固執するアインハルトの行動原理については理解ができない。いや、心情は判らんでもないが、しかしもうすでに過ぎ去ったことにいつまでも拘ったところで何の意味もないだろうと、彼は考えていた。
「……」
「……」
しばし、無言のまま視線を交差する二人。何分ほど時が流れただろうか、先に折れたのはロトの方だった。
なんか前にもこんなことがあった気がするなぁ…なんて心中で呟きながら、重々しくため息をつく。
「…はぁ。わかったよ。さすがに今から始めたんじゃ授業に間に合わなくなるし、放課後になったら運動場に集合な。立会人は…ソル先生で問題ないな?」
「…ええ。ありがとうございます。では、また放課後お会いしましょう」
ロトの言葉に小さく頷き、そして踵を返して中庭から去っていくアインハルト。
表情から感情をうかがい知ることは出来なかったが、しかしその足取りは普段よりも(付き合いの長いロトでなければわからない程度に)幾らか軽やかであり、どうやら決闘の約束を取り付けられたことを喜んでいるらしかった。
アインハルトの姿がすっかり見えなくなったところで、ロトはどこからか取り出した缶ジュースを口に含みつつ呟いた。
「また放課後って…お前、俺と同じクラスだろうがよ…」
ジュースは春の陽気ですっかり温くなっており、思わずロトは眉を顰めた。