あまり謙虚じゃない騎士と小さな覇王のイチャイチャ話   作:佐鷹

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 結論からいうと、結局今日の模擬戦──という名目の決闘、あるいは果し合いはお流れとなった。

 放課後、二人は当初の予定通り、学院でも随一の武闘家としても有名な教師であり、ロトが所属する剣術部の顧問でもあるソル先生に話を通しにいったのだが、

 

「面倒クセェ」

 

 の一言で一蹴されてしまったのである。何度頼み込んでもどこ吹く風。終いには「目障りなんだよ、消えろ」という言葉とともに、力づくで部室から叩き出されるハメになった。

 ならばほかの先生を…と思い職員室に向かったのだが、なんの偶然か模擬戦の審判・立会人を務めることが出来る先生は全員用事で外出中。

 そんな訳で、ロトとアインハルトの二人は、なんとなく釈然としないといった表情を浮かべながら、並んで通学路を歩いていた。

 特にアインハルトは見るからに不機嫌そうなオーラを醸し出しており、横を歩くロトは恐る恐る、チラチラと彼女の顔を伺っている。

 

「あの…アイン、ハルト、さん?」

「…なんでしょう」

「…いや…なんでもない」

 

 …こりゃあ明らかに怒ってるわ。

 そう結論づけたロトは、とりあえず頭が冷えるまで放っておくことにしよう、と、口を閉じた。

 互いの無言のまま、ひたすらに家へと向かって歩を進める。

 

(…しかし)

 

 アインハルトに気取られぬよう、こっそりと横顔をチラ見しながらロトは思考に耽る。

 

(こいつが『覇王』の記憶を持っていて、その『覇王』と俺の先祖である『騎士王』との間に因縁があったとはいっても、さすがにこの粘着っぷりは度を過ぎてる気がするんだよ、な)

 

 そして、今の彼女が取っている態度。確かに決着をつけるチャンスはふいになった。だが、模擬戦をやる機会はまだまだ幾らでも転がっている。

 聡い彼女ならそんなこと百も承知であろう。だというのに、この怒り様は…

 

(…うーむ、女心ってのは判らんな。姉貴もそうだが、本当に女ってのは謎めいた生き物だ)

 

 頭をポリポリと掻きながら、ロトはとりあえず思考を打ち切った。

 それとほぼ同じタイミングで、アインハルトがぽつりと口を開く。大分気も落ち着いたのだろうか、その口調は幾分穏やかなものとなっていた。

 

「…いつも」

「……ん?」

「いつも、迷惑をかけて、ごめんなさい」

 

 唐突な謝罪の言葉。何を言ってるんだこいつは、と思いつつもロトは返答する。

 

「別に。もう慣れっこだから構わねーよ。ってかそれ以前に、迷惑だって自覚してるならやめなよ」

「…すみません。だけど、この因縁についてだけは、どうしても譲ることができないんです」

「……」

「それに…」

「それに?」

「あ…い、いえ。な、なんでもありません」

 

 頬を朱に染めながら、頭をブンブンと振り回すアインハルト。

 彼女の突然の奇行に目を丸くしながら、ロトは改めて

 

(やっぱり、女心ってのはよく判らんわ)

 

 などと考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校を発った当初に比べれば幾らか和らいだ雰囲気の中、二人はぽつりぽつりと他愛のない世間話をしながら歩いていた。

 

「やっぱり大皿に載った唐揚げにレモン汁をかけるのはアウト…ですよね」

「まあそりゃそうだろう。別にかけること自体は個々人の好きにすりゃいいと思うが、苦手な奴もいるっちぇことを理解しないといけにいのは確定的に明らかなんだが…おおっと」

 

 ついうっかり故郷の訛りを出しちまった、とロトは悔しげな表情を浮かべる。長年に渡る矯正の結果、今でこそ大分流暢にミッド標準語を操ることができるようになったが、今でも気を抜くとこのザマである。

 ミッドに留学してきた当初、今よりも大分訛りが酷かった頃には、よくクラスメイトに後ろ指を指されて笑われたものだ。そんな苦々しい記憶を思い出して悶絶するロトに対して、アインハルトの表情はやけに穏やかだ。微笑さえ浮かんでいる。

 そんな彼女の態度が若干癇に障り、ロトはアインハルトにジト目を向ける。

 

「…なんだよ?」

「え? …ああ、いや。なんだか、懐かしいな、と思って」

「懐かしい…? あぁ、なるほど。クラウスの…」

「はい。…ところで、ロトさん」

「ん?」

「…いえ、やっぱりなんでもありません」

「……?」

 

 ロトがアインハルトの言葉に首を傾げていると、アインハルトは誤魔化すように「ほ、ほら。着きましたよ」と声を荒げる。

 どこに? と思って周囲を見渡すと

 

「…あぁ、俺の下宿先か」

「で、では私はこれで…」

「あ、ちょっと待て」

「あ、え?」

 

 そそくさと、逃げるように駆け出そうとしているアインハルトに待ったを掛ける。そういえば、彼女に一つ聞いておかねばならないことがあったのだった。

 

「こないだ、局に勤めてる姉貴に聞いた話なんだけどさ…」

 

 そこで、一息。本当に聞いてもいいものか一瞬だけ悩んだ後、そして再び口を開いた。

 

「なんでも、『覇王』の名を騙る通り魔が最近出没してるって話だが…お前、何か心当たりはあるか?」

「…………いえ、なにも。では今度こそ私はこれで。失礼します」

「…あぁ、また明日な」

 

 ゆっくりと、無表情を顔に貼り付けながら立ち去るアインハルトの後ろ姿を眺め、ロトは呟く。

 

「…相変わらず、嘘が下手くそだな、あいつ」

 

 まあ、俺も人のことは言えんがね。そう嘯きながら、彼は下宿先であるアパートの敷地内へと入っていった。

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