頭を空っぽにして眺めてみてください。

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ゴッドスレイヤー

 イタリアはナポリ。

 妖精を思わせる美少女リリアナ・クラニチャールは、草薙護堂の亡骸を呆然と眺めてへたり込んでいる。

 ゆっくりと歩み寄ってくるのは、英雄神ペルセウス。ナムサン! 人間の身では、『まつろわぬ神』には絶対に敵わない! ヤバイ級の呪術師であったとしても、神々に挑むのは実際自殺行為であり、ネギトロめいた死体にされることは間違いないのだ。

 唯一、『まつろわぬ神』に対抗できる人類の最後の希望が草薙護堂をはじめとするカンピオーネなのだが、護堂はリリアナのすぐ傍で冷凍マグロにも似た死体となって倒れている。如何に女色に溺れた大魔王だったとしても、ここまでされる謂われはない!

 ――――わたしが、あのとき『教授』を施していれば。

 後悔しても実際遅い。インガオホー! リリアナの小さな意地が草薙護堂を殺し、そして今まさにリリアナ自身にも無慈悲な凶刃が向けられようとしているのだ!

 だがしかし、リリアナに歩み寄ってくる英雄神は、何を思ったのか歩みを止めて振り返る。

 いつの間にやら、ペルセウスの視線の先に一人の男が立っていた。

 ボロ雑巾のような装束に身を包む図体の大きな男だ。頭巾を被り、顔は「神」「殺」の二文字が印字されたメンポに覆われて見えない。マフラーめいた布が風に靡く姿は、ジャパンカブレのリリアナからすればニンジャ以外の何物でもない。何と言うことだろうか。ニンジャは実在したのだ。しかし、重要なのはそこではない。『まつろわぬ神』と相対するニンジャから醸し出されるアトモスフィアは実際強烈だ。戦闘行動に移った草薙護堂に酷似している。あからさまにカンピオーネなのだ!

(アイエエエ!?)

 リリアナが失禁して気絶しなかったのは、草薙護堂やペルセウスとの出会いで彼らに耐性ができていたからだ。そうでなければ今頃は強烈なCRSによって乙女としても爆発四散していたに違いない。

「ドーモ、ペルセウス=サン。ゴッドスレイヤーです」

 アイサツは実際大事。コジキにもそう書いてある。

「ドーモ、ゴッドスレイヤー=サン。すでに知られてしまったようだが、名乗っておこう。私はギリシャ・シンワ・クランのペルセウスだ」

 ギリシャ・シンワ・クランは多くの『まつろわぬ神』を排出する世界屈指のシンワ体系。登場する神々や英雄も高名な者たちばかりであり、ペルセウスは英雄の中でも上位にある実力者だ。

 そんなペルセウスを相手に、ゴッドスレイヤーは殺意を隠さず相対す。

「そなたの相手はこのゴッドスレイヤーが務めよう。ペルセウス=サン。ニュービーのカンピオーネを討ち果たしたところで何の自慢にもなるまい」

「なるほど、どこか心得不足があるようだったがニュービーだったか。では、彼の代わりに君が私の相手をするというのだね」

「如何にもその通り。そこの少女よ、主を連れて去るがいい」

 リリアナは即座に護堂を抱きかかえると、飛翔ジツを行使する。サツバツ! リリアナとて生と死が入り乱れるジゴクに、一秒たりともいたくはないのだ。

「は、はい。オタッシャデー!」

 護堂を連れてリリアナは飛んだ。見事な飛翔ジツ。人間ながら天晴れだと、ペルセウスもゴッドスレイヤーも感心した。実際スゴイ!

「君が私に勝てるかどうか、試してみようではないか。ゴッドスレイヤー=サン」

「好きにかかってくるがいい。そなたを待っているのは、死あるのみ」

 

 

「ぬう!」

 ゴッドスレイヤーが呻く。

 恐るべき速度で踏み込んできたペルセウスが、長大な剣を振るったのだ。ゴッドスレイヤーのカンピオーネ視力がこの動きを辛うじて読み取り回避する。なんたる速度か。神速のジツを持っているのは間違いない。

「驚いてくれたかな?」

 得意げなペルセウスに、ゴッドスレイヤーは否と明答する。

「軍神となれば神速を持つのはもはや常識。この程度、チャメシ・インシデントだ」

 目にも止まらぬ近接戦の応酬もゴッドスレイヤーからすれば慣れたもの。得意げに話すようなものではないのだ。

「次はこちらからいく。ハイク詠め――――Wasshoi!」

 オリンピックの体操選手めいた流麗な跳躍。それと同時にゴッドスレイヤーは恐るべき速度でスリケンを投じた。

「イヤーッ!」

 投じるスリケンは一枚や二枚ではない。

 0コンマ一秒で二十を越えるスリケンがペルセウスに襲い掛かるのだ。ナムアミダブツ! しかし、ペルセウスも希代の英雄。古代ローマカラテの絶技がゴッドスレイヤーのスリケンを一つ残らず叩き落とす。タツジン!

「イヤーッ!」

 如何なるジツか。ゴッドスレイヤーのマシンガンめいたスリケン投撃は終わる気配すら見せない。

(神速に力で対抗してはならない。百発のスリケンが当たらぬのなら千発のスリケンを投げればよい)

 乱れ咲くスリケンの花吹雪。残像を残すスリケンの猛撃が、ペルセウスを削っていく。

「イヤーッ!」

 ペルセウスの神速の剣が追い切れない。

 おお、見よ。ペルセウスの神剣が刃毀れしている。鍛冶神ヘパイトスが生み出すゴッドバンブーですら容易く両断する神剣が、ゴッドスレイヤーのスリケンを弾くごとにひび割れていく。ペルセウスの実際優れた視力が、自らの剣が擦り切れていく様を直視してしまう。

 何と恐ろしいスリケンか。 

 殺神ピッチングマシーンと化したゴッドスレイヤーは、両腕を互い違いに撓らせて切れ目のない弾幕で以てペルセウスの退路を塞いでいる。

 さらに、ゴッドスレイヤーは恐るべきスリケンジツを披露しながら前進しているのだ。

 ナムアミダブツ! 投じるスリケンは、あくまでも神速で動き回るペルセウスを足止めするためのものだったのだ。ウカツ……何たるウカツ! 彼が使う足止めの武器は非人道兵器マキビシだけではないのだ。

「神速で動き回っていれば、このようなことにはならなかっただろうに。インガオホー! その慢心こそが命取りだ!」

 遂に、ゴッドスレイヤーはペルセウスの正面に到達。最後のスリケンの一撃で、ペルセウスの自慢の神剣を叩き折ると、秒間十発にもなるカラテチョップを叩き込んだ。

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

 『まつろわぬ神』の屈強な肉体が悲鳴を挙げる。ゴッドスレイヤーの凶悪なカラテが、ペルセウスの反撃を許さず命を削り落としていく。

「イヤーッ!」

「グ、グワーーーーーッ!」

 古代ローマカラテを披露する間を与えない。サンドバックめいてチョップを打ち込まれるペルセウスの命はもはや風前の灯だ。

 『まつろわぬ神』として、定命の者たちを超越した命が砕けていくしびれるような危機感がペルセウスのニューロンを焦がす。

「ゴ、ゴッドスレイヤー=サン! よもや、これほどとはッ!」

「『まつろわぬ神』殺すべし。慈悲はない」

 イイイイヤアアアアアアアーーーーーーッ!

 一際大きな気勢を上げて打ち込んだギロチンめいたカラテチョップがペルセウスの首を一撃の下に打ち落とす。

「サヨナラッ!」

 ペルセウスの肉体は、命を失い、金色の呪力を撒き散らして爆発四散する。

 この世のものではない『まつろわぬ神』は死ぬと肉体を呪力に還元して、シンワの世界に立ち返っていく。

 だが、宿敵を討ち果たしたはずのゴッドスレイヤーに喜びの感情はない。

「ぬう、まさか仕損じたか」

 ウカツだったのはゴッドスレイヤーの方だったのか。

 『まつろわぬ神』を討伐したというのに、権能が増えた様子がない。となれば、ペルセウスは何らかのジツでこの場を脱して逃走したと考えるべきだろう。

 後悔の一念がゴッドスレイヤーのニューロンに浸透する。

「次はない、ペルセウス=サン」

 ゴッドスレイヤーは、陰気な捨て台詞を残し、悔しさを露にし夜の闇に消えていった。

 ペルセウスは確かに生きていた。

 太陽の化身でもある彼は命を司るジツに長けている。今回も自らの肉体を太陽のエネルギーに変換し、危機を脱するシニフリ・ジツで生還を果たしていたのだ。

 彼もまた希代の軍神。

 草薙護堂に続きゴッドスレイヤーという敵手を得た喜びを表情に浮かべる。

「恐るべき相手であったが、次は私が討ち果たすとしよう」

 ペルセウスは消耗した我が身を憂い、そして敵を倒すその日を夢見て回復に努める。数日中には復活できるだろう。そのとき、己の前に立っているのが草薙護堂かゴッドスレイヤーかはたまたこの地のカンピオーネかは分からないが、このマッポーの時代は自分を満足させるに足る強敵には事欠かないらしい。

 そうして『まつろわぬ神』は再戦の時を待ち望んで眠りに就いたのだった。




なんだこれは
実際藪からスティックなのだ!

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