何を以て善と為し、何を以て悪と為すのか 作:Noah/Deal
……ぼんやりとしていた意識が、ゆっくりと浮上していく。
鼓膜を震わす、恐らく年若いであろう学生たちの騒ぎ声。
それが目覚まし代わりになったのか、次第に僕の目にはクリアな光景が映し出されていく。
「……っ、ここ、は?」
先の空間では曖昧にしか感じられなかった五感が、今でははっきりと感じられる。
視界に写る、どことも知れぬ安アパート。
その光景が否応にも"現実"を再認識させ―――
「ッ…!」
突然、体の芯の内から、それを痛みというのも馬鹿らしい程の激痛が走り抜ける。
まるで、僕が
―――いや、正確には
「ア゛ア゛ッ……グ、ァ゛……!」
イタイ イタイ イタイ イタイ ―――!
余りの激痛に僕が僕で無くなりそうな気さえ覚える。
この現象、仮に"同化"――こう言い表す事が最適に思えた――がいつ終わるのか。
また、それが何を発端とするのか、それすら……!
「…ッ……!」
限界を超えた痛みに声すら出ない。
だが以外にも思考回路はクリア、現状
ッ、まただ。今の僕は問題大アリだってのに……!
もはや痛みを通り越した感覚に、麻痺し始めている五感を頼りに原因を探る。
聴覚…違う、触覚…駄目だ、味覚…使い物にならない、視覚…ッ!
「あ゛…、れ、は……?」
もはや殆ど役に立たない視界の端に、僕は一本の槍を捉えた。
紅く、血管の如くその表面を脈動する無数の線条が、己の身から流れ出たモノだと―――
―――不思議と、
理屈は分からないが、どうやらこの槍が痛みの元凶らしい……
そう、僕の磨耗した思考回路は判断を下した。
ならば、砕く?破壊する?投棄する?
違う、これは既に
自然と、ごく自然と、脳はその槍に指示を与えていた。
脈動が治まり、槍は粒子となって僕の中に還元されていく。
だけれども、失ったであろう僕の中のナニカは、未だに孔を空けたまま。
それは既に、
「……ッ、はぁ、はぁ……」
痛みから解放され、荒い息を吐く。
突然の出来事で忘れていたが、僕は本当に転生したらしい。
自分の姿を眺め見ると、見慣れた短い緑髪にラフなシャツ、そしてジーンズ。
顔立ちこそ前世とは微妙に異なり中性的だが、他は身長など含めて変わらない。
机の上に財布が有ったので、中身を確認した所保険証を見つけた。
これによれば、僕の年齢は前世の最期と同じく16歳となっている。
他に預金通帳も確認してみたが、どうやらこの世界の僕は親の遺産で食い繋いでいたようである。
……何とも、情けない気分にはなるけれど。
さて、この年齢になってから記憶を思い出した事は、恐らく神様のサービスなんだろう。
ついさっきまで僕を苦しめていたあの槍も、僕の願いの結果だとしか思えない。
実際に、抑え方さえ理解すれば痛みは無くなったし……
最初から暴走させて渡すなんて、神様がそんなミスする訳ないしね。
きっと転生者に対しての最初の試練か何かだったのだろう。
――――前―――景――見―愉――でい――け―――
脳裏にまたしても奔るノイズ。
だけれども、先ほどに比べてかなり小さくなっているように感じる。
まぁ、気にすることでもないだろう。
それより問題は、"無印"が既に始まっているのかどうか、だ。
携帯端末で調べてみたところ、巨大な樹木なんてモノは過去のニュースにも乗っていなかった。
即ち、今は少なくともA's以前だとは把握出来る。
まぁ、僕以外の転生者が阻止した可能性も否定が出来ないけれども……
まぁなんにしろ、まずは腹を満たすべく翠屋に向けて足を運ぶことにしたのだった。
―――静かに脈動を続ける、己の中の存在すら忘れて。
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