何を以て善と為し、何を以て悪と為すのか 作:Noah/Deal
カタカタ、カタカタと。
喧騒とは掛け離れた住宅街、その一角の安アパート。
キーを叩く音だけが、静けさが際立つ僕の部屋に鳴り響く。
恐らく以前の僕が使っていたのだろうパソコンを操作しながら、今後の行動方針についての思いを巡らせる。
「この前は行く時間をミスったな、あの時間じゃ小学生は学校だよ……」
先日翠屋に行った際には、時間が悪かったのか未来の魔王様には出会うことが出来なかった。
が、しかしあの店主……、客の前でも堂々とイチャつくんだな、いくら僕でも怒りが沸くよ……
それは置いておくとして、なのはさんに会う事が出来たなら、ユーノを懐柔するなり、自分の境遇を話すなりして高町家に取り入る事も出来ただろうに。
――何―関――う――る――
ノイズが奔る、思考が途切れがちになる。
今忙しいんだ邪魔をしないでくれよ。
そう考えてもノイズは消えず、むしろ勢いを増すばかりで。
―女―――想で―な――生――い――間だ―う―――
ああ煩いうるさい、いいから消えて無くなれよ……
幾らそう考えても、ノイズは一向に治まらない。
ああもう、いい加減なんだか知らないけど消えろっ……!
その思考、その戦意に応えたのか――
僕の手には、安アパートの一室には似つかわしくない
当然、今の僕は前回と同じく激痛に苛まれている訳でっ……!
「ガ……、ッ! こ、の、駄槍のくせに……!」
制御しようと試みても、
体を蝕む激痛と、自分自身が変質するかのような感覚から逃れるため、僕はその槍を自身に還元させる。
……危ない、感情の起伏で出てくるなんて想定外だ。
今後はその点にも気をつけないと……、戦闘中にこの隙は大きすぎる。
――タ――n―g―ッ――
だが今の出来事のおかげか、ノイズは殆ど解消されたようだ。
原因不明のノイズって……、2年遅れの中二病かと自分を疑うよ。
気を取り直して、再びキーボードを叩く作業に戻る。
「これ、で、良しっと。 あー……、首が痛い。」
そして数刻後、最後の一文字を勢い良く叩き込むと、僕はソファに倒れ込んだ。
モニタには、今後の自身の行動方針と、今の時点で記憶している原作知識が表示されている。
その中の一文を眺めながら、とりあえずの目標を定める。
現在僕が保有している戦力は、ただ欠陥だらけの槍が一本、それだけ。
今後の為にも、リンカーコアの有無くらいは最低限調べておきたいけど……
「無印なら、ユーノの広域念話で把握出来るんだけどなぁ……」
そう。今の時期が、原作で言うところのいつに当たるのか分からないのだ。
無印か、A'sか、StSは流石に無いと思いたいけど……
……とにかく情報収集が先だ、そう自分に言い聞かせながら、僕は着替え、玄関の扉を押した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「もうすぐ……、かな。」
僕は、聖祥大付属小学校の付近にあるマンションの高層階から、双眼鏡を覗き込む。
そのレンズには、下校途中の学生の姿が映っており……
その光景だけを見るならば、どう好意的に考えてもそれは変質者だろう。
自分でも情けないとは思うけれども、そうするしか方法は無いのだ。
もし彼女らと同年代で転生した人がいるならば、僕程度の隠れ身では役不足だ。
それ以前に、魔力持ちならサーチャーなりなんなりと探し出す手段はあるはず。
気配を感じさせずに確認できるなら別だが、僕にそんな高度なスキルが有る筈もなくて、必然的にこのような形になった訳だ。
「あー、早く来てくれよ……? そうじゃないと僕が通報される……」
届くはずも無い独り言を呟きながら、しかし僕の視線はレンズの先に吸い込まれた。
そこに映るのは待ちわびた姿。 ……けど。
「あ、れ……? おかしいな、違うぞ……」
金髪と紫髪はいい。原作通りだ。
だが肝心のなのはさんはどうだ……?
本人はいい、
けど、その横の銀赤メッシュのオッドアイ野郎はっ……!
離れている為、その話す声までは聞こえない。
でもそいつが話しかけるたびに、三人が三人とも頬を赤らめて…!
あれは"ニコポ"?"ナデポ"?それとも純粋に惚れている?
だめだ、どうして?
理解できない、彼女らはお前のモノじゃないのに……!
―――お―のモノ―も無い―ろ―?―――
いつにも増してノイズがはっきりと聞こえる、言葉としての体裁を持てるくらいには。
何故だろう? ……分からない。
ただ、これは僕のエゴだと。ノイズはそう言いたいであろう事、それは理解できた。
それでもいいさ。
どうせ一度死んだ身だ。 二回目くらい僕の思い通りにやらせてくれよっ……!
気づかぬ内に手のひらに握られていた得物を構え、奴の眼前に向けて跳躍するべく力を込める。
普通は出来ないだって? ―――ああそうだろう、だけど今の僕には出来そうだ。
そしていざ飛び立とうとした時。
「去れよ、負け犬が。」
何故か、こうも離れている筈の奴の言葉が、聞こえた気がした。
それは気のせいだったのかもしれない、だけど一度聞こえてしまった以上それは現実。
全身から力が抜けていく、僕は今何を考えていた?
無意識に胸に手を添える、この無くなってしまった部分が原因……?
槍を現出させているにも関わらず、痛みをまったく感じていない――
その事実にすら気づかずに、ただ惰性のままその日は帰路についた………
――――所詮は殻よ、殻如きに主役が務まるものか――――
感想、誤字意見等お待ちしております。